毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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報酬と折檻

V5の首脳陣が暗黒大陸という決して一般報道出来ない機密情報を話し合う場に13歳の少女が出席し、あまつさえ会話の主導権を握るという異常事態が起こっていた

 

確かにその為にビアーが放出した情報の価値は天井知らずだが、そもそもV5を正面から押し黙らせられる情報を持っている方が可笑しい。V5それぞれに対して国家予算規模の札束ビンタを不意打ちで喰らわして呆けさせたようなものだ

 

そんな全員の注目と関心を初対面時より何倍も高めたビアーは水見式で増やした三原水の入った器に最初に一滴だけ持ってくるのに使用していたスポイトを突っ込み吸い上げると蓋をしっかりと閉めてトッコーの課長に差し出す

 

「はい。言ってたように使わない一滴分レンタル料込みで返すわね。5~6滴分くらいは有るんじゃないかしら」

 

あっけらかんと先程のパフォーマンスで出来上がった三原水を渡さない(・・・・)とするビアーに「は?」とか「え?」とか疑問の吐息が漏れる。トッコーの課長も一瞬固まったが直接話し掛けられた上で反射的に差し出した掌に乗せられた三原水に幸運にも素早い再起動を果たす

 

確かに譲渡した分の三原水と増やした分の三原水は分けて考える事が出来る。しかしながら無尽石すら捨て値同然で提供したビアーが今更そのような事を言うとは思わなかったのだ

 

これで交渉相手が真っ当?に欲を持つ者であったなら急ぎで用意した書類であっても細かいニュアンスの違いまでも検証した契約内容を提示出来ていたであろう

 

「―――10日で1割(トイチ)の悪徳利息が震え上がる程の暴利で返却してくれるのは有り難いが、そちらの三原水はどうするつもりだね?確か使うアテは無いような事を言っていたと記憶しているが?」

 

「ここでV5のいずれかにお譲りするなり競りに掛けるなりしたら関係拗れるじゃないですか。既にリスクやリターンの研究をしているトッコーの方にお売りしますよ。ご立派なスポンサーも居らっしゃるとの事ですし、次は(・・)さぞや懐の深い利益(リターン)を提示して頂けるんでしょう?今後とも『健全』なお付き合いをしたいですからね」

 

ビアーの挑発的な言葉を聞いて代表者たちは察する。きっとパプや無尽石と同じように安値を提示すればそれで買い取る事は可能である。しかしここで短慮にも目先の利益だけを優先した報酬を支払えば彼女はV5と(たもと)を別つだろう、と

 

権力や財力に執着していない相手ではこの場での対応を間違える事は決して有ってはならない事だ。ビアーという存在への依存度が高まっている現状では多少の余白は残しつつも初手でほぼ全額ベットをする事を余儀なくされているのだった

 

普通のプロハンター程度ならばV5との関係を切るなどマイナス要素でしかないが、ビアーが普通の範疇(はんちゅう)に収まらない事くらいは各員承知済みである

 

「ふむ、ビアー君。報酬の話だが課長(かれ)もそのスポンサーと話し合う時間が必要だろう。一時審議を中断して上げようと思うのだが、どうかね?もう良い時間だ。その間ビアー君は展望レストランで食事でも食べてくると良い。なに、もちろん料金はこちらで支払おう」

 

実に分かり易く追い出される形となったが別にこの場でゴネる理由もまた無かったビアーはそれを了承。三原水はその場に残したまま颯爽とその場を後にしてしまった

 

ビアーが会議室を後にして十分に彼女が離れたと実感した瞬間に各々が気付かれないように肩の力を抜く。無論各国の代表として表面上は背筋を伸ばして胸を張ったままではあるが、ゆっくりと長い呼吸を挟む事で精神状態を平常時に近付ける

 

「さて皆々方。あれがビアー=ホイヘンスだ。彼女は別に形有る報酬など求めていない。真に求めているのは我々の『誠意』だ」

 

「全く、これ見よがしに三原水を放置して行きおって。余程我々の自尊心をくすぐりたいようだ」

 

アメリカンな首脳が全体を見渡し自分たちの食事の時間を削ってでも続けるべき議題を述べると皺の寄った首脳を皮切りに議論が開始される。ビアーが昼食を食べ終わりこの部屋に戻ってくるまでがタイムリミットだ

 

「しかし三原水の増やし方まで実践して見せたのです。念とやらの使い手で彼女の言う通り10人に1人の割合で同じことが出来るなら各国の精鋭部隊などを探せば見つかる事でしょう。あまりに大き過ぎる金額を動かしてしまえば誠意以上にこちらが侮られる事態にも成りかねないのではありませんか?」

 

「全くもってその通りだわ。お金の無駄よ」

 

「いや、我々が得ている情報は余りにも断片的だ。彼女の持つ手札が仮にこれだけならギャンブルに走る理由がない。今後も交渉を続けられるだけのモノを握っている事と我々との友好関係を極力崩さない塩梅を狙っているのだろう。厄介なのは向こうは最悪関係が崩れても痛手とはならないという点だな」

 

「全くもってその通りだわ。慎重に考えを進めなければならないわよ」

 

会議は踊る。慎重さは前提として様々な意見が上がりそれに追従するモノ、反発するモノが入り乱れて彼等の討論が途切れる事は無かった

 

 

V5の首脳陣が顔を突き合わせて13歳(年齢不詳)の少女(転生者)への報酬(プレゼント)を本気で吟味し続けて大方の意見が出揃った辺りでビアーという仮にも客人に対する護衛という名の監視から後15分程展望フロアを廻ったら会議室に戻ると通達が有った

 

具体的なタイムリミットが示されたのはビアーなりの気遣いであろう。3分間だけ待ってくれる何処ぞの大佐の5倍は温情だ

 

ビアーが宣告した通りに部屋に戻ると1ランクグレードアップした椅子へと案内された

 

無論始めに用意されていた椅子も充分良い物ではあったがそれでも機能性重視の物だ。しかし今在るのは首脳陣の座っている椅子と同等の物である

 

別に椅子が変わったからといってビアーの社会的な地位がV5の首脳陣と同格になった訳ではない。必要なのは事実と認識だ

 

高い場所からふんぞり返った誠意など信頼と関係の構築においてノイズにしかならない

 

ビアーが根っからの従者気質ならば話は違ったが、そのような仮定に意味がない事くらいは声に出すまでもない共通認識だ

 

ビアーが席に座ると早速本題とはならないで軽く当たり障りの無い会話から入る

 

「食事はどうだったかね?楽しんで貰えたかな?」

 

「とても美味しかったですよ。眺めも良かったですし色々とお勧めされてデザートもたっぷり頂きました」

 

満腹にさせて少しでも時間を稼ぐ。何とも易い手ではあるがビアーも最高峰のシェフの作った甘味には興味が有ったので十分に堪能したようである

 

「喜んでくれたならば何よりだ。後でお土産用の物を幾つか包ませよう」

 

ランチの感想とお菓子のお土産。他愛の無い話はそこそこに話題は本題へと移っていく

 

周囲の視線で促されたトッコーの課長がビアーへと三原水の買い取り希望価格を提示する。その額なんと2000億ジェニーであった

 

(適正価格に少し色を付けた位の金額ね。健全な関係構築を向こうも望んでいるって訳ね。2000億という金額に私が気圧される程度なら今後の交渉で優位を引き出せるし、私がこの金額を適正だと見抜いたなら損にはならない取引を続けられるって訳だ―――良いわね。5ヶ国の集まってるこの場で出来るだけ話を進めたいが為にせせこましい交渉術は最低限に抑えているのは有り難い)

 

普通ならば2000億ジェニーなど目が回る程の金額だが原作でジン=フリークスが「持ち帰ったリターンを生かす為の設備維持だけでふっとんじまう程度の金」としてビヨンドに雇われた者達(待機要員)にも4億ジェニーを約200人分近く支払っている

 

※実行部隊25人前後には30億ジェニー

 

2000億ジェニーという金額はリターンの報酬として決して大き過ぎる金額でも何でもないのだ

 

「丁度良い塩梅ね。それで売らせて貰うわ―――それじゃあ話し合いを続けましょうか」

 

少し強調された「丁度良い」のセリフに首脳陣は『やはり』といった感情を抱く

 

やはりこの娘はこちらに対する理解が深い、と

 

ビアーがもっと我が儘な性格であったならどんな要求が飛び出してくるか分からないが、ビアーの対応からある程度は金銭という分かりやすい報酬で対処出来るという事だ

 

2000億という破格の金額が動いてこれでやっと挨拶が終わった程度の段階だ。無論三原水が将来的にもたらす経済効果はその限りではないので本人達的には当然のやり取りでしかない

 

「それじゃ早速だけどリターンはまだしも五大厄災は念能力が何らかの形で関わっている可能性が高いわ。全部とは断言出来ないけど、パプとゾバエ(・・・)はそうだったからね。だからこの先暗黒大陸進出を視野に入れるなら念が使える研究機関の存在は必要になるわ。極一部のプロハンターとかの少数精鋭でリターンを持ち帰るだけなら後回しでも良いと思うけど『とても優秀』程度の人材が暗黒大陸で如何に無力かは良くご存知よね?その程度の人材でも五大厄災相手に立ち回る為には兎に角データが欲しい。その為にはトッコーの研究機関が今のように無知なままじゃ困るのよ」

 

人間は何処まで行ってもその強欲さを隠せない。とても優秀程度の人材がビアーの知らないところで暗黒大陸へと挑戦しそのまま全滅するならまだしも、人間界に厄災をホイホイと持ち帰られては流石のビアーとしても堪らないのだ

 

しかし研究機関が厄災について解析を進め、厄災への対応マニュアルを作成出来たならいつか来る植民政策(ビジネス)の折に人類がついでに滅ぶ可能性を下げる事が出来る

 

「成る程。確かにキミとしても折角持ち帰ったお宝を不理解で扱いが不得手な者に渡すのは口惜しいだろう」

 

「しかし我々は我が国の事ながら把握しているそれらしき念能力の使い手は特殊部隊の隊員などが主です。今から彼等に研究職に鞍替えさせるのは現実的ではありません」

 

「全くもってその通りだわ。畑違いも良いところよ」

 

「そもそも念とは誰にでも覚えられるようなものなのかね?勉学に励んできた研究者を超能力を覚えさせる為と言ってブートキャンプに放り込んだら大半が逃げ出してしまいかねないぞ」

 

「その辺りのキミの見識を聞かせてくれたまえ」

 

(ん~。そこら辺はこの人達も後で調べようとすれば調べられる情報か。高い手にはならないわね)

 

「そうね。一般的な才能の持ち主で基礎を修めるのに1年半から2年。研究とかにも役立てられるようになるのに更に一年未満ってところかしら。修行内容は最初の1年は毎日最低3時間の瞑想としての話とするわね。念は己の内に眠る生命エネルギーを操る技術。最初は兎に角地味な修行から入るわ。それ以降の修行も傍目にはただ突っ立ってるだけに見えるでしょうね」

 

「それは・・・本当に特訓に効果が出ているのかまるで判らないのではないか?」

 

「同じ念能力者なら例え本人が無自覚の段階だとしても成果さえ出ていたなら見て判るから現役の人でなくても引退した人とかを何とか引っ張り出して監督して貰ったりとかで十分だと思うわ。別に格闘技を教えろとかって話でも無い訳だしね」

 

これで『流』や『円』などの高等応用技まで実戦レベルで習得させるとなれば話は違うが、研究者ならば精々『練』と『凝』だけで良い。あとは研究内容に合わせて尖った性能の『発』を研究者同士が話し合ったりして開発すれば十分となる

 

自分だけの最高の固有能力を発現させるのは難しくともビジネスと割り切った集団での能力開発は個々の力量不足を補ってくれるのだ

 

ビアーやその周囲には群を蹴散らす個の力の持ち主が大勢居るが、そんなものは例外である

 

「最初は色々と手探りでしょうし念を使える研究者が育つのに更に1年は最低でも見積もっておくとして発足から形になるまで4年か下手したら5年くらいかしらね」

 

「5年か・・・」

 

「私としても仮に(・・)暗黒大陸へ行くならもうちょっと背が高くなってからの方が好ましいのよね~」

 

(5年もあれば今の成長率で125万オーラは堅いからね。おお!フリーザ第二形態を超えたわよ!)

 

当然超えていない。オーラと戦闘力は別物だ・・・昔のヤムチャなら倒せるはずである

 

「でもだからと言って研究者たちが育つまで(そっち)方面の研究をストップさせるのも勿体ないじゃない?私だって仮に(・・)厄災に挑むなら正確なデータは多ければ多いほど良いし、残りの人生暗黒大陸探索に捧げるとか嫌だから後発組が自力で何とか出来る為の土台作りはしておきたいのよ・・・まっ、仮にだけど」

 

「そうだな。暗黒大陸は不可侵条約が結ばれている。これはただの他愛の無い戯れ言、絵空事だ」

 

室内に何とも白々しい乾いた笑い声が響く。そんな中で自分も含めて自分の部署の部下たちを魔改造されそうなトッコーの課長は胃の辺りがキリキリと絞められるような感覚を覚えていた

 

「そこで研究員が育つまでは研究の特別顧問としてプロハンターを雇いませんか?勿論暗黒大陸に関わる事ですからハンターの中でも信用と研究者としての実績が高い人に秘密裏にって話になりますけど」

 

「秘密裏というがハンター協会に直接話を持っていくのはいけないのかね?なにも窓口で要件を告げるわけでは無いのだ。そちらの会長や副会長はイタズラに話を吹聴する人物ではないと記憶している。適切な人材を送り込んでくれるのではないかね?」

 

「会長はまだしも副会長のパリストン=ヒルは駄目です。あの人裏では他人を傷付けて他人に恨まれる事に幸せを感じる性格破綻者ですから―――今はネテロ会長が遊び相手になってますが、その会長への嫌がらせにこっそり盗んだゾバエの病原菌を散布するくらいやりかねない危うさがある人なんで」

 

(実際そんなすぐに足がつきそうな手段は取らなくても遠回りでイヤらしい何かは仕掛けてても可笑しくない人なのよね。嫌がらせに悪い意味で無邪気に全力だから仮に殺したら彼の人脈やら何やらで事前に仕込んでおいた罠が発動して世界恐慌や世界大戦の時代に突入しましたってなっても驚かない相手だし。もっとも彼は無差別に混沌を振り撒くより気に入った相手をとことん追い込みたいタイプでしょうから意中の相手が居る内は厄災を使ったイタズラはしなさそうなんだけどね)

 

ビアーの忠告にパリストンが有能で人当たりの良い若者としか見ていなかった首脳が思わず固まる。実際にその説明自体は間違ってないのが質が悪い

 

「まぁそんな訳なんで暗黒大陸に関してはパリストンの介入する機会は可能なだけ排除しておきたいんですよね。普通に仕事を振る分には有能でイタズラに耐えられなかった何人かが死ぬか絶望でもする位ですけど、厄災なんて玩具は与えたくはないです」

 

(会長が生きてる間は使わなくても確保だけしといて死んで適当な相手が見付からなかったらばら蒔くとか有りそうなのがね。原作だと会長の息子が居る中で世界中にモンスターを解き放とうとしてたのを見るにビヨンド=ネテロはお眼鏡に叶わなかったみたいだし)

 

アイザック=ネテロはもう120歳を超えている。原作のように対キメラアント戦で死なずとも後20年もすればパリストンのイタズラなどで死にそうではあるとビアーは考えていた・・・十分過ぎる程バケモノである。なんなら静かに余生を過ごすなら後30年は生けそうである。人間でありたいならさっさと逝け

 

「成る程、ハンター協会が一枚岩ではない事は分かりました。では貴女個人の伝手で紹介できる人物が居るという訳ですか?」

 

「ええ。私と同じトリプルハンターかつ医療系で頭脳派。バランスタイプでギャンブルもしないモラリストでマニュアリストなチードルさんです。彼女なら医療以外の研究者な念使いも知ってるでしょう。私は一応ルーキーなので伝手も大した事ないんですよね」

 

トリプルハンターの名を気軽に出す三ツ星(ルーキー)が居るか!―――彼等の想いは一つとなった

 

ビアーとしては面倒事はチードルやミザイストムやボトバイに投げとけば良いや、という投げられる側からすればブチ切れ案件である

 

(チードルさんもぶっちゃけバショウセン関連で医者の彼女でなきゃやれない仕事なんて残ってないし、こっちの仕事に顔を出して貰いましょうか。なんか前回殺意MAXだったけど、V5のトップの連名と云えば真面目な彼女は何だかんだで断れないはずだしね)

 

連名と伝えた瞬間にチードルが犬の如くキャンキャン吠える未来が今確定した

 

「じゃあ取り敢えずここまでの私とのお喋りに価値を付けて貰いましょうか。今度はお金以外で頼むわね」

 

やんわりと牽制を挟んだビアーの言葉に彼等も先に用意した台詞で応じる

 

「先ずトリプルハンターのキミであっても立ち入り禁止区域の一部制限を解除しよう。そしてもしもキミがそこの土地の問題(・・)を解決出来たなら先程の三原水の2倍の値段を支払おう。加えてその後はその禁踏区域の土地や資源も丸々キミに譲ろう。要らなければ利権ごとこちらに売ってくれれば良い。なに被り物をした人間や二股尻尾の蛇が居る程度だ」

 

(な~る。人間界の厄災に挑みたい時に挑んで良いよって事ね。私が功名心やチャレンジ精神の持ち主ではないと見込んでの権利って訳だ)

 

人間界に持ち込まれた五大厄災の対処法は基本として厳重な隔離だ。その為に必要な土地も設備も維持費もバカにならない

 

人間界でも犠牲者が見付かっていたパプ(萎びて軽くなった人間が嵐で遠くに運ばれた)やアイは兎も角としてそれ以外の所在の把握と隔離には一応成功しているのである。その中でも研究所という非常に限定された空間に閉じ込めて研究サンプルと出来たゾバエ病はある意味で成功とすら言える

 

逆に云えば所在不明の一つであったパプの討伐は金額に換算すれば更に倍額(8000億)を支払っても良いくらいの偉業なのだ。むしろ1ヶ国辺り1600億ジェニー程度で人間界の厄災を処理できるなら安過ぎるくらいである

 

暗黒大陸の案内人が過去に人間界に持ち帰らせた厄災は『戒め』とされているが、ビアーは同時にそれを『課題』だと捉えている

 

あわよくばビアーに他の厄災を消して貰おうという一見V5側のイヤらしい人間臭さが鼻に付く報酬だが将来的に暗黒大陸に行く時はその前に人間界の厄災を本番前の小テスト感覚で狩れたら良いと思っていたビアーからすれば実はかなり良い条件なのだ。無論狙って提案した訳ではなくただの偶然である

 

「次にこれを―――」

 

そう言いながら差し出されたのは5枚のカードだ。一枚一枚デザインは異なるが上質かつ上品なモノであると一目で判り、更によく見ると5ヶ国それぞれの国花や国鳥、象徴的な土地や建物などがモチーフとして描かれているのが判る

 

「それは首脳陣(われわれ)に直通とまではいかんが外部からの連絡で最も優先的に処理すべきものとして扱われるものだ。首相、大臣クラスの政府高官やそれと同等と判断した者だけが扱える―――カードにはハンターライセンスと同等以上のセキュリティが盛り込まれている。なにか困ったことが有れば遠慮なく相談すると良い。可能な限り力となろう」

 

要するに超高価な会員制テレフォンカードのようなものである。どう考えても気楽な相談には使えない代物だがV5のトップに対して何時でも使える『おねだり権』と考えれば普通に破格である。ビアーとしても今すぐ使う事はないが何かが起きた時の後ろ楯や奇策としては十分機能するだろう

 

ビヨンドやパリストンと将来的にぶつかる可能性がある以上はこれも悪くない手札だ。活用次第では白紙の小切手の何倍もの価値となる

 

(あの害獣たち早く誰か狩り(ハント)してくれないかしらね。ジンさんくらいでないと適切な駆除(ハント)は不可能っぽいけど―――カードの方はその時(・・・)が来たなら使いましょう)

 

内心愚痴も呟きつつビアーは差し出されたカードを受け取る。それはそのまま了承のサインだ

 

「じゃあ最後にコレについてね」

 

ビアーがそう言って取り出したのは書類の束だ

 

「コレはパプについての資料よ。事前に渡したレポートには念に関する部分が抜けていたからこの資料を加えて完成品ね。本当はもっと後に提出する予定だったけど、念能力者の研究員育成に前向きとなった今のあなた達には売り付ける価値が有るわ―――パプの被害者から無尽石が採れた以上将来的には犯罪者とかをモルモットにした実験でもする気は有るんでしょう?それこそあえてパプを捕まえて人間界に連れ帰る事すら選択肢の一つに入っているはずよね。そこら辺の話し合いはそっちで存分にすれば良いけど、精々慎重に慎重を重ねる事ね―――で、欲しいかしら?」

 

ビアーがレポートを指先でトントンと叩いて存在を主張する。パプの死体自体は既にV5の持ち物だがそこから得られるのは当然死体に残ったデータのみ

 

実際に生きてる状態のパプと直接相対したビアーのレポートは今の人間界では決して入手出来ない貴重な資料だ

 

ビアーを除く全員の視線が彼女の手元の資料に注がれる。その瞳には欲しいと云う意思が雄弁に映されていた

 

「OK. それじゃあそっちに決めさせてばかりも悪いし最後はこっちから貴方達に報酬を求めさせてもらうわね」

 

ビアーの言葉に各国それぞれの代表たちの緊張の度合いが跳ね上がる

 

パプのデータは厄災(リスク)希望(リターン)の双方を内包するモノであり、加えて言えばビアーが命懸け?で入手した情報でもある

 

大抵のモノは自力で入手可能な彼女が態々(わざわざ)自分たちに求めるものが何なのかを計りかねているのだ

 

周囲を見渡すビアーは微笑みこそ浮かべているがその瞳は(まさ)しく捕食者(ハンター)のソレであった

 

 

 

V5との緊急サミットを終えたビアーは再びグリードアイランドに入島し、仲間達との再会を果たしていた

 

案内役のカストロは元ハメ組たちの稽古の途中だったのでビアーにお伺いを立てた後に彼等の元に呪文(スペル)で飛んで行った。なんでも今は讃美歌(作詞作曲カストロ)を(うた)いながらのマラソン『練』習の最中のようで基礎体力とオーラ量と肺活量とマルチタスクも同時に鍛えられる方法らしい

 

歌詞を知らないビアーはカストロは音楽が好きだったりしたのかな?と場違いな事を思いつつ深くは考えないでそのまま送り出してしまったようである

 

「お帰りビアー。ちょっと時間掛かったみたいだけど、やっぱり色々聞かれたり検査されたりとかしたの?」

 

「まぁね。最悪年内には帰れないかもとは思ってたからさっさと検査を終わらせてくれた医学の進歩に感謝だわ」

 

「大げさだな~。五大厄災ね。まっ、オレは興味ないけど」

 

本人は知らぬ事だが五大厄災の一角である『アイ』が憑依した『弟/妹(いもうと)』を溺愛しているキルアが頬杖をついて適当に流す

 

「しっかしビアーでさえ腕を失くすちょっとした軍隊規模じゃ話にならんようなやつがわんさか居る魔境にお邪魔しようとか過去のV5や冒険家連中は夢見過ぎだぜ。行って大したもんなかったらどうすんだ?―――いや、広大な土地ってだけで国が狙うには十分か」

 

「浅慮に過ぎるぞレオリオ。我々の住む人間界ですら日々様々な発見が有るのだ。何もないなどと考える方が愚かしい。それにこっちの世界にも外の世界を記す遺跡、遺物は確かに存在している。その中に夢を見たくなるだけの情報が残っていたと考える方が自然だ」

 

相変わらず悪意無く毒を吐くクラピカは一度人格矯正プログラムを受けた方が良いのかも知れない

 

「暗黒大陸の事を訊くには皆はまだ少し早いわね。せめて20万オーラくらいないと相性次第でのワンチャンすらも狙えないわよ。あ、レツは合格ね」

 

「相変わらずのオーラ馬鹿っぷりね。まぁ実際暗黒大陸はネテロの爺も昔チラ見しただけで回れ右した場所らしいからね。今のアンタ達じゃ力不足ってのは同意見だわさ」

 

「ん~。ジンがもう暗黒大陸に行ってるって可能性はないのかな~?」

 

父親探しの真っ最中のゴンは困ったようでいて同時に嬉し気な声を上げる。大方難しい方がやり甲斐が有るとでも思っているのだろう

 

「今のところ暗黒大陸行きの申請を出してる人間は居ないはずだから大丈夫なはずよ。ジンさんでもV5からの許可を取って暗黒大陸に行こうとするなら手続きと許可で最低でも5年くらいは間違いなく掛かるだろうしね」

 

「そっか。それなら暫くは人間界(こっち)を探すので十分だね」

 

「でもジンさんは元々遺跡ハンターで暗黒大陸関連の遺跡を見つけてても可笑しくないから興味は持ってるかも知れないわよ。もたもたしてたら人間界から居なくなってるかも知れないから、そこは気に留めておきなさい」

 

「うん。分かった!なんとかその前には見付けてみせるよ」

 

ゴンとしても態々獲物が逃げるのを待つつもりは無いのか改めて気合いを入れている

 

「そう言えばビアー。仮にも五大厄災なんてもの提出()しに行ったなら検査して終わりって事もなかったんでしょう?他には何があったのかしら?」

 

「よくぞ訊いてくれましたポンズ姉!ちょっとV5首脳陣の緊急サミットに出席はしたんだけど、そこでパプの情報と引き換えにコレをもぎ取って来たのよ♪」

 

ビアーが収納バッグから取り出したのは如何にも事務的な一枚の用紙だ。皆がそれを覗き込むとそこにはポンズが正式にビアーやレツの義姉となる旨が受理されていた

 

「見て見て♪V5の首脳陣全員のサイン入り!勿論ポンズ姉のご家族との関係も維持されてる正規の戸籍が二つ在る特殊状態!煩わしい手続きとかしなくて良いように強権発動(はいりょ)したわ!―――ポンズ姉、ゲットだぜ!!」

 

自慢いっぱい微笑みいっぱいで胸を張るビアーを前にポンズ以外の全員が反転ダッシュでその場から消え去り、唯一ビアーに微笑み(極寒)を返したポンズはビアーに問い掛ける

 

「ねぇ。ハンター10ヶ条その4の前半部分を今言ってみなさい」

 

「?ハンターは同胞たるハンターを標的にしてはいけない、だよね?」

 

ビアーの答えにポンズは笑みを深くしながら頷いた

 

「ビアー。お義姉ちゃんからのお願い、聞いてくれる?」

 

「!?うん!なんでも言って!全力で叶えるから♪」

 

前のめりになるビアーの手の上にポンズは【帽子の中のワンルーム(マジカルハット)】から取り出したダース単位で束となったダイナマイトを乗せて導火線に火を着ける

 

「これから先、『纏』までなら許すわ。これは狩りじゃなくて折檻よ」

 

「え、ちょ、待っ、そうだ!じ、実はポンズ姉にはグリードアイランドの最後の報酬枠をあげようと思ってて―――」

 

「そぅ―――爆ぜなさい」

 

モノでご機嫌を取ろうとしたのも虚しくその後暫くの間連続した爆発音が響き渡り、日付が変わる頃にレツ達が恐る恐る様子を見に戻るとそこには全身ボロボロで首から『私は私欲に目がくらんだブタです』とデカデカと書かれた木の板をぶら下げたビアーが正座させられていた様子が目に入り、今度はソッと(きびす)を返したのだった

 

 




強すぎる欲は身を滅ぼす・・・

ポンズがビアーに渡した爆弾は神字強化済みです
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