毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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閑話
敗者と敗者と敗者


ビアーとネテロの試合が終わって暫く経った頃、二つの飛行船が置いてある山頂に一つの気配が近付いて来ていた

 

その者はほぼ垂直の山をスルスルと登り切り、山頂に居るビアー達を目にするとたちまち凶悪な殺気とオーラを放ち襲い掛かった

 

オーラを使い果たしたばかりでまだまともには戦えないビアーとネテロを護るためにも全員が臨戦態勢へとすぐさま移行し、レツが壁と牽制を兼ねてピー助を顕現する

 

並みの者なら、否、並外れた強者であろうと先ずは脚を止めるであろうドラゴンの天災の如き威圧を前にしてそのものは一切減速する事無く飛び掛かる

 

その者の顔付きも合わせてレツたちは襲撃者のオーラに猛虎の姿を幻視する

 

ドラゴンと虎。夢現の狭間で各々最強と言って(はばか)らぬ両者がこの場で雌雄を決する時が目の前に迫っていた!・・・となっていたのも数分前の話。今はネテロと(カンザイ)(そろ)って正座させられていた

 

それというのも幻影旅団を護送する上で流石にネテロのダメージが深刻である事と、あまり無駄に時間を掛けてはこの場所も(主に(パリストン)に)嗅ぎつけられたりしかねないなどの理由でもう一人呼ぶことになったのだ

 

ビアー達が護送に加わっても良かったのだが、CM出演が決まってより一層幼稚なケンカを繰り返しそうなビアーとネテロは引き離した方が良いという意見と、態々(わざわざ)一人で来た上で勝手に試合して怪我したダメ大人(ネテロ)の尻拭いまでする必要は無いとのビアーの意見が重なり、ネテロがある程度近場に居て実力もあるカンザイの事を思い出し、場所(ポイント)だけ告げて今すぐ走って来いと伝えたのだ

 

昔からネテロの無茶ぶりに必死に応えんとしてきたネテロファンのカンザイは脚が壊れると錯覚するレベルで全力で指定された場所に辿り着き、そこでボロボロのネテロの姿を見た瞬間にただでさえ疲労で朦朧(もうろう)となっていた理性の(たが)が外れ、一匹の猛獣と化してしまったのだ

 

ネテロはネテロで馬鹿(カンザイ)なら何かしら一波乱起こすだろう事を分かった上で()えて自分の状況を詳しく伝えずにいて、疲労困憊(こんぱい)にも関わらず過去最高の力を発揮して暴れ回るカンザイの姿を見てカラカラと笑っていたところをビアーがネテロを崖下に向かってぶん投げたのだ

 

放物線を描くネテロを見て慌ててカンザイがネテロをキャッチしに行き、下で説明を受けたカンザイ(とネテロ)が上まで再び登って来たという流れである

 

因みにビーストモードのカンザイはヒソカ採点で92点は堅かっただろう

 

しかし心配が勝ったが故の行動だろうと一方的に迷惑をかけたのは事実

 

レツ達もあまりの殺気に始めは気付かなかったが、寅な恰好をしているカンザイに途中から誤解と停戦を呼び掛けていたにも関わらず暴走していた彼も元凶(ネテロ)と並んで硬い地面に座らされたのだ

 

「で?会長さんはずいぶんと元気になったみたいですね。会長のお茶目のせいで折角捕まえた賞金首たちが(オーラに()てられて)死にそうになったり私達も襲われたりでいい迷惑だったんだけど、これはどう落とし前付けるのよ?」

 

両腕を胸の前で組んだガイナ立ちで『私、怒ってます』を顔に張り付けたポンズは遠くで死屍累々となっている幻影旅団を尻目に正座している二人に睨みを利かせ、オーラの圧で周囲をバチバチと爆ぜさせる

 

因みにポンズの背中にはぬいぐるみサイズのリースがぶら下がっており、オーラの圧力での演出は9割方リースによるものだ

 

現在、ビアーにもリースにも両目が完備されており、そのトリックの種はレツが『佛人(ソウルドール)』で創り出したコルトピの能力である【神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)】だ

 

ビアーとレツたちが合流した後で先ずリースに貸し出していた瞳を返却してもらい、両目が揃ったビアーをコルトピの【神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)】でコピーし、最後にコピーされたビアーの両目をリースが『魂呼ばい(タマヨバイ)』すれば完了だ

 

通常【神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)】で創り出されたコピーは24時間で消滅してしまい、実際両目を抜かれたビアー人形は時間になったら消えてしまった

 

だがレツの持つ【神の人形師】は死後の念で支えられている能力―――ビアー達としても確信は無かったが、ピー助の『目』が未だに健在であることから念で創られた瞳であっても『神の人形師(死後の念)』によるプロテクトが働くのではないかとされ、実際にその通りの結果となったのだ

 

(はばか)りなく『神』の名を冠する創造(クリエイト)系の『発』同士のコンボはまさしく悪魔の如き反則性能へと昇華したのだ

 

だがこれにより混乱するのはカンザイだ―――先程現れたドラゴンといい、目の前で冷たい瞳を向けてくるポンズ(&リース)といい、世界最強と信じて疑わなかったネテロを少なくとも単純なオーラ量なら上回る者たちと出くわしたのだ

 

いくらオーラの量が念能力者にとって絶対ではないと言っても物事には限度というものが有る

 

その限度を超えてステータスバーがグラフ表を突き抜けてる者達(・・)が居るとは何の冗談だ

 

「仕方ないの。こうなれば奥の手じゃ。カンザイ、お主に怒れる竜をも鎮める心源流の(すべ)を伝授してやろう。心源流は心にこそ強さの源がある。気炎万丈でもって炎虎の如く吠えてみい!」

 

隣に座っていたネテロにいきなり無駄にキリっとした目を向けられたカンザイはその目をしっかりと見つめ返す

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「ようは気合入れろって事じゃ!」

 

「分かったぜジイさん!!」

 

(ようや)く理解が追いついたカンザイがハキハキとした良い返事をした。小難しい表現は彼にはNGだ

 

「構え!」

 

ネテロとカンザイが正座のまましっかりと背筋を伸ばしポンズを真剣な表情で見上げるとポンズは少しタジタジとしてしまった

 

若干とはいえ仰け反ったポンズを下から見上げるネテロの心は清流のように澄み渡っている

 

(―――乳デケェな)

 

原作よりもよく食べよく鍛えている事でバストサイズにプラス補正の掛かっているポンズの胸に若者の健やかなる成長を見た彼の瞳には欲望(じあい)の色が浮かんでいるのだ

 

「大地に両手を突く。そして目標に向かって―――」

 

覇気を(みなぎ)らせながら地に伏せながらも天を射抜く眼光は対峙する全ての者の気勢を削ぎ落す!

 

「御免なさい!御免なさい!御免なさい!!」

 

ようは土下座である。隣のカンザイの頭を掴んで何度も地面に額を擦り付ける当の本人(ネテロ)は一切頭を下げる事はしていないが・・・

 

思いもよらなかった事態に最初はなすがままだったカンザイも何度目かの土下座でネテロの手の平の重圧に屈さぬ姿勢をみせる

 

「―――おいジイさん。これはなんだ?」

 

カンザイは怒りを無理やり抑えた『我慢の限界です』という表情でこの世でもっとも尊敬しているダメ人間(ネテロ)に問いただす

 

「うむ。これは『猛虎落地勢(もうこらくちせい)』とゆってな。谷底に落ちた虎がそれでも弱った己を晒さぬ様より着想を得たとされる昔闘ったとある無差別格闘流の技じゃ」

 

「心源流の技じゃねぇのかよ!?さっきそれっぽい事言ってたじゃねぇか!あとなんでオレがジイさんの代わりに謝らなきゃなんねぇんだ!!」

 

ついに己を押さえつけていた手を払い除けてツッコミに回ったカンザイが耐えきれずに吠えた

 

「なに言っとる。お前さんワシの弟子でこそないが部下じゃろう?上司の尻を(ぬぐ)うのが部下の役割じゃろうて。ほれ、今度はちゃんと声を出して謝らんかい・・・そろそろさっきからワシの首筋に刺さっとるデカイ蜂(アリスタ)の針が本気で頸動脈ぶち抜いて来そうなんでのぉ」

 

出荷前の家畜を見る目からゴミを見る目にマイナーチェンジしたポンズの指示の下、大きな針をネテロの首に突き付けたアリスタも心なしかネテロを下等生物を見る目となっている

 

「そりゃ完全にジイさんが馬鹿やってるせいだろ。それくらいはオレにも判るぞ。久しぶりに面白い試合(ケンカ)が出来て浮かれてたりすんのか?」

 

カンザイの推測を聴いたポンズが一瞬だけ目を細めた

 

「へぇ・・・まぁ確かに凄い試合ではあったわけだし、観戦料くらいは払いましょうか」

 

心の歪みの滲み出るようなイイ笑顔を浮かべるポンズの姿にネテロもたらりと汗を流す。絶対に碌なものでは無いのが目に見えている

 

「待て待て、礼を寄こせなどとそんなけち臭い事など言わんわい。つーかなにをさっきからイライラしとるんじゃ」

 

そう。ネテロの指摘するように現在のポンズの沸点は低い。ビアー等仲間たちがそそくさと距離を置いて知らんぷりを決め込まんとする程度には不機嫌だ

 

それもそのはず。ネテロたちからは見えないがポンズの被っている帽子の後ろ側には大きな裂傷による穴が開いているのだ

 

カンザイが大暴れしていた時に彼の攻撃が掠めてできた傷であり、しかもこの帽子は収納系能力の【帽子の中のワンルーム(マジカルハット)】の出入り口かつアリスタや多数の痺れ槍蜂たちの家でもある

 

幸い能力が使えなくなったりはしてないが、家兼倉庫に勝手に閉門不可の裏口(おおあな)を設置されたら誰だってぶちギレるだろう―――事実アリスタも【軍隊蜂(アーミー・ビー)】を発動して痺れ槍蜂たちもカチカチと顎を鳴らしながら周囲でホバリングしている程だ

 

今のネテロにポンズのお礼を拒否する権利は無い。カンザイは実行犯ではあるがまだ酌量の余地はある。しかし元凶(ネテロ)、テメェはダメだ

 

「会長。今会長を刺し殺そうとしているのは色違いではあるものの三叉槍大蜂(トライデント・ビー)なのよ。毎年プロハンターにもハチミツ採取の依頼が協会に届いてるはずだし、ハンター協会の会長なら当然知ってるわよね?―――ビアーとの試合で色々お疲れみたいだし、甘いものを摂取すれば少しはその緩んだ頭もまともに働くようになるはずよ・・・アリスタ、吐き捨て(プレゼントし)てあげなさい」

 

ポンズのGOサインをもらったアリスタは“クッチャクッチャ”とわざとらしく音を立てるとネテロの顔面に“ベチャッ”とハチミツを吐き掛ける

 

通常の蜂とは比べ物にならない体躯を誇る三叉槍大蜂(トライデント・ビー)は効率よくハチミツを精製・運搬する為に口内に蜜袋を持っているのだ

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「ほら、どうしたの?可愛い女の子(アリスタ)からの口移し(放出系)よ。さっき私の胸にぶしつけな視線を送ってたくらいには女好きなんでしょ?美味しくて元気にもなるプレゼント(顔面ツバ(蜜)吐き)。しっかり無様に舐め回して私達の優しさに泣いて悦びなさいよ」

 

「―――ワシ、ここ数十年の中で本気で泣きたい気分なんじゃが?」

 

「あら、それは丁度良かったわね。生ける伝説とも称される会長の脳髄(メモリー)にしっかり刻まれたなら光栄だわ。プレゼントした甲斐があったわね」

 

ついにはゴミを見る目から汚物を見るかのような目となったポンズに恐る恐るレツが近付くと、その怒りを鎮めるべく提案を出す

 

「え、えっとポンズ?―――ヒッ!お、お姉ちゃん♡・・・良かったらボクが新しく帽子を編もうか?人形作りの一環で衣装制作とかも出来るしさ♪」

 

勇気を出してポンズに声を掛けたレツだがネテロに向けていた視線の毒気が抜けぬままに自分の方にスライドしてきた瞳を覗き込んで咄嗟にポンズを『姉』呼びして甘い声音で媚びを売った

 

普段ビアーと共に行動しているせいで『ポンズの機嫌を取るならこの言動』と無意識の刷り込みが起きていたのだ

 

「・・・なんでビアーは泣きながら笑ってるの?」

 

「これ?レツのお姉ちゃん呼びで三姉妹の外堀が確実に埋まっていく事への嬉しさと無理やり言わせた訳でも無い(?)お姉ちゃん呼び第一号が私じゃなかった事への遣る瀬無さを同時に味わっているからね」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

「姉妹の仲というのは外堀を埋めるものでも呼び方を強制するものでもないと思うが?」

 

クラピカのツッコミを耳の端に捉えながらも軽く息を吐いたポンズが気持ちを整える。妹認定は置いておくにしても可愛い妹分ではあるレツの言葉には冷静にもなる

 

「そう。ありがと。なら新しい帽子はレツに頼むわね。迷惑料とかレツへの報酬とかの諸々はここに居る最高幹部(バカ)会長(アホ)に支払ってもらうからボッタクリ価格で毟り取ってあげなさいな」

 

「ボッタクリって・・・まぁ良いけど」

 

((((良いんだ))))

 

(とーぜん)

 

当の上司(ほんにん)達を目の前にしてこの言いぐさ。レツからしても人間性への評価は決して高くない二人であった―――レツはそのまま顎に手をやって頭の中で掛かる料金を計算していく

 

「う~ん。折角ならクリエイターとして限界に挑戦してみようかな。基本の素材は超高級羊毛(ルルの毛)で良いよね。金色は派手過ぎるから光沢を抑えた黄色をベースに脱色した白の毛で(ふち)の部分を編めばいいかな。業者には勿論特急で加工素材を送ってもらって制作はボクとお手伝い(マチ人形)でやればミシンもビックリの早さで編めるね。それも勿論神の人形師(ボク)の全力特急特別料金で計算して、と・・・ああ、折角なら帽子の裏面にはこれでもかってくらいにビッシリと神字を刺繍して普通の職人じゃ逆立ちしたって真似できない高性能にして、あとその間スペアの帽子を被る事で出て来る弊害(【帽子の中のワンルーム(マジカルハット)】のオーラ消費量増加)とか全部ひっくるめたらボッタクリ30割増し価格で4億ジェニーってところかな?」

 

「「「「高っ!!?」」」」

 

「安い!?買った!!!」

 

ゴン達が驚愕の声を上げる中、ビアーが喰い付く。レツのオーダーメイド品なら3倍額でも買い取るだろう

 

「はいはい。ビアーは大人しくしてね。あとお金だけで解決しちゃったらネテロ会長も反省しないだろうからさっきの・・・『猛虎落地勢(もうこらくちせい)』だっけ?しっかりお手本を見せて下さい。ほら、カンザイさんもこっちに立って一緒にネテロ会長の勇姿(どげざ)を目に焼き付けましょうか」

 

ニッコリとスマホの(レンズ)を向けて録画モードを起動するレツも中々悪ノリというものを学び、成長(?)してきたようだ。ビアーとポンズも妹分の成長(?)に後方腕組保護者面で頷いている

 

だがこの年齢になってもクソガキ(こども)駄々(こころ)を忘れないのがネテロだ。ここで頭を下げるなど彼の山よりも高いプライドが決して赦さない!

 

(ちな)みに会長が3秒以内に謝ってくれたら罰金は全額カンザイさんに請求しますね」

 

「お゛い゛っ!?」

 

「此度はすまんかった!」

 

「お゛い゛ぃいいいいっ!!?」

 

ネテロは一瞬の躊躇(ちゅうちょ)もなく無駄に流麗かつ優美なモーションで土下座を敢行(かんこう)。どうやら山は山でも子供が公園の砂場で作る砂山だったようだ

 

無論ネテロにとって4億ジェニーなど大した金額ではなく、土下座を引き出すには足りない。しかしこの場ではそれよりも大切なものが手に入るのだ。ネテロは顔を上げるとカンザイを見やる

 

「なんじゃ?嫌か?以外とケチ臭いのぉ」

 

「ここでケチって言われる筋合い無ぇ!ただでさえ色々納得いってねぇってのに幾らジイさんでもいい加減怒るぜ!!」

 

そんな怒れるカンザイを諫めるようにまるで駄々をこねる子供の我儘を聞くような態度でネテロが代案を出す

 

「分かった分かった、仕方ないのぉ。なら代わりに今度ワシが直接(オムツ装備ブレイクダンスの)稽古を付けてやるわい」

 

「ホントか!!♪」

 

なんの稽古(レッスン)なのかもしっかり確かめないまま念や武道の稽古(しゅぎょう)だと勘違いした馬鹿(カンザイ)の顔が喜色に染まり、抑えきれない高揚が声に弾みをもたらす

 

子供のような穢れの無い瞳のカンザイは最高に輝いている。彼の周囲には今キラキラのエフェクトが見えるかのようだ

 

「うむ。しかしワシの稽古は(主に精神的に)辛く、苦しいぞ?だからといって途中で逃げ出すような真似は断じて赦さん(キリッ!」

 

ネテロ、渾身のキメ顔である

 

「へっ!それこそ望むところだぜ。今から楽しみで仕方ねぇ!」

 

(まずは道連れ犠牲者(バックダンサー)を一人確保じゃな。出来ればもう一人くらいは巻き込んでやりたいのぉ)

 

自分一人で恥ずかしい思いをするのは嫌だという理由で無意味に(あわ)れで不憫(ふびん)被害者(なかま)を増やしていく加害者(ネテロ)であった

 

その様子を見ていたビアー達も無駄に襲い掛かってきて迷惑をかけたカンザイへの助け舟を出す事は無かった・・・ゴンは普通に修行の話だと思ったようだが

 

 

 

幻影旅団(敗者)とネテロ(敗者)とカンザイ(敗者)を乗せた旧き時代の敗北者たちの船を見送ったビアー達ももう一つの飛行船に乗り込むと自動運転に切り替えて空に飛び立った

 

「は~い♪それではこれで幻影旅団の引き渡しも済んだ事だし、今回の戦績の1位と最下位を私の独断と偏見で発表しま~す!」

 

船内の操縦室兼ラウンジ的な所でビアーが元気よく手を挙げる

 

それに対して冷めきった目を向ける他のメンバーと唯一ビアーの方を見ていない既に彼女の片腕の中に拉致されているレツがハイライトの消えた目で虚空を眺めていた

 

栄えある(?)第一位の賞品たるビアーのハグ券(強制)を手にしたのが誰なのかなど発表されるまでもない・・・というか誰も望んでない

 

レツも嫌がっている訳ではないが、単に何時もの事なだけだからだ

 

故にビアーが一位を高らかに発表したその後にこそ彼らの関心は集中する

 

すなわち最下位の罰ゲームたる地獄の修行が誰になるかだ。ヨークシンに来るまでの半年で味わった地獄を更に追加で味わうなどとそんな真似をすれば精神が崩壊してしまう

 

「それでは最下位は~???ジャカジャン!レオリオで~す!まぁ残当だよね★」

 

ビアーが最下位となった者の名前を告げた次の瞬間にはゴン達の姿はビアーの目の前から消え去り、直後に船内に風が吹き込んできた

 

「離せぇえええええ!!俺はまだ死にたくねぇ!ここで一思いに飛び降り自殺させてくれっ!!」

 

「言ってる事なにか変だよレオリオ!!?」

 

「おまっ、急に飛び降りてんじゃねぇよ!あと今の俺たちなら飛行船から落ちた程度で死ねる訳ねぇだろ!逃走する気満々なの目に見えてんだよ!逃がすか馬鹿リオ!!」

 

「まったくだ。これでもしも流れ弾が我々に向かってきたらどうするつもりだ!絶対に逃がしてやらんぞ。大人しく地獄に舞い戻れ!!」

 

全力ダッシュで窓を開け放ちそこから地上へジャンプしたレオリオの両足を同じく飛行船から飛び出したゴンが捕まえ、そのゴンの両足をキルアが掴まえ、最後に窓から半分身を乗り出す形でキルアの両足を掴まえたクラピカという即席人間梯子(はしご)が展開されたのだ

 

ビアーたちからすれば今はクラピカのケツしか見えてない状態である

 

憐れレオリオは自由への逃避は許されずに船内に引きずり戻されてロープでグルグル巻きにされた。無論レオリオなら一瞬でロープくらい引き千切れるが、その一瞬が有ればどれだけ隙を突こうとも再度取り押さえられるだろう

 

「残念!レオリオの冒険はここで終わってしまった!!」

 

「終わってねぇよ!!つか全部ビアー(そっち)のさじ加減一つじゃねぇか。そもそも俺ぁもうそこまで強くなる理由がねぇぞ。クラピカが旅団(クモ)の奴らと戦うってのと念が医療にも役立ちそうってのが主な理由だったからな。残った目標が緋の眼やゴンの親父さん捜しとかなら俺だって医者の勉強に集中してぇしな」

 

レオリオの主張はもっともだ。直接の殴り合いと失せ者/物の捜索では求められるスキルが違う。仮にレオリオが協力をしたところで大して足しにはならないだろう

 

「もっともらしい事言ってるけど結局罰ゲーム(しゅぎょう)から逃げたいだけでしょ、それ。あと医者を目指すのに自分にはもう厳しい修行は必要ないと思っているなら考えが甘いわよ・・・まさかとは思うけど覚えて半年程度の技量で一歩間違えれば内臓や血管の破裂に精孔刺激して生命力駄々洩れからの衰弱死なんかのリスクを抱えた治療法の練度はもう十分だなんて考えてないわよね?それになにより基礎を磨いて容量(メモリ)に空きが出来れば他にも医療にも使える『発』を習得できるかも知れないわよ。体得すれば高価な医療機器も買わなくても良くなるからお金が無くても高度な医療を必要としている人達にしっかりとした医療を受けさせてあげる事が出来るようになるわよ。医者をしながらのお金儲けは大変でしょうから節約できるところはしていかないとね。まっ、そういう訳だから念の修行はまだ(しばら)く続けるのをお勧めするわ。何事も基礎が後々に大きく影響するものよ」

 

しかしもっともらしい事を言うのはビアーも得意だ。レオリオがきっちりと修行にも勉強にも打ち込めるように(親切心から)逃げ道を塞ぎに掛かっている。オーラが有れば大体の事は何とかなると根底で思っているせいである―――オーラ信者(バカ)に付ける薬は無い

 

「だとしてもやり過ぎだ!アレ以上修行してたら肝心の医大の試験勉強がおろそかになって不合格になっちまうってんだ!!」

 

「それも安心して良いわよ。1日の睡眠時間を1時間までに減らせば今までの勉強時間を削らずに修行時間を増やせるから★」

 

「テメェ頭湧いてんのか!!?精神科行け!いや、むしろ逝け!!」

 

レオリオがギャーギャーと喚きたてる中、キルアが何かに気付いたかのように顔を上げる

 

「なぁ、修行を続けるのは良いんだけどよ。また修行でビスケにあのマッサージして貰うんなら追加で料金払う必要が有るって事だよな?」

 

「そうね。最初の契約はあくまでこれまで約半年分の料金だったからね。ああ、今回の幻影旅団(クモ)の討伐賞金の分配だけど、キルア達の払って無かった半年分のマッサージ料は引いとくわよ。手続きの代金は要求しないであげるから感謝してよね」

 

事後承諾で億単位の契約させた上でこの言いぐさである。頼まれても誰も感謝などしないだろう

 

「うん!ありがとう、ビアー!」

 

・・・一人居たようだ

 

「お前はさっき俺に節約を促しておいて修行代払わせようとすんのは何なんだよ。旅団(クモ)の連中も片付いたし、やるとしても普通の修行で十分だろ」

 

「う~ん。レオリオはそんなに睡眠時間削るのもお金払うのも嫌?」

 

ビアーは人差し指を顎に添えて可愛らしく小首を傾げる。演技では無く素で不思議に思っているのだが、この先の未来で暗黒大陸関連の激動の時代が来る可能性が高いという考えが無意識の内に下敷きとなっており、当然それを他人が知る(よし)もない

 

「ったりめぇだ!その二つともが生きる上で大切な要素じゃねぇか。誰が好き好んで手放したいと思うんだ!」

 

「OK、分かった。そこまで嫌がられてモチベーション下がっちゃったら逆効果になるかもだし、修行は今までと同じ(精神崩壊半歩手前トレーニング)で良いわ。その代わり今後のビスケへの支払いを皆の分も負担してもらおうかしらね―――クラピカと一緒に」

 

「待て!何故私もなのだ!!?」

 

「更に金払えってか俺にっ!?」

 

患者全員に治療を施す医者を目指すレオリオも闇に流れた緋の目を探すクラピカも今後は大金を必要とする。急に飛び火したクラピカもそうだが咄嗟に待ったを掛けてしまうのも無理はない

 

「クラピカはこの前十老頭から電話がきた時に『何でもする』って言ったでしょ。レオリオも安心しなさい。1日で稼げる割のいい仕事(バイト)をしてもらうから、財布のひもは弛めなくても大丈夫よ♪」

 

「マグロ漁船の契約書よりも遥かに信用できねぇバイト紹介だな!俺らに何させようってんだ!」

 

(わめ)くレオリオを前にしてビアーはただニンマリと薄気味悪い笑みを返すだけであった。どうやら質問に答える気は微塵もないようである

 

「さて!元々ヨークシンのオークション期間とプラス10日程度は旅団関連で時間が掛かると思ってたけどこうして早めに全部終わった事だし、さっきのバイトとか報奨金やクラピカの星の手続きとかの必要事項以外にやっておきたい事とかってある?」

 

“パンッ”と手を合わせて周囲の意見を(うかが)うビアーにゴンが真っ先に手を挙げる

 

「じゃあヨークシンじゃないけど一回ビアーの家とか行ってみたいかな」

 

「私の?別に構わないけど、それはまたなんで?」

 

ビアーは特に今まで話題に出した事も無ければ観光地という訳でもない場所にゴンの興味を惹くような要素が有っただろうかと内心首を傾げる

 

「え?別に友達の家に行ってみたいって普通の事でしょ?・・・なんて言ってもくじら島じゃそんな機会は無かったんだけどね。ノウコはそういうのとはやっぱりちょっと違うしさ。それで実はグリードアイランドで修行してる時もキルアの家に遊びに行きたいなって言った事が有ったんだよね。その時は―――」

 

ゴンが自然とキルアの方を向くとキルアは呆れたように肩を(すく)める

 

「無理無理。オレ今絶賛家出の真っ最中だぜ?そうでなくとも俺ん家は誰かを招くってのに致命的に向いてねぇよ。オヤジやじっちゃんはまだ何とかなるかもだけど、お袋とかイルミとか隙有らば消そうとしてきたりするだろうし、ミルキも遊び感覚でブービートラップ仕掛けて来るぜ」

 

「お前ん家の倫理観どうなってんだよ?」

 

「殺しと拷問(身内向け)が日常なだけの一般家庭だよ。電話帳に番号(執事邸)も載ってるし、正門までは観光バスだって走ってるぜ」

 

「電話帳以外の情報が一般からはかけ離れているようにしか聞こえねぇな。まぁそれは置いておいて家に行く云々(うんぬん)の時は俺らも居てな。俺も実家にゃ最低でも医大の試験受かるまでは帰らねぇって啖呵切って出てきた手前、今帰るのは遠慮したいぜ」

 

「今の私は故郷は在れど家と呼べるものはもう残ってないからな・・・ふふふふふ、旅団(クモ)共め。精々生涯を苦痛と屈辱の中で過ごすといい。フハハハハハハ!」

 

両手を広げて天を仰ぎ、ケタケタと嗤い続けるクラピカを無視して会話は続く

 

「私もパスね。小さい頃はお金も無かったから廃材持って帰ってトラップ作ってたり家の中で籠の中とはいえ蜂を飼育してたりでちょっと引かれていたから・・・思い返せば私が悪いんだけど、偶に生存報告すれば十分でしょ。幸い勘当はされてないからね」

 

「生存報告って・・・写真くらいは送ってあげたら?それとボクも家はそもそも無いから招くのは無理かなぁ」

 

「―――で、一周廻って遊びに行けそうなのが実質私の家一択な訳ね。なら三日間ほどはヨークシンで諸々片付けられるものは片付けてそれから移動しましょうか。オークションのお祭り期間の最後まであの街に残ってたら帰宅ラッシュとかで移動もままならなくなりそうだしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして暫く空の旅をしてヨークシンに帰還した後日、とある建物の前にて―――

 

「レオリオ。クラピカ。話は通してあるから逝ってらっしゃい♪」

 

「なんか『行って』のニュアンスが可笑しくなかったか?」

 

「せめて何をやるのか事前に説明をだな」

 

「二人ともゴメン・・・【携帯する他人の運命(ブラックボイス)!!】」

 

シャルナークの人形を宿したレツの手でアンテナを刺された二人はフラフラと建物の中に消えていくのだった

 

 

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