毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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エイプリルフールって起源は何かって調べても答えは諸説有り(分からない)でしたねぇ


再開と上陸

私がグリードアイランドのシステムバグとも云える現象でカキン国の王族所有の別荘に跳ばされ、ある意味元凶のカストロさんを夜空を彩る流れ星に変えてから一ヵ月ほど経過した。時期的にはそろそろ12月ね・・・この一ヵ月の間はそれはもう大変だった

 

PV制作の為にモモが手配した人材は一流という条件を付けた上でも王族パワーで直ぐに集まったんだけど、どんなに急がせたところでゼロからその場で作品が出来上がるはずもないのよね

 

勿論初日にモモとアレコレおおよそ方向性は決めてたからまだ早い方ではあったんでしょうけど・・・てか突貫作業でありながらハイクオリティを要求された職人さん達はキレても良いと思う―――王族相手にキレる命知らずは結局居なかったけどね

 

ハンター協会の広報って事も有ってデザインされた衣裳(それ)は私の犯罪(クライム)ハンターとして闇を照らす光かつ三ツ星(トリプル)ハンターである事。更には冒険と広大な世界ってのも(あわ)せて出来上がったソレは宇宙をイメージしたデザインって言えば良いのかな?

 

アイドル衣装に満天の星空を模した(がら)。前側のボタンを留める位置に大きな星型の飾りが三つ付いている肩出しへそ出しスタイルだ

 

具体的には前世でとある魔術のインなんとかさんのスマホゲーム(幻想収束(イマジナリーフェスト))に出て来たみこっちゃんの衣裳に酷似(こくじ)していた。デザイナー、さてはアンタ転生者だな?

 

因みにその衣装を着て歌うのは闇を払う光のような力強さを感じさせる歌詞と曲調で【only my star light】らしい。どう聴いても【Only my railgun】です。作詞作曲家コンビ、さてはアンタ等転生者だな?

 

そんな転生者疑惑トリオ(?)は活き活きと作業してたけどね。あとアイドルPVの根幹をなす部分とも云える所だったし、それで創られたダンスも私なら直ぐに覚えられたからそっちの撮影はそこまで時間は掛からなかったのよ。歌だって最初からリズムも『なぜか』分かってたしね・・・問題は赤ちゃんプレイなCMの方だった

 

何が問題ってもちろん全部問題しかない訳だけど、一番私の精神(こころ)をボキボキにへし折って来たのはその撮り直し(リテイク)の回数だ

 

私としては当然一発撮りで成功させてオサラバしたい所なんだけど、私をあやす役として熱烈アピールで立候補したモモがいけなかった

 

別に私一人でも撮影は出来る内容だったけど、この恥ずかし空間を共有できる人が居た方がまだ精神的なダメージは緩和されるかなと思ってモモの参戦を許可した過去の私をぶん殴ってやりたい

 

いざ撮影が始まるとその度にモモが限界化して赤ちゃんモードの私と接する事に耐えられず鼻から滝のように血が流れる必然(トラブル)でリテイクする事87回。その内貧血で医者のお世話になって撮影にストップが掛かった回数30回。繰り返される赤ちゃんプレイで精神が摩耗(まもう)し、私の赤ん坊芝居のクオリティ不足だと指導されてダメになる事9回。苦労に苦労を重ねた計96回のリテイクを受け、97回の苦難の果てに終わり(撮影成功)という勝利をこの手に出来た―――前世も含めて人生で一番の激闘だった。間違いない

 

なおモモの母親(セヴァンチ王妃)はモモの弟と一緒にすでに王宮に帰還済みでモモには『先に帰ってるからあんたは適当にゆっくり帰って来なさい』的な伝言が有ったみたいで、こちらとしても好都合だったのでモモの次の公務ギリギリまで粘ったところは有る

 

撮影そのものは数日前に全部終わったしね

 

当然この一ヵ月で撮影とかの時間も含めてモモには念の指導を行い、今の彼女は原作でゴン達が裏ハンター試験合格を言い渡された時くらいには育成できた

 

モモの生来持ってる才能から考えたら驚異的な成長スピードだけど、なんか所々『絶』を会得してた時みたいに(なぞ)ブースト掛かってたわね

 

そんな訳も有って『纏』『絶』『練』『凝』を会得して水見式で系統も確認済みだ。念の系統についてはやっぱりと云うべきか操作系だったわね

 

あと途中で一度チードルさんから一言だけ(くび)り殺す」って電話が来たんだけど、そこは(いぬ)のキャラ的に嚙み殺すとかなんじゃ?それにミザイストムさんにも思ったけど、その殺意は介護しているヨボヨボのお爺さん(演技)に向けてね。まぁ既に信頼(?)の裏返しで出会う度に本気で(たま)取りに行ってるかもだけど

 

「それではお姉様、残念ながら此度(こたび)はこれでお別れとなりますが、これからは毎時連絡を入れさせて頂きます。次にお姉様と出会える日を一日千秋の思いで過ごす所存ですわ」

 

今は空港のVIP用特別通路でモモが私の手を取って目をウルウルさせながら別れを惜しんでいるところだ

 

「うん、取り敢えず毎『時』は色々重いから止めて。あと私はハンターだから連絡着かない場合の方が多いからね。やり過ぎは困るわよ?」

 

その辺りの節度も守ってよ?いくら仕事用とプライベート用の電話を使い分けてるって云っても色々限度が有るからね?

 

「くっ!分かりましたわ。ですが逆にお姉様からの連絡であれば例え公務中であろうとも最優先で“取/獲/摂/録()”らせて頂きますわ!!」

 

「それも止めて!てか今なんか凄くゾワッとしたんだけど!!?」

 

よく分からない悪寒が全身に奔ったわよ!?

 

放っておいたら何か色々と暴走しそうなモモに幾つか釘を刺しながらも今度こそモモと別れるとロビーに一度戻り、くじら島(の近くの空港)に行く為の飛行船の出発時間まで少し待つ

 

ハンターライセンスの力が有れば何時だって最高級のファーストクラスだって乗り放題だ

 

モモも私用船を用意するって言ってくれたけど激しく嫌な予感がしたから断っておいた

 

多分外見は普通(?)に王室仕様だろうけど、内装がモモの自室と同じ私グッズの山な気がしたからね。確かめたくはない

 

そうして次の便を待っていると見知った人影が見えたので弄っていたスマホを仕舞い、立ち上がってその人達に近づいて声を掛ける

 

「パーシナモンさん。アニタさん。お久しぶりですね」

 

そう、そこに居たのはスパイス鉱石(一応合法ドラッグ)貿易の商会長とその娘さんだった。以前イルミからの暗殺を阻止した時以来だからほぼ一年ぶりね

 

今日はプライベートって訳でも無いみたいで護衛も兼任してるであろう部下も三人居るわね。私の声に振り返ったアニタさんは目を見開いて驚きを(あら)わにする

 

「アンタ!なんでこんなとこに居るのよ!?」

 

いやいや、なんでも何も空港のロビーに居る理由なんて基本は一つだけでしょうに・・・って、そんな事訊きたい訳じゃないか

 

「アニタ、先ずは挨拶からだ。キミと今日ここで出逢えた幸運に感謝を―――ビアー君、しばらくぶりだね。壮健そうで何よりだ」

 

パーシナモンさんが挨拶した事でアニタさんも気を持ち直したようで軽く咳払いを挟んでから挨拶をくれる

 

「久しぶり。随分暴れ回ってるみたいだったから心配はして無かったけどね。今日はあの二人とは別行動かしら?てっきり四六時中ベッタリなのかと思ってたわ」

 

ベッタリだったのが強制ワープで引き離されたんですよ

 

「ポンズ姉とレツは今は地図にも載ってないとある島でハンター活動中ね。私の方は諸事情(誤ワープ)で別の仕事(撮影)を先に片付けたりする事になったんだけど、それもやっと終わったからボチボチ合流しようかなってところよ」

 

「地図にも載ってないって、どんな小さな辺境の孤島よ?」

 

記載されてないのは別に小さくて辺鄙(へんぴ)な場所に在るからまだ発見されてないって訳じゃないけどね

 

「私はそんな感じね。そっちは見たところ今飛行船で空港(ここ)に着いたところみたいだけど、こっちで何か仕事?」

 

「いいや、こちらも仕事が一段落した所でね。私が色々と飛び回っている間にも運航していた我が商会の商船(ふね)の一隻が丁度カキン(ここ)寄港(きこう)していたのでこれから合流するつもりだよ。その後は一度スパイス鉱山の在る島の事務所に戻るつもりだ。あの島は飛行船では直接出入り出来ないのでね」

 

スパイス鉱山の在る場所の地図は見た事ある。海と云う天然の関所で隔絶された採取場所だからこそあのヤバイ薬の流出を防ぐ一助になっているんでしょうね

 

スパイス鉱石の流通を手広くやってたら破産した人達が海賊や盗賊にジョブチェンジして世界レベルでの治安の悪化も有り得たかもね

 

「そうだ!ビアー君。もし君の用事が急ぎでないなら一度島まで来てみないかい?島には妻の墓も在ってね。我々の命の恩人としてプリシラにも紹介したいのだよ。本当ならポンズ君とレツ君も一緒なら良かったのだが、こればかりは巡り合わせだからね」

 

お墓参りか~。そう言われちゃうと弱いわね

 

グリードアイランドもカストロさんが合流してるなら人手は足りてるでしょうし、特段急ぐ理由は無いからね。なにより『ゲームやりたいから墓参り(それ)、後回しで良い?』とか薄情過ぎでしょ

 

「構いませんよ。スパイス鉱山ってのも一度くらいは見てみたいとは思ってましたし―――そんな訳だからアニタさんにはツアーガイドをお願いしようかしらね」

 

「ツアーも何も観光スポットじゃないんだからお土産の一つも売ってないわよ」

 

特産品(スパイス鉱石)なら在るじゃん。要らないけど

 

「はっはっは!なぁに、長居してくれとまでは言わないさ。アニタの言う通り娯楽を提供出来る場所ではないからね。しかしその代わり、精一杯持て成させてもらうよ。これでもそこそこ稼いでいる身だ。美味しい料理くらいは提供出来るつもりだよ。腕の良いシェフも雇っているからね」

 

小国を買えるくらい稼いでる商人でそこそことか言ってたら世の中の大半の人が相対的に極貧層判定になっちゃうじゃない

 

私はパーシナモンさん達に同行する事にして飛行船の搭乗予約をキャンセルして空港のロータリーで商会が手配していたという車に乗り込んで商船の寄せてある港に向かう

 

パーシナモンさんは「後はお若い者同士で」と複数在った車の内、私達とは別の車に乗り込んだけどそのセリフの使い時間違ってるから

 

セリフは兎も角気遣いは受け取って車に乗り込んでアニタさんと気兼ねなく話す事にする

 

「そう言えばあの二人はあの後ハンター試験はちゃんと受かったのかしら?ニュースじゃアンタの事ばっかり取り上げられてたせいでよく分からなかったのよね」

 

「二人とも問題無く合格したわよ。逆にアニタさんは次のハンター試験はどうするつもり?しっかり鍛えてるみたいだから今なら合格率7割は固いと思うけど?」

 

見れば以前私達が別れ際にオススメしといた激重バンドを身に付けてるみたいだし、身体面だけなら合格基準は普通にクリアしてるわね。動きからして試しの門も1の扉ならギリ開けられるでしょうから念無しでも十分超人の域だ

 

もっともハンター試験はそれ以外の要素を観られる事も多いから精々7割止まりって評価になるんだけどね

 

「プロハンター様からの折角の評価だけど、まだ止めておくわ。今はまだ父さんの仕事に付いて回ってる途中だからね。知れば知る程に新しい何かが見えて来て、単に商品を売り買いして(たま)に湧いて来る盗人(ぬすっと)を殴り倒せば全部上手くいくとかお気楽に考えてた以前の私に説教したい気分だわ」

 

おお~!思った以上にメンタル面も成長してるわね。まぁ元々素直な性格ではあるみたいだからしっかりと指導してくれる大人が(そば)に居れば吸収も早いかもね―――逆に言えば独学だったり指導を誤ったりすれば一瞬で明後日の方向に飛んで行きそうな危うさも感じるけど、今のアニタさんとパーシナモンさんなら大丈夫でしょう

 

「なら、試験は再来年辺りにでも?」

 

「ええ、そうね。実際ハンターライセンスが色々と有用な事には違いないし、その時にはまた挑戦するつもりよ」

 

そう言えばアニタさんは元々ライセンスの恩恵狙いで試験受けたんだったわね。プロハンターでなければならない明確な目標とかは無いんだし、焦る理由も無いのか

 

それからはお互いの仕事の話は守秘義務が多いので訪れた街でどんな面白い事が起きたとか、珍しいものが見れたとか、美味しいものを食べたとかって話題で盛り上がった

 

女子トークと云えば恋バナ?なにソレ?美味しいの??

 

いや真面目な話、根無し草で同年代が集まる学校とかに通ってない私達にその手の機会すら巡って来る事は無いのよ。ゴン達とかほぼ全員厄ネタだし・・・もっともそれ以前に興味を持って無いのが致命的だとは思うけどね

 

あれこれ話してる内に車は港に到着する

 

到着までにこっちは一年の大半がグリードアイランドに居た事から破裂するシャボン玉を吐く馬が居たとか空飛ぶ目玉が居たとか、一軒家くらいなら丸呑みに出来そうなトカゲが居たとか話したら「どこの魔境よ?」とか言われちゃった

 

“どこ”と言われたら現実(ゲーム)の島なんだけどね。それ以外に毒キノコ料理のレパートリーが増えた事も話したら悲しい目をしながら頭を撫でられたんだけど、これ他に食べる物が無かったが故の苦肉の策で命を繋いだとか思われてるわよね?取り敢えず正直に語ったらグーパンが飛んできそうだったから黙って撫でられておいたけど

 

港に到着して車から降りるとパーシナモンさんの商会の船が停泊してある場所まで歩いて向かうと商会の船員が木箱を沢山積み込んでいる最中の大きな船が見えてきた

 

「会長、お疲れ様です!お嬢も付き添いご苦労様です」

 

「「「「「「お疲れ様です!!!」」」」」」

 

私達が近付くと荷物を運んだりしながらも商会の人達が大きな声で二人に挨拶している。挨拶された二人も軽く返事をしたり、労いの言葉を掛けたりしてるわね

 

パーシナモンさんが最初に声を掛けて来た現場のリーダー的な人に話を訊くと、どうやら今積み込んでる荷物を全部乗せれば何時でも出発出来るとの事だったので先に船乗り込んで少し待っていると問題無く出航となった

 

帆を張った木造船が上手く風を受けてどんどん外洋へと突き進んでいく

 

「ねぇアニタさん」

 

「なにかしら?」

 

「そう言えば何で木造の帆船なの?(もう)かってる商会なんだしてっきり最新鋭の汽船とかだと思ってたんだけど」

 

水平線上に消えていくカキンの陸地を眺めつつ話題の一つとしてちょっとした疑問をぶつける。最新鋭は言い過ぎだとしてもこの船のチョイスはレトロ過ぎない?

 

「ああ、その理由なら後で判るわよ」

 

「珍しく勿体ぶるね」

 

「まっ、アンタなら問題無いでしょうから、その時を大人しく待つ事ね」

 

アニタさんが意味深な笑みを浮かべながらもどこか楽しそうにしてるのでその場では特に追求せずに波に揺られながら丸二日ほど過ごし、かなり目的の島まで近づいてきたら微かに(ざわ)つくような妙な空気の変化を感じる

 

「嵐が来るわね」

 

「あら、気付いちゃった?」

 

私の独り言を拾ったアニタさんが本を読んでいた手を止めて顔を上げる

 

「船室に居るって云うのにそこまで分かるとか流石と云うべきかしら?バレたなら言うけどこの辺の海域はよく荒れるのよ。スパイス鉱山に顔を出す時は必ず一回は嵐に巻き込まれるし、磁場とかも強力になったり不安定になったりするから機械の類も壊れやすくてね。木造船に腕利きの操舵手を雇った方が結果的に安全だしコスパも良いみたいなの」

 

成る程ね。そういった事情ならいつ故障するとも知れない機械仕掛けの船に乗る方が確かに酔狂だ

 

「そんな訳だから電子機器の類はここの金庫に今の内に仕舞っておいてちょうだい。電波とか磁場とか諸々(もろもろ)遮断する特別製よ」

 

アニタさんの忠告に従い一度荷物を部屋に固定されてたゴツい金庫に仕舞う。収納バッグの中なら大丈夫とは限らないしね

 

それから10分もしない内にどんどん海が荒れ始め、土砂降りと強風と高波と雷がバカみたいな規模で襲い掛かって来た。一応アニタさんは私は客だから休んでても良いとは言ってくれたけど、流石に大変そうだから普通に手伝う事にした

 

それからの船は高さ100メートル級の高波を垂直に登り切って乗り越えたり、それを可能とする()が破れたり帆柱(マスト)が折れたりしなかったのが不思議なレベルの強風を利用した投げた石が水面を跳ねる水切りの如き挙動で前に進んだり、そこら中でうねるような動きで鳴きまくる稲妻の群れに「龍の巣だぁああ!!」とか叫んでみたり、私の叫びに反応した船員が「このまま進め!必ず入り口は在る!」って返してくれて無言でハイタッチをかましたり、中型船くらいは丸呑み出来そうな魚が襲ってきたからメンチを切りつつ「失せろ(ドンッ!!)」ごっこで追い払ってみたりしている内にどうにか船は嵐の海域を抜けたみたい

 

嵐を抜けた後は船体の痛んだ箇所を補修とかしながら航海を続けて夜になる手前辺りで鋭利に(そび)え立つ山の姿が見えて来た

 

「よ~し、今日はここまでだ。(いかり)を下ろせ!」

 

「「「アイッサーーー!!」」」

 

嵐の中では舵輪を握っていた船長の人が号令を出すと直ぐに皆が錨を下ろしたり帆を畳んだりとキビキビ動いていく

 

その様子を眺めていると嵐の中では私達と同じように操船の為に走り回っていたパーシナモンさんが近付いてきた

 

「お疲れ様でした、ビアー君。お待たせしてすみませんね。あの島の周囲は迷路のように複雑な岩礁地帯に囲まれているので今居る場所を正確に見極めて海図と(にら)めっこしながらでないと先に進めないのですよ」

 

彼はこっちが訊く前に疑念に答えてくれた。それは確かに薄暗い程度でも致命的だ

 

私が操船したなら船をオーラで(おお)って砕氷船の如く真っ直ぐ突き進む事も出来るけど、流石に色んな意味で却下ね。第一説明出来ないし、環境破壊にもなるし・・・ネテロ会長との試合(ケンカ)で山一つ消した後で言うのもアレだけどね

 

「それにしても近海の主が現れた時は焦ってしまったよ。幸い途中で引き返してくれたようだがね。過去にはアレに襲われてうちの船が沈められた事も有ったのだが、結局は船。アレからしても食い甲斐が無かったのを覚えていたのかも知れないね」

 

いや、割としっかり狙ってきてた気配だったけどね。しっかり殺気を送っておいたから(しばら)くは大丈夫でしょうけど・・・てか近海の主って呼ばれてるんだ。マジで油断したら左腕喰い千切られそう

 

「因みにあの魚って美味しいと思います?」

 

「え?いや、どうだろうか?一応(コイ)の一種で毒は無いそうだがね。赤い胴体に金色の頭部。まるで王の着るマントと(かんむり)のような配色であり、あの大きさと強さから(コイ)の王様として『コイキング』と名付けられた魚のようだ」

 

「・・・ハンター世界のコイキングって全然最弱モンスターじゃないじゃん。見た目から違うし、アレが進化したら大型貨物船並みのギャラドスになるわよ。【はかいこうせん】が最新のゴ〇ラの光線並みになるわよ」

 

「ビアー君?一体なんの話かね?」

 

「いえ、もし美味しいなら今度は狩ってみようかなって話です」

 

「そんな感じの呟きでは無かったと思うが・・・だが、美味しいかどうかは実際に食べてみないと分からないな。何せ仕留めた実例が無いからね」

 

嵐の海域であの大きさ。加えて獰猛で滅多に会えないとなればそりゃそうか

 

それにパーシナモンさんの商会の船がずっと出入りしてるのに昔に少し襲われた事が有るだけって言い回しからして今回船が狙われたのも偶然っぽいしね

 

それから錨が海底にしっかり引っ掛かって船が固定されると乗組員も一部見張りなどを除いて思い思いに過ごしていく

 

夜番の為に船内に入って早々に寝る人も居れば釣り糸を垂らす人も居るし、仲間たちと馬鹿話に興じる人も居る。あとは態々海に飛び込む酔狂な人も居たわね

 

流石あの嵐を乗り越えられる人材だけ有ってハンター試験の予選くらいは通過できそうな人もチラホラ居る。まぁあの嵐に毎度揉まれてたらタフにもなるか

 

それにしてもスパイス鉱石を一つの商会が独占出来た理由が分かった気がするわね。単に海に囲まれてるってだけの50倍はヤバい所だった―――パーシナモンさんもアニタさんも私が相手だったから気兼ねなく誘ったんでしょうけど、船内で引き篭もってるの前提でも一般人じゃ来たくは無い場所ね。船内を転げ回って全身打撲待ったなしだ

 

それから明日までの暇つぶしにアニタさんが「ちょっと運動したい」と提案してきたので苦笑しつつも了承する。今や商会で一番強くなっちゃって力をぶつけられる相手を探してた感じね

 

試合が始まって甲板の真ん中で必死に襲い掛かって来るアニタさんを投げ飛ばしていると直ぐにギャラリーに囲まれて、途中からアニタさん以外にも腕に自信の有る人達も参戦してきたけど纏めて相手をした。攻撃を受け流して別の人に当てたり足払いなどで転ばせたりであまり傷つけないように配慮しつつ屍?の山を積み上げると拍手喝采を貰ったのでVサインで応えておいた

 

翌朝になって船はゆっくりと慎重に動き出し、クネクネとした航路を取りながら島へと向かう。『円』で感じる限り確かにかなり入り組んだ隘路(あいろ)だったけど、そこは流石の慣れと操船技術で無事に島の桟橋に辿り着き、私達は上陸する

 

私は目の前まで迫ったスパイス鉱山の威容を見上げる。この島そのものを包み込む異様な空気。

ああ、これはまたなんて―――

 

「なんて強欲な島」

 

限界まで人の欲望を(むさぼ)るような執着が此処には在る。漠然とそう感じた私はハンターとして気を引き締めてパーシナモンさん達に付いて行った

 

 

 

 

 

数日後、片方の(ひじ)から先を無くしたビアーがベッドに横たわっていたのだった

 




レツやゴン達とは別のグリードアイランド編が始まってしまった・・・まぁ良いか。ビアーにとっても赤ちゃんプレイ地獄よりはマシでしょうからね(ウソ?)
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