毎日ひたすら纏と練   作:風馬

30 / 93
『練』とスズラン

ドラゴンの首を9割方引き裂いて地面に向かって落下していく中、私は更にドラゴンの首を押し出してその顔面が背中を向くように固定する

 

上手くいくかは不明だけど時間が無い上に此処を逃したらもうチャンスが無いかも知れないからだ

 

念獣(ドラゴン)が背中を向くとは詰まり背中に張り付いているレツの人形(ドラゴン)と見つめ合う形となる。なんでこのドラゴンをコピーしたっぽいのに一回り以上小さいのかとか疑問は有るけど、それは無視だ

 

「レツ!目をっ!」

 

「うん!ピー助、『魂呼ばい(タマヨバイ)』!!」

 

念獣(ドラゴン)の琥珀色の瞳と人形(ドラゴン)の真っ暗な『目』の視線が交わり合い、(オーラ)と云う架け橋で繋がる。斃してしまった以上は念獣(ドラゴン)の素材は残らないと考えられるので、その前に目の所有権だけでも奪い取ってしまおうと云う話だ・・・最後に光が一層強く輝いた直後、結果を確かめる間もなく私達が地面に激突した衝撃で土煙が舞い上がった

 

「うぐぅっ・・・いったぁ~・・・」

 

流石にこの怪我で地面にダイブするのは体に響く。戦闘が終わって気が抜けちゃってるから余計に痛い気がする。レツはルルの力で方向転換して私を掴もうとしてくれてたけど、ドラゴンのブレスから逃れる為に距離を取ってたから間に合わなかったわね。ポンズとレオリオも似たような理由でしょう。落下地点の打ち合わせとか当然してない訳だし、遠くから「おーい!」とか聞こえるし

 

堕ちた場所はレツのドラゴンが背中から体当たり気味に噛み付いたから少し流されてスズランの群生地の端になっちゃったけど、ダメになったのは花畑全体の3~4割程度かな?・・・まっ、私達の戦闘規模からしたら上々でしょう。そう思う事にする。じゃないとやってらんない

 

ドラゴンが墜落した場所から立ち昇っていた土煙が晴れていくと私と戦っていた方のドラゴンは光の粒子が空気に溶けるように消えていく様子が窺えた

 

巨体とはいえ体の全てが消え去るのに10秒程しか掛からなかったわね

 

≪ゴルルルルル・・・≫

 

低い唸り声を上げてこっちを滅茶苦茶睨んで来てるレツのドラゴンは本体が消滅しても【魂呼ばい(タマヨバイ)】で奪った目は健在みたい・・・それにコレってもしかしなくても倍以上に強化されてるわね。レツのドラゴン・・・ピー助の力はオリジナルの3割ちょい程度だったからオリジナルの目を埋め込んだとしても本来なら精々7割程度の力にしかならないはずなのに、今目の前に居るピー助は8割ちょい位の力を感じる

 

自分の『目』でありながら自分よりもずっと強い『目』を埋め込んだのが理由でしょう

 

「ビアー!大丈夫っ?取り返しのつかないような怪我はしてない!?」

 

レツがルルを掴んでいた手を放して私の傍に降り立つと同時に能力を解除したのかピー助がデフォルメされた手持ちの人形となってレツの手に収まり、具現化されたキーホルダーに引っ掛けられる

 

神の人形師で造った人形限定の能力だから便利な割に容量(メモリ)も軽い能力だ

 

「多分大丈夫だよ。それはそれとしてあの子は何だったの?今にも殺しに来るんじゃないかってレベルで殺気送って来てたんだけど?」

 

「あはははは・・・少し使役してみて分かったんだけど、あの子にとって戦うのは息をするように当たり前の事みたいでね。[たたかえ]と[止まれ]しか命令を受け付けないんだよ」

 

扱い辛っ!?それにその内容だと[たたかえ]コマンドは自動発動だからレツの指示は実質[止まれ]一択じゃん!レツの命令が無かったらマジで襲われてたって事!?

 

「・・・だったら【人形受胎(ドールキャッチャー)】を使ったら?」

 

「試してみないと確かな事は言えないけど・・・多分ボクのオーラが尽きるまでバーサーカーになるんじゃないかな?」

 

超扱い辛っ!!?ドラゴンの背に乗ってお空のお散歩とか色々妄想したのに!

 

まぁ良いや。闘いは終わって人的被害も無し(私の怪我以外)。厄札だけどレツの手札も増えたんだから言う事無いよね

 

流石に疲れたので地面に寝っ転がると丁度ポンズとレオリオも駆けつけてくれたみたいで無事を知らせる為にヘラヘラと笑いながら軽く手を振る

 

「馬鹿野郎、怪我人はジッとしてろっ!」

 

・・・ジーザス。怒られてしまった

 

レオリオは私の隣に屈みこむと色々質問しながら全身の怪我の度合いを確かめていく。肋骨とか多分折れてるとか言ったら服の上から軽く触診とかもされたけど完全に医者の目をしてたから不快感とかは感じなかった。う~む、まさか父親以外の今世初の男性パイたっちがレオリオになるとは

 

てか医者は普通ノーカンか。お父さんだって小さい頃に抱っこして貰ったのをパイたっちなんて表現しないしね・・・それを許した瞬間世の中の娘を持つ父親の99%が性犯罪者の烙印を押される事態に成り兼ねない

 

診察されてる間は下手に動く訳にもいかなかったから適当な事考えてたけど、その間にレオリオも大体私の怪我の具合を診終わったようだ

 

「・・・どうなってんだよ。なんで血が流れた痕跡の在る場所の大半の傷口が既に塞がりかけてやがるんだ?骨折箇所も腫れがかなり引いてやがる。普段ボンドでも食ってやがんのか?」

 

失礼な!普通の人よりは怪我の治りが早いだけだやい!ポンズもそうだったけど何で私の食事にボンドを一品加えようとするのよ!

 

「だがそれなら・・・おい、手伝ってくれ。直ぐにビアーの体を清潔にするぞ。怪我の治りが早えのはスゲェ事だがそのせいで傷口から細菌を取り込みやすくなってるはずだ」

 

そう言いつつレオリオはスーツの上着を脱いで地面に広げて即席のシーツ代わりにすると私の体に負担を掛けないよう丁寧に移動させ、医療器具の充実したアタッシュケースから消毒用アルコールと清潔な布を取り出してレツとポンズにも渡す

 

「腕や頭とかの上半身はお前らに頼む。折れたり重症だったりする足を素人に任せる訳にもいかねぇし、右足は消毒後すぐに包帯で保護した方が良い。ポンズは左腕を拭き終わったら火傷部分を水で濡らした大き目の布で巻いてやってくれ」

 

おお!私のような患者は初めてだろうに”ほっときゃ治る”とかって思考停止せずに自分にやれる最善を模索出来るのは凄いな

 

三人の介抱でちょっと全身アルコールが染みた上にスースーもしたけど10分もされるがままにしておけば一通りの処置は終わったみたいだ。左足の骨折もしっかり添木で固定されている。全体的に包帯も巻かれたし見た目は結構痛々しい・・・明日には大半の包帯を外せるだろうけど

 

「さて、怪我の方はこんなもんか。後はしっかり栄養を取らねぇとな。幾ら怪我が治ってきてるっつっても流れた血まで戻る訳じゃねぇし、怪我の回復にもエネルギーが要るからな。本当なら輸血したいところなんだが、輸血パックは流石に持ち運び出来ねぇからよ」

 

普通の収納能力なら具現化系で可能だけど輸血パックとかだと時間固定タイプのアイテムボックスが必要だからねぇ・・・出来ない訳じゃないと思うけど色んな制約が掛かりそう

 

「それはそうとビアー、貴女何時まで身を『堅』くしてるのよ?何時も通り過ぎて気付くの遅れちゃったけど、怪我を治すだけならそこまで必要無いでしょう?もっと肩の力を抜きなさいな」

 

んあ?・・・ああ、確かにポンズの言う通りだった。色々手遅れだとは思うけど非念能力者(レオリオ)に配慮した言い回しで『堅』から『練』に段階を落とせと忠告してくれた

 

私も『堅』や『円』が常態に近いものがあったから解くのを忘れてた

 

さて、唐突だがここで『堅』と『練』そして『円』の関係性について話をしよう。この三つのオーラ操作技術はどれも基本を同じにするものだ。では具体的には何処に違いが有るのか?それはオーラの密度と言っていいと思う

 

先ず基本の四大行の一つである『練』は精孔を開いて通常以上のオーラを生み出すがそこで終わりじゃない。原作キルアも最初に言っていたように『練』ったオーラを『纏』で留める必要が有るからだ。そうでないと物凄い勢いで生命エネルギーを垂れ流すことになってしまう

 

では次に『堅』とは如何いった技術か?簡単に言えば強靭な『纏』でオーラの圧縮率を上げた状態だ。当然抑え込めば抑え込む程に反発する力も増えるからオーラが無駄に零れない程度の『纏』を用いた『練』に比べて消耗が加速する。個人的なイメージとしては何処かのヒーローが溢れる社会の硬化の個性持ち君の必殺技(アンブレイカブル)かな?『練』は普通に個性発動した状態って感じ。オーラの密度が上がったところで顕在オーラそのものが変化している訳じゃないから『堅』と『練』では肉体の強化率は変わらないけど攻防力には差が出る・・・が、これもただの『纏』では攻撃力が上がったりしないとされているようにどっちかと言えば防御力が主体で上がるね。今はそれは要らないからポンズが『練』にしろと言ったのはこれが理由だ

 

『円』も広範囲に薄く広げたオーラを逃がさないだけの繊細かつ強固な『纏』が必要な技術だ

 

そんな感じでそれなりのオーラ量を誇る私が『堅』から『練』に切り替えると如何なるかと云えば広範囲に私のオーラが吹き荒れる事になる・・・もう私の『練』ってそれだけでそこら辺の念能力者の『円』の範囲を超えてると思うのよね。少なくとも何処かのタイマン限定の人(ノブナガ)よりは有る

 

オーラが吹き荒れるとは表現したけど別に戦意や威圧の念を籠めている訳でもないのでレオリオを含めて特に周囲に影響を及ぼしたりはしない・・・はずだった

 

"ズァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!"

 

「な!?」

 

「え!?」

 

「嘘っ!?」

 

「はぇ!?」

 

私を中心に『練』の範囲内のスズランが咲かせているその花を朱く染め上げていく。紛れもなく私達の目的である『朱いスズラン』だ

 

「え?え?如何いう事?Why?なんで?―――あ痛っ!」

 

思わず上半身を起こして辺りをキョロキョロ見渡すとポンズに軽くチョップを入れられた―――

うん。こういうのって実際痛くなくても思わずセリフが零れちゃうよね

 

「落ち着きなさいバカ。取り敢えず一旦『(それ)』を止めること!」

 

大人しく言われた通りに『練』を『絶』に切り替えて潜在オーラの回復に力を廻す。『練』による状態異常(けが)の治癒も『絶』による体力の回復もどっちも大切だからね

 

「レツ。少し確かめたい事が有るからこっちに来て」

 

「う、うん。分かったよ。なにをすれば良いの?」

 

二人はスズランが朱く染まってない場所まで離れていくとそこでしゃがみ込む。それから二人は別々の白い普通のスズランに両手を包み込むような形で(かざ)すと『練』をした・・・が、特に変化は無かったみたいでその結果を視たポンズは今度はスズランの花を一輪と土ごと掘り起こした一株を持って私の元にやって来ると私の前に差し出す

 

「はいコレ。お願いね」

 

ここまで来ればポンズの検証したい事も分かる。先に摘まれた一輪のスズランに水見式と同じ要領で範囲を抑えて『練』をするが変化は起きず、次に完全な状態のスズランに『練』を向けると見る間に鮮やかな朱色に染まった

 

成程ね。水見式は一番分かり易く系統別にオーラの影響を反映するものだけど、自然界に存在するモノでオーラに特定の反応を示すのがそれだけと考える方が不自然か・・・コーヒーでも代用出来てたみたいだしね

 

具現化系(レツ)操作系(ポンズ)の『練』には無反応だったようだから念系統の判別には使えそうにないけどさ

 

「おいおいおいおい、いい加減説明してくんねぇか?なんでスズランが朱くなってんだ?あのドラゴンは何で消えたんだ?二匹目のドラゴンは何だったんだ?てかあの戦闘からして人間の限界超えすぎだろ!―――ああもう何から訊けば良いのか判んねぇっっっ!!」

 

ドラゴンの危機と私の手当が終わったからかレオリオが頭をガシガシ掻きながら感情のままに吼える・・・寧ろよく今までパニックに為らないでくれたよ

 

「(ちょっと如何するの?黙秘で通すには無理が在り過ぎるわよ?)」

 

「(あははは、そうだよねぇ・・・ギリギリ開示出来る分だけ話して後は真摯に頼むしか無いと思うよ。幸いレオリオはハンター試験も受けるつもりみたいだし)」

 

そう。ぶっちゃけプロハンターを目指している人相手なら説得はかなり容易になる

 

世の中には秘匿された不思議ぷぁわぁーが存在し、社会を混乱に陥れない為にもその情報は厳しく制限されている。ハンター試験に合格すれば教えて貰えるから頑張ってねと言えばそれで良しだ

 

・・・え?今すぐ教えろって言われたら?プークスクス♪プロハンター志望の癖に合格できる自信が無いんだ~。へ~、ほ~、ふ~ん(嘲笑目線)―――それでも喰ってかかって来るなら説得(お話)が説得(物理)になるだけだ

 

「なら問題ねぇな。試験内容にもよるみてぇだが、遅くとも半年後には俺にも教えて貰えるってこったろ」

 

かくかくしかじかと説明したレオリオの反応がこれだ。まっ、プロハンターを目指すならこれ位の心意気は必要だよね

 

ザックリとした説明だったけどレオリオは満足したのかそのまま周囲に生えている朱いスズランを幾つか摘んで花粉やら茎やらを選り分けたりし始めた

 

「レオリオさん、それは何をしてるの?花を持って帰るんじゃなかったの?」

 

「ああ、簡易だがコイツを使った薬を調合しようと思ってな。最初に言ったろ?造血、血清、その他諸々このスズランにはそういう効果が有るってよ。ビアーには今血が足りてねぇし細菌感染の恐れもある。普通なら少し無理な行軍をしてでも万一に備えて病院へ直行させたいところなんだが、コイツで造った薬を飲めば焦る必要は無くなるからな。幸い此処には沢山生えてるしよ」

 

レツの質問に答えつつも手元での作業を続けていくレオリオに薬の扱いに長けていて医学・薬学も多少は齧っているポンズがサポートに入りレツとアリスタは一応周囲の警戒という分担となった

・・・私とルル?怪我人と抱き枕だよ?

 

「寝る!薬が出来たら起こしてっ!ルル~♪モフモフさせろ~♪」

 

≪きゅめ~≫

 

ルルの『仕方ないなぁ』みたいな声音を訊きながらもモフモフふかふかに顔を埋めて暖かな日差しの下でお昼寝を敢行した。寝て起きて飯と薬をキメたら明日には全快でしょ!

 

 

 

お花畑でぬいぐるみチックな羊を抱いて寝ると宣言して直ぐに気持ち良さそうに寝息を立てるビアーを見てレツ達はそれぞれ苦笑を浮かべるしかなかった。今でも視線を戦場となっていたクレーターの方向に向ければドラゴンのブレスの残り火が煙を上げている様子が垣間見える。一人と一匹で戦争規模の闘争を繰り広げたその片割れがこの無警戒に眠っているように見える少女だとは、念を使えない者であれば言われても信じないだろう―――仮にその目で見た者でも信じるより先に己の正気を疑うかも知れない

 

「全く、気持ち良さそうに眠っちゃって。多少塞がってると言ってもまだまだ重傷なの解ってるのかしら?」

 

「あはは・・・ビアーにとっては『沢山運動したから寝る』くらいの感覚だったのかもね。ほら、遊びで怪我しても満足感が有ればぐっすり眠れたりするものだしさ」

 

「あれが遊びや運動って規模かよ?それにそんなガキみてぇな理由で・・・そういやまだまだガキだったな。クソっ、今日だけで俺の中の常識ってやつが完璧に崩れ去りやがったぜ」

 

三人は雑談をこなしながらも朱いスズランを煮沸したりすり鉢で磨り潰したりといった作業を経て1時間程度で薬を完成させる。もっと専門的な機器や手順を踏めば効能を引き上げたモノやそれぞれの効能に特化したモノも調合出来るのだが野原で造れる物には流石に限界がある

 

それでも市販の薬などと比べても数段上の効果が見込めるのだから朱いスズランの有用性も分かろうと云うものだ

 

「それでレオリオ。奇しくも目的の物を見つけ出した訳だけど貴方はこれから如何するのかしら?念が関わるからハンター協会経由だけど、このスズランを朱くする方法だけでも売ればかなりの儲けになるはず・・・でもまだまだ検証が必要な事も事実。他のスズランでも可能なのか?私とレツが変化させられなくてビアーが出来ていたのを見れば判るだろうけど念にも血液型の違いみたいに種類があるから他のタイプ(変化・放出・特質)ではどんな反応を示すのか?細かい事を言い出せばキリがないわ―――それでも詳細なレポートを纏めて提出する事が出来れば将来的に貴方に入るお金も跳ね上がる。このスズラン探し、代表はレオリオよ。成果を発表しないとか言い出さない限り決定権は貴方に有るわ」

 

「・・・・・いや、町に戻ったら今解ってる情報だけでも売り払う事にするさ。金は魅力的だが俺は別に研究者って訳でもねぇし、研究するにも念とやらの習得が必須なんだろ?俺がそれを覚えるには結局プロハンターに為らなきゃいけねぇともなればレポートを纏めるだけでも年単位の時間が掛かるかも知れねぇ。それだけの時間お前らに待ってもらう訳にもいかねぇし、ハンター試験に合格したなら医大に向けて勉強しようと計画してたんだ。専門家にでも後を任せて目先の金を手に入れられたら十分ってなもんよ」

 

「あらそう?ここ数日でも貴方が金にがめつい性格をしているものと思っていたのだけど」

 

「喧嘩売ってんのか!・・・別に金の為にハンターに成ろうとしたのは事実だが、正直スズランの報酬だけじゃ片手団扇の生活にも届かねぇだろうからな。予想よりは金が入るんだろうが、元々の方針を変える程じゃねぇよ」

 

レオリオは口にしなかったが彼はビアーの常人では考えられない自己治癒力を目の当たりにしている。今までの彼なら仮に今日手に入れた金額が目も眩むような大金だったならハンター試験受験を辞退していただろう。だがザックリとでも念の存在を知った今のレオリオは医者を目指す上でプロハンターに為らない=念を覚えないという方程式は存在しなかった

 

(念ってのが他人の治療にも役に立つのかは分からねぇが、俺の目的の為にもハンターライセンスはまだ必須だからな。まずはハンター試験に合格して念とやらの内容を識るところからだ。役に立つようなら覚えても良いし・・・いや、もしかしたら治療に使えなくても金儲けに使える力とかも有るかも知れねぇし?プロハンターが世界一儲かる職業ってのもまさかそういう事か!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!一度で良いから札束の風呂に入りてぇええええええええ!)

 

勘違いしてはいけない。彼がお金が欲しいのは亡き親友が高額治療を受けられなかった悲しき過去から同じような境遇の人間に『金なんか要らない』と言える医者になる為で札束の風呂も9割はそんな医者としての活動に消えるだろう・・・残り一割は酒や車や豪邸に消えるのだろうが、欲望に忠実なことこそが彼の原動力なのだろう。実際にそれだけお金を稼げるか如何かは別問題だが

 

(やっぱり買うなら最新のフェラーリとかか?いやいやレトロな味のある高級外車ってのも乙なもんだよなぁ。家を建てるならでっけぇ窓ガラスから景観を愉しみてぇし風呂もジャグジー機能は付けてぇしサウナも最高だ。火照った体にバスローブを巻いて高級ワインを一口。ああそうか!デカイ家なら家政婦は必要だよな。可愛い女の子にミニスカメイド服着せてお仕事させるとか・・・給料と契約によってはご奉仕の内容も一段階過激なものに!うぉおおおおおおおおおおお、やったるぜぇえええええ!!)

 

勘違いしてはいけない。彼の一番の想いは医者としての活動なので今のはあくまでも超が付く大富豪となった場合の妄想だ・・・彼は程々の収入程度が一番良いのかも知れない

 

「やっぱりレオリオさんってお金の話題になると大抵そのままだらしない顔になるよね」

 

「そうね。ホントに医者になりたいと思ってるのかしら?・・・妄想(あっち)の世界に飛び立ってるみたいだし、今の内にビアーを起こしましょうか」

 

レオリオが二人に白けた視線を向けられているのにも気づかない中、仮眠を取っていたビアーを起こした二人は出来上がった煎じ薬をビアーに飲ませるとまだ日は高いが野営の準備を始める

 

目当ての物は見つけ出したので直ぐに帰路に就く意見も有ったがビアーの回復力を思えば下手に急いで町中に戻るよりは人気のないこの場所で一日過ごし、怪我の大半を治してから移動した方が負担も少ないとの判断からだ

 

「う゛~、お腹空いた~。頭に血が通ってなくてクラクラする~。頭とか服の隙間に砂が絡んでゴワゴワする~・・・ポンズ姉ぇ~水浴びしてきて良い~?」

 

「今日は早めに食料の大半投入してガッツリ作ってあげるからもう少し我慢しなさい!水浴びもせめて夕食を食べた後に決まってるでしょ。傷を塞ぎなさい傷を!」

 

「ビアー。ボクの分のオヤツのカロリーメイトで良かったら食べる?」

 

「食べる食べる~♪」

 

「・・・完全に脳みそが思考(理性)を放棄してるね。ビアーは弱ると甘えん坊になるタイプなのかな?」

 

渡されたカロリーメイト(チョコ味)をリスのように齧っているビアーを見たレツは無意識にビアーの頭に手が伸びてゆっくりと撫でる

 

「もむもむもむもむ・・・」

 

気分は小動物のペットを甘やかしているような感覚だ。今この時は自称もといビアー称の彼女ら三姉妹設定の次女と三女の立場が逆転した瞬間である

 

そんな中、遠くの空からアリスタが自身より一回りは大きい(イノシシ)を抱えて飛んできた。首後ろに大穴が空いているところから上空からの一突きであった事が窺える。喉まで貫通しているので運んでいる間に血抜きも進んでいるようだ

 

「お疲れ様・・・うん、ちゃんと毒を使わずに仕留めてあるわね。どうせ明日には帰るんだから今夜のあなたのご飯も奮発しておくわ。二人とも私はちょっとこの(ご飯)を川で解体してくるわね」

 

≪スピッツ!≫

 

「うん。調理器具とか準備しておくよ」

 

「・・・俺の中の常識が崩れ去っていくぜ」

 

アリスタに労いの言葉を掛けて早速とばかりに猪の死体を連れて最寄りの水場に足を向けるポンズにレオリオだけが疲れたような声を零すのだった

 

 

 

閉じていた瞼越しでも届く朝の白んだ世界の色を感じ取って目を覚ますと焚火の傍の丁度よさげな岩に腰かけたレオリオが目に入る。そう言えば昨夜は寝ずの番はしなくて良いと言われて皆のご厚意に甘え、ぐっすり眠る事にしたんだっけ?

 

「(お!起きたのか・・・もう朝だぜ。体の調子は如何だ?)」

 

丁度寝ずの番の順番の関係で起きていたレオリオがまだ眠っているレツとポンズの手前小声で体調を尋ねてきた

 

「ん~・・・うん。深めの傷も8割方治ってるかな?裂傷とかならお昼過ぎには治るんじゃないかな。両足も歩く程度は問題無さそうね。念有りならジョギングまでなら負担も掛からないと思う」

 

私の言うジョギングは短距離走オリンピック選手くらいは有るかもだけど

 

「相変わらず訳が分からねぇな・・・熱っぽさとかは如何だ?」

 

「それも無し!怪我以外はすこぶる万全だね」

 

元気ですよアピールしている内にレツとポンズも起きだしたので皆で朝食を食べると出発の準備をし、今持てる分だけの朱いスズランを包みその場を後にする

 

この場所まで数日掛けてやって来た私達だけど、それはスズラン探しをしながらの話なのでレオリオを含めても暗くなるまでには十分町にも着けるでしょう

 

「―――でもその前にあのドラゴンと出会った洞窟まで戻りましょうか。戦場全体の被害を把握しておきたいし、重しも回収しておきたいしね」

 

「マジか。この状況で重しまで回収すんのかよ?」

 

「ポイ捨て放置するには少しアレな代物だしね。それと何か少しでもあのドラゴンの事が解るものが残ってないかって・・・まぁ初手で洞窟ぶっ壊したから望み薄だけど、だからって探索ゼロで帰還するもの変な話じゃない?」

 

ガッツリ捜索する訳じゃないと言えばレオリオも強く反対する理由も無かったようなので早速向かう事にした

 

『堅』や『円』は流石に二人に怒られちゃうかな?仕方ない、今日のところは大人しく『練』で顕在オーラの向上だけを意識しますか

 

私の分の荷物は持とうとする前に三人に奪い去られてしまったので少し手持ち無沙汰な気持ちのまま昨日戦った場所に近づいて行くと水の音が響いてきた

 

近場の水場なんてポンズが猪を解体した上流の川くらいだったはずよね?そんな疑問を持ちつつ森を抜けると昨日のクレーターの中心の辺りから水が湧き出ていて、未だクレーターの10分の1程の水量だがその場所は湖に変貌しつつあった

 

「わ~!そりゃ昨日あれだけ地面を掘り起こしたからねぇ。水脈の端でも傷つけたかな?それに地面も焼き固められて水を逃がし難くなってるところが多いし、これは本格的に湖になるね。溢れる水もこの辺りは微妙に傾斜になってるから近くの川にその内合流するかな?」

 

森を掻き混ぜて焼いたようなものだから土の栄養もタップリ。種子さえ飛んできたなら水草とかもすぐに根を張るかもね

 

「人間って喧嘩すると湖が出来上がるんだな・・・知らなかったぜ・・・」

 

「安心しなさいレオリオ。ビアーは例外中の例外だって他のトッププロをよく知らない私でも断言できるから」

 

「あははは♪そんな事ないよ。少なくともネテロ会長なら同じことが出来るはずだよ?破壊力に特化した人とかならトップ層の人ならワンチャン有ると思うし」

 

ネテロ会長程とは言わなくても十二支んかそれに近い実力者で物理ゴリ押し能力を持っていれば可能性は十分有ると思う。破壊力の有る固有能力を持たないはずの具現化系のミザイストムさんだって2~3日頑張ればこれくらいは出来るだろう・・・まぁ穴掘りに専念したらの話だけど

 

「ハンター協会の長の名前は十分例外の範疇に含まれると思うよ。それにビアーの言うトップ層って本当に上澄み中の上澄みの人達の事を指してるよね?」

 

う~ん。確かに私って十二支んの戦闘とか原作でも見た事無いし、十二支んに近い実力を持つであろう煙オジサン(モラウ)ハゲスーツの人(ノヴ)ってサポート&テクニックタイプだから如何しても基準が幻影旅団の筋肉ダルマ(ウボォーギン)ボクサーミイラ(ボノレノフ)の必殺技になっちゃうんだよね

 

後はゾルディック家当主とか?キルアのお爺さんのあの巨大な龍の念を地面でのたうち回したなら広範囲の穴掘りの速度は随一かも知れない。やったねゼノさん!念能力者一の穴掘り師の称号はゼノさんの物だよ!・・・その内奪取させてもらうけど

 

幸いあの洞窟近辺は私とドラゴンの戦闘域から少し外れてたのでそちらに向かって歩き出す

 

「ん?」

 

移動し始めてから10歩も歩かない内に微かな・・・本当に微かな視線を感じて足を止めた

 

「あれ?行かないの、ビアー?」

 

前を歩いていたレツが振り向き他の皆も足を止める

 

念を習得している二人でもこの視線は気付かないか。確かにコレは単に気配を『絶』ってるだけじゃなくて自然のオーラに意識まで紛れ込ませて存在を希薄にしている・・・以前世界樹の天辺で出会ったジンさん程じゃなくてもかなりの使い手だ。てか以前ジンさんと出会った経験で気配を絶つには精孔さえ閉じれば良い訳じゃないって学んでいなかったら気付かなかったかも

 

この世界って幻影旅団を追跡していたゴンとキルアが『絶』状態でも存在自体は気付かれてたように『絶』が完璧なだけじゃ2流とまでは言わないけど精々1.5流くらいなんだよね。そう考えたら今こっちを視てる人(?)は間違いなく1流だ。なんだったら昨日のドラゴンとの戦闘の余韻でまだ感覚が研ぎ澄まされてる状態じゃなかったら見逃してたかもってレベルだ

 

さて、如何しようかな?何処にいるのかはまだ分からないけど、向こうがこっちを注視している状態でいきなり『円』を使ったら向こうに敵対する気が無かったとしても脱兎の如く逃げ出すかも知れないんだよねぇ。下手に騒がれても困るし・・・まっ、所属を明らかにするのが一番手っ取り早いか。絶対向こう私の『練』を見て警戒してるだろうし、ダラダラ観察されて喜ぶ趣味も無い

 

かなり大雑把だけど方向に当たりを付けて息を吸い込むと大きく喉を震わせる

 

 

「すみませ~ん!こっちはプロハンターですけど、なにか御用ですか~!!」

 

 

いきなり叫んだ私に皆は一瞬目を白黒させるけど、叫んだ内容が脳に浸透したら一気に臨戦態勢に入った。向こうは並の使い手じゃないみたいだけど『絶』の巧みさだけじゃ戦闘力までは正確には測れないんだよね。それでもレツのピー助という手札が増えた今は例えこの相手が敵対的な悪人だったとしても逃げるくらいは余裕だ。もしもの時はドラゴンの餌となるがよい

 

少し待ってるとこちらを刺激しない為か敢えて気配や足音、森の葉などの擦れる音を隠さないで誰かが近づいてきた

 

「警戒しなくて良い。私もプロハンターだ。昨日この近辺で連続した爆発音や山火事のような煙が昇っていると報告が在ったため、非合法の武器工場やテロリスト同士の抗争が起きた可能性も踏まえて調査に来た者だ」

 

森の陰から姿を現したのは身長(タッパ)2メートルは超えている武人然とした歌舞伎男。ご立派なカイゼル髭に・・・あの髪型は何なんだろう?ツインテール?でも他はハゲてるしツインテールハゲ?てかこの人ってもしかしなくても―――

 

「私は十二支んのボトバイ・ギガンテだ。君たちの事情を聞かせて貰いたい」

 

Oh・・・これで四人目とか十二支んとのエンカウント率高いなぁ。それはそれとして―――

 

(ドラゴン)はもうお腹いっぱいなのでもう帰って良いですか?」

 

「なにを言っているのか判らんが、ダメに決まっているだろう!」

 

 

 

 

 

 

―――叱られてしまった。やっぱダメか

 




今回の闘いはギリシャ神話の英雄がドラゴン(大蛇とも)と戦って勝利した時に朱いスズランが英雄の傷を癒した神話を下敷きにしました
ピー助の名前は同じくギリシャ神話のピュートーンから取ってます(レツは直感で名付けました)・・・他のドラゴンって上半身人型だったり頭が100つ在ったりばっかでなんか違うと感じたので。英雄が闘ったとされるドラゴンは名前検索しても出てこなかったんですよねぇ
ボトバイはノリで出しました。特別な役割とかは今は考えてませんww
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。