毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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試合と観戦

二人が100階まで昇格した翌日、私はレツとポンズを引き連れて200階のフロアまで昇って来ていた。因みにだが私も二人にだけ重しを追加とかせずに靴を新調した。一足100kgだから元々の重し300kgが400kgになった計算だ。三人合わせて重しだけで600kgである

 

こっちの世界は色々と強力な素材とかも豊富だからエレベーターの重量制限とかはまだまだ気にしなくても大丈夫でしょう。それとバンドやベルトはいざとなったら直ぐに投げ捨てる事も出来るけど靴はそうもいかないので重しは靴底が脱着式になっている特注品だ。普通の靴底の下に重しの靴底がくっ付いてるから少し厚底ブーツみたいな見た目になっている

 

これ以上装備を増やすと咄嗟の事態に即応出来ないでしょうからこの辺りが上限かな?

 

そんな事を考えつつ200階でエレベーターから降りてフロアに移動したら片膝をついた騎士の礼を取った変人(カストロ)が私達を出迎えたのだ

 

ああ~、空が青いな~

 

「ちょ、ちょっとコレ貴女の知り合いなんでしょう!?遠い目してないでさっさと現実に戻って来なさいよ!」

 

ゆっさゆっさと肩を揺さぶられて片耳をポンズの声が穿つ

 

「―――っは!?あれ?・・・あ、カストロさんじゃないですか、久しぶりですね」

 

何時の間に目の前に居たんだろう?ちょっとボンヤリしてて前後の記憶が怪しいな

 

「はい、お久しぶりです。ビアーさん。私は先日試合を行ってから武者修行の旅に出たばかりだったのですが、ビアーさんが再びこの天空闘技場でご活躍していると聞きまして急ぎ戻ってきた次第です。師である貴女さまが近くに居ると知ったならば挨拶に伺うのが道理というもの。ご健勝のようでなによりで御座います」

 

相変わらず律儀と言うかお堅いと言うか。私貴方にはちょっと念の指導をしただけなんだけどなぁ

 

「あれ?最初の挨拶についてはスルーしちゃうの?世の為人の為とか絶対に普通の挨拶には使わないような言葉が入ってたよね!」

 

「紹介しますね。こっちのブロンドの髪の子が私の義妹兼人形師のレツでこっちのエメラルドグリーンの髪の子がアマの幻獣ハンターのポンズ。二人には今私が念の指導をしててカストロさんにとっては後輩・・・妹弟子ってやつだね」

 

「え?無視?全力で無かった事にするつもりだよねビアー!?」

 

さっきからレツは何に対してツッコミを入れてるのかな?なんだか私達の間に認識の齟齬がある気がするなぁ

 

「これはこれは麗しい二輪の花が後輩とは兄弟子として無様は見せられませんね。初めまして、この天空闘技場の闘士でプロハンターも兼任しているカストロです。修行の為に犯罪者や討伐依頼のある猛獣を相手にしていまして、格闘家の方が本業ですね。宜しくお願い致します」

 

「あ、はい。レツです。こちらこそ宜しくお願いします」

 

「ポンズよ、私も宜しくお願いするわ・・・と言うか私はビアーが私達以外に念の指導をしていたなんて初耳なんだけど?」

 

ポンズの冷たい探るような目線がこっちに向くけど確かに私ってまだ12歳だもんね。それが大の大人相手に念の指導をしてたとか普通に考えたら変だわ

 

ただ変ではあっても在り得ないって程じゃないからそんな目を向けられても「私の前世が~」とか答えられないよ

 

「まぁガッチガチの師弟関係じゃなくてお金を貰ってのギブアンドテイクで少し指導しただけだから二人とはちょっと違うんだけどね」

 

カストロさんはガチもんの天才だから速攻で教える事が無くなっただけとも言えるけど・・・念の各種基本技から基本応用技まで使える事と使いこなす事は別だから後は本人次第だったしね

 

私は『隠』とか『凝』とか『流』とかは制約で使えないけど知識だけならしっかり伝えたしね

 

因みにカストロさんは私と同じ強化系だけど私の強化系全振りの『発』を教えたりはしない

 

念能力は『これだ!』っていう自分に合っているって意識が大事なので六系統の相関図とメモリ、オーラ量の重要度さえ理解しているなら強化系はそれで充分だ

 

他系統だと中々シンプルイズベストって訳にはいかないからその辺は楽だよね

 

「それでカストロさん。今回はこの二人に念能力者同士の戦闘を見学させる為に幾つか試合を観て回ろうと思ってたんだけど、なにか面白い能力者とか居たりする?」

 

200階クラスの闘士の情報は彼の方が格段に詳しいはずなので素直に訊いてみる事とする

 

「お任せ下さい。近い内に何人か試合の予定が組まれていたはずです。早速人数分のチケットを購入して参ります!」

 

言い終わると同時に一瞬で遠くの受付に移動してチケットを購入せんとしているカストロさんが目に入る。館内での全力疾走は止めましょうね

 

さて、そんな訳で2週間程掛けてカストロさんのお勧めの試合や適当に選んだ試合を観に行った訳だけど全部紹介してたらキリがないのでカストロ印の試合の内容だけ観てみよう

 

 

 

私達三人と何故か付いてきたカストロさんが防音の扉を開いて本日行われる試合の観客席に足を踏み入れると既に暑苦しいほどの熱気が会場内を埋め尽くしていた

 

人気の有る試合はチケットの売れ行きも激しいので入手が難しいが同じ200階の闘士だと少しお高めの代金を払えばそれなりに融通が利いたりするので結構前の方の良い感じの位置の席に座る事が出来た。ビバ・マネーパワー、ビバ・コネである

 

私達が席に座る直前にカストロさんがプラスチックの量産型客席に一瞬で柔らかいカバーとクッションを敷いて無駄に爽やかスマイルで執事の真似事をしていたのは別に気にしなくても良いでしょう。うん、そう思う事にした

 

「(アレ、200階のカストロだよな?同じ200階のライバルの偵察に来たのか?)」

 

「(そうか?俺の目には如何見ても良家のお嬢様の護衛兼荷物持ちにしか見えないんだが?)」

 

「(てか何時もと雰囲気が違いすぎて別人だと思ったぞ。っは!?まさか女性ファンのお誘いを悉く袖にして浮ついた話を全く聞かないあのカストロの本命があの中に居るって事なんじゃ!?)」

 

「(その場合やっぱりあの緑の髪の子かな?他の二人はまだまだガキだろう。だがなんにせよファンが怒り狂って近い内に血の雨が降るぜ。まっ、イケメンなんてイケメンというだけで自業自得だがな!その存在が許せん!!)」

 

「(醜い嫉妬だな。てか世の男がフツメンとブサメンだけになったとしてもお前はモテねぇよ)」

 

「(それは俺がフツメンとも比べられないブサメンだと言いたいのかぁあああ!!)」

 

なんだか近くの席で唐突な殴り合いが始まった・・・流石は野蛮人の聖地ね。観客も暴力への敷居が低いのなんの

 

「ビアー様。煩いゴミを処分して来ましょうか?」

 

「ん~、お願い。このままだとポップコーンに埃がトッピングされちゃいそうだから片付けも静かにね―――あと『様』言うな」

 

カストロさんが暴れてた二人を首トンして気絶させて会場の外のロビーの椅子に棄てに行く

 

「なんだかカストロさんって本当にビアーの事を凄い慕ってるよね。なにか切っ掛けとか有ったりするの?」

 

「それがサッパリなのよねぇ。気が付いたらあんな風になってたから・・・いやホントマジで如何してああなった?」

 

隙あらば『様』で呼んでくるのよね。しかも矯正しても無意識の間に元に戻るみたいだから大して効果が見込めないし

 

「顔は良いのかも知れないけど、あの態度見てたら正直ちょっと引くわね。あれは恋愛感情とかじゃなくて敬愛とかその類のものを煮詰めたナニカよ」

 

そんなこんなでゴミ捨てに行ったカストロさんが戻って来た辺りで何千もの観客に囲まれた四角いリングの上に今回の主役となる二人が現れた

 

片方は空手着に拳を軽く包帯で補強した選手でもう片方は少し太っちょでピチピチスーツを着たヘビー級のプロレスラーといった感じだ。鼻の下の口髭が顎の下までウナギみたいに伸びている

 

「皆さん、あちらのレスラーが注目されているウィナー・ギー選手です。パワータイプに見えますが意外とトリッキーな動きをするのが特徴ですね」

 

ほうほう。まぁ200階は念能力者同士の戦いなんだし見た目はあんまり当てにならないからね

 

そうして審判が両選手の準備が整ってるか最終確認をしてから気合の乗った開始の宣言をする

 

≪それではポイント&KO制。時間無制限一本勝負、ファイ!≫

 

審判が両腕を交差させた瞬間に空手家の選手が間合いを詰めて正拳突きを相手の顔面に放つ

 

だがその一撃は彼の体の表面を滑るように流されてしまった

 

『ククククククク!その程度の攻撃は俺様には効かんぞ。俺は自らのオーラをヌルヌルに変化させる事が出来るのだ!打・絞め・極め・投げ。あらゆる徒手空拳の技はこのヌルヌルオーラの前では無意味 無意味 無意味ィイイ!!

 

うわぁ・・・デカくてむさい男が全身ヌルヌルになってるとか色んな意味でキツイわぁ・・・レツとポンズも凄く嫌そうな顔してるけど、気持ちはよく分かる

 

「確かに奴の言うように打撃による有効打は狙えないかも知れませんが、私ならば虎咬拳が有りますので問題無いでしょう。斬撃のような接点を少なくした鋭い一撃ならば奴のオーラを突破出来ます。ビアーさm・・・ビアーさんならば拳の衝撃波という手も使えますな」

 

そりゃたとえ拳の威力があのヌルヌルで100分の1に減衰しても一撃で沈められる自信は有るけど、可能なら戦いたくはないな。全身ヌルヌル男なんて存在を許しちゃいけないレベルだよ

 

『っく!殴った感触が気持ち悪い上になんだか生臭いぞそのオーラ!』

 

『当然だ。このヌルヌルは俺様の好物であるウナギから着想を得た能力だからな!』

 

『止めろ!そんな事を言われたらウナギが嫌いになりそうだ―――だが、そんなヌルヌルではお前の攻撃も俺には届かないんじゃないのか?』

 

『そいつはこれを喰らってから判断しな!―――(イール)スケーティング!!』

 

幾つかのやり取りの後でウィナー・ギーがリングの上を滑るように移動し始めた。あの巨漢でまるでアイススケートの選手のようだ

 

如何やら足の裏と言うか靴底もヌルヌルにしたらしい・・・『周』の応用かな?

 

ウィナー・ギーは格闘家の目前で流れるようなターンを決めて背後を取った瞬間にその背中に強烈な肘鉄を打ち放った

 

『ぐはぁ!!?』

 

『ぬふふふ♪オーラのどの部分をヌルヌルにするかは俺様の意思一つで自由に切り替え可能なのさ。インパクトの瞬間にその部位の能力を解除すればこの通りだ』

 

≪クリーンヒット&ダウン!プラス2ポイント!ウィナー!≫

 

格闘家は吹っ飛ばされた上に床にゴロゴロと転がったから早速2点取られている。因みにKO以外に10点得点を取られても試合は終了だ

 

認めたくないけど、使いこなせたら中々厄介な能力っぽいのがまた・・・認めたくないけど

 

肘鉄で吹き飛ばされた格闘家が背中を押さえて咳き込みつつ立ち上がろうとしているがウィナー・ギー選手は容赦なく追撃に入る

 

再びリングの上をヌルヌルで滑って距離を詰めながらポケットからライターを取り出した

 

『もう一つ教えてやろう。俺様のヌルヌルは可燃性で焼けると実は香ばしい!』

 

うん!後半なに言ってんのか理解不能!!

 

フィギアスケートの回転ジャンプのように空高く跳び上がった彼は自らのオーラに着火して全身火だるまとなって必死に体勢を整えようとしていた格闘家の頭の上に無慈悲に落下する

 

『喰らえ!蒲焼き串焼き(ブロシェット)!!』

 

高速回転の風圧が炎と混じり合い、プチ火炎旋風の如き威容を見せつけた回転ストンプが格闘家を踏みつぶして炎が収まった後には少し焦げながらも健在な様子のウィナー・ギー選手が片腕を突き上げていた

 

すぐに審判が格闘家の意識確認を行う為に近寄るが白目を剥いたままピクリとも動かない

 

≪意識無し!よってこの試合、ウィナー・ギー選手の勝利!≫

 

身を焦がすような熱い戦い(物理)を見終わった観客が割れんばかりの喝采を送り、あちこちから興奮冷めやらぬ感想が口々に零れている

 

「今日もウィナー・ギーの技は冴えわたって、いや!ヌルわたってたな!」

 

ヌル渡るってなに!?初めて耳にしたよそんなワード!

 

「ああ、だが締めの技は蒲焼き串焼き(ブロシェット)だったか。今日こそは奴の超必殺技であるうな重プレスが見れると思ったんだがな」

 

うわっ!どんな技か大体想像つくけど絶対に喰らいたくない。アレでしょ?全身ヌルヌルのオジサンがルパンザファイアー(物理)しながらルパンダイブしてくる技でしょ―――肉体以前に精神にキツイの貰うやつだ

 

私やレツやポンズが相手だったら暴力表現以外の理由でR指定の表記がされるやつだ・・・私なら規制表現前に叩きのめす事も出来るけど、今のレツとポンズだと全身ヌルヌルにされちゃう!

 

「・・・なんて言うか視覚の暴力(ヌルヌルオジサンフィギュアスケート)と嗅覚の暴力(超香ばしい蒲焼きの薫り)のダブルパンチだったね。食欲減衰効果と増幅効果を両方味わえるとか試合の内容にボクもうお腹いっぱいだよ」

 

レツの瞳がもはや何も映していない。そりゃあんなん見たら心を閉ざしたくもなるけどさ

 

「それと何でヌルヌルを燃やしたらタレの匂いなのよ?ヌルヌルとタレは別物でしょう?」

 

「そこはほら、変化系だから」

 

うん。変化系の技だからね。術者のイメージが反映された結果なんでしょうよ

 

本当に最初の試合から色々と胃もたれしそうな内容だったわね。仮に胃腸薬を飲んでこの胸のざわめきが収まるならすぐに飲み干したいと思えるくらいだわ・・・

 

そうして私達はげんなりとした面持ちでロビーへの扉を潜るのだった

 

 

▽△

 

ウィナー・ギーの試合から数日。私達は再びカストロさんお勧めの試合の観戦に来ていた

 

西洋甲冑に大楯大剣装備の選手と見事なメートル級の真円のアフロをした選手が相対してる

 

「彼がこの200階クラスでも屈指の火力を誇っていると噂されているアフロディーテ・マーリモ選手です。皆さん流れ弾には十分注意してください」

 

どっちがアフロディーテ選手かの説明は要らないよね?

 

そして程無くして試合が開始したと同時にアフロディーテ選手は一気に距離を取ると自分のアフロの中に両手を突っ込み素早く引き抜く。その手にはサブマシンガンが一丁ずつ握られていた

 

『さぁ俺のFPS脳が脳汁垂れ流す時間だぜぇえええ!ハチの巣になりなァアアア!!』

 

えええ・・・仮にもアンタ200階までは腕っぷし一つで勝ち上がってきたのにそれで良いの?

 

甲冑装備の選手は大楯でそれを防いぎつつも間合いを詰めていく

 

『はっ、豆鉄砲は効かねぇってかぁ?ならもっと魂まで揺さぶられるような激しいのでイカせてもらうぜぇ!』

 

弾を撃ち尽くしてマガジンが空になったサブマシンガンを放り棄てた彼は再びアフロに手を突っ込むと今度は両手に手榴弾を取り出して器用に片手で安全ピンを外していくと順次相手に向かって投げていく。沢山投げていく。途中発煙弾や閃光弾や催涙弾と思われる物も織り交ぜ、煙の周囲を走り回ったり投擲の角度を調整したりして爆炎の中の相手選手が自分の位置を特定出来ないように立ち回りつつ投げまくる

 

どう考えてもアフロに入りきらない武器群だ。恐らくは自らのアフロを四次元ポケットのような収納空間に変える具現化系の能力でしょうね

 

プロハンターの中堅クラスのオーラ量が有ればたとえ特質系でも手榴弾程度なら数十発程度なら耐えられるでしょうけど、逆を言えばあの能力はその他大勢の平均的念能力者相手なら十分過ぎるダメージ数値を叩き出せる能力と言える

 

特に天空闘技場は洗礼で目覚めた念の初心者がそれなりの割合を占めてるはずだから格上相手でも勝利を狙える能力では有るのかも知れないわね

 

アフロディーテが爆弾を投げるのを止めた事で徐々に煙が晴れていくとその中心では鎧の大部分をひしゃげさせて大剣も半ばからポッキリと折れてしまっている選手が横たわっていた

 

≪気絶を確認。試合続行不可能により勝者、アフロディーテ・マーリモ選手!!≫

 

「えっと・・・凄くお金が掛かりそうな能力だったね」

 

「能力と言うよりは戦闘スタイルって感じだったけどね。使った分はまた補充しなくちゃいけないし、弾薬が尽きたら終わりじゃない。天空闘技場のリングの上だからなんとか通用するものになってるけど、それ以外で狙われたら殆ど詰みね」

 

格闘家という肩書を何処かに捨て去った試合内容にレツは苦笑いでポンズも実戦での脆弱性が気になるようだ

 

それにしてもカストロさんがお勧めする選手の試合ってのはこんなんばっかか!一癖も二癖も有るような奴しか居ないんだけど、カストロさんが私達の為に手に入れたチケットってもう一枚残ってるのよね・・・今から不安しかないんだけど!

 

 

▽△▽

 

はい、そんな数日前の不安を引っ下げながらやって来ました試合会場。中央で向かい合う選手の様子を見た観客の一部からどよめきの声が上がっている

 

「・・・あの人これから試合なんだよね?寧ろ病院に行くべきなんじゃないの?」

 

レツが言うように選手の片方は明らかに焦点の合ってない目で赤い顔に鼻を啜りながら咳き込みつつスタンドを支えになんとか立っている状態だ。どう見ても戦えるような状態じゃない

 

審判の人も≪やれるか?≫と聞いているけどやれないでしょ、アレは

 

『ええ、頭はガンガンして耳鳴りも酷く、さっき熱を測った時は39度8分。なのに悪寒のせいで寧ろ寒いですし関節も軋む様に痛い。咳は止まらず鼻水も滝のように流れ出て胃袋の中身も今にもひっくり返しそうです。目が回ってて正直今自分が立ってるかも自信が持てません。だから・・・つまりは・・・ベストコンディション(イケボ)です』

 

「なんでだよぉおおおおお!!思考回路も熱でショートしてるんじゃないのアレ!?その状態をベストコンディションって言えるなら人類の99%は常に元気100倍だよ!」

 

つい席から立ちあがってツッコミを入れてしまったけど私は間違ってないよね!?正常だよね!?あと最後になんで無駄に良い声出した!?

 

「ふむ。試合に向けてあそこまで万全の態勢を整えて来るとは、侮れませんね。彼の試合に懸ける熱意は相当なものと言わざるを得ません」

 

おいカストロォオオオオ!あんた頭の中身もカストロになっちゃったの!?ぶっ叩いとこうか?斜め45度の本気チョップお見舞いすれば来世では正常に戻りますか?

 

審判の人も困った顔をしているが本人が問題無いと言っている以上は試合を進めるしかないのか渋々ながらも定位置に着いて試合開始の宣言をする

 

≪ポイント&KO制。時間無制限一本勝負、始め!≫

 

開始のゴングが鳴り響くが病人じゃない対戦相手は攻撃をするでもなく、あからさまに溜息を吐く

 

試合開始と同時に大きなくしゃみをして喉に負担が掛かったのか今も連続して苦しそうな咳を連発している対戦相手を冷めた眼で見ているところだ

 

『ったく、まさかこんな半死人みたいな病人を相手にするなんてな。大体テメェも戦いを舐めてんのか?試合を棄権してでも怪我を回避するのが当然の選択だろうがよ。そんな判断も出来なくなっちまってるってんなら仕方ねぇ。二度と馬鹿な真似出来ねぇようにこの一撃で冥土に送ってやるよ。死体になりゃあ幾ら何でも頭も冷えるだろうよ!』

 

彼は右腕を掲げるとその拳にオーラを集中させていく

 

『これが俺が半年掛けて完成させた必殺技。【超絶破壊王パンチ】だぁああ!!』

 

いやソレただの『硬』ぉおおお!!念の知識が無い手探り状態なら仕方ないのかも知れないけど、もうちょっと他に良い名前も有ったでしょうに!

 

レツはとっくに使えるし、念を覚えて2か月も経ってないポンズでも雛型程度(原作ゴンが最初に練習した『練』を用いない『硬』)なら扱える技術だよ

 

『硬』による攻撃は他の箇所が実質無防備になるけど相手が真面に動けもしないフラフラ状態なら確かに反撃を受ける可能性は低いでしょう・・・明らかなオーバーキルな上にそんなリスクを負う必要性は皆無だけどね

 

だが相変わらず激しく咳き込む選手に向かって拳を振りかぶった彼が距離を詰めると3歩も歩いたところで突如として『硬』が解け、足をガクガクと震わせながら四つん這いに倒れてしまった

 

逆に咳き込んでた選手は今ままでの死にそうなくらいの体調不良が嘘だったかのように背筋をシャンと伸ばして立ち上がると首をコキコキと鳴らしながら体を解していく―――これは?

 

「アレが彼の念能力。自らの風邪を相手に移す【風邪をひいたら如何するの(コールド・ギフト)】です。彼は試合の時に体調不良をピークに持っていく為に汚い部屋で濡れた体のまま体温を一部を温めつつ一部を冷やしたり寝不足で免疫を低下させたりと様々な努力をしているそうです。風邪は他人に移せば治るという民間療法ですらない迷信を技として昇華させたのでしょう」

 

アホか!アホなのか!そしてやっぱりカストロさんのお勧めはそんなんばっかか!

 

それからはもう一方的な展開で元々風邪をひいていた方の選手が相手選手をボコボコにして瞬く間に10ポイントを取って勝利した

 

≪クリティカル&ダウン!プラス3ポイント。TKOにより勝者、ウィルス・ハーザード!!≫

 

 

 

カストロお勧めの試合を観終わってレツとポンズもそれぞれ180階の闘士となった頃、天空闘技場のチケット売り場が俄かに活気づき始めた

 

【カストロ VS ビアー】

 

フロアマスターに最も近いのではないかと噂されていたカストロと新進気鋭で既に200階クラスで9試合を瞬殺した(・・・・・・・・)(不殺)ビアーとの一戦に盛り上がらない者など居なかった

 

 

 

師弟の対決が始まる(なお結果は見えている模様)

 

 




オリジナルモブの能力記載

[ウィナー・ギー]
俺自身が鰻になる事だ(メタモル・イール)
変化系

制約
身体から離して使う事は出来ない(床にヌルヌルオーラを撒いてトラップ代わりとかは無理)

誓約
鰻のヌルヌルを飲めば飲むほど次にトイレ(大)に行くまでヌルヌル度が上昇する

[アフロディーテ・マーリモ]
頭の上の火薬庫(ボンバー・ヘアー)
具現化系

制約
1.銃火器しか仕舞う事は出来ない
2.アフロの直系以上の大きさの物は仕舞えない
3.質量が増える毎に収納空間を維持するオーラが増えていく(彼は念能力者としては大したことないので試合前に急いで詰め込んでいる)

誓約
毎日合計2時間以上はアフロの手入れに費やす事でオーラの消費量が削減される。サボると増える

[ウィルス・ハーザード]
風邪をひいたら如何するの(コールド・ギフト)
特質系

制約
1.複数人に風邪を移す事は出来ない
2.移せるのは『風邪』のみ(癌や骨折などは移せない)
3.射程はくしゃみの範囲内で対象が遠い程成功率が落ちる
4.注射などで病原菌を直接体内に取り入れる事で無理やり風邪を引く事は出来ない。あくまでも不摂生不養生にて風邪を引く必要が有る

誓約
風邪薬及び処方された薬を使用しない。使用した場合病気が治ってから一ヵ月(30日)の間この能力が使用できなくなる

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