パーシナモンさんとは違い完全非合法の麻薬を扱ってるらしいアッパーハーツとかって男は葉巻をふかしながらニヤニヤとした笑みを浮かべている。なにか愉快な事でも有ったかのような面持ちだ
「なにがそんなに可笑しい?自分のところの商品で幸せな気分にでもなっているのか?」
「クァハハハハハ!何を言うかと思えば―――お互いこんな場所まで慰安旅行に来ている身なのだから、そうギスギスしなさんな。俺様はお前さんの元気そうな顔を見れて嬉しいぞ?娘も一緒とはな。うむうむ、やはり家族サービスには力を入れるべきなのだろうなクァアアアアアハハハハハハハハハッ!!・・・スー・・・う゛っ、ゲホッ、ケホッケホッ!!」
一通り笑った後で葉巻の煙を深く吸い込んだアッパーハーツは
「ボ、ボス!テンションが上がると葉巻を吸い込む癖は治してくだせぇよ。二日に一度はヤニクラで倒れかけてるじゃねぇですかい」
「ええい、五月蠅い!折角のいい気分に水を差すな!」
そりゃ煙草と違って葉巻は肺に吸い込む物じゃないもんね。確かニコチンの量は煙草の10倍くらいじゃなかったっけ?
てか水を差すなってのはヤニクラに対する悪態なのか部下に対する叱責なのかどっちなのかな・・・どっちでも良いか
「ではパーシナモン殿、
最後により一層粘っこい笑みを浮かべた麻薬商人は来た道を戻って部屋に戻って行った
「なに?あの人出かける予定が有ったからロビーまで来たんじゃないの?」
「パーシナモンさんがずっとロビーに居るのを部下の人が見つけてちょっかい掛けに来たとか?それにしては会話の内容そのものは別段毒に溢れた物言いでもなかったけど・・・」
凄い気持ち悪い態度ではあったけどね。なにか勝利を確信しているかのような下卑た笑みだった
「どうせ何か私や商会に対して奸計でも練っているのだろう。なに、何時もの事さ」
マフィアとか他人の足を引っ張るのが専売特許と云うかお家芸と云うかお仕事みたいなところも有るしね・・・滅んだら良いのに
「尻尾は掴めなかったけど前は野良の海賊に質の良い武器を持たせて商船を襲わせようとして来たのよね。まっ、素人が扱ったんじゃ然程脅威でも無かったけど」
「源泉がなんであれ商会が儲けているのは事実だからね。船団の皆の命を守る為にも武装やそれを扱う鍛錬、護衛などにはお金を掛けているのだよ。香辛石は色んな意味で万が一にでも奪われるような事があってはならない品物だからね」
「でもパーシナモンさんは今は護衛の人とかと一緒に旅行に来ているって訳では無いんだよね?お昼を食べている時も別に意識を向けられているような気配も感じなかったし―――アニタさんは強いけど、それでも一番パーシナモンさんの周囲の護りが手薄な今この時にさっきの人達と旅行先のホテルで偶然出会うなんて在り得る?」
「詰まりレツはこう言いたいのね?その場で思いつく程度の悪戯レベルの事じゃなくてもっと前から計画を練っていた何かを仕掛けようとしていると」
ポンズ姉がレツの疑問を補填してくれるけどパーシナモンさんは難しい表情だ
「いやしかし、私達が今この街に来ている事は誰にも話してはいないのだよ。側近の者にも大雑把にしか伝えていない。なにか有れば電話してくれと言ってはいるがね」
そりゃ家族旅行なんて完全プライベートの情報を事細かく伝えたりしないよね。『
「だからと言って偶然出会ったって言う方が無理が在るんじゃないかな?本人が態々こんな場所まで来た事を考えたら余計にさ」
「う~ん。それは調べれば多分分かる事だと思うよ?パーシナモンさん。この街には飛行船とかを予約して来たんですよね?」
「ああ、その通りだが・・・それが?」
「
兎も角データ集めに力を入れ過ぎてデータの漏洩対策がちょっと疎かになっているデータベースが存在するという事だ
まぁ大統領の隠し子だってパソコンに少し詳しければ検索できる世界だからね。ウ〇ルスバスター的なソフトとかの開発・普及がまだまだなのだ
これに関してはパソコンやネットがもっと普及すれば自然と対策ソフトも先鋭化されていくだろうから時間の問題だと思うけどね
「ええ・・・なんでそんなに扱いきれないようなデータを集めてるのさ?そんなんじゃ管理する人達の労力も半端じゃないでしょ?」
あ~、まぁ公然の秘密みたいな感じだし喋っても良いか
レツの疑問に私達の周囲に他の人達が居ないのを一応確認してから声を抑えて答えて上げる
「
そう告げるとレツとアニタさんは目を見開いて驚きの表情を浮かべる。パーシナモンさんやポンズは世界を飛び回る職業柄か暗黒大陸の存在はちゃんと知っているようで軽く頷いている
「世界地図の外側の世界!?世界ってアレだけじゃなかったの!?」
「そんな話初めて聞いたわね。そんな壮大な話がなんで一般に浸透してないのよ?」
「端的に言えば暗黒大陸は私達の居る世界とは比べ物にならないレベルの危険地帯だからね。暗黒大陸に向かってそこで全滅するだけなら問題ないけど、
過去に秘密裏に暗黒大陸へ挑戦した
「ハハハッ、人類が滅ぶなんてのは流石に言い過ぎだと思うけどね」
流石に五大厄災みたいな具体的なリスクが既にこっちの世界に在るなんて情報はパーシナモンさんとかじゃ掴めないからか、半ば迷信的なものと思ってるみたいね
でも仮に『不死の病・ゾバエ病』や『殺意を伝染させる双尻の蛇・ヘルベル』みたいな某ゾンビ映画みたいな被害が連鎖的に広がるタイプの厄災は被害を確認した次の瞬間には国ごとロックダウンして核ミサイル連打でもしないとマジで滅びかねないからなぁ・・・何処かの世界の汚染された聖杯並にヤバイ願望器である『欲望の共依存、霧状生物・アイ』とかも扱う人次第でコンマ1秒で人類全員が死ぬかもだし・・・Fate的な意味で
アイに関しては力の上限が何処に在るのか議論の余地は有るけどさ
「あなた達、話を脱線させ過ぎよ。今の問題は恐らく仕掛けられているであろうあの男の企みについてでしょうに」
ポンズ姉が手を叩きながら話を軌道修正してくれる。確かに少し本筋から離れすぎちゃったかな
「そうは言っても相手が直接的な手段を取ろうとしてるのか、間接的な手段を取ろうとしているのかすら分かってない状態だからねぇ。どちらでも直ぐに対処に動けるようにホテルを引き払って商会本部までとんぼ返りするのが一番無難ではあるけど、一々そんなへっぴり腰な真似をしてたら向こうも味を占めちゃうから却下かなぁ?」
「そうだね。商会長ともなると交渉力にも心臓に毛が生えてるくらいの胆力が必要になるからね。なによりあんな男の為に家族旅行をキャンセルなどしたくはないよ。こういうのは相手を叩き潰して、あわよくば弱みを握るチャンスと捉えるべきだろうさ」
攻め寄りの守りって感じかな?カウンターくれてやる気満々ですね
「それは良いんですけど、具体的には何か策は有るんですか?」
「勿論だとも。商人にとって最新の情報は何にも勝る武器だからね。商売敵の情報は複数のルートから常に更新できるようにしているんだ。特にあいつ等のような相手なら此方も金さえ積めば精度の高い情報を盗ってきてくれる情報屋に頼るのに遠慮はいらないだろう?後で商会の方にそれらを使うよう指示を出しておけば搦め手は凡そ察知できるはずだ」
そこまで言ったところで一度言葉を切ったパーシナモンさんは今度は真面目な表情へと切り替わる
商人にとっての本気の出し処と言えば何処か?―――当然それは交渉の席となる
「もしも奴が直接的・暴力的手段に訴えてきた場合の備えとしてどうかキミ達を正式に雇わせてもらいたい。プロハンターとその弟子、そして天空闘技場のフロアマスターに200階クラスの闘士でもあり過去複数のマフィアグループを潰して来たキミ達ならば生半可な策など『力』で粉砕出来るだろう?なによりもプライベートにまで土足で乗り込んできた奴らはいい加減ここで仕留めておきたい。相手が腕の立つ者たちを複数雇っていたりすればアニタ一人で私を守りながら撃退するのは難しいだろう・・・もしもアニタに傷でも付けようものなら違法をしてでも私刑を強行してしまいそうだからね」
理性的なようでいて最後にマジメな顔で残念な親バカ発言ぶち込むの止めてくれませんかねぇ?
「なにバカな事言ってるのよ父さん!」
ほら、アニタさんも父親が違法に手を染めるのは反対みたいだ
「そうですよ。違法はダメです。やるなら脱法私刑を目指さないとアニタさんも悲しみますよ」
「脱法か、そうだね。その時は脱法商会会長の手腕を振るうべき時なのだろうね」
「いえいえ、貴方様の商会は合法の品だけを扱う極めてホワイトな企業じゃないですか」
「「ふふふふふふふふ♪」」
「二人して何を頭のネジの外れた事言ってるのよ!?特にあんたは子供のして良い発言じゃないでしょ!父さんと一緒にその暗黒微笑を浮かべるの止めなさい!即興の悪徳商人ムーブで愉しむとか質が悪いわよ!!シャレになってないじゃない!!」
遊び心は重要だよ?精神を安定させてリラックス効果も望めるんだから、ボケれるところはボケていかないと損ってもんよ
「さて、先ずは契約期間ですけど旅行が終わるまでか脅威の排除のいずれかの条件を達成するまでって感じで良いですか?」
「そうだね。最終日に空港に腕の立つ部下を何人か護衛として手配するから最悪でもそれまではお願いしようかな。商会の仕事が忙しいから三泊四日程度しか時間を取れてなかったけど、問題は無さそうかい?」
「ええ、レツとポンズが受ける年始のハンター試験にさえ影響が出ないなら大丈夫です。今はまだ12月の初頭ですしね」
「急にビジネスモードに切り替わるのも止めてくれない!?高低差激しすぎるわよあんた達!!」
う~む。アニタさんはツッコミ属性持ちみたいだけど、そんな調子じゃ社会に出た時苦労するよ?もっと世間の荒波に揉まれて感覚をガバにしないと
「はいはい、アニタはこっちよ。愚痴くらいなら付き合って上げるから」
「まぁまぁ落ち着いて。甘いものでも飲む?アニタさん、そこの自販機でお汁粉売ってたよ?」
「レツ・・・貴女私を憤死させたいのかしら?それとも物理的にあの世に送りたいのかしら?」
お~、ポンズ姉に引っ張られていくアニタさんの頭に幾つものコミカルな怒りのバッテンマークが見える気がする・・・それにしてもレツの今の発言は天然かな?それとも実は密かにお汁粉が気に入ったのだろうか?
今回の依頼の危険度は不透明な状態だったので期日までの護衛の固定給にプラスして実際なにか有ればパーシナモンさんの裁量で追加報酬という形となった
この内容だと最悪プラスαに関しては踏み倒す事も可能だけど、そんな事をすれば愛娘であるアニタさんにドブネズミを見るかのような目で見られること間違いなしだ。それにその時は脱法私刑が彼の運命に降りかかる事になる。流石にそんなに割に合わない愚かな真似はしないでしょう
よっぽど悪質でなければ人を殺してもお咎めなしにすら出来るハンターライセンスの権力を舐めちゃいけないと云う点はさり気なく
話し合いが済んでから私達は警護の都合上皆でパーシナモンさんとアニタさんの泊ってる部屋にお邪魔して過ごす事になった
元々この辺りで一番の高級ホテルだけあって部屋の広さに不足は無い・・・まぁ女子トークに混ざれないパーシナモンさんが終始居心地悪そうに見えたけど、気にしたらいけない。寧ろ愛娘と美少女達と同じ空間に居られる事に感謝して欲しいくらいだ
結局その日と次の日は観光にもちゃんと出かけたけど特に何事も無く時間は過ぎて、三日目の夕食の時間になった。明日の朝にはホテルをチェックアウトする予定だ
今はルームサービスでこの部屋に食事を運んでもらっている最中である―――食事時は気が緩みがちになるし、万が一向こうが強硬な手段に出たら周囲に被害が向かいにくい状況の方がこちらも思いっきり動けるからね。それは向こうも同じな訳だけど、爆弾とか銃とかゴツイのを取り出したら直ぐに私の『円』が察知できるのも理由の一つだ
因みにだけどこの部屋にはルルとアリスタも居る。ルルは兎も角アリスタは野生の勘も戦闘力も生半可じゃ相手にならないしね。監視の目が多くて困る事は無いし
大勢過ぎると逆に邪魔だけどね。その全員がベテランプロハンターレベルならまだしもさ
最初に2匹と引き合わせた時はパーシナモンさんはアリスタに、アニタさんはルルにそれぞれ瞳をキラキラさせて魅入っていたわね。なんでもパーシナモンさんは趣味で部屋の壁とかに剣や槍などを飾ったりするタイプでアリスタのランスの如き両手(足?)の針が琴線に触れたらしく、アニタさんは実は自室にぬいぐるみが溢れているファンシー系なのが好きと云う一面を持っているのだとここ数日の雑談の中で訊き出す事が出来た
「結局ここまで何も無かったけど、この分だと商会の方に何か悪だくみを仕掛けてたのかもね。パーシナモンさんの商会の方からは何か連絡は在りました?」
「いや、良くも悪くも何時も通りのようだ。今日も元気に法外な値段の小麦粉や片栗粉を各地に輸送しているらしい。それに奴もまだこのホテルの中だ。決めつけるには早計だろうな」
そうなんだよねぇ。もしかしたら商会への搦め手と直接的な暴力のダブルパンチの可能性だってある訳だし、どっちにしろ気は抜けないなぁ
「そう言いつつトランプをしてる私達は何なのかしらね?」
「だってもう巡るべき観光スポットは粗方廻ったから他にやる事無いじゃん」
遊びに来てるんだからそっちも疎かにしたら本末転倒だよ、アニタさん?
「雪像の本戦に凍った河や雪化粧した山の景色。各種お土産の購入で大体歩き回ってたからね・・・ただボクとしては雪像の優勝作品が翼の生えた全裸のサングラスの変なオジサンが女の人にもたれ掛かってるやつだったのにこの街の狂気を感じたよ」
ああ・・・作品名は『ハァハァ・・・ねぇ奥さん良いでしょ?・・・ハァハァ・・・』だったかな?いやホント何で
何を言ってるのか分からないと思うけど私も何を言ってるのか分からない。催眠術とか超スピードなんてチャチなものよりもっと恐ろしいものの鱗片を味わったわね、いやマジで・・・審査員操作されてるような気配は無かったんだけどなぁ・・・
因みに製作者の名前は
「そう言えば昨日優勝してたあの人希少なスノーモービル買って警告を無視して雪山を爆走してたら雪崩を誘発して賠償金とか凄い請求されたらしいよ」
もう転落してた。流石の一言ね
雪崩と言ったら普通に大事だけど、死者とかは出てないでしょ。ギャグ補正的な意味で
そうこうしている内に頼んでいたルームサービスの台車を押す音が聞こえてきて扉をノックされる
「お待たせ致しました。お夜食5人前となっております。お間違えありませんか?」
開いた扉から入って来た担当のボーイさんが段重ねになってる大き目の台車で入って来る。扉も廊下も大きなホテルだからこそだね
でもそこでカラカラと控えめな音を立てて入って来た彼の姿に微かな違和感を覚え、次の瞬間確信に変わった
―――コイツは敵だ
私の僅かな変化を感じ取ったのか間髪入れずに放たれた投擲物がパーシナモンさんの眉間に突き刺さる前に横合いから弾く事に成功した
「あらら、防がれちゃったな。よく分かったね。態々キミの『円』の外から変装してまで近づいたから気付かれる要素は無かったと思うんだけど?」
「その変装、(念じゃなくて)肉体操作由来のものかな?自己紹介してくれるなら如何して気付けたか教えて上げるわよ、殺し屋さん」
目の前の人物が軽口を叩き始めた時点で他の皆も認識が現実に追いついてきたのか窓近くの部屋の隅まで退避している。場合によっては窓から護衛対象を逃がす必要もある。勿論外から遠距離射撃でもされても面倒だから射線が切れてるギリギリの位置だ
さて、如何したものかな。今の一撃に反応出来たのは私だけだった。臨戦態勢に入った今でもレツやポンズ姉でもコイツの相手はキツイけど、だからと言って逃がした先でコイツクラスの敵がもう一人外で待機でもしてようものなら一気に詰む
敵が複数だと分かれば私も一緒に街の外までなんとか逃げてレツのピー助を解放すれば五分にまでは持ち込もうとできるんだけど
「そう?別に良いよ。俺自身は素性を隠す理由も無いしー」
そう言った男は頭をトントンと軽く叩くと顔中のパーツがボコボコと変形して黒髪長髪の何も映してない猫みたいな目をした姿に変わった・・・うっそマジですか
「俺はイルミ・ゾルディック。ゾルディックって言えば伝わるかな?」
「伝説の暗殺一家でしょ?
「ああー成程ー。普通の人の
左の掌を右の拳で”ポン”と叩いて納得の声を上げるイルミ・・・表情も声音も一切
それにしても流石は伝説の暗殺一家の長男だ。原作のキルアも爪を尖らせたりとかで少し使ってたけど、念無しであそこまで完璧に他人に成りすます肉体操作が出来るとか、人体の神秘を感じずにはいられないわね
「やー、俺としても一般人を一人殺すだけの簡単な仕事だと思ってたんだけど、割に合わない仕事になっちゃったなー」
間延びした声のままコイツの武器であり変装道具だったりもする針を複数同時に持って構えを取るイルミに此方も腰を落として重心を低く保つ
たかが針一本でも後ろの皆には致命傷だ。イルミは針を刺した相手を操る操作系能力者だけど、ターゲットであるパーシナモンさんのような非念能力者なら操作なんてまどろっこしい真似しなくても念を籠めた針が当たるだけであの世まで一直線だし、レツとポンズ姉も流石にイルミの針を素手で防ぐのも捌くのも無理が在る
パーシナモンさんとアニタさんは周囲の私達の放つオーラの重圧を受けて上手く動けないみたいだけど、イルミの悪意満点のオーラを弾く意味もあるので勘弁して欲しいわね
元凶をなんとかしたいけど、皆を背に庇いながらだと流石にイルミを仕留める為に攻勢に出るのは難しい
現に今もイルミを前にしながらも『円』と『堅』の併用を止めて完全な臨戦態勢に入る事が出来ない。もしもこの場にもう一人ゾルディックが居たらやっぱり私以外に対処出来ないから全方位への警戒を解けないのだ
内心どう動くのが正解か思考をグルグル廻していると後ろからレツとポンズ姉の咎めるような声が聞こえてきた
「ビアー。ボクもポンズも確かにまだ修行不足だけど、だからと言って今有る手札で出来ることを考えてない訳じゃないんだよ」
「ええ、ソイツレベル相手じゃ確かに守りに入るのも難しいのは分かるけど、この場から離脱するだけなら私達だけでも可能よ。足手纏いだけはこっちも御免だからね」
レツ!ポンズ姉!その言葉はとっても心強いよ・・・・でも・・・・
「ポンズ姉?なんでロープで二人を素早く拘束してるの?あとその(帽子から)取り出した釣り竿の先になんでルルを吊るしてるの?」
≪メェ?≫
ルルもポカンとしちゃってるじゃない。後ろは振り向けないけどルルの困惑はヒシヒシと伝わって来るし、それ以前に何してるの!?ああ~!凄く振り向いて問いただしたい!!
「って、ちょっと!これじゃ上手く動けないじゃない!まさか私と父さんを敵に差し出して自分たちだけ助かろうとしてるんじゃないでしょうね!?」
「ま、まってくれ!確かに想定していたチンピラなどとは比べ物にならんがせめて私だけにしてくれ!アニタは標的にはなっていないはずだろう!」
盗賊などを相手にしている内に無駄に鍛えられたロープの束縛術で瞬時に腰の辺りをギッチリとロープで縛られた二人がゾルディックと云うビッグネームにレツとポンズ姉が諦めて二人を生贄にしようとしてると思ったのか、とっても焦っている・・・そりゃいきなり敵の前で縛られたら焦るわよね
「ビアー、ボクは前はピー助に[たたかえ]と[止まれ]しか命令出来ないって言ったけど、あれから少しはボクも成長して攻撃に関してはシングルアクションくらいは命令出来るようになったって自分でも分かるんだよね」
うん?確かにそれは成長だけど、万一ゾルディックが相手だとそんなカクカクした動きじゃ案山子程度にしか役に立たないんじゃない?
そんな疑問の答えにレツは行動で示してくれた
窓を開け放つとピー助人形をホテルの外へ投げ放ち、そこでドラゴンとして実体化させる。既に外は真っ暗だし、高級で高層なホテルの上階だから直ぐにはバレないと思うけど[とまれ]でホバリングさせたピー助の上で待機とか結局いい的な上にハンター協会にも睨まれ兼ねないんだけど!?街中でドラゴンの目撃情報多数とか普通にヤバイ案件だ
「さあ行くよ!揺れるのは勘弁してよね」
「ほら、ちょっと失礼するわね」
「え?逝くの?殺し屋への生贄じゃなくてドラゴンの餌なの?!訳解んないわよ!?」
ルルの吊るされた釣り竿を持ったレツがピー助に飛び乗って護衛対象の二人を両脇に抱えたポンズがそれに続く
全員が飛び乗ったのを確認したレツがピー助の顔の目の前数メートルの位置にルルを垂らした
「よし!ピー助、[かみつく]!!」
≪メ゛エエエエエエエエエエエ!!???≫
・・・皆様、馬の鼻先に人参をぶら下げると云う表現を何処かで聞いた覚えは無いだろうか?なんなら犬が自分の尻尾を延々と追い回すのでも良い。兎に角思わず直接振り返ってしまった私の目には似たような光景が見えてしまったのだ
目の前の
「じゃあビアー!ゴメンだけど後は宜しくねええええぇぇぇぇぇぇ!!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
イルミも圧倒的なオーラを纏ったドラゴン相手に直ぐには動けなかったのか、二人で牙をガチガチ鳴らしながら夜空に消えていくピー助を見送る事になった
私がガードしてたのも有るけど、流石のイルミの針も念獣であるピー助は操れないのか刺そうとする素振りも無かったわね
「あー、アレは爺さんでもないと追いかけられないなー。ねぇ、標的が居なくなったならキミと闘る意味も特に無いから帰らせて貰うよ」
「標的がこの場から消えただけで貴方への依頼がキャンセルされた訳でも無いんでしょ?”はい、そうですか”と返す訳ないじゃない」
「ちぇー。出来れば仕切り直したかったんだけどな。そこまで都合よくは行かないか」
本気なのか冗談だったのか分かんないけど、ともあれ改めて冷静に考えてみれば相手はイルミだけの可能性が高い―――だってコイツ仲間とか友達とか居ないし、部下に
これも原作知識頼りだけどゾルディックの人達は
軽く呼気を吐き出すと『円』に割り振っていたオーラを『堅』に回す。幾ら害意を乗せてないと言っても単純なオーラの圧だけでホテル全体が揺れてるんじゃないかって感じだ
こっちが少し気を抜くだけでマジでそうなりそうだからちょっと怖い
派手に色々壊しちゃった場合請求書の金額がエライことになりそうだもん。まさかホテルのオーナーも
「うわー、コレ俺の針刺さるのかなー?仕方ないや、勿体無いけどこの針使おう」
私の『堅』を見たイルミは手に持っていた針を捨てると自身の胸部に刺してあった針を引き抜いた
自身を傷つけつつもイルミの凶悪な体内オーラに常に
こちとら乙女の柔肌装甲なんだから流石にあの針相手だと特に柔らかい部分を狙われないようにしないとね。目玉とか耳たぶとか鍛えた筋肉を内蔵出来ない箇所は如何しても存在するんだし
そうしてお互いに睨み合って数瞬後、その場からイルミが消えた
「・・・・・え?」
具体的には扉側に立っていたイルミがバックステップで廊下に躍り出るとそのまま爆走してこの場から去って行った
「・・・ッ逃がすかっての!」
追うように廊下へ飛び出た私だけどそこで嫌な予想が頭を過る
イルミはここ数日は護衛と体力の兼ね合いで精度と範囲を抑えていたとは云え、私の『円』の事を知っている
その上でイルミは
『円』を展開する?いや、逃げたと見せ掛けたイルミが何処かの物陰に隠れて私の『堅』の密度が減る機会を窺ってる可能性もゼロじゃない
イルミとしては暗殺対象の周囲に常に張り付いていた私(達)がどの程度の期間護衛を続けるのかは分からない。仕切り直したいと口にはしてたけど、一度警戒された以上は最大の障害である私を一早く排除したいはず
イルミは操作系能力者。そして何より先程彼が取り出したあの針は原作で登場したイルミの為に死ぬまで働く操り人形と化させる代物だ
そう。武器の破壊力の向上なんて脳筋な使用法じゃなくて私と戦う為の手駒を補充しに行ったんだとしたら?
このホテルで今一番人々が一か所に集中してる場所・・・それは―――
▼
「ふぅ、やれやれ、あんなオーラの化け物を正面から相手になんてしたくないからね」
ビアーの虚を突いた一瞬の内に目的地に向かって移動しているイルミが独り言を零す
相変わらず感情の揺らぎが感じられない声音だが、それが彼の素なのである。キャラ作りに命を懸けている何処かの12人のコスプレ集団(二人は例外)の戌っ娘とは違うのだ
幾ら伝説の暗殺一家の長兄として高い身体能力と暗殺・格闘技術を持ち、更には優れた念能力者であろうとも彼の生まれ持ったオーラの性質は純粋な肉弾戦には不向きな操作系
高確率で
(幾ら強いオーラを纏っていると言ってもあの年頃の子供は一般人に手を出すのを
―――((このホテルの最上階フロア。展望レストラン!))―――
奇しくもビアーとイルミの思考がシンクロした。しかし既に最上階まで昇り切ったイルミとビアーとの間にある距離は大きい
仕事の為ならば関係のない者たちを幾ら巻き込もうと構わない美学も矜持も感じられないイルミの魔の手が伸ばされようとしていた