ルルをノウコちゃんに差し出した翌朝、ルルを抱き抱えたままのノウコちゃんがリビングにやって来たところで全員で朝食を食べた。因みに大黒柱のナーバラさんはこの島の漁師なので朝のまだ暗い内に家を出て仕事に向かっているので此処には居ない
「ルルちゃんってとっても良い子なのね。昨夜はノウコと一緒に抱きしめながら眠っちゃったわ」
何時もはノウコちゃんとネズハさんが同じベッドで眠っているところを昨夜はルルを間に挟んで眠たそうだ。分かり味が深すぎると云うかそれを狙ってたんだけどさ
ネズハさんも堕とすと云う成果を上げたところで朝食を食べて今日は私達もそれぞれ別行動だ。ネズハさんは水揚げされた魚介類の仕分けのお手伝いにノウコちゃんはお母さんの目の届く範囲にって事で一緒に港に・・・漁民の人達も全員家族みたいなものでその時々に居る暇な人とかに可愛がってもらえるので危険は少ないんだそうだ。他には通信でお勉強する日も有るみたいだけど、まだ5歳のノウコちゃんは毎日ガッツリ勉強や宿題が有る訳でもないらしい
「ボクとルルは今日はノウコちゃんと一緒に港に向かうよ。邪魔に為らないようにタイミングを見計らって人形劇をするつもり。ボクにはこっちが本職だしね」
「いいね。でも投げ銭の代わりに貝殻飛んできたりしない?水場での仕事でお財布持ち込んでる人は少なそうだけど」
貝殻は昔は通貨の代わりに用いられてもいたからね!・・・流石にそんな原始時代の人は居ないだろうけど
「構わないよ。ああ云うのは気持ちの表れで投げる義務も無いし、ボクもまだまだ修行中の身だからね。切羽詰まってる訳でも無いから経験を積んで腕前を向上させるのが今は一番大事だから」
そう言えばレツの人形劇も最初に出会った時より繊細かつ大胆な動きで人間味の溢れる動きになって来ている。念を覚えて周囲の空気に敏感になった事で要所要所で的確にアドリブを入れたりって感じでね
「私はアリスタと森の奥でこの島の生態調査でもするわ。(念を覚えた)今の私なら調査機関の人達とかが気付かなかった動植物とかも見つけられるかも知れないしね」
無いと決めつけるのは簡単だけど、そんなのはハンター魂じゃないからね
「私はゴンの所ね。昨日別れ際に『ハンターの事、もっと教えてよ』って言われたし、探索の続きをしながらでも雑談は出来るからね」
一通り見て回るだけならゴンの解説付きの案内が有った方が助かるのも事実だし
そんな訳でバラバラに別れて私もこの家の屋根の上に登って潮風を感じながらゴンがやって来るのを待つ―――なんでも女の子の所には男の方から出迎えに行くものだと教わったらしい
ゴンくらいの年齢の子供に教える内容でも無い気がするけど、世間一般の大方の意見には即してるからこっちも口を噤むしかない。問題が有る訳でもないし
・・・それとも原作で女性の扱いに慣れた様子を知ってる分、変に意識が寄っちゃうだけかな?
そう思いながら丘の上のゴンの家に目を向けると丁度ゴンが玄関から出てきたところだった。私の『円』の範囲からは外れているけど、特に遮蔽物の無い丘の上の様子なら肉眼で捉える事が出来る。まさに望遠鏡要らずだ・・・勿論高性能の望遠鏡を『周』で強化したなら更に遠くが見える訳だけど今の時点では使い道が特にない
「よし!折角ハンターについて知りたがってるんだし、今回は少し悪戯しましょっか♪」
このまま待つだけじゃ詰まらないと思った私はゴンの居る方向に駆けていった
▽
町とゴンの家の中間辺りの近くの森の中に潜伏すると直ぐに小走り(一般基準じゃ超速い)でゴンがやって来た。私は『絶』をしたままゴンを注視すると程無く走っていたゴンの足が止まり周囲をキョロキョロと見渡すと首を傾げる・・・流石に確信を持てる程じゃないみたいだけど、磨かれた野生の直感はその辺の念を修めたばかりのプロハンターを現時点で上回ってるわね。素でこのレベルなんだから凄いもんだ。まぁゴンはムラッ気が大きいみたいだから少し他の事に気を取られたらただの『絶』でも気付かなくなりそうでは有るけどさ
私はジンさんやボトバイさんがやっていたように己の意識を
心持としては私は世界の一部であり、世界は私の一部ってやつだね。それでいて対象の動きをちゃんと把握出来るだけの処理能力が必要になるけど
ゴンは気のせいかと思ったのか少し訝し気な顔をしながらも正面に向き直るとまた走りだす
「お早うゴン。良い朝だね」
「うわぁあああ!?」
ゴンが最初の一歩を踏み出した所でゴンの背後から声を掛ける。直前まで見通しの良い場所に自分一人だと思っていたゴンはしっかり驚いてくれたみたいだ
「ビ、ビアー。如何して此処に?って言うか何時からそこに?」
「ん~、ゴンがハンターの事を知りたいって言うから少し試しただけだよ。そっちの森の陰から見てた感じだね」
「ええ!?あんな距離から一瞬で俺の後ろに!?」
ふふん!私の足音を立てないダッシュも大分様になってきたかな
何はともあれ合流できたので当初の予定通りに島の中心部辺りの昔の遺跡やら主とかって呼ばれる大きな魚の居る沼やらを解説付きで案内してもらう事にする
「それで、プロハンターの事についてって話だったけど具体的にどんな事が知りたいの?一口にプロハンターと言っても各分野の専門知識、ハンターの制度、さっき脅かしに使ったちょっとした技術、色々有るよ?私のここ半年の旅路の概要は昨日話したしね」
「あ、そっか。う~ん、じゃあビアーは何でハンターを目指そうと思ったの?」
念能力の圧倒的な力を振りかざ・・・ゲフンゲフンッ!!
「そりゃ楽しそうで且つ自由度が高そうだったからかな」
暗黒大陸にも興味は有るし、そのお蔭か念を鍛え上げるのも苦にならないしね。ヒソカみたいにギリギリの闘いを求めるよりは戦〇無双みたいな無双ゲーの方が好みだったりするし
「ゴンはプロハンターになってジンさんを探したいみたいだけど、その後如何したいのかも視野に入れておいた方が良いわよ・・・この島に戻ってのんびりするも良し。私みたいに旅をするも良し。ジンさんを探す過程で見つけた興味の有る事に邁進するも良しってね」
実際原作じゃハンター試験から数えて約1年半で数年来の目標達成してたからね
まぁアレは基本的に全プロハンターが一堂に会する特殊な状況だったからなので、それを無しに真面に探してたらもう2~3年は必要だったかも知れないけど
「親父を見つけた後か・・・うん。考えておくよ!」
「ゴンの場合、先ずはジンさんからだけどね。ジンさんならさっき私がしたくらいの気殺は普通に使ってくるよ。因みにゴンが気付きかけた方はプロハンターなら全員が使えるレベルで、ゴンが勘違いだと思っちゃった方はその手のベテランやトッププロが扱うレベルかな」
「へぇ!やっぱりプロハンターって凄いや!」
はっはっはぁ♪もっと褒め称えるが良いぞ。そこらの凡百ハンターには負けない自信は有るからね
鼻を高くしながらもゴンに島を案内して貰いつつハンターについて話していく
「ハンターはさっきの気殺だったり気配察知だったり一瞬の隙を伺って標的を狩ったりするのに高い身体技能が必須だから自然と戦闘能力も高くなるの。体を鍛え上げて腕に自信の有る人達が受験する割合が多いから狩人と云うよりは戦士寄りの人が受験会場には多かったかな。それでもやっぱりハンターの為の試験だからか最終試験に残ってる顔ぶれは狩人タイプの人が多かったかも」
私の時も2次試験の兎狩りでゴリゴリの戦士タイプの受験者は結構落ちてたし
ゴンは現状だと合格率6割前後って感じかな?身体能力は十分有るけど経験・・・特に作為を持って狙われる経験が不足してるから割と簡単に罠に掛かりそう
まぁ非常にメタい事を云うなら最初から主人公が最強だったら苦戦や成長を描けないからって事なんだろうけどさ
「・・・ゴンは狩りやケンカの経験は?」
ふと思ったけどゴンってくじら島で拳でケンカする相手すら居なかったんじゃ?格闘技を習ったりとかもしてないだろうしさ。それに狩りだって・・・
「俺?森では木の実や山菜を摘んだり魚を釣ったりして食べるくらいかな。蛇とかカエルとかなら食べたりもするけど森の動物達には友達も多いから。ケンカは口喧嘩以上の事はした事ないや。一応猟師を生業にしてる人に付いて行って狩りや解体の仕方を教えて貰った事なら有るけど」
ですよね~。この島は決して大きい訳でもないんだからよく森を駆け回るゴンが腹が減ったからって大型動物狩ってたら商売にならないし、キツネグマとも友達なゴンならそう為りもするよね
原作のゴンが4次試験で野生の鳥を捕らえるのにあれだけ苦労してたのは今まで『狩り』において釣りスキルにばかりポイントを振ってたからか。釣りだと
「着いたよ。この沼には『沼の主』って呼ばれてるおっきな魚が居るんだって。警戒心が強いのか俺もまだ釣り上げた事って無いんだよね。魚影くらいは見えた時も有るんだけど」
そりゃ基本は沼の底に居るからだろうね。『円』で感知する分には腹の部分に足が生えて水底を移動してるのが伝わって来る上にこの沼は結構深い
一日中張ってても魚影すら見えないなんて普通でしょうね
「この沼の魚は意外と臭みが少なくて美味しいからよく釣って食べてるんだ。今日は此処が最後だし、良かったら試してみる?」
時刻は昼近く。細かい所まで案内し始めたらキリがないんでしょうけど、昨日大体のスポットは巡り終えてたから私とゴンの二人だけで移動時間も短縮できる今日なんかは結構サクサクと案内して貰えたからね。何よりゴンがここまで持っていた釣り竿を使ってみたいって気持ちは大きい
「・・・いい釣り竿みたいだね」
「分かるの?コレは俺の親父が小さい頃に使ってた釣り竿なんだって」
うん。そりゃ原作ゴンの初期装備だし、なによりもこの力強いオーラとか初期装備にしては上等過ぎるね。『ひのきの棒』どころかオリハルコンの剣でも装備してるのかって感じだ
恐らくあのグリップの下に神字が組み込んであるんでしょう。多分フリークス家の先祖の誰かか、一度くじら島にゴンを預けに来たジンさん辺りが弄ったんでしょうね
流石はまだ『周』も覚えて無かったゴンが1トン以上は有るであろう天空闘技場の石板をひっくり返してもビクともしなかったスーパー釣り竿だ。神字だけでこれ程までに耐久力を引き上げるとかマチが聞いたら泣くぞ。十中八九ジンさんの作だね・・・残り1~2割?ドン・フリークスでしょ
最低でも300年以上昔から暗黒大陸を活動拠点としているらしい謎過ぎる人物だし、ワンチャン有ると思う
前に見つけたベンズナイフよりレア度が高いソレを折角なので使わせて貰う事にして、沼の畔に生えてた大きな木の上から釣り糸を垂らす
別に食べもしないのに沼の主を釣り上げるつもりも無いので適当に脂の乗ってそうな魚の程近くを狙って竿を振ると程無くアタリが来た
フハハハハハ!例え相手が水中だろうと私に死角は無ぁぁあい!
『円』を用いてパパっと3匹4匹と必要な数を釣り上げる
「ビアーは釣りは今日が初めてって言ってたのにもうそんなに釣れるなんて凄いや!」
そうでしょう、そうでしょう♪なら最後に大物を狙って・・・・・・あっ
”バシャァァァァアアアアンッ!!”
私が竿を引っ張るのに合わせて盛大な水しぶきを上げて空中に姿を現したのは小型のクジラやシャチくらいの大きさの魚だった
”ズドオオオオオオンッ!!”
重たい音を響かせて近くの地面に落ちたソイツの傍に二人して木から飛び降りて近づく
「ねぇゴン・・・沼の主って美味しいの?」
「え?う~ん食べた事ないから分かんないや。島の人でも食べた人は居ないんじゃないかなぁ?」
ああ、今のゴンはかつてジンさんも沼の主を釣り上げた実績を知らないのか
「取り敢えず美味しいかも判らない上にこんなには食べられないからキャッチ&リリースね」
未だにビッチビッチと跳ね回って地面を揺らす沼の主を持ち上げると沼に向かって放り投げる。着水した沼の主は直ぐに水深の深い場所まで逃げていったようだ
「はは!沼の主なんて初めて見たよ!やっぱりプロハンターって凄いんだね―――それじゃあ俺たちもお昼の準備を始めようか・・・って、ああっ!!」
ゴンがさっきまで私達が居た木の枝に目を向けると驚愕する。何故かって釣った魚たちが籠と一緒に下の沼に落下して魚は皆逃げてしまったからだ
沼の主が起こした『じしん』の振動で見事私達からの逃避行を成功させたらしい
「逃げちゃったかぁ・・・そうだ!ビアー、お昼を食べに家に来なよ。今からまた釣り直すのは時間も掛かるしね!」
ナチュラルに女の子を家に誘うなこの陽キャめ。普通この年頃の男の子はマセてる場合が多いけど、他の女の子がノウコちゃんだけじゃ仕方ないか
いきなり家に行って昼食をご馳走になるとか内心失礼とも思ったけど、ゴンの家という魅力的なワードには抗えなかった私はゴンのお招きに与る事にした
「ミトさ~ん。ただいま!お昼はこれから作る所だった?だったら昨日言ってたビアーも連れてきたからもう一人分多めにお願い!」
山を駆け下りて家の玄関を潜ったゴンの第一声がこれだ
「ゴン。貴方お昼は要らないって言ってたのに。それにお客さんを連れて来るなら先に言いなさいよ。もし散らかってたりしたら如何するの」
「気にしなくて良いよ。適当でさ」
ゴンよ。気にするのはゴン自身じゃなくて周囲の人間なんだよ
そんな中でミトさんの視線が玄関に居た私を捉える
「突然押し掛けてしまい、申し訳ありません。昼食の魚に逃げられてしまいまして、ご迷惑かとも思ったのですが、今回は彼の厚意に甘えさせて頂きました」
そう言ってペコリと頭を下げる。これでも前世は日本人なので優雅な物腰で下手に出るなんて朝飯前だ・・・今は昼前?んなこたぁ如何でも良いんだよ!
「ビアー?なんで猫被ってるの?」
このガキャ、ぶっ飛ばしてやろうか!礼節って言葉を辞書で調べてそこに載ってる説明文を100回紙に書き取りしてこい!プロハンターとしてではなく一子供としてよそ様のお宅に訪問するなら最初の挨拶は大事だぞ!
「こらゴン!折角来てくれたお友達の印象を悪くするような事を言わないの!礼儀作法とモラルの分厚い本を買ってきて目次から後書きまで読み込ませるわよ!」
そうだそうだ~!もっと教育してやれミトさん!
「それでビアーちゃんね。うちの子が御免なさいね。どうせゴンが強引に連れてきたんでしょう?あの子は遠慮無しに本音で建前を打ち壊すような子だから」
身内相手でも・・・いや、身内相手だからか中々毒を吐きますね、ミトさん
それでも「さ、どうぞ上がって」と歓迎してくれたので家に上がらせてもらい、二階に在るゴンの部屋で昼食が出来上がるまで適当に喋って時間を潰した・・・ゴンの部屋に娯楽系のものが何も無かったのは本人の気質のせいだね。本棚の中身とか勉強の教材とかが大半だったし・・・う~ん。野生児め。一応通信教育を受けている為かパソコンは有ったけどさ
暫くすると下の階からミトさんの私達を呼ぶ声が聞こえてきたので二人で下に降りるとテーブルの上に並べられたご飯にミトさんともう一人、優し気な雰囲気のお婆さんが居た
挨拶してみるとミトさんの祖母でゴンの曾祖母に当たる人らしい
話は昼食を食べながらと云う事で早速皆席に着いてご飯を食べ始める
「とっても美味しいです」
「そう。お口に合ったようで何よりだわ」
いやホントレパートリーも多くて色鮮やか。実際結構な腕前じゃないかな
そうして食べ進めていく中でゴンが先程の沼地の出来事を二人に語っていく
「それでビアーがあの沼の主を一発で釣り上げちゃったんだ!竿をグイッて引っ張ったら沼の主が一気に沼から引きずり出されて、陸地にドーンって!」
ゴンが身振り手振りを加えてその時の様子を話すとミトさんとかは難しい顔をしている
「嘘・・・じゃないわよね。そんな嘘を吐く理由がないし。でもこんな小さな子が・・・」
嘘じゃないと言いつつ未だに困惑した表情だ。確かに1トンくらいは有ったもんね、あの魚
「ホッホッホ。そりゃあ凄いねぇ。沼の主が釣り上げられたのなんて20年ぶりじゃないか」
「食べられそうにないので逃がして、その上他の釣った魚たちも沼の主が暴れた衝撃で逃げちゃいましたけどね」
「そういう事だったのね。そう言えば港にも金髪の女の子が人形を操って芸を披露してたけど、やっぱりあの子も?」
「はい。一緒に旅をしてるレツですね。あと一人ポンズって緑色の髪の子が居ますけど、今日は三人で別行動してたんです」
「あの子も小さかったけど、旅って・・・学校とかは如何してるの?旅をしながらじゃゴンみたいに通信でって言うのも厳しいんじゃないの?親御さんは心配してないの?」
確かに子供だけで小旅行どころじゃない旅をしてると聞けば疑問に思うよね。ミトさんは私がプロハンターとは知らない訳だし
ミトさんの心情を思えばジンさんの話題は出すべきじゃないけど、私がプロハンターなんて情報は明日にでも島の住民たちには伝わる事だと思う。ノウコちゃん一家には普通に話したからね
「私は学校は飛び級で卒業してますし、旅を始めるにあたってプロハンターにも為ったので然程心配はされてないと思います。月に1回はメールも送ってますしね」
月一は少ないんじゃないかって?森の中を歩いてたら電波が届かないとかザラなんですよ!
私の口から出たプロハンターと云う単語にミトさんの顔が強張るけど、礼儀正しく家に乗り込んだ私を追い出すとか出来ないでしょう?彼女もプロハンターって職業そのものに忌避感を抱いてる訳でも無いはずだし―――ククク、これが搦め手と云うやつさ。気付いた時には懐の中ってね
・・・なんてイキる程の策は弄してないけどさ
それから旅だけじゃなくてハンターとして色んな奴らをぶっ飛ばした話も織り交ぜていく
「ねぇビアー。ハンターとして色々と戦ってきたみたいだけど、今までで一番手強かったのはどんな奴だったの?」
「え?う~ん。守秘義務(ドラゴンが暴れたとか噂が立つといけない)が有るから詳しくは言えないけど、今のゴンが千人居ても勝てない相手ではあったかなぁ」
攻撃は普通の生物の弱点である目とかもオーラが弾いちゃうし、薙ぎ払いブレスとか集団戦じゃ凶悪だったしね
「むぅ、それってビアーも俺が千人居ても負けないって事?」
「認められないって言うなら勝負する?腕尽くで理解させて上げようか?」
「言ったなぁ!ぜぇぇぇええええったい負けないもんね!」
ふっ、煽り耐性が低いぞゴン
「二人とも!ケンカなんてするんじゃ―――「ミトさん。審判役をお願いします!」・・・え?」
さぁ何方かが倒れるまで存分に闘り合おうじゃないか!
そんなこんなでゴンの闘志を引き出してのタイマン勝負。既に10試合全戦全勝で私の勝ちだ
「まだまだっ!」
倒れ伏した体を起こしたゴンは起き上がってまた開始位置に立つとミトさんにアイコンタクトを送り、ミトさんもここまで律儀に付き合ってくれていた
「それじゃあ行くわね―――レディー・・・ファイッ!」
”ゴッ!!”
開始と同時に再度ゴンの敗北の音が周囲に響く
「いえ~い♪これで私の11連勝だね♪」
「くっそぉおおお!腕相撲で負けるなんてぇえええ!!―――もう一回!」
「何時まで続けるつもりよゴン。ビアーちゃんに手加減されてるのも分かってるでしょう?」
「勝つまで!」
意固地になってるゴンの瞳を見たミトさんが処置無しとばかりに首を振って今度は私を見る。私が辞退すればそもそも勝負が成立しないからね
「う~ん。ゴンが千人相手でも負けないって宣言しましたし、何なら後989試合しても・・・」
そこまで発言したところでミトさんのダブルチョップが私とゴンの脳天に落とされた
「どっちもどっちよ!」
そのまま"ガシッ" とそれぞれの襟首を掴まれて玄関から家の外に"ポーン"と放り出された
「子供なんだから外で遊んで来なさい!大体あんた達の腕相撲を千回もやってたらテーブルの方が壊れちゃうわよ!」
おお・・・子供と言ってもそれぞれ片手で放り投げるとかパワー有るなぁ。ミトさんも筋トレしたら1年以内には試しの門を開ける可能性が有ったりする?
一度限界まで追い込めばフリークス家の血筋パワーが覚醒する展開とか胸熱なんだけど
「ビアー!適当な切り株でも見つけて腕相撲の続きしよう!」
「え、やだ」
「え~!なんで!?」
そんなに驚く事かな。このまま腕相撲だけを続けてゴンが素の私に勝利しようと思ったら3~4年は必要だし、流石にそこまで付き合ってはいられない。勝ちたかったら筋トレせい筋トレを
でもただ「やらない」とだけ告げてもゴンが諦めるとは思えない・・・てかそこまでが狙い通りなので条件を提示しよう
「ゴンはプロハンターに成りたいんでしょ?だったら課題を出すからそれをクリア出来たらまた腕相撲して上げるわよ・・・ただし挑戦回数は20回までね」
「! うん。分かった。約束だよ」
まだ内容も聞いてない内から前のめりに了承したわね。ゴンらしいっちゃらしいけど
私達と一緒に放り出された荷物の内、釣り竿を指して問い掛ける
「ゴンは釣り針を狙った場所に投げるのが得意みたいだから、今から三日以内に20m以上遠くを飛んでる野生の鳥をソレで捕まえる事。釣り針には布でも巻いておけば怪我もしないでしょ」
原作の4次試験でやっていた『能動的に狩る』という行為を前倒しで覚えて貰う。三日と云うのにも理由が有るしね
ゴンは私の課題を聞いてから「じゃあ行ってくるね!」と早速森に駆けて行ったので私も一旦町に戻る事にした
町に戻ると港の方がまだ賑わっていたのでそっちに足を向けるとレツの人形劇に人が集まっている様子だった。大道芸人なんてこの島には来ないもんね
午前にもやっていたはずだから今は午後の部って感じかな
私も群衆に紛れて覗き込むとレツが同時に二つの人形を操っているところだった。最初に出会った時は一体だけだったのに成長したものだ。難易度2倍どころじゃすまないでしょうに
片方は何時もの人形が剣を握っていてもう片方の人形は・・・ピー助だった
・・・・・レツの【
そのまま躍動感の有る動きで手に汗握る闘いの果てに勇者(?)が勝利して劇は幕を閉じた
戦闘にしろドラゴンにしろ今までの旅の影響が出てるわね。色んなジャンルの劇を演じられるのは良い事だ。レツにとっても良質な糧になるでしょう
劇が終わると意外と皆が持ってた財布から投げ銭だったり中にはお菓子を投げる(箱に入れる)人も居た。如何やら午後もレツが公演をすると知った人達がお昼を挟んで財布やらワンコインを持ち出してきたみたいだ
≪メエエエエエ!メェエエエエエエエエッ!!≫
「ん?」
ルルの鳴き声もとい泣き声が聞こえてきたのでそっちに目を向けると港のおばちゃん達がルルを揉みくちゃにしてるのが見えた
「あらあら♪ルルちゃんってば本当に可愛いわねぇ」
「翼も生えてるし、空を飛べる羊が居るなんて思わなかったわぁ」
「柔らかそうなお肉ねぇ・・・(じゅるり)」
≪メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ッ!?≫
レツの劇がひと段落したところで今度はルルに殺到したんでしょう
ルルのうるうるとした瞳が私を射抜くのでサムズアップだけ返しておく
≪メ゛エ゛エ゛ッ!? メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ッツ!!?≫
「レツ、ノウコちゃん。そっちはどんな感じ?」
「あ、ビアー。ゴンとはもう良いの?―――こっちは見ての通りだよ。午前に公演した時は活きの良いお魚やタコを渡そうとする人も居たから困っちゃったけどね」
ああ、やっぱり居たのか、そういう人
「レツお姉ちゃんもルルちゃんもすっかり皆の人気者なんだよ♪」
そりゃ可愛いと可愛いが合わさって最可愛に見えるこのコンビは最強だからね
「あ、ビアー・・・」
私が”うんうん”と頷いているとレツが何かを言い掛ける
”ズドンッ!”
「うぼはぁっ!?」
直後に私の脇腹におばさん達の手から逃れたルルの体当たりがヒットして自動車に跳ね飛ばされたかのように吹っ飛ぶ
空中で体勢を整えて華麗に着地を決めてなおも迫って来るルルを受け止めて上げる
「ごめんごめん。ちょっと意地悪し過ぎちゃったね。後でハチミツクッキー買ってあげるから」
≪メエエエエエエ♪≫
御菓子で直ぐに機嫌を直してくれた ちょろい 愛らしいルルを抱いて可愛がってあげると私が吹っ飛ばされたのを見て動揺してた人達も安心したようだ
ノウコちゃんの家に戻って夕方辺りにはポンズとアリスタも帰って来た
ノウコちゃんとかポンズの背中に引っ付いて家の中に入って来たアリスタが床に降りると同時に正面からハグしてた・・・強い
「そっちは何か発見とか有った?」
「ええ、新種とはいかないけど何匹か珍しい虫が居たわ。この島に生息してるって記録は無かったから後で資料を纏めて国の機関に情報を上げておくわね」
「それってその虫狙いの密猟者がこの島に来たりしない?」
「大丈夫よ。居たのはキツネグマの縄張りの中だし、売ってもそこまでのお金になるような虫じゃないから」
それなら大丈夫か。密猟者にとってリスクとリターンがまるで噛み合ってない訳だ
そんなこんなでゴンの課題の期日である三日間はゆったりと過ごして行くのだった
哀れピー助。勝利に飢えたドラゴンがレツの人形劇の度にボコボコにされるという屈辱の未来が見える
次回はなんとかゴンとバトルさせたいですね。書いててアレ?コイツと戦わせる口実とか如何するの?とか悩みました。外堀から埋めるように小さな勝負(腕相撲)から始めた感じですね