世界で唯一のスパイス鉱石が取れるスパイス鉱山の
この島はインフラが整ってるとはお世辞にも言い難いので私達の乗って来た船にも食料や発電機を動かす為の燃料とかが多く積まれていたみたいだ
建物に入ってお客さん用・・・と云うか単に余ってた部屋に案内される。どうも昨日嵐を抜けた後で島に連絡を入れてベッドとか掃除とか諸々準備させたみたい。流石屋外での圏外無しな携帯が在る世界。海の上だって嵐の中の電波障害でも無ければどこでも圏内だ
ホントよく分からない所で前世の技術を凌駕する時が有るよね。この世界今のところ人工衛星とか無いのに・・・
収納バッグを持ってる私は特に置く荷物も無いので部屋の内装を見ただけでその場を後にし、パーシナモンさんとアニタさんに連れられて生活区から少しだけ離れた場所まで案内されると綺麗に手入れされているお墓が在った
パーシナモンさんは私の方に振り返ると懐から一枚の写真を撮りだして見せてくれた。写真にはパーシナモンさんと7~8歳くらいのアニタさんに幼い彼女を抱きしめて快活な笑顔を浮かべている黒髪の女性が映っていた
「プリシラだ。昔からお転婆でな。母親になってもそれは変わらなかった。どうやらアニタにもしっかりとその性格は受け継がれたようだがね」
「父さん!一言多いわよ!!」
アニタさんが文句を付けるけど、満更でも無さそうね。それにアニタさんの性格はパーシナモンさんに近い所も在ると思うんだけど、自分じゃ気付きにくいのかな?きっと両親の性格の一部をそれぞれ受け継いだのがアニタさんなのかもね
二人の親子のじゃれ合いもそこそこにパーシナモンさんがプリシラさんに私の事を紹介してくれたので、そのままお墓に挨拶兼お祈りを捧げる
お祈りが済んだら二人がプリシラさんに近況報告をし、それが終わったらお墓と周囲を軽く整えてその場を後にした
「有難うビアー君。プリシラも喜んでいた事だろう」
「喜んで頂けたならよかったです。今度はポンズ姉とレツも連れて来ますね」
「そうだね。その時はきっと今回のように突発的な形にはならないだろうからスケジュールもきちんと調整して、どこかのツアーでも予定に組み込もうか―――世界を飛び回って色々と見たり体験したりしているであろうキミ達だけど、おもてなしの心を練り込んだツアーやリゾートならではの良さも、中々乙なものだと思うよ」
まぁ確かにフカフカのベッドやシャワーとか、コース料理やバイキングなんかの豪華な食事の用意とかは個人が生身で秘境とかに出向いて得られるものじゃないよね。そういう念能力が有れば別だけど・・・ポンズ姉の【
建物に戻るとパーシナモンさんは仕事が待っているとの事で執務室に向かう。アニタさんは普段ならケースバイケースで書類整理を手伝ったり荷運びなどの肉体労働をしたりするみたいだけど、今回は私にこの島を案内してくれるそうだ
「まっ、仮にもツアーガイドにご指名された以上は勤めは果たさせて貰うわ。危ない鉱石を扱う鉱山だけあって立ち入り禁止の場所とかもそこそこ在るし、一人でウロチョロされたら商会の皆が目を丸くして驚いちゃうから」
確かに船団規模で運営してるなら私が乗って来た船以外の出入りの人とか炭鉱夫として働いている人とか私の事は初見だもんね。妙な騒ぎになっても困る。そりゃ一般人に見つからないように行動するくらい訳ないけどさ
アニタさんに連れられてのツアーだけど先ずは島の外周をグルリと廻っていくとの事だ。私への紹介ついでに巡回も兼ねてるわね
船着き場から少し離れた場所まで歩く(走る)と海の方では
「外から島内に運んでくるものに生魚とかはスペースを圧迫するデメリットが大きいから島で食べる魚介類はああやって現地調達が主なのよ。岩礁地帯に囲まれてるって言ってたでしょ?釣りや漁網漁は針や網が岩とかに引っ掛かるからここら辺でやるには向いている場所が殆ど無いからね」
スパイス鉱石の輸出量を絞ってることで大規模採掘を行っている訳じゃないから「獲ったど~!!」部隊が居るだけで
あの嵐の中で生魚を普通に運ぼうとすれば到着する頃には素材を鱗から内臓、骨まで余すところなく使用したツミレに自動調理されちゃうし、傷めないようにスペースを圧迫する特別製の箱まで必要になるわね
海面で魚の刺さった銛を掲げている人や両手に大っきな
いや、海老はハッピーピースしてる訳じゃないけどさ
少しそんな様子を眺めていると漁をしていた人の一人が崖上の私達に気付いたようだ
「お嬢~!!今日も活きの良い奴らが沢山獲れてやすぜ~!っっと、もしやそちらの方が例のお客さんで~??」
子供の私を見て誰?とならない辺り『女の子の客人が来る』程度の通達はされてたっぽいわね
パーシナモンさんが昨日島と交信してたからその時伝わってるか。プロハンターって事も伝わってるのかな・・・って、アレ?これってもしかして―――
「お嬢~!久々に俺らと魚獲りやせんか~!そっちのお嬢さんもご一緒に如何ですかい?自分で獲った貝や魚ってのはその
「『あんまり』でお客をダイビングさせようとしてんじゃないわよ!もっと良く魚を獲れるように私が拳で海の底までダイビングさせてやっても良いのよ!!」
「ソイツぁ勘弁してくれ。お嬢の拳骨脳天に喰らうくらいなら腹ペコのサメに襲われる方がまだ生き残れる目が有らぁな」
まぁぶっちゃけまだまだ浅瀬だし、今のアニタさんが全力で殴れば海底に頭から突き刺さった犬神家の真似事(強制)が出来そうだもんね
「そういやお嬢、以前海賊が武器にしてた全部鉄で出来た銛をへし折ってたな」
「その前は殴った海賊がその勢いで鉄柵粉砕して海に落ちて仕方ねぇから助けてやったんだっけか?殴られて死んでなかったのは奇跡だぜ」
ああ、アニタさんがここ一年でパワフルゴリラなキャラになってしまっていただなんて・・・うん!何も問題は無いわね。強いて言うならパワーが足りない。どうせなら目指せ天辺!!目指せ、キ〇グコング級のぱぅわ~!!!
え?私?ラ〇ュタの雷パンチ(核並み)を
「好き勝手言うわね、アイツ等」
慕われてるが
「
「そうね。気になるのが居たからそれだけ狩ろうかしら」
「え!?ホントにやるの!!?」
アニタさん的には冗談のつもりだったみたいだけど、『円』で沖の方に気になる獲物を見つけちゃったのよね
アニタさんに「直ぐに済むから」とだけ言い残して海に向かってジャンプし、彼らの傍に浮いていた乗る用と云うよりは捕まえた獲物を運ぶ用の
「うぉっと!?え?嘘だよな?
あ、ちゃんとプロハンターな事は知ってたんだ
「オジサン、この銛借りますね」
落ち着くのを待ってたら話が進まないのである程度反応を無視して舟に予備として残っていた銛を拾い上げると収納バッグから取り出した自前の紐を
流石に海面付近からだと角度が悪かったので垂直跳びで上空に距離を稼ぎ射角を調整。標的との距離はざっと700メートル!!
「せぇえええええっの!!」
気合と共に放たれた銛は空中を真っ直ぐに突き進んで着水。海中を泳いでいた獲物に突き刺さった
軌道がズレないように掛けていた『周』も獲物に当たる直前で解いたから標的が木っ端微塵になるような惨事にはなってない
「フィイイイイイイッシュ!!!」
遠くの海面を突き破って水
「なっ!?そ、そいつぁ海豚じゃねぇか!!?」
そう。私がゲットしたのは前半分が豚で後ろ半分が魚の珍妙な生き物だった。大きさも豚サイズで結構デカイ。あと前足の部分も普通に豚足なんだけど海底の泥を掻き分けてエサを食べてるのかな?あまりにも特徴的なシルエットを感じちゃったから狩る誘惑が抑えられなかった
周囲で騒いでる人達の話を訊くにここら辺に生息している訳じゃないけど時折『はぐれ』が見つかる時が有るみたい
回遊ルートがそこそこ近くてあの嵐の海域ではぐれちゃう個体が出る感じかな?
海豚は今夜のメインになる事間違いなしだと皆喜んでくれていたので取り敢えず満足した私はアニタさんの居る場所まで戻る
「アンタ本当に人間?」
開口一番失礼ね
「ジャンプも
「え~。この一年で素手で金属加工くらい出来るようになったアニタさんがそれを言う?」
私のカウンターに彼女も「ヴっ!」と言葉に詰まる。筋力だけでも人外の域に足を踏み入れてる自覚は持って欲しいな。念は強大だけどこの世界じゃ
海豚は彼らに預けてアニタさんとまた別の場所に向かう
何処ぞの船(基本密輸・海賊船)が座礁してたりしてないか見たりとか、山の
「う~ん。でも森とは多少離れてるにしても熊が仕事場近くに居るのは危なかったりするんじゃない?仕留めといた方が良かった?」
「大丈夫よ。あのヒグマには過去56回程は皆襲われてるけど、その度に返り討ちにしてるわ。海賊相手でも全員が武器を手に突撃していくウチの商会員を舐めないでよね」
それは逆にヒグマさんが舐められ過ぎィイイイ!そのヒグマさんちょっとバカ過ぎない?学習能力ゼロじゃん。あと海賊相手に全員が突撃するのは多分会長の娘たるアニタさんが誰の制止も聞かずに敵陣に真っ先に突っ込んで行くせいだと思うのは私の気のせいかな?
商会の人達に微妙に
「悪いけど流石にこの奥は案内してあげられないわね。採掘の過程で精製前とは云え微量にスパイス鉱石も舞ってる空間だし、入るなら父さんの許可とゴテゴテのマスクは必須よ」
装備無しで採掘してるとシンナー作業でラリっちゃう的な感じになっちゃうのかな?
他にもアニタさんから採掘場では基本ツルハシや小型のドリルなどで少しずつ掘り進めてスパイス鉱石を採掘している事を教えてもらう。大型の機械を導入して供給量を増やしても市場をコントロール出来ずに悲劇が増えるだけだもんね。隔絶された島だからこそ『今の流通量で精一杯』と言ってもバレにくいし
「おや、二人とも此処に居たのかい」
色々と話を訊いてると事務所の方からこちらに向かってきていたパーシナモンさんが私達に気付いて声を掛けて来た
「やぁビアー君。海豚を仕留めたんだって?厨房の方が騒がしくなっていたよ。コックも思わぬ食材を前に張り切っていたし、食料もふんだんに使って良いと伝えておいたからディナーは期待しておいてくれたまえ」
前回はウィンナーで食べたけど、今回はどんな風に調理されて出て来るのか楽しみね
「それでアニタ。ビアー君にはどんな所を案内してあげたんだい?」
「巡回したわ!」
パーシナモンさん。目頭ほぐしても愛娘の発言が幻聴で処理されたりしませんよ
あとアニタさんもその返答はちょっとドストレートかつシンプル過ぎだと思う。巡回は案内というより仕事だし、パーシナモンさんとしては女の子同士で“キャッキャウフフ”してるくらいが
それに普通は施設とか近場から案内するのがセオリーだよね。私は気にしてないけど、他の人を案内する時でも外周マラソンツアーしそうな感じだ・・・ブートキャンプの訓練か何かかな?楽に廻れる小島って訳でもないんだよ?少なくともクジラ島よりは大きいんだから、普通の人なら音を上げる。てかクマに襲われたし普通の人なら上げた音が断末魔にシフトしても可笑しくない
「―――それでどうするかね?ビアー君が坑道の中まで見たいと言うなら防塵装備有りきで私が案内するのも大丈夫だが?」
う~ん。中の様子は此処からでも奥まで『円』で探れたし、今のところは別に良いかな。この島に入ってから感じるざわつく感じを調べる方が先だ。だから実は島の外周を“グルリ”と最初に回れたのは有難かったりもしたのよね
今や半径900メートルに届く私の『円』ならばローラー作戦の方が取りこぼしが無くて良いのだ
そう思って中は一先ず置いといて山頂の方まで登ってみたいと言ってみる。かなり険しい山だけど私やアニタさんなら普通に登山する分には問題無いはずだ
「それは・・・こちらの立場からするとあまりお勧めは出来ないんだよ。それと云うのもこの辺りの不安定な気候も相まって昔から山を調査しようとすると滑落や落雷などで命を落とす者や行方不明となる者が多く出ていてね。何処にどんな危険が有るかも定かじゃないんだ」
プリシラさんもこの山で亡くなったって話だもんね。危険なのは判ってたなら装備とか万全で体力にも自信が有ったりしたんでしょうけど、それほど深入りしない浅瀬の調査ですら死者が出る時が有ると考えるのが自然か。確かに娘の友人かつ自分たちの恩人で商会に招いた客人の私にお勧めしたいスポットではないわね
仕方ないので
「中を見て回らないなら夕食までに少し時間が余るわね。向こうにちょっとした広場が在るからまた試合しない?」
Oh. 脳筋ガール。まだ
「あ~、ビアー君。
そうだよね。中身も伴ってこその案内だよね。言っちゃ悪いけどアニタさんの案内は殆んど
アニタさんにバレないようにパーシナモンさんに
そうして辿り着いた空き地でアニタさんは早速とばかりに得物である肉厚のダガーナイフを構えた。実力差が有るのは判っているからか遠慮なしに刃物向けて来るわね
「アニタさんの武器のナイフってやっぱり船での戦闘を見越してのもの?」
「ええ。やっぱり船は戦うには狭いからね。基本が木造帆船だからどうしてもエンジンを積んだ船には足では勝てないから海賊を回避し難いのよ。船上にしろ船内にしろ、リーチの有る武器は扱い辛いからって
成る程ね。意外とちゃんと考えて武器種を選んでいた事にびっくりだ・・・って、流石にこの思考は失礼か。でも実際考えてたり考えて無かったりの差が激しいわね
「父さんの護衛のお勧めよ。最初は大っきいハンマーとか大剣とか考えてたんだけど、物を壊すからダメだって言われたわ」
前言撤回。本人は頭廻して無かったわ。まぁ昔のアニタさんと考えればさもありなん。改善する為にも今色々と頑張ってるんだもんね
あと護衛の人マジでグッジョブ
「そろそろ良いかしら?始めさせて貰うわよ!」
正面から突っ込んで来たアニタさんが素早く振ってきたナイフを私も収納バッグから取り出したナイフで受け止める。まさか私が武器を持つとは思わなかったのかアニタさんの目が見開かれた
「天空闘技場じゃナイフ使いも居たからね。おおよその術理は観て覚えたわ。軍隊式で良ければ付き合って上げるわよ」
武器解禁の200階クラスには何人か『円』で感知したナイフ使いも居たからね。片手ナイフな使い手なんて我流か軍隊式かのどっちかだ。まぁ念有りの200階クラスだと放出系で斬撃飛ばす人とか具現化系で刀身伸ばす人(どっちも我流だった)も居たけどね
気合を入れて「ぶっ飛ばせ!」って飛ぶ斬撃喰らわせてたたらを踏ませるだけだったり「この短刀。どれくらい伸びるか分かる?―――13センチメートルや」とか何故それでイキれるのか分からないヘボ能力者たちだったけど、ちゃんとまともに基礎を修めてる人も居たから
「そんなので他人の努力の結晶を盗んでくとか
「失礼ね。変なクセとかは修正してるから単に真似して終わりじゃないわよ。劣化コピーならぬ昇華コピーね」
ちゃんとナイフ術を使ってる人って云っても色々武術を観て来た私からしたら粗も多かったけど、あれね。どこかの落第騎士みたいに枝葉を辿って理に至れば足りない部分は補えるってね
「世の武道家の9割以上がそれ聞いたら泣くわよ?それなら早速だけどお手並み拝見させて貰おうじゃない!」
転がされた彼女も今更その程度で止まる事は無く、連続でナイフを振るったり蹴りを織り交ぜたりと手数を増やしてくるけど私は
やっぱり彼女は我流のナイフ使いだ。体術は護衛の人とかにでも習ったんでしょうけど、それも程々で切り上げてナイフを武器に持っちゃったからか、どうにも中途半端な印象を受ける。格闘術を習った人が無理やりナイフを振るってる感じね
それでも並みのゴロツキ程度は倒せて来てしまったもんだから問題が表面化してこなかったんでしょうね
「アニタさん。気付いている?」
「ええ。ムカつくくらいアンタが私に合わせて手を抜いてるのがね。要はこれくらい出来るって言いたいんでしょ?」
気付いているなら良し。今の私はパワーもスピードもアニタさんと同じステータスになるよう手加減している。それなのにアニタさんだけが一方的にポンポン投げられる理由なんて一つだ
アニタさんは教えた事は真っ直ぐに吸収するタイプだ。ある程度ナイフ使いとしての正しい動きを見せ付けたら攻守交替でデキの良い技は喰らって上げたり、まだ甘い所が有れば受け止めて注意したりと日が傾くまで指導した
「うん。かなり良くなったわね。そろそろ良い時間みたいだし、戻りましょっか」
見れば夕日が水平線に沈みかけてるからあと少しで周囲は真っ暗になるし、あんまり遅すぎると夕飯も冷めてしまいかねない
アニタさんも太陽の位置を確認すると投げ飛ばされたまま横たわっていた身体を起こして荒くなっていた息を整える
「分かったわ。ただ最後にもう一戦、あっちでお願いできる?」
アニタさんが指差したのは広場に隣接した雑木林だ。あっちで模擬戦?
「私がナイフを使ってるのは狭い場所とか荷物とかの障害物が多い場所を想定したものよ。ああいった場所での動きも見てもらえると助かるわ」
「そう言う事なら喜んで」
向上心から来るお願いを早々無下にはしないわよ。ゴンの無限腕相撲挑戦権みたいな意地になってるだけのやつとかなら却下だけどね。それに確かにナイフなんて限定的な場所や状況で使うのが前提みたいなもんだしね。空き地の模擬戦(正面戦闘)だけでは得られないものも有るか
そうして足を踏み入れた林の中は既に薄暗いのを通り越して多くの影が光を呑み込んでおり、視界がかなり悪くなっていた
私が先に林の奥へ歩いて行くと後ろをついてきていたアニタさんの気配が希薄になる
後ろを振り返ると既にアニタさんは闇に紛れた後だった。そりゃナイフ使いの実戦形式なら小回りを活かす戦術になるよね。奇襲要素も含めて採点して欲しいって事か
こっちが『円』とか五感強化とかやっちゃうと彼女の居場所がもろバレになってしまうのでソレ等のスキルを封印して周囲を探る
「へぇ、上手く気配を消せてるわね」
居るのは判るけど正確な場所までは尻尾を掴ませないこの気殺は紛れもなく『絶』だ。これでも
「小さい頃から船内で隠れん坊したり港の倉庫とかに侵入した賊を相手に奇襲したりアジトまで尾行してから奇襲したりと潜伏したりするのは得意なのよ」
隠れん坊以降の情報が物騒過ぎるわね。てか迎撃だけじゃなくて自分から殲滅しに行ってるじゃない。しかもパーシナモンさんの許可とか絶対に取ってないやつだ
「それはそう・・・とっ!!」
「わひゃ!?」
近くに伸びていた木の枝を
「隠れてる奴が律儀に返事してどうするの?声で丸わかりよ」
「わ、私だって悪人相手なら黙って狩るわよ」
「実戦形式でしょ?苦しい言い訳しない。ほら、目は
私に急かされて隠れ直したアニタさんだったけど、彼女が頭上から襲い掛かって来た瞬間にその手首を掴んで地面に叩き付けた
「かはっ!?―――ああもう!なんで飛び掛かった瞬間にバッチリ視線まで合わせて来るのよ!?アンタ本当は最初から私が何処に隠れたか見てたんじゃないの!?」
「そんな三流みたいなマネしてないし、アニタさんの気配絶ちはプロ級だったわよ。アドバイスするなら攻撃する時の殺気を消さないとさっきみたいに直前で居場所まで特定されるって事。基本私達が奇襲する相手なんて悪人ばっかりなんだからゴミ掃除するように
「アドバイスを求めたのは私だけど、言ってる事エグイわね。悪人相手に慈悲も人権も無いって?流石は
本当に人権無視しまくって活動してたら
「それにしても心持ちの話になるとはね」
「気配の『絶』ち方は十分プロ並みだし、激重バンド着けての生活のお蔭か足音を消すのも中々のレベルだからね。アドバイスも上級者向けの内容になるわよ」
「誉め言葉として受け取っておくわ・・・あの重し着けて雑に動くと派手な足音で済めば良いけど、下手したら床が抜けるから常に気を配って大変だったわ」
なんか遠い目してるわね。たぶん何処かで床をぶち抜いたんでしょう
それかあの目の死に具合からして下半身丸々ズッポリ
昏い思い出し笑いを浮かべているアニタさんを
私達が食堂に入ると商会員の人達の視線が一斉にこちらに向いて来る
「おいあの子だよ。すげぇジャンプしてスゲェ勢いで銛投げてスゲェ遠くの海豚仕留めたの」
「クハッ!ビアー=ホイヘンス、本物じゃん。時の人だろ。後でサインか握手でもしてくんねぇかな?」
「いやいや、それよりやっぱ海豚だろ!見ろよ。海豚の豚鼻の角煮入り魚介豚骨スープに豚肉のソテー。これだけでも月の給料の半分はぶっ飛ぶぜ」
「くぅぅううう!カキン行きの船に乗ってて良かったぜ。他所の外回りの連中が俺達がこのご馳走食ったって聞いたら悔しがるぜ」
一応ヒソヒソ話に声の出力絞ってるけど丸聴こえよ?
やいのやいのと騒ぎが伝播して最後には謎に「う~みブタ♪う~みブタ♪」と海豚コールに包まれた。大丈夫?アンタ等の脳みそ坑道の奥でスパイシーに汚染されてない?
料理の配膳が終わる頃にはパーシナモンさんもやって来た
「騒がしくなってしまって済まないね。キミの食べる部位には希少なヒレ肉を使うよう指示しておいたが、ビアー君のお口には合うだろうか?」
ヒレ肉・・・豚としてのヒレなのか魚としてのヒレなのかどっち?
疑問を抱きながらもソテーを口に運ぶ。豚肉としての存在感の有る歯応えの肉身から大トロのような舌の上に乗せるだけで溶けて消えそうな上質な油のような肉汁が噛むごとに溢れて来る
これがヒレ肉!いえ、フィイイイレ(巻き舌)肉!!海豚のソーセージを食べただけで海豚のポテンシャルの全てを見透かしたつもりになっていた私の無知を
「・・・お粗末様でした」
「ん?まだ一口だけだが口に合わなかったかね?」
「・・・決めたわ」
「決めたってなによ?」
揃って首を傾げている親子に向かって私はとある宣言をぶち立てる
「海豚のヒレ肉。これを私の人生のフルコースの肉料理にする!!」
「なに突然訳の分からない事口走ってるのよ?美味しかったのは判ったから落ち着きなさい」
アニタさんは半目で呆れたようにして海豚のソテーを口にすると“ビシリ”と固まり無言で
「父さん・・・私の人生のフルコース。魚料理はこれに決めたわ!!」
「二人ともどうしたんだい!?そもそも肉料理なのか魚料理なのかも定かじゃない・・・って、二人ともスープ飲んでないで説明しなさい!!」
なんか騒いでるパーシナモンさんを余所に濃厚でありつつしつこくないスープを味わっていると厨房からシェフがやって来た
「大変喜んで頂けたようですが、これもビアー様がご提供下さいました海豚の旨味あっての事。あの海豚ですが・・・なんとメスだったのですよ」
シェフがそう言った瞬間食堂内に“ザワッ!”と異様な空気が広がった。さっきから「美味い美味い」と食べていた人達の手もストップしている
「あの、メスだと違いが有るんですか?」
「はい。まず海豚の大半はオスで占められているのです。希少というだけでなくその肉はオスに比べ輪をかけて絶品。コラーゲンを始めとする溢れ出る美容成分から食べれば肌年齢が10歳は若返ると言われている程です。ビアー様やアニタお嬢様はこれに頼らずともよい年代なので実感し辛いでしょうが、世の奥様方がこぞってお求めになるだけの魅力が詰まっているのです。ですから通常の海豚の肉とは違い『ヤオピッグニ』と特別な呼ばれ方もするのだとか」
「いやそれ
人魚の肉を食べると不老不死になるとかそこら辺の伝説が変に混ざってない?
思った以上の高級食材だったのが判明したところで提供した事も美味しく頂く事も変わりが出るはずもなく、なんか従業員の皆さんから改めてノリの良い感謝の言葉とかを貰いつつ胃袋を満たす
その後は女性用共同のシャワールームで汗や埃を流し、割り振られた部屋でアニタさんと適当に
明日からは本格的に山の調査ね―――杞憂でしたで済めば良いけど
アニタが潜伏が得意ってのはアニタを画像検索した時にハンターハンターのカードゲームでアニタのスキルが潜伏になってたのが由来です