毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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年内投稿間に合ったか~


狩人と盗賊

幻影旅団のリーダーであるクロロ=ルシルフルとクラピカの戦いは苛烈を極めていた

 

クラピカの恵まれた戦闘センスに試しの門を素の状態でも4の扉までは開けられる筋力。キルアのヨーヨーと同じ材質の具現化された鎖に遠心力を上乗せした質量に延々に終わらぬ責め苦(しゅぎょう)の大半を費やして養われたプロハンターの最高幹部である十二支んにも迫るオーラ量。そしてそれら全てを発動時間1秒につき1時間、己の寿命を削る事で引き上げて且つ全系統能力の威力をも100%まで発揮できる狂気の『発』である【絶対時間(エンペラータイム)】で底上げしたクラピカの振う鎖の破壊力は並の念能力者の『硬』の防御など紙切れの如くに吹き飛ばす

 

更に彼の今振るっている『束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)』はA級以上の賞金首(・・・・・・・・)にしか使えないという制約とそれを破れば自らに刺した『律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)』で死ぬという誓約により二重の意味で命を懸けたブーストが掛かっている状態であり、制約(ターゲット)を考慮しなかったとしてもこの鎖を問題無く(さば)けるような者などネテロやマハ、ビアーやジンなどの上澄み中の上澄み(トップ オブ トップ)の領域の者だけだろう

 

その領域に片足を突っ込んでる程度のクロロでは苦戦は必至と言えた

 

(ウボォーの【超破壊拳(ビッグバンインパクト)】並みの攻撃がフェイタンの連撃並みの速度で襲ってくる。この鎖は俺を捕らえたいようだが、下手に避け損ねたら捕まらずとも致命傷となるな)

 

クロロは常人ならば身がすくんで動けなくなる程の死の圧を纏った鎖の暴威の中を澄まし顔で駆け抜ける。彼にとって死とは日常であり、別段恐れるものではないからだ

 

そうして見る者が見れば思わず感心してしまう程の体捌きでクラピカとの距離を詰めていく

 

だが鎖を弾いたりもせずに回避だけで距離を詰め切るのはクロロと言えども至難であった

 

遂には避けるだけのスペースを失い、好機とばかりにクラピカが右腕を引き絞るのに連動して鎖が一気にクロロに向けて収束する

 

 

―――【盗賊の極意(スキルハンター)】!!!

 

クロロの右手に具現化した本が握られ、それと同時に彼は左手で何かを弾く。そうして次の瞬間にはクロロが数メートルほど瞬間移動して鎖の難を逃れた

 

「今のは任意の空間への跳躍!?いや、オーラを目印とした座標の入れ替えか!」

 

「正解。能力名はそのまま【イレカエ】だ」

 

先程クロロはオーラを纏わせた小石を弾いて自分とその小石の位置を入れ替えたのだ

 

なお、何処かの世界線の高田ちゃんのファン(ゴリマッチョ)の術式のように発動条件に手を叩く必要は無いが、効果範囲は然程でもないようである。しかし長距離転移が出来なくともお互いの声が届く間合いの戦闘では全く痛手には成らない弱点(マイナス)

 

クロロは連続した短距離転移(ショートジャンプ)でクラピカとの間合いを更に詰めていく

 

(落ち着いて目を『凝』らせ。奴のオーラを見逃さなければ転移に惑わされる事は無い。寧ろ回避先を限定できるならこちらから罠を張れる)

 

クロロが再びオーラを籠めた小石を指弾の要領で弾く。簡単に転移先を特定されないように複数個の小石を弾いているが、その程度に適応できないクラピカではない

 

(―――ここだッ!)

 

クラピカの操る鎖がクロロを追い詰めつつ全ての小石の軌道上にもその身を(おど)らせる

 

絶対時間(エンペラータイム)】で操作系の威力も100%まで発揮できるクラピカならば意思有る蛇のような複雑な軌道を描く事も可能なのだ

 

しかし投げられた小石の軌道がいきなり変わり、クロロは安全地帯(その場)に転移して鎖を避けてしまう

 

「俺のオーラを籠めているんだ。小石程度なら軌道を操作する(ズラす)のは訳はない」

 

クロロの【盗賊の極意(スキルハンター)】は様々な系統の『発』を盗んで使える副次効果として他系統の念への理解が深まり易いのだ

 

心源流の全系統山なり修行のように理想的とまでは行かずとも、それに近いレベルで基礎が固まっているのである

 

(しまった!投擲(とうてき)した物を操れるとなると奴の能力の自由度が格段に跳ね上がる!!)

 

焦燥が湧き上がるクラピカがクロロの新たな動きに適応する前に彼我の距離がゼロとなり、目の前に現れた仇に殴りつけるように鎖を振るうクラピカの攻撃は―――見事に空ぶった

 

「ぎっ!?ぐぁっ!!?」

 

最後に小石ではなく自分と相手の位置を入れ替えたクロロは装備していた毒を仕込んだベンズナイフを逆手に持ち、背後のクラピカの背中へと突き刺したのだ

 

(急所を狙ったのだがな。上手く身体を捻ったようだ)

 

クロロのナイフには0.1ミリグラムでクジラすら動けなくなるレベルの麻痺毒が仕込まれているので当たりさえすれば問題はないのだ

 

「―――っ、『癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)』!!」

 

ただし原作(ふつう)のクラピカ相手ならばである

 

癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)』は怪我を治す能力ではなく正確には自己治癒力を高める能力。それ故に発動さえ出来れば毒にも有効な働きを得られるのだ

 

毒キノコスープを目から垂れる塩気をアクセントに飲み干す日々を送って来なければ能力の発動すら覚束(おぼつか)なかっただろう

 

0.1ミリグラムでクジラを動けなくする薬とか常人ならば普通に致死量レベルなのだから・・・

 

すれ違う形となった両者は振り向きつつ間合いを計りながら相手を観察する。何気ないワンアクションでも能力発動のトリガーとなり得る以上は『凝』を怠って良い瞬間などないのだ

 

相手の『隠』を見破るだけの『凝』を維持しながらも十分な攻防力を出すのに必要なオーラ量は十分に鍛えてもらったのだから(なお)の事

 

「回復か。それに解毒効果も有るのか?具現化系にしろ操作系にしろ、本来有るまじき性能だな。それだけの能力は逆に要らないな。相当なリスクを抱え込んでいるのだろう」

 

「さて如何かな?ただの才能かも知れんぞ?」

 

「ぬかせ。どう考えても籠められたオーラ量以上の働きをしている。特別なリスクを負っているのは明らかだ。その回復、あと何回まともに使えるかな?」

 

「貴様らを狩りつくすまで―――何度でもだ!」

 

再度始まった二人の攻防は先程までのものより更に激しく周囲一帯を切り裂き、破壊の渦へと飲み込んでいく―――その鈍色(にびいろ)鎖が竜巻の如く(うな)る様は正しく『リッパーサイクロトロン』と形容できるだろう・・・どこぞの誰かのグルグルパンチとは違うのだ

 

“ビッ!!”

 

またしても転移で安全地帯へとワープしたはずのクロロに正確に鎖が追従して彼の頬を抉る。それを受けて再度ワープで距離を取るが、そこにも鎖がタイムラグ無しで迫り、今度は彼の左腕から血飛沫が舞う

 

(俺の転移先を正確に把握してくる。ただの反射で鎖を繰り出している訳では無い・・・薬指(あの)鎖か。俺の転移に合わせて鎖が揺れている。相手の意思や感情に反応するのか、自身の感覚の鋭敏化。または未来視の類いといったところだろう。『ただの才能』と云うのもあながちバカには出来んな。いくら制約と誓約で縛っても凡百の能力者ではこれだけの能力を個人で併せ持つ事は出来ないだろう)

 

個人で七つの矢(能力)を使い分ける原作ポックルみたいなのも居るが、あれは一つ一つの能力がシンプルであまりメモリを圧迫しない仕様だった為である

 

回復や概念系が入っていそうな探知に強制『絶』などを半年という期間で実戦レベルで習得したクラピカは間違いなくメモリ強者な天才なのだ

 

「成程。ただ避けるのは難しそうだ。ならばこちらはどうだ?」

 

クロロが右手に持つ【盗賊の極意(スキルハンター)】のページを高速で(めく)

 

「っ―――させん!!」

 

クラピカが新たな能力の発動前に潰そうとするが、今までとは一転して大きく距離を取る動きをするクロロを捕らえるには至らなかった

 

それでも距離が空いたならばとビルの壁面に沿うように走り抜けるクロロに鎖の乱打を放つが、直ぐに彼は自身の鎖に違和感を覚えるようになる

 

(奴に当たる直前で鎖の軌道がズレる。何かに引っ張られてるような妙な感覚だ。それに鎖そのものの操作性も落ちてきている?)

 

始めは小さな違和感しか無かったが、その感覚は鎖を振るう度に加速度的に増大していき、遂にその正体に辿り着く

 

「!砕かれた瓦礫が鎖から離れない。どころか引き寄せ合っている?・・・引力、いや、磁力を付与する能力か!!?」

 

「それも正解。触れたモノに好きに磁性を持たせる【磁由磁在】だ。具現化にしろ操作にしろ、その鎖も磁気対策まではしていないようだな」

 

クロロが走り抜けた壁に磁力を付与して鎖を引き寄せる事で狙いを僅かに逸らし、砕かれた瓦礫がどんどんと鎖に纏わりついていったのだ

 

クラピカは不格好なモーニングスターのような見た目となった鎖をそのまま武器として振るうが、クロロはあえて鎖に突っ込むとその鎖の上に乗って器用にも疾走する

 

「如何に強力な鎖でも俺のオーラ(ガレキ)でコーティングしてしまえば何ら脅威ではない」

 

必殺の鎖を半ば封じられたクラピカだが彼は綱渡りならぬ鎖渡りで駆け寄って来るクロロに対して冷静に彼の足運びに注目の比重を傾け、その時(・・・)を待つ。そうしてクロロがクロスレンジの間合いに踏み込む瞬間に絶妙なタイミングで具現化した鎖を解いた

 

人は信じてた足場を踏み外してしまった時、踏み込もうとしていた運動エネルギーが空回りする事で大きく体勢を崩してしまう

 

(コイツならば鎖の再発動までの僅かなタイムラグでも体勢を立て直して回避してしまうかも知れない。ならば直接この手で掴んで捕縛するまでの時間を稼ぐ。腕が千切れさえしなければ問題はない。絶対に逃がすものか!!)

 

だが覚悟を決めて伸ばしたクラピカの指先がクロロの胸倉を掴まんとした瞬間、彼の覚悟を嘲笑うかのようにクロロは煙のように姿を消してしまった

 

(しまった!?【イレカエ】か!!?)

 

信じていた(・・・・・)足場が崩れ去ったなら・・・クロロは初めから信じてなどいなかったのだ

 

気構えさえしていればクロロ程の達人ならば流れるように次の動作に繋げる事が出来る。コケてしまったようなモーションの中で右手の本をクラピカから隠しつつ瞬時に【イレカエ】のページを開いて能力を発動させ、クラピカの頭上に直前で投げた小石の下へ転移。身体ごと縦に一回転している勢いをそのまま乗せたかかと落としをクラピカの脳天に叩き込んだ

 

「ぶっ!?っっっがぁ!!?」

 

『凝』での防御こそ間に合ったものの地面に亀裂が入る勢いで顔面から落ちたクラピカの視界が一瞬モノクロとなって明滅する。衝撃で鈍った脳が一瞬情報を処理しきれなかったのだ。そしてそのままクロロは眼下のクラピカに追撃の連続踏みつけ(スタンプ)で地面に縫い留める

 

背中や後頭部を中心に見舞われたラッシュは背面にオーラを集中して防御しているクラピカに凄まじい勢いでダメージを蓄積させていく

 

(一撃一撃が異常に重い!?私とヤツの間に筋力やオーラ量に然程の差は無いはず。にも関わらず【絶対時間(エンペラータイム)】で十全に『強化』している私よりも上の威力を・・・まさか!?)

 

「気付いたか?これも奪った能力の一つ、『足跡くっきり(スタンプスタンプ)』だ。付け(マーキングし)た足跡に再度蹴りを当てると威力が倍増する。本で手が塞がりがちな俺が近接するにはそこそこ使える能力だ」

 

(強化系を軸にした能力か!だが今なら!!)

 

クラピカがダメージを受けながらも至近距離での鎖の捕縛を行おうとするが、それを見越したように踏みつけを止めたクロロがクラピカの眼前に降り立ち、素早く起き上がろうとする彼よりも早くローキックをクラピカの顔面に叩き込んで吹き飛ばす

 

「がっ!!?」

 

「その鎖は脅威だからな。深追いはしないさ」

 

蹴り飛ばされながらも『導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)』を近くの柱に巻き付けて体勢を整えたクラピカは血の垂れる鼻を(ぬぐ)ってクロロを睨みつける

 

(危なかった。急所の塊である顔面に倍化された一撃を受けていたら立て直す間もなく殺られていたかも知れん。(もっと)もその時は私の鎖の方が先に届いたかも知れんがな)

 

「どうした?あの回復できる鎖はもう使わないのか?」

 

「転移を使える貴様相手にこの間合いでか?初見ならばまだしも今使う事を見逃すとは思えんな。それにこの程度は蚊に刺されたのと変わらんさ」

 

当然やせ我慢な訳だが、死んだり戦闘続行困難となるような怪我以下であれば怨敵を前にして些事と切り捨てるのは簡単なのも事実であった

 

「―――!ぐっ・・・まだだ。奴らを捕らえるまではっ!!」

 

しかし決して軽いダメージではなかったのもまた事実。クラピカは精神論とは別に気をしっかりと張っていなければふらつきそうになる己の身体を叱咤する

 

「強情を張る必要は無いさ。みっともなく泣き叫んで感情を剝き出しにすれば良い。お前の仲間たちはそうやって死んでいった。緋の眼を綺麗にくり抜く為にな―――今回俺たちはオークションのお宝を奪いに来た訳だが、そこに緋の眼を(一品)加えるのも良いだろうな」

 

「貴様・・・!」

 

クラピカの視線が僅かに下がり、身体全体が“ワナワナ”と震え始める

 

「貴様っ・・・!!」

 

憤怒に駆られたオーラが吹き荒れて周囲に散乱する瓦礫や地面が余波だけで音を立てながら罅割れが伝播していく

 

「貴っ様ァアアアアアアアア!!!」

 

挑発だと解っていても今の一言はクラピカの堪忍袋を()どころか袋そのものを真っ二つに破り捨てるには十分な効果があった

 

鎖を展開しながらクラピカ自身も前へ駆け出す。刺し違えてでも1秒でも早くクロロを斃す!!

 

「はい待った」

 

「くきゅっ!!?」

 

 

[クラピカの くびが しまった]

 

 

クラピカの背後に降り立ったレツが彼の首にオーラの紐を掛けたのだ。この程度の形状変化は人形師である彼女にとっては朝飯前だ。態々マチの人形を憑依させる必要もない

 

「特に隠してもないボクの気配も見落とす今のクラピカが幻影旅団の団長を倒せる訳ないでしょ。一旦落ち着きなって」

 

「ぐっ、ゴホッ、カハッ!・・・れ、レツか?首が千切れ飛ぶかと思ったぞ」

 

クラピカは意識外から窒息しかけた事で微かに涙目になりながらもクロロからは目を逸らさなかったのは流石と云えるだろう

 

「でも頭に昇った血は下がったでしょ?」

 

「ああ、物理的にな・・・そちらはもう片付いたのか?」

 

「うん。ほっといても半日くらいは問題無いと思うよ」

 

「そうか。だが済まないがヤツだけは私が一人で同士たちの仇をっ!!」

 

“仇を討つ!”・・・と言葉を繋げんとレツの方に“バッ!”と振り向いたクラピカが決意の眼差しを彼女に向ける

 

「!?ぶっふぁああ⤴⤴⤴!!!?ちょっ、待って待って!あっち向いてよ。お腹痛い!!」

 

自分と視線を合わせた瞬間にまさかのリアクションをされたクラピカは最後まで決意を口にする事は叶わなかった

 

「仇・・・を・・・ど、どうしたんだ?何も可笑しな事など―――」

 

困惑した表情を浮かべるクラピカを見てレツの笑いが一段と深くなる

 

「だっ、だっ、だってクラピカ鏡見てよ!くっきりした足跡が顔面の正中線上貫いてるんだよ。その状態でこっち見るの止めて!お腹が捩じれる!!」

 

クラピカの背中にやけに足跡が付いているなとは思っていたレツだったが、顔面もそうだとは思わなかったのだ

 

レツの言葉で自分の現状を理解したクラピカが微かに頬を紅潮させる中、無機質かつ機械的な音が静けさを取り戻しつつあった夜の街に響く

 

“パシャ!”

 

二人が音の発生源の方向を向くとクロロが無表情のまま左手に構えた携帯電話のカメラのレンズを向けているところであった・・・当然その照準はクラピカの顔面を捉えている

 

“パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャッ!!”

 

被写体(クラピカ)自分(カメラ)の方を向いたのを確認したクロロは今度はカメラの連写機能でクラピカの痴態をメモリに収めて確かめると二人の方に画像を見せ付ける。間近でなくともこの二人なら鮮明に細部まで見る事が出来るので問題無し(有り)

 

「・・・ふむ。良く撮れているとは思わないか?頭部ごと持ち帰るのも良いが、この写真を額縁に飾って『眼』の隣に添えるというのも乙なものだろう?」

 

「殺す!今すぐコロす!ぶち56す!!!―――絞殺する。撲殺する。毒殺する。焼殺する。銃殺する。圧殺する。刺殺する。斬殺する。轢殺する。磔殺する。その全てで虐殺する。なに、『癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)』を活用すれば九分九厘殺してからでも何とでも―――」

 

「落ち着いてクラピカ!キャラ崩壊してるから!!キミってそんな旅団絶対殺すマンな人間・・・では初めからあったけど、えっと、そんな暴力的なキャラじゃなかったでしょ!?」

 

修行中に精神が限界化した時なんかは岩場の陰でブツブツと『旅団殺す』と『同胞の為だ』を延々と垂れ流す事もしばしば見受けられたクラピカの殺意が低いとは今更でも思えないレツであった

 

「そんな私などとっくの昔に廃棄したさ」

 

「その昔って多分40秒程度の話でしょ。まだ全然引き返せるって!振り向けばその辺に落ちてるはずだからさっさと拾ってきてよ!」

 

「大丈夫だレツ。問題無い。今の私の冷静さは吹きこぼれそうな程に最高潮に達している。心配する事など(びた)1ジェニーも無い!!」

 

「口調!そんな頭の歯車噛み合ってない変な返答してる時点で却下だよぉ!!」

 

素人目でも彼の言語野に異常が診られる程度には冷静じゃないのは明らかであった

 

「クラピカ言ってたじゃん!旅団を捕まえるのが一番大切な事だってさ。一人でやりたい気持ちが有るのは分かるけど、ボロボロな上で味方(ボク)が到着した時点でタイムオーバーだよ!!」

 

「見た目よりも私は平気だ。それよりレツは他の皆の様子を見に行ってやってくれ。奴らは一人たりとも侮れない。今この瞬間にも誰かが窮地に立っているかも知れんからな。それか少し離れた場所で(クロロ)を見張りながら待機してて欲しい。奴は転移系の『発』を盗んで使えるようだからな。追い詰められた奴が万が一逃亡した時に逃走経路を潰せるよう―――「クラピカ」」

 

クラピカの間違ってはいなくとも私情満載の“一緒にクロロを捕まえる”という選択肢を省いた提案を遮るようにレツが言葉を被せ、意図的にハイライトを消した瞳を浮かべながらクロロに真っ直ぐに指を差す

 

「次ごちゃごちゃ言ったらそいつ(クロロ)を殺す」

 

「ッ!!?」

 

レツ。まさかのクラピカの殺したい相手を奪っちゃうぞ発言である。普段のレツからは考えられないセリフを聴いたクラピカも思わず思考停止してしまうインパクトが含まれていた

 

(やっと止まってくれたよ。ビアーがクラピカが暴走し掛けたら今のセリフを言えば止まるってやけに自信満々に言ってたけど、なんでこのセリフだったんだろう?)

 

※ 原作ゴンのセリフをどこかで再現したかっただけ。一応止まるだろうとも思ってる

 

(そんな酷い脅し掛けなくてもボクなら“着せ替え人形(レディース限定)にするよ!”とでも言って止めるかな?それで写真集(よわみ)でも作れば十分でしょ。キルアやレオリオに見せるって言えば必死になってこっちの言う事も聞くだろうし)

 

肉体的な苦痛や死が伴わなければまだ優しいのだと思っているレツは世間の闇に対する認識がまだまだ子供なのかも知れない。ビアーやポンズならばその写真集(よわみ)をブログにアップしたり、届いた愛のコメントを音読させたりはするだろう・・・仲間内で完結させてあげるような優しさはあの二人には無いのだ

 

「ふぅ・・・今度こそ冷静になった?」

 

「あ、ああ、もう大丈夫だ」

 

(今、なにか途轍もなく大きなナニカを乗り切った気がする)

 

レツはクラピカの瞳をじっくりと覗き込むと軽く頷いた。その目に嘘はないと理解出来たからだ

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「・・・・・ぶふっ!」

 

それはそれとしてクラピカの顔面(足跡付き)に笑いが堪えられないレツであった

 

「・・・そっちこそいい加減冷静になって貰いたいのだが?」

 

「ごめんごめんww。それで相手の能力は?」

 

レツはなんとか真面目な話に戻す為にクラピカの現状分析を聴く事にしたようだ

 

「今のところ奴が使ってきたのは三つ。足跡を付けた箇所へ攻撃を重ねると威力が増す能力にオーラの有る物体と自身の位置を入れ替える短距離転移。最後に触れた物に磁力を付与する能力だ」

 

「磁力?・・・あ、鎖対策な訳ね」

 

「ああ」

 

判明しているだけで異なる系統の能力が三つ。更にいくつもの盗んだ能力が有るとなれば何時一発逆転の目を相手が振ってしまっても不思議ではない恐ろしさが有るのだ

 

「なら直接触れられない広範囲攻撃はどうかな?」

 

正面(クロロ)に向き直ったレツが大きく息を吸い込み一瞬の溜めを作る

 

「炎竜の息吹は鉄まで溶かすよ!―――『炎竜旱天(えんりゅうかんてん)』!!」

 

解き放たれたドラゴンブレスが炎の濁流となって二人の眼前の景色を焼き尽くす。炎が過ぎ去った後に残るのは焼け焦げて炭化した黒い地面だけだ

 

圧倒的熱量で焼き尽くされたそれらは最早燃料にもならず、結果として延焼が起きにくくなっているのは幸いと呼ぶべきだろうか

 

「・・・いくらなんでもその(チョイス)は殺意が高過ぎではないか?」

 

さっきまでの自分を引き留めようとしていたのは何だったのかと思うクラピカだったが、同時にあの幻影旅団の団長がこんな雑な一撃で本当にやられるとも思っていない自分も確かに居た

 

雑と言っても念能力者の上位陣でも大半は防御も回避も許されずに消し炭になるレベルだが・・・

 

音速を超える直径5メートルの火球クラス?そんな低レベルな話はしていない。レツにとってはその程度は『今のはメラゾーマではない。メラだ』ムーヴをかませる程度のものだろう

 

熱気を伴った白煙がまだ景色の一部を陽炎(かげろう)のように歪めている中、クラピカの警告が飛ぶ

 

「後ろだ!」

 

道路に在ったマンホールから地下水道に避難していたクロロが二人の後ろの別のマンホールから飛び出してきたのだ。クラピカは『導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)』でクロロの出現位置を把握する事が出来た

 

クロロと云えどレツの『炎竜旱天(えんりゅうかんてん)』を前にマンホールを一々開けてから飛び込むだけの時間的余裕は無かったが、近くのマンホールの上に移動した瞬間にマンホールと自身の位置をゼロ距離で入れ替えて“ふたを開ける”というアクションを排除する事で間一髪炎から逃れたのだ

 

飛び出る時はマンホールのふたを突き飛ばしながら地上に現れて空中でキャッチしたそのふたをフリスビーのようにしてクラピカに投げつける

 

(『イレカエ』?いや、レツの居る中それは悪手だ。また『磁由磁在』の方だな。『導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)』に引っ付けば振り子の精度が落ちる。『束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)』だと奴を捕らえた時に異物が挟まっては強制『絶』の条件を満たせないかも知れない。ここは拳で受け流す!)

 

クラピカがマンホールのふたを左手の裏拳で面となっている部分を叩いて軌道をズラそうと振り抜くが、その手に伝わったのは硬質な鉄の感触ではなく仲間(レツ)の感触だった

 

「ッ!!?」

 

慌てて拳に急ブレーキを掛けるがそれでも不意打ちで右わき腹を殴られたレツは数メートル吹っ飛んで転んでしまう

 

(奴の『イレカエ』は必ずしも自身を対象に選ばなくとも発動できるのか!今まででもそれを使えばもっと私を早く追い込めていたはず。隠していたな!マーキングもしていないはずの私の位置さえ入れ替えた時に気付くべきだった!どんな縛り(ルール)を―――いや、それよりも!)

 

「レツ!大丈夫か!?」

 

「う、うん。それより前!」

 

ピー助を解いた状態での不意打ちではあったが、『堅』は解いていなかったので一瞬息が詰まる程度で済んだレツの方が仲間を殴らされたクラピカよりも総合的なダメージは少なかった事で駆け寄ろうとするクラピカを押し留める

 

レツの言葉を聞いてクロロの方を向いたクラピカだがそこに居たはずのクロロの姿は無く、代わりにさっきまで見ていたはずのレツが居た

 

(しまっ!?奴の『イレカエ』は乱戦でこそ力を発揮するタイプか!)

 

クロロの位置にレツが居るならば自分のすぐ隣に居るのは当然クロロであり、その左手に握った(ベンズ)ナイフをクラピカの水月(きゅうしょ)に突き刺さんとしていた

 

(迅い!だが左腕を盾にすれば内臓までは達しないはず!)

 

クラピカがダメージ覚悟で防御の姿勢を取ろうとするが、直前で今度はクラピカとレツの居場所が入れ替わる

 

「え?」

 

立ち上がりかけていたレツの心臓にクロロがナイフをそのまま突き出した。オーラ量ではレツの方が上回っていようとも虚を突いた『凝』の攻撃はその柔肌を切り裂くのに十分な威力を誇る

 

 

 

「・・・なに?」

 

クロロでさえ当たると確信する一撃はその対象を見失ってしまったのだ。だがレツの姿はすぐに見つけ直す事が出来た

 

「ふぅ。こっちに着いた途端に刺されそうになってるとか、心臓に悪いわよ」

 

「あはは、ゴメンねポンズ。クラピカ助けにきたつもりがちょっと足引っ張っちゃったかも」

 

あきれ顔をするポンズにレツも下手を打ったばつの悪さから頬を人差し指でカリカリと掻き、それを見たポンズも溜息をつく

 

「その責任は私にも有るから余り強くは責められないわね。さて旅団(クモ)のリーダーさん。悪いけどもうゲームオーバーよ。大人しく牢獄(ケージ)の中に入って貰いましょうか」

 

 

 

着々と集合する仲間たち―――旅団との決着の時は、すぐそこまで迫っていた

 




イレカエの能力が書いてて強すぎ~!!となってしまったww
だって原作でもノブナガがヒソカに斬り掛かった時にマーキングとか無しでワープ系の能力使ってたんだもん・・・
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