毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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落札と受け渡し?

原作キャラの二人に両隣に居座られる事態となった訳だけど、流石にそれだけの理由で回れ右して帰る選択肢は取れなかったので未だに睨み合ってる二人の間に「失礼しますね」と軽い断りだけ入れて私達は指定された席に着く事にした。因みに席順は私達を正面から見た場合左からキューティー→私→ポンズ→レツ→ビスケの順だ

 

う゛っ、このキューティーって人化粧も濃いけど香水の匂いもキツイ。念で身体能力全般が引き上がってる私は嗅覚もそれなりに優れてるから特にそう感じる

 

元の体臭からして臭い訳じゃないみたいだけど、単純に香りが濃厚なんだ。絶対にこの人香水を何度も自分に掛けるタイプね・・・ねぇ知ってる?香水って一回空中に散布してその下を潜るくらいで十分なんだよ?

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

私達が間に座った事で数瞬だけこの場に沈黙の帳が降りるけど、更に数秒後金髪ツインテールのビスケが体をワナワナと震わせながら立ち上がった

 

「(あんた等はこんな場所でそんな威圧感(オーラ)を振りまきながら現れるんじゃないわさ!幾ら拡散(円)させててもこの至近距離なら嫌でも気付くわよ!そっちの緑髪の小娘は『練』り上げてるだけだし、茶髪のアンタはソレなんで椅子にまで『纏』わせてんのよ!!)」

 

一応の小声でビスケからのツッコミが入る。至近距離と言っても『円』に気付けたのはビスケの実力ありきだと思うんだけどね。加えて言えば私は応用技を使う時は態と荒く『円』とか『堅』とか維持してて必要以上のオーラを籠めてるからってのも有るかもだけど・・・それにレツの方は単純に『円』とか毎秒8オーラくらいは普通に消費しちゃってるからね

 

ポンズはまだ潜在オーラが足りてないから通常の『練』での修行は継続中だし

 

ポンズが念をゼロから覚えて約五ヵ月で最初の一ヵ月は基本の習得に時間を割り振ったから本格的にオーラ量を伸ばし始めて四ヵ月。オーラ量の修行9割で『練』の持続時間は月平均40分くらい伸びてるからハンター試験が終わる頃には『円』を始めとした基本応用技の修行に入れるかな?

 

ポンズも原作でもハンター試験を最後の方まで勝ち残る実力は有ったし、重しトレーニングで肉体性能も引き上がってるからか、思ってたよりオーラの伸びが良いのは嬉しい誤算だった

 

『発』の固有能力に関しては強化系と違って基本肉弾戦に弱い操作系にとって早めに習得するのは良い事なので別枠扱いだ。念の知識さえ叩き込んでいるなら固有能力に関してはあまり他人が口出しする事でもないでしょう。勿論相談されれば一緒に考えたりもするけどね

 

人間なんて他人の考え方を始めとして色んな情報を見聞きして生きてるんだし、自分の頭だけで能力を想像する必要は無い。誰かの言葉でも本人がしっくり来たと云うなら念能力に悪い影響は与えないからね。当然自分の系統に合ってるか如何かとかは大前提だけど

 

さて、ビスケに何故か突然キレられてビスケを見た後に自然と私達三人の『如何する?』って感じの視線が交わる

 

「なにって言われたら修行ですね。今は皆で基礎(オーラ量)を固めてる最中です・・・これ以上の説明をまさか聞きたいなんて言いませんよね?」

 

固有能力は千差万別で在りながら容量(メモリ)自体はそんなに広くない。その上一度覚えたら1、2のポカン!で容量(メモリ)に空きを作る事も出来ない

 

念能力者にとって『纏』『絶』『練』みたいな基礎中の基礎以上の情報は秘匿するのがセオリーだ。それを超えての質問はマナー違反に当たる

 

それでも尚ツッコミを入れたくなる程のオーラを私達が発していたって事だ・・・ふふふふ。原作でも人間としてはネテロ会長とかを除けば最強格の一角である彼女も無視出来ないオーラとか、やっぱりこうして実感する機会が有ると思わずドヤりそうになっちゃうわね

 

「ああもう!説明はいいけどせめてソレ(オーラ)は仕舞いなさい!街中でも害意が無いなら一般人相手だとそれなりに感覚が鋭くないと気付けもしないけど、今此処に居る私もソイツ(キューティー)も使える(・・・)んだからね!電車の隣の席の奴が音楽プレイヤー(ウォークマン)をイヤホン無しに大音量で垂れ流しにするよりもある意味(たち)が悪いわさ!」

 

う゛・・・そう言われてしまったらグゥの音も出ない

 

仕方ないので私達はオーラを『纏』に切り替える

 

「ふぅ、これで少しは落ち着けるわさ。それでアンタ達は・・・な~んかどっかで見た事が有るような気がするんだけど、何処だったかしら?」

 

気持ちを落ち着ける為に一旦息を吐き出したビスケが私達の顔を覗き込んで首を捻る。今の私達は普段とは違うドレス姿で髪型とかも多少弄ってはいるからね

 

「オバサンはやはり耄碌(もうろく)しているようデスネ。今年ワタクシ達の後輩となったビアーちゃんとその一行ですネ。アナタのそのスズランの髪飾りでピンと来ましたヨ」

 

ビスケが新聞かテレビで見たであろう私の顔を思い出そうとしている間に隣のキューティー・ビューティーがドレス姿でも外さなかった髪飾りで私の正体にまで行き付いたようだ

 

段々とこの髪飾りが私のトレードマークに為りつつあるね

 

「野蛮な活動をしている上に実際こうして観ても可愛くも無い子ブタちゃん達みたいですケド」

 

「・・・は?」

 

今コイツ何を口走りやがった?

 

野蛮な活動って言うのは野蛮人の聖地の頂点(フロアマスター)とか犯罪者を相手取ってるとかでまだ理解出来るけど、私達が可愛くないとは如何いう見解だ?ポンズとか原作で美女ランキングを集計したならトップ3には入るレベルのキャラだぞ?レツだって同じくらい可愛いのに

 

※ビアーはレツが劇場版オリジナルという準公式キャラ(?)なのは知らない

 

余りにも理解出来ない言葉に数秒ほど狂気が滲んだ瞳を向ける事しか出来ず、感情が言葉として出力されなかった私にビスケからの説明が入る

 

「無駄だわさ。ソイツにとっての女の美意識って着飾ってるか如何かなのよ。色んな香水とか化粧とかアクセサリーとかそういう意味でね。実際そういった物の発見や研究開発の功績自体は評価されてるのよね・・・本人にそれを正しく扱う才能は致命的に欠けてるみたいだけどさ。アンタ達みたいに若くて素地が良いから化粧もしてないとか一番在り得ない存在ね」

 

それって妬みから来る嫉妬なんじゃ?一応お店の人にナチュラルメイクはさせられたよ!―――「お客様方は皆さま殆ど弄る(メイクする)部分が在りませんね~」とか言われたのは事実だけど!

 

そしてそうか。『かわ美ハンター』で一つ星(シングル)の称号ってそんな背景が有ったのか

 

だからと言って今の暴言は許さんけど

 

「私はプロハンターのビスケット・クルーガー。ビスケで良いわさ・・・で、そっちも一応プロハンターね。名前は覚えなくて良いわよ。そんな奴の事を一々覚えるなんて頭のメモリの無駄遣いだからね」

 

「世の女性たちを皆厚化粧(キューティー)成金装備(ビューティー)に飾り立てるワタクシ、キューティー・ビューティーの名前は千金に値する価値が有りますケド?アナタ達も女として生まれたからにはワタクシのような美貌を目指すべきデスネ。このオークションが終わったら早速ワタクシのキューティーブランドの製品を一通り使う事をお勧めしますネ」

 

一通り『試してみる』じゃなくて一通り『使う(重ね掛けする)』のを推奨しないで欲しいわね

 

「それはそうとアンタ達も宝石のオークション(こんな所)に来るなんて何か狙っているのかしら?だとしても『女神の涙』は私のだから誰にも渡さないわさ。プロハンターとして活動し始めたばかりなら競り落とせるだけの資金も無いだろうし、今回は大人しく他の宝石でも狙ってなさいな」

 

「今日は社会勉強として高級オークションの雰囲気を肌で感じるのが目的だったので例の真珠は狙っていませんよ・・・今日の競りが『女神の涙』で白熱したものになりそうだから、その観戦が本命なのは否定しませんけど」

 

そもそもあの真珠の所有権は今はまだ私の物だし、くじら島でべたべたと無遠慮に皆で触ったから既に十分堪能した後だったりするしね

 

「そんな理由で態々オークション会場にまで来るなんて奇特な奴も居たもんだわさ」

 

ビスケがそこまで口にした辺りで会場に定刻を知らせるブザーが鳴り響いてざわついていた会場内が一気に静まり返る

 

シャンデリアの光に照らされた会場内の人間の意識と視線がブザー音が鳴り終えたと同時にゆっくりと左右に開いていくステージの幕に集中し、その会場中の異様な熱量を受け止めるのはその奥に立っていたオークショニアで今回の司会進行役であろう綺麗なお姉さんだ。場慣れしているのか若さとは裏腹に浮かべた笑みは緊張で崩れたりしない

 

≪皆様大変お待たせ致しました。これより、オークションを開催いたします!≫

 

マイクは手に持つタイプじゃなくて首元に小さくて見え辛いのを取り付けるタイプなので両手を広げたりと身振り手振りを加えつつ司会を進めていく

 

≪宝石、それはこの星が生み出した神秘の結晶、星の煌めき。中にはただ光るだけの石ころだと蔭口を叩く者も居るでしょう。ですがその認識は底が浅いと言わざるを得ません!多くの宝石は原石のままでは『宝』としての価値に乏しい事は此処に居る皆様には周知の事実。ルビー然り、ダイヤモンド然り、この星の生み出した煌めきの原石たちに最高の腕を持った職人たちが精巧なカットや熱処理を施して初めて宝石は『完成』するのです。そう!宝石とは自然と人の持つ業の融合!その内に秘められた輝きを正しく理解してこそ宝石マニアを名乗れるのです!≫

 

司会のお姉さんが舞台袖に一瞬視線を送ると台車に乗せられた紅く輝く宝石が舞台の中央に運ばれて背後のスクリーンにも大きく映し出された

 

≪さぁ、では早速ですが最初の品はこちら!ハート型に加工されたピジョンブラッドのルビーのネックレス!これ程の透明度を誇る品は5年に一度採掘出来るか如何かといった処でしょう。22カラットの存在感は必ずや周囲の目を惹き付けてくれる事間違いありません!それでは3000万ジェニーからのスタートです!≫

 

※1カラット=0.2グラム

 

そこからは会場の皆さんが思い思いの金額をハンドシグナルで提示して司会のお姉さんがその中で一番高い金額を連続で読み上げていく

 

≪31番、3500万出ました!229番、倍の7000万!355番、更に倍!1億4000万!87番、46番、更に倍!2億8000万!276番、5000万アップで3億3000万!188番、2000万アップで3億5000万!102番、またまた2000万アップで3億7000万!・・・他にはいらっしゃいませんか?102番、3億7000万で見事落札です!≫

 

落札と同時に会場の人達が拍手を送っていき、ステージの上に在ったルビーは片付けられて次の宝石が運ばれてくる。その僅かな空白の時間にポンズ姉がふと思い出したようにレツに訊ねる

 

「そう言えばレツは前に宝石を『目』にした人形に少し興味を持ってたみたいだけど、何か欲しい宝石がカタログに載ってたりしなかったの?」

 

「それは無いかな。当たり前だけど加工された宝石は人形の『目』に使う事を前提にカットしてる訳じゃないからボクの場合はそれこそ職人さんのもとに赴いて共同制作で指示した通りに原石をカットして貰うか、ボク自身が宝石の加工技術を身に着けるかしないとダメなんだ」

 

「アハハハ、確かにさっきのルビーみたいなハート型の宝石を目として埋め込むとか、乙女漫画でもしない大好き表現になっちゃうね」

 

瞳がハートマークとか完全にギャグな一コマでしょう。それに今日のオークションは基本的に大き目の宝石が出品されてるからそれも人形の目として扱うには大きすぎる場合が多いでしょうし、なにより人形は目が命が信条なレツにとってその命の部分を他の職人が手掛けるのはダメそうね

 

『指示した通り』ってマジで1から10まで付きっ切りでダメ出しし続けるレベルに決まってる

 

そこからちょくちょくオークション独特の熱量を感じていくけど何だか思ってたより競りをする人達の諦めが早い気がする。まだあと一歩踏み込めるだけのお金は有っても”絶対に手に入れる”って熱意が控え目だ

 

「・・・全く、どいつもこいつも私の『女神の涙』を手に出来るかもなんて在りもしない希望を抱いて財布を温存してるようだわさ。どうせ大半は吊り上がる価格に直ぐに付いて来れなくなるって言うのに、惨めなもんね」

 

ああ・・・狙いを一点に絞ってる人が多い訳ね

 

それでも他の宝石の価値が低い訳でも無いし『女神の涙』を最初から狙ってない人なんかは後半のより希少な宝石の競りには力を入れていく姿が見えた

 

≪265番!5億アップで72億出ました!・・・では265番が虹色エメラルドを72億で見事落札です!!≫

 

最後の品の一個手前に出された深緑の輝きと虹の光沢を併せ持ったエメラルドが競り落とされた・・・う~ん。ここまでなら私達三人の資産を合わせればギリギリ落札出来たかな?

 

≪それでは次が本日最後の品となります!約一ヵ月前にコレの存在が告知された時には多くの方が瞳を輝かせた事でしょう。ともすると嘘の情報かと疑った方の方が多いかも知れません。しかし!内容は何も間違ってなどおりません!さぁご覧に入れましょう。この度発見された世界最大の真珠であり、世界最大の宝石でもある『女神の涙』の登場です!!≫

 

大き目のビーチボールくらいの大きさの白い輝きを放つ球体に会場全体がざわめく

 

司会のお姉さんも今まで出した宝石の時よりも少し長めに時間を取って興奮が伝播していくのを待っているようだ

 

≪さぁご覧になられていますのは世界一大きな貝の品種である『巨人の掌(タイタンズハンド)』から採れたこれまた世界一大きな真珠となります!直径で45cmの真球であるこの真珠の美しさは皆さまが目にしている通り!その場に在るだけで空間そのものを支配してしまう天然でありながら完成された存在感は人々に畏怖を与える神の威光そのもの!この女神を飾り立てるには一つの部屋という空間そのものを衣裳とする必要が有ると言っても過言ではないでしょう!この無垢なる女神をその手に出来る方は今、この中に居るのです!では12億ジェニーからのスタートです!≫

 

「キタキタキタキタキターッ!絶っっっ対に落札するわよォオオオオオ!!」

 

「フフーフ♪世界一美しい宝石は世界一可愛いワタクシのもとに来る運命なのですヨ。『類は友を呼ぶ』・・・あの真珠はワタクシのお友達ですからネ。必ずこの手に取り戻すのデス!」

 

うん。取り敢えずキューティー=ビューティーは黙れ

 

別にアンタが落札する分には構わないけど、隣で精神がガリガリ削れる理論を展開しないで欲しい

 

12億から始まった競りは初手から倍々ゲームで増えていき、一気に384億まで跳ね上がった

 

≪265番、10億アップで394億!400番、6億アップ!400億です!≫

 

遂に400億の大台に乗った事で会場競りに参加出来る人も殆ど居なくなってきた

 

「さて、そろそろだわね」

 

低価格の争いに参加するだけ無駄とばかりにここまで静観していたビスケがオークショニアのお姉さんに見せ付けるように手を高く掲げる

 

≪57番、50億アップで450億!≫

 

競りの勢いが衰えて来たところでの50億アップでビスケが一気にライバルを振るいに掛ける。ここから先の戦いに付いて来れるのは似たような考えを持っていた人だけだろう

 

≪53番、50億アップで500億です!≫

 

私の隣に座っていたキューティー・ビューティーがビスケへの対抗意識からか同じ額を提示して大台の400億を嘲笑うかのように500億のステージに乗せる

 

この二人以外に2~3人が競りに参加して流石にここから先は慎重に金額をアップさせていった

 

・・・てか500億ってグリードアイランドの成功報酬額じゃん。宝石関係で儲けてるであろうダブルのストーンハンターも美容関係で儲けてるシングルのハンターも所持金がえげつねぇ

 

流石にこの真珠を落札したら資金の大半が吹っ飛ぶとは思うけどさ

 

530億を超えた辺りでこの二人以外の参加者も脱落したようで今は私達の両隣の彼女らが1億ずつのアップを繰り返している

 

「ほらほら、もういい加減支払えないでしょう?さっさと諦めて私のあの真珠を譲りなさいってんだわさ!」

 

「それはこちらのセリフですケド?ほ~ら2億アップ。これが強者の余裕というモノですネ!」

 

「ならこっちは3億アップだわさ!粘着質な女は嫌われるわよ?ここらで綺麗にスパッと負けを認めた方が恰好良いってもんだわさ」

 

「お生憎ですけど、ワタクシは格好良さなんて求めてないんですケド?貴女こそもういい歳なんだからこれ以上興奮する前に勝負から降りる事をお勧めしますネ。さっきから金額をアップする度に額に浮き出た血管が千切れそうになってマスネ?」

 

「それはアンタも同じでしょうが!!」

 

私達を間に挟んで殺気の応酬するの止めてくれませんかね?目の前をナイフが飛び交ってるかのような錯覚に陥りそうになるからさぁ!・・・勿論『絶』状態って意味で

 

それでも最後にビスケが550億の金額を提示したところで隣のキューティー・ビューティーが口の端に泡を出して歯ぎしりしながらもそれ以上の金額を提示する事は無かった

 

≪他の方は宜しいでしょうか?・・・価格決定(ハンマープライス)!世界一の真珠である『女神の涙』、57番の方が550億で見事落札でございます!≫

 

「やっっったわさアアアアアアア!!ビィィィィィィクトリィイイイイイイッ!!」

 

ビスケの勝利宣言と共に今日一番の喧噪が会場中を包み込み、反響した怒号とも言える声の数々がオークションの建物全体を揺らした

 

「5・・・550億って凄い金額になったね?二人とも」

 

「ええそうね。そこからサザンピースが手数料の5%を引いても522億と5000万・・・天空闘技場で200階まで昇った時ですら意味不明な金額(約4億ジェニー)だったのに、金銭感覚が狂っちゃうわ」

 

一応今回受け取る金額は私の懐に入るんだけどね。これで私も世界のお金持ちランキングトップ100の末席程度には座れたかな?まっ、このまま無駄遣いしなければだけどさ

 

≪本日のオークションはこれにて終了とさせて頂きます。お帰りの際は御忘れ物をなさいませんようお気をつけ下さいませ。商品を落札されたお客様は隣の11番小ホールにてお引渡し致しますので移動をお願い申し上げます≫

 

「ふふ~ん♪それじゃ、私はもう行くわさ。暫くは入り口がごった返すから急ぎでもないなら少し待ってから出ていく事をお勧めするわよ。じゃ~ね~♪―――オホホホホホホホホホ♪」

 

ルンルン気分で商品を受け取る為に人混みの間をスルスルと縫うように潜り抜けて去っていくビスケを尻目に私達も言われたように少し待機してからこの場から去る事にした

 

隣でジメジメとした負のオーラを漂わせている誰かさんは少し鬱陶しいけど、騒いでる訳でもないならそこまで気に為らない

 

「・・・なんて言うかボク達と大して変わらない歳で凄いお金持ちなんだね。それにオーラの流れもとっても静かだったし、ビアーみたいな存在って探せば居るものなのかな?」

 

「言っとくけどレツ。彼女・・・ビスケット=クルーガーは確か既に50代後半の二つ星(ダブル)ハンターよ。あの姿はそういう能力によるものでしょうね」

 

私が軽くネタバレするとレツと話を聞いていたポンズの目が見開かれ、口もポカーンと開く。それから数瞬経ってから漸くリアクションが追いついたようだ

 

「ええ!・・・ああ、いや、確かに変化か具現化なら可能なのかな?それに星持ちのベテランハンターならあの資金力にも納得だよ」

 

「変身系の能力ね。人は見た目じゃ判断出来ないなんて言うけど、私達みたいのだと本気で参考にもならないわね」

 

確かにね。最大で100歳若返れるアイテムとかもこの世界には存在するし、仮にネテロ会長がその薬をがぶ飲みしたら老練の技術に肉体の全盛期を掛け合わせた100歳ちょっとの若輩者。スーパーフレッシュヤングマンなネテロとか爆誕する世界だし

 

そうこうしている内に出入り口付近の人波も大分()けてきたので外に出る為に立ち上がると意気消沈していたキューティー=ビューティーものっそりと幽鬼のように立ち上がる

 

心が空っぽの状態で視界の端に映った私達の動きに無意識に追従しただけでしょうね。別段何も言う事も無かったのでそのまま外に出ると落札された商品の受け渡しをしていた隣の小ホールの奥からビスケの怒鳴り声が聞こえて来た

 

「はぁ!?『女神の涙』が盗まれたって一体如何いう意味だわさ!ふざけてんの?それかもしかして死にたいの?だったらお望み通りあの世に速達で送ってやるわさ!!」

 

思わず顔を見合わせた私達はその部屋に向かう。入り口付近に居たサザンピースの人に引き留められるも優しくパワーで横にどいてもらって中に入る

 

「”私の”『女神の涙』が盗まれたって聞いたんだけど、詳しく訊かせてくれないかな?」

 

「あ゛あ゛!?さっきのガキ共じゃない。今忙しいんだから入ってくんな!それに”私の”とか冗談を聞き流せる余裕は今の私には無いんだから次言ったらボコボコにするわよ!」

 

「アレを見つけて出品したのは私なんですよ。確かに落札された以上は所有権は私と貴女の間で宙ぶらりんかもですが、だからこそのその盗みを働いた犯人とやらは私に対してもケンカを売ってるのと同義!遠慮なく〆ます」

 

ビスケの本気の殺気を直で送られる事になったけど、こっちだって舐められたままではいられないんだ。ビスケも私が真珠をオークションに持ち込んだ本人と訊いて怒りの矛先を収めてくれた

 

「そ。なら良いけど足を引っ張るような真似をすれば容赦なく切り捨てるわさ・・・で?なんでアンタまで此処に居るんだわさ?」

 

え?

 

「勿論ワタクシもその盗人さんを退治するためですケド?あの女神ちゃんはワタクシの親友。今回一時貴女に預ける形になったのは腹立たしいですけど、それ以上に手癖の悪い醜い人の下に”ワタクシの”大の親友が捕まっている何て耐えられないのデス。ワタクシ、かわ美ハンターですので」

 

ええええええ!!なにその義憤に燃えた瞳は!?こ、この人マジであの真珠を親友だと思い込んでいる。世界中の可愛いモノ、美しいモノは自分を中心に廻ってると信じ込んでる目だ

 

それと友達、親友、大親友と一々言葉に出す度に親密度を上昇させるの止めてくれる?

 

「出品者のそっちの小娘は兎も角アンタが”ワタクシの”とか権利を主張するんじゃないんだわさ!さっさと回れ右して帰れ!!」

 

「さあオークションの方!盗まれた時の状況など、ワタクシと女神ちゃんの為にも詳しく話して下さいネ!ああ、女神ちゃんが今も醜い人の手で穢されていると思うだけで心が痛みマス!!」

 

「聞けえええええええええ!!そして帰るんだわさああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

ビスケが叫ぶ中、成り行きで即席の真珠奪還チームが出来上がるのだった




品物を盗まれるとかポンですが相手は流石に念能力者の予定なのでww
ビアーの『円』を消させたのはこの為・・・やはり『円』しか勝たん

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