毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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黄色い蜂と緑の蜂

鬱蒼とした深い深い森の中。私達一行は今森の静寂とかをぶち壊す勢いで土煙を上げながらダッシュをしていた

 

別にこれは以前町を出る時に付けた重しを付けた上でのトレーニングをしているとかそういう意味では無く、単に必要に駆られているからだ

 

「ねぇビアー!ねぇビアー!!ねぇビアー!!!私達を追いかけてるアレって一体なに!?なんなのォオオオ!!?」

 

レツが涙目になりながら必死に足を回転させながら後ろから迫る羽音(・・)をかき消さんばかりの大声で問いかけて来る。人間、識らないというだけで結構恐怖を覚えるものだからね。心が安定を求めて質問という選択肢を取らせてるんでしょう

 

「その質問はやっぱり専門家に訊くべきじゃないかな?・・・そんな訳でレツの質問はポンズにバトンタッチね」

 

私が質問を(レツ)から(ポンズ)に渡すと彼女も律儀な性格故かヤケクソ気味に叫びながら説明してくれる

 

「あれは三叉槍大蜂(トライデント・ビー)ッ!体長1mにも成長する世界最大の蜂で、見ての通りお尻の針以外にも人間なら両手とも言える足の部分に更に二つ文字通り(ランス)みたいな大きさの針を抱えてるわ!」

 

はい、どう見てもス(ピー)アーです。本当にありがとうございました・・・可笑しいな。この世界はハンターハンターだしこの森も別にト〇ワの森とかって名前じゃ無かったと思うんだけど

 

「縄張り意識と仲間意識が強いけど普段は花粉を集めてるから蜜蜂の側面も持ってて巣から採れるハチミツは絶品で一瓶数十万、通常のロイヤルゼリーに当たる正式名称『ロイヤル・キング・カイザー・エンペラー・ロイヤルゼリー』は一瓶三百万ジェニーから取引される超高級食材よ!採取が危険過ぎるから一部のプロハンターか潜水服みたいな防護服を着た専門家が少量を市場に流す程度で滅多にお目に掛かれない逸品ね!」

 

今ロイヤルって2回言わなかった?つぅかネーミングセンスぇ・・・

 

「よく分からないけどそのロイヤルゼリーを発見した人が凄く味に感動した事とその人には間違っても食レポとかの仕事は任せられないってのは理解出来たよ!―――それでッ?一番肝心の私達が追い回されてる理由は!?」

 

「知らないわよ!本来は縄張りにさえ入らなきゃ万一遭遇しても襲ってきたりする事はほぼ無い蜂なんだから・・・この場所は彼らのテリトリーからも離れてるし、多分だけど彼らの領域侵犯したナニカを追いかけてここまで来たから気が立ってるとかだと思う!」

 

知らないと言いつつ冷静な分析してるのは流石ね。彼女の推理通りなら激おこぷんぷん丸状態の彼らと私達が偶然エンカウントしてしまったって事か

 

私も一応あの蜂が家宅侵入さえしなければ温厚な蜂だと知ってたから『円』で感知しても気にしてなかったのに、いざ目が合ったら最初から怒りメーター振り切れてたのよね

 

因みにだけど私達を追いかけているのは全部5匹は居るわね。でもこの子達が縄張りから遠く離れた場所まで追いかけてたって事は逆に考えてそのナニカはこの辺りまでは逃げ切れたって事になる

 

まぁ超巨大蜂(あんなの)に追いかけられたら普通は生存本能から限界を超えて逃げようとするでしょうけど・・・実際レツもポンズも手足に付けた重しの事など頭から抜け落ちたかのように全力疾走を維持している。精神が肉体を無理やり突き動かしているんでしょう。ただ、そろそろ限界かな?

 

「ぜぇッ・・・ぜぇッ・・・ていうかビアーならあんな蜂くらい一瞬で片付けられるよね。なんで逃げてばっかなのさ!?」

 

「さっきポンズが言ってたでしょ。あの蜂は美味しいハチミツを作ってくれるからよっぽどの理由でもないと駆除とかは推奨されてないの。斃すと特殊なフェロモンで遠くの仲間を誘き寄せるからそれも斃しちゃえばその年のハチミツの収穫量が減っちゃうし、可能なら逃げた方が良いって事になってるのよ。巨体な分繁殖力はそこまで高くないからね」

 

命の危機(この状況)は十分『よっぽどの理由』だよ!―――ビアー以外!」

 

うん。私なら針が体に通らないからね。でもポンズは兎も角レツのオーラ量なら強化系でなくても多分防げるんじゃないかな?―――尤も少しでも傷ついたらそこから毒が染み込むだろうから試すには怖いけどね

 

それにしても如何しようかな。追いかけて来てる蜂たちも何か適当に目立つ獲物でも見つければそっちに注意が逸れると思うんだけど・・・ああ、そうか。あの手が有ったわね

 

「良し!ここは恒例の囮作戦といきましょうか」

 

私は右隣を走っていたレツの腰に丸めて釣るしてあったモノに手を伸ばすと私達のパーティーの可愛いマスコットである凄く目立つ黄金羊(ルル)が具現化される

 

蜂から逃げ始めた時に実体化は解いていたからね

 

≪キュ?≫

 

実体化してから一瞬状況が分からないといった感じの表情をするルルを瞬時に片手で捕まえて振り返りながら投擲のポーズを取る

 

相手はスピ〇ー(ポ〇モン)。ならばこちらの掛け声は一つだろう

 

「逝け、ルル!キミに決めた!!」

 

≪メェエエエエエエエエ!!?≫

 

「「ルルゥウウウウウウ!!?」」

 

投げられたルルの姿を蜂たちも含めて全員が凝視する。完全に蜂たちの注意が逸れている間にレツとポンズを両脇に抱えて全速でその場を離脱する事に成功した

 

野生のポケ〇ンから必ず逃げられるピ〇ピ人形(ルル)の性能は伊達じゃなかったわね

 

 

 

 

三叉槍大蜂(トライデント・ビー)もとい野生のス〇アーから十分に距離を取ってレツとポンズを地面に下ろしたら速攻でレツに首元の服を掴まれて激しく前後に揺さぶられてしまった

 

「なにやってるのさ!ホントなにやってるのさビアーッ!!ルルがあの蜂たちのおやつになっちゃう前に早く取り返してきてよ!!」

 

おおぅう。世界が上下にガックガクと揺れる揺れる

 

「落ち着いてよレツ。ルルは本体の毛皮から離れ過ぎたら自動消失するんだから襲われる前には消えたはずだし、念獣のルルは傷ついたりもしないじゃない」

 

どこぞの借金妖精(ポットクリン)も無害ゆえに無敵って有ったようにルルも衝撃で吹き飛んだりはするけど怪我とかはしないのだ。あくまでもルルの本体は毛皮だからね

 

ちょっと首が絞まってるから息苦しいのでレツの持つ【金羊の皮(アルゴンコイン)】に再びオーラを吸わせると無事な姿のルルが召喚された

 

「ほらレツ。ルルも此処に居るし何処にも体に穴とか開いてないでしょ?ある意味で疑似的なワープが出来るルルが囮になるのが一番効率的で≪メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!≫"ズドンッ!!"―――ぐふぅ!!?」

 

召喚されたルルが私を見るなり全力の頭突きを鳩尾に見舞ってきた。完全に油断してたのも有るけど、ルルって思ったよりパワー有るのね

 

確かに伝説では人を乗せて空を飛んでたりもしてたけど、ルルの場合は小さすぎて背中に乗ったら翼を完全にお尻に敷いちゃうし、ぶら下がってまで飛びたいかって言うと微妙なのよね

 

※ 後日、ルルはビアーの枕になるのを拒否してビアーが謝り倒して貢物(デザートや果物)を捧げる様子をレツとポンズが冷ややかな目で見る事になる

 

それから気配を探ってみたところあの蜂たちは暫くこの辺りをウロウロとしてたけど、完全に目標を見失った為か揃って同じ方向・・・おそらくは彼らの巣の有る方向に飛び去っていった

 

それで今回の一件は片付いたと思って再び次の町に向かって歩を進める私達だったんだけど、先程あの蜂たちと最初に遭遇した場所から少し進んだ辺りで私の前に厄介事が転がっているのを見つけてしまったのだ

 

「・・・ねぇポンズ姉。アレも三叉槍大蜂(トライデント・ビー)なの?私ってメートル級の蜂なんてそれ以外に知らないんだけど、明らかにさっきとは違うわよね?」

 

「私だってあんなのは初めて見たわよ。後どさくさに紛れて『姉』呼びしてもダメだからね」

 

ッチェ、見逃してはくれなかったか。否定が入らなかったら無言の肯定として今後は押し通そうと思ってたのに

 

「見たところボロボロで飛ぶ気力も無いみたいだけど、もしかしてこの子がさっきの蜂たちが巣から遠く離れてまで追ってきた『ナニカ』の正体だったのかな?―――この緑色をした子が・・・」

 

はいはいはい。皆様モ〇スターボールの準備は出来てますか?目の前には弱った状態の”色違いのス〇アー”が居ます。さっきまで私達を追いかけてた三叉槍大蜂(トライデント・ビー)はポ〇モンのスピ〇ーと同じで黄色と黒の縞々の体色に赤い瞳だったんだけど、こっちの子は緑と黒の縞々に蒼い瞳ね

 

まぁモン〇ターボールなんて謎の超科学技術のボールもボールに入っちゃうモンスターもこの世界には居ないから、あくまでもそれっぽい見た目ってだけなんでしょうけど

 

「多分そうね。おそらく突然変異か何かで色違いとして生まれて他の蜂に疎まれたんじゃないかしら?普通の蜂なら兎も角この蜂たちは視覚も十分発達してるから有り得る話だわ」

 

ああ~、本来虫の複眼って動体視力に優れている代わりにボンヤリとしか見えないんだっけ?でもあれだけ瞳が大きかったら人間に近いレベルで景色が見えていても可笑しくないって事ね

 

「如何するの?倒されると仲間を呼ぶフェロモンを出すって話なら早くこの場から離れないと私達もまたさっきの蜂たちに襲われる事にならないかな?」

 

「それは大丈夫でしょうね。あの子を追いかけてたのはその仲間なのよ?今のあの子が救難信号を出したとして、やって来るのは救援部隊じゃなくてあの子にとっての処刑人に他ならないわ。ここまで逃げ切ってきたんだから最後に自ら命を手放すような選択はしないでしょう」

 

ポンズはそう言いつつ背中に背負っていたリュックから彼女が帽子の中に飼っている蜂たちの餌の砂糖と水を取り出すと器に移して混ぜ始めた。その様子を見てレツがおずおずと彼女に後ろから声を掛ける

 

「ねぇポンズ・・・あの子・・・もしかして飼うの?」

 

確かにペットと言うには怖すぎるわね。基本は縄張りに入っただけで死ぬほど追い回してくるような蜂だから人に懐いたなんて話は聞いたことがない

 

「さてね。飼うのか何処かの保護区とかで引き取って貰うか、最悪博物館で剥製にするかは分からないけど、なんにせよ元気になって貰わないと話にならないわ。幻蟲ハンターとしてこんな珍しい個体を無視して先に進むなんて出来ないし、悪いけど付き合って貰うわよ」

 

ですよね~。単に色が違うだけなのか、他になにか通常の三叉槍大蜂(トライデント・ビー)との差異が有るのかとか、ハンターとして調べなくちゃいけない事は沢山有るはずだしね

 

「で、でも危ないんじゃないの?毒だって持ってるんでしょう?」

 

「私が今まで何匹の蜂たちを手懐けてきたと思ってるのよ。攻撃の前兆も如何すれば警戒心を和らげられるかも経験で解ってるわ。多少種類や大きさが違っても共通する項目は多いからね」

 

レツの心配をサラッと笑って流したポンズは警戒して思いっきりこちらの様子を窺ってる巨大蜂に悠々と近づいていく

 

油断してるのかとも思ったけど歩を進めながらも集中力だけは切らしてないから蜂を観察して反撃を仕掛けてこないギリギリのラインで距離を縮めてるんでしょうね

 

私とレツが見守る中でポンズが蜂の針の間合いに踏み込んで僅かに蜂から攻撃的な意が発せられた瞬間に彼女の持っていたトロミの付いた砂糖水が触覚に触れた

 

≪ビ~?≫

 

傷ついた巨大蜂が困惑するような鳴き声を上げる中でポンズはもう片方の黒くて長いモノ(触覚)粘性の有る液体(砂糖水)で白魚のような指先を濡らして大きな刺激を与えないようにゆっくりと愛撫し、その根元(頭部)に手を這わせて―――」

 

「・・・ビアー。私の手持ちだとこの子に十分な量の餌を用意出来ないの。近くの町までひとっ走り(全力ダッシュ)して調達して来てくれないかしら?」

 

「イエス・マム・イエス!!」

 

ポンズの背中から発せられる覇気に圧されて私は一人先行する。体力の配分なんて考えずに必死に足を動かして私はその日、生まれて初めて全力(物理)で買い物をする事になったのだった

 

「あの子のセクハラ思考は如何にかならないのかしら?中身は実はオヤジなんじゃないの?」

 

「あはははは・・・そんな事はない・・・とは言えないかなぁ・・・?」

 

ポンズが溜息を吐き、レツが苦笑いを浮かべ、色違いの三叉槍大蜂(トライデント・ビー)が警戒心を残しつつも器に注がれた砂糖水をチョロチョロと舐める中、ビアーが砂糖の入った大樽を抱えて爆走しながら戻って来る間にレツとポンズは少し仲良くなったのだった

 

 




はいそんな訳で最後の旅の仲間ですね。作中でも言ってますがあくまでも見た目がスピアーなだけなのでポケモンの技とかは使えません。ヘドロばくだんやソーラービーム等

一体いつから最後の仲間が原作キャラだと錯覚していた?まぁポンズにも分かりやすい攻撃力を付けたかったんですよね。あと言っとくとメガ進化とかもしないので・・・

複眼だと人間と同じレベルで見ようとしたら70cmの目が必要らしいのでスピアーくらいだと人間の視力換算で0.1~0.2くらいですね。あの大きさでも足りないと言う・・・

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