レツと昼食を食べた後、彼女が選んだ公演場所で2回程人形劇を観賞する。レツの芸も流石にジャグリング一辺倒って訳じゃなかったみたいなのでどっちも楽しむ事が出来た。今はレツが私にこの町を案内してくれると言って劇を少し早めに切り上げてくれて市に向かって歩いてるところだ
「あんな風に町中でショーを披露する時なんかは開演する場所とタイミングも結構重要なんだよ。たとえ人通りが多くても主に仕事なんかの移動に使われるような場所では当然立ち止まって観てはくれないし、それでも時間帯によっては同じ道でも客層が変わって足を止めてくれる場合も有る。活気のある大都市なんかだと見物してくれるような人達が常に入り乱れるような場所も一つくらいは有るんだけど、そういう場所はライバルも多くなるから実力勝負になり易いんだよね。逆にこういう小さめの町だと同業者と鉢合わせる事は少ない代わりにさっき言った場所とタイミングの見定めが必要になるんだ―――お客さんの絶対数が少ないのにそこを間違えると悲惨だからね」
ほへぇ~、ただ単に大道芸の腕前だけを磨けば良いってもんじゃないのね。客層と動向を肌で感じる必要が有るってか―――やっぱりその道を歩んでる人の生の声は色々と参考になるね
「成程ねぇ・・・そこに『人』が居る事と『客』が居る事は似ているようで違うって事ね」
「うん、そういう認識で良いかな。全ての『人』が思わず『客』になってしまう程のパフォーマンスを出来れば良いんだけど、それが出来るようならそもそも路上じゃなくて特大のステージの上に立ってるはずだからね・・・もっとも、人形師は如何しても派手なパフォーマンスが出来ないから大きなステージとは相性が悪いんだけど、一昔前とは違って今はテレビとかも普及してるから僅かずつでもボクたちのような『小さな劇団』にも日の目が当たり易くなっては来てるんだ」
確かに人形劇や一見細々としたマジックなんかはリアルタイムでステージ背後の巨大スクリーンに投射するとかしないと、その場の観客も最前列付近の人達しか盛り上がれないし、テレビの前のお茶の間の皆だって観客が"ワッ"と驚く声とかが無いと如何しても臨場感を感じづらいからね
「それとボクは大道芸もやってるけど、同時に人形作りもやってるからね。実はボクが今使ってる人形もボクが作ったモノなんだよ」
「へぇ!それは驚きね」
「むっ・・・それはボクがそんなに器用に見えないって意味?」
あちゃ~、勘違いさせちゃったのか口元を尖らせてこっちを見てくるわね
「そうじゃなくってその人形はとっても"オーラ"が籠ってたから名の在る人形師が作ったのかと思ってたから、レツの作品って事に驚いたのよ」
「っ・・・オーラ?」
おっ、ちょっと反応したって事はレツの兄に対して警戒レベルを引き上げておく必要があるかな
「骨董品とか名品とかは作り手の意思が宿るなんて言ったりするけど、そう言う品物を目利きするのもプロハンターの特技だからね」
基本的に念能力が使えない人でも所謂職人的な人達は、作品を作る際に極度の集中力をもってして『想い』を込める事で垂れ流しの生命エネルギーがそれに引きずられて物品に注ぎ込まれたりする
今年で言えば私やカストロさんのように以前から念の存在を知っている人は例外として、新米のプロハンター以外は念を習得している為に物品にオーラが宿っていたらそれが見えるのだ
オーラを視る事だって立派な目利きでしょう
勿論それは微弱な為に基本は目にオーラを集中させる『凝』でもってやっと見えるくらいだけど、私は態々目に集中させなくてもオーラを高めれば自然と見えるからね・・・と言うか『凝』や『流』を使わないって決めてるから使えないと言うのが正しいんだけどさ
「―――でもボクは無名で人形の出来も決して大手を振って自慢できるものじゃ無いんだよ?ビアーの目利きってホントに当てになるの?」
ゔっ!結構痛いところを突いてくる―――確かに情熱と才能が必ずしも合致するとは限らないのよね・・・原作の目利きの人みたいに。それでも無意識にオーラが籠る程の集中力で作られたモノが大抵は名品であるというのも事実なんだから
「それはまぁ将来大成する人の未熟な頃の作品でも同じことが言えちゃうから・・・ほら!レツはその人形を丹精込めて作ったのは間違い無いんでしょう?」
「・・・うん、そうだね。以前から人形の事は好きだったけど、
むぅ?どことなく気に掛かる言い回しね・・・心境の変化とはまた違うのかな?
「さぁビアー、着いたよ。此処がこの町の港・・・と言うか船着き場だよ」
おー!主に食材関連と主婦の皆さんが集まってるね。この世界の食材って見た目がちょっと個性的な物が多いから加工前の鳥とか魚とかが吊るしてあったりするとそれだけでも結構面白い
うわっ!あの魚とか大きい図体の腹の部分にエビの足みたいなのがくっ付いてるんだけど、アレで水底を歩くの?泳げるのに?水中限定の水陸両用なの?まだアレで小さかったりするならコッソリと移動したい時に足を使ってるとか有るんでしょうけれど、隠す気ゼロの巨体じゃない
だけどそうして周囲を見渡していると一際奇妙なものが視界に入り込む
なにアレ?遠くの山に不自然に巨大な真円が開いてるんだけど―――標高千メートルは有るとして、その半分の直系五百メートルくらいの大穴が開いてるとか如何考えても可笑しいから!
なにか巨大生物とかが削ったりしたのかな?この世界って今いる人間界でも前世の地球基準で見たら『ここは・・・デカすぎる・・・!!』って感想を持てるくらいに巨大な生物や環境が揃ってるからね。ゴンが最初に釣り上げてた沼のヌシとか、原作ハンター試験の第一次試験後半で走ったなんとかって湿原に出てきた人間を丸のみに出来るカエルや亀に、他にも人一人乗せられる水に浮かぶ植物のオオオニバスとかこっちの世界だと町が乗るサイズのが幾つも生えてる秘境が有ったりするらしいし、ホントに暗黒大陸とかどんな魔境なのかって話だ
「ビアー、あの山を見てるの?面白い形だよね。実はあの山の穴って時期にもよるけど丁度夕日が穴の真ん中に重なって見えたりもするから、実は結構な名所なんだよ。山の反対側の町からなら逆に朝日があの穴と重なったりもするみたいだしね」
「それは見応え在りそうだけど、レツはあの穴が如何やって出来たのか知ってる?」
「ゴメン。それは知らないや。『そういうもの』だと思ってたから・・・ビアーはあの穴が如何やって開いたと思うの?」
確かに、最初からそこに存在するものに対して人って中々疑問を抱けないからね。この世界の住人なら猶更だ
「う~ん。さっきは巨大生物が時間を掛けて開けたりしたのかなって思ったりもしたんだけど、それにしては人工感が凄いし・・・誰かが修行で山をサンドバッグ代わりにした結果じゃないの?」
それならやってる内に綺麗に整えようって気持ちが湧いて来てたとしても不思議じゃないしね。人間って妙な事に凝ったりしたくなったりするものだし
「いやその推理は可笑しいからねビアー!?確かに達人とかはちょっとした岩を砕いたりとかも出来るみたいだけど、あれだけ大穴を開けるとか人生費やしても出来るか如何か怪しいからね!?」
そんな事は無いと思うんだけどなぁ・・・今の私の本気のパンチ一発で半径十数メートルのクレーターは出来るんだよね
※アニメのウボォーの【
だから多分パンチを円の中に満遍なく1000発も打ち込んでいれば壁の薄い山の上層部は貫通し始めるだろうし、3000~4000発も打ち込めばあの大穴を再現出来るんじゃないだろうか?だから2~3日在れば確実にやれると思う
肉体への怪我や反動を無視して凄く無理すれば丸一日でなんとかなるかも知れない
「―――うん!やれるっ!!3日も在れば余裕だねっ!!」
「やれないからね!なんでそんなに確信に満ちた眼をしてるのさ?キミの瞳には一体どんな世界が見えてるの!?」
どんな景色って
「―――”キノコ雲 未だ届かぬ 高みかな”」
「なんで突然俳句風なの!?って言うか季語が入ってないし、ただの心象じゃないか!」
マイナーなジャポン文化の俳句なんてよく知ってたわね。それにしてもさっきからツッコミばかりしていて疲れないのかな?
「誰のせいだと思ってるのさぁあああああっ!!」
レツが頭をブンブンと振りながら遠くの山に向かって吠えてるけど、そんなに激しく動くと帽子落ちちゃうんじゃない?
▽
時刻は夜の
「はぁあああ・・・なんて言うか、今日ほど精神的に疲れたのは初めてだったよ」
そのレツはテーブルに顔ごと突っ伏してぐったりしているわね
「・・・訂正。肉体的にもスッゴク疲れた。なんで「じゃあ今からあの山の穴まで行ってみましょっか!」の一言からボクをお姫様抱っこで駆け抜けるの?地平線って大体4~5km先まで見えるんだよ?往復で20分くらいしか経ってなかったとか、道中ずっと安全装置の無いジェットコースターに揺られてる気分だったよ」
「ふふっ、それはゴメン。やっぱり一人で景色を見るよりは、友達や知り合いと一緒の方が良い思い出になるからね。それにレツの体を気遣ってアレでも速度は抑えたのよ?多分車の法定速度くらいは遵守してたと思うわ―――具体的には時速60kmくらいかな」
4~5kmと言っても直線で走った訳でもないし、そんなものでしょう
「・・・・・プロノ、ハンターッテ、スゴインダネ」
レツが突っ伏していた顔を上に上げて星空を眺めながら、更に遠くに在る宇宙の真理的なモノを見つめるような顔をしている・・・ちょっとやり過ぎたかな?
「それで、如何だったかな?私はレツのお兄さんを
「っえ!?」
呆けていたレツにいきなり核心に突っ込んだ質問をぶつけると彼女のハイライトが消えかけていた瞳の色が一瞬で輝きを取り戻す
「ど・・・どうして・・・?」
「如何してかって言えば昼間にレツの最後の呟きが聞こえてたからで、山の往復は景色を楽しむのと同時に私の力を示すパフォーマンス・・・それで最後の確認なんだけど、レツはお兄さんを如何したいのかなってね。お兄さんには大事にされてるみたいだし、家庭の問題は複雑だからレツを尾行して動向を探ったりしても本音までは分からないからね。だからレツは如何して欲しいのか、こうしてストレートに訊ねるのが一番かなってね」
そんな複雑な話なら少し情報収集した程度じゃ収穫なんて見込めないからね。諸々の細かい話をしたいならそれはハンターじゃなくて弁護士とかの仕事でしょう
捕まえるか、捕まえないか。私が知りたいのはその2択だけだ
「そ、それは・・・ボクに確認を取るような事なの?ボクの兄さんが犯罪者ならただ捕まえればいいだけなんじゃ?」
「別に私は多少自分を囮にした程度で積極的に犯罪をハントしてる訳じゃないからね。レツの呟きを軽く聞いただけで証拠も何も無い訳だし、目の前で思いっきり犯罪行為をしてるって言うならまだしも、そうじゃないならそこまでよ」
腕っぷしが強ければ必ずしも凶悪犯に立ち向かわなくてはならない訳じゃない。それは警察の仕事だ。ハンターは狩りたいと思った時に狩りたいモノを狩る職業だ
何時か観た映画で『大いなる力には、大いなる責任が伴う』なんてセリフも在ったけど、大きな力はその人の手の届く範囲を広げるだけものだ。実際に手を伸ばすかどうかはその人が決めれば良い
ヒーローなんてボランティアと一緒だ。次の日に突然辞めたとして、そこに『責任』なんて無い
「それにね、レツ。さっきも言ったように私はまだ具体的な事は何も知らないの。つまりは・・・何が言いたいかって言うと」
私はレツに思いっきり顔を近づけてイッちゃってる目を作りつつ指を一本立てて宣言する
「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ!」
「それって多分犯罪を起こす側のセリフだよね!見逃す側のセリフじゃないよね!?」
本日何度目になるか分からないけど、今回も彼女の叫び声が周囲に木霊するのだった
最後のはニコニコ這いよる混沌さんですねww
レツという常識人のおかげで主人公の頭のネジを外しやすくなりましたね。やはりボケにはツッコミが居ないとww
オオオニバスはアニメOP前の冒頭部分にチラっと出てたましたね