毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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すみません。ちょっとダレてました。一応裏でちょくちょく進めてはいたので明日辺りもう一話は投稿できると思います


接ぎ木とキメラ

キメラアントの巣に向かって爆走するビアーとネテロは走りながらも目を細めた

 

「どうやら気付かれたようじゃの」

 

「本当に産まれてるし、あそこも蟻の巣から魔王城に見えてきたわね」

 

既に視界に地上高く聳え立つ巣を捉えている二人は圧倒的な存在感を放つ生物が自分達に意識を向けた事を明確にキャッチしていた

 

あらゆる種族の頂点として生を受けたと疑いも無く自負している傲岸不遜な王は己の気配を隠したりするはずも無いのだ

 

"喰ってやるからさっさと来い"とばかりの完全なる上から目線。それを受けた二人は当然面白くはない

 

確かに感じる力は圧倒的で野生の世界ではその傍若無人っぷりが物理でまかり通るだけの資質は有るのだろう

 

だが世界を何一つ知らない生意気なガキの誘いには反発したくなるのが人の性

 

ビアーとネテロは同時に足を止めると示し合わせたように両手を眼前で構え、深い呼吸の後に裂帛の気合を乗せて技を放つ

 

「バーカ!アーホ!ま〜ぬけ!!」

 

「お前の母ちゃんデ・ベ・ソ〜!!」

 

【魔犬慟哭波(どうこくは)】。以前ネテロがカンザイと共に披露?した猛虎落地勢と同じとある無差別格闘流の技である

 

耳を塞ぐ事以外に防御も回避も許さない音速の広範囲攻撃だ。別の世界線で負け犬の遠吠えと呼ばれるものに非常に似ているが関係が有るかは不明である

 

「お前さんあの流派の事知っとるのかの?」

 

「とっくに(前世で)履修済みよ。それより来るわよ」

 

ビアーの言葉通り、二人の目の前には今この瞬間まで巣の中に居たキメラアントの王が瞬きの間もなく立っていた

 

「自ら余に喰われに来る殊勝なエサかと思ったのだが、どうやらとんだ見込み違いだった様だな」

 

「はんっ!流石は世間知らずの蟻ん子だな。そんな気持ち悪い奴は人間様の社会にゃ存在してねぇんだよ」

 

「良かったらカキンの第二王子(カーミラ)紹介してあげるわよ。お互い自己中の極致なら鏡みたいに自分の悪いところ客観視出来るかも知れないからお勧めよ」

 

(思っただけで実現しない現実にキレるとことかそっくりよね。もっともこっちは原作の精神の成熟した王も知ってるから子供の癇癪みたいなものとギリ思えるけど、カーミラの方はあの年齢であの考えだから完璧アウトって違いは有るけどさ)

 

「たわけ。余の思考、余の行いが許されるのは余が万物の頂に立つが故だ。下等な人間が持ち得たところで滑稽なだけよ」

 

「他を巻き込んだ時点で許す許さないは本人ではなく他者が決める事よ。蛮行し尽くすだけの力が有ったところで自分勝手が許される理由にはならないわね。もっともこの場で斃されるアンタの場合前提から間違っているけれど」

 

「貴様こそエサの矮小な物差しに余を当てはめようと云うのがそもそもの前提を違えているのだ。もう良い。貴様らにエサとしての役割を余自らの手で全うさせてやろう。その誉れを胸に刻んで死ね」

 

蟻の王は最後に話していたからと云う雑な理由で両腕を組んだままビアーに伸縮する尻尾による神速の攻撃を放つ

 

蟻の王の攻撃は本気ではないとしても人類の99.9999999%はこの一撃に沈むだろう。だがこの場にいるのはその僅かな例外である0.0000001%に入るの最強の人類二人

 

軽口を叩きながらも全力の警戒を怠らなかったビアーは雑な一撃を放った代償とばかりに注射器のような形の尻尾の先端の針を掴み取って動きを止め、王が不敬とばかりに尻尾に力を籠めて薙ぎ払おうとした瞬間にネテロの【百式観音】の『壱の掌』が王を地面に埋もれさせた

 

この攻防でビアーは【王の律動(キングエンジン)】を、ネテロは祈りブーストに加えた自身の走馬灯的体感時間の圧縮を既に使用している

 

そうでなければ今の王の動きに反応出来たかも怪しかっただろう

 

土煙の中から先程までとは更に一線を画す強大なオーラが解き放たれた

 

「成程。どうやら余程凄惨な死に方を望んでいると見える。貴様らを喰う時は生きたまま身体の端から摘んでやるとしよう」

 

戦ってすらいなかった王がここで初めて捕食者の目から狩人の目となる。彼も理解したのだ。目の前のエサは食べるのに少々調理(しつけ)の工程が要るのだと

 

王からすれば今のはまな板のコイが跳ねた程度の認識だ。面倒は感じても脅威には感じていない

 

事実、王がその気で動けばそれだけで二人の稼働速度を上回り、二人の攻撃は直撃しても有効打足り得ないが王の攻撃は一撃が致命傷に繋がる

 

決して対等ではない世界の命運を賭けた戦いが始まらんとしていた

 

 

 

ビアーとネテロを追い掛けて走り続けていたレツやゴン達一行は突如としてその足を止める事となった

 

「なんだこの馬鹿げたオーラは!?神話の怪物でも目の前に居座ってんのか!?」

 

レオリオが思わず口走ったそのセリフが皆の心情を如実に表していた

 

まだ距離は開いている。まだその姿さえ目にしていない。その敵意は自分達に向けられたものでもない。その上で恐怖と云う感情が押し固められて形を成している怪物が直ぐ目の前で自分達を喰らおうと(あぎと)を開いているかのような感覚

 

自分達が立ち止まったそこが巨大な皿の上だと幻視する程の被捕食者の感覚はハンター歴の長いモラウやノヴであっても未知との遭遇に等しかった

 

否、未知と出会う事自体はハンターとして当然だが今回ばかりは歓迎は出来なかった

 

直接オーラに触れずとも理解するあまりにも異質な悪意

 

否、悪意と呼ぶには悪意の存在しない悪そのもの。例えるなら無邪気な子供が殺そうとするでも怒りを向けたでも無く偶々目に入った蟻を何となく潰すような

 

その存在がもたらす影響が他の何かにとって害であり、被害を受ける者にとっては悪とされるものであるかのような純粋な『厄災』

 

目線が違う。立ち位置が違う。次元が違う。そんな己の常識に訴え掛けて来るかのような破滅の気配は自分達の敗北が人類の暗黒期に繋がると確信したからだ

 

「これは流石に予想外でしたね。モラウ、これはあなたの弟子達も連れて来るべきだったのでは?格上だろうと時間さえ掛ければ敵を無力化出来る彼の能力を会長共々我々全員が命懸けでサポートすれば勝利だけは拾えたかも知れませんよ」

 

「随分と後ろ向きな意見だな。ビビってんのか?ノヴ?」

 

「告白すればそうですね。私1人でしたら今頃念空間(マンション)の中に引きこもっていましたよ。単に今は後輩たちの前で見栄を張っているだけですから」

 

モラウはノヴが固く拳を握りしめ、その手が小刻みに震えているのに気が付いた

 

精神がパフォーマンスに大きく影響する念能力者としてどんな相手でも100%勝つ気概を持つ事を信条とするモラウだがノヴの事を馬鹿にする事は無い

 

何故なら格上相手に恐怖を感じないと云うのはそれこそ馬鹿の所業だからだ

 

己を奮い立たせる『勝つ』という想いはそもそもが格上や不利な状況を打ち破る為の第一歩

 

事実、王のオーラを感じてからモラウも脂汗が止まっていない

 

後輩への見栄。相方の虚勢。ネテロへの信頼。どれもこれも王のオーラを感じ取った今では吹けば飛ぶような想いを繋ぎ合わせて必死に噛み合わない歯で笑みを浮かべてこの場に立っている相方はやはり最高の相方(バカ野郎)

 

原作でハゲ散らかしていたノヴも状況が違う事と恐怖が一周どころか三周回って感覚がある程度麻痺した事でこの場で取り乱す愚は犯さずに済んだのである

 

「行こう皆。ボク達は二人が王だけに専念出来るようにしないといけないんだから」

 

「ああそうだったな。衝撃的過ぎてマジで忘れてたぜ。頭レオリオになっちまう所だった」

 

「おいおいキルアくん。蟻の前にお前から駆除してやろうか?」

 

「ピトーの話では王直属の護衛軍の残りは翅から鱗粉を撒いて広範囲の催眠を掛けられ、恐らくは読心の能力も持っている紳士風の者と身体を変形させて文字通り多数の手足で攻撃してくる異形の者が居るようだ。絶対にこの二匹を王に近付けさせてはいけない」

 

「そうだな。確かに面食らったが俺達がやる事に変わりはない。理由は分からんが今、王の傍に護衛軍はまだ来ていないらしいが王が先走っただけなら直ぐにでも王と合流するだろう。俺達はビアー達の戦闘区域を迂回して巣を目指しつつ護衛軍や兵隊蟻が王の下へ向かわないように防衛線を敷くべきだ」

 

「ビアー達の手助けは最低でも護衛軍を駆除した後ね。手助け出来る余地が有るかは疑問だけど」

 

「大丈夫!ビアーもネテロさんも絶対に負けたりなんかしないよ。でもあれだけ強敵相手だと大怪我しちゃうかもだし、俺達は俺達の戦いを早く終わらせて助けに行こう。皆で力を合わせればもっと安全に倒せるでしょ!」

 

厄災級の化け物相手に勝てるかどうかよりも自分達がお手伝い(・・・・)に向かう事を考えるその姿勢にモラウやノヴも毒気を抜かれる

 

二人はまだビアーの強さを直接見知っている訳では無いが、レツ達は双方の決闘のデタラメ具合をその目で見ているのだ

 

人類最強の二人が並び立つ布陣。その上で自分達が少しでも助けに入らなければと云う感覚は有るが、格上過ぎる程の格上と普段から対峙している経験が彼等の動揺を最小限に抑えているのである

 

「がっはっはっはっは!活きの良い後輩が育ってんじゃねぇか。そうだな。各々が決められた役割を遂行する。それがプロってなもんだ」

 

「では行きましょう。これ以上ここで足を止めている時間など有りません」

 

王のオーラの衝撃から立ち直った一行はビアー達の戦闘区域を迂回して巣に向かう

 

ビアー達に邪魔が入らないようにする事も重要だが女王蟻もここで逃してはならないターゲットなので防衛線を敷く者達と巣に奇襲を掛けて殲滅する者達とに分かれる手筈だ

 

あと二匹居る(と思っている)護衛軍も王が産まれたならば(死んでる)女王蟻を護らないはずなので奇襲部隊は少数となる

 

「よし!この辺りで良いだろう。カイト(オレ)とキルア、ノヴさんで巣に向かい―――なに!?」

 

だが幸運と見るべきかその前に巣より飛翔した怪物が地面を抉りながら一行の眼前に降り立った

 

「王ぉおおおおお!!ゔ王ぉおおおおお!!疾く貴方様の御側に参ります。その為にももっと供物を!贄を!エサを!力を力を力を力を力を力を力を力を力を力を力を力を力を力をををををォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!!?」

 

降り立った。否、不時着したその化け物は縦にも横にも広い体躯で身長にして5メートルは有る異形の姿をしていた

 

膨張した筋肉の上に継ぎ接ぎの外骨格が一部肉体に埋没するようにして全身を覆い、所々の隙間からはギョロギョロとした目玉が全方位を血走った目で凝視している

 

更にはその長い腕からも幾本もの腕が枝分かれするかのように伸びている

 

「なんだこの化け物は!?こいつがピトーの言っていた腕とか目とか増やせる護衛軍って奴か!どう見てもピトーよりヤベェじゃねぇか!?」

 

またもや最初に叫んだレオリオだったが彼の云う『ヤベェ』は何も外見の話だけでは無く、同じ護衛軍であるはずのピトーよりも明らかに強い異質なオーラを発していたからに他ならない

 

しかしその外見からレツ達は自身を形態変化させて戦う護衛軍だと勘違いしたのだ

 

「足りない足りない足りない足リナイィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙!王よ!王の一部となりし我が同士よ!私の献身をどうかご照覧アレェ゙eeeeeee!!」

 

「いやいやアンタそれ接ぎ木じゃん!接ぎ木のシャウアプフになってんじゃないの。何やってんの?いやホント何やってんの!!?」

 

ポンズの帽子から這い出て等身大サイズとなったリースが思わずツッコむ

 

いきなり原作の姿から掛け離れた状態で原作キャラとエンカウントすれば誰でも驚くだろう

 

(いえ!確か原作プフはピトーと違って孵化直後から最低でも他者の感情(こころ)を読める【鱗粉乃愛泉(スピリチュアルメッセージ)】は発現させていたからもう1つの『発』である自分の身体を分裂&合体させる能力(名称不明)を使えても可笑しくない。確かアレって自分以外の形にも肉体を再構築出来てたし、巣の方から『キメラアントも含めて人間の気配1つ無い』。生きたまま取り込むのは能力の制限的に無理だとしてあの姿は多分殆ど継ぎ接ぎ死体人形(フレッシュゴーレム)に近い。女王蟻が餌を食べまくって良質な王を産むのとやってる事は近いけど酷い劣化コピーね。合成獣(キメラ)にしたってあれじゃただのごった煮よ。しかもリスクが全部術者に跳ね返ってるタイプの!)

 

ビアーの原作知識も当然有しているリースが目の前の異形の状態に大まかな当たりを付ける

 

しかしてその分析は的中しており彼のこの姿はそう長く続くものでは無い

 

兵隊蟻からエサの人間までその肉体の筋繊維やトルクを生み出す心臓などを殺して死体から吸収、再構築する事で見た目の体躯以上のパワーを発揮する事が可能な反面今の彼はスパゲッティコードのような状態だ

 

兎に角手当たり次第に機能を追加しまくって何故か奇跡的に起動してしまっているかのような不安定な状態

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ィ゙ィ゙ひぎィ゙ぁ痛い痛い痛い痛痛痛痛痛痛痛痛痛!!?おう!王!王ォおおおおおお!!」

 

起動するだけでも奇跡な本来なら動かないはずの肉体を狂信によって無理矢理動かしているに過ぎない

 

肉体的なダメージに強いキメラアントの護衛軍が痛いと云う感情を隠しもしない彼の感じている痛覚はプロハンターであっても大半の者がその場でショック死し、残る僅かな者も殆どが廃人になるレベルである

 

医者でもないのに即席で無理矢理繋いだ身体の各所からは常に血が吹き出し外骨格が可動域に食い込む。増幅された感覚は今や風が吹くだけでも表面をヤスリで削られたかのような激痛が奔っている程だ

 

(だからこんな痛みがなんだと云うのです!!)

 

意識の繋ぎ目に微かに浮上した自我で己の行いの全てを肯定する。全ては王への献身と貢献の為

 

本来ならばシャウアプフと呼ばれるはずだった個体の放つ絶叫は咆哮を放つ獣やコウモリの超音波などが混じり合い周囲の木々や地面がヒビ割れていく音響兵器と化す

 

限界を超えて筋肉を凝縮した丸太よりも太い腕や脚から繰り出される一撃は女王に喰われ今や王の一部となったパワーファイターの同士の本気の一撃をも上回り更にはそれを連続で放てるだろう

 

風がそよぐだけで痛みすら伴う鋭敏な感覚はレツ達がどれだけ死角を見つけてそこを攻めたとしても超反応する探知機となる

 

本来動きを鈍らせる痛みと云う信号は全て意志で捩じ伏せ武器へと昇華させているのだ

 

無論痛みを無視しているだけでダメージは蓄積され続けているので取り込んだ死体はその内完全に機能停止し腐り落ちて彼も十中八九死ぬだろうが、そもそもが小難しい事を考えて創った能力では無い上に彼は念についての正しい知識も無い

 

それでもこれだけの事をなし得ているのは護衛軍の持つ資質の高さと狂信(メンタル)故なのだ

 

「皆!アイツ同士が王の一部になったとか叫んでるから護衛軍のもう一匹は女王に喰われたかなんかして王の早過ぎる誕生を後押ししたんだと思う!で、コイツは巣に居る全部の命を糧に強化してるみたいよ!」

 

「リースが言うなら巣に向かう意味は無ぇな。ハッ!話がシンプルになったじゃねぇか」

 

キメラアントの巣まではリースやビアーの『円』でも届かないだけの距離があるが『円』は効果範囲内の状況を鮮明に感じ取る為の技術なので精度こそ落ちるものの『円』の範囲より遠くも探る事は可能なのだ

 

それこそ広大な『円』を維持出来る超越的な感覚の持ち主ならばその『目』の届く範囲は如何ほどか―――キルアの言うようにリースの感覚を疑う者は当然の如くこの場には居なかった

 

キルアが全身から雷撃を迸らせて護衛軍(仮称プフ)の目を惹くと同時に手を銃を持つような形にしてプフの視線と絡める

 

「『稲光(イナカリ)』」

 

静かな呟きと共に宙を奔った強烈な光がプフの目をその奥まで焼き、それと同時にプフの後方に移動したクラピカの鎖とカイトの銃撃が放たれる

 

カイトの能力である【気狂いピエロ(クレイジースロット)】は1から9までの番号のスロットを廻して出た目に応じた武具を具現化する能力であり今回は『4』の番号を引き、人の腕くらいの太さは有る巨大な弾丸を撃ち出す銃を具現化したのだ

 

連続で引かれた引き金に合わせて多数の弾丸が異形の中でも唯一急所と思われる頭部と身体の各所の関節部分に殺到する

 

一方クラピカはオーラを一点に集中させ、『左手の人差し指』から貫通力と速度重視の一撃を放つ

 

鎮魂の雨(レクイエムレイン)!!」

 

貫く人差し指の鎖(ストライクチェーン)!!」

 

クラピカは原作よりも基礎をしっかりと固めた為に左手にもそれぞれ能力を付与した鎖を具現化出来たのだ。もっともそれでも右手の能力に『容量(メモリ)』の大部分を割いているので単純で補助的な能力が大半だが相変わらず『容量(メモリ)』が化け物である

 

そんな二人の直撃すれば念に目覚めた師団長であっても致命傷か爆散すらする攻撃に対してプフはただ身体を震わせた(・・・・・・・・・)

 

ガギキキキキン!!

 

「やはりっ!」

 

「堅いな!」

 

たったそれだけの動作で攻撃を弾かれた2人だが予想はしていたのか苦々しい顔はしつつも動揺は無い

 

「撃滅のデュアルブリッド!!」

 

堅魂拳(けんこんけん)!」

 

彼等の本命はキルアの目眩ましと同時に正面の死角から奇襲を仕掛けたゴンとリースなのだ

 

そもそも背後も含めて全身に目玉が有る時点で背後に回るメリットは少ない。カイトとクラピカの攻撃は相手の気を反らせれば最低限の役割は果たせたと云える

 

ゴンとリースが前方からの視覚情報が鈍った護衛軍に小さな体躯を活かして相手の更なる盲点に入り込みダブルパンチを繰り出す。ちなみに余談だがリースはゴンが必殺技を叫ぶのに自分だけ無言なのも味気ないと『堅』に『魂(人生)』を捧げた『拳』たる堅魂拳(けんこんけん)(ただのパンチ)を放ったのである

 

ばふんっ!

 

だがそんな念に目覚めて且つ防御に秀でた師団長であっても爆散する攻撃を喰らったプフは本来響き渡るはずの重低音からは掛け離れた気の抜けた音と共に二人の拳から伝わる破壊エネルギーを体外にスカしたのだった

 

プフの肉体を最小でマイクロサイズまで分身・分裂させられる能力は攻撃を受けた箇所を瞬時に切り離す事で衝撃の伝搬を抑えてダメージを最小限にする事が可能なのだ

 

如何にリースやゴンの拳でも霧でも殴ったかのような手応えでは相手に与えたダメージもお察しと云うやつである

 

「コイツ自分から身体を弾けさせて受け流しやがったな。ただ堅てぇってだけじゃないって事か。これじゃ仮に心臓を抜き盗ってもどれだけ効くか判ったもんじゃねぇな。ピトーもここまで自在だってのは言って欲しかったぜ」

 

(う〜ん。違うんだけど合ってもいるのよね〜。そもそもツッコんだところでビアー(オリジナル)しか共感を得られないとかツッコみ殺しが過ぎるってのよ。それはそれとしてやっぱり打撃や斬撃とかの物理攻撃は効果薄そうね。となればここはやっぱり―――)

 

「レツお姉ちゃ〜ん!!ここは今一度萌え燃えキュン♡の出番だよ〜!!物理が駄目ならキュン死させちゃお♪」

 

「その呼び方をボクは一度たりとも認めてないからね!あとリースの言う(キュン)死は十分物理だよ!!」

 

「ならレツママの方が良かった?」

 

「そっちじゃないよ!次にその技名を口にしたら容量(メモリ)割いてでも人形師(マスター)権限でお姉ちゃん呼びも禁止にするからね!」

 

「言論統制!?」

 

言い争い(イチャつき)ながらもレツの傍に素早く近付いたリースが彼女の肩に手を添えて『周』を発動させる

 

莫大なオーラに包まれたレツは『二人羽織』でピー助を憑依させるとその口から炎と云うよりは熱線とも表現すべきブレスを放つ

 

「皆下がってて!―――炎竜王の咆哮ぉおおおお!!」

 

放たれたその豪火はプフを呑み込み地面を融解させながら突き進み偶然その射線上に聳えていたキメラアントの巣にまで到達して燃え上がらせた

 

「―――おいおいマジか」

 

モラウは少女の眼前に顕現した灼熱地獄とも呼べる光景・・・ではなく熱気と自身の能力とは違う煙で歪んだ空間の先で蠢く肉塊を見て冷や汗を流した

 

生き残っているだけなら莫大なオーラを換算すれば可笑しくは無かったが、ほぼ無傷でいるとは予想外だった

 

国が国ならまだランドセルでも背負ってそうな少女が怪獣大決戦にでも出て来そうな豪火を繰り出したのには面食らったがそれ以上に今のをまともに喰らって無事で済む生物など居ないと確信出来るほどの一撃だったからだ

 

避けたのならば理解は出来た。能力で逸らしたのならば納得出来た。しかしどう見ても直撃しているにも関わらずその場に居座られては打撃も炎も効かないと云う証明も同じだ

 

「あ〜。炎がダメなら電撃(オレ)の攻撃も多分無理だよな。つかどうなってんだ?アイツの身体?」

 

「数多くの肉体を取り込み、再構築しているなら私の『律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)』で心臓を握り潰せても同じく効果は薄いだろうな」

 

「ふむ。超高温に耐えられる生物と云えば代表的なのはクマムシですね。恐らくはそういった耐熱性の高い生物の体組成へと再構築しているのでしょう。実質複数の念能力が扱えるのとほぼ変わりはないと言えます。これではこの後なにが飛び出して来るか判りませんね」

 

プフの能力はあくまでも分身と再構築。取り込んだ生物の情報が崩れ去るまでと云う時間制限付きでは有るがその強みを好きなだけ押し付ける事が可能なのだ

 

瞬間、プフはその巨体からは考えられない急加速でトップスピードへと躍り出る

 

無駄に増えた手足をシャカシャカと動かし、小回りの効く急制動をする様はまるで台所を這いまわる主婦の天敵たるゴキブリのようだ

 

ただしそれだけでもアクセル全開な10トンダンプの衝突を遥かに凌ぐ破壊エネルギーを内包しているので迂闊に直接攻撃しようものなら良くて弾かれるか悪ければ攻撃した手足を根本から失う事となるだろう

 

「さぁ祈りなさい!せめてあの世で王の偉大さを少しでも理解できるように!!」

 

巨体でありながら一流しか居ないこの場のハンター達が影を追う事すら難しい速度で身体のツギハギから血飛沫を撒き散らしながら動き回ったプフが巨大な腕とそこから枝のように生えた多数の腕をカマキリの鎌のように変形させて両腕を薙ぐと云うワンアクションで大小様々な斬撃を周囲に振りまく

 

「私の一部となり、王の威光をその身に浴びる至上の幸福を得られる事を噛み締めなさいィイ痛ィ゙ィ゙ィ゙!!」

 

「痛っ!もう!血走った目で喧しいわね!」

 

斬撃が左腕を掠めたポンズが悪態をつくがプフの瞳が今の攻撃で唯一傷付いたポンズを射抜く

 

弱い所から潰すのは戦略の基本だ

 

「させん!『盾なる親指の鎖(シールドチェーン)』!!」

 

クラピカの左手の親指から伸びた鎖がポンズの前で鎖が隙間無く渦巻くように動き、バックラーのような円盤状の形となってポンズの全身を覆い隠した

 

「そんなもので私を止められるとでも!敵の攻撃を防げぬ盾など何の役にも立ちませんよ!!」

 

プフは躊躇無く張られた盾に殴り掛かるとその盾を粉砕し、その奥にまで拳を届かせる

 

「おや?」

 

しかしその場にはもうポンズは存在して居なかったので拳は虚しく空を切るに終わった

 

「どうやら敵の攻撃を防げない盾でも役に立つ事は有るようだな」

 

元よりまともに攻撃を防ぐ気など無かったクラピカはポンズの姿を隠した刹那に別の鎖でプフから距離を取らせていたのだ

 

それもついでとばかりに『癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)』で脱出させてポンズの傷を治すオマケ付きである

 

「ありがとクラピカ。あとソコ、置き土産よ」

 

回避行動の全てを仲間に委ねたポンズは砕ける鎖の影に紛れて様々な効果の有る毒ガスを振り撒いていたのだ

 

それを喰らったプフは絶叫を上げはしたが動きが鈍る様子は無かった

 

「・・・ダメね。下手な麻痺や睡眠は効かないし痛覚を増幅させてもそもそもが精神が肉体を超越してる状態だから意味ないわ。コイツ相手だと猛毒を口からジョッキで流し込むくらいしないと効果を見込めないんじゃないかしら?」

 

「やってみっか?「護衛軍のちょっと良いとこ見てみたい♪」っつって毒ジョッキを手渡しするとこから始めなきゃいけねぇけどな。まっ、オレは毒効かねぇからそれでも死なねぇけどよ」

 

キルアの宴会芸リストには毒一気飲みが存在しているが単純に毒は不味いので彼がそれを披露する日は来ないだろう

 

フェイク動画だと炎上(バズ)る事間違いなしだろうに、まことに残念である

 

「冗談は置いといて物理無効で属性攻撃も無効。果てはデバフ技も無効とかクソゲー過ぎんだろ」

 

分析を続けながらもプフの嵐のような猛攻が次々と周辺の木々を薙ぎ倒し、岩を粉砕し、地面を抉っていく。先程のポンズの時のように狙われた仲間以外の味方がプフの動きを阻害するように攻撃を加えたりする事で紙一重で生存が成立しているような状況だ

 

「リースは早くビアーとネテロさんの所に行ってあげてよ。ここはオレたちで何とかするからさ。元々そう言う作戦だったじゃん」

 

そのような人数分の死神がすぐ近くで自らの仕事の瞬間を今か今かと前のめりにスタンバイしているかのような状況で最大戦力(リース)を離脱させようとするゴンの純真さはそのままだ。見方によっては狂気の一種だろう

 

先程からプフに身体を霧散させる防御を取らせて攻撃頻度を抑制させているリースをこの場から引き離すのは自ら命綱を手放す行為に等しい

 

「そうだね。最初の一当てが決まらなかった時点でここでは役割超過だよ。後はボク達の仕事ってね」

 

「だな。今までの手応えからしてコイツはギミックボスってぇよりイベントボスに近いからな。自爆ダメージで体力が一定値以下まで下がるまではほぼ無敵じゃね?リースが居たところで討伐速度が早まる訳じゃねぇよ」

 

「さっさと行きなさい。それとも私達はそんなに信用出来ないかしら?」

 

しかしこの場に居るのは全員がプロとして命懸けを是とする精神と実力の持ち主。己の役割と命を天秤にかけたら役割を選ぶ程度の度量は標準装備なのだ

 

「まっ、そうは言っても向こうだってビアーと会長のツートップなんだ。今にも蟻の王とやらが天高くぶっ飛ばされるんじゃねぇか?」

 

レオリオが冗談めかしてフラグを建てた瞬間、遠くから響いていた戦闘音の中でも一際大きな轟音と衝撃がレツ達の意識を叩いた

 

舞い上がる粉塵を突き抜けて天高く人影が打ち上げられる

 

キメラアントのような異形の姿とは違う人間としてのシルエットにレツ達の視線が後を追う

 

「あ!カストロさんだ!」

 

地上からキリモミ上昇飛行するその人影はその場に居ないはずの長髪マント男であった

 

「た〜まや〜って言うべきかしら?」

 

「か〜ぎや〜!って言うのも打ち上げ花火の様式美ってビアーも言ってたっけ?でもアレってどんな意味なんだろう?」

 

※当時有名だった花火師達の屋号

 

「おいおいおい、死んだわアイツ」

 

「前にも天空闘技場の上まで打ち上がってたし呪われてんじゃねぇの?信仰してるのがビアーだし変なバグが発生してても驚かないぜ」

 

「お前達呑気に喋ってないで(プフの)攻撃を捌け!―――ぬおおおおお!!最高効率で敵の動きを阻害しろ『導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)』!仰け反らせろ『貫く人差し指の鎖(ストライクチェーン)』!受け流せ『盾なる親指の鎖(シールドチェーン)』!静寂より這い寄り捕らえろ『静かなる小指の鎖(サイレントチェーン)』!!!」

 

的確に動く鎖や素早く攻撃が出来る鎖に盾の鎖は受け止めるのではなく受け流す使い方をして音を消す左小指の鎖は『陰』も併用して相手の踏み出そうとする足に意識外から引っ掛ける

 

仲間との連携も考えて鎖同士の動きも阻害せず縦横無尽に操作するクラピカの技量は見事なものだ

 

「リースはさっさと向こうへ行け!お前の仕事場はここには無い!そしてお前たちの死事場はここだろう!お前達はさっさと手を動かせぇえええーーーええーーーええええ!!」

 

クラピカの必死の叫びに一同は戦場へと意識を戻したのであった

 

なおキリモミ上昇したカストロはその後嵐の中を舞う木の葉のように乱舞し続けて既にボロ雑巾のようになっているが、レベル違いの戦場に突如湧いた彼を心配する者は誰一人居ないようであった

 

しかし彼等は見誤っていた

 

リースがビアーとネテロの下へ加勢へ向かうその意味を

 

リースが向かえば多かれ少なかれ事態が好転するのだと安直に考え過ぎていたのであった

 

 

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