別行動と試験開始
パーシナモンさんの護衛依頼を達成し、アニタさんとも別れて数日後には私は一人で今回のハンター試験の1次試験の会場の入り口が在るザバン市に辿り着いていた
レツとポンズ姉とはこの大陸の空港に降り立った時点で予定通りに別行動となった訳だけど、過去に試験を数回受けてノウハウを知っているポンズ姉はやはりと言うべきか2日遅れ程度でザバン市に到着したみたいだ
ホテルでオヤツ代わりに外の出店で買ったザバン市の名物らしきパンダガエルの姿焼きを
公的施設を無料で使えるプロハンターの影響なのかパソコンが備え付けられているホテルとかも少しお高い所なら普通に在るんだよね
ハンターライセンスを自宅で使うとハッカーが
幾ら大金で売れるからってハンターライセンスを盗む為に化け物集団のプロハンターと敵対するのかって話だけど、世間一般の人達からしたらプロハンターはアスリート級の身体能力と各分野の専門知識を持った”ちょっと凄い人達”と認識している部分が大きいと思う
『念』を知らない小悪党からしたら仲間を10人も集めて銃口を向けてやれば勝てるとか考えちゃうんでしょうね
まぁそんな裏事情の考察はさておきホテルの一階ロビーまで二人を迎えに行くと無事合流する事が出来たので借りている部屋に案内する
「それじゃあ『案内人』からはもう試験会場への入り方は教えて貰ったんだ?」
「ええ。と言うかそうじゃなきゃ此処に来ないわよ。アンタに泣きつく為に来たとでも?」
「あはは、ポンズ姉ならまず有り得ないね」
「ハンター試験はボクは初めてだけど、まさか普通の定食屋がその入り口になっているなんてね。去年ビアーが受けた時はトレーニングジムだって聞いてなかったら直ぐには信じられなかったと思うよ―――時間もお昼を少し過ぎてたし、折角だからポンズとステーキ定食を頼んだんだけどさ」
その口ぶりだとやっぱり合言葉はステーキ定食っぽいわね。確か焼き加減は指を一本立てながら『弱火でじっくり』だったっけ?
印象的なシーンだったからか、結構覚えているものね
なんにせよ試験会場の場所が判ったところで試験日までは会場入り出来ないんだけどね
それからは何時もの通りと言うべきかザバン市とその周辺をちょくちょく探索もしつつ時間を潰していく事にした・・・まぁあまり治安の良い所とは言い難かったけどね
一歩路地裏に入れば怪しいお店とか客引きとか沢山居たし、これは表のお店とかも偽ブランド品とか粗悪品とかが出回ってるでしょうね
クリスマスにはレツとポンズ姉に丈の短いサンタコスをプレゼントして写真を撮ろうとしたんだけど、当日二人に着ぐるみ的トナカイコスを渡し返されてしまった
曰く―――「知ってる?パソコンには検索履歴が残るんだよ?」との事でミニスカサンタの恰好をするのと引き換えに丸い赤っ鼻も完備してあるトナカイの恰好をさせられてしまったけど、これはこれで良いか
新年には記念に撮った写真とかもクリスマスの写真などと一緒に親に送ったりもして三日程経ったら私は一足先にホテルを後にする
元々ハンター試験時には予定を入れていたのでそろそろ移動しようと言う訳だ・・・てか当日までホテルでオーラを垂れ流していたら某変態ピエロが扉の前で「やぁ♡」とか言いつつ現れる可能性が大だからね。実際既にギリギリまで粘っちゃったし、これ以上はマジでエンカウントしそうだ
「今の二人ならよっぽど変な試験内容でもない限りは順当に受かるとは思うけど、受験生に念能力者が紛れ込んでたりとか考えだしたらキリがないし、試験は年に一回なんだから油断だけはしないようにね」
ヒソカとか寿司とかヒソカとか寿司とかヒソカとかヒソカとかヒソカとか・・・
「ハンター試験のいやらしさはアンタよりは体験してきてるわよ」
「うん、分かってる。ビアーも怪我とかはどうせしないだろうけど、体調には気を付けてね」
「大丈夫!今回ルルは私と一緒だし、何時でも何処でも快適安眠よ」
蜂使いのポンズ姉はアリスタは純粋に戦力だけどルルは定期的に羊毛とかをゴールデン・ウールシリーズを扱ってる工場に配達で卸したりしてるからね。ハンター試験は長ければ何か月も掛かるとされているから今回ルルは私と行動を共にする事になっている
今年のハンター試験はそんなに時間が掛からないであろうなんて情報を私が持っているはず無いしね。それに万が一って事も有るし
「それじゃあハンター試験が終わったら一報入れてね。先にこっちの用事が終わってたらメールだけ送っておくからさ」
ハンター試験中は特に電話も使う事は無いし、ポンズ姉の能力で替えのバッテリーとかも持ち運べるから連絡を取ろうと思えば取れるんだろうけど、
二人に手を振りながらもホテルを後にして最寄りの街の空港を目指す。行き先はとある国境沿いに在る街、クウェン市だ。そこから北上した位置に在るパタ市が集合地点となる
「よし!どれだけ影響が出るとか知らないけど、
◇
時は1999年1月7日。第287期ハンター試験当日となった
「う゛ぅぅ・・・やっぱりこういうのはチョット緊張するかな。考えてみればビアーやポンズと旅する前も基本兄さんとの隠遁生活だったから学校とかも行ってなかったし、試験自体初めてかも」
「一般の学園のペーパーテストとハンター試験を同じに考えるのもどうかと思うけどね。私としてはアンタみたいに年相応の可愛げが有った方が良いと思うわよ」
今年度のハンター試験の会場への秘密の入り口が在るとある定食屋の前で少しだけ立ち止まってそんな会話をした二人はそのままお店の中へ入っていく
「へい、らっしゃい!ご注文はお決まりかな?」
店の戸を潜ると今まさに中華鍋で料理している男が視線を向けて問うてくるのに対し、ポンズは指を一本立てて
「“目から
「・・・あいよ。一番奥の右側の部屋に行きな。直ぐに用意させて貰うぜ」
「どうも―――行きましょ、レツ」
「うん。そうだね」
指定された部屋に入ると反対側の壁に一回り大きな扉が付いており、入って来た扉を閉めると少しして部屋全体が振動し始めた
「うわぁ、この部屋自体をエレベーターに改造したんだね。しかもどんどん下に降りるし、ハンター協会の予算ってどうなってるんだろう?」
「それはハンターライセンスの持つ特権具合を見ればとんでもないって事だけは察せるわね。
「あはは、それもそうだよね。正直天空闘技場で稼いだ分だけでも普通に生きていく分には困らないくらいだし―――でもハンターサイトの情報とかだけでも普通に数百万ジェニーとかしてるからハンターとしての活動を続けていくには実入りは大事なんだろうね」
「本業が人形師のレツからしたら実感が湧きにくいかしら?」
「う~ん、そうかもね。ボクだとちょっと持て余しちゃうかな」
二人が雑談を続けていく内に部屋全体に再び鈍い音が響いて大きな扉の上に表示されていた階層数が
辿り着いた先は巨大なトンネルのような空間だった。光源は少ないので少々薄暗く、ポンズ達より前に会場入りした受験者達の物々しい雰囲気がそれに拍車を掛けている
初めての試験には多少緊張が見られたレツだが見た目が物騒な人達との
トンネルと表現したがレツたちが降りて来たエレベーターの在る壁が一つの終点となっていて、反対側も壁で仕切られているので敢えて云うならカマボコ型の空間だ
「番号札をお取り下さい」
新しくそんな空間に降りて来た二人に毎年の係なのか低身長な緑豆顔のビーンズが番号札をレツとポンズに渡す・・・こう見えても彼はハンター協会会長の秘書的立ち位置なのに何故こんな雑務を請け負っているのかは謎だ
それぞれが受け取った番号札はポンズが246番でレツが247番だった
「受け取った番号札は目立つ場所に付けた上で決して紛失しないよう気を付けてください」
番号札を手に取った二人は素直に左胸の辺りに番号札を取り付ける
周囲の者たちも大体似たような場所に番号札を取り付けているが、中には額のバンダナだったり腰のベルトだったり、謎なので言えば上半身裸の戦士系の男も普通に左胸辺りに取り付けていた
「・・・ねぇあの男の人、あの恰好で如何やって番号札をあの場所に取り付けてるの?乳首ピアスなの?この場で穴を開けたの?」
「レツ、仮にも女の子がそんな想像するんじゃないの。この番号札はピンだけじゃなくて裏のフィルムを剥がせば粘着テープになってるのよ・・・結構強力だから剥がす時は痛そうだけどね」
「うわっ、それはそれで嫌だなぁ」
暫く軽口を叩いて指定時刻まで待機していると締め切りの少し前に再びエレベーターの扉が開いて新たに釣り竿を持ったツンツン頭の黒髪の少年に背が高くスーツとグラサンを身に着けた男と見方によっては女性にも見える何処かの民族衣装を着た金髪の青年が入って来た
「あっ!アレってゴンにクラピカにレオリオさんじゃない?三人とも此処まで来れたんだ・・・と云うか一緒に来たのかな?」
「くじら島もルクソ地方も方角的には似通ってるから多分そうね。折角だし挨拶しときましょうか―――変な奴に目を付けられる前にね」
二人が人混みの奥からエレベーターの方に歩いて行くとビーンズから405番の番号札を受け取って改めて試験会場を見渡していたゴン達が真っ直ぐ自分たちに近づいて来る二人の姿を発見する
因みにクラピカが404番でレオリオが403番だ
「レツ!ポンズ!久しぶりっ、会えると思ってたよ」
「なに?ゴン、キミも彼女らと知り合いなのか?実は私もだ。久しぶりだな二人とも、息災なようで何よりだ」
「おいおいおいおい。どんな偶然だ?俺もそいつ等とは知り合いだぜ―――そっちも元気そうだな。ビアーも
「うん、久しぶり!ビアーは相変わらずだよ。今はビアーは別の仕事中だね」
独特な香りが漂ってきている事には敢えて触れずにレツは無難な挨拶を返す。臭い訳ではないが嗅ぎなれない香りと言うのは初見での高評価は下し難い
「先ずは
通常
元から知り合い同士なら試験会場に初めて辿り着くだけなら同時である事が多いからだ
レツも含めて追加で三人の新人に初手で自分の存在をバラされたトンパは苦い顔をしていた
「っち!あの様子じゃ俺の事も喋っちまってるな。ポンズめ、この一年でどれだけ人脈広げてやがるんだ・・・まぁいい。やりようは幾らでも有るんだからな。くっくっくっく!!」
―――尤もファーストコンタクトで『良い人』を装う手が潰れただけで、彼はまだまだあの手この手で新人が苦痛と絶望に堕ちる様を見ようとするのを諦める事は無い。何故ならそれこそが彼のハンター試験の受験理由であり、生き甲斐なのだから
ゴン達が雑談を続けようとするがその前にベルの音が空間に響き、エレベーターの反対側の壁が開かれていく
その先で手に持っていたベルを切ってポケットに仕舞う見事なカイゼル髭を生やした長身スーツが現れた
「って!サトツさんじゃん」
「それって確かルルと出会った時の?」
「うん。ポンズと出会う前に一緒に遺跡掘りをした人だよ。まさか今年の試験官だったなんて」
集まった受験者たちをサトツが見渡す中で一瞬だけ視線がレツの方で止まるが、彼はそのまま自らの役割に従事する
「皆様、大変お待たせ致しました。只今をもってハンター試験の受付時間を終了いたします。そして同時にこれより、ハンター試験の1次試験を開始致します!」
世界最難関の試験の始まりを聞いた事で受験者たちは緊張や不安、愉悦や興奮などの様々な反応を示していく
それから最終確認として試験中の怪我や死などは全て自己責任であり、引き返すなら今だと忠告を発するが試験辞退するような者は当然ながら存在しなかった
「よろしいでしょう。ではこの場に居る404名。全員参加希望ですね」
※会場に辿り着いたのは405名だが一人は変態ピエロと肩がぶつかった事で既に死亡
「それでは皆様、私の後を
クルリと体を反転させたサトツが手足を大きく振って歩き出し、受験者たちがその後に続いて行く
ハンター試験の幕が此処に開いたのであった
▽
サトツが受験者たちを率いて歩き始めてから既に5時間以上経過している
サトツ自身は傍目には歩いているような様子を崩さないままに実際には地球におけるフルマラソン程の速度を維持していた―――後ろを付いて走る受験者達は既に70km以上走り続けながらも未だに一人の脱落者も出てはいない
サトツは一番初めに自身の名前と自分こそが1次試験の試験官で在る事、そして2次試験会場までサトツに付いて行く事こそが試験内容だとだけ告げた
薄暗く景色も単調な何処まで走れば良いのか見当も付かない上でのマラソンは強靭な肉体と精神を持つ受験者の心身を少しずつ限界に近づけていく
まだまだ余裕な表情を崩さない者
既に息がかなり切れてしまっている者
程度の差こそ有れ、ここまで脱落者が居ないと云う事実が試験会場に辿り着くだけでも倍率1万倍は有るとされる狭き門を潜って来た彼らの基礎能力の高さを物語っていると言えるだろう
「へ~!じゃあ前に言ってた遺跡発掘を偶々出会ったプロハンターと一緒にやったって言うのがあの試験官さんなんだね」
「サトツさんね、サトツさん。この1次試験が終わった時か、どこかキリの良いタイミングで挨拶しとくつもりだよ」
「ったく、ガキは無邪気なもんだな・・・それよっかレツ。あの試験官と知り合いなら後どのくらいでゴールなのか“自分にだけ”っつってコッソリ教えて貰う事は出来ねぇか?その情報を教えてくれたら後で缶ジュースでも
「馬鹿な事言ってないで黙って走るのに集中したら?貴方結構息が上がってるわよ?」
「心配無用!いざとなりゃあ3倍速でだって走れるぜ!」
レオリオがスーツの
原作でもたった3週間程で試しの門を2(片腕4t)まで開ける程に成長した彼がビアーとドラゴンの戦闘を見て本気で鍛え始めたならその程度の
ゴンとクラピカも同じく
・・・なお、彼らの案内人を務め、ザバン市まで自分たちの翼で文字通り飛んで運んだ魔獣のキリコ一家は到着時にはグロッキーとなっていた
「レオリオさんも流石に3倍速で走ったらソレを外す以上に体力を消耗すると思うけどなぁ」
「あ~、レツ。お前もレオリオ『さん』じゃなくてレオリオで良いぜ。以前も一緒に仕事した仲だし今回もこうして同じ試験を受けてる者同士なんだ。堅苦しいのは無しで行こうぜ」
「分かったよ。暫く宜しくね、レオリオ」
「おう!」
彼らが
スタート地点から80km・・・脱落者1名
▽
トンネル内を走り続けて最初の脱落者が出たのを皮切りにポツポツと限界を迎えた受験者が出始めた頃、そこから更に
事実としてこの階段で心折られた受験者は多い
だがそれも見方によっては良かったのかも知れない。何故ならこの場で力尽きる者達が仮に地上まで頑張れたとして、きっとその先で命を落としていたのだから
そんな鍛え抜かれた大人たちですら次々と音を上げる中でまだ幼さの残る軽快な声が上がる
「お!階段じゃん。よっしゃ!ゴン、レツ。誰が早く上まで行けるか競争しようぜ。ドベの奴は飯で、2番手だった奴は缶ジュース
「いいよ!敗けないからな~!!」
「はぁ、男の子ってホントそういうの好きだよね。でもボクもサトツさんに挨拶しときたいし、付き合って上げるよ」
「そういう女は変に理屈こねるのが好きな奴多いよな」
「・・・殴るよ?」
「まぁまぁキルアもレツも止めなって。今は競争が先!―――でしょ?」
スケボーを小脇に抱えた銀髪の少年の名前はキルア・ゾルディック
最初の脱落者が出た辺りで自分と年齢の近いゴンとレツに軽い興味を持って話しかけ、ゴンの生来の明るさとレツの程よい
なお、他の皆とも挨拶はしたがレオリオの事を「おっさん」と呼んだ時に彼がまだ10代だと判明し、一同は驚愕した
「っておい!ポンズにレツ!お前らには前に出会った時に10代だって伝えただろうが!なに綺麗さっぱりと忘れてやがる!!」
「いや、だって・・・ねぇ?」
「ええ、あまりにも食い違った情報だからちょっと脳が処理しきれなかっただけよ」
「OK、そういう事なら仕方ないな・・・ってなるかコラァアア!!」
そんな一幕を挟みつつも子供組は階段を他の受験者を次々と追い抜きながら駆け上がる
地上まで高々数百メートル。今までに走って来た距離を無視すれば程無く目的地まで辿り着ける
「「「ゴォオオオオオオオルッ!!」」」
試験官のサトツが地上への出口で立ち止まった直後に三人がほぼ同時に境界線の上を超えた
「やっりぃ!俺の勝ち!ドベはゴンな!」
「むぅ、キルアには負けたけどレツよりは早かったよ!」
「ボクだって負けてないよ。だからご飯の奢りはゴンだよ」
「なにぉおお!―――サトツさん!俺とレツ、どっちが早かった?」
「はて、私の目には同着に見えましたね」
「そっかぁ・・・」
「じゃあ割り勘だね。それはそうとサトツさんもお久しぶりです。此処がゴールなんですか?」
「いいえ、ただの中間地点です。まだまだ先ですよ―――レツくんもまたお会いできて私も嬉しいですよ。以前送って頂いたルルくんのハンカチと靴下は今も愛用させて貰っています」
そう言うとサトツはチラリとスーツの
一緒にルルを発見した仲間として商品としての最初の生産品の一部をプレゼントしていたのだ
先頭のサトツが立ち止まった為に後続が次々と地上に辿り着いて一息を入れる
そうして2分程待った辺りでトンネルと地上を繋ぐ出入口のシャッターが無情にも閉ざされていった。これ以上遅れて到着するような者はこの先に付いて来れないと云う一種の慈悲と言えるボーダーラインだ
「さて、皆さんが今ご覧になっているこの場所はヌメーレ湿原、通称”詐欺師の
既に体力・精神力がかなり削られた状態で濃い霧の漂う足元のぬかるんだ湿地帯を更に天然のトラップ群に注意しつつ走り抜ける
最初に走り抜けたトンネルで2次試験会場までの距離自体は殆ど詰めていたようで程無く彼らは湿地帯を抜けた先に在る洋館の門前まで辿り着いた・・・尤もそれでも人を丸のみに出来るカエルやカメ、ヤバい胞子を撒くキノコなどで数十人ほどは脱落し、加えて
▽
ビスカ森林公園。それがヌメーレ湿原を越えた場所の名称である
ヌメーレ湿原と同じく木々が生い茂っているのに変わりはないが、常に霧が立ち込める湿地帯と比べれば爽やかな風の通る地域であると言えるだろう
その森の中に立つ洋館の中の様子が窺えない巨大な門の前でサトツは立ち止まり後続の受験生たちを待つ
周囲に誰も居らず、なにも無いヌメーレ湿原の入り口の時と違ってこのように分かり易い建物を前に試験官が止まった事で受験者の多くがやっと目的地に辿り着いたのだと思い至り、息を整えながらも内心では安堵する
「皆様、ご苦労様でした。お察しの通り此処が2次試験会場となっております―――ワタクシの役目はここまで。皆様のご健闘をお祈りしております」
ある程度受験者が集まったところでサトツはそうとだけ告げるとまた大手を振って彼らが今来た道を引き返し、森の中へと消えていった
サトツの姿が完全に森の中へと消えていったタイミングで建物の門が開き始め、一体次は何が来るのかと身構えた受験者は奥に在る洋館の前に身長2m後半は先ず超えている巨漢とその巨漢の前でソファーに座り脚を組んでいる緑の髪を大の字や星型ともとれる特殊な結い方にしている勝気な表情の女性を目にした
中へと促された受験者たちはそこで2次試験の課題を告げられる
「―――料理よ!私達が一人ずつ課題を出すから私達美食ハンターを満足させられるだけの料理を作って貰うわ。お腹一杯になった時点で審査は打ち切るから素早く丁寧な仕事を心がけることね」
それを聞いた受験者たちの間には先ず困惑が広がり、続いて失笑する者達が出始める
ハンター試験に挑む者は大半以上が武闘家や荒くれ者、アスリート系が多く、美味しい物を求めるだけの美食ハンターは少なくとも戦闘面では格下であると見下しているのだ
そんな雰囲気を感じ取った女性の試験官であるメンチは視線を鋭くしながらもその場では何も言わずに進行を相方のブハラに預ける
「じゃ、オイラからの課題は豚料理だ。豚ならどの種類でもOKだけど、特に好きなのは丸焼きだね~。この森林公園には沢山の動植物が居るから頑張って探してね~。それじゃスタート!」
始まりの合図を聞いた受験者たちは我先にと豚を探しに外へと駆けていく
豚の丸焼きなんて一頭でも食べたらお腹一杯に成り兼ねない。あの巨漢でも精々数頭だと思った彼らの焦りは中々のものであった
「あんたも意地が悪いわね。この森林公園に生息している豚なんて一種類だけじゃない」
「嘘は言ってないもんね。それに、そうじゃなきゃ試験にならないだろう?」
程なくして試験会場の外から豚の鳴き声と受験者たちの悲鳴や木々が倒れる音が響いてきた
生息している豚であるグレイトスタンプは弱点である額以外はとても堅く、特に鼻先は装甲車並の強度を誇りそれを武器として全力の突進を仕掛けて来る世界一凶暴な豚なのだ
その攻撃力に臆さずに素早く弱点を見つけ、正確にそこを貫く度胸と技量がブハラが真に試したいところであった
そしてメンチとブハラの思いの外受験者たちは直ぐに豚を仕留めて来て調理をしだし、丸焼きを完成させた
結局車くらいは在る豚の丸焼き70頭でブハラのお腹は一杯となり、2次試験の前半が終了する。―――なお、余談ではあるがクラピカは明らかにブハラの体積より多くの豚を食べていた事に真剣に疑問を呈していた
だが本命と言えるのはメンチの課題である
「寿司よ!此処に寿司づくりに必要な最低限の調理器具と必須の酢飯は揃えてあるわ。これらから推測して寿司を作ってみなさい―――それと最後に寿司は寿司でも“握り寿司”しか認めないからね。では始め!」
この世界ではジャポンの文化はそれ程広く知られてはいない。その為受験者たちの間に動揺と困惑が広がっていく
「スシだって・・・ポンズは知ってる?」
「残念だけど初耳よ。試験官が『推測して作れ』と言ってる以上はかなりマイナーな料理なのは確かでしょうね・・・う~ん。用意されている包丁の大きさからして中型くらいの大きさの食材を切るのかしら?」
「―――いや、確か以前なにかの文献で読んだことがある。スシとは酢を混ぜた米に新鮮な魚肉を加えたジャポンの民族料理だったはずだ」
「ジャポン料理か~。ビアーは何かにつけてジャポン文化に詳しかったからスシの事も知っていたのかもね。新年の時もキモノとか言うの着させられたし」
「へぇ、アイツにそんな趣味がねぇ・・・ってそうじゃねえ!魚なんて此処は森の中だぞ!」
「声が大きい!魚くらい川を探せば手に入るだろうが!!」
クラピカが大声でレオリオを咎めるが、当然周囲の受験者たちは「魚?」「魚だ!」と騒いで川を探しに駆け出して行った
なお盛大にポカをしたクラピカは「私は貝になりたい」としょぼくれていたと言う
しかし具材が魚と判明したところで魚を生で食べる文化は珍しく、受験者たちは思い思いに(とても寿司とは言えない)奇抜な料理を出しては試験官であるメンチに突き返されていった・・・まぁ荒くれ者が多いせいか大半はとても料理とすら呼べそうにない手抜き具合だったのだが
そうした中で次に登場したのはレツだ。彼女は銀の皿の上を覆う半球状の蓋(クローシュ)を外してその中身を見せ付ける
「コラーゲンたっぷり。河の主の目玉焼き、三角お米閉じ」
出てきたのは海苔無しの梅干しおにぎりを想像して貰えば良いだろうか・・・ただし梅干しの代わりに焼かれて白く濁ったギョロっとした巨大な目玉が鎮座しているのだが
「恐ろしいわ!てかシレっと河の主なんて仕留めてんじゃないわよ!!」
審査基準にも満たなかった事でレツはトボトボとその場を後にし、続くポンズが料理を差し出す
「毒魚の
「へぇ、天にも昇りそうな味にその醤油は砂漠を何日も遭難した後のオアシスの水よりも美味しそうな隠し味ね・・・それで食う奴が居たらただのバカでしょうがアアアアッ!!」
肩をすくめて立ち去るポンズに今にも包丁を投げつけそうな目をしたメンチだが、そんな彼女の前にやっときっちりと調理が施された一品が差し出された
「小エビのカクテル、マスのマリネのからしソース和えとライス、スシのブルゴーニュ風」
料理の蓋を開けたキルアの渾身のドヤ顔を見据えたメンチは”フッ”と笑いを零す
高級料理店にでも出て来そうな見た目であり、これほどまでの完成度を誇る料理は今日初めて見たと言っても良い
「“握り”寿司だっつってんでしょうが~!!」
宙に放られた料理はブハラが食べ、後ろに並んでその光景を見ていたヒソカは密かに列から外れていじけた様子で川辺に石を投げ始めた・・・彼の
大分場が混沌としてきた中で真打登場とばかりに受験番号295番のハゲ忍者ことハンゾーがその料理を出すとメンチは”やっと真面なのが出てきた”と審査に入った
その様子を見てジャポン出身である彼は2次試験通過を確信する
「―――ダメね。シャリが硬すぎるしネタが温まり過ぎてる。やり直し」
まさかの厳しすぎるダメ出しに周囲で話が聞こえていた数人の口元もハンゾーと一緒に引き攣る
当然それでは納得できないハンゾーが寿司のレシピと一緒に簡単なお手軽料理と評するが、それを聞いたメンチが”寿司を握るのに10年は掛かるから素人に握れるか”と理不尽過ぎる返しをする
大声で言い争っていた二人の会話は当然周囲にも丸聞こえで受験者たちは次々と寿司もどきを持っていき、こうなったら味で審査するしかない(先程ハンゾーを落としたのは何だったのか)としたメンチだが、味に妥協しない彼女の舌を満足させられる料理は終ぞ出てこなかった
「わり、お腹一杯になっちった。てな訳で2次試験の合格者はゼロ人ね~」
そう告げられた受験者達はブーイングを上げまくり、武闘派で
尤もこれはメンチが彼を殺そうとしたのをブハラが物理的に遠ざけて助ける為の一撃だったのだが
メンチは美食ハンターだろうとなんだろうとハンターをやっていれば武芸は身に付くものだと語るが下に見ていた美食ハンターが実は強かったところで試験内容に納得できるはずもない
血の気が多く、メンチとブハラの実力に物怖じしない一部の実力者(ヒソカ)が静かに
2次試験の様子をこっそりと森の陰から窺っていたサトツがハンター協会の審査委員会へ連絡を取っていたのだ。流石のサトツもネテロ会長や十二支んであっても揃って不合格にされそうな試験を見過ごすのは問題だと思ったらしい
合格者ゼロを言い渡したメンチも流石にハンター協会のトップが直接事態の収拾に乗り込んできた事で頭が冷えたのか試験官の辞退と試験のやり直しを求めるが試験官を
メンチは飛行船で受験者たちを文字通り真っ二つに割れたように見える『マフタツ山』まで運ぶと崖と崖の間に蜘蛛の糸のようなものを張ってそこに卵を産み育てるクモワシの巣のもとまでノーロープバンジーで食材を入手し、取って来た卵を見せつける
「これで作るゆで卵は絶品よ。それじゃ今から3分以内には戻って来てね。呑気に崖を降りてたらタイムアップだろうから飛び降りる事を推奨するわ」
底の見えない谷底にしり込みする者が多い中、レツやゴンたちは当然の如く平然と飛び降りて件の卵を無事入手してくる
最後にメンチが折角取って来たのだからと用意した大きな鍋でゆで卵を作り、味見する事となった
「ん~♡美味しい~♪これは
「ええ、ナマモノじゃなかったら幾つか持ち帰ったかもね」
「うん!ゆで卵も美味しいけど卵かけご飯でも食べてみたいな!」
「そうか?これくらいの卵は普通だろ?」
「うげっ。キルアお前実はセレブなお坊ちゃんか何かか?庶民の感覚じゃねぇぞそれは」
「ふふっ、だが二つを掛け合わせた・・・そうだな、ハチミツクッキーなどは確かに食べてみたいかもしれん」
自力で卵を獲って来た者全員が食べ終わるとその満足感を通行手形として飛行船に乗り込む
※脱落者は別の飛行船が迎えに来る
2次試験合格者、42名
う~ん。ビアーが居ない以上はダイジェストに進めるべきとも思いつつ主人公組との出会いを簡略化し過ぎも変だしと葛藤しながら書きましたねぇ・・・
ハンゾーの番号が原作と1番違うのはレツが居るからですね。ギタラクル(イルミ)が居ないので301番以降は元に戻ってます
ヒソカが発信機を持ったイルミ無しで試験官ごっこをしても2次の会場に辿り着けたのはサトツの傍を走る幾人かにバンジーガムをこっそり張り付けてビーコン代わりにした感じです。出来ると原作に描かれてはないですが自分のオーラの大体の方角と距離くらいは感じ取れると思ったので・・・コルトピの『円』の下位互換的な?クロロと戦った後のヒソカがマチの念糸の治療を断った理由の一つもこれかも知れませんねww