毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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amazonで買った着る毛布。マジックテープが数日で壊れて今は紐で縛ってます。手段はどうあれ皆様も体を冷やさないようお過ごしください


王子と愛称

アイジエン大陸の大半を占める巨大国家。カキン国のとある人里からは離れた静かな洋館では今、その国の第12王子(※カキンでは男女等しく王子呼び)である焦げ茶色の髪をカールで巻いたモモゼ=ホイコーロがやって来ていた

 

おっとりとした大人しい雰囲気を持つ女性で年のころはビアーより僅かに下といったところだろう

 

顔立ちは可愛い系なので年齢よりもやや幼く見えるかも知れない

 

なお現在のカキンの王たるナスビー=ホイコーロには8人の正妻が居り、モモゼの母親は7番目の王妃でモモゼの上の兄弟姉妹たちは全員6番目までの王妃の子供だ

 

モモゼの下には彼女の実の弟である第13王子のマラヤームだけであり、最近第8王妃となったオイトにはまだ子供が生まれていない

 

上の王子たちとは年齢からして大きく離れている場合が多いのも有って接点に乏しく、母親と弟は母親がマラヤームを猫可愛がりしている為にモモゼだけ蚊帳の外に置かれる事が殆どとなっている

 

事実モモゼは現在家族旅行中の旅先でもその屋敷の留守番(・・・)を任されており、母親と弟は今頃何処かのテーマパークにでも行って王族御用達の高級ホテルにでも泊まっている所である

 

しかしいくら王位継承の順位が低く、母親からも警護人などは最低限でも良いとされていようともカキンの王族である彼女は生半可な暗殺者では歯が立たない程度には安全が確保された状態に居る

 

そんな中で全てのセキュリティをすり抜けて、手を伸ばせば王子の命に届く距離に前触れ無く現れたビアーは今すぐに頭に銃弾を撃たれても(撃ち抜けるとは言ってない)仕方ないと云えるだろう

 

警護兵からしてみれば一触即発の空気の中で図々しくも飲み物を頼んだビアーだったが、目の前に座る人物の事は原作知識で知っていた為に内心で溜息を吐く

 

(これは紅茶は自分で淹れないとダメね)

 

違う。そうじゃない。残念がるポイントはソコではないのだ

 

一見動揺していないようにも見えるビアーだが当然そんなはずも無く、転移した直後はそれはもうここは何処かとかレイザーの『排除(エミリネイト)』に巻き込まれた原因はどうせカストロだろうとかで盛大に罵倒の言葉を心の中で並べ立てたりもしていたが、弾丸も余裕で見切れる常人とは異なる時間間隔でそれらの動揺や怒りを一瞬で処理して傍目には平静であるように見せていただけである

 

ビアーは広げた『円』でまだこの騒ぎが外に漏れてないのを確認すると自分とモモゼを取り囲む警護及び給仕をオーラによる覇気モドキで気絶させた

 

「まぁ―――これは貴女が?」

 

突然崩れ落ちた周囲の者達を見てモモゼも口に手を当てて驚きを(あら)わにする

 

「ええ。突然の無礼で失礼するけど、この人達が居るとまともに話も出来そうになかったから少し眠って貰ったわ」

 

(実際あと少しで何かのボタン・・・多分警報ボタンを押そうとしてた人も居たしね。そうなってたら面倒だった。まぁここまで来た時点でどう転んでも面倒には変わりないんだけどね)

 

「やはりそうでしたか・・・それではご用向きの方をお伺いしても宜しいでしょうかしら?ビアー=ホイヘンスさん?」

 

「あらら?私の事知ってたの?」

 

「勿論です。史上最年少で三ツ星(トリプル)ハンターとなった人物として少し前までは連日特集が組まれていたのですよ。国を越えて話題となっていたはずですから今や貴女の名前を知らない人の方が少ないかも知れませんわね」

 

「あ~、ここ最近は電波も繋がらないような孤島で活動してたから最近のテレビ事情は知らなかったわね」

 

(テレビに映る自分を視たいとは思わないからある意味良かったかもね。てか私最年少三ツ星(トリプル)だったんだ。でも確かに一ツ星(シングル)までなら本人の技量次第な所有るけど二ツ星(ダブル)以上は弟子も星持ちハンターになる必要が有るから割と運も絡んで来るのよね)

 

「・・・と言うか今更だけど私の事は警戒しなくて良いの?」

 

「必要ありませんでしょう?貴女はお話(・・)に来られたようですし、力尽くで私を如何にかなさるおつもりなら今の私になす術は無いというのも証明して頂きましたから。元フロアマスターさん?」

 

モモゼは冷静に警護の者達が使えない(・・・・)と判断した。プロハンターもそうだが仮にもフロアマスターは表向き世界最強の一団の一角を担う者たちだ。少し前にカストロがフロアマスターとなった事で『元』が付いているが、一介の警護兵数人程度では相手に成らない事くらいは彼らが目の前で気絶させられる以前から明白だった

 

継承位が低くとも将来『王』となる思想と教育を受けて来た彼女は不測の事態を前に思考を停止させるような愚は犯さない

 

無論まだ若いモモゼが突然の事態に動揺していない訳では無いが高鳴る鼓動を抑え込んで平静を装い、今に至るまでビアーの一挙手一投足をつぶさに観察して頭をフル回転させているのである

 

もっとも見た目は平静にしているモモゼだが近場なら他人の心臓の音も聞き取れる今のビアーにはバレバレであったりするのだが、これは相手が悪いだけだ

 

色々と混乱する中でもモモゼが理論立ててアレコレとこの唐突な二人のファーストコンタクトの理由を考えるもビアーがこの場に居るのは理屈も常識もすっ飛ばし、ついでに本人も距離という概念をすっ飛ばして来た迷子という解に辿り着けるはずも無いのだが

 

そんな国境越えのワープ式迷子なビアーは心を落ち着ける為に紅茶の薫りをゆっくりと肺の奥まで送り込んで味を楽しむ為と云うよりも知らずに乾き掛けていた口内を湿(しめ)らせるようにカップに口を着けたモモゼに笑顔を向けて切り出した

 

「モモゼ王子。ちょっと次の王様になってこの国の壺中卵の儀(システム)をぶっ壊してみる気はない?」

 

こふッ!)

 

―――モモゼは(むせ)

 

 

 

さてさて、モモゼちゃんに「You 王様になって国を引っ掻き回さないかYO!」と言ってみた訳だけど取り敢えず反応(つかみ)は上々と見るべきかな?何を見て判断したとは言わないけど

 

正直私なら全てのセキュリティを物理で突破して適当に後でカキンに詫び(袖の下)でも入れておけばこの場を切り抜ける事は出来る。今の私ならそれくらいの影響力も経済力も有るでしょう・・・でもそれって結局私が理不尽かつ一方的に損して終わりじゃん?それなら一丁この状況を利用して私好みに引っ掻き回しても良いと思う

 

モモゼ王子と云えば原作で継承戦が始まって速攻で最初に脱落(死亡)した王子な訳だけど、意外とプロファイル出来るだけの情報は揃っていたりする

 

先ず家族仲が悪い!

 

母親からネグレクトを受けて実の弟は見せ付けるように愛情を注がれている

 

父親である国王や他の異母兄弟姉妹たちとはそもそも接点が薄すぎるだろうし、カキンの王子よろしく恐らく弟が生まれるまでは次期国王を狙う教育は受けていたってのは原作の様子から察せられる。つまりは弟も王位を狙う上で邪魔な存在になってるっぽい

 

なにより彼女の内面を推察するなら彼女の念獣でしょうね

 

原作においてカキンの念で創られた国宝の力でそれぞれの王子に王子をサポートする守護霊獣が与えられていたけど、この子の念獣は愛らしいハムスターの外見で敵である念能力者にノイローゼになるレベルで『暇?』と問い続けて了承を得た者を操る能力だった

 

それと操る際にはハムスターの外見もクモに変化してた所も忘れちゃならないわね

 

寄生型の念獣は寄生相手の影響を強く受ける

 

念獣を与える国宝を創った人の影響も有るから全部を鵜呑みには出来ないけど、王子たちの念獣の外見は結構バラバラで統一性が無かったから割と本人の影響が強いんだと思う

 

もっとも最初は座して待ちそうな性格っぽいモモゼの念獣が原作で即殺ムーヴしてたのとか多分製作者の『殺し合え』って呪念がかなり後押ししてたんじゃないかと思うんだけどね

 

そんなこんなで推察される彼女の性格は何か?

 

 

1.愛されたいのか猫(ハムスター)被ってる。なお原作で弟が飼っていたのがハムスターなのを観るに家族を下に見てるのは自衛本能であり、その奥では家族としての繋がりを欲してる

 

2.懐に入れた相手はクモの糸で絡めとるように逃がさない

 

3.念の事を知らずに念能力者を対象とした操作系能力を発現してる事から(まつりごと)に対する姿勢として少数でも『特別』な人間が国を動かす考えを持っている

 

・・・って感じかな?

 

ザックリ纏めてしまうと指揮官タイプのメンヘラ構ってちゃん(身内限定)だ

 

それらが表に出て来てないのは生来の性格なのか家族、特に母親を前にした処世術なのかは分からないけどね

 

何故か(・・・)若干恨みがましい目を向けて来た彼女だけど、一息ついてから手に持っていたカップを受け皿(ソーサー)に静かに置いてから真っ直ぐに私に視線を向ける

 

「確かに私達王子はそれぞれが次代の王を目指しています。ですがシステムを壊すとは如何いった意味でしょう?もしや王制批判という事ですか?」

 

ああ、システムって聞いたらそう感じちゃうわよね。カキンは名ばかりの民主議会制を導入したばかりでそれについての非難も強いし尚更だ

 

「私としては王制も民主制も一長一短有ってどっちがより良いとか言わないわ」

 

これは本心。前世のグダついた政治を見て民主制最高!とは思えないし、一方で王制が残ってる国が全部ダメダメだったかと云えばそうでもない

 

結局その大雑把すぎる二つの区分だけでどうこう決まる訳では無いのよね―――理想を語るなら時代、歴史、周辺国との折り合い、文化諸々を織り込んでその国、その地域、その情勢に合ったシステムを随時更新していかなくてはならない。詰まりは・・・

 

セイジ、ムズカシイ

 

びあー、かんがえるの、やめる

 

・・・・・おっと!知能指数が一瞬バグってたわね。危ない危ない

 

「そのシステムについて説明する為にも前置きで『念』について話さないといけないわね」

 

カキンの王族とか遅かれ早かれ念の儀式に巻き込まれる当事者なんだし別に話しても良いでしょう・・・と云うか話さないと説明が面倒過ぎる

 

『念』と云う聞きなれない言葉を聞いて頭の上に疑問符を浮かべる彼女に大仰に両手を広げてその内容を語ってあげる

 

「念と言うのはね。生きとし生ける全ての生命が内に秘める神秘の力!それを扱う者の存在を別次元へと昇華する命の持つ力の(すい)!それによって出来る事は正に千差万別奇々怪々、妄想上等戯言歓迎!無限の可能性で夢幻を具現するこの世界をより愉しむ為のキーアイテムよ!!」

 

どうよ?この『特別感』をテンコ盛りにした説明を訊けばお目目キラキラ興味津々必須でしょう?

 

「・・・ひょっとしてお疲れではありませんか?この別荘にも腕の良いお医者様は常駐していますので今お呼びして―――」

 

「私は極めて健康で正常だから止めて!!?」

 

しまった。特別が過ぎて逆に憐憫(れんびん)の目を向けられてしまった。その上で心から心配してるのが伝わって来るからこっちの心までもが痛い!・・・一応嘘は言ってないんだけどなぁ

 

私の事をフロアマスターとしても知ってくれてるならネットに落ちてる試合の記録でも・・・いやダメだ。あそこじゃ私カストロさんへの指導試合以外瞬殺劇しか繰り広げてないから普通の人が視たところで(ほとん)ど何も分からない

 

よし!なによりも先ずは念の存在を信じて貰いましょう。周りの人達は気絶させてるけど定期連絡の有無とかで他の警備とかが集まって来るのも時間の問題と見るべきでしょうから悪いけど巻きで行くわよ

 

「モモゼ王子。念は貴女のところなら国王と第一・第二王子は少なくとも知っている力よ。上からの景色を見てみたいなら今、見せてあげる。その上で色々判断してちょうだい」

 

椅子から立ち上がって彼女の隣に移動すると手を差し出す。モモゼ王子は少し迷ってからおずおずと手を伸ばして私の手の平の上に重ねるように手を置いてくれた―――言質(ボディランゲージ)取った

 

私は彼女を抱き寄せるとお姫様抱っこに移行してキョトンとしている彼女にニッコリ笑い掛ける

 

「ビアーさん?少しお待ちになってって!キャアアアアアアアアア!!!?」

 

何か制止の言葉が聞こえた気もするけどもう遅い

 

一度膝を曲げた私はその場で全力の垂直跳びを披露する。以前カストロさんをアッパーで天空闘技場の上までぶっ飛ばしたけど、多分その1.5倍以上は高度が出てるでしょう

 

原作のゴンとキルアは多分20メートル位の垂直跳びを披露してた。念を覚えたての二人でそれなら10年以上のアドバンテージの有る私ならこの程度はイケる

 

純粋な筋力では敵わなくても原作猫娘(ピトー)が高い場所から真横に2キロ位跳んでたアレを今の私なら再現出来る。てか『赤裸々(ドレス・ブレイク)』使えばそれ以上も可能だ

 

もしかしたら『赤裸々(ドレス・ブレイク)』無しでも今の私なら世界樹の天辺まで1ジャンプクリアできるかな?

 

「ほらほら、目を開けてモモゼ王子」

 

急激な気圧の変化とか諸々の負担は彼女に『周』でオーラを纏わせる事で解決だ。外法とは違って直接オーラを身体に作用させてる感じじゃないから大丈夫だと思う・・・大丈夫だよね?半覚醒くらいにはなるかも知れないけど、問題ないよね?

 

まぁ良いや。重要な(こまかい)ことは後だ

 

お姫様抱っこしたまま肩口を掴んでる腕の指先で“ポンポン”と叩くと叫んで目を瞑っていた彼女がゆっくりと目を開けた

 

「―――まぁ!」

 

カキン国は広大で都市部以外はそれ程発展していない。加えてこの洋館も静けさが売りとしてあったのか人里からは少々離れた位置に在ったみたいで、少し遠くの街の見える一部の方角以外はほぼ大自然に彩られた絶景が拝めた

 

飛行船にでも乗っていれば高い場所からの眺めなんて幾らでも見れるでしょうけど、こうしてその身一つで大空を跳んでるのはまた違った良さがあると思う

 

因みに私は跳ぶ前に激重重しを収納バッグに入れてジャンプしたから最高高度に到達した後は空中ジャンプで同じ位置をキープしてる・・・流石に数メートル上下してはいるけどね

 

以前ゴンの家の前でポンズ姉とレツに必死の空中ジャンプを見せたけど、あの時よりオーラ量も増えてるし何よりあの時は重し装備のままだったからね。重しが無ければこの程度はいける

 

上空は地上よりも空気が澄んでて視界もクリアだ。いや~、やっぱり解放感が有るとテンション上がっちゃうね!

 

「ハハハハハハ!見ろ!人がゴミのようだ!!」

 

街の方へ身体の向きを調整しつつ某大佐のセリフを吐く。この程度では終わらない。何時か私はラピ〇タの雷(かみなり)パンチを繰り出せるように・・・ってこれ完全にどっかの核の威力の右ストレートを出したい筋肉ダルマ(ウボォーギン)じゃん―――ひょっとして強化系ならこれが普通の思考なのかな?

 

※ 違う

 

まぁ暗黒大陸で安定して全ての障害(物理限定)を蹴散らそうと思ったらそれくらいのパワーは必要かもだけど

 

「それでどうかな?人間の限界を超える・・・いえ、それだと語弊があるわね。人間の限界ってやつが思ったよりも高い位置に在る事は解ってくれた?」

 

別に私は特別なアイテムを使ってるとかで力を本来以上にブーストしてる訳じゃないからね。あくまでもこれは『人の力』だ―――勿論知恵や道具を使うのも人の力だけど、ここでは一旦置いておくものとする

 

モモゼ王子は絶景を見渡した後で私の顔を見てやや興奮気味ながらも答えてくれた

 

「はい。とっても高いです!」

 

高い―――それはどっちの?

 

問いたい衝動をかろうじて私は・・・ってイカンイカン。キルア屈指の曇らせシーンを穢すな私

 

短いながらも空中散歩を終えた私達は自由落下で真下の庭園に向かうと音もなく着地すると彼女をゆっくりと地面に下ろす。うん、完璧

 

だけどそこで地面に倒れていた内の何人かがもう少しで目覚めそうな気配を感じた。もう一度気絶させると今度こそ定期連絡とかでアウトかも知れない

 

「ふふふ♪大丈夫です。ビアーさんは私が秘密裏にお招きしたお客様。それで押し通しますわ。詳しい話は私の部屋ですれば宜しいでしょう」

 

お、流石に空まで跳んでみせたらかなり乗り気になってくれたわね。私の取引内容はまだしも念の知識だけは間違いなく欲しいでしょうしね。でもそれで行ける?

 

「そりゃどうしたって強引な部分は出て来るかもだけど、それで護衛の人達は納得する?結構渋られそうだけど?」

 

王子と突然現れた不審者を二人きりとか幾ら王子の命令でも簡単には頷けないと思うんだけど?特に王室警護兵と上位王妃からの監視の意味合いも有るはずだし

 

「いいえ。むしろこれが一番周囲を納得させるのに一番の理由付けとなるはずです。ビアーさんにもこの後ご納得いただける事になると思いますわ」

 

「そう?まぁそっちの細かいパワーバランスまでは知らないし、問題無いならお任せするわ」

 

何だか知らんが、兎に角ヨシ!

 

私達は初めに座っていた場所に座り直すと最初に彼らを気絶させたのと同じ要領で気付け程度の覇気モドキを放って周囲の人達を目覚めさせる

 

「う、う~ん。何でこんな所で寝てるんだ?」

 

「これは・・・一体・・・?」

 

「確か何処かで見た少女が突然・・・はっ!モモゼ王子は!!?」

 

段々と頭が回ってきた護衛たちが王子の名前を耳にした途端に勢いよく周囲を見渡したり起き上がったりする

 

「はい皆さん。どうかなさいましたか?」

 

だが心配されてる当の本人はどこ吹く風で残りの紅茶を味わっている。イイ性格してるわね

 

「いきなり寝てしまう程疲れているならお部屋にお戻りになっても大丈夫ですよ。彼女の御持て成しは私がやりますから」

 

フラフラと起き上がって来た給仕や警護兵たちの視線が再び私に集まるけど敵意や警戒心に彩られてたファーストコンタクトと違って今回は困惑の色が濃い

 

仮にもこの場の最高権力者の王子がはっきり客として扱っているからね。彼らからしてみれば謎の少女が謎の方法で現れて謎に気を失ってたら謎の少女が自分たちの主に謎に歓待されてる謎の光景を目にしてる訳だ。改めて羅列すると彼らに同情しちゃうわね。脳内メーカーで見たら9割が『謎』で埋め尽くされているでしょう

 

そんな中で最初に動き出したのはある意味一番立場の低い給仕さん達だ

 

警護の人達は警戒と状況把握も仕事の内って云い訳も出来るけど、給仕は呆けてたら王子が手ずからお茶を淹れてましたとか彼らからしたら死活問題だ

 

困惑もそのままに体に染みついた手慣れた手つきで予備のティーセットを私の前に用意して私の分と丁度空になったモモゼ王子の分の紅茶を注いでくれた

 

なんか幾つか用意されてたお茶の銘柄とかミルクや砂糖の有無とか訊かれたのは面倒なので「モモゼ王子と同じのをお願い」と言っておく。私は紅茶も珈琲も割と気分でストレートで飲んだり甘くして飲んだりするのよね

 

そうして出されたお茶の鼻腔の奥まで抜ける爽やかな梅に似た薫り。なんでも九曲紅梅茶らしい

 

九曲って地名とかだったと思うけど、こっちにも在るんだ

 

「突然の事で驚かせてしまって御免なさい。彼女は私が以前から秘密裏にアプローチしていたビアー=ホイヘンス氏ですわ。まさか(・・・)私の付き人の中に彼女を知らない方は居ませんわよね?」

 

なんか黒い笑顔で圧を掛けてるな~

 

周りの皆さんも心なしか目を逸らしてる気がするし、この空気でNOとは言えないよね。いや、なんか(しばら)く私もテレビに出まくってたみたいだから普通に皆知ってるかもだけどさ

 

「ビアーさん。本日は私の方のスケジュールの調整もままならない中、急なお招きに応えていただき感謝致します」

 

ああ、最低限の理由付けね。私の急な迷子(らいほう)は面倒な手続きとか周知とかしてる暇も無かったんだよ~ってね・・・カキンの王族なら悪い意味でそういうのがまかり通るから

 

「もし宜しければこの後で私の部屋に案内致します。折角の機会ですから二人きりで深く交流を図りたいですわ」

 

彼女の発言に今度は警護兵の管轄に関わる事だからか彼らの内の一人が声を上げた

 

「お、お待ちくださいモモゼ様!そちらの女史といきなり二人きりなどとなれば!!」

 

焦りからか折角上げた声が途中で詰まる。勢いのまま吐き出せないのは失態だよ

 

「なれば?」

 

「さ・・・様々な危険が生まれるのではないかと・・・その・・・色々と危険です。ホイヘンス殿もどうか努々(ゆめゆめ)ご自重下さいますよう願い・・・ます」

 

王族の笑顔の圧に屈して尻すぼみなモニョモニョ言葉になって上に私に丸投げ懇願してきたんだけどコイツ・・・もうちょっとは頑張ろうよ。この状況で私が彼女の提案を蹴る訳無いじゃないの。そっちからしたら如何見ても私達は共犯?なんだし

 

屋敷(ここ)まで来てる時点で今更でしょう?警護兵(あなたたち)の面目潰しちゃったのは悪いとも思うけど、モモゼ王子もそこは咎めたりしないわよ」

 

視線を彼女に向けるとモモゼ王子も軽く頷いてくれた

 

「勿論です。仮にビアーさんから身を護ろうとするなら軍に出動を願い出なければなりません。今回の事は気にせずに引き続き務めを果たして下さいな」

 

軍か~。一口に軍と言っても色々在るからね―――真正面からゴリゴリの潰し合いをする場合は流石に勝てないかな~

 

やっぱ核がネックだね。核を克服して核にも負けない強さが有れば勝てるし、そうでなければ敗ける。人類の叡智(あくい)だねぇ・・・逆に言えばそれ以外は何とかなりそうかな?大型ミサイルとかは直撃したら『まだ』ダメージ有るだろうけど、効果範囲外に1ジャンプエスケープなら出来ると思う

 

「それとビアーさん。これから交流を深めるに辺りお互いの呼び方を変えませんか?プライベートな付き合いで年齢も近いのに王子呼びでは距離を感じてしまいますし、私達の『仲』を周囲に認知された方が今後お互いに動きやすくもなるはずです」

 

三ツ星(トリプル)ハンターの私と個人的に親しいと周囲が思えばそれだけでも抑止力にも繋がるもんね。私としても関わる以上は今後の彼女との接触は可能な限りフリーパスに近づけたいし・・・ヨシ!折角ならぶち込んでみますか!

 

「ならモモゼちゃんとモモちゃん。それかモモゼっちとモモっちの中だとどれが良い?」

 

私の一国の王子に対するあまりにも不敬(私の身分(女王)は無視)な提案に周囲で事の成り行きを見ていた人達が「あばー!」とか「ほわぁあああ!!」とか奇声を上げる

 

そりゃそうなるよね

 

「・・・モモゼっちとモモっちは何度呼ばれても耳慣れなさそうですし、ちゃん付けも子供(いま)は良くとも大人(こんご)がキツそうに思います」

 

だよね~。モモゼ(ちゃん)十八っ歳・・・うん。キツイな。呼ぶ方も呼ばれる方もダメージを負うわ

 

「ですので出来ればモモ、とお呼び下さいな」

 

結局無難に落ち着いたわね。王族信奉者っぽい人達なんかはそれでも感情の渦を体現するようにセルフ全身雑巾絞りを披露してるけど、五大厄災のアイに捻じられた人と勘違いされて特別渡航課(トッコー)に連れて逝かれたりしないでよ

 

「OK、プライベートじゃモモって呼ぶわね。逆にモモは私の事はなんて呼びたいの?」

 

こんな話題を振って来たなら元々何か希望でも有ると見た

 

「お姉様で」

 

―――なんて?

 

「腹違いとはいえ上に5人の姉(第2、5、6、10、11王子)が居りますのでビアーお姉様でも良いかも知れませんわね」

 

王子(あなた)にお姉様と呼ばれると下手すれば私にも王族疑惑が・・・(なんちゃって)王族だったわ私。カキンのじゃないけど

 

・・・まぁ良っか!所詮プライベートだし!(バカ)。なにより可愛い女の子に姉と呼び慕われて嫌な奴居るぅ?居ねぇよなぁあああ!!?

 

レツからのお姉ちゃん呼びロスを恒常的に味わってる私としてはその呼び方は私に効く

 

『こうか は ばつぐん』 だよ―――レツが呼んでくれたら4倍ダメ入るけどね!

 

それにしてもまさか私に母性や父性ならぬ姉性(?)を求めて来るとはね。でも確かに家庭環境がかなり複雑でドロドロしてる訳だし、血の繋がりとかは重視しなくなってても可笑しくは無いのか

 

そんなこんなモモのお姉様呼びを了承する。なんか信奉者がもう全身捩じれにヨガのポーズを加えた極限状態で生み出す前衛芸術(モザイク案件)となっていたのは見なかった事にしよう。ギャグ補正で死んではないと思うから・・・

 

それから少しの間は周囲の目も有るからお茶とお茶菓子に用意されていたマカロンを摘まみながら取り留めのない話をする

 

モモは私のハンター活動を訊きたがったし、逆に自分の事を話す時は弟が生まれてからは生け花とか編み物とかの政治的影響力を見込みにくい習い事が多くなった(要約)とか黒い笑みが滲み出てたりした。原作で編み物してたのってそういう・・・一応習い事自体が嫌いって訳じゃないみたいだけどね。最近の趣味は編み物やショッピング(・・・・・・)らしいし

 

王族のショッピングとか色々お高いんだろうな~と思って聞いてみたら絵画とか寝具の新調とか色んな服を揃えたりとか意外とお金持ちらしい一面(偏見)も持っているらしかった。こういった情報は原作を読んでるだけじゃ得られないモノよね

 

そうして話している内にお茶もお茶菓子も無くなった辺りで場所を移す事になった

 

「それでは私の部屋にご案内致しますわ。もっとも本邸の部屋という訳でもないので少々殺風景でお恥ずかしいですが」

 

「いや普段使いもしてない別邸の部屋なんてそんなもん・・・ん?別邸とか持ってる時点でゴージャスがデフォなのかしら?」

 

庶民感覚と王族感覚の差異とか考えるとモモの殺風景って言葉もアテに出来ないけどね

 

テンションが高まってるのかモモは案内の為にと私の手を握って手を繋いだまま歩く事になって私も年相応な笑みが零れてる彼女の様子にほっこりとしたものを感じる。原作の人物の意外な一面を見られるのは漫画やゲームの世界に転生する事で得られる魅力の一つよね。そうして程無く彼女の私室の扉の前まで辿り着いた

 

使用人が私達を前にしてデカイ扉を開いてくれたので私は部屋の中に・・・入らずに体の向きを反転してその場から立ち去ろうとする

 

「お姉様?お部屋はそっちではありませんよ?」

 

モモが私の手を握っていたその手の握力が強くなる。振りほどけるか如何かは別として逃がさないという彼女の意思が籠められている

 

「モモゼ王子、私共はこちらで待機しておりますので何かあればお声がけ下さい」

 

「ホイヘンス様。モモゼ王子をよろしくお願いいたします―――逝ってらっしゃいませ」

 

「今『いって』のニュアンス可笑しくなかった!!?」

 

無情にも警護兵すら部屋に入る事はなく(私室兼寝室だから当たり前)モモに引っ張られた矢先に扉が閉じた

 

私は振り向きたくない衝動を抑えに抑えて振り向き改めて部屋を見渡す

 

私・・・私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私

 

より詳しく言うなら私フィギュアに私タペストリー、私カップ、私写真、私パネル、私抱き枕、私ハンカチ、私カーテン、私テーブル掛けetc,etc

 

壁や小物だけじゃない。天井から床まで私グッズで埋め尽くされている

 

「『ショッピング』ってコレかぁああああああああああああああ!!?」

 

転生して派手に動けばどこかで原作に影響が出るとか確かに有り得る話だけど、こんなの予想出来るかぁああああ!!プロフィールに『私のファン(激重)』追加とか知るかぁあああああ!!

 

なんか出会ってからちょくちょく反応が可笑しいとは思ってたけどさぁ

 

てかこれで一部なの!?『これ』で殺風景なの!!?いやそもそも天空闘技場のグッズコーナーをほぼ占拠してたらしいけどこんなに色々売ってた訳ないよね?私的に造らせたのも有るよね?

 

「お姉様。宜しければマネキン(ビアー忠実再現)に着せる予定のこちらの服を着て頂けませんか?そのまま写真撮影に移りましょう。先ずはどっちの衣裳が良いでしょうか?」

 

モモが笑顔で気品のあるドレスとファッション雑誌に載ってそうな服を両手にそれぞれ持って近づいて来る―――ダメだ。せめて話の流れを真面目方面に持っていかないと精神が持たない!!

 

「モモゼ王子!上位王子たちと対等に渡り合える武力とか欲しくない?(話に)乗ってくれないと今後も王子呼びするよ!!」

 

私が呼び方を盾にすると渋々持っていた服を置いてくれた。大丈夫だ。部屋いっぱいに飾られたグッズもモモの顔だけを注視してれば殆ど見ずに済む―――そこ!顔を赤らめない!

 

「モモはカキンの三大マフィアは当然知ってるよね?」

 

「はい。とても強い権力(・・・・・・・)を持った方々ですわね」

 

「そ。仮にモモが三大マフィアに日和見してる木っ端ヤクザを纏めて後ろ盾になっても三大マフィアに潰されて終わりね。それにそもそも犯罪をして欲しいとかって訳でもないわ。あくまでも普通のビジネスの話として・・・マフィアンコミュニティーのトップ。十老頭と手を組んでみる気は無いかしら?」

 

十老頭の内の二人は丁度カキン国を南北に二分する形でシマを持っている。三大マフィアだって無視出来ない大組織だ

 

「―――詳しくお話をお聞かせ願えますか?」

 

モモが真剣な目つきとなって問うてくる。今の彼女は王族モードだ

 

「うん。でも別の部屋でも良い?」

 

寝室(ここ)以外ですと警護兵や使用人が付いてきますが?」

 

「・・・・・ここで良いです」

 

全く良くないけどね!!それもこれも全部カストロのせいだ!今度出会ったら星にしてやる!!

 

 

 

こうして全方位から私の視線を感じる中、真面目な話をしなくてはならなくなった私であった

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