毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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譲渡と条件

私達の前に現れて警告を発したクラピカは年下(ポンズは同年代?)と言えどもこちらは複数なので一定の間合いで立ち止まって視線をこっちに向けつつ周囲に気を配っている

 

元野生として自然と気配を『絶』つ事が出来るアリスタには流石に気付いてないみたいだけど行動に移せばすぐにバレるでしょう・・・いや、強襲するつもりは皆無なんだけどね

 

「あら、そういう貴方は此処に居て良いのかしら?ひょっとして、貴方がここの墓守さん?」

 

私達の中で年長のポンズが一歩前に出る。クラピカの視線も大半はポンズに向いてたし、こういう時に話を切り出すのは彼女の方が適任だ・・・全く情報の無い相手ならね!

 

「・・・ああ。年に数回手入れに来ている。最寄りの町でここの場所を訊いて回る者達が居たと小耳に挟んだ。お前たちの事だな?だが先にも言ったようにこの場所はお遊び感覚で来て良い所ではない。キミも小さな子供を連れていながら倫理や道徳に(もと)る行動は慎むべきだと思うが?とは云え墓荒らしをしている訳でも無し。すぐに立ち去るならばこれ以上は何も言うまい」

 

成程ね。だから私の『円』の範囲外から最初から気配を消しつつ近寄ってきた訳か

 

さて、このままポンズに任せても探り合いで時間が掛かりそうだから一手詰めましょうか。クラピカの正体が分からないと私達というかレツとポンズも超高級品の緋の眼をあっさり取り出すとか出来ないからね。なによりゴンやレオリオならまだしもクラピカとか一度話が拗れると面倒そうだし

 

そういう訳で緋の眼云々の前にクラピカの警戒度を下げる為に事前に用意していた物を取り出す

 

「すみません。私達一応献花に来たんですけど、その時間を取ってもらう事も出来ませんか?」

 

取り出したのは三つの花束だ。仮にも供養の為に来てるんだからお供え物くらい用意するよね。まさかこんな形で取り出すとは思わなかったけど

 

「なに?―――いや、そうだったのか。済まない、君たちの事を少し誤解していたようだ。亡き同胞たちも喜ぶだろう」

 

彼も丁寧に包まれた花束を見てまで刺々しい態度を続ける事は流石に無かったみたいで、警戒した面持ちは鳴りを潜めて近づいてきてくれた

 

「亡き同胞?ひょっとして貴方は・・・?」

 

レツがクラピカの言葉から重要なワードをピックアップしてくれた。確かにレツならより一層気になる言葉だろう・・・余り良い意味とは言えないけど

 

「―――ああ。私はクルタ族唯一の生き残りだ。あの日は偶々村から離れていて、災禍から逃れる形となった」

 

「そう・・・ですか・・・」

 

それを聞いたレツはなんとも言えない表情となる。当然よね。レツに罪はないとしても、なら全く気にするなって言うのも少し違うから

 

「そんな顔をしないでくれ。その気持ちだけでも十分だ・・・だが少し気になるところもある。キミたちは何故こんな、言ってはなんだか辺鄙(へんぴ)な場所まで墓参りに来てくれたんだ?里が襲われたのは4年程前だ。そしてキミたちが此処へ来たのも今回が初めてのようだし、一族に知り合いが居たりした訳では無いんだろう?」

 

レツの表情を憐憫(れんびん)から来るものだと思ったクラピカが苦笑しながらも疑問を口にする

 

確かに惨劇の在った場所だからと言って、無関係のそれも一般人がちょっとした善意で悼みに来るには些か遠く険しい道のりだからね

 

「それは・・・」

 

「それが私達が何日か前に偶々クルタ族所縁(ゆかり)の品を見つけてね。丁度各地を旅してる途中でもあったから此処に立ち寄る事にしたの。だから理由を突き詰めたら『偶然』と『ついで』になっちゃうんだけど・・・幻滅したかな?」

 

レツが咄嗟の言葉に詰まったのを見て彼の意識と思考がこちらに向くように言葉を被せる

 

「まさか。切っ掛けが何であれこんな場所に花束まで持って来たキミ達の心は偽善と片付けられるものでは無いさ。それで一族所縁の品とは何だろうか?アクセサリーなどの工芸品などは少量ならば町で売っている者も居たが・・・」

 

レツと幻影旅団の繋がりは話すには早過ぎると思って遮ったけど、こっちは流石に隠せないよね

 

クラピカも見た目華奢な女の子三人組がまさか時価数億は下らない闇のルートのA級品を持ってるとは予想してないみたいだし

 

「えっと、これ何だけど・・・って、あ痛っ!?」

 

私が持っていた紫の風呂敷に包まれた緋の眼を地面に置き、風呂敷の結びを解いて中の木箱が見えた時点で上からポンズの拳骨が落とされた。ダメージは皆無だけどこういうのって口をついて出ちゃうよね

 

「ちょっといきなり何するのさポンズ!」

 

「何してるはこっちのセリフよこのおバカ!緋の眼(そっち)より先にカードを見せなさいカードを。なんの為の信頼と信用の証よ!」

 

あ、そっか。”クラピカに緋の眼は返すもの”って短絡的に捉え過ぎてた。さっき自分でクラピカと話が拗れると面倒くさいって思ったばっかじゃん。私のバカ!そして有難うポンズ姉!

 

やっぱり交渉事には一人くらい操作系(理屈屋)が居ないとね!理想を言えばそこに変化系(嘘つき)も欲しいけど

 

"ゴホンッ!"と一つ咳払いを挟んでから立ち上がった私は懐からハンターライセンスを取り出して彼に見せる。命を懸けた世界最難関の試験を突破した者だけが持つことを許されるこの世で最も高価な板切れ(ダブルやトリプルのライセンスは別枠)を見たクラピカはギョッとその目を見開いて固まってしまった

 

「それ・・・は・・・」

 

掠れた声が漏れるクラピカだけど今の彼が目指し、欲し、憧れてもいるプロハンターにまさかこんな年下の女の子が至っているとは思わなかったようだ

 

彼がプロハンターに為ろうとしてる理由は幻影旅団への復讐と緋の眼の奪還だけど、原作ゴンに対してプロハンターの崇高さを説いている様子を思い出すに憧れも十分含まれているでしょう・・・その三つの中では優先順位は低いかもだけど、だからと言って彼のプロハンターへの憧れの総量自体が少ない訳では決してないと思う

 

HAHAHAHA!この紋所(ライセンス)が目に入らぬか。入ったならば平伏しな!・・・うん。言葉にした瞬間戦争だね。私以外の皆から絶対零度の視線を送られる違う意味での冷戦に突入するよ。私だけがルーザーで凍え死ぬタイプの

 

「少し遅れたけど自己紹介ね。私は見ての通りプロハンターのビアー、宜しくね」

 

私の無難な自己紹介に続いてレツとポンズもプロ志望のアマチュアハンター(&人形師)と自己紹介をしていく。その頃には衝撃から立ち直ったのか、彼も襟を正して名乗ってくれた

 

「私はクラピカと言う者だ。先程述べたようにこの集落の生き残りで、実は私も今年のハンター試験を受けようと思っている。ポンズにレツ。キミ達とはライバルになる訳だな」

 

最終試験は兎も角その手前までは協力も有りだけどね。試験官によっては即席のチームを組まされるワンマンプレイじゃクリア出来ない試験とかも有るかも知れないし

 

―――旧アニオリの軍艦島編は至高だった。異論は認めるが反論は認めない

 

「だがプロハンターでビアー・・・?待て、ならばキミがビアー=ホイヘンスか?」

 

「ああ、新聞読んだんだ。あれ?私の顔写真って載ってたと思うんだけど違ったかな?」

 

クラピカなら私達が名乗る前に気付いても可笑しくないとも思うんだけど

 

「写真?いや、地元の新聞には載っていたのかも知れないが地方の新聞には写真までは掲載されていなかったな」

 

「あ、なるほど」

 

うわっ恥ずかし!ちょっと新聞に載った程度で有名人の仲間入りしてたような感覚に陥ってた!!

 

「確か盗まれた国宝を取り戻す為にとあるマフィアグループを壊滅させたと在ったが・・・数日前・・・そこで手に入れた一族所縁の品・・・?」

 

クラピカは情報を口にする毎に視線が段々と足元に置いた木箱に吸い寄せられ、同時に限界まで(まぶた)が開かれていく。足元の箱は決して小さなアクセサリーを納める程度に使われるものじゃ無い

 

無言でゆっくりと腰を下ろした彼は微かに震える手で木箱の蓋に手を置く

 

「・・・開けても良いか?」

 

顔だけ(こっち)を向いて確認を取ってきたのでそれに私も頷いて返すと彼は木箱の蓋を取り払い、その中に仕舞われた一対の緋の眼をその眼に映す

 

中身をそっと取り出した彼がガラスケースの溶液に沈んだ亡き同胞の眼を抱えて立ち上がり再びこちらを向くと彼の眼もまた "赤く"、"朱く"、"紅く"、なにより妖しく輝いていた

 

だけど眼が見えたのも一瞬で、クラピカはすぐに俯いて前髪に眼が隠れてしまった

 

「・・・済まない。少しだけ・・・独りにさせてくれないか?」

 

「・・・うん。じゃあ私達は村の入り口付近に居るからね―――アリスタ~、行くよ~!」

 

隠れていたアリスタにも声を掛けて私達は一時的にその場を離れる事にする

 

クラピカはアリスタが飛んできてもボンヤリとこっちを一度見ただけですぐにまた視線を落とした

 

正に心ここに有らずね。小さな集落ともなれば村人全員家族みたいなものだったんだろうし、当然の反応と言えばその通りだ

 

 

 

集落の入り口まで移動した私達だけど取り敢えず適当な場所に腰を下ろす事にした。丁度時刻はお昼に差し掛かろうという時だったのでお手軽に食べられる携帯食を摘まみながら待つ形だ

 

アリスタの姿は見られたけど、そもそもアリスタを隠してるのは人里だと騒ぎになるからと言う理由なので問題ない。仮にだけど『メートル級の蜂(トライデント・ビー)可愛い女の子たち(ガキ共)に飼われてたんだよ!』とか個人がネットとかに拡散しても『はいはい、ワロスワロス』、『妄想乙』、『あの蜂が人に懐くとか無い無い』、『寧ろ俺たちが飼われたいわ!』と流されるのが普通だしね

 

「それで本当に良かったのかしら?彼を一人置いてきて・・・彼の顔から覇気も生気も抜け落ちて、何だかあのまま自殺しても可笑しくないくらいの雰囲気だったわよ?」

 

「それは・・・大丈夫じゃないかな?表情はそうだったかも知れないけど、あの人の昏い眼の奥には煮えたぎるような怒りと冷たい氷のような覚悟が宿ってるように見えたよ。アレはやるべき事をしっかりと見据えてる眼だと思う」

 

「レツの『眼』の目利きなら信じられるんじゃない?それに私も『円』を切らしてないから万が一でも大丈夫よ。あの『眼』に籠った負のオーラだってケースの溶液から出して直接手に取ったりしなければ・・・っていうか同胞である彼に害を齎すかも微妙だしさ」

 

レツの見立て通りクラピカ自身は問題無いとは思うけどそこら辺を考えて一応ね

 

それにしても燃え盛る氷の眼・・・クラピカの瞳はメタンハイドレート製だった?

 

流石に楽しく談笑!という空気では無くなってしまったのでお昼を食べてからゆったりと過ごしていたら、程無くしてクラピカがやって来た

 

「済まない。哀悼を捧げに来てくれたキミ達を色々後回しにしてしまったな。付いて来てくれるだろうか?」

 

当然異論など無かった私達はクラピカの後を追いかけて先程のお墓の前に赴いた

 

お墓の前に花束を置いて四人で黙祷を捧げる

 

この世界では私が前に生きてた世界の時代より死というモノが身近に在る。それは別に怪物や紛争で治安が悪いとかって意味じゃなくて(それも有るけど)、死者の念を始めとした残留思念的な意味での話だ。それがただの表面上のモノなのか魂に絡みついているモノなのかは判らない。だから私は悼む時は真剣に祈る事にしている。未練ならば晴れますように、断ち切れますようにと―――来世が在るなら良き人生を、と

 

ゆっくりと目を開けて周囲を見渡すと他の三人の視線がこっちを向いていた。如何やら一番遅かったのは私のようだ

 

「・・・な、なに?」

 

なにか言いた気な視線を感じるんだけど?

 

「いえね。普段おちゃらけてる貴女も、こういう時は真面目な顔をするんだなって思っただけよ」

 

「よぉしポンズ。一度膝を突き合わせてじっくり私の人物像について語り合おうじゃないの。幾ら私だってTPOくらい弁えてるよ!私が空気をぶち壊すような時は敢えて空気を読まずにぶち壊してるだけなんだからね!」

 

そうじゃなきゃ『爆走ダンプでマフィアのお宅訪問』とかもしないよ!仕事中なんてマジメ一辺倒になっちゃうじゃんか。そんなの詰まんないやい!

 

「後半のセリフでビアーの評価もぶち壊しだよ!それも解ってやってるんだよね?最悪じゃん!」

 

そこは『最高!ステキ!抱いて!』でしょ。常識的に考えて

 

そんな何時もの掛け合いを熟しているとクラピカの口から押し殺したような笑い声が聞こえてきた

 

「っふ、くふふふふふっ!いや済まない。ビアー。キミが本心から同胞たちを悼んでくれたのは十分伝わってきたよ。ポンズにレツ、キミ達もだ。クルタ族最後の一人として心から礼を言おう」

 

うむうむ。女の子の真摯な祈りは値千金の価値があるからね・・・え?凶悪犯(オモカゲ)の時はどうしたって?畜生道辺りから徳を積んでやり直せって感じだったよ。ブッダも鹿の王から一段飛ばしで人間道へ来たんだし、頑張れば来々世でまた人間ルートに入れるはずだから

 

流石に『悪人も善人も等しく救われますように』とかはアレだしね―――オモカゲなら餓鬼道くらいまでなら堕ちてそうだし、なんだったら地獄道も在り得るけど、その時は千年かけて這い上がって真人間に成りなとエールだけは送っても良いけどさ

 

「―――実は、キミ達に頼みが有る。キミ達が持って来てくれたこの緋の眼だが、私に預けてくれないだろうか?」

 

クラピカはお墓と花束の間に置かれた緋の眼に一瞬視線を送りながらもそう言ってきたけど、それを聞いたポンズは難しい顔となる

 

「それは何故かしら?火葬にしろ土葬にしろ、今日私達は弔いに来たのよ。緋の眼を裏の好事家がこぞって欲しがる物である以上はそれが一番無難な方法だっていうのは貴方も解ってるでしょう?それでも手元に置きたいと言うなら、せめて理由は聴きたいところね」

 

「無論だとも。私がプロハンターを目指しているのは先程言ったが、その理由は二つ有る。一つは奪われた同胞たちの眼を取り戻す事。もう一つはその惨劇を引き起こしたA級の賞金首集団である幻影旅団、通称クモを捕まえる事だ」

 

幻影旅団の名前が出た時に一瞬だけレツの肩が震えたので、空いてる手を握ってあげるとレツも静かに握り返してきた。幻影旅団の名前を出した時はクラピカの声音も一段低くなって視線も鋭いものとなったからね

 

怒りや憎しみと云うのはコントロールが難しい。それは詰まり簡単に飛び火する可能性が在るって事だ。勿論、ここで言う飛び火先はレツとなるからね

 

「プロハンターと云えども緋の眼は簡単に探し出せるモノではない。数年・・・下手すれば十年規模でアングラな場所に身を置きながら活動する必要も出て来るだろう。そうなれば取り戻した同胞たちの眼をその度にこの場所に持ってきて弔う事も難しいと私は考えている。全ての緋の眼を集め、盛大に弔う時にこの眼だけ仲間外れのように先に供養されているのも違うと感じてな・・・・ポンズ、先程キミが指摘したようにこれは余り合理的な判断とは言えない。私自身の感傷が多分に含まれている選択と云えるだろう。その上でキミ達に頼みたい。私は亡き同胞たちの無念を晴らし、この手に取り戻す。だから、この眼を私に預けて欲しい」

 

クラピカが相手にしようとしてるのは一人一人が危険度A級の賞金首集団。更に言えば緋の眼の所持者だってイカレた思考と莫大な財力・コネクションの持ち主達だ

 

はっきり言って失敗する可能性の方が高い。原作を識っている身でも特に幻影旅団を相手にして『クラピカ達なら問題無し』と太鼓判を押す気にはなれない程度にはヤバイ案件だ

 

この場で私達が持って来た緋の眼を弔わないという選択はクルタ族最後の生き残りであるクラピカが失敗した時、私達の善意が無に帰する事を意味している

 

その上で彼は頼んでいるのだ。『私の私情を優先させてくれ』・・・と

 

仮に私達三人が揃って反対したら半分以下の確率でクラピカが折れてくれるかも知れない。弔う事は何一つ悪い事じゃないんだしね・・・下手したら数日に及ぶ口論になるかもだけどさ。クラピカならその程度の頑固さは持ってる気がする。だから私は折衷案を出しましょうか

 

「なら、条件を付けても良いですか?」

 

「条件?」

 

「はい。クラピカさんは今年のハンター試験を受験するつもり何ですよね?ハンター試験はハッキリ言って幻影旅団の誰か一人を捕らえるのと比べても十倍は簡単だと言えます。だから今年というか来年のハンター試験を一発で合格して最低限の実力は有ると証明してください。合格出来たなら貴方の思うように―――不合格だったなら試験後すぐにこの眼だけでも先に弔ってあげて下さい」

 

緋の眼を渡さないという選択肢は無い。だからと言って何も考えずに渡す事は彼の動機を訊いてしまった以上は出来ない。だからこその条件付けだ

 

クラピカは少しだけ目を瞑ってから再び覚悟を宿した瞳を開いた

 

「分かった。その条件を呑もう・・・済まない。気を遣わせてしまったな」

 

はい違~う。今言うべきセリフはソレじゃない

 

「そこは『済まない』じゃなくて『有難う』でしょ?」

 

”ビシッ”と指を突き付けて指摘すると彼は一瞬きょとんとした後にすぐに苦笑に変わった

 

「そうだったな。私の我儘を聞き入れてくれて礼を言う―――有難う。それと私の事はクラピカで良い。恩ばかり貰っている中で敬称を付けられるのも居心地が悪い」

 

おお~!呼び捨て許可からのイケモン爽やかスマイルとか世の女性の大半はこのニコポスキルで堕ちるんじゃないかな?私には効かないし、レツはまだ恋愛脳が育ってないし、ポンズは仕事人だからねぇ・・・そんな感じに少し和やかな空気が流れたところでポンズが”パンパン”と手を叩いて私達の意識を切り替える

 

「はいはい。緋の眼の方針も決まった訳だし、次に行きましょ。私達は元々弔ったらそのまま帰る予定だったけどクラピカ、貴方最初手入れをしてるって言ってたわよね?」

 

「ああ。墓地の周辺だけだが掃除と雑草の除草をしている。墓石代わりの杭は古くなったら取り換えるつもりだが今はまだ大丈夫そうだ・・・緋の眼を全て取り戻した暁にはもっとキチンとした墓石か慰霊碑を建ててやりたいとは思ってるがな」

 

あ~、普通なら掃除とかしてから祈ったりするものだけど、私達が居た事で手順が前後した感じ?

 

「なら、ボク達も掃除や草刈りを手伝うよ。ねっ!良いよね二人とも!」

 

「ええ、関係者(クラピカ)と出会った上で中途半端で終わらせるのもアレだったから訊いた訳だし、とことんやらせて貰いましょうか。まさか嫌とは言わないわよね?」

 

「それこそまさかだ―――来てくれ、集落が襲われた後でも無事だった道具類を集めて保管してある場所が在る。キミ達ならば好きに使ってくれて構わない」

 

案内された倒壊してない家の一つに入ると確かに箒やら雑巾やら鎌やらが揃っていた。倉庫的なモノは壊れてしまっていたのでここを使っているらしい

 

クラピカ一人ならばお墓の周辺だけだったようだが、それに加えて私達も居る事で更に広範囲を手入れする事になった

 

「よ~し!それじゃ早速始めましょうか!」

 

「「おお~!」」

 

私たちが鎌と何故か人数分は無事だった麦わら帽子を被って片手を突き上げる。直射日光はお肌の天敵だからね!多分念能力者(私達)ならビーチで日光浴でもしないとそこまで影響は無いと思うけど!

 

「・・・いや、済まない。少し待ってくれ」

 

気合を入れてる私達にクラピカの制止が掛かる。そんなに済まないばかり言ってたら、何処ぞの魔剣(バル〇ンク)でビームをぶっパする『済まないさん』になっちゃうよ?邪悪なる(クモ)を失墜させちゃう?

 

「実はキミ達を呼びに行った時からずっと気になっていたのだが、その蜂はひょっとして三叉槍大蜂(トライデント・ビー)ではないのか?私が識るものとは少々色合いが違うようだが・・・」

 

緋の眼ショックが抜けて正気に戻ったら好奇心が湧きだしてきた訳ね

 

念能力者ではない今のクラピカにこの場で念獣(ルル)を出して見せるのはダメだけどアリスタならば問題無いので軽く捕まえた経緯を添えて説明する

 

「―――そうか。事情は有れども凶悪とされる三叉槍大蜂(トライデント・ビー)を手懐けているキミ程の者でも一受験者とは、ハンター試験は本当に気が抜けないものとなりそうだ」

 

今のポンズの実力を普通の受験者と比べたらダメだと思うけどね。ヒソカなんてノーベル賞クラスの学者が高校受験受けてるようなものだし

 

クラピカの疑問も解消されたので改めてお掃除を進める・・・途中から鎌よりも直接引っこ抜いた方が色々と効率が良いと気付いてからは固い地面の奥まで根を張った雑草共を地面ごとひっくり返す勢いで毟り取っていく

 

遠目にクラピカの表情が強張っていたのはきっと錯覚だろう。汚くしてた訳じゃないけど効果音的に”ズドドドドドッ!!”って感じだったからね

 

2時間も経つ頃にはかなりサッパリとした景観を取り戻した集落で持ち込んだお茶で喉を潤していると再びクラピカからのお願いがあった

 

「ビアー。度々済まないが私と一度模擬戦をしてくれないだろうか?先程の草抜きの動きだけ観ても今の私に同じ事が出来るとは言えん。プロハンターの実力をこの身で感じてみたいんだ」

 

「待ってクラピカ。誤解してるかも知れないけど、この子はこんな歳でもプロハンターでも割と最上位の実力者よ。新米ハンターと同じに考えない方が良いわ。心が折れるから」

 

「寧ろ望むところだ。幻影旅団はそのプロハンターでも容易に手を出せない集団。ビアーがプロハンターの中でも強いと云うなら幻影旅団もまた似たような実力なのではないか?それを体感できるなら、引き下がる理由は更に無い」

 

いやぁ、幻影旅団と一口に言っても強さはピンキリだと思うけどねぇ・・・まぁ最低ラインでプロハンターの中堅クラスは有りそうだけど

 

結局ポンズも止めると云うよりは忠告のつもりだったみたいで私とクラピカの模擬戦が決定した

 

 

 

集落の近くの草原に移動した私達はその中央で素手の私と柄の部分が紐で繋がった二刀流の木刀という初期装備クラピカが対峙する

 

う~ん。どう戦うのが正解かな?『堅』とかはクラピカが爆散するから当然無しだとして体術自体もクラピカって技術面ではかなり完成してるからなぁ

 

「―――ゆくぞっ!!」

 

クラピカが勢いよく迫ってきて木刀の片刃を振り下ろす

 

”ピシィッ!”

 

「!!?」

 

その攻撃を私は人差し指と親指で挟んで受け止める。うん、これで行こう。クラピカに足りないのはパワーとスピードだよ。その理不尽を体感してもらおう

 

「っくぅ!」

 

左手で振り下ろした攻撃を軽い動作で受け止められた上に微動だにしない様子に一瞬動揺したものの直ぐに右手の木刀で突き技を放って来た

 

”パシィッ!”

 

当然のようにそれも受け止めて一気に私は万歳の姿勢になると木刀を握っていたクラピカごと振り上げられて木刀を手放したクラピカが草原に軟着陸する

 

木刀を手放してしまった失態を悔いたのか苦い顔で体勢を整えるクラピカに見せ付けるように私は木刀をヌンチャクのように高速で振りまわす

 

「世の中トンファー流だけじゃない!ここにヌンチャク連合の神技を魅せてやる!」

 

「ヌンチャク連合とはなんだ!?」

 

知らんわヴォケ!

 

「喰らえ、ヌンチャク影分身!」

 

キルア直伝(嘘)の肢曲で5人に増えた(ように見える)私がクラピカの周囲を走り回って翻弄する。フハハハ!これがスピードのぱぅわーだ

 

「―――からのぉおおお!!ヌンチャク投げっぱなしメガトンキック!」

 

「ぐはぁああああ!!?」

 

クラピカが必死に私の姿を追う中で彼の大切な武器をこれ見よがしに上空に放り投げ、意識が私から外れた瞬間にダメージを抑えた吹き飛ばし系のキックで大地に何度もバウンドさせる

 

そして漸く彼の動きが止まって仰向けに上を見上げた瞬間にはそこにさっき放り投げた木刀を二本とも逆手で持って落ちて来る私が見えたのかクラピカの顔が強張った

 

「縫い留める!―――ヌンチャクかすがい刺し!!」 

 

※『かすがい』=釘の一種。近い物で又釘が在る。コの字状の釘

 

二本の木刀がクラピカの首の左右の地面の奥深くまで一瞬で突き刺さり、柄を結ぶ紐が彼の首の少し上でピンと張られた。これでもう動けない

 

「・・・ふぅ、私の敗けだ。しかし最後の技以外ヌンチャクを使ってない・・・と云うかそもそも私の武器は木刀であってヌンチャクではないぞ」

 

地面に縫い留められた事で全身の力を抜いたクラピカが敗北を宣言したので木刀を抜いて彼に返す

 

一応紐で繋がってるんだから双節棍だと思うんだけどなぁ

 

「それにしても凄まじいパワーだったな。木刀を一瞬で柄まで地面に沈めるとは。キミ達は三人とも雑草を根など無いかのように抜き取っていたし、如何すればそれだけの力が付くのだ?」

 

ふっふっふ!よくぞ訊いてくれました

 

「その答えはぁあああ・・・・・・・・これだ!」

 

遠くに在ったリュックを持ってきて底の方をゴソゴソした私が取り出したのは例の『根性のリストバンド』だ。一つの重さ10キロのそれをクラピカの手に乗せる

 

「なぁ!?こ、これは・・・?」

 

「因みにそれで一番軽い重しだからね。今はレツとポンズはもっと重いの付けてるし、私は最初から一番重い5倍タイプで両手足とベルトに靴で400キロを付けてるからその10キロタイプのリストバンド(×8個)はクラピカに進呈するよ」

 

処分するのを忘れてた訳じゃないよ?ホントだよ?

 

「っく!成程。確かにこれならばあの馬鹿力にも納得はいく―――これがプロハンターか。分かった。この重しは有難く使わせて貰おう」

 

そうして模擬戦も無事終わったので私達は帰路につく事にした。クラピカは今日は故郷に泊まるつもりだったようなのでこれで一時のお別れだ

 

でもその前に一つ告げておく事がある

 

「クラピカ。これが私の連絡先ね。ハンター試験に合格出来たなら、その時は私が知っている分だけの幻影旅団(クモ)に関する情報を教えるよ。渡した緋の眼と同じ条件だね・・・まぁ私は幻影旅団を追ってる訳じゃないから大した情報じゃないかも知れないけどさ」

 

幻影旅団の本拠地とか知らないし

 

レツに関する事は出会ったその日に話す事じゃないと草むしりしながらコソコソと相談した。加えてA級首の情報なんてプロのライセンスも持ってない一般人(・・・)にはどっちみち扱いきれない情報だ

 

汝、叡智を欲するならば力を示せってね

 

いきなり幻影旅団(クモ)の名を出されたクラピカは一瞬瞳が朱くなり掛けるが、それを抑え込んで私の連絡先の紙を受け取った

 

「分かった。失望させないと誓おう。私の番号も渡しておく、なにか在ったら連絡してくれ」

 

マフィアンなクラピカは連絡ガン無視するけどね~

 

TPOを弁えてる私は余計な一言を呑み込んでクルタの集落を後にする

 

「それじゃあレツ、ポンズ。次の町へ向けて出発!」

 

「ええ」

 

「うん!」

 

お次の出会いと冒険を求めて頑張って行こうか!

 

 

 

 

 

 

 

・・・荷物が80キロも軽くなったから違和感が有るなぁ。また重し増やそうかな?

 




クラピカに 【かいりき】を おぼえさせますか?

→ はい
  いいえ

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