毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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パワーとテクニック

私とカストロさんの試合の情報が出回り始めた頃になって少しするとレツとポンズが遠くから全速力で走って来るのが見えた

 

かなりの重しを付けた状態で何も考えないで走ると床が"ズンズン"と音を奏でたり舗装されて無い土の道とかでは足跡がくっきり残るので暗殺者の歩法のような衝撃を分散して結果音を立てない移動の仕方が自然と身に付いたものだ

 

それでも流石に柔らかい地面とかではちょっと沈んじゃうんだけどね

 

「ビアー、これって一体どういう事なのさ!ビアーとカストロさんが試合をする事は別段可笑しいとは思わないけど、いつの間に9試合も200階クラスで戦ってたの!?そんな素振り全く見せなかったじゃないか!」

 

凄い剣幕で近寄って来るレツの手には私とカストロさんの試合のチケットが2枚握られていた。レツの後ろに居るポンズも腕を組みながら同じことを問いたいと言わんばかりの空気を滲ませている

 

「いやぁ私って天空闘技場の200階は二度目で前回は登録もしないで居なくなったから今回は適当に戦っとかないと二度と登録できなくなっちゃってたのよ。それで観戦以外にも二人が200階まで昇るまでに折角なら暇つぶしにフロアマスターの称号でも貰っておこうかなって思ってね。フロアマスターの名声は念能力者のトップ層には通じないだろうけど、逆に言えばそれ以下の依頼をする側の人達には強さにおける信頼の証として機能するはずだから、プロハンターとしての活動に多少はプラスになると思ってさ」

 

折角この世界をエンジョイする為にもプロハンターになったんだし、喧嘩祭りくらいの感覚でフロアマスターになっても良いじゃない

 

「ふ~ん。で?なんでビアーが何度も試合してるのを私達は知らなかったのかな?私達基本は一緒に行動してたよね?」

 

「まぁちょっとビックリさせようって悪戯心が一つ。後は二人が試合を観ても何も得るものが無いってのが一つね。実際9試合での合計戦闘時間9秒だったし・・・」

 

基本は一緒に居たと言っても二人も下の階で戦闘が有る時は控室で待ってたりもしたし、200階クラスの試合はちゃんと試合時間が事前に決まってるからその瞬間だけ「ちょっとトイレ」とか言って会場に向かって開始と同時に相手選手の頭を引っ掴んで地面と熱烈なキスをさせてあげればそれで終了だ―――相手の念能力?発動前に倒せばゼロと同じだよ

 

どんな能力を持っているのかってのも天空闘技場なら録画もされてるから気になるなら幾らでも情報収集も可能だしね

 

「私達への悪戯の為に瞬殺された選手に憐れみを感じるわね・・・それにしてもよくこの短い期間に9試合も組めたものね。フロアマスターになるには結構時間が掛かるって訊いてたんだけど?」

 

「ああ、それは普通なら実力の拮抗した選手が戦えばそれなりに怪我もするし、この階に来て初めて覚えた念能力を手探りで修行しようとしていれば1試合毎に90日の戦闘準備期間をフルに使おうとするからでしょうね」

 

天空闘技場は230階より上は21人のフロアマスターの私邸となっているけど、それは詰まり229階から下にはそれぞれ試合会場が設けられていると言う事。200階は受付やら200階選手のホテルやらで埋まってるから正確には28会場も在る訳だ

 

リングが壊れて修復する事を考えて普段使われるのがその半分以下だとしても一日に10試合は試合が組まれる事になる。仮に4敗して地上落ちしても私が1階の腕試しで190階の切符を切られたようにその日の内にだって200階クラスに復帰できるんだから200階以上の闘士は決して少なくはない。一度190階を挟むのはファイトマネーの関係かな?200階クラスでは勝ってもお金は貰えないし最長で3年は粘る必要が有るからその準備金代わりだね

 

「試合を秒で終わらせてさっさと会場を後にしたら受付で『何時でもOK』って対戦指定すれば割とすんなり試合組まれたわよ。きっと噂が広まりきる前に速攻決めたからじゃないかな?・・・まぁ最後の方は念を知らない新人(ニュービー)も数人混ざってたけどさ」

 

その人達とかは流石に他の人に生死の掛かった念の洗礼を受けさせるのも忍びなかったから精孔が開く程度の活を入れながら床と接吻させてあげたから感謝して欲しいくらいだ

 

洗礼を浴びた人とか普通に死んじゃう確率が高いし、生き残っても重度の障害なんて当たり前。腕や足を失ったり目が見えなくなったりとか武闘家が背負うには余りにも重すぎるハンデだ。いや、武闘家じゃなくても人間なら誰しもキツイけど

 

ゴンのように才能溢れる者だったとしても対戦相手次第であっさり一生ものの傷(死亡含む)を抱え込む事になるし、ゴン程でなくても200階まで勝ち上がってきたなら武闘家としてだけなら十分高い実力を持っている(一般基準)人達が洗礼と間違った念の知識で才能を潰されちゃうとか普通に勿体無いと感じる部分だ―――10万人に1人の才能とされる原作ズシとまではいかなくても200階クラスなら皆最低でも6~8万人に1人程度の才能は有ると思うんだけどなぁ

 

天空闘技場の200階クラスは本当に才能のゴミ捨て場だよ。それも不法投棄に近いね

 

「そ、まぁ良いわ。この程度で一々目くじら立てていられないしね。ただこの試合はどちらが言い出した事なの?」

 

「あ~、それはえっと・・・」

 

 

◁◁◁

 

「ビアーさん。フロアマスターになるのであれば折角の機会ですので最後に私と闘って頂けないでしょうか?」

 

≪ビアーさま。ビアーさまの威光を民衆へと知らしめんとするその慈悲と権謀織りなす神意の一助となる御赦しを私めに頂けないでしょうか(カストロ脳内音声)≫

 

「え?ああ、そう言えばカストロさんとは今まで組手とかもした事無かったっけ?(武闘家からしたらやっぱり強さが気になるのかな?どうせ殆ど暇つぶしだし受けても良いか)良いですよ。手加減してあげるから全力でかかって来て下さい」

≪ふむ。そなたが我が麾下(きか)となってから早一年、思い返せば武を交えた事は無かったな。良い、その願い叶えてやろう。手慰みに弄んでやるから精々潰されぬよう舞い踊れよ≫

 

 

 

「・・・って感じでカストロさんから頼まれた形ね」

 

あれ?なんか今の回想に良く分からない副音声が付与されてた気がするけど、気のせいだよね?

 

「ええ!?あれだけビアーに心酔してる感じだったのに今まで戦った事すら無かったの!?ホントに如何してあんな風になってるんだろう?話を訊けば訊く程分からなくなってきちゃったや」

 

もう良いよ。私はその辺りは半ば諦めてるから

 

「と言うか武闘家相手に『手加減してあげる』だなんて中々の侮辱だと思うんだけど、彼は怒らなかったの?」

 

確かにかなり煽り度が高いセリフだけど一生に一度は使ってみたい名言ランキングベスト30には入る言葉なんだし、気が付いたら言ってたのよね

 

「それは大丈夫。『はい。本気で行かせてもらいます!(身命を賭しましても!)』って普通に張り切ってたから。てか私が全力出したら天空闘技場が壊れちゃうしね」

 

攻撃がちゃんとカストロさんに当たればミンチの散弾が壁を壊す程度で済むかもだけど、床とかに攻撃が当たろうものなら下の階と直通の吹き抜けが出来ちゃうし、大量の観客を乗せた観客席が下手したら自重を支えきれずに崩れて観客と瓦礫の雨が降るかも

 

勿論雨が降った後には水たまりと云う名の血だまりがそこかしこに・・・

 

「うん。止めてよね。絶対に本気出したらダメだからね!フリじゃないからね!!」

 

レツに懇願されながらも私とカストロさんの試合は三日後だったのでその日は試合が出来ないとレツとポンズが受付に届けを出した

 

天空闘技場は200階以下の選手でも短い間なら休日申請が可能だからね。これは主に冠婚葬祭などの為の救済制度だと思う。まぁ毎日地上で新規の参加者が長蛇の列を作ってるところからも判るように闘士の数は事欠かないから多少休んだ程度でマッチングに支障が出たりしないからなんでしょう。てか実力が拮抗してる相手と毎日試合とか普通は無理だし

 

そうして新しく始めた『堅』『周』『円』の同時発動や筋トレ、ルルやアリスタを構い倒したりレツの寝起きの頬っぺたをぷにぷにしたりレツやポンズの寝顔を写真を撮ってスマホの鍵付きフォルダーに収めたりで時間を潰していると遂に私とカストロさんの試合の日がやって来た

 

 

 

その日、天空闘技場のとあるフロアでは試合開始時間のかなり前から観客席は超満員の様相を呈していた。それもそのはず、その日、そのフロアであと少しで行われる試合は美丈夫と美少女の闘いだ。態々この天空闘技場の客席まで来て血と暴力を安全圏から観賞したいなんて連中がお行儀が良い思考回路をしているはずも無い

 

やれ「イケメンは死ね」だの「可愛い女の子がボコボコにされるとか最高かよ」だのと下品な言葉がそれなりの割合で会場を飛び交っている。だが当然それだけではなく彼らはこの天空闘技場に念能力者同士の通常のスポーツなどからは著しく逸脱した超常の闘いを見に来ているのだ

 

観客の大部分は念能力など知らないが”超能力っぽいもので何か凄い事が起こってる”程度は認識出来る―――理屈も倫理も捨て置いて、派手で不思議で面白ければそれで良いのだ

 

そして予定の時刻となった事で選手が闘う四角いリングに炎とスモークとライトの演出を伴って本日の主役たちが入場する

 

≪さぁ先に会場に現れたのはカストロ選手だぁあああ!現在戦績は5勝1敗。戦績自体はまずまずといったところですが注目すべきはその内容!カストロ選手は最初の1敗以降は200階クラスの選手たちの中でもフロアマスターに次に挑戦するのは誰なのかと囁かれるような有力選手ばかりを下しています。その上その全ての試合を無傷で勝利!一気にフロアマスター最有力候補の一人と数えられるようになりました。爽やかな性格と顔つきで多くの女性ファンを獲得している彼が今日も余裕の勝利で黄色い歓声と野太い野次のデュエットを奏でるのかぁあああ!!≫

 

銀の長髪に黄色いマントを着た彼がリングの上に昇り試合開始前から既に女性ファンと男性アンチによるコーラスを自然と発生させている

 

そんな彼だが何時もはファンサービスで軽く観客席に手を振るくらいはするのだが、その日は無言でただただもう一つの入場口を見つめていた。程無くしてカストロが入場した時と同じように舞台装置が動き観客の意識を一点に集約する

 

≪続いて入場したのはビアー選手だぁあああ!弱冠12歳という若さでありながらここまで無傷無敗。200階クラスにやって来てからたった20日間程で既にフロアマスターへの挑戦権に王手を掛けるというのは最早異常としか言いようがありません!今までの試合は全て一撃。彼女の力の底を見た者はおりません。ですがこちらで掴んでいる情報によりますとビアー選手はカストロ選手と知り合いのようで本日の試合は二人同時に受付で他の選手と試合日が被らないように指定したとの事!これはもしやすると本気を見せない二人の全力を拝めるかも知れません。期待せずにはいられない!無敗の肩書を背負ったままフロアマスターに挑めるのか。正しく注目の一戦です!≫

 

実況が二人の戦績やプロフィールを伝えて場の空気を整えていく。そして二人がリングの中央で向かい合ったところで審判がその火蓋を切る

 

≪ポイント&KO制!時間無制限一本勝負、始め!!≫

 

瞬間、二人の足元が踏み込みで割れながら二つの影が激突した

 

 

[カストロ side]

 

試合開始の合図と共に私はこの一年で可能な限り磨き上げた全力の『練』をした。それを見たビアー様はその身に私の『硬』より一段上のオーラを全身に纏う

 

私の全力はこの方にとっては手加減に気を配る程度の児戯に過ぎない。私は念能力者としてはやっと白帯を外せるかどうかといった程度だろう。ならばこの試合の全てを全力で己が糧として心の紐を黒帯で絞めるに足る力を示す!

 

ビアー様のオーラは全て精度の高い『流』で受け流すような繊細さが求められる。攻撃も防御も私が日和った瞬間何一つ立ち行かなくなるだろう。このカストロ、武闘家としてまた舞踏家として、全力で舞わせて頂きます!

 

踏み込みは同時。ビアー様の『堅』の腕の薙ぎ払いを同じく腕で受け止める・・・が、重い!ビアー様と出会ってから筋力の鍛錬も割増しとしたのでそこは負けてないと思うが、やはりオーラ量の差の方が威力に直結するのだろう。様子見の一撃だったのでこちらも試しに攻防力80で受けてみたがこれでは打ち合っていれば直ぐに限界が来る。やはり攻防力90が()()()()()だ。それ以下の『流』ではこの先、戦いの体裁すら保てないだろう

 

ファーストアタックの反動で一度開いた距離を再び詰めてこちらから攻勢に出る!せめて戦いの流れは私が掴まなければいけない

 

至近距離で行われる体術の応酬。一つ一つの動作に攻防力90の『流』を籠めるこのやり取りは非常に神経を使うがビアー様がオーラを抑えて下さっている現状では手足のリーチの差や体捌きにおけるパワーとスピードは僅かに私が上だ

 

・・・だが、私のそんな慢心と幻想をビアー様は早々に打ち砕いて下さった

 

私が拳を突き出そうと体に力を籠めた瞬間にそれよりもワンテンポ早くビアー様の攻撃が私の脇腹に迫っていた

 

「ごふぅぁっ!!」

 

撃ち放たれた掌底で無様にリングの上を転がる。咄嗟に攻撃がヒットする箇所にオーラを集めて防御しようとしたが拳にオーラを流している瞬間だったので防御が間に合わずに攻防力30程で受けてしまった。血を吐きながら追撃を警戒しなんとか距離を取る

 

≪クリティカルヒット!プラス2ポイント、2-0、ビアー!≫

 

審判の判定がインカムを通して会場に響き渡り観客が沸く

 

≪先制点を取ったのはまさかの可憐な少女、ビアー選手だぁあああ!ポイントはまだ2-0ですがカストロ選手の口元からは血が垂れております。かなりのダメージを受けた事が窺えますね。対するビアー選手は先程の手足の先が殆ど消えているかのように見えるあの攻防の後でも不敵な笑みを浮かべております。初めて彼女が真面に戦った姿が見れた事と可愛らしい容姿、更には女性人気の高いカストロ選手がやられた事が相まって会場の男性陣が一気にビアー選手の応援団と化しております!全く分かり易いなお前らァアアア!≫

 

実況も私の耳に届くがビアー様が真面に戦った?冗談はよしてくれ。今のビアー様はきっと臨戦態勢にすら入っていないだろう―――直接オーラとオーラが触れ合ったからこそ解る。今の私ではビアー様のオーラの底が全く分からないと云う事がな!

 

10倍差?いや、その程度ならば足元に届いている程度の感触は掴めるだろう。少なくとも数十倍の差が私とビアー様の間には存在する

 

だがオーラ量の差(そんなこと)など先刻承知なので大いなる力の奔流に感動こそすれ驚きは無い

 

気になるのは先程の完全に私の動きを読み切ったかの如きカウンターの一撃。まぐれ?普段より『流』に意識を割き過ぎた事による視野の狭窄(きょうさく)?否、そんなものでは無かったはずだ。確かめる為にはやはりこれしか無い!

 

体勢を深く沈めて呼吸を切り替え、両の掌を五指を開いた引っ掻くような形としながら見えない球体を上下で挟むかのような位置に配置する。今、この両手は眼前の敵を引き裂く爪であり同時に獲物を嚙み砕く牙でもある

 

「コオオオオオオッ!!」

 

≪出たああああ!!カストロ選手が一回戦でのみ見せたとされる拳法。虎咬拳(ここうけん)!カストロ選手、早くも全力中の全力だあああ!≫

 

私の虎咬拳(ここうけん)は虎の動きを武術として昇華させた象形拳の一つ。ライオンと並んで百獣の王とも称される虎の敏捷性、しなやかさ、力強さを幼き頃より手足の先まで意識してきた私にとって攻撃箇所に意識(オーラ)を集める『流』とは相性が良い

 

先程一撃喰らってしまったように手足以外の防御における攻防力移動には補正が掛からないが虎咬拳(ここうけん)における『流』をより無意識的且つスムーズに行う事が出来れば結果として防御に転じるのも一瞬素早く出来るはずだ

 

先程の違和感の正体を見極める為にも先の攻防より更に激しく攻撃を繰り出す!傷ついた内臓の痛みも有るがその程度で鈍るようではジャングルの王者は名乗れない!

 

四足獣の如き低空飛行で一気にビアー様の懐に飛び込み爪であり牙でもある攻撃を放つ―――勿論それだけでなく時に蹴りを入れ、ネコ科特有の柔軟さで攻撃を受け流し素早く反撃に転じるのだ

 

私の全身のバネを活用した攻撃に私達は狭いリングの上を縦横無尽に行き来してお互いの攻撃を捌いていくが遂に私の爪がビアー様の腕に三本の赤い線を奔らせた

 

≪クリーンヒットォオオッ!プラス1ポイントッ!2-1、カストロ!≫

 

その宣言に再び観客が沸き立つが実際は大したダメージにはなっていない。事実、赤い血がその細い腕から数滴垂れた程度だ

 

だがそれでも今のビアー様の纏うオーラ量ならば攻撃は最大の防御とばかりの猛攻を仕掛けて反撃を許さなければ十分TKOによる勝利も狙えると頭の片隅で思ったところでビアー様が口を開いた

 

「うん。繋ぎも上手いし普通の人の動きとはかなり違ったから少し掛かったけど、大体掴めたよ」

 

ビアー様の突然の言葉の意味を考えようとした私だが、次の瞬間には完全に思考が凍り付いてしまった。何故ならビアー様は正しく私と同じ虎咬拳(ここうけん)の構えを取ったからだ

 

ビアー様が虎咬拳(ここうけん)を!?ブラフ?ハッタリ?こちらの動揺を誘っているのか?いや、あの構えと呼吸法は決してただのハッタリでは・・・

 

”ザンッ!!”

 

「ぐぅううう!!?」

 

私の思考が乱れた隙を突かれた一撃は私の胸元に大型の猛獣の爪で抉られたかのような引っ掻き傷が刻まれていた。そして衝撃で一歩仰け反った間合いを活かしてビアー様の廻し蹴りが出来たばかりの傷跡に叩き込まれる

 

≪クリティカル&ダウン!プラス3ポイント!5-1、ビアー!≫

 

≪ななななんとぉおおおおお!ビアー選手が繰り出した虎咬拳(ここうけん)にカストロ選手が大ダメージ!まさかビアー選手まで虎咬拳(ここうけん)の使い手だったとは―――お二人が知り合いなのではないかと云うのも実は同門だったという事なのでしょうか?≫

 

「ぐっ、ガハッ!」

 

同門?いや違う。そんな事は無いはずだ。彼女は今まで基本は独りで体力やオーラを身に付けたと以前言っていた。虎咬拳(ここうけん)どころか何処かの門弟などと云う話は聞いていない

 

だがそんな未だに混乱冷めやらぬ私を叱責するようにビアー様の次の一手が放たれた―――迫りくるのは五指を揃えた貫手。半歩反応が遅れた事で完全な回避は不可能と断じ受け流す方向へ意識を切り替える

 

「疾ィッ!!」

 

ビアー様の左手の突きをこちらの右腕の薙ぎ払いを腕の内側に中てる事で外へと弾き体勢を崩す!

 

だが私の右の手の甲がビアー様の腕に当たる瞬間にまるで蛇が木の枝を伝うかのような動きで腕が絡め捕られ逆に私の方が腕を外へと弾かれてしまった。今のは蛇拳!?

 

私の腕を弾いたビアー様の貫手がそのまま私に迫る。いや、貫手ではない!グラスを持つかのような手の形は蛇の口を彷彿とさせる。蛇の口が噛み付かんとしているのは・・・首か!

 

蛇拳を前に首を捻るだけの動作では避け切れない。ここは多少の追撃を覚悟で無理にでもバックステップで距離を―――

 

”ガクンッ!”

 

「なぁっ!?―――ぐがっ!!?」

 

バカな!足を退こうとした瞬間にビアー様に足を踏みつけられた事で退避が出来なかった。どちらの足から先に後ろに下げるかまで読まれたと云うのか!?

 

万力で首を絞められた私は回転を掛けられつつ上空に放り出され逆さまに落ちる

 

天地が逆転し世界も廻る中で視界の端に捉えたビアー様の挙動と自身が感じた悪寒を頼りに背面全体にオーラを集めると直後に体全体に衝撃が奔った

 

轢き潰されたカエルのように顔面からリングへと落ち、バウンドしながら場外の壁にぶつかった事で漸く止まった私が気力で顔を上げるとビアー様が八極拳の技である背中の広い面積を使った一種のタックルである鉄山靠の構えを解いているところだった

 

そうか・・・たとえ顕在オーラに差が有っても拳や蹴りのような点での攻撃ならば体術でそれなりに受け流す事も出来るが、あのような衝撃を逃がしにくい広範囲技だと小手先の技術が封じられてしまうのか・・・

 

≪クリティカル&ダウン!プラス3ポイントッ!8-1、ビアー!≫

 

ふ、ふふふ・・・試合が始まってからクリティカル以上の判定しか貰っていない気がするな

 

審判が近寄ってきて≪やれるか?≫と声を掛けてくるので震える足を叱咤して壁に寄りかかりながらも立ち上がる。場外でも10カウント以内にリングに戻れば問題ない

 

ふらつきながらも10カウントという時間の間にビアー様の見せた一連の動きに思考を廻すがまるで答えが出ない

 

カウント以内にリングに上がって揺れる瞳で前を向く

 

「カストロさん。そこがカストロさんの弱点ですよ」

 

「・・・弱点・・・ですか・・・?」

 

いきなりそんな事を言われたからか一瞬答えに詰まりそのままの内容を聞き返してしまった

 

「はい。貴方は不測の事態を前にした時、動揺からの立ち直りが遅いです。心の乱れはオーラに如実に表れるので『流』の精度も『練』の力強さもどんどん落ちてしまう。相手の能力を戦闘中に見抜けないのなんて普通の事です・・・勿論思考を止めて良いって話じゃないですよ?言いたいのは戦闘中だろうと燃える方の『点』を疎かにしてはいけないって事です。強化系の強みはシンプルで安定した強さ。それが有れば多少ペースを崩されても十分挽回も出来る。ヒソカみたいなの相手だとオーラの乱れから心理状態を把握されて言葉巧みに翻弄されて・・・死にますよ?」

 

なにも言い返せなかった。確かにそんな無様な負け方はしたくない

 

ビアー様の体術が想像以上に多彩で優れたものだったと言っても何時までもそんな事に気を割かずに己が虎咬拳(ここうけん)を信じて戦えばよかったのだ

 

「さて、今回は一応指導目的の模擬戦みたいなものですから少しネタバレしましょうか・・・カストロさんは今『練』をどの程度維持出来ますか?」

 

「・・・昨日は11時間半に届かない程度です」

 

「ふむふむ。大体4万オーラってところですか。念を覚えて1年で他の基本応用技の習得も有ったと考えると十分ですね。ならそろそろ次の段階で『円』や『堅』でオーラ量を増やすように努力してください。直ぐに疲れられますよ?」

 

「それは素晴らしいです!」

 

最近このままだとオーラ量を増やすのが難しくなるのもそう遠くないと感じていたのだ

 

懸念が一つ消え去ったと言える

 

「それでですね。私が特にお勧めするのは『円』での修行です。『円』の範囲と精度を上げながら長時間維持し続けると膨大な量の情報が頭の中に入ってきます。街行く人々の動きも只管見続けてると体を如何動かす時にどんな予兆が出るのかが何となく解るようになるんです。これはかなりの量のデータを収集する必要が有るのですぐに習得とはいきませんが・・・まぁ直感とか武術で言えば心眼みたいなのを若い内から使えるようになります」

 

そうか!ビアー様が時折こちらの動きの間隙を正確に突いてきたのは心眼によるもの!

 

「では、もしやビアー様が多様な体術を使われたのも?」

 

「ええ、私の『円』なら場所は選ぶけど天空闘技場の全てをカバーできますからね。最初に色々教えた時に下の階の人達には筋力(パワー)が足りないと言いましたけど、逆に言えば色んな武術の型だけなら十分参考に出来ますから―――あと『様』言うな」

 

・・・ハッ、はははははははは!!正直違和感を覚えていた。パワーの重要性を説いてテクニックは二の次三の次とされたビアー様がテクニックに手を出したのかと

 

だが違った!ビアー様は変わらずオーラ量(パワー)を求めていたら武術(テクニック)の方が逆にビアー様に吸い寄せられ、跪いたのだ

 

圧倒的な質量(パワー)から来る引力!ビアー様のオーラは既にブラックホールの如き巨大さ、強大さに至っていると云うのか!この方は今、宇宙の真理にも手を掛けておいでなのか!

 

”ブッシャアアアアア!!”

 

おっと!脳内が焼き切れんばかりの興奮を感じていたら大量の鼻血が吹き出てしまった。さっき顔面を打ったから栓が緩んでいたのだろう

 

≪クリーンヒットオオオ!プラス1ポイント、9-1、ビアー!!≫

 

「えええ!?ちょ、ちょっと待ってください審判の人!私今なにもしてませんよ!?見えない攻撃仕掛けたとかじゃないですから!」

 

ビアー様が驚かれているようだが審判は判定を覆さずに首を横に振る

 

≪いえ、明らかに貴女の『口撃』が彼の脳内(あたま)興奮絶頂(クリーンヒット)していました≫

 

私も審判の言葉に首を縦に高速で振る。流石は200階クラスの審判は目の付け所が違う

 

「おろぁ?」

 

む、不味い。既にビアー様にやられた怪我で大量の血を流していた上に止めどなく溢れるビアー様への更なる敬愛に鼻血が止まらない

 

すぐに視界が霞んでしまい、それでも止まらない鼻血(こうふん)で顔面から鼻血の海に沈む

 

≪カストロダウン!プラス1ポイント!10ー1、ビアー!TKOによりビアー選手の勝利!≫

 

「はああああああああああああああ!!?」

 

それが私がリングの上で耳にした最後の言葉だった

 




カストロの敗因:鼻血
原作でもカストロはヒソカに精神的に翻弄されてたのでビアーも翻弄する形でボコって諫めた感じですね

ビアーが色んな武術を使えたのは『円』による見取り稽古(心眼ver)みたいな感じです。原作ヒソカも一度見た体術をすぐに真似してたとかやってたので出来るかなって
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