毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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潜入と名付け

キメラアント編が既に始まっていると不意打ちで情報を叩き付けられて早速出発しようとした瞬間に異常気象の悪天候の影響で足止めを喰らった私達はようやく再びフライトの日を迎えた

 

「東ゴルトー共和国へ行きましょう。多分そこに例の生物が居ると思うわ」

 

私はここ数日でハンターライセンスの権力をフル活用して得た情報を皆に伝える

 

・・・うん。なんで東ゴルトー?

 

「なぜ東ゴルトーなんだ?」

 

カイト(さん付けしたら呼び捨てで良いと言われた)が理由を訊ねてくるけど私とは疑問符の意味が違うわよね

 

私の方の疑念は一旦置いておくとして一先ずカイトの方の質問に答える

 

「例の生物・・・まぁ推定だけどキメラアントとするわね。それが運び込まれたヨークシンに問い合わせて発見場所の情報を提供してもらったのよ。場所はヨークシンから更に南に下った所で小さい島々が数多く存在するバルサ諸島近辺。あそこは島々の影響で海流が複雑怪奇だからキメラアントはあそこの何処に流れ着いても可笑しく無いわ。ここまでは良い?」

 

情報過多に弱いゴンもまだ頭から煙を上げてはいないわね

 

「ちょっと待ちな。腕の発見場所がヨークシンの南なら本体もそこに居るんじゃねぇか?」

 

レオリオからの指摘はもっともだ。だけどそれは今考えを巡らせるべき項目じゃない

 

「そうかもね。でもその場合は打ち上げられた後に力尽きてる事になるわ。生きた女王蟻が活動してたらとっくに騒ぎになってるはずだからね。気にすべきは腕の持ち主が生きててまだ発見されてない場合。その時は腕と本体が別れたのは別の場所に打ち上げられた直後に腕が落ちて漂流したか、もしくは漂流中に千切れて別々の場所に打ち上げられたかね。後者の場合はそれこそバルサ諸島どころか人間界の何処に流れ着いても可笑しくないけど、あんまり早くに千切れたならとっくに魚のエサになってるだろうし、今回はバルサ諸島に絞って考えるわ」

 

そろそろゴンの瞳から光が消えてきたわね。もう少しだからパンクしないでよ

 

「成る程。バルサ諸島ならば例え人も喰えるキメラアントの女王が流れ着いても情報が漏れる事の無い国が二つ存在している。一つは東ゴルトー。もう一つはNGLだ」

 

「確かにな。あの排他的閉鎖国家たちならアウトブレイクするその瞬間まで国外に情報は流れないだろう。だがそれだとどちらかは決定出来ないのではないか?」

 

クラピカが答えを二つに絞るけどカイトはNGLの可能性を棄てて東ゴルトーだと決め付けた根拠を知りたいみたい

 

レツ達とカイト達の認識の違いがここに出る。相変わらず情報が外に出ないNGLだけど、唯一の例外(?)がここに居るからね

 

「私はNGL相手なら内情を知れるツテを持っててね。巨大昆虫や人喰いの化け物が出没()てないか訊いてみたけど、今のところそんな話は無いみたいよ」

 

「・・・NGLでは去年犯罪組織の摘発という名の大規模な政変が有ったとは聞いていたが、もしやその時に?」

 

「ええ、あそこは今、ちょっと過激な機械文明アレルギー国でしかないからカイトも私が紹介すればそれなりの関係を築けると思うわよ。ただ金歯とかメガネとかボルトとか、その人に必須の化学製品を身に付けてる人は入国出来ないけど大丈夫?」

 

「オレは問題無いが仲間達全員が条件をクリアするのは難しいだろうな」

 

カイトが彼の仲間達の方を向くとそれぞれが肩を(すく)めたり首を横に振ったりする

 

「私は無理。銀歯入ってるから」

 

それだけ何時もガム噛んでればね。むしろ銀歯取れない?

 

「同じ理由で僕もダメそうだね」

 

ホテルの食事美味しそうに沢山食べてるガッツリ体型だもんね。子供の頃は歯磨きを少しでも怠るとすぐに虫歯になったりするからね

 

「私はコンタクトなんだけど、やっぱりコレもアウトよね?」

 

コンタクトレンズも化学製品でアウトです

 

「なになに?こっちのメンバーじゃ大丈夫そうなのオレっちとカイトだけだったりする?」

 

カイト以外だとアフロヘアーのスティックさんしか入国条件付きクリアしてないみたい。ただそのアフロが染めたものなら染料を落とすか自然由来のやつに染め直してね

 

逆にこっちはレオリオがメガネを掛けてるけど、彼は裸眼でも普通に見えてて度数は低いメガネらしいので外しても問題はないのよね

 

実際修行中もメガネは外してたし、近眼じゃなくて軽い遠視らしいからあくまでも勉強とかで本を読んだり携帯の小さな文字を追う用のメガネだ

 

「まっ、NGLに関してはそんなところで一応早馬を走らせて貰ったりもしたけど今現在まで異常無し。逆に東ゴルトーは沿岸線で告知無しの軍事演習が行われているそうよ。ついでに出入国の制限もいきなりキツくなってるみたい何だけど、皆はどう思う?」

 

「そいつぁ黒だな」

 

「黒だろう」

 

「ぜってー黒」

 

「う~ん。黒かな~」

 

「黒でしょうね」

 

ぶっちゃけ軍事演習とやらでそのままキメラアントを殲滅してくれたら楽なんだけど、東ゴルトーの無能なディーゴ総帥が他国に気取られるレベルで軍を動かしているって事は既にキメラアント側も軍隊規模になってるはずなのよね。最低でも師団長は出揃ってるでしょう

 

「ならば東ゴルトーとキメラアントが殺り合っているとして、どうなると思う?」

 

「そうね。師団長までなら相討ちに近い形になるんじゃないかしら。王直属護衛軍まで孵化(ふか)したら一気にキメラアント側に天秤が傾きそうかな」

 

例え師団長が念能力を覚える前だとしても小銃程度なら自前の硬さだけで防げるくらいには生物としての基礎能力が違うからね。バズーカや大口径ライフルとかいきなり戦場に大量投入とか出来ないし、体勢が整う前に相当数の人間が軍・民間問わず連れ去られている最中じゃないかしら

 

だけど護衛軍クラスだと最初から念に目覚めているから通常のキメラアントの師団長と護衛軍以上の力の格差が出る

 

師団長や兵隊長クラス相手に『やれる』と思ってたところに護衛軍投入とか敵が油断してワラワラと集まったところに大型ミサイルぶち込むような事態になりかねない

 

未知の戦力に対して全軍投入とか馬鹿のやる事だけど馬鹿がトップだからね、あの国は

 

一応転生してからニュースとかで確かめた事も有るけど≪完全無欠の新人類。天下無敵の大英雄。世紀の超指導者。全臣民の偉大なる父にして世界の覇王。現代に舞い降りた全知全能の神。ディーゴである!!(集中線)≫とか普通に発言してたヤバい奴だったしね

 

原作で宮殿に押し入ったキメラアントを相手にしてた口上はもっと短かった気がするから侵入者相手にあれでも自己紹介を省略してたんだなってテレビ越しに遠い目をした幼い日を思い出すわ

 

「そうなれば東ゴルトーは晴れてキメラアントの王国となり、息つく暇もなく世界中に王から生まれた新たな女王蟻たちが新天地を目指して旅立つ訳か。そうなれば人類は終わりだな」

 

「そうね。各地に散った後だと対処は難しいからまだ一纏(ひとまと)めでいる内に駆除するのが一番よ。失敗すれば人類滅亡コースね」

 

危険度は五大厄災よりも半歩劣るらしいけど、人類滅亡クラスの半歩手前はもう人類滅亡と言って差し支えないのよ

 

人間を取り込んだなら原作みたいに人間牧場計画でギリギリ全滅はしないかも知れないけど、到底承服しかねる未来ね

 

「・・・重すぎる責任だな。だが見てみぬフリは出来ん。スピン(スピーナの愛称)、バナナ、モンタ、スティック。お前達はリンとポドンゴと合流したら今回はサポートに徹してくれ。猛獣どころではない人喰い怪物の群れに飛び込む事になりそうだ」

 

カイトの言葉に彼等は素直に頷く。今回のハントは戦闘力が無いと危険極まりないと十分理解しているからだ

 

私の仲間達と云えば当然行く気満々だ。世界の危機は全然他人事じゃないし、それぞれが軍隊相手でも張り合える戦力を持っているから最低限の戦力は備わっていると言える

 

そうして飛行船に乗り込んだ私達は日課の修行やカイトとの軽い模擬戦や明かしても良い範囲での固有技の情報交換に東ゴルトーに潜入するルートや潜入後の行動パターンの想定を詰めていく

 

大事なミッションの前に疲労困憊まで修行するのはどうなのかとカイトに最初に言われもしたけどビスケ人形ヒーリングが有るので問題はない。寧ろカイトも体験版修行に漬け込んでやったら「これを毎日?イカれてるぞお前達」と言われた―――解せぬ

 

そんなこんなで今は皆でランチタイムだ。窓の外に広がる青空を時折眺めつつも山盛りの料理たちを胃袋に収めていく

 

「さっきまで踏まれた虫のようだったり文字通りに虫の息になっていたとは思えない食べっぷりだな。吐かないのか?」

 

「うん。もう慣れたから大丈夫だよ。だって吐いたらまた詰め込まれちゃうしね」

 

「ええ。折角鍛えたのに食事で取り込んだ栄養が失くなったら超回復の効果が薄まっちゃうし、下手したら筋肉を分解してでもエネルギーを補おうとしちゃうでしょ?食トレよ食トレ」

 

「・・・普通の食トレではひっくり返って痙攣する胃に食べ物を無理矢理詰め込むような鬼畜な所業はしないと思うがな」

 

大丈夫大丈夫。何事も慣れよ慣れ

 

―――それにしても改めて考えても何で東ゴルトーに流れ着いたっぽいのかな?確かに元々海流が複雑だしNGLと東ゴルトーは同じミテネ連邦内の国で距離もそんなに離れてないけど、なんの理由もなく原作とのズレが起こるものかしら?

 

原作との明確な相違点で云えば真っ先に思い浮かぶのは転生者(わたし)の存在だけどキメラアントの漂流先に影響が出そうな事なんてやってないし、異常気象にしたって原作でも新アニメでも元々描かれていた事だし・・・うん?

 

ふと嫌な予感がした私はスマホで検索を掛ける

 

(軍艦・・・高級ホテル・・・王族・・・竜巻辺りのキーワードで調べて行けば・・・有った!)

 

この世界は最低でも原作と公式と転生者(イレギュラー)が入り雑じってる。そう考えた時に新アニメじゃなくて旧アニメの方に海流に影響が出そうな一大イベントが有った

 

すなわちハンター試験3次試験と4次試験の間に指し挟まったアニメオリジナルの軍艦島編

 

昔の使われなくなった軍艦の有る島を軍艦自体を王族も来訪するホテルへと改装したのは良いけど10年に一度の異常気象の嵐で島ごと水没しかねないといった理由からホテルは閉鎖。丁度その大嵐が来る時に受験者を島に放り出して脱出できるかをテストしてたアレね

 

レツ達からはハンター試験でそんなのが有ったとは聞いてなかったけど、調べてみれば『かつて人気を誇った軍艦ホテルが今や無惨な姿に』って軍艦の操舵室などが有る甲板から上の部分がポッキリ折れてる画像がヒットした

 

つまり軍艦島の特別試験は無かったけど、大嵐そのものは有ったって事ね

 

旧アニメは当然旧アニメ内で物語が完結している。キメラアント編に対する配慮なんて有る訳無いならこれは十分女王蟻の漂流先に影響が出る規模の変化だ

 

竜巻と渦潮が合体強化されて島を呑み込む高潮発生とか一年後にバタフライエフェクトが起こっても可笑しくはない

 

まぁバタフライと呼ぶには蝶の羽ばたきどころの規模じゃないけど、短期間で海流に干渉するレベルの『公式』由来の違いはそれくらいしか思い付かないわね

 

もっともこれも妄想に近い推論だけど、事実としてキメラアントの女王蟻が人間界まで流れ着いている今となってはこれ以上気にしても仕方無いか。切り換えて行きましょう

 

それから少しばかり空の修業(たび)を過ごした私達は遂に東ゴルトー共和国の空港にたどり着いた・・・なんて事は当然ない訳でその隣の国の西ゴルトーに先ずは到着した

 

ほぼ鎖国状態である東ゴルトーの直通便なんて一部の政府高官とか専用のもの以外に有る訳ないので不法入国するしかないのよね

 

平時で時間が有るなら賄賂とかでの平和的?入国も出来るでしょうけど、生憎急ぎの今はツテを探してるような暇は無い

 

西ゴルトーでは元々腕の発見場所で調査を進めていたカイトの残りの仲間で大きなメガネとドモリ口調のリン=コウシと何処かの民族衣裳を着た黒人女性のポドンゴ=ランポイと合流して予定通りスピン達には情報収集をメインに動いて貰うものとしてそこで別れた

 

そこから私達は静かに息を潜めて国境の警戒網を掻い潜りコソコソと首都ペイジンの方に慎重に歩を進めて・・・なんて事は無かった

 

ブブブブブブブッ!

 

今は無機質ながらも沢山物が置いてある倉庫のような場所で各々がオーラを消費しながら筋トレの真っ最中だ

 

ブブブブブブブッ!!

 

勿論絶賛移動中なのは変わらない

 

ブブブブブブブッ!!!

 

うん?ここは一体何処かって?この多くの物資と痺れ槍蜂たちが飛び交うこの空間はポンズ姉の【帽子の中のワンルーム(マジカルハット)】の念空間なのである

 

ブブブブブブブッ!!!!

 

・・・うん。こっちがお邪魔してる身だから仕方無いけどちょっと羽音がうるさいわね。ポンズ姉なら大人しくさせる事も出来るけど、長時間無駄にストレスを与えるのも悪いから蜂たちには自由に過ごして貰ってる

 

ポンズ姉の【帽子の中のワンルーム(マジカルハット)】の念空間は本人の成長と帽子の新調に合わせて拡張し、今や当初の10倍の広さが有るからね

 

ポンズ姉自身が帽子の中に出入り出来るなら重たい物や大きい物も出し入れ自由だし

 

「それにしてもポンズの帽子が人一人余裕で出入り出来るくらいに縁が広がる伸縮性を持ってるなんてな。ド○えもんの四次元ポケットに出入りしてる気分だったぜ」

 

「羊毛は元々伸縮性が高いからね。それにキルアも知ってるように神字とかも組み込んで予算度外視で作ったから何もしなくても拳銃程度なら問題なく弾けるし、オーラを流せば中型車くらいなら入れ込めるくらいには帽子の穴を伸ばせるよ。ポンズのオーラでも頭に限定すれば対物ライフルも小石が軽くぶつかった程度の衝撃に抑える事が出来ると思う。他にも焚き火に放り込んでも燃えない耐火性や大雨でも濡れない撥水性に湿地で活動しても蒸れにくい除湿性を両立させたり【帽子の中のワンルーム(マジカルハット)】の念空間の安定化で維持コストを削減させたりと、これでもかって位には機能をてんこ盛りにしたからね。我ながら良い仕事したと思ってるよ」

 

その通り!それに費用は全額ネテロ会長持ちだしね―――あれ?結局(カンザイ)が代わりに支払ったのかな?まぁどうでも良いか

 

「・・・手編みの帽子の可能性を見たぜ」

 

「神経までも縫い合わせる精密極まる編み物さばきで文字と認識するのも難しいサイズの神字を隙間無く縫い込んでいたからな。他の者が真似しようとしても普通は無理だろう」

 

今回のレツのように神字を書き込むのに応用出来る突出した技能や『発』を持ってるか、もっと直接的に神字の性能を底上げする『発』の持ち主でないと無理でしょうね

 

「どうやらオレと違ってお前達の能力は使い勝手が良さそうだ。この空間もそうだがまさか帽子をあのアリスタと言う三叉槍大蜂(トライデント・ビー)に運ばせるとはな。それもビアーの分身も一緒なんてオマケ付きだ―――リースと言ったか。完全に自立した精神を持った人形など破格も良いところだな」

 

今この空間にはポンズ姉を含めて潜入組は全員集合している。その念空間の出入口である帽子そのものを外でアリスタが運び、万一の時の為の護衛と偵察を兼ねてマスコットサイズのリースがアリスタの背中に乗って移動している状態だ

 

もしもこの念空間の出口から外を見ようと顔だけ覗かせたら巨大な蜂が人間の生首を運んでいるかのようなショッキングな光景として見た者の網膜と記憶野に焼き付くでしょうね

 

間違いなくトラウマ案件でその後数日は夢に出るレベルよ。もっとも一般人に見られるようなヘマはしないけどね

 

こうして移動と修行を平行でギリギリまで進めていく。オーラは例え1オーラでも多いに越したことはない

 

1オーラを消費するのに基本が1秒なら私の全力パンチを追加で10数発は打ち込めるからね。戦闘中でオーラの消費量が高いのを考慮しても2~3発は固い。つまりはキメラアントの師団長2~3匹分の命くらいは刈り取れる

 

オーラは増えれば増える程に1オーラ辺りの価値が高くなっていく素敵仕様ってな訳よ

 

これだからオーラ中毒者(ジャンキー)は止めらんないわね!

 

 

ビアー達が東ゴルトーに潜入するより前。それこそまだグリードアイランドでツェズゲラチームと試合を行うよりも以前にその生物は東ゴルトー共和国のとある海岸線に打ち上げられた

 

人間界より遥か彼方。暗黒大陸より流れ着いたキメラアントの女王蟻が未だに生物としての原形を留めていたのは首を切り離しても数日は死なないとされる強靭な生命力に依るものではなく、一重に彼の者の持つ『運』と云わざるを得ない

 

キメラアントの女王は生命力こそ高いが決して頑丈な訳ではない

 

暗黒大陸において五大厄災に近い危険度と評されるキメラアントだが、新しく産まれる女王蟻は進化の系譜がリセットされて暗黒大陸では文字通りに蟻レベルからのリスタートとなる

 

そのような『外』では最弱状態の女王蟻が海上でも激しい生存競争が繰り広げられるメビウス湖を漂い、魚(特大)のエサとも鳥(特大)のエサとも成らずに人間界に生きて漂着すると云うのはジャンボな宝くじの一等を幾度も連続で当選させるようなゼロにも等しい奇跡的な運が必要となるのだ

 

だがキメラアントの女王の運はそこで尽きる事は無かった。もしも彼女が漂着した先が原作と同じくNGLであったならビアーがグリードアイランドに籠っていた事を差し引いても既に討伐されていただろう

 

何故ならば現在のNGLにはボトバイが手配した生態調査や地質調査といった仕事をしに来ているハンターが少数ではあるが常駐している状態だ

 

加えて外部とのやり取りをするNGLの職員もいざと云う時にビアーと連絡が付かない場合はボトバイへの連絡手段も持っている

 

国民に多少の犠牲は出るだろうが早期に殲滅に動いて王どころかその下の護衛軍が孵化する前に決着となっていたはずだ

 

(ひるがえ)って東ゴルトーはどうか?

 

武器の類いを持つ事を許されていない村人が初期にあっさりとエサとなり、なんとか政府に助けを求めるも人拐いの異形の化け物の出現を信じて貰えず幾つかの村や町が犠牲となってから軍も動きを見せるが他国に気取られないようにする為となにより侮りから戦力を小出しにする

 

軍人が少なく、小火器程度が相手ならば念無しでも十分優位に立てる師団長クラスがそこそこの数が揃う事で被害の拡大は止まらず本格的に軍を演習と云う名目で大きく動かす頃には師団長の数も半分以下まで削られるが、代わりに生まれた瞬間から念を扱える王直属護衛軍の孵化まで秒読み段階となるのだ

 

見栄と高慢と油断が重なりあう事で本来キメラアントを殲滅し得るだけの国家武力が機能せず、キメラアントに一番与えてはならない『時間』を提供してしまうのであった

 

「うにゃ~。起きて早々城の外が騒がしいにゃ~。これじゃあ女王様が安心して王様を産めないにゃん」

 

キメラアントの巣は地上に突き出る蟻塚タイプであり、2メートルを超える女王蟻を囲うその巣は正しく城と呼ぶに相応しい大きさとなる

 

もっとも本来蟻に巣はまだしも城などといった概念は無いが、人間を数多く取り込み生まれたキメラアントは個体差こそ有れ人間時代の記憶ないし知識を継承しているのだ

 

今、巣の外から爆発音や発砲音を耳にしながら繭から目覚めた王直属の三戦士の内の一匹は殆んど人間に近い姿で猫耳と尻尾を揺らしており、猫耳カチューシャと付け尻尾の逆に手のこんでない猫娘なコスプレと言われた方が納得がいく姿だ

 

直属護衛軍の一つ下の階級である師団長の大半が『混合獣(キメラ)』と呼ぶに相応しい異形をしている事を思えばどれだけ多くの人間を素材として注ぎ込んだのか窺えると云うものである

 

産まれたばかりの軍団長がなんとなく出来そうだと外に意識を向ける事で広がった『円』はまだ名前も無い彼女に城周辺の状況を把握させ、同時にその領域内に居た兵隊達の動きを蟻も人間も関係無く硬直させた。悠長に念に目覚めるヒマの無かった師団長達も同様である

 

(うにゃ?いきなり全員の動きが止まった?まぁ良っか。女王様への供物を確保させないとにゃ)

 

生まれたばかりでまさか自分が意識を向けただけで戦場が静止したとは思わなかった彼女だが、止まっているなら動かせば良いと城内警備をしていた師団長を一匹捕まえるとキメラアント特有の全体テレパシーで兵隊蟻達に敵を倒してエサとして持ってくるようにと師団長を通して指示を出す

 

―――護衛軍は女王ではなく王の直属なので女王蟻のテレパシーネットワークからは切り離されているのだ

 

しかし王が産まれるまでは女王の配下で一番偉い地位と実力を有しているので今の彼女は護衛軍と云うより軍団長としての側面が強い

 

軍団長からの命令として再起動を果たした兵隊蟻達は未だに大半以上が圧倒的で邪悪なオーラに晒されて恐慌状態の東ゴルトーの軍隊を次々と蹂躙し、キメラアントの持つ喰らえば1ヶ月はまともに動けなくなる神経毒で無力化して城内にエサとして運び込んで行った

 

そうして大量の軍事訓練で鍛えられた質の良い人間(ニク)を確保した事で女王蟻は決断する

 

生き残った師団長と生まれたばかりの軍団長が呼び出され、軍団長は師団長からの通訳を介して命令を拝領する

 

≪これより私は王を産む準備に専念する≫

 

多くの師団長や兵隊蟻が倒されている中では女王蟻も兵隊の増産に産卵能力を割り振らざるを得なかったが、軍団長が生まれた事で状況は一変した

 

女王蟻としても軍団長がここまでの圧倒的な存在感(オーラ)を携えているとは予想外に過ぎたが、軍団長一匹でこれならば程無く目覚める残り二匹でエサを確保する兵隊蟻達に軍団長が一匹でも補佐に入れば問題なく王を産む事が出来るとの判断だ

 

残りの軍団長がせめて一匹でも目覚めるまでは兵隊達に防衛に徹して貰いながら今回確保したエサで食い繋ぎ、軍団長が二匹以上となった時に攻勢に転じる算段である

 

ある意味で人類は王を絶対とするキメラアントの本能に助けられていると云える

 

人類を取り込む事で個々の我が強くなり蟻本来の統率に乱れこそ出ているが、仮に護衛軍がそれぞれ『王』と云う野心を抱いて早々に野に散ったら蟻の駆逐に核兵器を乱打しなくてはならなくなったはずだ

 

人類を滅ぼすのに本来暗黒大陸由来の蟻の王は過剰戦力なのである

 

十二支んや幻影旅団のような人類最高峰の実力者達ならば複数で挑めば護衛軍相手でも勝利の目は有るだろうが産まれるまでにそう時間の掛からない護衛軍が10匹、20匹と数が増えていけば処理しきれなくなるのは明白である―――人類最高峰はそうホイホイと転がっていないのだ

 

なので今も痺れを切らしたディーゴ総帥の命令で親衛隊である東ゴルトーの念能力者の特別部隊とその隊長が自信満々に「怪物退治なら強化系の俺様に任せとけ」と乗り込んで軍団長にボコられてキメラアントの女王に頭からまるかじりにされている所だ。ひょっとしたら彼はNGL(どこか)ゼホ(モブ)の遠縁とかだったりしたのかも知れない

 

※偶然の一致

 

それから女王蟻の予定通り兵隊達の肉で腹の中の次代の王に栄養を昼夜問わずに送り届けている内に軍団長の残る二匹も繭から孵化し、二匹は常に女王と城を守護して残る一匹が兵隊を率いて人間の軍隊を殲滅して確保する流れとなった

 

不甲斐ない話だが原作のNGLと違い人間の軍隊と早々に殺し合う事となったキメラアントの兵は数も少なく念に目覚める機会にも恵まれなかった故に師団長クラスでも銃弾の嵐を前にすれば足を止めざるを得ないレベルなのだ

 

オーラ量2万程度の原作(ブチギレ)ゴンが念無しの軍団長以上だと言われていた事を思えば念無しの師団長の戦力など天空闘技場のフロアマスターを目指す200階クラスの中堅層が関の山だろう

 

そんな中に現れた軍団長という圧倒的な個の戦力

 

普通の人間では到底敵わない兵隊蟻が敵わない兵隊長が敵わない師団長が部下と一緒に束になっても傷一つ付ける事すら敵わない軍団長という怪物

 

軍団長が三匹揃った事で攻守隙の無い完璧な布陣となり、師団長以下の蟻は有頂天となっていた

 

(まさ)しく虎の威を借る狐状態。軍団長も通常のキメラアントの階級からは考えられない程に弱すぎる師団長以下の配下を醒めた目で見つつも人間(エサ)を運ぶ労働力としては問題無いものとして弱すぎる配下より更に弱い人間達を蹂躙する

 

調子に乗る兵隊達に淡々と獲物を狩る軍団長。彼等は気付くべきだったのだ。肉体的には熊やライオンなどの猛獣や大型動物に劣るはずの人間を多く取り込んだ軍団長が他と比べて強くなり過ぎた理由を―――人間にも外れ値の個体が居る事を

 

 

 

 

 

「うぐぅ・・・ぐにゃにゃにゃにゃにゃにおう、ボクは王の為に、お前達を斃すのにゃぁ―――」

 

要するに彼等は人間を舐めすぎてしまったのだ

 

「ふっ、何時まで強情を張ってられるかしらね。さっさと仲間の特徴と能力を吐いてしまえば楽になれるわよ。この拷問にあなたはどれだけ耐えられるかしらね」

 

圧倒的武力を誇る名も無き猫娘な軍団長は一緒に引き連れていた兵隊達をゴンやカイト達に全滅させられ、今は孤立無援の状態で肉体的にも精神的にも追い詰められているところなのだ

 

オーラ量で互角だろうと肉体性能で上回ろうと、ビアーの通常の強化系の約4倍の強化率は格上との戦いを一度として想定もしてない軍団長を下すのに十分な実力差をもたらすに至ったのだ

 

無論王への絶対的な忠誠を持つ軍団長はその程度で心が折れたりはしない。最後の最後まで王に仇なす敵を排除する為に土壇場で能力開花の一つや二つやってのけるだろう

 

現に今も彼女?には生命力の高いキメラアントがまともに動けなくなる程にボロボロで全身に絶え間ない苦痛が襲っている・・・が、それだけでは王への忠誠は揺らがない

 

「ほ~らほら。あなたの新しい王様はこっちよ~。今鞍替えすれば毎日こうして猫じゃらしを振って上げちゃうわよ~」

 

「くっ!そんな誘惑なんかに屈する訳が・・・ああ、なんて荘厳な純白の角なんだにゃ。ボクの王が(いただ)(かんむり)に相応しい・・・はっ!?違う!ボクはただ王の為に!」

 

「あ!まさかこんなところに猫ちゃん用のチュールとマタタビが!?どうしよっかな~?使い道無いなら捨てちゃおっかな~?」

 

「ま、待つのにゃ~!!」

 

―――揺らがないはずの強靭な精神も生物である以上当然限界が存在する

 

軍団長もとい王直属護衛軍の忠誠心はキメラアントとしての本能に依るものであり操作されているモノではない

 

(じゃあ操作出来ないか試してみないとね。早い者勝ち。早い者勝ちィ♪)

 

そこを容赦なく突いてくる人間(ビアー)の底すらない進化(悪意)を見誤ったのだ

 

「流石に人間と混ざってるだけあって効きが悪いわね。それに生まれたばかりであんたやレツクラスの凄いオーラしてたし、暗黒大陸ってどんな魔境よ?それと何であんたは猫じゃらしとか持ってたのよ?」

 

「犬か猫かだったら猫派だから!」

 

「・・・そう」

 

動けない彼女の前にあらゆる昆虫を支配下に置くフェロモンを出すキングホワイトオオクワガタをポンズが待機させ、その辺に生えてる猫じゃらしではなく市販品の玩具としての猫じゃらしや猫用のエサなどの道具の性能を破滅的なまでに強化して倒れ伏す軍団長の視界の中をあっちにフラフラこっちにフラフラともどかしい見せ付け方をする

 

体力を削られて潜在オーラも尽きかけている中で痛みと疲労と本物と偽りの二つ忠誠の板挟みと興奮と酩酊と食欲が同時に脳内で巻き起こって残り少ない精神力(オーラ)がガンガン磨耗していく

 

キングホワイトオオクワガタのフェロモンなどは普段の彼女であれば素で弾けたはずだが、今の彼女は弱り切った(ひんし)の上に複数の精神攻撃(状態異常)を重ね掛けを受けて更に虫特効(せんよう)捕獲玉(モンスターボール)を投げつけられるような暴挙を受けているようなものなのであった

 

 

 

―――半日後

 

「ごろにゃう~ん♪王様~。女王様~。どうか強情張ったボクを許して引き取って欲しいのにゃ~♡絶対お役に立ちますのにゃ~♪」

 

元の威力が低かろうと脳の奥まで操作能力(フェロモン)がキマったグルグルお目目の子猫がそこには居た

 

なお猫娘が猫なで声で甘えてる訳だがビアーが最初に見るも無惨なまでにボコボコにした為モザイク案件のスプラッタシーンなのが残念なところだ。蟻の生命力恐るべし

 

「誰が女王様よ。それじゃあ私がクワガタ(この子)と結婚してるみたいじゃない。罰として一人称はミャーにしなさい。ボクっ娘はレツと被るから」

 

「被らないよ!?この子元からにゃんにゃん言葉なんだから差別化は出来てるじゃん!―――えっと、キミの名前は?」

 

「? ミャーに名前なんて無いのにゃ」

 

この世界ではキメラアント側にじっくり安全に人間狩りをしているような余裕も無かったので名前と云う贅沢に目を向ける事が出来なかったのだ

 

軍団長が目覚めてからは余裕も出来たが王を産む為に一心不乱にエサを食べ続けている女王蟻に名前を持つ許しを得ようとする者は居なかった―――もっとも前世の記憶が強めに残っている者はコッソリ名乗ってはいるようだ

 

「ならピトー。これから貴女はただのピトーよ」

 

名前がないと聴いたビアーがここぞとばかりに提案する。原作のネフェルピトーとの差別化には丁度良いと思った故である

 

ビアーの名付けを聴いた彼女は彼女の中のヒエラルキー最上位のポンズを見ると名前に否は無いと頷いた

 

「にゃん!これからミャーの名前はタダノ=ピトーにゃん!!」

 

「「「「「違う違う違う違う!」」」」」

 

ゴン達も含めた全員からピトーの天然発言に対してツッコミが入り、今度こそただの『ピトー』に落ち着いたのだった




・・・あれ?おかしいな?ピトーと激突して激しいバトルを描くだろうなと自分でも思っていたのに戦闘シーン全カットでピトーの尊厳を破壊してた
どうしてこうなった?
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