毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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前回の後書きでサウスバードのパチモンとしてノースバードと書きましたが如何やらワ〇ピースでは東西南北のバードたちがちゃんと居るみたいでしたね(汗)


観光と世界樹

ハンター試験も早めに終了したので今は2月の頭くらい、私は今世界樹が町の中心に(そび)え立つこの世界でも屈指の観光スポットに足を踏み入れています

 

「あ!世界樹饅頭4つ下さい」

 

「あいよぉ!お嬢ちゃん可愛いから1個サービスしといてやる」

 

「わぁ♪有難うございます!」

 

世界樹饅頭・・・と言っても世界樹の絵柄が描いてあるだけなんだけど、それを4個(+1個)買って(かじ)りつきながら高さ1784mの世界樹を見上げると僅かに髪飾りが"シャラン♪"と揺れる

 

旅立つ前に両親から貰った白いスズランの髪飾りで花言葉は『幸福』だそうで旅の幸福・無事を祈るって意味で選んだみたいで左耳の少し上くらいに着ける事にした

 

まぁ少しくらいはオシャレにも気を使わないとね

 

そんなこんなで町をグルグル見物してたんだけど流石に色んな屋台が立ち並んでいる

 

中には世界樹串焼き=1.78メートル級串焼きなんてネタに走ったモノも売っているくらいだ

 

「世界樹串焼き一本下さ~い!」

 

「まいど~!!」

 

何時食べるの?・・・今でしょ!!

 

 

 

「うっぷ!世界樹饅頭一つしか食べてなくて良かった。思った以上に腹に溜まったわね」

 

大体串焼きの食べる部分の長さが10cmなら串焼きを約18本・・・いえ、串が折れないように太くなってて具材も通常の倍は有ったから単純計算で36本は平らげた事になるんだから妥当ではあるんだけど、一回買えばもう満足ね、アレは

 

「さぁて!お腹も膨れたし世界樹の天辺までいざ登ってみますかね」

 

この世界樹は500m地点までは階段・・・と云うかスロープが設置されている。またはエレベーターも有るには有るんだけど少し見てみると長蛇の列でお高めのお金も掛かるみたいなので素直にスロープで登る事にした

 

高さは500mでもジグザグの勾配を登る関係で実質移動距離は数倍だ。なので他の観光客が驚かない程度の速さで走って登りきる

 

そうして無料で登れる限界のところまで来たらスロープの有った場所から少し突き出た場所に登木に必要な手続き小屋が在ったのでそちらに赴く

 

スロープから少し離れてるのは500m地点より上に登ろうとする人達が時折落ちてくるからでしょうね

 

年間約3000人が世界樹の天辺を目指して辿り着けるのは大体30人前後って話だから、一日平均8人がチャレンジして12日に一人が辿り着けるってところかな?あくまで平均に直したらの話だけどね

 

登木は基本18歳以下は禁止されているみたいなので受付の人にハンターライセンスを見せて許可を貰う。一般人入国禁止の9割以上、立ち入り禁止区域ですら7割5分以上に通行許可が下りるこのライセンスが有れば年齢制限の枠組み程度は難なく突破出来るからね

 

「じゃあこの書類にサインして。相手が国家元首でも書いてもらってる登木にあたって『怪我も死ぬのも自己責任』ってよく有るやつさ」

 

よくは無い・・・と言いたいところだけど、この世界って少し安全地帯から離れたら魔獣とか普通に徘徊してる世界だからなぁ

 

サインをしたら万一怪我や恐怖で降りようにも降りられなくなった人の為の救難信号装置を貰って身に着ける。押せば15分もすれば助けに来てくれるみたいだけどかなりの高額らしい

 

頂上まで登ったか如何かも発信機で位置を特定する事で把握してるんでしょうね。自己申告制だと自称世界樹制覇な人が量産されるだろうし、報告なんかせずにさっさと帰る人も居るだろうしね

 

そんな訳で受付の人の説明もそこそこに世界樹を登る

 

トン単位の腕力や握力を以てすれば人間一人分の体重を支えるのなんて訳ないからスルスルと登っていく

 

「う~ん!良い眺めだねぇ」

 

天空闘技場のホテルのようなガラス越しの景色とはまた違って大自然を肌で感じる

 

前世なら命綱も無しにこんな高い場所にしがみ付いていたら何処にとは言わないけど氷柱を突っ込まれたような感覚に陥るんだろうけど、今の私なら最悪落ちても大丈夫という安心感が有る

 

人間が恐怖を抱くのはそこに危険を察知するからだ。最悪落ちても精々足の裏がジンジンする程度の危険では恐怖を抱くには足りてないからね

 

スロープと違って直線で上に登って行けるのでどんどんと距離を稼いでいくと漸く樹の一番上が見えた。やはりと云うべきか巨大な鳥の巣が鎮座していたけど、ボール状の巣の外側から回り込んで上に行くとなると此処で心が折れた人とか居そうではあるわね

 

「よいしょっとぉ!」

 

最後に巣の外壁をよじ登ると目の前には5~6匹の巨大なエリザベス・・・鳥の雛たちが"ビヨビヨ"と鳴いている。うん。口の中から謎の眼光が覗いたりはしないわね

 

近くによって触ってみると思ったよりもフワフワした感触が手に伝わってくる

 

「わぁ!可愛く・・・はないけど抱き心地は良さそうね」

 

どうしてもスネ毛着ぐるみのおっさんが頭を過るからやらないけど

 

「お?なんだなんだぁ。世界樹の上(ここ)で誰かと鉢合わせるのは珍しいな」

 

「誰っ!?」

 

突然聞こえてきた声に驚いて勢いよくそちらを向く。マジか。幾ら気を張っていなかったとしてもこの至近距離で気付かなかったとか気配を溶け込ませ過ぎでしょう

 

「おっとっと、そう警戒すんなよ嬢ちゃん。俺も嬢ちゃんと同じただの登木者さ」

 

世界樹の天辺まで登ってる事を差し引いても絶対に『ただの』なんて付けていい人じゃないのは確かだと思う・・・だって世界でも五指に入る念能力者なんだから

 

この世界の主人公であるゴン=フリークスの父親であるジン=フリークスがそこに居た

 

それにしても何でここに居るの?お気に入りのスポットなのかな?バカと煙は高いところが好きだって言うし・・・その理屈だと私もバカになっちゃうからこの推測は却下で

 

「初めまして。先客が居るとは思いませんでした―――ビアー=ホイヘンスです」

 

「おう、俺はジン=フリークスだ。宜しくな」

 

一応初対面なので普通に挨拶を交わす。ネットとかじゃ彼の情報は殆どシャットアウトされているけど、原作の選挙の時に多数のハンター達が彼にブーイングを飛ばしまくってる場面を思い起こせばこうして色んな場所に出没してるんでしょうね

 

「嬢ちゃんは今年の試験に合格した新米のハンターだな?」

 

挨拶ついでに握手したところでいきなりそう切り出された

 

「え、ええ、そうですけど何で私がハンターだと?念を使えるのは見れば判るでしょうけど、何処かの念も教えてる流派とかだったりするかも知れませんよ?」

 

ネテロ会長の心源流拳法とかそうだよね?

 

「簡単だよ。世界樹は500m以上は18歳未満は登木禁止だからな。嬢ちゃんが18以上には見えねぇし、禁止の制限なんてのはそう簡単に取っ払えるモンじゃない―――それこそハンターライセンスでも所持してない限りはな」

 

成程。言われてみれば納得の推理だ

 

世界樹に子供が登ってる時点で殆ど確定でプロハンターって事になる訳ね・・・自分で言うのもアレだけど滅多に居ないとは思うんだけどさ

 

「まぁいい。ここに登ったのが初めてっつぅんなら先ずは景色を楽しみな」

 

ジンさんが鳥の巣の淵に腰かけたので私は一先ず景色を見ながら巣の周りをグルっと一周してからジンさんの近くに腰かける事にした

 

「良い景色だったろ?天気や時間帯によって様相もかなり変わるから中々飽きが来ないんだぜ?」

 

確かにね。流石は『五大厄災』でも『希望(リターン)』でもない暗黒大陸の産物だ・・・尤も、もしもこの『成長の止まった若木』である世界樹がキッチリ成長して種子を人間界に振りまこうものなら五大厄災級とも云えるけどね

 

あれ?もしかして本当にこの世界樹って不発だっただけの政府も把握しきれてない『厄災』だったんじゃないの?切り倒す事も難しいし、本来の世界樹がマグマも吸うって話なら火にも強いだろうから燃やす事も出来ないでしょうしね―――う~ん。可能性はゼロじゃないかなぁ?

 

ただ世界樹って大気圏を超えて更に大きく成長するみたいだから宇宙に種子を飛ばしてこの星の引力で何処かの地表にランダムで落ちるとか、そんなバカげたスケールの話も在り得るからね。その場合人間界に世界樹が有るのも不思議じゃないし・・・まっ、これ以上考えても仕方ないか

 

それからはジンさんと彼もプロハンターである事とか今年のハンター試験は如何だったかとかの小話をしていった

 

中にはハンター協会の最高幹部(ネテロ会長の遊び相手)である『十二支ん』の他のメンバーがネテロ会長の事を大好き過ぎてキモイとかって話も在った

 

「あはははは・・・確かに十二支に因んだ改名や衣装、能力開発とかまでしてたらドン引きものですねぇ。ワンポイントくらいなら可愛いものですけど、普段から全力でその恰好とか街中で痛車や痛服を惜しげもなく晒す重度のヲタクと変わらないじゃないですか」

 

「ホントだぜ。十二支ん(あそこ)に所属してるとジジイ(アイドル)のファンクラブの一員みたいな感覚を味わえるからな。それもかなりメンドクセー集まりのよ」

 

それでもジンさんが所属している以上は十二支んにはかなりのメリットが付いてくるんでしょうけど、確かにそれは嫌だな

 

「よし!ビアーの嬢ちゃんのお蔭で中々良い気晴らしになったぜ。俺はもうここから降りる事にするが、嬢ちゃんは如何する?」

 

「私はまだ此処に居ます。元々ここで一晩は明かそうと思ってたので星空と朝日を目に焼き付けてから降りますよ」

 

話し込んでいると夕方になったのでジンさんはもう降りるそうだが、こんな絶景を前にして昼間と夕日しか見ないのでは勿体無いでしょう。その為にも下で食べ物とか色々買い込んでバッグの中に詰め込んで来てるんだしさ

 

「そうか―――じゃあな嬢ちゃん。また何処かで出会ったら、その時は宜しくな」

 

ジンさんはそう言い残すと"ヒョイ"と飛び降りていった

 

「・・・はぁあああ、まさか偶然とはいえ(ゴン)より先に(ジン)に出会うとは思わなかったなぁ」

 

風が強くて空気が冷たい世界樹の天辺で日が落ちてきた事で一気に肌寒くなってきたので巨大な雛鳥たちの間に挟まって羽毛に埋もれる事にする

 

≪ビヨビヨ?≫

 

「ちょっと一晩お邪魔させて貰うよ~」

 

≪ビヨ~ッ♪≫

 

歓迎してくれてるのかモッフモフにすんなり挟まる。流石にずっと見てたら某スネ毛被り物白ペンギンみたいという最初の印象も薄れてきた

 

「・・・と言うかなんでキミたちは一匹毎に色が違うのかな~?」

 

赤・ピンク・黄色・緑・白とか戦隊モノでも始めるつもりか?大自然で生きていく上でその配色は本当に必要なものだったのだろうか?

 

地平線の向こうに沈んだ太陽の光の名残すらも消えてどんどんと夜が深くなり、代わりに満天の星空が広がる。暫く空を見上げたら下に見える町明かりを覗いたりもして雛鳥たちが眠りつくのに合わせて私も眠りについたのだった

 

翌朝、東の空が白んできたので自然と私も目を覚ますと遠くからこの雛鳥たちの親鳥が魚を咥えて飛んできたので巣の端に避難した

 

雛鳥たちもエサの気配を感じ取ったのか一斉に起きだして世界樹の一番上に舞い降りた親鳥から何メートルもある魚を受け取ってグチャグチャと食べ始めている

 

「流石に朝一番に生臭い魚の体液をシャワー代わりにするのは勘弁ね」

 

苦笑しつつも世界樹の天辺から見る朝日を全身で浴びて携帯電話の写真機能で景色や雛鳥や親鳥との記念写真を撮り終える

 

「それじゃあ何時かまた来るから元気でね」

 

まっ、その時はこの子達が新しい親鳥になってるかも知れないけどさ

 

≪ビヨッ!ビヨ~ッ!!≫

 

雛鳥の声を背に受けながら下の方に生えている枝葉目掛けてジャンプして出来る限りショートカットしたら500m地点までは普通に降りて受付に緊急呼び出し用のブザーを返却するとスロープで地上まで下りる

 

「さてっとぉ!次は何処を目指そうかな?」

 

気の向くままに先ずは世界を巡ってみますか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・その前にシャワーは浴びよう。鳥臭いし

 




スズランの意味は幸福・・・もう一つの意味である『純粋』=『単純』という意味ではなく、関係もない・・・無いったら無い!

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