スパイス鉱山の中腹。平時は生物の気配は無く、風を切る音しか響かないその場所で連続した重低音が場を支配していた
その音源が少女の持つ心臓の音だなどと、この場を観察する者が居たとしても信じられないだろう
それ程までの非常識をその身で体現するビアーは上気した頬にやや緩んだ目元で熱っぽい視線を前に向ける。見るものが見れば恋する乙女のようでいて、それでも怪しい狂気を感じさせる
表情については今回新たに開発した『
なお「凛々しい衣装に身を包まれた御姉様(抱き枕)を私が包んで差し上げますわ~♡スーハースーハ-!クンカクンカ♪」などとベッドの上で規制/奇声をあげる
更に未来では主人公が茶髪巻き毛の女性で攻略対象がビアーな乙女ゲームを金と権力に任せて完全
そんな未来とは別だが、この場のビアーも今は未来に想いを馳せていた
今の彼女を包む高揚感は制限されたものだ。実際は通常の『練』でもって十全に身体の隅々まで強化するのが正しい形であって早くその力を試したいのである
五大厄災の一角を目の前にして既にビアーはパプが眼中に無い。それを余裕とするか油断とするかはこの後の当事者たちの
ビアーは達人の目から見ても無拍子とも呼べる瞬間加速でパプへと距離を詰める
爆発的に全身に叩き込まれる血流が
ここまでやってなお通常の『練』に劣るのだ。今まで開いていなかった回路にオーラを循環させるだけであり己が身一つに流し込まれる力の総量に違いはない
ビアーの完璧な『練』による強化はその全てが一段階どころか二段階は上昇するだろう
全身の筋肉や関節の連動がより精密となった事で無駄の無さ過ぎる人間味を感じさせないヌルヌルとした疾走で距離を詰めるビアーだが対するパプもまた生物の常識から外れた存在だ
パプは今まで口から伸ばしていた舌を2本とも使ってビアーへと吸いつきに行く
「1本でダメなら2本って事?悪いけどそれだけじゃ止めらんないわよ!」
確かに迫り来る舌の本数が増えたことで回避の手間が増え、進行速度は多少鈍ったが宣言通りビアーの足を止めるまでには至らない。しかしパプはそれに構わずその口を大きく開くと中から別の
「―――ッ。口から誕生とか
パプは五大厄災の一角。それが基本的に待ちに徹するスタイルな上にエサたる人間を飼えば
(出産というよりは分裂に近い増殖形態。今になって増えたって事は元々分裂間近だったけど、私から吸い取ったオーラで増えるのに必要な分の栄養を満たしちゃったっぽいわね。あとどうでも良いけどピッコロ大魔王は卵で産んでたからパプとは違うか)
若干思考が逸れながらもビアーはほくそ笑む。
(頭と首、それか心臓。一撃死を狙うにしても破壊箇所が被らないようにした方が良いわね)
ビアーは今や獲物を見る目で前を向く。対してパプは相変わらずの無表情だがなにも考えていない訳では無かった
端的に云えば非常にイラついていたのだ
先程から非常に美味しそうな食事が目の前に有りながら、いざ食べようとすると煙の如く消えてしまい、その残滓しか舌先に届かない
ズッシリとした存在感の瑞々しいリンゴを口にしたら中身が全てくり貫かれていて薄皮だけを食んでしまったかのような残念具合
パプは決して高い知能を有している訳ではないが、これだけ繰り返されれば思考もすれば学習もするものだ
パプは最初にビアーが背後から奇襲して来た時に彼女の莫大な潜在オーラを感じ取っていた
直ぐに彼女が距離を取った事で感じたのは一瞬だけであり、以降は滴る血液に含まれるオーラを感じるだけで人間なら満漢全席もかくやと云う量のご馳走の気配はしなくなった
故に今まではチマチマと舌を伸ばしていたのだが、きっとあの気配は勘違いでは無いのだと何時までも溢れ続ける
本来ならば一匹の獲物相手にこのような真似はしない。全身からくまなくオーラを吸ったりすれば脆弱な人間など文字通り瞬殺してしまい、生かさず殺さずに飼う事すら出来ないからだ
ましてやこれだけの触手を伸ばすのはそれだけの分裂の前準備のようなもの。失敗はパプにとっても無駄にエネルギーを消費する結果に成りかねない
しかし普通の人間数万人分は有ろうかというビアーが此処で狩られればそれはパプの大量発生に繋がり、縄張りが被らないように移動する事で人類圏全体へと拡がっていくだろう
逆にビアーがパプを仕留めれば人類滅亡の可能性が多少減少する
ビアーとしても明確にエサが有るのだとパプに印象付けた上で自分が一時後退を選べば罠を張る場所を変える為に下山してくるかも知れないとなればギリギリまでは撤退するつもりは無かった
(これはもう撤退した方が良いかな~?)
だが腕を一本無くしても継戦を選んだビアーでも2匹のパプの口から蠢く無数の触手を見て前進という選択肢に陰りが刺す
(幾ら数が増えたと云っても根本は口の部分で固定されているからまだ動きは読みやすい。今の私なら懐に飛び込んで1匹は殺れるけど、2匹目までとなると流石に成功確率3割切るわね)
人類の命運を秤に載せてのギャンブルをするには些か心許ない数値だ
(一度片方を仕留めるまで接近したら退避の方が難しいからヒット&アウェイも出来ないし、やるとしたら2匹とも殺すか1匹仕留めてもう1匹に殺されるかの二者択一ね。いや、暫くはミイラ状態で生かされるんだろうけど死んだも同然よ、それ)
そんな勝利へのハッキリとした道筋が見えずに苦い顔をしているビアーを只々今すぐに殺されそうなのだと受け取った者が居た
その者は昨夜の嵐で改めてこの島に漂流者や侵入者が居ないか島の見廻りに出ていた
その者は見廻り先で傷んで座礁している船を発見し、山へと続く僅かな痕跡を頼りにビアー達の戦う洞窟までたどり着いたアニタであった
なお邪な理由で山を登った侵入者は先程ビアーの目の前で息絶えていたりする
兎も角気配を消して戦場に近付き片腕のビアーを見付けた彼女は本当なら直ぐにでも出て行きたかったが、パプの放つ異様な気配とビアーの片腕を失った重傷にも関わらず楽し気に笑っている姿に出て行くべきか迷いが生じたのだ
ビアーに『絶』のアドバイスを受けたとはいえ昨日今日の付け焼き刃では普段のビアー相手ならばアニタが付近に潜伏していれば気が付いただろう。しかし新境地にたどり着き、目の前の
「こっちを見なさいこのアホ顔ザルゥウウウ!!」
遠くの岩影から飛び出したアニタが少しでもパプの注意を惹こうと大声を出し、何よりも存在を主張する行為に『絶』が途切れた事で垂れ流しのオーラがその『場』に漂い始める
“グリリン!!”
次の瞬間2匹のパプの首が同時にアニタを向いた。パプからしてみれば弱く、脆く、しかし今度こそ確実に簡単に食べられそうなエサの登場である
「こっちを忘れちゃ困るわよ!」
そんなパプ達に対してビアーもオーラを解放する
“グルルン!!”
自分達により近い場所で放たれた強いオーラ(エサ)の気配にパプはまたもや反応する
「女の子二人相手に目移りするようなマナーの悪い客に慈悲は無いわよ」
それを見たビアーは自身の状態を再び『絶』に切り替える。パプからしてみれば確実に食べられそうなパン一個と食品サンプルかも知れないデカ盛りフルコースだ。思わぬ事態に混乱して意識が二人の間で行き来し、集中が乱れる
“―――ドスッ!”
「浮気性は女の子に背中から刺されても文句言えないわよ?」
パプの意識の間隙を突いたビアーが、片方のパプの背後に回り、背中から心臓に向けてナイフを突き立てたのだ
ナイフが刺さる瞬間にだけ『堅』と『周』でナイフをオーラで覆い深々と突き刺す。なお周囲にオーラを振り撒いてしまう『
しかしそれでもビアーの攻撃は斬撃でありながらパプの胴体の中身をシェイクするのに十分な余波を叩き込む。これが人間界の生物であれば確実に爆散していただろう
(先ずは1匹!コイツを刺すのに瞬間的に『発』っしたオーラでもう1匹もまた意識がブレた。最後まで私達人間に食欲第一の目を向け続けて警戒心を二の次にしたのがそっちの敗因よ)
ビアーは既に勝利を確信する。しかしビアーを助けに走ったアニタはそうでは無かった
「口からヒジキ出してんじゃないわよ!ヒジキが苦手な私への当て付けかぁあああ!!」
恐怖を押し退けて理屈抜きで飛び出した上にアニタの実力では制限付きでもビアーの本気の動きを目で追える訳もない
パプの口から伸びる大量の触手が視界を悪くしてるのも手伝ってアニタの無謀無策な突進は更に加速する。なおヒジキは関係ない
「え!?ちょっ!?待っ!!」
(アニタさんの突撃で勝機が見えたのにそのままこっちにまで来たら私がもう1匹を仕留める前にアニタさんがヌメヌメの触手で全身絡め取られて吸われちゃう!!)
ビアーの思考がオジサン寄りになるが待っているのはエロ展開ではなくグロ展開だ
パプが態々喰われに来るエサに嬉々として無数の舌を伸ばす。完璧に捕食と云うアクションに入ってしまった以上はビアーがオーラをチラつかせても完全に止まる事は無い
(普通の『堅』の加速じゃ間に合わない!)
アニタの登場で90%まで跳ね上がった勝率が彼女の献身(とっしん)で99%まで引き上げられる。しかしアニタを犠牲にした勝利などと云う後味の悪い勝ち方はビアーの望む所ではないのだ
歯を喰いしばったビアーは前を見据えながら踏み出す一歩に力を籠める
(これに頼るのは主義には反する。けど制約には反しないなら四の五の言ってられない!)
ビアーは地面を蹴る足にだけ『堅』を纏わせたのだ。身体の足以外は『絶』のままなので傍目には『硬』のように見えただろう
だがこれは別にオーラを『凝』で集めた訳ではなく、あくまでも身体の一部で『練』をしている状態。しかしビアーが足に纏ったオーラは今確かに通常の『練』よりも力強さに補正が掛かっている
一部を除いて身体のオーラによる防御を棄てる
先程一体目のパプをナイフで刺した時も同じ技法を用いた。しかし先程のは『必要だから』やったのであって今回のは『
(私はもっと楽に勝ちたいのよ!!)
たかが数%、されど
次の瞬間には稲妻の如き速度で閃いたナイフの一閃がパプの首を切り裂き、身体と頭を泣き別れさせた。しかしナイフを振り抜いたビアーは不満の表情を隠さなかった
楽に
∇
「アニタさん!!」
パプの頭が宙を舞う中、確かに感じるパプの死の気配を尻目にアニタさんに駆け寄る
どうやら一番伸びていたパプの舌先がアニタさんに届いていたのか、一瞬とは云え彼女のオーラがゴッソリ持っていかれるのがハッキリ感じられたからだ
私がパプの首を切り離した瞬間の出来事だったからパプ自身に還元されるヒマすら無かったでしょうけど、それでも五大厄災の一撃を受けたアニタさんは意識を失ってしまったようで糸が切れたように地面にうつ伏せに倒れる
私は何とか顔面から砂利と岩肌の地面に落ちきる前に滑り込みでキャッチに成功した
「アニタさん!しっか・・・り・・・」
倒れた彼女の顔を覗き込んだ私は思わず言葉に詰まってしまう。人類が滅んでないのが偶々とされる最凶の一角。その毒牙に掛かったアニタさんは見るも無惨な姿になってしまっていたからだ
「うぇへへへへっひ♡ふへ♪ふへへへへへへ♥―――じゅるり♬あはっ♪」
なんと云う事か。年頃の乙女が
「アニタさん起きてぇええええ!!?」
ちょっと考え無しだったけど貴女さっき世界の滅亡回避に大きく貢献したのよ!?それがこんな変質者MAXな顔してちゃ色々ダメでしょ
―――カシャッ!
・・・うん。思わず写メ撮っちゃったけど、正気に戻る気配はないわね。そう、これはアニタさんの反応を診る為の措置の一環だったのよ
「て言うかマジで正気を取り戻して!生命エネルギー枯渇して虫の息になってるじゃない。そんなテンションのままだと死ぬわよ!?」
残り少ない生命力を妄想で垂れ流して死亡とか愉快が過ぎて嗤えもしないわよ
「ムヒュ♡ふひゅひゅひゅひゅひゅひゅ♡♥♡」
ダメだコイツ早く何とかしないと
五大厄災の力恐るべし。完全に理性が焼き切れてるわね
取り敢えず首トンで意識を断ち切ったけど夢の中までウルトラハッピーなのかニマニマとした笑みが崩れる事はない。青白い顔でもとっても幸せそうね
「ええい!しかたないわね!!」
私は夢の中でもデュフデュフ言ってるだろうアニタさんを小脇に抱えて収納バックを拾い上げるとパプの死骸は洞窟の奥に蹴り入れて麓の事務所までダッシュする
パプが居なくなった今は十全にオーラを扱えるから気が楽だ
走ってる途中でパーシナモンさんの気配をキャッチしたので執務室の開いてた窓からダイナミック入室!
「パーシナモンさん。医務室に点滴有ります?あと他にも色々用意して欲しい物が有るんですけど。あと血が足りないのでレバ肉下さい!!」
それから気絶している娘と片腕が無い私を見てパーシナモンさんがビックリ仰天して中々話が進まなかったり医務室に行った私を診た常駐の医者が「左腕は実は義手でした?この血は貴女の血じゃなくて返り血ですよね?(要約)」とオーラの回復力の弊害で今朝大怪我をした事実を認めてくれなかったり、私の要望を受けて医務室に運んでくれたレバー主体の料理が過去最高に美味しく感じたり、アニタさんが未だにムフフ♡な寝言が止まらなかったので面会謝絶処置となって商会の人達の間に様々な憶測が飛び交ったり、医務室で暴飲暴食をする私とそれを赦すパーシナモンさんにぶちギレたお医者さんに部屋から叩き出されたりで数日経った
初日には娘が寝言も含めて直ぐに回復するとの私の見立てに安心したパーシナモンさんが非常に暗い顔で何があったのかの詳細を求めてきたので流石に話さない訳にはいかないと五大厄災の事も含めて話すと暗い顔が青い顔になってしまっていたわね―――自分達のビジネスの先に人類滅亡が待ち構えていましたとか聴かされたらそりゃショックか
「暗黒大陸の存在は知っていましたが人類すら滅ぼす五大厄災ですか・・・確かにそれ程の脅威が人間界に紛れ込んでいるなど民衆に伝える訳にはいかないのも当然ですな。ところでビアー君は今後の活動はどうするつもりだね?片腕ではハンター業は難しいだろう。良ければうちの商会に働き口を用意させて貰うよ」
「あ、腕はまた生やすのでいいです。お気遣いだけ貰っておきますね」
「キミ実は暗黒大陸出身のニンゲンだったりするかね?」
ノータイムで失礼な事言って来るわね
「何ですか人を宇宙人みたいに。別に私は人型超常未確認生物だったり何かしませんよ」
私はただの
パーシナモンさんはどうにも腕を生やせるという話には半信半疑だったけど、治したら写メを送ると言うのと私がまるで悲観してない様子から取り敢えずは納得してくれたみたい
さてそんな感じで片腕の袖をヒラヒラさせている私だけどゆったり休んでばかりも居られない
パプの死体の確認や住み処の調査に一応は山頂までも見廻りする必要が有る。片腕と云ってもパーシナモンさんの商会の人達に任せられる仕事じゃないし、後回しにしていいものでもないから私が出張るしかないのよね。流石に腕をぶった切った初日は体力回復メインでベッドで休むのが主になったけどさ
それで調査の結論を云えば少なくともパプはこの島には他に生息していないようで、パプの住み処で知り得た情報についてはレポートに纏めたんだけど、書き終えてからその内容に思わずため息が溢れた
「どこまで人の醜い欲望刺激すんのよこの害獣は?」
パプの居た洞窟の奥には細くとも水脈が通ってたのか飲み水を確保出来る程度の水場が在り、その近辺にはスパイス鉱石が所々に顔を覗かせていた
「パプの持つなんらかの成分が水に溶け込んで山を下って、パプ水(仮称)が水脈付近の鉱石に浸透する事でスパイス鉱石へと変貌させる。水脈を通して人と云うエサを誘き寄せるフェロモン的な効果が有る訳ね。どうりでスパイス鉱石が
パプを倒した以上いずれスパイス鉱石は間違いなく打ち止めになる。でもそれは人間界での話。将来的に暗黒大陸のスパイス鉱石に魅入られた人達がどれだけ無謀な突撃するかとか考えると頭痛いわね。こういう情報ってどれだけ伏せても基本時間稼ぎにしかならないし
「なによりも問題はこっちよね~。まぁV5も五大厄災の危険性は痛い程判ってるんだし、後は政治家連中が上手くやれるかか~。てかこっちの方が倫理観崩壊しそうな案件だしね」
チラリと机の上に置いた
そんなこんなで調査中心に過ごしていき、パプとの戦いから数日後にはアニタさんが目を覚ました。もうアブナイ笑い声を上げている訳でもない
本人は当然ここ数日の事は覚えてないけど、私とパーシナモンさんとお医者さんには彼女の口元の弛みが鮮明に見えた。きっと今からまた数日は商会の人達に復調を喜ばれると同時に「何か良いことでも有ったんですかい?」と度々訊かれる事でしょう
因みに私の怪我は片腕というインパクトに圧されて距離感を掴みかねている人や食後のデザートとかを分けてくれる人達やらで反応は様々。ただアニタさんは目覚めて私と顔を会わせた時に先手で腕はまた生えると告げたら「なら良し!」と腕に関しては納得してくれた。アニタさんはもうちょっと他人を疑う事を覚えた方が良いんじゃないかな?
まぁそれはそれとして心配掛けた事に大しては説教されたけど、私としても五大厄災
「さて、一先ずの調査は纏めたしアニタさんの目覚めも確認出来たからそろそろお暇しますね」
「分かっているよ。ビアー君としても片腕のままなのは不便だろうからね。引き留める訳にもいかないさ・・・正直に言えば腕が元通りになるなどと今でも信じがたい所は有るがね。回復した写真を楽しみにしておくよ」
私としても別に無駄に心配させたい訳ではないから忘れないようにしないとね
「今は輸送船一隻を待機させてある。急ぎ用意を進めているから昼過ぎには出港出来るだろう。なに、元々嵐の多い海域だから実質不定期便のようなものだ。取引先の納期には常に余裕を持たせているのだよ」
私が近い内に島を出るのは分かっていた為かパーシナモンさんはくじら島方向の船を差し止めてくれていたみたいで数時間後には出発出来るとの事。こういった細かい気遣いは有難いわね
それから無事に船は島を離れて島の周囲の岩礁地帯を抜けたらバレない程度に船に『周』を掛けてグングンと航路を進ませる
「ビアー。あんた何かやってる?」
良い調子で進んでるな~と思っていたら見送り代わりに一緒に乗り込んでいたアニタさんが主語を除いた圧を掛けてきた。因みにパーシナモンさんは仕事の都合で島で別れる事になったわね
「え?藪から棒にいきなり何?強いて云うならこうして風を感じてるだけだけど?」
「その風が可笑しいってのよ!なんでエンジン積んだ船より爆速で進んでんのよ!?帆なんて最早向かい風になってるのに船だけ前に前にと進むから船員達がホラーだ呪いだって騒ぎ始めてるんだからどうにかしなさい!!」
そんな決めつけなくても・・・原因私だけどさ
だってまた嵐に遭遇とかしたくないし、仕方ない事だよね?
私はアニタさんの追及をのらりくらりと躱し続け、結局は目論見通り嵐に遭う事なくスパイス鉱山から近場の大きな港に到着した
私は船から大きめの荷物を降ろすと用意してあった車に載せてアニタさんにお別れをすると空港へ向かい、これまた事前にチャーターしてあった飛行船でクジラ島へ向かう
クジラ島に空港は無いけど原作でネテロ会長がやっていたように飛び降りれば最短で辿り着けるからね。今は急ぎなので色々とはしょれる所は容赦なくはしょっていくわよ
くじら島の上空を通過する空路の中で目的地であるくじら島の上まで来た私は荷物と一緒にノーロープバンジー!着地した際に遠くから「親方!空から女の子が!!」とか聞こえて来たから何人かには見られちゃったっぽいけど、態々弁明しに行く必要もないのでゴンの家にそのまま直行。変な噂も75日で消えるでしょう
ただゴンの家に入る前に流石にミトさんに隻腕状態を見られたら引き留められる事確実でかつ逃がしてくれないだろうなと気付いてスニーキングミッションでゴンの部屋に侵入し、
私のセーブデータである指輪はカストロさんに預けてあるし、ゲームのマルチタップの仕様上の人数上限である8人の枠はとっくに埋まっているのでゲームの説明担当のイータさんには今の状態だとセーブが出来ませんと忠告されたけど問題無しとして最初の平原に降り立った
さて、指輪こそ新たに貰ったけど当然今の私はスペルカードは使えないし行った町や出会った人のデータも白紙だ。仮にこの場に『
―――ならばどうするか?
「
気分で右手を前に突き出しながら呪文?を唱える
「ビアー様が臣下、カストロ。只今参上つかまつりました。何なりとお命じ下さいませ」
次の瞬間には片膝着いて頭を垂れた状態のカストロさんが目の前に現れた。これがカストロマスターだけが扱える特別スペル。以前はゲームマスターのレイザーに島外に(何故か私まで)跳ばされたけど、島内での念での移動ならば問題はない
「カストロさん。早速だけど『
「御用命、しかと賜りましてございま・・・ビ、ビアー様!お手をどうされたのですか!?」
立ち上がりつつ返答していたカストロさんが私の腕を見て慌てる
「ああ、これ?世界の滅亡を事前に防いでたらちょっとね。良いから早く跳んでくれない?さっさと大天使で腕生やしたいから」
この場で詳しい事を説明しても結局レツ達にも質問責めされるのは目に見えているから雑な扱いで次を促す
「―――――――――ッ」
なんか天を仰いで静かに感涙してる人が居るんだけど何してんの?
「―――失礼致しました。ビアー様に救われたこの命。溢れ出る感謝と感動に改めて我が魂を磨き上げ、ビアー様に奉じる機会を頂いた
うん。何言ってんの?まぁ世界の滅亡ENDを回避したなら確かにカストロさんも一応救ってる事にはなるでしょうけど、今の話だけでそこまで実感を伴って感激出来るとか普通に怖いわ!
それから正気?を取り戻したカストロさんが『
「あ、ビアー!丁度今こっちはNo.35の『カメレオンキャット』を皆で探してって!?腕ぇええええええ!!?腕どうしたの!!?」
私を見つけたレツが笑顔から驚愕へと表情を切り替えて絶叫する
パーシナモンさんに商会の人達にアニタさんにカストロさんにと知り合いに出会う度におかわりされまくったリアクションに苦笑してしまう。まぁ向こうからしたら初見の反応だから仕方ないんだけどね―――レツの絶叫にまだ声の届く距離に居てなおかつ『
「良し、レツ。早速私に『
「なんで急に英語なのさ?もうそれで良いから詳しい説明ちゃんとしてよね」
「頼まれちゃぁ仕方ないわね。大天使ってのは9つ有る天使の階級では実は下から2番目で偉そうな名前の割に会社で例えれば下っ端社員数人を纏める班長的な立ち位置で―――」
「―――治さないよ?」
「ゴメンて」
ジト目で見られて速攻で謝り大天使を呼び出して貰い、左腕だけでなく身体中の悪い所が有れば全部治してとお願いする
≪お安い御用。それではその者の身体を癒してしんぜよう≫
大天使が私に向かって息を吹きかけると全身にキラキラとしたエフェクトが舞い、次の瞬間には最初からそこに在ったかのように私の左腕が治っていた
「おお~!!」
流石にこれだけ見事に治ると感嘆するわね。でもコレは基本ゲーム内限定だし、天使様をゲームクリアで外に持ち出せても一回限りの使い捨てなのよね~
綺麗な天使様(念獣)を使い捨てに・・・ごくり。じゃなくて暗黒大陸なら四肢欠損や内臓損失レベルの怪我を治せる再生医療に役立つ
そして先ずカキンでの事については皆は既にカストロさんから説明を聴いていたので特別なにか付け足して話す事もなく(赤ちゃんプレイなんて無かった)、話題は直ぐにスパイス鉱山とパプの所に移る。モモゼ王子限界オタク化現象とかこちらから振る話題ではない
レツやゴン達は五大厄災と訊いても実感として今一ピンと来て無い所も有るみたいだったけど、ハンター歴の長いビスケは冷や汗掻いてたわね。直接他の五大厄災とかに出会った事は無いにしろハンターとして人間界を広く深く飛び回っていれば
え?すぐさま命を救われたとまで本気で信じられる奴が居たって?
それから予想外のパプとの遭遇でグリードアイランドの攻略よりも先にやらなければならない事柄が増えた事も話す
「そんな訳でまた直ぐに居なくなるから、もしも私が戻ってくる前にゲームを攻略しちゃったらクリア報酬の残り1枠をどうするかはそっちで決めちゃって良いからね」
ビスケのと私が選ぶ『ソレ』で2枠埋まってるけど、今のところそれ以外に欲しいのは無い
「ふっ、人によっては生涯を懸けてでも手に入れたいお宝揃いだと云うのにな」
クラピカが可笑しそうに笑うけど所詮はゲームの景品だしね。ビスケのブループラネットみたいにちょっとしたアクセサリー位の感じで求めるのが健全ってなもんよ
「『さまようルビー』や『孤独なサファイア』は医者をやる上で妨げになっちまうな。ならここはやっぱり『真珠イナゴ』か『シルバードッグ』か?いやいや繁栄が約束されてるってんなら『千年アゲハ』も実質金持ちに―――そうだ!『美肌温泉』で入浴料を取りつつ、お、おふ♪オ、オーナーならピチピチレディやしっとりマダム達の健康を診断するのは当然の義務だよなぁあああ!」
ゴロツキレディやふくよかマダムとかも含めて全ての客を診るなら少しは信じられたかもね。まぁこのキモい表情見る限りダメそうだけど
「安心なさいキモリオ。たった今女性陣は満場一致であんたにはクリア報酬の枠を渡さないと決めたから。そうよねクラピカ?」
「待てポンズ。何故最後に私に確認を取った?―――いや、やはり答えなくていい。それを訊いた時、後に待つ
「残念だったなレオリオ。反対派は既に中
「貴様の口に『ホルモンクッキー』を捩じ込んでやろうか、キルア?」
クラピカもかなり遠慮が無くなって来たわね。あとキルアが女の子になったら絶対可愛いと思う。私にそっち系の趣味はないから強行したりはしないけど
「はいはい。細かい事はクリア時に決めなさい。第一私も戻ってるかも知れないんだから―――それじゃ早速出発するから誰か『
「え?『
ゴンがゲーム外に出ようとする私にそう言ってくるけど、首を横に振って否定する
「『
くじら島はお世辞にも首都近郊でも交通の便が良い場所でも無いからね。私が乗ってきたチャーター船にまた飛び乗るって手段も有るけど単純に次の目的地までの距離が離れてるから結局港ワープの方が早いのよね
「にしても不便だよな~。ゲーム外に
「あはは、まぁ示し合わせさえすれば『
レツ~!レツが見送りに来てくれるだけで千人力だよ~!
「はいはい。ビアーが千人も居たら世界主要5ヶ国(V5)が一晩で滅ぶから分身もパワーアップもしないでよ」
レツが適当な感じにあしらって来るとポンズ姉の被っていた帽子の縁が持ち上がり中から小さな顔が現れる
「リースも居るからレツの声援で二千人力になるよ!V5だけじゃなくて次は世界を狙えるね!」
「世界征服のRTA狙ってる訳じゃないんだよ!絶対にやらないでよね!てかオーラの供給源はボクなんだからボクの方が持たないよ」
レツがツッコミを入れながら「ほら行くよビアー」と私の手を引っ張って皆から離れる。『
「それじゃあ皆またね」
今更しんみりする事も無いので簡素に挨拶を済ませるとレツがバインダーから取り出したカードを発動させる
「『
弾けるような音と光の森に包まれて私とレツはその場から消え去った。最後の一瞬レオリオの「もう腕失くすんじゃねぇぞ~!」って声が聞こえたような気がしたけど、もう数瞬待つべきだったかしら?・・・まぁレオリオだったし良いか
光に包まれてちょっとした空の旅を終えてマサドラまで辿り着くと非常に残念ながらレツともそこで別れる事になる
「レ゛ェエエエツ゛ゥウウウ!!例えどれだけ離れても私の事忘れないでね゛ぇえええ!!」
軽くジャンプして両手を拡げ、小さく可愛い天使の小さく可愛いお胸に飛び込む。柔らかな感触が私の頬にムニッ♡と伝わって―――
「天竜虎博!!」
瞬間的にピー助を憑依させた全力の『硬』の右ストレートが私の頬を穿ち、この身体は縦回転しながら地上が遠ざかっていく
あ、ちゃんと港の在る西に向かってぶっ飛ばしてくれてるんだ。レツは優しいね
キロ単位で飛ばされた数十秒の空の旅が終わり地上に着地して無駄に新体操的なY字のポーズで高得点をアピール(自己満足)する
「それにしてもレツの一撃、なんか凄く怒りが籠められてたんだけど、なんで?」
内心首を捻ってると突如として指輪からバインダーが飛び出し、レツから『
≪いつか絶対大っきくなってやるんだからね!!≫
レツの突然の決意表明と共に通信は切れた。レツの胸が大きくなるのはエターナル美少女なレツにはかなり無理が有るんだから小ぶり故の愛らしさを―――
「いえ、待って。人形師のレツなら何時しか本物と見紛うレベルの胸パット
清楚&儚い系パツキン美少女が胸だけデカパイとか世の男共の性癖が時空が歪むレベルで捻じ曲がっちゃうわよ!(確信)
恐ろしい未来を垣間見た気もするけどそうなったならそうなったでそれが世界でそれが歴史ってやつなんでしょうね。なんて無駄に深く
「それではまたのご利用をお待ちしております」
エレナさんの言葉に見送られ島から出ると人目に付きにくい高い場所に跳ばされたみたいで目の前に広がる大都会が一望出来た
その中でも街の中心かつ一際大きい建物に向かう。その威容は聳え立つ巨大なタワーがこの都市だけでなく世界に誇るものであるのだと主張するかのようだ
「ん~。天空闘技場と同じくらいの高さかな~?」
バカみたいにデッカいと云う事はそれだけこの建物で動く人間の数が膨大だと云う事だ
私はその巨体なタワーに真っ直ぐ向かい、受付に声を掛けると話はちゃんと通ってたのか直ぐに案内役の人が来て通された一室で少し待っていると部屋の扉が開いて小太りでブルドッグっぽい顔をした男の人が入室してきた
「待たせて済まないね。さて、挨拶は電話で済ませてあるから早速本題に入ろう。本来有名なプロハンターであろうと私との面会には相応の紹介状か手続きが欲しいところだが、キミが私の求めている
「念押しして脅さなくてもこうして顔を合わせた時点で後戻り出来ないでしょう?私が持ってきたのは―――」
そこで一旦言葉を区切ると持ってきた荷物の蓋を開けて中身を取り出す。先ずはインパクト重視で生首状態のパプをテーブルの上に置く。その隣には小さな箱の中に更にビニールで密閉した小さな鉱石も並べて提出する
「五大厄災パプの死骸が2体分とその住み処で見つけた
「待て待て待て待て!これだけ貴重な情報をどれだけ雑に叩き付けて来たら気が済むんだね?」
生半可な情報じゃ納得しないぞって小娘相手に圧を掛けてきたのはそっちじゃない。ならばとご希望に沿って上げただけよ
慌てふためく課長を前に余裕の有る笑みを浮かべる。ぶっちゃけ今回は楔を打ち込む為だけに来たからあまり小難しい政治関係に話を波及させる気なんてないので気楽なもんよ
私が五大厄災(パプ)を解決した。その事実だけ心と記録に残しておいてね
―――後日―――
「それではこれよりV5首脳会議を開催する」
あっるぇえええ??なんで私こんな堅苦しい場所に居るのかな???
パプがあっさりと死にましたがパンデミック前の厄災ならこんなものかなと云った感じです