人里離れた山間で連続した爆発音が響き渡り、土煙と火柱が絶え間なく立ち昇っている
その中心で対峙するこの惨状を生み出した者達が同じ場所で戦い続けている事で小規模のクレーター同士が繋がり、一つの大きな穴へと変貌し始めていた
彼らの闘争域の境目の地面は少しずつ壁となり、歪ながらもまるで
「っぺ!うわ、奥歯折れた。全く、多分これ乳歯だからセーフだけど前歯とか折れたら如何してくれるんだか。念能力で自己治癒力が補強されても折れた永久歯は多分生えてこないんだよ?」
(回復系の能力ならその辺りの融通を利かせる事も出来るだろうけど、元々ある体の機能を強化する形で怪我が治ってる私は入れ歯必須になっちゃうじゃない。流石にそれは女として受け入れ難いから、万が一そうなったら何処ぞの
頭の中では軽口を叩いているビアーだがその体は至る所から血が流れていた。肋骨は3~4本折れており、それ以外の骨は折れていないが全体的に細かな罅が入り、ドラゴンの硬い鱗や皮膚を相手に肉弾戦を続けてきた代償に肉は削れてしまっている状態だ
口内は鉄の味で満ち、殴打された頬は紫色に痛々しく腫れてしまっている
左腕はドラゴンの炎のブレスを避け切れなかったものが在ったのか肘の周辺に焼けた様子が窺えた
ビアーの顕在オーラ量はドラゴンと戦い始めてからそこまでの上昇率を見せていない。勿論普段の修行と比べれば十分早い成長を遂げていると云えるが、ビアーは約10年もの間潜在オーラと顕在オーラを鍛えてきたのだ。これはどの道にも共通する事だが、素人よりも玄人の方が僅かな成長にも莫大な経験値が必要となる。この戦いの間という短い時間でも彼女の顕在オーラ量が微量ずつでも伸びているのは彼女の生来の才能に寄るところが大きい
しかしそれだけでは足りない。元の彼女の力を仮に100として、それが103や104に成ったところで相手が150の力を有しているのであれば現状は打破出来ない
だがそれは今までの彼女の話。人間とは不思議な生き物で、追い詰められた時にこそ真価を発揮する事もある
「うん?さっきまで痛くて熱くて痒くて吐き気もしてたのが治まってきた?・・・まぁいいや、なんか気分が良いし!」
脱力からの加速。体捌きの流麗さが一層際立ったビアーがもう何度目かも分からない突撃をする
「あはっ!世界が真っ白に見える!ヤバイこれ、ヤバイ!!薬でもキメてるみたい。キメた事ないけど!アハハハハハハッ♪」
今の彼女は極限の集中状態、スポーツで云うところのゾーンと疲労の一時的な精神的離脱であるランナーズハイの領域に入り込んだのだ。脳内麻薬がドバドバ出ている状態なので薬をキメているという表現はあながち間違いではない・・・今の目的である戦う以外の思考がカットされてるので少しアホの子っぽくなっているが
「見える!さっきよりも遅い!」
脳内の余剰出力を戦闘に向けているので動きのキレは格段に増している
「流星脚改め、竜☆征☆脚ぅううううう♪」
≪グガァアアアアッ!!?≫
―――やはりアホの子ゲージも上昇しているようだった。最高にハイになっているビアーにツッコミを入れられる者はこの場に居ないのだ
▽
森の中に突如として現れたクレーターという名の空白地帯。そこで当初よりも激しく暴れている力の権化たちを眺めている者たちが居た
レツにポンズにレオリオの三名にペット枠のアリスタだ。同じペット枠のルルはその体そのものがオーラで構成された念獣である為に気配を消す『絶』も『絶』の高等応用技である『隠』も使えないので
尤も、視線の先で怪獣大決戦という人間の限界を超越し過ぎな戦闘が繰り広げられてる以上は気休めかも知れないが、少なくともこの場で下手に追及されたり変に雑念を持たせたりするよりはマシである。『絶』を覚えたてで原理もよく解らないままその状態を維持している今の彼には念能力の秘匿云々の前にこの場で必要とされる措置であろう
彼ら以外の生物は撒き散らされる破壊から少しでも距離を取ろうと逃げるか必死に身を小さくして隠れているかの二択であり、その闘争を目にする者は居ない
”ゴリッ・・・ゴリッ・・・”
「・・・ねぇ、これだけ離れていてもビアーの高笑いが聞こえてきそうな位にハイテンションになってるのが(オーラで)判るんだけど、如何いう事かな?」
”ゴリゴリゴリゴリ・・・”
「そうね・・・取り敢えず貴女はその握りしめた石を砂粒に変えるのを止めなさいな」
ハイライトの消えた瞳で手元に落ちてた石を無意識に砕いていたレツに付き合いの短いレオリオは冷や汗を流す
「ああ。隣でゴリゴリと不協和音を奏でられるのはマジで恐ェエからそうしてくれると助かる・・・で、ビアーが愉しそうにしてるって?」
”バキンッ!―――サァアアア・・・・”
「あ、ゴメン。うん。それとなんだかさっきまでより積極的に攻撃を仕掛け始めたみたい。それでいて反撃も喰らわなくなっているような・・・?」
隣の一見華奢な少女の握った拳の内側を努めて無視したレオリオは医学の観点からビアーの状態を予測する
「・・・そいつはかなりヤベェ兆候かもな。あれだけの状態に長時間晒されて楽し気って事は十中八九エンドルフィンとかの脳内麻薬でハイになってると考えて良いだろう。それは肉体や精神が追い詰められているストレスから逃れる為の人間の体の防衛本能だ。要は既に限界ギリギリって事だ。動きが良くなってるって言ってもそれも今だけだ。そう遠くない内に一気にガス欠になるぞ」
レオリオの推測は概ね正しい。計算違いが有るとすればやはり、念能力の有無であろう
「・・・ちょっと、なんだかビアーの
ポンズの言葉を受けてレツとレオリオが再び戦場に意識を戻すと、確かにビアーの
ビアーの顕在オーラの成長は先程までよりは加速したがそれでも微々たるものだ。ならば今の彼女の纏うオーラの成長率の正体は何か?―――答えは強化率の上昇だ
ビアーは自身の固有能力を創る際に他系統の習得率と一部の基本応用技を棄て去るという制約と、それらを破った時に命を落とすと云う誓約をもって念能力を形作った
だが制約は兎も角として術者の覚悟が問われる誓約の方は、原作のクラピカが自身の心臓に戒めの鎖を刺し込んでいた状態と違い曖昧なモノだった。しかし今回生まれて初めてズタボロに為りつつ具体的な打開策も無しと云う命の危機を感じながらも『流』などの目先のパワーを排して、只管に己の能力と歩んできた道が最強と信じる精神性が”命を賭す”という在り方に『重み』を齎したのだ
当初、ビアーが念能力を創りだした時は彼女の思うように強化系の強化率は380%には届いていなかった。だが約9年間の思い込みの修行と限界を迎えつつもなお揺るがぬビアーの心は逆説的に彼女の
即ち―――”あ、コイツ
ビアーが今の意思のまま死の淵に近づく程に、確信が確証に変化していくのだ
今まではビアーの念能力は歯車が中途半端にしか嵌っておらずに空回りしている状態だった。それが今、オーラと云う動力が十全に唯一の固有能力として出力されんとしていた
▽
本日何度目とも知れないドラゴンの噛み付きに対して私も全力で突撃する。先程までは亜音速程度だった移動速度も今では私もドラゴンも音速を突破しているのか破裂音が連続して戦場に木霊する
今までも衝撃波とかは出していたけどそれは手足の先などの最もスピードが乗り易い末端部分だったからで、今なら小銃の弾丸程度なら追い抜けそうだ・・・まぁネフェルピトーとかの方がまだ迅いんだろうけど、今の私はそれと比べて純粋な筋力が20分の1程度だから仕方ないのかな?
※試しの門を5(32t)まで開けられるキルアが大体10分の1
それでも蟻編のチーターな師団長の・・・なんだっけ?兎も角このままいけばアイツ程度には迅くはなれそうだ。いや、実際に対峙してみないと判らんけど
直前まで攻撃を惹き付けた後で頭からガブっといかれる直前に左半身を前にして僅かに左に進路をズラす事で攻撃を避ける
ギリギリの回避だったせいで右腕の内側に牙が届いて血が噴き出るけど完全に無視して閉じたばかりのドラゴンの顎の先端部分を右
そのまま2撃目、3撃目と連続で肘と膝のコンボを叩き込んでいく
「くぬっ、くぅんぬっ!くぅんぬぅううううううっ!!!」
渾身の攻撃を連発するのに語彙力が消え去ったけど3撃目を叩き込んだその瞬間にドラゴンの口から"ビシッ!"と硬いモノに亀裂が奔ったかのような異音が響く
「キタアアアアアアアアアア!!―――って!ふぎゃっ!!?」
ドラゴンと云えば牙!そんなシンボルとも云える武器を破壊出来そうと思い、嬉々として4撃目を放とうとした私の左足にドラゴンのショルダータックルがぶつかる。私が一瞬注意散漫になった隙に頭の位置は動かさずに囮にして長い首だけ限界までしならせて彼我の距離を詰め、そこから突進をかましたんだ
人間じゃ先ず真似できない動きね。芋虫かってのよ!なんとか跳び上がったから脇腹直撃コースは逸れたけど、避け切れず代わりに左足が折れちゃった
ジャンプ中の脚にタックルを受けた影響で空中で側転気味に視界がグルグル廻るけど、ドラゴンの巨体が下を通過する際に目の前に壁のようなモノが映り込んだので咄嗟に
≪グルァアアアアアアアアッ!?≫
背中に生えた翼の皮膜を大きく裂かれたドラゴンの悲鳴が上がる。翼の前方から後方まで一気に引き裂かれたからだ。回転とドラゴンの勢いで強引に切り裂いた形だから、かなり雑な切り口になってて逆に痛いね、アレは
「おっとっと。あ~、片足と片翼じゃあちょっと割に合わないかなぁ」
折れてない右足で着地した私は独りごちる。飛行能力は低下したはずだけど、まだ地面を踏みしめる四足が残ってるドラゴンは然程堪えてないでしょうね
常人より自己治癒力も遥かに上昇している私でも骨折が治る前に戦闘の負荷に耐え切れずまた骨折するだろうし、連続で同じ個所に大怪我するのは流石に不味いかな?折れた足はパンパンに膨らんでドクドク血の流れを感じるし、さて如何したものか
≪グルルルルルルルル・・・≫
こっちを振り向いたドラゴンは幾つかの牙が割れて口元からボタボタと血が流れていた。うわ~、今まで以上にメッチャ睨んでくるじゃん
う~ん。なんかさっきから失血のせいか手足の先が震えてるんだよねぇ・・・代わりに
そこでふと私達の闘いで半ば地面に埋まっている木の枝が目に入る。大半はドラゴンの火炎で炭になってるけどまだそこそこ原形を留めているものも残っている
「ふむ?」
少し気になる事が出来たのでその枝をへし折ると『周』をして埋まった木に突き刺し、今度はその倒木ごと『周』で囲おうとするが弾かれてしまった。更にもう一度別のアプローチで『周』をするがこれも弾かれる
「だったらコレは如何かな?」
予測は出来た事なので少し工夫してまた『周』を発動すると3回目はちゃんと成功する
「うんうんそっか、成程ね~・・・ああ御免。いきなり変な事し始めたから警戒させちゃったかな?いや~、人間
まぁコレは奇襲用のビックリ技の域を出ない気もするけど、今はそれでも十分だ
私が動かないのを見たドラゴンが大きな口を開いて喉を朱く光らせブレスをチャージする。この至近距離でブレスをギリギリで対処すると避けるにしても防ぐにしても大きな隙を晒して次の一撃を喰らってしまう。それでも私はその場から動かずに片膝を着いた状態から思いっきり右腕を振りかぶった―――折角なら技名を付けようかな。カッコイイ技名を付けるなら
「
思いついたままのセリフと共に右腕を地面に叩きつけると同時にドラゴンの顎下の地面が板状にくり抜かれて跳ね上がり、意識外から強制的に閉じさせられた咥内でブレスが暴発した
私がやった事は単純。『周』で地面を棒状に覆い、公園に在るシーソーのようにドラゴンの顎に向かってかち上げたのだ
これはオーラを棒状に変化させてる訳ではなく、あくまでも物体を通してオーラを流しているに過ぎない。例えば槍などの長物や鞭などを『周』で覆う事が出来るか否かと訊いたら基本を修めた念能力者ならYESと答えるでしょう
でもそういった長物系だって全て同じ材質で構成されている訳ではないし、木刀で木を刺したとしても、その途端『周』の境界線があやふやになって維持できなくなるなんて事も無い
『周』に必要なのはオーラと肉体との繋がりが切れてない事と『周』で覆う物の外周を一つの塊として定義・認識出来るかどうかだ
先程地面に半分以上埋まった木を『周』しようとして失敗した原因は二つ
一度目は木の全体像が見えなかった=認識出来なかったから。二度目の時は地面の上に見えてる部分だけでも『周』をしようとしてチューペットや板チョコみたいに割ろうとして失敗だった。二度目の失敗は原子レベルの物質の結びつきの隙間を私が認識出来なかったからだ
三度目は『円』を発動して地面に埋まってる部分も含めて木の形を把握した上で『周』を発動したから成功した
ならば地面(土)は如何か?土は決して強く、隙間のない結びつきが在るモノじゃない。砂粒程の大きさならば十分に認識が可能であると云える
一瞬『円』を伸ばして地面を好きな形状に捉えると云う下準備は必要だけど、私だって伊達にずっと『円』と一緒に生活してきた訳じゃない―――世界を切り分ける感覚が判らない?今すぐマイ〇クラフトをプレイしてこい!
ドラゴンの牙が数本、内側から弾け飛ぶ。罅が入って脆くなっている状態で爆発の圧力に耐えきれなかったみたいね。勿論それも想定済みな私は右腕を叩きつけた直後には折れてない右足で全力の跳躍でドラゴンの顔面に拳を叩き込みに向かっている
「ぁぁぁああああああああああああああああ!!」
裂帛の気合と共に拳を、否、右腕を肩口までドラゴンの前歯を破壊して潜り込ませた私は出来る限り舌の根元辺りを鷲掴みにする
破壊したと言っても常人がガラスをぶち破るのに似た行為なのでドラゴンの口に残ってる牙の欠片が右腕全体を傷つけるけど構っていられない
そのダメージに見合ったリターンを得なければならないからだ。この状態でドラゴンが再度ブレスを放とうものなら右腕どころか頭ごと消し炭に成り兼ねない
≪ググゥゥウウ・・・≫
一瞬ドラゴンが舌を引っ張られる未知の感覚に
まるで大根やカブを地面から引っこ抜くような体勢になった私が全身の力を十全に籠めると"ブチブチ"と嫌な音を立てて長い舌がドラゴンから泣き別れた
反動で数十メートル吹き飛んで地面を転がるハメになったけど戦利品を高々と掲げてやる事にする
「牛タンならぬドラタンゲットぉおおおおお!!・・・ん?竜タンかな?どっちでも良いか」
てか炎を吐くドラゴンの舌ってそもそも焼肉に出来るのかな?生食はちょっと遠慮したいんだけど・・・あ、消えちゃった。そか、まぁあんなんでも念獣みたいだしね
ちぇっ、ドラゴンの素材は売れば国家予算の数割クラスってのがお約束なのに
舌を千切られたドラゴンは絶叫を上げてのたうち回っていたので下手に近寄れなかったけど、少し経つとこちらを睨んだら怒りで我を忘れたように突っ込んできた。舌を噛み切ると痛みでショック死したりするみたいだからそれも期待したんだけど、そう上手くは行かないみたいだね
念獣とはいえ生体に近い感じだからワンチャン有ると思ったんだけどな
「怒るのも当然だけど、さっきの攻撃をもう忘れたのかなっ!」
―――
今度はパンチではなく震脚の形でまだ比較的無事な右足で地面を踏み抜くと、再び棒状にくり抜かれたソレが突進中のドラゴンの口先に突き付けるように迫り出して口の中に捻じ込まれる
≪グゴォオオ!!?≫
前歯に相当する牙を失くしたドラゴンなら例え口を閉じた状態でも防御出来ないでしょうし、口の中がボロボロな状態なら一瞬でも確実に動きが止まる!
首下に潜り込んだ私は左手で貫手の構えをとる
戦い始めた時は無理だった。でも今なら決まる!
「―――ゥッらあああああああああああ!!」
短く呼気を飲み込んで突き出した一刺しはドラゴンの喉に見事に突き刺さった
「よっし!・・・って!これ、抜けない!?」
筋肉で止めた!?私が小さいから致命傷に一歩届かなかったって事!?
―――っく!技の鋭さに力を割き過ぎたかな!
ドラゴンは私の片手が首に突き刺さった状態のまま遠心力タップリに首を仰け反らせると刺さっていた腕が抜けて空中に放り出される。更にドラゴンは上体を仰け反らせた勢いのまま軽くジャンプしてバック転し、これまた遠心力を十分に乗せた尻尾のサマーソルトを放って来た
衝撃波の反動で軌道修正?いや、間に合わない!
「こなくそぉおおおおおお!!」
迫りくる尻尾を右足で迎撃したけど代わりに戦場となっていたクレーターの外へと放り出されてしまう
今ので靴底が消し飛んで足の裏も少し"ゾリッ"と逝ったかな?うわ~、足の裏確かめたくな~い
そう思いつつ地面に着地した私は両足に鋭い痛みを感じる。咄嗟に倒れ込むように左腕を軸に地面を削りながらスピードを殺すと漸く止まる事が出来た
「痛ぁぁあああああ!!?あ、なんかもう全身痛い!」
意識しちゃったせいで感覚戻ってきちゃったかなコレ!
「あれ?ここって・・・」
涙目になりながらも周囲に気を配ると森が途切れていて辺りには白い花が咲き乱れている場所だった。私達が探していたスズランの群生地って此処の事だったんだね
自然と目的の『朱いスズラン』を探しちゃったけど取り敢えず周囲にそれっぽい花は咲いてないみたい。でも最後に足元付近に目を向けるとそこには朱く染まったスズランが!!
「いやいや違うから!そんな私の血で朱くなったスズランは求めてな~い!!」
結構出血してたから滴り落ちた血が白い花に掛かってたみたいだけど、そんな血生臭いメッキじゃなんの意味もないよ!
・・・と天に向かってツッコミを叫んでいたら黒い影が見えたので痛む足を叱咤してその場から離れると私をここまで飛ばしたドラゴンが墜落気味に着地してきた
「げほっ、こほっ、傷ついた翼で無理に飛んできたのね・・・って!花畑がぁああああ!?」
折角綺麗な場所だったのに一部抉れちゃってるじゃん、許すまじ!!こちとらこれでもスズランには愛着持ってるんだよ!私の蹴りとぶつかった事で折れたらしいその尻尾だけじゃ到底釣りあわないね。せめてピ〇チュウの尻尾みたいジグザグになってなきゃ!
かと言ってチンタラ戦ってたらすぐにこの場所も焦土になっちゃうし、まだパッと見回しただけだから見逃しただけで朱いスズランも何処かに咲いてるかも知れない・・・奴の首元には私がさっき空けた穴が在るからそこを更にこじ開けて一気に決着に持っていきたいかな
でもあの喉の傷に手を突っ込み直して確実に殺せるところまで力任せに引き裂くには一瞬じゃなくて出来れば数秒程、ドラゴンの隙が欲しいわね
互いに睨み合って先に動いたのはドラゴンの方だった。向こうは私よりも非常にシンプルにこちらを殺す事しか考えてないから周囲の状況を勘案しなくて良い
四つん這いの状態から犬や猫がするような少しとぐろを巻いたような体勢となり、その勢いで前方の私に長い尻尾を横薙ぎにぶん回してきた
先端をへし折ってやった程度なら武器として扱うのになんの問題も無いって事なんでしょう。唸りを上げる尻尾の風圧に通り道の草花が蹂躙される
避ける?いいや、今取るべき選択肢は違う
「っぐ!」
自分の右側から迫って来ていた質量攻撃をタイミングを合わせて左に跳ぶ事で可能な限り威力を削減しつつ全身で包み込むように捕まえる。当然ジャンプ中に受け身な姿勢で喰らっただけだから尻尾の勢いが衰える事は無い・・・そう、体も尻尾も捻った一撃は私を最速でドラゴンの顔の前まで運んでくれる。街中でカーチェイスをする映画よりも乱暴な運転での速達便だ
折れた尻尾の僅かな取っ掛かりを足場にしてドラゴンが私を振り払おうと尻尾に力を籠めるよりも素早く、なりふり構わない跳躍をする。無理な体勢での突撃だから真面な技を繰り出す暇なんて無かったので私の頭をドラゴンの眉間にぶち込む頭突きをかます
勢い的には『ロケットずつき』なのかもね?
ぶつかった衝撃でお互いが吹き飛ばされた。額の方から新たな傷口から血が流れてくるのを感じるけど、ドラゴンの方も今の一撃で鱗が割れて逆に幾らか肉体に突き刺さってるみたいだ
「石頭勝負は私の勝ちって事で良いかな?」
―――いいね。なんかとっても調子が良い御蔭でパワー負けしなくなってきた。これでもしも『流』とかを用いて闘ってたら、ここまで粘って実力が上がる前に何度か受けた痛打で大ダメージを受けて動けなくなってたはず。私の戦法の本質は守り寄りの攻め。同格ないし格上との闘いは自然と長期戦になる分、私にとっては経験値チャンスでもあった訳だ・・・やはり強化系は『纏』と『練』こそ最強への道!
今度はドラゴンが飛び掛かり気味に右の前足を上段から振り下ろしてきた。自らの膂力だけでなく体重も乗った一撃だ―――鈍重なようでいてその実普通の人からしたらヤムチャ視点な動きなんだから笑えてしまうね!(半ギレ)
そんな溜め攻撃なのに超迅いという理不尽
爪が大き目に腕を裂くけどそれを対価にして今度はドラゴンの首に突きではなく斬撃を放つ・・・が、ドラゴンも払われた右足の反動も利用して体ごと首を捻って横一線の傷を致命傷からギリ深手に抑えた―――今の感触は気道までは達していなかったな
交差する形になった私達は着地して直ぐに反転し、仕切り直す
ここまでの攻防で私は尻尾と頭突きで胴体と頭にダメージ微に左腕がダメージ中。向こうは頭にダメージ小に首にダメージ大って感じかな?ダメージ自体は割とトントンだけど同じ個所(首)に傷つけを重ねたからクリティカル判定が出やすくなってるね
「さぁて、お次はどんな感じに攻めよう”バサァァァッ!”―――っちょ!何処行くの~!?」
コイツ天に羽ばたきよったよ!まさか此処へきて逃げないよね!・・・もしかして気付かれた?
私が焦っていると上空を陣取ったドラゴンは首を曲げて喉の怪我を無理やり閉じ、そのままブレスをチャージしていく。その上―――
「アイツ今ニタっと嗤いやがったよ!絶対気付いてる・・・性悪か!!」
上空からのブレス一辺倒の攻撃は既に一度喰らっている。いや、正確には喰らわなかった
ブレスは高温高威力で範囲も広いけど私のジャンプが届かないレベルで距離を取った場所からの直線的な攻撃は正直避け易かった。多少熱波に煽られたりはしたけど向こうにしてみれば超遠距離ブレスは
尻尾は右側から迫って来ていたから左への回避(ダメージ軽減)が上手くいったけど、次の叩き付けは右足一本で素早く回避できる方向の左や後ろは回避したところで追撃の餌食になっていた。左腕を半ば犠牲にしてでも前を選択したのはこの為だ
最適というよりは最速で相手を斃す為に・・・流石の私も此処がスズランの群生地だからって命の危険を増やしてまで最速を選択したりはしない
でも向こうは私の立ち回りの変化から直感的に私のスピードが鈍ってる事に気付いたみたいだ
「だからって気付くの早過ぎでしょ。直感オバケか!」
向こうも大分弱ってるし遠距離ブレスが避け易いと云う事実はこっちの機動力が下がってる事を踏まえても変わらない。少なくともそう簡単には当たらない自信は有るし威力の低いブレスなら衝撃波で相殺できる。でも衝撃波はオーラを乗せてる訳じゃないから飛距離が伸びる程に威力が減衰するからあの位置のドラゴンには無意味・・・ああもう!絶対何時か空飛ぶトカゲも粉砕出来る大規模衝撃波を繰り出せるようになってやるわよ!・・・そこまで行ったら歩く天変地異ね
まぁ人間界の在る暗黒大陸のメビウス湖の東半分だけでも五大厄災なんてのが在るんだし、それぐらいの力は欲しいところではあるけど・・・
・・・そんな未来の話より目の前の現実を直視しましょうか。アイツどうしよう?
だがドラゴンのブレスが今まさに放たれんとする直前、私自身が何かを思いつく前にドラゴンの下の地面より更に後方から二つの陰が飛び出した
▽
ドラゴンとビアーの闘いが激化していく中、ずっと機会を窺っていたレツはここが勝負所だと判断した。念能力の準備に時間が掛かっていた事と今まで彼らが闘っていたクレーターは見通しが良くなり過ぎていて容易に近づけなかったのも理由の一つだ
相手は上空で完全にビアーしか見ていない。しかし足に怪我をしているとは言え、ビアーでも簡単には手が届かない高さに居るドラゴンに奇襲を掛けるにはレツやポンズの筋力とオーラ量及び強化率では足りない上にオモカゲからオーラを受け継いだレツが全力でオーラを『練』ればまず気付かれる。ポンズならまだしもレツクラスのオーラだとドラゴンの敵意も十分拾いかねない。洞窟で出会った時こそ優先順位が低いと無視されたが攻撃してくる相手を見逃すような性格をしているとも思えない。そこで彼女たちの出した答えは『多段ロケット方式』だ
「(飛ばすわよ、レツ!)」
「(うん。思いっきりやって!)」
先ず森の木の上からそれぞれが跳躍し、慣性と重力がつり合う天辺でポンズの両手を重ねた掌の上にレツが片足を乗せ、レツの跳躍とポンズの投擲を合わせた大ジャンプで天に舞う
(飛距離を稼いでも届かない。けど、それも織り込み済み!)
レツの右手には掌くらいの大きさのデフォルメされたドラゴンの
「行け、ピー
レツの掛け声と共にドラゴンの背後に躍り出たのはドラゴンよりも一回り以上小さい・・・具体的にはドラゴンがまだ
≪グギャァアァァアアアアアア!!?≫
神の人形師の力を継いだレツは死体や相手の過去の記憶から人形を作れる。最初から念獣として在った今のドラゴンのコピーは無理だったが、9分9厘ドラゴンでも
レツは兄であるオモカゲの神の人形師の能力を継いだが兄のように人形に人間時代の記憶と意識を残したまま知り合いと殺し合いをさせ、その悲劇を愉しむなんて趣味は無い
当初は技術や戦闘技能だけ残して記憶などは再現しない方向で能力を調整する事も考えたがそれはビアーにもポンズにも却下された。コピーしたい人物の知り合いさえ居れば記憶ごと再現可能なオモカゲのぶっ壊れスキルである【
だから幾つか
1.尋問・質問の為に作った人形には意識を残さずに質問等が終わり次第破棄する
2.戦闘用の人形はエピソード記憶も意識も消して操作する
3.一度に操作できるのは最大でも2体まで(例外有)
このように自由に人形を作れない上に数も絞ったが人形の能力値自体はそこまで上昇してない。『目』無しの人形の性能がオリジナルの5割から5割5分になった程度だ
一つ目のルールはレツにとって当然とも云えるものであったこと。二つ目のルールはオモカゲはセミオートで念人形を最大同時で7体操っていたが、レツは意識が無い分フルで人形を支配して操る必要が有る為オモカゲの半分以下の操作数となった。操作系でもないのに旅団員のシャルナークと同じだけ操作できているのだから十分とも云えるがこれは半ば必要に駆られたが故の制約であって二つのルールは人形の性能を著しく向上させるには至らなかった
因みにポンズは沢山支配出来る反面、単純な動きしか命令出来ない
そして今回レツが投げたドラゴンの人形。これは彼女自身の念能力であり系統でもある
そこから分かる事はオモカゲの能力を継いだレツだが、彼女自身の念能力の
オモカゲの人形は等身大である為に持ち運びがネックであった。それを解決したのがこの【
兎も角幾ら自分の半分以下。3~4割程度の力しか無いとしてもボロボロで飛ぶのも不安定なところに翼をガッシリとホールドされたら驚愕と共に自然落下するのは道理である。人間のように腕が後ろに回る訳でもないから瞬時に振りほどく事も出来ない。そんなドラゴンの視界にレツが映り込み、ドラゴンは怒りを向ける―――『コレは貴様の仕業か』と
ビアーの為に溜めたブレスを放とうとするがその前にレツが口を開く
「
軽口と共に投げられた筒状の物体は何かと知識の無いドラゴンは注視し、次の瞬間爆音と閃光が辺りに撒き散らされた
光と音で相手を昏倒させるスタングレネードは単純な『纏』や『練』だけでは防げない
このドラゴンならば立ち直りも早いがレツが離脱するには十分な隙だった
「ルル!全速力で離れて!」
≪メェエエエエエエエエエ!!≫
【
≪グガァアアアアアッ!!≫
未だ感覚器が回復しきってないドラゴンがレツとルルに向けてブレスを吐くが当てずっぽうな攻撃など距離を取った彼女たちに命中するはずも無い
ルルは最悪本体さえ無事なら如何とでもなるので、レツにはルルを足場にした二段ジャンプ離脱と云う奥の手も有るからだ・・・ルルには内緒だが
言葉は伝わらない。だがレツには言っておくべきセリフが在った
「良いの?ボクなんかに気を取られちゃって」
そう、言葉は伝わらない。しかしそこに込められた意味はドラゴンに伝わった。いや、理解せざるを得なかったのだ
「ナイスサポートだよ。レツ」
ドラゴンが声の方向に反射的に振り向いた瞬間、首の傷にビアーの足先と両手が掛けられ、生々しい音と共に宝箱の蓋でも開くような形でドラゴンの頭が首後ろの肉を残して泣き別れたのだった
レツの能力の一部を開示しました。詳細はもう少し後で書くと思います。ピー助の名前の由来も次回かな?
いやぁ、喋る事も出来ずテクニック描写もし辛いドラゴンとの長期戦はマジ筆が進まなくて焦りました。心理描写も無しでビアーが喋っても実質独り言とか・・・次対バケモノ戦を書くなら短期決戦が良いですホント(泣&自業自得)