毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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や、やっと書けた・・・寝る!


くじら島と探検

くじら島へ向けて旅立った私達だけど、当然『島』を目指す以上は近場の港町へ足を向ける事となった。途中3つ程小さな町や村を経由して海の独特な潮の薫り漂う場所までやって来てくじら島へ向かう定期船の手配を済ます

 

くじら島は漁民が漁をする際の一時的な拠点として使われているので純粋な島民は少ないんだそうだ。年がら年中豊富に魚が獲れるって訳では無いって事かな

 

人が少ない代わりに自然は豊かなので畑仕事や漁、他の漁船の獲って来た魚の仕分けの手伝いなどで小さく経済を廻しているらしい。収入が少ない代わりに食料とかも安い感じだ

 

私達の他に数人しか乗っていない小さな定期船に乗り込むとゆらゆらと波に揺れる船体や近くを飛ぶ海鳥などの景色を楽しむ。なんだかんだでずっと陸路だったから水の上は少し新鮮だ。ルクソ地方に赴く際は飛行船には乗ったけどそれはそれ、これはこれだからね

 

ハンター試験の三次試験でモーターボートにも乗ったけど、あっちは遊覧って感じじゃ無かったし

 

「ねぇビアー。さっき船に乗り込む前に誰から電話が来てたの?」

 

適当に雑談していたところでレツがふと気になったのかそんな事を聞いてきた。確かに電話を貰ってたのよね。ハンターたるもの中には守秘義務とかも有るけど今回はそれほどのものでも無い

 

「ボトバイさんだね。発掘調査(仕事)は終わったけど結局ドラゴンの事は不明(成果なし)だったんだってさ。まっ、アレだけ派手に壊れてたからねぇ・・・一応洞窟の奥に人の手が入ってた痕跡は見つかったらしいけど、注意深く探ってもオーラの残り香(怪しい感じ)も無しって話みたい」

 

電話での話し合いだったから少し迂遠な言い回しをしないといけないのが少し鬱陶(うっとう)しい

 

他にも少し話したけど、それだけだ。ボトバイさんとは雑談に花を咲かすような間柄とは言えないからね―――てか生真面目キャラだし

 

「ピー助の事が少しでも分かれば良かったんだけど、そんなに上手くはいかないもんだね」

 

確かにあのドラゴンの制御法とかが見つかれば最高だったかな。ピー助にも使用ないし応用出来たかも知れないし・・・アレを制御出来たとも思えないけど

 

「アンタ達。話し込むのも良いけど目的地が見えてきたわよ」

 

ポンズの声に釣られて船首の方に顔を向けると確かに遠くにクジラのような輪郭の島が見え始めているところだった。人間でいえば頭頂部に見える箇所に有る噴気孔の場所からは断続的に煙が上がり続けている・・・アレって比較的浅い所にマグマでも通ってるのかな?

 

漁民が出入りする島というだけあって近づくと多数の漁船が見えてきた。島の中で港兼町と呼べるのはクジラで言えば尻尾と胴体の間くらいの場所で、そこに船が停泊すると私達は連絡船を降りた

 

「お~!ここがくじら島か~!」

 

やっと到着だ。ここが始まりを告げる獣であるクジラの名を冠するくじら島!・・・まぁそんな伝説調べても無かったけどトガ神って割とクジラ好きよね。時折引き合いに出されるし

 

なんにせよ、こうして自分の足で降り立つと少し感慨深いものを感じるわね

 

「はいはい、万歳してないで先ずは宿を探すわよ」

 

「了~解」

 

と言ってもくじら島は基本的にこの港町が住民の住宅のほぼ全てだ。畑とかも有るから管理の為に多少離れた場所に住んでいる人とかも当然居るけど、殆ど手付かずの大自然は一般人にとってはそれなりに脅威なので猪とかを狩る猟師は少ないらしい。この島に生息するキツネグマはそこらの普通の熊より数段知能も力も高いし、森を拓いたところでこの島は基本的に斜面が急なので畑として活用するのも難しい。だから自然と『猟』ではなく『漁』に比重が傾いたんだと思う

 

今も沢山の人達が獲って来た魚を仕分けしている姿が見える。主婦らしき人達はこの島に住んでる人かな?取り敢えず適当にそこそこに手が空いてそうな人に声を掛けるか

 

「すみません。この島の宿屋って何処にありますかね?」

 

「宿屋?嬢ちゃん達、ひょっとして観光客かなんかかい?この島に宿屋なんて無いよ。基本は民泊だからな。普通この島に嬢ちゃん達みたいなのは来ないからデカい宿なんて建てても漁のシーズンから外れりゃ維持費だけでも金が飛んじまうんだ。なら小さい宿屋をシーズンに合わせて細々と経営するかっつったらそりゃあもう民泊と変わらねぇだろう?」

 

Oh!マジか。そっか、普通の人からしたら見るべき所が何も無いんだ。森は危険な上に急斜面だし、唯一人の集まる此処は魚の生臭さで溢れてる上に街灯すらも無いから日が暮れればすぐに活動出来なくなる上に百万ドルの夜景とは程遠い精々数百ジェニー程度のご近所の民家の灯りをプレゼント・・・うん。宿屋なんて経営しないよね!

 

「えっと、じゃあ誰か泊めてくれる人に心当たりとか有りますか?」

 

「そうだなぁ、大体何所も知り合いの家とかに泊めてもらうのが多いから半ば固定客なんだよな。それに賑わってる今の時期に空いてる家が有るかどうかまではちょっと俺には判らねぇな」

 

そうなると地道に聞き込みを続けていくしかないかな~?可能ならベッドの上で寝たいもんね

 

「有難うござ―――」

 

「お~い、お前らぁっ!このお嬢ちゃん達が泊まれる所探してんだとよ~!こんな何も無いような島に態々観光に来てくれた人達に「家に来いよ」って言える奴に心当たりとかねぇか~っ?」

 

丁寧に事情を話してくれたオジサンにお礼を言って立ち去ろうとしたら大声で仕事をしてる人達に私達の事を宣伝し、島民や漁民の視線が一斉にこちらを向くとアッと言う間に囲まれてしまった

 

全員知り合いですか、そうですか

 

「へぇ~、こんな若い嬢ちゃん達が立ち寄ってくれたとは嬉しいねぇ。でも俺の所は男所帯でキツキツだから厳しいなぁ・・・いっそアイツ等今すぐ追い出すか?」

 

「聞こえてんぞ馬鹿野郎。それと俺らを追い出してこんな可愛い嬢ちゃん達を連れ込んでみろ。明日からお前の渾名はムッツリだ。それで済めば良いがな・・・まっ、俺たちが済まさねぇが」

 

「御免ねぇ、私の家も空いてないのよ。そうだ!ネズハさんのお宅なんて如何かしら?」

 

「おお、ここ数年は娘のノウコちゃんがまだ小さかったから民泊をしてなかった分、両親揃って割増しで働いてたからな。このお嬢ちゃん達なら歳も然程離れてないし、良いんじゃないか?」

 

「ナーバラん所か。アイツはまだ沖に居るが、奥さんは今日は非番だったな。よし!休憩ついでだ。俺がこの娘たち連れてって紹介してみるぜ。アイツ何っ時も奥さんに頭上がらねぇって言ってたからな。ナーバラの許可は要らんだろう」

 

「酷ぇなぁ、ナーバラが聞いたら泣くぜ?」

 

「ちげぇねぇ」

 

「『あははははははははははははははははははっ!』」

 

私達は一言も喋ってないのに何かとんとん拍子に話が進んでしまった。仲良しグループか!

 

結局最初に声を掛けたオジサンが私達でも泊まれるかも知れないって家に案内してくれた

 

そうして赴いた家で玄関から出てきたのは茶髪というかオレンジ・・・いや、橙色の髪の毛をした女性とその後ろに少し隠れるように引っ付いている同じ色の髪をおさげにした女の子だ。この二人がネズハさんと娘のノウコちゃんなんだろう

 

「そういう事ですか。私は構いません。元々そろそろ民泊も再開しようと思っていたところなので、この子にもお客さんが家に泊まるという状況に慣れて貰えるには良い機会です」

 

「急に押し掛けたようなものですのに受け入れて頂いて有難うございます。私はポンズ。後ろの二人はビアーとレツで色々と旅をして廻っています」

 

「あらあらご丁寧に。これなら本当に何の心配も要らないわね。ほらノウコ、挨拶なさい」

 

「は、初めまして。ノウコ・・・5歳です」

 

年長のポンズが挨拶をしたら取り敢えず好意的に受け入れてくれたみたいで、ノウコちゃんの挨拶に私達も膝を折って出来るだけ目線を同じ高さで自己紹介を返す

 

「早速部屋に案内したいところなんですが、普段あまり使って無かった部屋と言っても荷物を退かしたり布団を用意したりと準備も有りますので夕方までには整えておきますね。ノウコ、手伝ってくれる?」

 

「は~い♪」

 

そんな訳で時間になるまで私達は港町とその周辺の構造を把握する為に歩いて回り、太陽が水平線に沈んでいく中、またあの家に戻っていった

 

私達が再び玄関の戸を叩くとノウコちゃんが出迎えてくれて奥には昼前には居なかった男の人も居た。多分あの人がネズハさんの尻に敷かれてる一家の大黒柱であるナーバラさんなんだろう

 

「久々のお客さんだから張り切って作っちゃったわ」

 

この家では三食食事付きだ。勿論その分割増し料金だけど

 

やはりと云うべきか魚介類を中心にした料理に舌鼓を打ちながら会話に花を咲かせていく

 

「へぇ、三人で色々な国を旅してる途中なのね」

 

「ねぇねぇ!お姉ちゃん達は何所で出会ったの?何時友達になったの?どんな所を旅してきたの?教えて、教えて!」

 

「ノウコ。そんな一遍に訊いたらこの娘たちも困ってしまうだろう?質問は順番に一つずつな」

 

なんでもこの島にはノウコちゃん以外の子供はもう一人男の子・・・十中八九ゴンだけらしく、殆ど島の外に出た事も無いノウコちゃんは瞳をキラキラさせながら旅の話を聞きたがった

 

そこで話せる範囲で話していくと途中で待ったが掛かった

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。ゴロツキを倒したりと言うのでも十分驚きだったんだが、天空闘技場でも闘ったって云うのはキミが新しくフロアマスターになったあの・・・?」

 

「ああ、はい。それは私ですね。ほら、ハンターライセンスも有りますよ」

 

ライセンスを取り出すとナーバラさんは頭が痛そうに抑えている。ちょっと衝撃が強すぎたかな?

 

「なら、ユール国宝館から盗まれたお宝をマフィアを潰して取り戻したと言うのは?流石にアレは軍や警察と連携して攻め込んだんだろう?それで首謀者を捕まえたのがキミ達だから―――」

 

「いえ、私達だけで全員張っ倒しました・・・と言うかよくそこまで知ってましたね。地方の新聞ではそこまで詳しく載ってないと思ってたんですが」

 

「余り娯楽が無い町だ。新聞やテレビのニュースは皆結構細かいところまで目を通してるはずさ。『今朝のニュース、如何思う?』なんてこの町じゃ挨拶みたいなもんだからな」

 

ゲームセンターどころか公園の一つも見当たらなかったですもんね

 

食事が終わってからレツがお礼にと軽い人形劇を披露した御蔭でノウコちゃんのハートはガッツリとゲット出来たみたいだ

 

明日はノウコちゃんが私達に港町の外を案内するんだと息巻いてしまい、ナーバラさんとネズハさんは困り顔となってしまった。そりゃ私がプロハンターだと知っても噂を聞いただけみたいなもんだし、実際私もまだ12歳の子供だしね

 

ここで案内なんて必要ないと言うのは簡単だけど、絶対にノウコちゃんが泣き顔になる未来が見える。今この場に居るノウコちゃん以外の共通認識だ

 

「だったらフリークスさんのお宅に電話してみるわね。ゴン君ならこの島の事は多分一番詳しいし、ノウコの面倒も見れるから」

 

お!ここでフリークス家の名前が出るか。そりゃ今日会ったばかりの私達より島民によく知られてるであろうゴンの方が信頼度高いよね

 

「え~!私だって案内くらい出来るもん」

 

おおっとぉ!ノウコちゃんが自分の仕事が盗られたと思ったのかムスッとした顔になってしまった。このままじゃノウコちゃんの機嫌が急転直下して拗れ兼ねない

 

「だったらノウコちゃん。案内じゃなくて探検に行かない?」

 

「探検?」

 

「そう。この島の子供はノウコちゃんとそのゴンって子だけなんでしょ?そこに私達も加えて子供探検隊を組織しよっか。探検の目的は皆でこの島の事をもっとよく識る事!ノウコちゃんがまた誰かを案内する時が来たらもっと完璧に仕事を熟せるようにね。知ってる?仕事の出来る女の子ってカッコイイんだよ?」

 

「子供探検隊って貴女ねぇ・・・」

 

「あはは、ご愁傷様・・・でもポンズだって大人とも言えないでしょ?」

 

誰かが先頭に立つ案内じゃなくて皆で探検するという方向に意識を持って行って、最後に出来る女の子に繋がるアピールで止めを刺す。まぁゴンなら今更探検も何も無いだろうとか無粋な事は言わない。今年で16歳のポンズには引率の先生気分で参加してもらおう。因みにレツの年齢は私の一つ下って設定で役所に届けている

 

ノウコちゃんも探検隊という同じ目線の仲間って肩書に惹かれたのか笑顔で了承してくれた

 

ノウコちゃんが席を外したところでネズハさんから軽くお礼を言われた

 

「御免なさいね。娘の我儘に付き合わせちゃって」

 

「構いませんよ。一期一会。人との縁を大切にするのも旅を彩るスパイスです。それに小さな子に懐かれて悪い気もしませんしね」

 

「・・・ビアーちゃんって12歳なのよね?」

 

ピッチピチの12歳ですよ。そこは本当だからそんな目を向けないで下さい―――「老成?いえ、枯れてるのかしら?」とか聞こえてるんですよ!

 

 

▽ 

 

次の日、ノウコちゃんに連れられた私達は港町から離れた丘の上に建つ一軒家を訪れていた。流石にこの島の子供だけあってかノウコちゃんも普通に小走りで登りきるんだから凄いもんだ。私も同じ年の頃は近くの野山をオリンピック選手とまではいかないが学生王者くらいのスピードで駆け回ってたっけ?次の年にはオリンピック選手レベルにも為ってた気もするけどまぁ念だからね

 

「ゴンお兄ちゃ~んっ!!来たよ~っ!!」

 

ノウコちゃんが玄関の戸を叩くでもなく大声でその名を呼ぶと家の二階部分の窓が開いて良く見知った(初めて見る)ツンツン頭の少年が顔を出した

 

「今行くよ~!―――(タタタタタッ)〈ミトさん。行ってくるね!〉〈危ない場所に近づいちゃダメよ〉〈は~い!〉

 

階段を下りたゴンとゴンの叔従母(いとこおば)で母親代わりのミトさんのやり取りが聞こえた後で玄関が開かれていよいよゴンと対面した。玄関が開いた時にミトさんの姿も少し見えたけど今回は軽く会釈する程度でまた直ぐに見えなくなった

 

「初めまして!俺、ゴン。ゴン=フリークスって言うんだ。宜しく!」

 

表裏の無い溌剌(はつらつ)とした挨拶だね。声音からそれが伝わって来る

 

こっちも自己紹介をした後は港町周辺の畑とか海岸の崩れやすい所の注意とか釣りスポットとか、本当に細かい情報まで含めて色々と案内して貰った

 

そうして町からそれなりに離れた辺りで一旦立ち止まってもらう

 

「如何したの?もしかして疲れちゃった?」

 

「ううん。そうじゃなくて、二人に紹介したい子達が居てね。宿ならコッソリ連れ込めたんだけど民泊じゃそうもいかないから町の外で待ってて貰ってたの―――ルル~!アリスタ~!」

 

私が森の方に呼び掛けると少ししてからこっちに飛んできた。ルルは出来るだけ遠くで顕現させてからさも2匹が同じ場所から来たかのように見せ掛ける小細工付きだ

 

ルルとアリスタがポンズとレツの腕の中に抱かれたところで再び紹介タイムだ

 

「こっちの金の羊がルルでこっちの緑の蜂がアリスタだよ・・・ルルはまだしもアリスタは普通の人にはちょっと怖いからね」

 

流石にメートル級の蜂を連れ込んで民泊をお願いしても無理って言われると思うし、ルルだって少しアレな話だけど特に排泄物の心配をされるでしょう。念獣なので問題無しとか言える訳ないし

 

ルルとアリスタに対してゴンは案の定と云うか直ぐに近寄って「宜しく!」と挨拶してたけど、意外な事にノウコちゃんも臆せず近づいて来ていた・・・って、アレはルルに目を奪われてるだけね

 

確かにルルは特に女の子受けする見た目してるから当然と言えば当然なのかも知れないけど、その隣のアリスタが気にならなくなるレベルとは恐れ入ったわ

 

元々大自然に囲まれた環境で育ってるからある程度危険生物への耐性が付いてたのかな?

 

「だってずっとお姉ちゃん達と一緒に旅してたんでしょ?だったら怖くないよ」

 

アリスタも含めて本当に平気かと訊いたらそんな風に返されてしまった。う~む、子供は無邪気だ

 

「改めて全員揃ったところでそろそろお昼にしよっか。歩き続けてノウコちゃんも疲れてるだろうし・・・ゴン、そんな訳だけどあの見晴らしの良さそうな山まで行ける?ノウコちゃんは私が負ぶって行けるからさ。今回はノウコちゃんのお母さんにお弁当も人数分持たされてるし」

 

お弁当と言っても形が崩れにくいものが中心だったけどね

 

「うん、山肌の出ている所の一番下辺りなら大丈夫。流石に火口近くまで行ったら後で俺が怒られちゃうからね」

 

最初は遠慮がちに私に背負われたノウコちゃんだったけど、極力振動を与えない動きでピョンピョンと飛び跳ねてみせたら直ぐに楽しそうに笑ってくれた

 

ゴンも私の動きを見て気を遣う必要は無いと判ったようで、そこそこの速度で森の間を縫うようにして山頂付近までの道を案内してくれた。時折少し遠回りもしてたけど『円』で地形を把握してる私としてはゴンが出来るだけ走り易いルートを選んでくれてるのが理解出来た

 

「凄いや!俺以外で山を駆け上がれる人って居なかったからビックリしたよ!」

 

目的地に辿り着いた時のゴンの第一声がこれだ。そりゃ必要不必要以前に出来る人は居なかったのかもね。この世界ならくじら島に出入りしてる漁師の中には一人くらいは居たかもだけど、山を駆け上る事なんて無かったはずだし

 

「とーぜんでしょ!ビアーお姉ちゃんは”ぷろはんたー”なんだから!」

 

地面に下ろしてあげたノウコちゃんが何故かゴンに自慢するように胸を張る・・・絶対に昨日の両親の反応から”なんか凄い”位にしか分かってないわね―――ニュアンスで解る

 

普段見上げてばかりであろうゴンに何かを教えられるという体験が(すこぶ)る気持ち良いらしい

 

「え!ホント!?ホントにビアーってプロハンターなの!!?」

 

でもこうしてゴンが喰いついてくれたからグッジョブだよノウコちゃん。フリークスの家名が有るとは云え、実際如何切り出すか迷っていたからね

 

「ねぇ、ビアーがプロハンターならジンって人の事は知ってる?ジン・フリークス」

 

「勿論知ってるよ。私が旅を始めて最初に世界樹の天辺に登ったんだけど、そこで偶然出会ったからね。今回くじら島へ来たのもジンさんとの雑談の中でくじら島の名前が出てたからちょっと覗いてみようってのが理由だったし」

 

「親父と出会ったの!?どんな人だった!?」

 

ジンさんと直接会ったと言えば更に喰いついてきたけどお昼を食べながら話す事にして少し落ち着いてもらい、お互いに情報交換をした

 

ノウコちゃんはいっぱい歩いてご飯も食べたから少しうつらうつらしてたので膝の上に座らせて上げると程無く舟をこぎ始めた

 

「俺を育ててくれたミトさんからは親父は事故で死んだって聞かされてたんだけど、ある日カイトって親父の教え子の人が親父の手がかりを求めてこの島にやって来たんだ」

 

ゴンはキツネグマに襲われたのを助けてくれた時に偶々ジンさんがまだ生きてる事を知った事。カイトがジンさんの弟子で一人前と認めて貰う為にジンさんを探し当てようとしてた事。カイトからジンさんが凄いハンターだと教えて貰った事を話してくれた

 

「後で気付いたんだけど、キツネグマから助けてくれた時にカイトがハンターライセンスを落としていったみたいでさ。何時かちゃんと返したいとも思ってるんだ」

 

ゴンが懐から朱いハンターライセンスを取り出して見せてくれた。ハンター試験の仕組みとか知らない上に『一人前と認めてもらう為』とか聞かされてたら勘違いするのも無理はないわね

 

「ゴン。多分そのカードの持ち主はそのカイトって人じゃなくてジンさんだよ」

 

「え?そうなの?」

 

「プロハンターにも階級みたいなのが在ってね。普通のプロハンターが最初に渡されるライセンスがこのカード」

 

私も懐からノーマルのハンターライセンスを取り出してみせる

 

「で、その上に一つ星(シングル)ハンター、二つ星(ダブル)ハンター、三ツ星(トリプル)ハンターと続くの。ジンさんは二つ星(ダブル)ハンターだし、ほらココ。裏面に通し番号が有るでしょ?これの下三桁は第何期のハンター試験の合格者かを表してるんだけど、私のが第286期でこっちは267期。19年前に合格して二つ星(ダブル)の称号まで持ってるハンターが今更師匠に認めてもらうとかしないでしょ。なんでカイトって人がこれを持っていたのかまでは分らないけど、十中八九このカードはジンさんのだよ」

 

そう説明しつつカードをゴンに返すと感慨深げにカードを見つめた

 

「これが・・・親父の・・・うん!教えてくれて有難う!」

 

「それにしてもライセンスカード・・・それも二つ星(ダブル)のカードを他人に預けるとか理解不能だわ。普通のライセンスでさえ上手く売り抜けば7代は遊んで暮らせるって言われてるくらいなのに」

 

「確かに好事家に売れば7代どころかその倍は遊んで暮らせるかもね」

 

レツの言う通りだ。倍どころか5倍だったとしても私は何も驚かないわよ。なんだったら10倍でも普通に買い手が付くだろうし、三ツ星(トリプル)の認定カードが一体幾らになるのかとか想像するのも難しいレベルだ。100代くらいは遊んで暮らせそう

 

「―――俺、次のハンター試験を受けて合格したら親父を探しに旅に出ようと思ってるんだ。親父が子供を捨ててまで夢中になってるハンターって仕事を俺もやってみたい」

 

あ~、本当にこの子は特に自分にとっての善悪の関心が薄いなぁ

 

取り敢えずゴンの額にデコピンを一発お見舞いする

 

”バチンッ!!”

 

「あ痛~!!?」

 

「ダメだよ。思うのは勝手だけど、その言い方だとハンター全員が家庭も省みないロクデナシの集団みたいじゃない。その上ゴンも仮に将来結婚して子供が出来ても捨てちゃいますよって今から宣言しているように聞こえるよ。育児放棄は立派な悪なんだから、少なくともゴンも将来そうします!って捉えられ兼ねない表現は避けるべきね・・・もしかして今からそのつもりが有ったりする?だとしたら今からそのミトさんも交えて延々と説教タイムに入るよ?」

 

「イタタタタ・・・御免なさい。結婚とかそんな事までは考えて無かったけど、言い方は確かに悪かったよ」

 

うむうむ。反省しているのなら宜しい

 

「・・・で、捨てるの?」

 

「ん~・・・分かんないや!」

 

”バチンッ!!”

 

「いっっったああああああああああああああ!!?」

 

幾ら実感が湧かないとしてもその答えは如何なのよ

 

「素直なのは良いけど、今の返答は×寄りの△ね。まっ、今回はここまでにしといて上げるわ」

 

いきなり意識改革をしろっても無理な話だし、育児放棄=悪の方程式を子供が出来た時にちゃんと思い出してくれれば十分だ・・・結婚するかなんて知らんけど

 

ゴンが騒いだ事でノウコちゃんの目も覚めたので午前と同じように先ずはグルっと島の周囲を探索していった

 

ノウコちゃんも居る手前、完全に夜の(とばり)が降りる前にノウコちゃんの家に戻るとまた少し困った事になった

 

「やーっ!ルルちゃんもアリスタちゃんも一緒にお家に帰るのーっ!!」

 

今日一日行動を共にしたせいでルルは兎も角アリスタにまでしっかりと懐いてしまったようだ・・・そうだった。この可能性を考えるべきだった

 

私自身幼少時代はさっさと飛び級して学校もほぼ進級テストを受けるだけみたいな感じで小さな子供との交流が最低限だったし、無意識に自分を投影してたかも。話せば分かる的な感じで

 

「俺も一緒に行って話してみるよ。なによりネズハさんとナーバラさんの意見も聞いてからじゃないと意味ないでしょ?」

 

ゴンは一生搦め手とか自分からは思いつかないんだろうなぁ

 

「だったらこんなのは如何かしら?レツ、貴女の出番よ」

 

「? 何か策が有るの?」

 

ポンズの提案の下急遽レツの持っている彫刻刀などの道具で木を削りだしてアリスタの三本の針の先端にぴったり嵌るカップを作る事になった

 

犬とかが人間に噛み付かないようにするアレの蜂バージョンみたいなものだ。確かにコレならば第三者からしてみればかなり安心出来る。アリスタは・・・渋々付けてるわね。なまじ賢いから状況を理解してるのか極端に嫌がったりはしないけど、後で甘やかしてあげよう

 

結論から言えばネズハさんとナーバラさんの許可も下りた。二人とも最終兵器、娘の泣き顔には勝てなかったみたいだ

 

 

 

・・・取り敢えずその日は生贄代わりにノウコちゃんにルルを差し出しておいた




ノウコの両親の名前は適当なのであしからず。一応同じナ行で統一しました。後ノウコやポンズの年齢も適当ですね。なんとかゴンにも強化フラグを建てたいです。具体的には重しとか重しとか重しとか・・・

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