毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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馬鹿な!もう7月だと!?


暗殺阻止とプレゼント

雪国の冬空は澄んでいて遠くまで見通せるものだが、生憎その日は雲が掛かっていて星空を見る事は叶わなかった。しかしもしも仮に夜空を仰ぐ者達が大勢居たならば雄々しい翼で冷たい空気を切り裂いて飛ぶ凶悪なドラゴンの姿を幾人もの人々に見られて大騒ぎとなっていただろう

 

咄嗟に携帯のカメラを向ける暇もなくその姿を目にした極僅かな人達が友人知人にその事を話しても目の錯覚か酔っているかと言われて取り合っては貰えず、噂と呼べる規模になる前に静かに消えていった・・・なお、一部の目撃証言ではドラゴンは泣きじゃくる空飛ぶ羊を追いかけていたのだと言うが、やはり相手にされなかったようだ

 

 

 

「う゛う゛~っ!!流石に高い場所まで飛ぶと寒いよね。風も強いし揺れるからピー助の背中じゃ暖も真面に取れないや」

 

「暖ってレツ、貴女この子の背中で焚火するつもりだったの?そりゃドラゴンにとっては逆にホッカイロを貼るくらいの熱さかも知れないけど、流石に可愛そうよ」

 

高度は約上空2000メートル。冬の雲の更に上で一匹のドラゴンとその背中に複数の人影が乗っている。雲の上ならばそれ自体が巨大な目晦ましとなって地上からの狙撃や追跡は困難となる

 

ブースター兼コントローラー(哀れな金色羊)は既に解放されてドラゴンの尻尾の付け根の辺りでマスコット枠の相方であるアリスタに抱き着いて慰めて貰っている最中だ

 

それ故ピー助はゆったりとその場でホバリングしているような状態だが、万が一追手や追撃があった場合にはまたルルの出番となるだろう。レツの手にはまだルルと繋がる釣り竿が握られたままなのだから―――多くのゴロツキを牢屋送りにする過程で彼女も大分思考回路がバイオレンスに育ったようである

 

「キ、キミ達。あの場から逃げられた事には礼を言うが、出来れば少しは説明が欲しいのだがね」

 

「そ、そうよ!なんなのよこのドラゴンは!?ゾルディック家が相手とかビアーは大丈夫なの!?それに高いのよ―――何処か遠くに降りられないの!?」

 

非念能力者であるパーシナモンとアニタの二人が少しでも現状を理解する事で心の平静を取り戻そうと質問を繰り出すが、何やらアニタの方が声が震えている感じなのにレツとポンズも気付く

 

「アニタさん。ひょっとして高い所苦手?」

 

アニタのセリフの最後は質問と言うよりも懇願に近いものだった事からそう聞くと”ギンッ!”と鋭い眼光がレツを貫く

 

「そうよ悪い!?普段は海の上で活動してて空は慣れてないのよ!それに私だって飛行船とかもっとしっかりした場所ならこんな事言わないわよ!!」

 

※ 旧アニメ2次試験で崖から飛び降りられなかったアニタ

 

「悪いけど相手があのゾルディックだと判ってる中で地上に降りるのは危険すぎるから護衛として容認できないわね。正直こうして雲が広がってなかったら、まだまだ高度も距離も離れた場所まで移動してたわよ。高い場所に慣れてないなら取り敢えず今は肺の奥にまで酸素を取り込むように意識して頂戴。急激に高度を上げたからね。もしも吐き気や眩暈(めまい)がしてきたらこの酸素ボンベを使いなさい。対症療法だけど、下での事が終わるまでならそれで繋げると思うから」

 

『備えあれば(うれ)いなし』との言葉の通りにポンズは様々な小道具を持ち歩いている。以前は必要最低限に切り詰めていたが、収納能力である【帽子の中のワンルーム(マジカルハット)】を身に着けてからは自重する必要がほぼ無くなったのだ。今はビアーに頼まれて携帯型ゲームなども入っていたりする

 

三人でスーパーなマルオでパーチーしたりゴーカートしたり様々なキャラで大乱闘したりしているのだ・・・なお、基本的に最強なのはレツである

 

人形(キャラクター)を操る才能はこんな所でも無駄に発揮されていたのだ

 

「それとこのドラゴンに関しては私達の切り札でもあるから守秘義務とさせて貰うわ。万が一の場合に備えて(レツのキーホールダーで)待機させてたとだけ言っておきましょうか」

 

色々と納得出来ないアニタだが、流石に面と向かって守秘義務とまで言われて追及するのはダメと思ったのか深呼吸して疑念を飲み込んだ

 

「『事が終わるまで』って貴女たちはビアーが勝つって信じてるのね」

 

「「勿論」」

 

相手は世界最凶を(うた)われる暗殺一家の一員

 

そうと知ってなおビアーならば何とかすると信頼の籠った瞳で即座に頷く二人を見てアニタとパーシナモンも信じてみる事にした―――少し微笑ましいものでも見るような表情で軽く頷き、改めて自分たちの命を彼女たちに託す意を固めたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それはそれとしてやっぱり地上に降りれない?」

 

「「ダメ」」

 

少女の(はかな)い願いは夜空に消えていった

 

 

 

生ける伝説とまで謳われる暗殺一家の長男であるイルミ・ゾルディックは階段を駆け上がった勢いを出来るだけ殺さずに廊下に躍り出てホテルの最上階フロアの大半を占める展望レストランへの入り口を視界に収める

 

このホテルに宿泊しているのは基本的に富豪ばかりで必然的に社会的地位や影響力の高い者たちも一定数存在する

 

彼らを殺せばゾルディック家への敵対者が増えてしまう。捜査系統の能力者ならば『ゾルディック家の仕業』程度ならば突き止めても可笑しくない

 

しかしそのような事は考慮に値しない。住所も公にされて地元では観光地とまでなっているゾルディック家に過去に挑んだ者達は皆、返り討ちに遭っているのだ

 

家に仕える執事でさえ一騎当千の猛者揃いであり、本家の家族は万夫不当の実力者が大半を占めるゾルディック家・・・尤もそれくらいでなければ各国の要人から一般人までの幅広い暗殺を代々続ける事など出来なかったであろうが

 

イルミにとってみれば家族以外の命など家に仕える執事も含めて、使えるか使えないかの二択でしかない。そして使えない命も彼の針を刺してしまえば、使い捨てながら『使える』に傾かせる事が出来る

 

常人ならば目にも映らぬ程の速さでレストランの入り口に辿り着いたイルミは手にした凶悪なオーラが練り込まれた針を素早く構え、そのまま偶々近くに居た者たちに向けて順次投げつけんとする

 

相変わらず無表情のままだが他人の人生を奪い、滅茶苦茶にする事へ仄暗(ほのぐら)い喜悦を心の奥底に微かに滲ませながら

 

「ほぁ?」

 

ここへ来て凶悪なオーラを隠しもしないイルミの針の投擲(とうてき)に偶然イルミの向かってきた方向に顔を向けていた男の口から気の抜けた声が漏れる

 

本来なら一般人では何が起こったのかも分からないはずだが、イルミのドス黒いオーラに晒された瞬間に脳みそが濃密な『死』を感じ取り、世界がスローモーションの如く遅く流れてこれから何が起ころうとしているのかが見えてしまったのだ

 

だが幾ら自身に迫りくる針が見えようともそれで回避出来るような肉体性能が無ければ意味がない。彼がただの一声でも発する事が出来たのは、それだけでも奇跡とも云える所業だった

 

一般人でも銃弾を見切れる(避けれるとは言ってない)とされる引き延ばされた時間の中、ホテルの従業員でもあった彼はたった一言ながらも簡潔に事態を理解する

 

―――あっ、死―――

 

 

 

「だらっしゃあああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 

ホテルマンと死の針の間の床が突如として爆発し、拳を突き上げた姿のビアーが現れる。見る人が見ればウルト〇マンの変身シーンのポーズのようだと溢すだろう

 

濃密な死の気配と圧倒的な力の奔流を目の当たりにしたホテルマンはとうとう脳の処理が追いつかなくなって気絶するように後ろに倒れ、そのまま眠りについたのだった

 

 

 

「ふぅ、ギリギリ間に合ったかな?仮にホテルに賠償金要求されたら借りを消費してパーシナモンさんに払って貰おう―――それかハンターライセンスでも有耶無耶に出来るかな!?っとぉ!!」

 

危ない危ない。壁も床も天井も無視して最短距離で何とか間に入った劇的な登場したってのにイルミの奴普通に他の人にも針を続けざまに投げたよコイツ!

 

勢いがついたままこの階まで来たからあのままだと屋上まで行っちゃいそうだったので、天井に『周』を掛けて(ようや)く止まったその一瞬の静止をチャンスと捉えたみたい

 

ホント、嫌になるくらいに冷徹で冷酷だね

 

片腕は天井でブレーキを掛ける為に使ってたのでもう片方の腕でイルミの針に向けて掌底で衝撃波を飛ばして針を叩き落した

 

幾ら技術とパワーで補正を掛けようとも針は針。暴風を叩きつけられたら容易く軌道は捻じ曲がる

 

これが例の超絶重い特注合金なら別だったかもだけど、操る対象に態々そんな文字通りに重い(かせ)を付ける意味が無いものね

 

それにイルミが本気で針を投げたら針が刺さるどころか普通に頭蓋骨も貫通しちゃうだろうから、相応に手加減して投げる必要があるのも理由の一つだ

 

今の攻防でお食事してた皆さんはパニックになってるみたいだけど、基本出入口は私とイルミが塞いじゃってる上に私も彼らが近づいて来れないようにオーラに微かな威圧を乗せてるから途中で足が止まってしまっている

 

床に着地し、足元で気絶してる従業員は・・・私が飛び出てきた穴の丁度真下にデカイ高級ソファーが有るから蹴落としておこう

 

ていやっ!ほら、良い夢見ろよ

 

「よく俺が此処に来るって分かったね。それにまさか最短の経路で距離を詰められるとは思わなかったよ。『円』を使った感じでも無いみたいだし、間の部屋とかに人が居たら轢き殺しちゃうとか考えなかったの?」

 

「気配を『絶』ってるならまだしも一般人が居るか如何かくらいは壁向こうでも把握できるわよ。壁をぶち抜く瞬間にその都度微妙に軌道修正すれば済む話だしね。それに態々針なんて殺傷能力の低い得物を使うならそこに理由が有る。アンタの手から離れた(放出された)針が明らかに威力が落ちていたから可能性は(放出系の)両隣。ここまで来ればまさか天辺(強化系)なんて事も無いでしょう。後は今一番人が多い場所まで突っ切るだけで良いからね・・・ホント居てくれて助かった。外してたら問答無用で土下座コースだったから(ボソッ」

 

「だとしても壁や天井を紙でも引き裂くようにロス無しでやって来るとはねー。普通なら逆に時間が掛かるよ。なんでキミみたいなバケモノが護衛に付いてるかなー?」

 

「そこは守秘義務ってやつね。こっちも仕事だから」

 

まぁぶっちゃけ成り行きでしかないんだけど

 

「それじゃあ今度は逃がさないようにこっちから行かせて貰うわ・・・よっ!」

 

セリフの言い終わりと同時に床を蹴って一気にイルミに肉薄する。イルミも手首のスナップを利かせて針の速射砲が刹那の間に10発以上は放たれる

 

この距離だと腕を大振りして衝撃波を発する余裕はないから直接腕で弾く事になってしまうけど、流石にそれは肌に針が突き刺さる危険が高い。自分から刺さるのを手伝うようなものだからね

 

かと言って避けてしまえば後ろに大勢詰めかけて一種の観客と化しているホテルの宿泊客に針が飛んで行ってしまう―――私に刺す為に全力を籠めた針っぽいから最前列の一人か二人の体を貫通・即死させてその後ろの人に良い感じに刺さって操られると云う誰得展開だ

 

だから素早くコンパクトに、それでいて間接的に複数の針を同時に叩き落す!

 

 

パアアアンッ!!

 

 

私が咄嗟に取った手段は全力で拍手(かしわで)を打つ事だった

 

今の私は片腕を振るうだけでも衝撃波を放てる。ならばそんな両手を打ち合わせたら?

 

それと拍手と言ったけど衝撃が少しでも相手に向くように手の切っ先をイルミの方に向けて打ち合わせている・・・人はソレを『猫だまし』とも呼ぶ

 

イルミの目が猫っぽい事もあってか気付いた時にはこのアクションを選択してたわね

 

イルミもまさか自慢の針が能力でも何でもない拍手で弾き飛ばされるとは思わなかったのか瞳孔がさっきより少しだけ開いてる

 

アンタも暗殺者の端くれなら覚えておく事ね。近年のジャンプにおける暗殺者の必殺技とはズバリ『猫だまし』なんだから!

 

どこぞの黄色いタコを暗殺するクラスの男の娘がやったようにノーモーションから最速に、最も遠くで最大の”パアアアンッ!!”を決めた私は両掌を合わせたまま腕を真っ直ぐ伸ばしてイルミの胸元に突き入れる

 

私の動きを見て腕を左右に弾くのは難しいと悟ったイルミが私の手の先に下からの突き上げを入れる事で軌道を上に向け、同時に自身の上半身を後ろに逸らす事での回避を試みる

 

突き上げもあわよくば針を刺そうとナイフでも握るような形で拳の親指側から鋭く太い針がその存在を主張している

 

キラリと光るその先端が私の手首の辺りに迫る瞬間に私もイルミのもとへ駆け出していたその最後の一歩を踏みしめた

 

陥撃(かんげき)!!」

 

私の一歩はホテルの床を四角に切り取ったようにして下に沈む

 

御馴染み『地隆降陣(ちりゅうこうじん)』の技の一つで、兎に角地面を陥没させる為に『周』で固めた場所の真ん中を踏み抜く技だ

 

建物の床や天井は必ずしも一枚岩(物理的な意味で)のように形作られている訳じゃない

 

配管などを通した床(天井)の上に蓋となる床を被せる二重構造の建物も存在する

 

このホテルもそのタイプで大き目の四角いパネルのような床を数多く敷き詰めている構造だった

 

そのイルミの立っていたパネル一枚分に堅めの『周』を掛けて踏み抜き、数十cm程沈めて彼のバランスを崩してやった。イルミ程の達人なら即座に立て直す事は可能でしょうけど、元々そのつもりで動いていた私とこの密着した距離でのその数瞬のロスは命取りって訳よ!

 

床ごと体が沈んだ影響で針を握りしめた右こぶしが本来の予定より遅れて到達せんとするのを私の左手を半回転させてイルミの手首を捕まえる

 

元々両手を合わせた突き入れは攻撃じゃなくて相手の防御をこじ開ける為の起点作りのモノ

 

イルミの攻撃の要である手を片方掴んだ私は彼が次のアクションを起こす前に只々強く右手首を握りしめる握撃を見舞った

 

”ゴキッ!メキャッ!ボキポキポキッ!!”

 

太くて堅いモノが折れて、最後には細かくなるまで砕かれたかのような音と感触が伝わって来た。やはりイルミ相手には掴み技しか勝たん!

 

常人なら瞬時に泣き叫ぶような激痛のはずだけど、ゾルディック家特有の家庭の事情により痛みに慣れているイルミは残る左手で反撃しようとするけど、私も残る右手でイルミの左手首を掴まえて握撃を決める―――両方の手首を潰されたイルミの腕をそのまま思いっきり引っ張ると倒れていたイルミの上半身が釣られて起き上がって来るのでその頭蓋骨に私の『ロケットずつき』をお見舞いしてやった

 

なんか頭突きが直撃する前にイルミが含み針(口から針を飛ばす針術)らしき攻撃を仕掛けてきたみたいだけど、放出でオーラ20%減な上に通常の投擲(とうてき)よりどうしたって威力の落ちる奇襲技程度じゃ私の『堅』と頭ガイ☆骨の防御力は突破出来ないわよ!操作条件を満たせない操作能力など恐るるに足りず!

 

額から血を吹き出しながら再び反動で後ろに仰け反っていくイルミの肩と腕の付け根辺りから筋線維がブチブチと切れるような音もして床にバウンドしていった

 

「・・・さて、後は指の骨も全部折って足の骨も折っておかなくちゃね。一般人に含み針とかされても困るから顎と喉も潰しておきましょうか」

 

((鬼か!!))

 

はて?なにか背後から何かしらの思念のようなものを感じた気がするけど気のせいかな?

 

「へー、俺を殺さないでおくつもりなんだ?」

 

絶体絶命の状況であるはずなのに相変わらず何を考えてるか分からない瞳で倒れた状態から上半身を起こしてこっちを見るイルミだけど、こっちもゾルディック家とどれだけ敵対して良いかは分かんないからね―――イルミとは能力と云うよりは武器の相性の差で普通に勝てたけど、ゼノ・ゾルディックのオーラを巨大なドラゴンの形に変化させる技とか拍手の衝撃波なんて小技が通じるとは思えないし

 

※ 筋肉 > 針

 

「アンタ達ゾルディック家が身内が殺された場合にどんな風に動くのかいまいち予想が出来ないからね。単に暗殺の仕事を淡々と引き継いで終わりなのか、実は激情に駆られちゃったりするのか・・・取り敢えず今回は初回サービスで後でアンタの実家に熨斗(のし)付けて返品してあげるわよ」

 

まぁコイツの母親のキキョウ・ゾルディックがもしかしたら暴走するかもって程度だけど、ゾルディックの執事連中を相手にするのも流石に面倒過ぎる。それにそれだけだと暗殺依頼はそのまんまだから如何にか十中八九依頼主であろうあのアッパーハーツとか云う男から証言を引きずり出して裏を取らないとねぇ・・・面倒だしポンズ姉の【ゾン・ビー】でプスッとやるか。万が一直接の依頼主じゃなくても絶対に今回の件を知っていたはずだからこっちも初手で始末する訳にもいかないのよね

 

・・・アレ?そう言えばこの時期にイルミをこれ以上ボコしちゃって良いのかな?

 

イルミなら後約一ヵ月を治療に専念すれば例え全快してなくてもハンター試験くらいは原作通りに合格を狙えるだろうけど・・・足を折るくらいなら平気かな?

 

「う~ん。いや、でもなぁ・・・」

 

そもそもの話だけど、イルミが原作通りにハンター試験を受験して如何なるの?キルアが実家に連れ戻されてそれを助ける為にゴン達の修行パートが挟まって地力を上げる訳だけど、思えば皆にはもうウェイトも渡してるし、イルミとキルアがハンター試験で出会ったのだって偶然だ

 

本腰を入れて捜索してたって訳でも無いし・・・・・あれ?ゾルディック編要らなくね?

 

「―――ッツ!」

 

私からナニカ不穏な気配でも感じ取ったのかイルミが両腕が使えないながらも素早く起き上がって逃走を図ろうとする

 

イルミとしては私のような小娘が多少甚振った程度なら問題無いし、なんだったらもう動けないと勘違いした私がターゲットであるパーシナモンさんと合流する事とか、それでなくとも逃げ出すチャンスくらいは確保出来ると踏んだのかも知れない―――高い肉体操作技術と拷問を受けても平然としてられる痛みへの耐性が合わされば真に迫った『死んだふり』すら可能でしょうから

 

「まぁ待ちなさい」

 

”ゴシャッ!!” ”バギッ!!”

 

そんな訳で遠慮も容赦も要らないと判ったので最初にイルミの足首を踏みつぶして後ろに跳ぼうとした勢いのまま床に叩きつけられた彼の反対側の足の(ひざ)の皿を続く踏み込みで破壊してやる

 

膝を圧し潰されたイルミの右足が関節の逆側に海老ぞりしたように跳ねた。これで両足も使えない

 

Go to hell・・・なに、これから始まる自主規制タイムなんてアンタの今までの罪を数えていれば直ぐに終わるでしょう

 

 

 

 

少女私刑中(Now loading)・・・

 


 

 

「ふぅ、こんなものかな?」

 

なにか時間が跳んだような気がするけど、そんな些細な事は気にしないで額に滲んだ汗を袖の辺りで(ぬぐ)う―――ちょっとイルミの返り血が拳とかから滴っちゃってるから気持ち悪いけど、これも必要経費(?)ってやつだ

 

私の足元ではイルミっぽいモザイク案件の肉の塊が転がってるけど、ギリギリ後遺症とかが残らない感じに全身ミンチにしたから恨まれる筋合いも無いでしょう

 

逆恨みしてくるようだったら今度こそ殺し合いだ

 

これでもハンターハンターなんて一般人から主要キャラまで普通に無惨に死ぬ世界でプロハンターを目指した身。前世とは違う倫理観について自問自答する時間は幼少期からタップリあった

 

それを最初にぶつける相手が作中屈指の『コイツ別に死んでも良いんじゃね?』なキャラのイルミだったのは幸いだったわね・・・それに別に殺してはないし

 

「(ば、馬鹿な。ゾルディック・・・依頼したのはあのゾルディックなのだぞ!?それがあんな小娘一人に敗れたとでも言うのかっ!―――っは!?もしや依頼先の偽情報を掴まされたのか。電話先の相手はゾルディックの名を(かた)って金を毟り取ろうとする三流組織だったんだな!!)」

 

あ~、うん・・・ポンズ姉の能力を借りるまでも無くなったわ

 

レストランに居た客の後ろの方で小声で呟いたみたいだけど、私の強化された耳にはバッチリ届いたわよ。てか目の前で公開スプラッタショーが繰り広げられてた影響か周囲の人々も殆ど閉口してたし何人かがギョッとしながらアンタの事ガン見してるじゃないの

 

それにレストランに居たとか下手したらイルミの針の犠牲者になってたんじゃ?

 

流石にイルミも依頼人の顔程度は把握してるか・・・してるよね?

 

私がゆらりと威圧感を纏いながらその方向に足を向けると人垣がモーゼの大海のように左右に割れ、アッパーハーツへの直通の道が出来上がる

 

「ボ、ボス!やばいです。ここは逃げた方が・・・!?」

 

「畜生!サブマシンガンくらいは持ってくるんだった・・・?!」

 

意外と高い忠誠心と負けん気を発揮せんとしていた取り巻きの部下二人には射抜くような眼光にオーラを上乗せして叩きつけてあげるとその場で気絶して倒れ込んだ

 

ふっふっふ!これぞ覇〇色の覇気!一度やってみたかったんだよね♪

 

「なっ!お前たち、一体どうし・・・ぐあ!?」

 

自分だけの世界に浸っていたのか私の接近にも気付かなかったみたいだけど部下が倒れたら流石に現実に意識が戻ってきたみたいなので正面から首元(服)を引っ掴んでギリギリ喋れる程度に締め上げてあげる

 

「さて、私の記憶が確かならゾルディックへの依頼って基本成功報酬って形ですよね?今すぐ依頼をキャンセルする旨を伝えてくれませんか?」

 

「な、何をする小娘!さっさとこの手を離さんか!俺様にこのような真似をしてただで済むと思っているのか!」

 

この状況でよくもまぁ吠えられたものだ。絶対に状況を理解してないよね

 

仕方ないからもっと分かり易さ重視で、言葉だけじゃなく行動でも意思を伝えましょうか

 

ズルズルと彼の体を引っ張って割れて空いたままだった道を戻りモザイク案件(イルミ)の前まで連れていく

 

「もう一度言います。今すぐゾルディックに出した依頼を取り下げて下さい。それ以外の行動を取る度にコレに近づいていきますよ?」

 

「ふん!裏に生きる我々(マフィア)がその程度の脅しに―――」

 

"パキッ!"←左手の小指が折れた音

 

「ひぎぃ!?言う!今電話を掛けるから待っててくれ!―――もしもしゾルディックか!?先日依頼を出したアッパーハーツだ!依頼をキャンセルさせて欲しい・・・キャンセル料7割?既に死んでいた場合は全額?それは幾らなんでも高"ミシィッ!"・・・分かった。8割でも9割でも払うから兎に角キャンセルしてくれ!」

 

電話が切れた後は元々依頼成功時に振り込む予定だったらしき指定の口座に10億ジェニー以上入金させる―――決定ボタンを押すのを迷ってたからまた指の関節をイナバウアーさせて上げようとしたら直ぐに押してくれた

 

後はイルミを木箱にでも詰めてゾルディック家に郵送で送れば完璧だ

 

常人ならば最低でも全治一年。イルミでも全快に3~4ヵ月は掛かるでしょうからハンター試験には出られないよね☆

 

 

 

あの後ポンズ姉の持っていた携帯に電話を入れて皆にホテルに戻って来てもらう事にした。雲の上まで逃げてたみたいだけど前にボトバイさんの山奥でも使える電話を見て便利そうだったから買い換えたのだ。お蔭で少し見た目がゴツイけど2~3年もすれば圏外無しの電話ももう少しスマートに変わるでしょう

 

「・・・で、倒したゾルディックの人間を綺麗に梱包しているって訳ね?態々そんなピンクのリボンまで巻いてクリスマスプレゼント気取りかってのよ!」

 

戻って来た皆に状況を説明してたらアニタさんにキレられてしまった。棺桶サイズの木箱も包装紙もドデカいリボンもホテルの人にニッコリお願いしたら『イエス!マァアアアム!!』って感じに速攻で用意してくれたのよね。流石は高級ホテル、サービスが行き届いてる

 

「そりゃ死を感じさせる威圧感(オーラ)を垂れ流してた伝説の暗殺一家(ゾルディック)の人間を人外のパワーで粉砕して容赦なく挽肉に仕立て上げた人間から『お願い』されたら大抵の人は素直に言う事聞くわよね」

 

因みにホテル側の方針としては器物破損や暫くの営業停止などの賠償は全て今は床で縛られて転がってるアッパーハーツにイルミに払ったのと同じように携帯で指定の口座に払わせた。正確に言えば細かい金額が幾らになるのかとか判らないから口座の中身を全額ひっくり返させたんだけどね

 

個人の口座と言っても半分くらいは麻薬商会の口座と化していたから資金の半分は搾り取れたみたいで、これは後々の話だけどリニューアルオープンした時にはホテルの設備諸々が大分アップグレードして反響を呼んだみたいだ

 

それに自慢のホテルで人死にが出るなんて最悪のマイナスイメージが付かなかったのだと逆に感謝もされたくらいだ

 

いや~それほどでも♪・・・ちょっと口元歪んでたのは見なかった事にしよう

 

イルミを倒してから『ゾルディック』の名前をよく響くように強調して喋ってたから他のお客さん達もあの時の状況が如何にヤバイものだったのか伝わったので、私は彼らにとって命の恩人って共通認識が少なからず生まれている

 

まさかまさか私にまで批難を向けて来るなんて真似はしないでしょう

 

痛みに耐性が有ると言っても全身から血を流したイルミは気絶したのでフワフワの白い毛布を敷き詰められた木箱の中に入れて上げてコイツの実家であるククル―マウンテンへの宛先もキッチリ記載した私はまたホテルの人に頼んで配送して貰う事にした

 

流石に挙動不審になり掛けてたけど『素早く運ばないと中身が起きるよ?』と言ったら5分後には下でトラックを爆走させる音が聞こえてきた・・・如何やら配達業者を待つんじゃなくて速攻で空港まで速達するのが一番だと本能的に察したみたいね

 

これから夜が深まっていく時間帯だったので私が壁抜きした部屋のお客さんとかはなんとか余っていた別の部屋に移動して貰い、翌朝には宿泊客は全員チェックアウトすると云う事になったようだ

 

警察にはお金を搾り取ったアッパーハーツを引き渡しておいた

 

これだけ目撃者が居る中でゾルディックに依頼してたなんて口にしたんだから商会の方に強制捜査が入るのも確実でしょう

 

暗殺の実行犯であるイルミを何故逃がしたのかとも問い詰められたけど『あの』ゾルディック家が御宅訪問する可能性を加味した上でそちらの管理する牢屋にぶち込むのかと問い返したら『理由を訊いただけで問題は何も無い』と手の平ドリルな対応を魅せてくれた

 

ゾルディックを捕まえた『事実』を面白おかしく吹聴する機会よりも己の命を選んだようだ

 

警察やホテルの関係者たちとの話し合いも終わったらいよいよ最後にパーシナモンさんとの今回の報酬の話になった

 

「先ずは改めてお礼を言わせてくれ。かのゾルディック家が相手では私の商会の護衛など容易く蹴散らされて終わっていただろう。キミ達と出会えた事にここ数年で一番の幸運を感じているよ・・・さて、報酬金だがアイツがゾルディックに払うはずだった金額が20億ジェニー程だったみたいだからね。暗殺からの護衛はその数倍は難しいとしてプロハンターでリーダーたるビアー君に80億、アマチュアの二人に40億ずつで如何かな?加えて言ってくれればウチの商会の船には何時でも客人として乗れるよう手配もしよう。娘にも会いに来てくれると嬉しい」

 

最後のは絶対にアニタさんの為に遊びに来いって話だよね。プロハンターの私とか公的機関無料で使用できるし、レツとポンズ姉も次のハンター試験を受けるの話したもんね!

 

取り敢えず提示された金額に不満は無かったのでそれで手を打つ事にした

 

 

 

翌朝、チェックアウトする客でごった返しているのが治まるまで一応の護衛的な観点から待たせて貰い、皆でホテルを出る

 

そのままリムジン的黒塗りタクシーで空港までアニタさんとパーシナモンさんを送り届ける

 

「会長!お待ちしておりました!」

 

「お嬢様もご無事で何よりです!」

 

空港で元々パーシナモンさんが手配していた商会で腕が立つ人達と合流したら私達の依頼も完全に終了だ

 

この人達は大体アニタさんレベルかな?まぁ熟達した上で今の強さなのと未だ成長途中のアニタさんでは意味が異なるけど、成程そこら辺の少し腕に覚えがある程度の奴らなら一蹴出来るわね

 

空港の飛行船のゲートを潜る前にアニタさんが振り返る

 

「私、次のハンター試験は受けない事にするわ。今まで知らなかった。いえ、多分無意識に目を逸らしてた父さんの商会の汚い部分もちゃんと知って、視野を広げたい。それに実力不足も痛感したから体も鍛え直す事にするわ。あの話のネタに持たせてくれた冗談みたいな重しとかも使ってね」

 

ああ、護衛中の夜の雑談タイムでレツとかが私の修行の内容が酷いとかって愚痴と共に紹介してたもんね―――良いよ良いよ~。筋肉とはパゥワーだからね

 

「それじゃあまた何時か会いましょう!」

 

ゲートを潜ったアニタさんが最後にそう言ってからその姿が見えなくなるまで見送った

 

「それじゃあ私達は如何するのかしら?」

 

「ハンター試験までもう一ヵ月切ってるし、試験会場のザバン市まで行っちゃって試験開始までじっくり修行でもしましょうか」

 

「あれ?でも試験会場に辿り着くのも試験の一環なんだよね?既にプロハンターのビアーが同行しても良いの?」

 

「ポンズ姉は『案内人』を知ってるんでしょ?私は別ルートって言うか普通のルートでザバン市に向かって先に宿を取ってるから現地で集合しましょ。2~3日別行動するだけよ」

 

試験会場に入る方法にさえ口出ししなければ問題無いでしょう

 

「そっか、それなら良いかな。ボクも今回の件では力不足を感じたから修行に集中出来る環境は有難いや。戦力増強するにしてもあのイルミって人の人形はちょっと遠慮したいしね」

 

あ~、イルミ人形は確かに遠慮したいわね

 

「それじゃあそれぞれザバン市に向かうって事で―――解散!」

 

さ~て、いよいよ原作スタートの時期だ!どんな風になるのかな?

 

 

 

 

 

「・・・流石にザバン市のある大陸までは同じ飛行船よ?」

 

もうちょっと後で解散!!

 




イルミとしてはビアーに報復もしたいでしょうが、ビアーを私情で敵に回すには家族へのリスクが高いのでしない感じですね
イルミなら家族を優先するでしょうから

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