毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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厄災と律動

スパイス鉱山のある島へと到着し、一夜が明けて朝が来た

 

夜の内に通り嵐的なのも来てたみたいだけど、窓はシャッターが下りる仕様で壁も安アパートのような薄い感じではなかったのかそこまで五月蠅(うるさ)くは無かったわね。流石に稼いでる商会なだけある

 

身支度(みじたく)を整えて食堂に向かうと海豚(メス)を食べた皆はシャワーを浴び、ぐっすりと睡眠を取って栄養を全身に浸透させた結果として鉱夫や船乗りが大半を占めるとは思えない瑞々(みずみず)しいお肌を覗かせる集団となっていた

 

「これはまた・・・ヤオピッグニが市場でどんな値段で取引されているかを考えるだけで恐ろしいわね。なんかもう部屋の明度から違って見えるんだけど」

 

お肌の光の反射率が上がってるわよね。気のせいじゃなくて

 

朝食の時間という事で半ば必然的に食堂の前で出くわしたアニタさんへと言葉を投げ掛けると彼女も部屋の中の様子を目にして肩を(すく)める

 

「今からでも父さんに代金でも請求する?十分その権利がアンタには有るわよ」

 

「自分で言うのもなんだけど結構稼いでるからお金には困ってないわ」

 

「そっ、ならもう蒸し返さないわ」

 

私達は一旦話題を切り上げて朝食の席に着く。海豚は昨日すでに骨の髄まで皆の胃袋に収まったからもう残ってはいないみたいだけどパーシナモンさんが腕の良いシェフと評していたその腕前は本物のようで、普通の食材で出て来た料理はそれでも高級店クオリティだった

 

「それでアンタは今日はどうするの?リクエストが有れば訊くわよ・・・うちの男どもはまたアンタが漁に出てトンデモ食材を獲って来るのを夢見てるみたいだけどね」

 

「そんな運の要素が多分に絡む事で変な期待されても困るし止めとくわ。それはそうとパーシナモンさんが来なかったみたいだけど?」

 

「ああ、父さんはあれで朝は弱いから今頃10秒チャージな飲料ゼリーに加えて適当な果物でも部屋で摘まんでるはずよ」

 

それはまた The 働く人って感じの朝食ね。推奨されるべき内容(メニュー)とは言い難いけど

 

「私の方は取り敢えずまた島を一周するわ。昨夜の嵐で変なのが座礁してないとも限らないから」

 

金銀財宝を積んだ宝船!・・・とかはアニタさん的にはあまり興味無さそうね。私が言うのもなんだけど飾りっ気無いし、家(商会)は困窮には程遠いくらい儲けてるし

 

「私は今の内に片付けておきたいハンター業が有るからそっち優先ね」

 

「あら?仕事がひと段落したって言ってなかった?」

 

「それとは別に日々溜まる書類も有るのよ。携帯見る?守秘義務のオンパレードで一度見たらアニタさんはNGL(わたし)の下でこき使われる未来一直線だけど」

 

アニタさんに書類仕事や外交なんかはちょっと怖いからやるとしたら毎日ひたすら畑仕事で自然調和の名の下、お薬(バショウセン)の材料づくりに精を出してもらう事になるだろうけどね

 

あと別に私は王様として一応上がって来る報告書(メール)は基本放置なのよね。タイトルに『緊急』とか書いてあれば読むしかないけど、今のところ私が出張る必要のある案件は起こってない

 

「悪いけどアンタの下で骨を埋める未来予想図を描く気は無いわよ・・・ってかそもそもアンタ部下とか居る立場だっけ?」

 

国民(部下)はこれでもちゃんと居るんだけど、知らない?」

 

「ああ、そう言えばハンター協会の広報だかの上官職って話だったわね。今更だけどアンタもその歳でよくやるわ」

 

う~ん。こうも簡単にミスリードに引っ掛かってくれるのを見るとやっぱりアニタさんは外交とか言葉での駆け引きは向いてないのが判るわね。色々教え込んでも変化する手口に対応でき無さそう感じなのがヒシヒシとする

 

巡回に出ると云うアニタさんと別れた私は迷いなくとある一室に向かい、扉を叩いて声をかけると直ぐに部屋の主が現れた

 

「ビアー君?なにか用かな?」

 

「はい。ちょっとプロハンターとしてお話ししたい事が有るので少しお時間お借りします(・・・・・・)

 

出て来たパーシナモンさんに丁寧に話しつつも圧を強めに突き付ける。彼も戸惑いを感じさせながらも部屋に招き入れてくれた

 

「さて、レディを自室に招待したなら本来お茶の一つでも出すところなんだろうけど、あまり時間を掛けても部下たちが様子を見に来るかも知れないから手短に本題を訊いても良いかな?」

 

あらぬ誤解を受けたら色んな意味で死にますもんね。特にアニタさんとかが誤解したまま暴走列車になって彼の胸倉掴んで気絶して口からコミカルな感じに魂が抜け出るまで前後に揺さぶり怒声を浴びせ続ける未来が見える

 

「端的に言えば山の調査がしたいのよ。理由としては―――」

 

ここで一旦息を吐き、一度切った視線をすぐさま結び直して不敵な笑みを(にじ)ませる

 

「―――女の勘って事で納得してくれる?」

 

私はデキる女。私はカリスマ女史

 

私が言ってる事が正しいんだから疑問を持つ事すら烏滸(おこ)がましいと知りなさい!

 

・・・だって根拠なんて示せないんだもん!

 

「いや納得の行く説明を求めたいが?」

 

ですよね~。まぁ正直な話、誰にも気付かれずに山に登るくらい雑作もないんだけど、彼にとって奥さんを亡くした色んな意味で思い入れの深い場所に無断潜入は不義理かなって感傷の部分が大きいのよね。アニタさんは喋ったら絶対に付いて来そうだから感傷云々を考慮してもアウトって結論になったけどさ

 

だから私は彼に正直に、誠実にその理由を告げる

 

「女の勘よ(キリッ!」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

しばし無言の時間が流れた後、パーシナモンさんが先に根負けして息を吐いた

 

「なにか、言えない理由があるんだね?」

 

モチのロン!(死語)なにせ何も知らないからね!

 

「分かったよ。ビアー君が何を求めているのかは分からないが、今更キミが悪意有る行動をするとも思えないからね。山の調査を私の方で許可するよ。勿論秘密裏にね」

 

口外しても基本デメリットしかないからね

 

それにしてもプロハンターと命の恩人という信頼と信用のダブルパンチはやっぱり強いわね。真面目な顔をするだけで禁止エリアにも入れるとか顔パス性能高過ぎでしょ

 

「どうも有り難う。代わりに何か商会に役立ちそうなものの有無とかにも気を配っておきますね」

 

「それは助かるよ。情報料は応相談で良いかい?」

 

彼視点だともしかしたらプロハンターの私が大金が動くようなトンデモ案件を持ってくるかも知れないのに応相談って言ってくる辺り誠実さを感じるわね

 

私としても何が飛び出してくるのか何て知らないけど

 

パーシナモンさんに御礼とアニタさんへの誤魔化しをお願いし、人目に付かないよう山を登り、『円』や五感をフルに使って山の麓から螺旋状に移動しつつ山頂を目指す

 

「精度を重視したいから『円』も範囲は全開時の3割程度に抑えて行くべきかしらね。その分『堅』にオーラも廻せるし」

 

それになんだろう。オーラを拡げすぎるのは拙いと思うのよね。確かに『円』は隠密性こそ有るものの、当然『絶』には及ばない。そもそも『円』は探る技術であって隠れる技術じゃないから比べる方が可笑しいと言われればそれまでなんだけどさ

 

だからと言ってなんの目星も無い状態で『絶』でチマチマ探索しようと思ったら時間が掛かりすぎるからこれくらいが妥協点ってやつでしょう。勘だけど

 

実際に山に足を踏み入れて“これくらいの警戒はすべき”と云う嫌な直感だ

 

「そもそもこの山自体がなーんか可笑しいのよね。幾ら岩肌剥き出しの険しい山だとしても動植物の気配すら感じないとか」

 

いくらなんでもこの山は死に過ぎている(・・・・・・・)。一体なにが原因なのか

 

「まっ、それを確かめに来たんだけど」

 

慎重さを崩さない程度に素早く螺旋を描きながら山頂へと距離を詰め、山の中腹を越えて更に先へと進んでいると唐突に私の『円』の端がべろん(・・・)と舐め盗られた

 

「―――――――ッ!!?」

 

ゾクゾクした感覚が全身を駆け巡り、気付いた時にはすべてのオーラを『堅』に廻して全力でバックステップを踏み、麓まで数歩かつ数秒で退避した

 

「はぁ!はぁ!今の・・・オーラを・・・食べられた?」

 

一瞬で嫌な汗を掻いた中、乱れる呼吸で山を見上げる

 

流石に距離を取りすぎたけど、今感じた気配を前にしたら順当でしょう。ピー助のオリジナルのドラゴンを前にした時のような“強そう”とか“怖い”かの感情とは別ベクトルで今はひたすらに生理的嫌悪感が全身に残っている感じね。控え目に言って最悪

 

てかオーラを吸収するタイプの敵って事よね?念能力者泣かせにも程があるじゃない

 

なにより『円』で拡散していたとしても私のオーラが一瞬で食べられた以上は『堅』で接近してもまだ見ぬターゲットに肉薄する前にオーラの鎧を剥がされるかも知れないし、さっきの感覚からして直接オーラを吸われながらだと正常な判断を瞬時に下すのは難しいでしょうね

 

せめて突撃するならあそこに居るナニカのより詳細な情報を得て事前のシミュレーション程度は完璧にしておきたい

 

そうと決まれば即行動

 

さっきの接触で下手に移動でもされたらまた1から探さなきゃいけないし、商会の人達の居る区画に降りようものならどうなるか分からない

 

気配を『絶』って音を消し、先程『円』が食べられた場所の風上に立って匂いがターゲットの場所まで流れていったりしないよう気を配りつつ元の場所へと最大限の警戒をしながら戻っていく

 

そうして岩肌の剥き出しとなったルートを進んで行くと如何にもな場所を見つけた

 

「(洞窟か。面倒ね)」

 

山腹の洞窟とか『円』無しだと覗き込むのにも苦労する。幸いここまで近付いて襲ってこないなら『絶』は効果ありみたいね。問題は相手がオーラ以外の感知器官をどれだけ、どの程度の精度で持っているのか

 

幸いそこに居るのはここからでも肌で感じる。直接?触れたからかネットリとした嫌な気配が確かにまだそこに在ると分かる

 

それにこれまでこの島で大々的な被害報告とかが上がってないところからしてコイツは広範囲の縄張りを闊歩して自ら狩りに赴くタイプじゃなくてアリ地獄やクモ、なんだったらウツボカズラとかみたいな一ヶ所で罠を張ってひたすら待つタイプなんでしょう

 

さて、ここからはハンターらしく生態調査と行きますか。今の私は未確認生物(UMA)ハンターだ

 

 

ビアーは怪しい洞窟の中に居る相手に向けて反応を確かめようと様々なアプローチを試した

 

洞窟内に獲物(ビアー)の匂いが漂ったらどうするかを確かめるのに着ていた上着を手頃な石に巻いて洞窟の入り口付近に投げて暫く様子を見たり、同じ要領で小石を音が反響するように弾いてみたり、遠くから震脚で洞窟内を文字通り揺さぶってみたりしたが結果はスルー

 

ならばと相手が特にオーラに強く反応するという点の検証に移る。かといってビアー自身を囮にする方法での調査は最終手段であり、そこで役立ったのは以前の戦利品の一つであるトイレにおける絶望(紙切れ)を回避してくれる神/紙アイテムである無限トイレットペーパー(紙切れ)だった

 

伸縮する『まきつく』リボンなどは最悪オーラを根こそぎ奪われて使用不可となってしまう可能性があったが、千切って使う事が前提の紙ならば破損の心配は要らず、上着の時と同様に手頃な石を念紙(ペーパー)で包んで投げやすくして様々な距離、角度、速度、数、巻いた紙の数(オーラ量)などなどで検証していくと洞窟の奥から触手のような補食器官を伸ばして面白いように食い付いた

 

「やっぱりオーラを糧にしてるぽっいわね。なんともグルメな魔獣(?)だこと」

 

ビアーは独り言ちながらも集めた情報を整理する

 

「最後に夜行性なタイプかだけ確認して何もなかったら日の出を待ってご対面といきましょうか」

 

これがただの生態調査ならもっと日数を掛けて張り込んだり、相手がオーラの無いものには反応が薄いところからどうにかカメラを仕掛けたりといった努力をするのだが、ビアーとしては排除の方が優先度が高い。ここで動かなければ何時しか何かの切っ掛けでバランスが崩れた時、犠牲になるのはアニタ達なのだ

 

そしてそれはパーシナモンの商会がスパイス鉱石を掘り続ける以上必ず起こり得る未来だ

 

ビアーが洞窟の中に居るナニカの触手が届かない位置から監視する事数時間。結局夜の帳が降りてもこれといった動きは感じられなかった

 

ビアーも流石にこの状況で眠ることは出来ないので渋々その日は徹夜で監視を続け、いよいよ空が白んで十分な視界が確保出来た辺りで次の行動に移る

 

洞窟の正面。中の生物の触手の届かない位置に地隆降陣(ちりゅうこうじん)でそこら辺からくり貫いた石柱に念紙をぐるぐる巻きにすると地面にぶっ刺す

 

山の傾斜を加味しても十分洞窟内から見える高度で念紙(エサ)がたなびく

 

(コイツは基本的に見えない位置のオーラもそこそこの距離なら感じとる。でも昨日の検証からコイツは洞窟の正面に飛んできたエサは全体に広がる感知範囲外でも反応した。つまりコイツは視覚でも情報をキャッチしてる。念能力の技能に無理やり当て嵌めるなら『円』と『凝』でエサ探ししてるって感じね。ならこうして触手の範囲外でかつ視覚の範囲内にエサを置けば―――)

 

「!―――動いた」

 

この相手は兎に角オーラを食べるのに貪欲だ。他の動植物が山に居ないせいでかなり餓えているのかも知れないとビアーは考えた

 

ソレは洞窟から出てこなければ触手が届かないギリギリの位置に置いたエサに釣られて動きだし、ついにその姿をビアーの瞳が捉える

 

ソレはノッペリとした人の顔のような顔面だった

 

ソレは猿のような体型でカエルのようなヌメヌメとした体表だった

 

ソレの口からは触手が伸びていて、それが舌なのだと分かった

 

ソレの舌先にはシワシワの人形サイズに変わり果て、それなのにどこか幸せそうに笑っている生きてる人間がくっついていた

 

ソレこそは過去、暗黒大陸探索に失敗した人類に『門番』及び『案内人』が人類圏に持ち帰らせた五大厄災の一角―――【人飼いの獣、パプ】だった

 

 

オーラというエサを撒いて洞窟内から首尾よく獲物を誘き寄せた私は目を見張った

 

その生き物の姿は初見だったから然して驚く箇所は無かったけど、その舌先にくっ付いている人間(モノ)には見覚えがある

 

「いやパプとか大物過ぎでしょ」

 

でも確かにこれで私が自分でもよく分からないながらも警戒心高めてたのか理解出来た気がする。ナイス私の直感

 

念を覚えた直後の危険度B(キメラアント)の師団長くらいならワンパン出来るだろう私が人間界で明確に脅威となるものは少ないと自負してる。でも目の前に居るのはその数少ない危険度A(例外)

 

私は収納バッグをその場に置いてパプの死角から接近する。バッグにはオーラを『隠』蔽する効果が付与されてるけど相手の生態を考えたら近くまで寄れば気付かれる可能性の方が遥かに高い

 

パプが遠くに設置したエサに食らい付く為に人間に伸ばしてるのとは別の舌を口から出し、カエルの如く舌を伸ばして捕食行動に移った瞬間に私もまた岩陰から飛び出して手にしたナイフで首を狙って斬り掛かる

 

相手が暗黒大陸産の生物である以上は直接触れなくて良いならそうすべきでしょう。特に今の私は『絶』状態だから尚更だ

 

グリン!!

 

「なっ!?」

 

ほぼ真後ろから襲撃した私にパプは反応して首が180度旋回し、顔だけがこちらを向く

 

『絶』はほつれてない。万全を期すのに音も殺気も消したし風の向きにも注意してた。な

のに何で気付くのよ!?

 

内心毒づきながら進行方向を無理やりねじ曲げんと急制動を掛けるけど、パプの方が一手早かった

 

エサに伸ばした舌ではなく、人間の頭部に繋がっていた方の舌をエサから放して素早くこちらに伸ばしてきた

 

パプに『飼われて』いたその人は最後に幸せな夢が終ったような哀愁らしき表情に変わり、死んだ

 

アレが、私の未来―――

 

「―――に!なってたまるかァアア!!」

 

あと少しで私の身体に吸い付こうとした舌先に左腕を盾にする形で差し込む

 

直後にパプの舌が左腕にくっ付き、言い様のない感覚が左腕を通して全身を巡らんとするけどその前に右手に持ったナイフで左腕を切り落とし、離脱する

 

「くぅうう!?痛っうう!!」

 

脳ミソを掻き回されたかのように痛みが走ったけど、逃げなきゃ死ぬという生存本能がちゃんと身体を動かし続けてくれたので距離をとる事に成功する

 

『絶』状態だから自己治癒での止血もままならないのがキツイわね

 

「目の前で自分の腕がチューチュー吸われてミイラになってく光景とかゾッとするわね」

 

すっごく痛いけど何か喋れ。思考を回せ。じゃないと勝てないわよ、私!

 

コイツは切り離した腕からもオーラを吸ってる。当然『練』なんてしてないのに食事にありつけてるって事は多分顕在オーラだけでなく内在オーラも糧にするんだ

 

収納バッグがバレるかもと思ったのと同じ理屈で例え『絶』で外に出るオーラをゼロにしても私と云う器の中にオーラが蓄えられている事に変わりはない

 

コイツには内在オーラを嗅ぎ分けられる何かが有るって事ね

 

それからこれまでコイツが山の麓まで降りてこなかった理由はあの飼われていた人からして恐らく、必要が無かったからだと思う

 

快楽と命の等価交換。それがパプを語る上で外せないワードだ

 

エサとした人間からオーラを吸い上げる上でそっちの方が都合が良いんでしょうね

 

生命エネルギーたるオーラは感情の影響を強く受ける。簡単言えば好調で有るほど力強さが増す

 

エサが豊富だったりそれらが全部精孔でも開いてるオーラに溢れた環境ならまだしも基本的に『待ち』による狩り(ハント)をするコイツらは一度捕まえたエサを直ぐに死ぬまでオーラを吸い上げてポイ捨てするより生かさず殺さずで少しでも質の良いオーラを長期間摂取出来る方が生きる上で理に叶ってたんでしょうね。ストレスを与えるよりも長生きもしやすいでしょうし

 

考察を続けながらも普通のポシェットから取り出したただの紐の端を口にえて位置を固定し、右手で切り落とした左腕の傷口付近をなんとか縛って止血すると咥えていた紐を放す。これで少しはマシになるはずだ

 

パプは私の左腕から舌先を放すとこちらを向いた。一応『絶』のままさっき内在オーラが感知されたであろう距離よりはかなり余裕を持って離れているんだけど、多分私の滴る血に含まれるオーラを視てやがるわね

 

血に含まれるオーラも直ぐに気化するように霧散しているはずだけど、その程度で誤魔化せるものじゃないか

 

(したた)る血を狙ったとしても継ぎ目である私の左腕に舌が吸い付いたらアウトだ

 

パプは思ったよりも生気(オーラ)が吸えなかったからか何処か不機嫌そうな目つきとなり、間髪入れずに舌を伸ばしてきた

 

切り落とした左腕とは反対側に素早く避けるとパプの舌が宙に舞う私の血液(に含まれるオーラ)をベロベロと舐め取りながら追従してくる

 

「気持ち悪いわねっ!!」

 

文句を言いつつ私のすぐ脇に都合何度目かに伸ばされた舌をナイフで斬り付ける。しかしオーラで護られた肉体(・・・・・・・・・・)相手では多少は斬れたけど断ち切るまでには至らなかった

 

「一撃じゃやっぱり無理か。さっきは腕の方を棄てて正解だったわね」

 

我が身可愛さに舌をどうにかしようとしてたら今頃薄い本が厚くならないシワシワ豆粒ミイラ快楽堕ちENDだったわね

 

それにしてもオーラを吸い取ってるんだから不思議ではないけど、向こうがオーラを使って来るのは面倒だ。流石に個別の特殊能力に目覚めてたりはしないと思うけどさ

 

原作でキルアが『纏』をしているだけの空手少年(ズシ)に有効打をほぼ入れられなかったように、戦闘に置けるオーラの恩恵のデカさを思い知るわね

 

あいつを倒すには『絶』の状態でクロスレンジまで持ち込んで高速で狙ってくる舌を掻い潜り、攻撃の一瞬だけオーラを『発』っして相手の防御を突破して勝負を決する必要が有る

 

『堅』の状態だと例えどれだけ高速で動こうとも最後には接近しないとダメだし、あの舌は直接触れなくてもある程度は周囲のオーラを吸い取るダ〇ソンのような吸引力を持っているのは最初の『円』の接触で体感済み。不用意に『堅』を使用するのは的を大きくするだけだ

 

単にオーラを吸われるだけならまだしも最初に『円』が触れた時に感じたゴッソリ自分の存在を削られながら身体中にゾクゾクとした感覚が走ったアレを『堅』だとオーラの密度の差からより強く感じ兼ねない

 

パプを前にそんな隙は晒せないに決まってる

 

てか濁して言ってるけどR-18展開だからね?R-18(エロ)が決まって足が止まれば即座に別のR-18(グロ)展開とか誰得よ

 

まったく、やっぱりどうにかしてオーラを使わないで舌と死角移動の二手を詰めるしかないか

 

「―――ん?」

 

本当に?本当に今の私は完全にオーラに頼らずこの状況を突破しきる必要が有るの?

 

どうにかパプとの距離を詰めようと攻撃を掻い潜りながら隙を探していたのを一旦取り止めて大きく後ろに後退し、思考に余裕を持たせる

 

息を整えながら感じたばかりの直感を言葉に置き換え自己認識を再定義する

 

パプを相手に顕在オーラをゼロにする『絶』で途中まで挑むのは変わらない。けど『絶』だから念能力が使えないというのは早計じゃないかしら?

 

何を言っているのかと言えば私の内包するオーラの話だ。『絶』は体外にオーラが漏れるのを防ぐ技術。当然だけど『絶』をしたからって潜在オーラまでもがゼロになる訳じゃない

 

『練』は本来全部で三段階に分けられる。体内でオーラを溜め、溜めたオーラを精孔を開いて体外に出し、最後に『纏』を用いてオーラを留める

 

私の必殺技とも呼べる『赤裸々(ドレス・ブレイク)』はこの第二段階で止めるものだけど、今回焦点を当てるのは第一段階だ

 

これは今までの通常の『練』でも思い返せば無意識にやっていたものだけど、強化系の持つ性質・性能の強化での肉体強化って何も筋力とか頑強さとかだけの話じゃない

 

例えば私がオーラを『練』り上げながら集中すると世界がスローモーションに成っていくのは内臓たる脳ミソの性能が強化されているからだ。今回着目したいのはそういった体内に渦巻くオーラで強化出来るはずの内臓全般の話。どっかの外道第四王子だって『絶』の状態で少なからず脳に影響してる未来視なんて『発』を使ってるんだから行けるでしょう

 

身体の外側と直接繋がる五感系統とかは通常の『練』でないと無理でしょうけど、身体の中で完結する内臓(パーツ)にしっかり意識を向けた事は無かった

 

私は細くゆっくり息を吸いながら体内で高めたオーラを一つ一つの内臓、血管、神経に浸透させるように意識を流していく

 

ドッドッドッドッ!

 

本当なら何時ものように筋力も強化したいところだけど、『絶』のままだと体表の皮膚とか目玉の角膜とかは耐久値を高められないから今回は見送りだ。皮膚だけ(やわ)いままで肉体性能爆上げで戦闘なんてしたら直ぐに全身がズル剥けに成りかねないからね・・・うわっ、想像したくない!

 

ドッドッドッドッ!!

 

雑念を振り払って更に意識を強く向ける

 

ドッドッドッドッ!!!

 

オーラはそれを操る術者の認識が強く影響する。今まで漠然と身体機能を強化していた私だけど、もっと繊細に、もっと大胆に解釈を拡げるべきだ

 

ドッドッドッドッ!!!!

 

強化された私の心臓の音が間違いなく空間を震わせる。圧倒的な血圧と血流を強化された血管が受け止める。元々鍛えていた肺機能は今や風切り音がする呼吸で取り込んだ酸素を血流に乗せて栄養と共に全身に行き渡らせる

 

「あは♪」

 

体温が上昇して熱に浮かされたようなフワフワとした感覚。初めてオーラを扱った時のような身体の奥から沸き立つ充足感や解放感とはまた違った感じだ

 

「なんか自分に酔っちゃいそう♪」

 

自己陶酔とはまた違うけど、廻る血潮が運んでくる酩酊感(めいていかん)がなんとも心地良い

 

今の私の状態は麦わら帽子を被った海賊の強化技(ギア2)や鬼退治する呼吸の剣士の心拍数と体温を上昇させて発現させる強化(痣)状態に近い

 

まぁ心拍数もそうだけどむしろ心臓のトルク(ポンプ圧)の方が上がってるから端からみたらハゲマントな格好でワンパンで敵を倒すヒーローの居る世界の地上最強(他称)の『キングエンジン』っぽいけどね

 

これでリズミカルな心音奏でてたら麦わら海賊の解放のドラム(ギア5)だったんだけどね。いや、それでゴム人間になったり白くなったりしないけど

 

考えている間にパプが歩いて距離を詰めていたようで再び触手のような長い舌を伸ばしてきた。それを見た私は間一髪の所で避ける

 

直ぐに空中に散った血からオーラを奪い取った舌が先程と同じように振るわれまくるけど、その全てをギリギリで回避する

 

大きく避ける必要なんて無い。指先の血の流れまで感じ取り、肉体性能を普段の強化とは別ベクトルで限界突破させた私は全力でありながら繊細な肉体操作を苦も無く行える

 

自分の肉体限定で内臓まで把握する鬼狩り達の『透き通る世界』に近い感覚

 

パプの攻撃をギリギリで避けているのはそれで十分だからだ

 

「この状態、何か技名付けるべきかしら?でもやってる事は実際ただの『練』なのよね。まぁ今のこれは『練』とも呼べないけど」

 

アレね。ドラゴンでクエストな世界の大魔王が汎用技の上級火魔術(メラゾーマ)を『カイザー・フェニックス』と呼んでいたのと同じノリだ。そこら辺の念能力者がどれだけ意識して全身強化したところで心音を轟かすだけの強化は見込めないからね

 

でもそうね。私も王だし地上最強の名にあやかって『王の律動(キングエンジン)』としますか。本家キングエンジンと違ってちゃんと強化技だから差別化は出来てるしね

 

私は上気して頬が緩んでるのを感じながらパプに向き直った

 

「有り難うパプ。キミが相手じゃ無かったらここまで強化の基礎を見つめ直す機会は無かったかも知れないわ。気分が良いし、お礼に苦しまないように殺してあげる―――私の快楽とあなたの命。等価交換といきましょうか」

 

 

 

しかしこの時の私はまだ気付いていなかった。パプの中に蠢くもう一つの悪意を

 

私を見つめる瞳の奥の情動を

 

新しい感覚(じぶん)に酔っていた私は愚かにも見落としてしまったのだ

 




はい。そんな訳で五大厄災のパプ登場でした。パプをスパイス鉱山関係で出す事は以前から決めていましたが何時出すかは未定でしたね
因みに『パ』ーシナモンと妻の『プ』リシラでパプだったりしますw
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