私達はテラースさんの操る地面に乗って国境沿いに在る大使館まで戻って来た
「こ、これは一体何事ですか!?彼らは一体!!?」
大使館の職員の一人が私達の姿を見て慌てて飛び出て来る。更にはその人の大声に釣られて一人、また一人とこちらを見る目が多くなっていく
当然よね。只でさえガラの悪い人間が山積みになっているのに、その脇にはコイツ等から取り上げたこの国ではご法度のはずの銃火器が一緒に積み上がってるんだから
それを認識した大使館の人達は信じられないとばかりに凝視したり、反対にしっかりと見つめながらも上半身が仰け反ったり無意識に足が半歩後退ったりしている組に分かれた
これだけで決めつけは出来ないけど十中八九“そういうこと”なんでしょうね
「この者たちはNGL建国の立役者たちだ!」
ボトバイさんの第一声に更に動揺が広がる
こちらを見ていた人達は『何か知らないか』と仲間の職員たちに目で訴えるが当然答えられる人は居ない
「この者たちは麻薬の原料となる木を栽培し、あまつさえそれをNGL国内に建てた工場にて加工していた!機械を持ち込まず、自然の保護・共存というお題目はこやつ等の悪事を隠す為だけに考えられたルールだったのだ!!」
ボトバイさんが遠慮なしに真実を彼らにぶちまける
じっくり話し合おうとすれば必ず一々待ったを掛ける奴が現れるから彼らの脳みそが言語野に指令を送れる程に回復する前に情報の暴力を鼻っ柱に叩き込むのだ
勿論普通は現代社会で負の情報を大声で発信するのは暴動待ったなしの無謀な行為だけど、奇しくも此処は人の数も少なければ携帯電話の一つだってないNGL
有事の際でも村々の代表だけが発言を許されるような『その他大勢』が容易に動けない状況が既に敷かれている状態だ
そうして動揺が治まらない中、私達がNGLに入国する際に案内してくれたお偉いさんっぽい人が他の人の陰に隠れるように動き、位置的に動きがほぼ見えない所まで移動したら身をかがめるようにしてそそくさと逃げ出した
ふむ。これは好都合
私は少しだけ様子を見てからNGLの職員たちにもきっちり視認出来る程度の速度で跳躍して彼らの頭上を飛び越えると、奥に逃げていた人の肩に手を置く・・・この坊主頭な人、身長高いな。こっちがまだ子供ボディなのも相まって肩に手を置くというよりはハンガーのフックの如くに手を掛ける形になっちゃったから不格好なんだけど
それはさておき白々しく他の人にも聞こえるように声を掛ける
「あれあれ~?如何したんですか?こっそりとバイクの鍵なんて手にして一体どこに
一応この大使館もロカリア共和国に出向く場合とかも有るからか搭載能力高めのバイクが数台脇に置いてあるみたい。大荷物を運ぶ必要が有る時は車をレンタルするのかな?
「痛だだだだだ!!肩!肩が千切れる!放せ、放してくれぇええ!!?」
別に女として生まれて特段背が低い訳でもないから高身長に憧れとかはないけど、恰好良く決められなかったのは少しアレだもんね」
「それで私の肩が砕けそうになっているのは理不尽過ぎやしないか!?」
「乙女の心情を勝手に読まないで下さい。それと、本当に理不尽だったのかどうかはこの人達に決めて貰いましょう」
え?途中から心の声が漏れてたって?いやだな~、そんな初歩的なミスなんかしてないよ(圧)
私はこちらを見ていた大使館の人達の下へ彼を突き出すと周囲から刺すような視線が彼に集中する
「館長・・・納得のいく説明はなされて下さるんですよね?」
おお!職員さんの瞳が完全に据わってる。まぁ一般職員たちだって機械をこの国に持ち込めば処刑や実質的な終身刑とかも
表も裏も関係なく
まぁこの状況で
それどころかボスも含めて中枢を担う奴らが軒並み捕まってるせいで興奮したのか途中から同じ大使館勤務の仲間が知らんぷりを決め込もうとしてたのに対して「私を助けろ!」と愚かにも縋りつく始末・・・は~い!追加で3名様ロープ縛りコースにご案な~い♪
結局やはりと言うべきか館長だったり班長だったりと上役ポジションの人達がアウトだったみたい
今は表の職員たちが肉にも皮にも肥料にもならない田畑を荒らすだけの害獣でも見るような目で見ている
だからといって本当にこのまま大地のシミにしてもらっても困るのでとっとと捕らえていた奴らの所に放り込んで物理的に距離をおいてもらう
彼らがそれで少しは落ち着く間にボトバイさんが大使館に置いてある設備を借りてチードルさんへ
世界情勢への働きかけとか面倒なのは彼女やミザイストムさんが請け負ってくれているから現場は楽だ・・・いや単に私じゃ政府とかへのパイプがほぼ無いから手伝えないって話なんだけどさ
貿易に強い影響力を持っているパーシナモンさんとかは同じ麻薬でもDDや普通の麻薬とかの流通とは独立してるから関係ないし、仮に彼の商会が出しゃばったら今、通常(?)の麻薬を流通させている人の職を奪っちゃうからね
今以上の無法者になられては本末転倒だし、彼らには頑張って『キレイなハッパ』を新しい世の中に浸透させて貰わないといけない
「皆さん!動揺は分かりますが、今回の件で他国に多大な迷惑をかけていた以上は既にこの国だけの問題ではありません!しかし先ずはこの国自体の意思を統一するのが今すべき事です。各村々の代表に招集を掛けていただく事はできますか?後手に回れば他国が機械文明を適当な大義名分引っ提げて押し付けようとして来かねないですよ~!」
彼らからしたら面倒を掘り起こした私達に対する「お前が言うな」的な葛藤も有るだろうけど、この場でそれを言うのはつまり「へぇー、あなたはNGLの人なのに機械文明が国内にあったのに何も感じない人なんだ~?ほ~ん」・・・と指摘されるって事だからね
「確かに招集そのものは可能です。国民に配ってあるNGLの教本に緊急時のマニュアルも載っているのでゴネるような者は国民には居ないでしょう。しかし、ご存じの通りこの国では連絡や移動手段が基本的に徒歩か馬です。一番遠い西の海岸線の村一つに向かうだけでも馬を使い潰すつもりで走らせても丸2日は掛かりますし、全ての村に連絡を廻して代表が全員揃うには早くとも
うっは!役に立たないわね、その“緊急”マニュアルの全員招集の項
まぁそんな緊急事態が早々起こるはずも無いってのも理解は出来るんだけどね
馬しかなくて半ば獣道を突き進むとか考えたら十分早いのかな?
村同士の交流も最低限と思えば各村に早馬の設置とかもしてないだろうし
「伝書鳩とかもやっぱり居ないんですか?」
機械文明に頼らない長距離の連絡手段としては常道だよね?
「はい。村同士の多少の交流は有れど、基本的には自給自足で完結している国ですからね。普通は馬で十分事足りるところを伝書鳩の管理・飼育の手間を考えると割に合わないものですから」
そりゃ殆ど使わない毎月何十万ジェニーも掛かる家電とかだったら誰も置かないか
う~ん。多少時間が掛かるとしても出来れば短縮できる所は短縮したいんだよね~
今年のハンター試験って順当に行けば2週間かそこらで終わってた筈だし、半年後に幻影旅団とぶつかる事を想えばこっちの事情で時間を掛けたくは無いのよね
蜘蛛の連中とか漫画の一ファンとしては見てて面白いけど、同じ世界に住んでいると考えると途端にヤバイ奴らだからね
一網打尽に出来る機会が有るなら狙わない手は無いでしょう
まぁそれに?何時か誰とも知らない奴に狩られるくらいなら
「では各村の詳細な位置を記した地図と大使館発行の緊急招集の手紙を用意してくれますか?」
「ええ、それくらいなら直ぐにでもご用意できます・・・しかし結局それらを届ける手段が馬しか「走ります」・・・はい?」
「多分この中で一番足が速いのは私なので自前の足でNGLの各村を駆け抜けます。それが一番手っ取り早いですからね」
テラースさんは捕まえた奴らの見張りにとても有用な能力だから万が一にでも自力での逃亡を阻止するのに残る必要が有るし、グラチャンさんはボトバイさんとテラースさんの補助に回ってもらう必要が有るからね
見張りにしろ分析や連絡や指示にしろ一人だけだと休みも取れない
如何にプロハンターと云えども適度な休息は必要だ。たとえ1週間は不眠不休で動けるのだとしても集中力が低下すれば思わぬ凡ミスだってするんだから
「マジかよ。あちゃ~、俺って書類とか仕分けたり読み込んだりするの好きじゃねぇんだけどな」
「元々グラチャンさんと私はサポートポジションだったじゃないですか。子供の私は元気に野山を駆け回る事にしますから私の分も頑張って下さいね♪」
「・・・俺の『
「生態系狂わせるので却下で」
NGLの国内を縦横無尽に津波がお通りしたらガチで国がヤバイし、それをやったハンター協会が全世界から袋叩きにされるわ!
グラチャンさんと話しつつ雨で体が冷えないように軽いストレッチをしていると仮の代表的に応対してくれていた女の職員さんが何だかお怒りの表情だ
「今は国が大変な時なんです!自分の足で走るとかそんな子供の冗談に付き合っている暇はないの!―――さっきから何度も・・・そんな冗談でも流行っているのかしら!?」
あらら、ウマむ〇めだってスタートから置き去りに出来る私の脚力が信じられないみたいね
まぁ
・・・てか『さっきから何度も』ってどういう意味?
私が軽く首を捻っていると代表(仮)の人に喰ってかかる人達が居た
「だ、だから言ったじゃないですかぁ!私達はあの人達を見失ったのは気を抜いてサボってたとかじゃなくって、彼らがとんでもないスピードで私達を置き去りにしたからだって!!」
「そんな下手な冗談を言い訳に使ったりしませんよ!俺たちの主張が正しいってこれで分かるはずです!」
ああ・・・私達の監視役に付いて来てた人達か
あの後ここに戻って来て職務怠慢と判断されて怒られちゃった訳ね
よく見ればその隣で腕を組んで頷いてる人も居るけど、確かあの人はカストロさん達の案内役だったはず・・・二組揃って怒られた訳だ
置いてけぼりにした私達が言うべきじゃないだろうけど、理不尽に怒られるとか哀れな・・・
「何時までもそんな虚言ばかり吐いて!だったらもしもその子が馬よりも速く走れたならこの件がひと段落した時に皆に高級レストランで好きなもの
※後日、彼女の給料約3ヵ月分が彼らの胃袋の中へと溶けていった
なお、1ヵ月分の時点で顔面を蒼白にし、2ヵ月で冷や汗と小さく謝罪を繰り返し、3ヵ月時点で泣いて
監視対象を見失った叱責だけでなく、ジャイロたちの後始末に奔走する日々で溜まった職員たちの
売り言葉に買い言葉でケンカ腰にヒートアップしていった職員さん達は最終的には鬼気迫る表情で机に噛り付いたかと思えばテキパキと手を動かし、程なくして私の前に地図と緊急招集用の手紙の束が突き出された
突き出した代表(仮)の女性は『やれるものならやってみろ』と目の奥に書いてあるし、その後ろで此方を見つめる3人の瞳には『やっておしまい』と浮かんでいる
うん。まぁ意地悪する理由も無いしね
それに時間も惜しい
NGLの末端の国民は約200万と少しで如何やら一つ一つの村に住んでいるのは大体100人から200人
細かい村落全てを合わせたら1万5千前後は村々が存在する事になる
代表(仮)の人に詳しい事を聴く限りでは緊急時に複数の村を束ねる一区画における村長のトップ・・・町長みたいな人が居る場所に手紙を届ければ良いそうで、実際に私が届ける手紙の数は凡そ1000枚ちょいってところだ
代表たちの移動も考えると今居る最東端の大使館側じゃなくて最西端の海岸線沿い辺りまでダッシュしてから手紙を渡していくべきだよね
・・・もっと町長から町長への連絡網をしっかりと組んでいたら一つの村に手紙を送るだけで後は勝手に全ての村々に伝わるだろうに、それをしなかったのは裏のNGLの職員が巡回とかの名目でスパイが紛れていないかとかを自分たちの目で確認できるようにとか、反逆が起きにくいようにとか、自分たちが下手を打った時に情報が外に漏れる前に周辺の村々ごと始末出来るようにとか、ネガティブな方向ばっかり思い浮かぶわね
「あの、この手紙を入れた袋って防水仕様ですか?」
「ええ、一応そうだけど当然化学製品のビニールとかゴムみたいな性能は無いわよ。出発するにしても雨が上がってからにしなさい―――その頃には何人か馬で手紙を運ぶ役も確保できるはずよ」
ああ~、本当に完全に私や彼らの言を信じてないわね
どうせ雨で出発出来ないんだからその間に集められるだけ人数を集めて皆で馬を駆って手紙を届けようって魂胆な訳だ・・・と云っても精々30頭くらいね
近くの馬小屋の様子を感じ取るにそのくらいしか居ないし
そもそも雨って予報だと明日までは降り続いていたはずだし、そんなに待ってられない
荷物は『周』を掛けてあげれば風圧も雨水の浸透も問題無い
さっき見た時に地図に載ってる村の配置は大体覚えたから村で手紙を渡している時とかに偶に確認すれば十分でしょう
「うん!問題無し!それじゃあボトバイさん、グラチャンさん、テラースさん、早速だけど行ってきます。多分明日には帰れると思うので」
「うむ。手紙の件は任せよう・・・人を
ボトバイさんの言葉になんだか妙な副音声が聞こえた気もするけど、気にしない事にして西に向かって前傾姿勢を取る
「海岸までは少し距離が有るし、取り合えずリニアより速ければ良いかな?・・・あ、この世界ってリニア無いんだっけ?」
飛行船が最高の移動手段って時点でお察しなんだよねぇ・・・凶悪な魔獣や猛獣が居るから下手に都市開発も進められないので都市と都市の間に距離が有るのが原因なんだろうね
え?リニアモーターカー(600~700km/h)並みの速度とか無理だって?嫌だなぁ、原作キルアだって40kmの道のりを
只管オーラを鍛えてきた私にとっては速めのジョギングの域を出ないね!・・・あれ?チーターな蟻のジョギング速度ってどの程度だったっけ?
※160~180km/h
その独り言を最後に片足を力強く踏み込むと私の体は地面スレスレに前方に吹っ飛ぶ
素直に道順に行けば木々が邪魔過ぎるので基本は跳躍染みた走りで目的地を目指す
生い茂る森の木々の天辺の細枝もオーラで強度を補強してやれば十分過ぎる足場に早変わりだ
これも筋力+オーラのパワーと人間の体重が前世と比べてアホみたいに噛み合ってないからこその走法だよね!
そうして私は1時間と経たずに最初の村に到着した。NGLは大体東京~名古屋くらいの横幅しかない小さな国だからね
▽
「はぁ・・・緊急招集とは穏やかではありませんな。しかし、この手紙は間違いなく大使館のモノ。我々長たる者にのみ教えられている暗号が書いてあるので確かでしょう。して、如何いった内容なのかはお嬢さんはご存じですかな?御覧の通り儂ももう老体でしてな。キビキビ動き回るのは厳しいものが有りまして」
私は今最初の村でそこの村長(町長?)と出会って手紙を渡している。なんだか《転生したら亀でした!》とかなりそうな感じのお爺ちゃんだ
流石に設定だけ存在していたと言っても過言じゃない国全体への緊急招集は手紙こそ死蔵に近い形で保管されていたけど、詳しい内容まではその状況に応じて一々書いてられないもんね
そしてこのお爺ちゃんは招集には応じるし急ぎもするけど、120%の全力で招集の為に動くのは遠慮したいって感じかな。でも此処が一番遠い場所なんだし、出来ればさっさと動いては欲しいんだよねぇ
「実はこの国の一部の人達が機械文明を持ち込んで人知れず
「宜しい!それは一大事ですな!不届き者どもを畜生の餌にして次に同じことが起こらぬようにせねばなりませんな!!お嬢さんは直ぐに次の村に向かいなさい。今こそ国が団結する時です!!」
「―――あ、はい。失礼します」
NGLの教義ヤバイわね。宗教戦争とかしていた頃の教会並みの異教徒・異端に対する弾圧姿勢だ
流石に此処に到着した時はかなり疲れてたけど手紙を渡したりしている間に『絶』で疲労回復を促していたから短距離なら十分走れるわね
此処から先はダッシュ&ストップの繰り返しだ
私の白筋(速筋)が唸る唸る。飛脚式郵便配達(一国)は良い修行になるね
レツやポンズ姉たちもハンター試験で(恐らく)百数十キロのマラソンやってるんだし、プロハンターの私は千キロマラソン位はやっとかないとダメでしょ(意味不明)
それからの私はNGL国内を縦横無尽に駆け巡った
夜が深くなったら街灯とかも無いので完全な暗闇になるけど、私には関係ないしね!
『円』かって?勿論それも有るけど今の私の身体強化率なら夜行性の動物とまではいかないだろうけど、『そこそこ暗い』の域を出ないものだ
流石に基となる機能が低いとオーラでブーストを掛けまくってもこの程度か・・・要修行ね
今は感覚的に深夜零時を回るか回らないかって所かな?でもそんなの関係ねぇ!こっちには緊急のお手紙届けるって大義名分が有るんだから突撃一択だ
「頼も~っ!!そしてこんばんは~っ!!大使館から緊急招集のお手紙です。村長さんのお宅はここで宜しいですか~!!?」←深夜テンション&ランナーズハイ
「な、何事だね!?ち、ちょっと待ちなさい。今灯りを付けるから」
突然の訪問にもかかわらず直ぐに対応に動いてくれるのは良いけど真っ暗闇の中で種火とかも確保してないなら普通の人間が即座に火を付けるのは難しい
そんな訳で私はポケットから大使館を出る時に渡された火打石を取り出すと部屋の中央の
・・・まぁ手加減したと言っても『周』で強化されたソレを使った瞬間は焚火クラスの炎が巻き起こったけど、幸いにして一発で
「い、今の炎は?」
「火打ち石です」
「いや、火打ち石と云うよりはまるで火炎放射器かのような・・・」
「火打ち石です。一般には知られてないだけで目にも映らない位の速度で打ち合わせると―――」
「これくらいの火は出るんですよ。それより手紙に目を通して頂けますか?緊急招集です」
「う・・・うむ・・・」
何処か納得してない感じだけどそれ以上は何も言わずに手紙に目を落としてくれた
てか火炎放射器知ってるんだ
まぁNGLはまだまだ建国から日が浅い国だから高齢者は機械文明もそこそこには知ってて当然か
そんな事を頭の隅で考えていたらこの家の扉の外から誰かが入って来ようとしている気配を感じた
「
「ぬ?ジェイル、どうしたのだ?それほど慌てて何か有ったのかの?」
焦った様子で入って来たのは若干ギョロ目な男性で手には木製の
気配自体は感じていたはずなのに扉の前に来て意を決するまで危うくその存在を無視しかけたわね・・・疲れて集中力が落ちて来てるのかな?
「なにか有ったのはそっちだろう!偶々目が覚めて便所に行こうとしたらこの家に火の手でも上がってるような強い光が見えたんだ。一瞬見間違いかとも思ったんだけどよ。さっきまた爆発したように光っただろ?絶対に可笑しいと思って急いで来たんだぜ?」
あ~、街灯も何も無い暗闇だからこそ遠くの灯りもよく目立つか~
「それでこっちの嬢ちゃんは誰なんだ?こんな夜中に他の村から来たのか?夜の森を一人で抜けて?自殺行為だぜ?」
「これっ!客人に対して口が悪いぞ!―――まぁ説教は後で良い。それよりも緊急招集の手紙が届いた。ジェイル、お主は儂の代わりに周囲の村々への伝令を頼むぞ。コレが届いたならば悠長にはしておれんだろうしな。儂は夜明けと共に出発出来るように準備を整えておくからの」
「緊急招集って今まで一度も発令した事の無かったあれか?って、おいおい、慌て過ぎて大事な事を忘れてるぜ
「お、おお、そうであったな。既に薄暗かったので雨が上がってから詳しい状況を見ようと言っていた件だな。確かにあの道が通れんと大使館へ行くにしてもお主の伝令にしてもかなり遠回りをせんといかんくなるし、他の招集を受けた村長にもあの道を通る者達も居る・・・儂等はまだ良いがその者たちに大きく迂回させようとすれば土地勘が無い以上は危険だ。うむぅ、如何にか馬が通れる程度の隙間でも無いものか・・・」
そっか、この村から東の方に向かう為の道が塞がっちゃってる訳ね。目的地がすぐ近くなら最悪人一人分くらいはよじ登ったりすれば通れるんだろうけど、馬での移動を考えるとその手段は取れないからね―――仕方ない、ここは手を貸しましょうか
「その道が塞がってる場所は何所ですか?私がなんとかするので方角だけ教えて下さい」
私は基本直線での移動だから方角さえ判れば問題無い・・・と云うか街道とかが整備されてない以上は『道なりに』とか言われても迷う可能性が普通に在るからね
足跡などの痕跡もこの雨でかなり消えかかってるだろうから私の『円』でも正規ルートを割り出すのはかなり面倒だ
なにせ獣道と普通の道の差なんて殆どないってレベルなんだし・・・もっと近隣の村とも交流しろい!馬車なんてほぼ無い?森を拓くなんて環境破壊で許されない、馬二頭がすれ違い出来れば上等?国民全員引き篭もり気質で開拓すら最低限だからこそって感じね・・・頭痛いわ
「あ~、嬢ちゃんが如何やってこんな夜中に此処まで来れたのかは知らねぇけど塞がれた道を如何にかするってのは手紙を運ぶのと違って力仕事なんだぜ?嬢ちゃんの細腕じゃ何日掛かるか分かんねぇよ。それよりも朝になったら村の男衆全員畑仕事から一時離してでも搔き集めてやるからそれまで待った方が良いぜ?」
だ~もう!こっちは手紙配達RTAの真っ最中なんだから常識人の相手は面倒臭い!!こちとらボトバイさん達に明日には帰るって宣言しちゃってるんだからさ!
※深夜テンション(2回目)
ならばここは彼らに非常識というものを体験して貰いましょうか
村長さんは火打ち石パフォーマンスをした後だしこっちの彼だけで良いかな
「ちょっとこの松明借りますよ」
「あん?お前さん何して・・・おい、なんで無言で近づく?近い近い近い!おわっ!!?」
私は壁に立て掛けてあった松明を手に取ると囲炉裏で火を付けてそのまま玄関に居た彼の下へ近づくと“スパンッ”と足払いを掛けてお姫様抱っこの形を取る
大人の男性に対して少女がやるこっちゃないけど、小脇に抱えるとかは彼の体が耐えられないだろうから仕方ない
「ちょっと待て!どういう事だ!説明しろ!!」
「はいはい、口を閉じないと舌嚙みますよ~」
大分雨の勢いも落ち着いてきた外に出ると少々膝を曲げてそのまま真上に跳躍!
ハッハ~ッ!!今の時点で100メートル程度は上昇してるね~!!まだまだ上昇中♪
どっかの猫さんに迫るオーラ量に圧倒的な身体能力の差(マイナス)と強化率の差(プラス)
諸々考えたらこの程度は出来て然るべきってね!
「ひっぎゃああああああ!!?高い高い高い!下が見えねぇ!?どうなってんだよ!?何したんだよアンタっ!!」
「ただの垂直跳びですよ。それよりほら、崖崩れの有ったって場所の方角はどっちですか?」
「こうも暗くちゃ分かんねぇよ!今俺がどっちを向いてるのかさえ「じゃあ明るくしますね」」
彼のセリフに被せてこんな事もあろうかと手にした松明を『周』で強化すると光源としての性質が爆発的に強化されて夜の闇に照明弾よりも明るい光が周囲に満ちる
眼下の村の形だってばっちりだ
「それでどっちです?答えてくれないともう一度ジャンプしますよ?」
既に跳躍で得た上昇エネルギーが重力に敗けて落下エネルギーへと変換されているので内臓が裏返るような感覚が彼を襲っているでしょう
一応私も明るくなった周辺を見渡してみたけど、単純に死角となっているのか塞がっている道とやらは見つけられなかったです
ああ、これはやっぱりもう一度ジャンプするしか・・・
「あっちだ!真っ直ぐあっちの方向に2キロくらいっ!」
慌てて目的地を震える指で指示したその方角を目に焼き付けて地面に可能な限り衝撃を殺して降り立った私は彼を地面に下ろして上げた
「し、死ぬかと思った。あと一歩で俺の尊厳ごと死ぬところだった・・・死んでないよな、俺?まだ生きてるよな、俺?」
「尊厳?」
「―――いや、
男のプライドは確かに関係ないけど、人の矜持は普通に関係有るんじゃ?
それじゃまるで私が人間じゃないみたいにも聞こえるよ?
「いや、あんなもんどう考えてもバケモn・・・」
途中まで何かを言い掛けた彼の目の前に突き出すように松明を差し出す
逆手に持ち替えてちょっと鼻先に槍をぶっ刺すような形になってるのに意味は無い・・・無いったら無い、OK?
高速で首を縦に振ってとあるトナカイさんもビックリな真っ赤な[お鼻/お花](鼻骨から後頭部貫通)ルートを回避した彼に松明を預けると私は再びの跳躍で指し示された方角へと向かう
程なくして辿り着いたそこは元は
よくよく目を凝らすと崖から飛び出た腐った木の根が見えるから崩れた部分を支えてた木が寿命か病気で弱っちゃったのが崩落の原因みたいだ
「ありゃ~、これは道を掃除すれば万事解決!って訳にはいかないね~。崖の中腹辺りが抉れてるから掃除の振動だけで二次崩落しそう」
かなり小降りになったとは云えまだまだ雨も明け方までは降るだろうし、朝になって人が集まった時にそんな事が起きたら下手したら死人が出る。馬鹿な野次馬的な人は何時いかなる時と場所でも湧いてくるからね
それに折角道を通れるようにしてもその後すぐに塞がっちゃったら本気で意味が無い
崖下にアッパーでも繰り出す?いや、地盤が緩んでるところにそんな衝撃を加えたら十中八九他の箇所が不安定になるから本末転倒だ
素手で崖上を掘って地道に削る?
流石に泥んこまみれには為りたくないし、手の平じゃ表面積が狭すぎて時間が掛かる
さっきの村に戻って
それでも一般人向けに造られた道具だと一度に掘れる範囲が結局狭いんだよねぇ
幾らオーラを籠めても道具が持ち主の意思を汲んで巨大化したり謎に広範囲に影響を及ぼすようになったりとかしないし、衝撃波は飛ばせるけどそれって道具の性質を付与されてないただの衝撃波だから崖崩れ第二波待ったなしだしね
「出来れば崩れかけの怪しい箇所は全部排除しておきたいからデカイ道具は欲しいんだけど、流石に無理かなぁ?」
諦めてシャベルとかで地道(超高速)に作業しようかと思った所でふと気付く
「あ、そっか。無いなら作れば良いんだ」
これが正解!やはり私の頭脳は鍛えられているようだな!(確信)
私は小道具入れから石のナイフを取り出すと近くの木に巻き付いていた
そうしてナイフがより大きな円を描くように徐々に蔦を伸ばしていけば即席の大きさ可変式
なんの抵抗も無く大岩を真っ二つに割ると切り口から幅10cmくらいの場所にもう一度丸鋸の刃を通して岩を切り出す。切り出された岩は前世で云うところの巨大な石の通貨である『フェイ』みたいな感じ(穴無し)になった
ナイフから蔦を外したらお次にその岩に巨大シャベルの線を描いて石のナイフで切り抜いていく
カッターナイフでプラ板に描かれた絵を切り抜く様子をイメージして貰えたら硬さと大きさに目を瞑れば大体正解かな?
こうして日朝の工作テレビくらいのノリで雑に作られた掘る部分の面積を通常の10倍以上にした最低品質の石のシャベルを手に取った私は一つ頷く
どれだけ粗悪品であろうと特定の目的の為に作られた道具である以上はその性質を発揮する
戦闘面ではあまり武具に頼らない私だけど、色んなミッションを熟す上では道具の存在は有用だ
雑だろうと不格好だろうと最低限の体裁さえ保ててさえいれば後は私のオーラでゴリ押せる
「よ~し、崖上を切り取って二度と崩れたりしないように何だったらアーチ状にしちゃう?片側だけじゃ不格好だしアーチとアーチの間に道が通る感じで・・・いやいや、そこまでやるんだったら利便性を求めて階段状に掘り抜いてやりますか!」
後日、その道を通った者たちは急に現れた地形変化とビアーが作業後に道の隅に突き立てた巨大シャベルを見て巨人の姿を幻視したと云う
それからもビアーは手紙を各村に届けながらも少しでも遅延が発生しそうな事態に対し、害獣駆除してついでにその肉を振舞ったり(村長はさっさと出発させた)壊れた吊り橋の隣に大きな木を縦に板状に切り裂いたものを何枚か敷いて即席の橋を掛けたり国の招集なんて従う必要は無いとかほざくテンプレな村長の息子でイキってるチンピラ集団に『御免なさい』させたりして無事に大使館へと戻って行った
四日後、大使館の前に代表たちが集まった
なんか次回冒頭だけでNGL編が終わりそうな予感が・・・気のせいかな?でも最後まで書こうとすればかなり時間が掛かりそうだからこの難産話をとっとと世に送り出す事にしますね
願わくばこの話でスランプごと切り離せる事を祈って