毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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今週から40度ですね~・・・いや死ぬってマジで


念とスタイル

カイトが自身の能力(ランダム武器)の集団戦におけるハズレ枠である大鎌(2番)を具現化してしまい、次のスロットを回す為に誰の邪魔にもならない場所で広範囲斬撃を独りで虚しく無駄撃ちする事で新たにスロットを回して手にした武器を担いで仲間達が奮戦する戦場に戻って来た。しかしその瞬間に彼の瞳に映り込んできた光景はネテロ会長が直々に連れてきた黒スーツ姿の男(ノヴ)がその腹に大穴を開けられた瞬間であった

 

ただでさえギリギリの戦闘中にカイト程の実力者が少しの間とは云え離脱すれば他の負担が一気に増えるのは自明の理だ

 

「くっはははは!王に歯向かう羽虫がやっと1匹!・・・なっ!?」

 

己がエサであるとの自覚すら乏しい罪人以下の愚者の1人を完全に仕留めたと確信した彼の目の前で身体が千切れたノヴが輪郭を失い煙として散っていった事で驚愕の声が漏れる

 

「馬鹿な!?アレは確かに他の煙の木偶とは違う動きをしていたはず!!」

 

プフの分析に間違いは無い。確かにモラウの『紫煙機兵隊(ディープパープル)』は数を絞るだけ操作性が増すが、たった今プフが貫いたノヴはトッププロである本物のノヴと(たが)わぬ運動性能を魅せていたのだ

 

それ程高精度の偽物となれば如何(いか)にモラウでも他の能力を全て解除し、足を止めて操作に集中しなければ再現は不可能なはずであった

 

「『人形』を操るのはボクの十八番だよ。操作権を無理に奪ったりは無理でも共同公演ならいけるみたいだね」

 

レツの指先から伸びる念の糸がノヴの煙『人形』の性能を引き上げていたのだ。ノヴ本人の動きの癖など細かい部分は再現出来ないが、初対面の敵を騙すには関係の無い項目だ

 

モラウの『紫煙機兵隊(ディープパープル)』とレツの『神の糸繰り劇(デウス・エクス・マリオネット)』を用いたコラボ技である。もっとも(ガワ)も中身も煙なので攻撃力は皆無だが、強者相手の撹乱としては十分機能したのであった

 

「ギィザマラァ゙!あのメガネスーツを何処へぇ・・・いや!何をしている奴はァ゙あああ!!」

 

「ぷっ!メガネスーツとか悪口にしたって低レベル過ぎるぜ。トーク番組で最低限の語彙力学習してきな」

 

「メガネだったら俺も持ってるぜ。ほらよ、お探しのメガネスーツことレオリオさんだ。本日はどの様な症状で?・・・あ、わりぃ、俺の医学人間用だったぜ。どなたかこの中に獣医様はいらっしゃいませんか〜?」

 

高精度なデコイを用意してまでノヴが裏で何をやっているのか?当然聞かれたところで真面目に取り合うはずも無く煽り倒す

 

「この場じゃないけど獣医なら知り合いに居るけど呼ぶ?チードルって名前よ」

 

「ポンズってば、チードルさんは確かに(イヌ)のお医者さんだけど専門はレオリオと同じく人間だからね。獣医の意味が違うよ」

 

なお、チードルは人間である。犬耳が生えていようが犬鼻が付いていようが肉球をモミモミ出来ようが人間である

 

「あ!カイトだ。おかえり〜!良い武器引けた〜?」

 

なんとも呑気でマイペースだが戦闘においてどんな状況でもマイペースを維持出来るのは確かな強味だ。圧倒的な性能を誇るプフがゴン達を仕留めきれていないのは怒りに任せてオーラの流れが見切られ易くなっているのも一因であった

 

「ああ、コイツも扱い難いじゃじゃ馬だが、デカイ的(ソイツ)が相手なら十分役に立つだろう」

 

カイトは肩に担いだ巨大なハンマーを構える。彼の言からしてただの重量武器ではないであろう事はゴン達にも伝わった

 

「(・・・ねぇ、カイトってさ)」

 

「(言いたい事は判るぜ。一々面倒な制約付けて格上相手でも勝ちの目が残る能力にしてるんだろうけど、カイトの実力からしたら基本的に無用の長物ってやつだよな。チーム戦にも向いてねぇ能力だし、ピーキー過ぎだぜ。何考えてあんな扱い辛れぇ能力にしたんだ?)」

 

「(一対一の勝負で尚且つ格上相手に次々と武器を切り替えて戦うと考えたらそれなりに理には適ってるわよ。能力者本人のテクニカルは求められるけどトリッキーさとパワーを両取り出来るわ。1人、いえ、独りならさっきみたいに周囲を気にする必要も無いし)」

 

「(カイトさんがそれだけ意識しちゃう格上の『誰か』か〜。どう考えても師匠(ジンさん)だよね。凄いハンターみたいだし。まさかゴン以外にもジン(オヤジ)ハンターがこの世に居たとは驚きだよ)」

 

「(レツってばキルアと同じ事言わないでよ〜)」

 

哀れカイト。死闘の最中のエスケープも有ってかゴン達のコソコソ話にもどこか棘が含まれているようだ

 

「お前ら聞こえているからな!」

 

カイトがゴン達への怒り(軽微)を乗せてプフに鉄槌フルスイングを繰り出す。理不尽な怒りは理不尽な暴力で発散するに限るのだ

 

「連携も無しにそのような大振りの一撃が当たるとでモ゛ォおお!!」

 

「語尾が牛になってるぞ。ゴン!お前ら!今夜は俺の奢りでステーキだ。そこでさっきの話題についてたっぷり聞かせて貰うぞ!」

 

カイトが気合と共にバットのフルスイングの如き一撃を放つ。だが巨大なハンマーを扱っているとは思えない振りの速度だろうと真正面から放たれた大振りで軌道の読み易い攻撃を躱す事は理性が半分飛んでいるプフでも容易い

 

「沢山喰った直後なんだろう?そのまま寝かし付けて脂身たっぷりの牛肉に加工してやるさ!」

 

だが当然カイトの攻撃はそこで終わらない。フルスイングの遠心力に引っ張られるのを利用して二撃目三撃目と加速し続けながら連撃を放ち、四撃目以降は回転の軸が引っこ抜かれるかのような変則的な軌道でプフに襲い掛かる

 

一見するとカイトがハンマーの遠心力に振り回されているかのようだが高い戦闘技術を持つこの場の面々は恐らくは過剰に遠心力を加算させる特性を持つであろうハンマーを扱う事を前提とした一つの武術形態であると気付く

 

念能力者であれば多かれ少なかれ既存の武術とは逸脱したその者独自の戦闘スタイルを身に着ける

 

カイトのように実質複数の武具や能力をそれぞれに達人がその道一本に絞って鍛え上げたかのようなレベルで扱えるのは彼の持つプロハンターの中でも卓越した戦闘センスのなせる業であろう

 

人の動きと呼ぶには些か気持ち悪い特異な挙動に初見では対応しきれなかったプフがその顔面を頬骨を砕く勢いで殴られるが、ゴンがまだ遠くに居るのを把握していたプフは顔の半分を細分化させて衝撃を回避する

 

「クハッ!少々面食らいましたが貴方1人がそのような鈍重な武器を振り回したところで我が細胞(分身)達を滅ぼすには一手足りませんねぇ!!」

 

単身突っ込んできたカイトを嘲笑うプフにカイトが再度ハンマーを叩き付ける―――よりも早く衝撃を逃がし切ったプフの細胞が元の肉体に戻る―――よりも早く一条の光線がプフの飛散する細胞を飲み込み、消滅させた

 

「な゛あ゛ぁぁぁ!!?」

 

「へっ!密かに練習を重ねていた必殺技(コレ)をお披露目するにゃあ丁度いい機会だぜ。強力な面での攻撃が出来るのがゴンだけだとでも思ったか?これぞ男児憧れの必殺技、亀覇滅波だ!」

 

腰を落として両手を突き出すような発射後のポーズでレオリオがドヤる

 

人類の存亡を背負う強敵との一戦で己の掌から放った必殺のビームを叩き込めた事で彼の脳内はドーパミンと云う脳汁が溢れ出ているのだ

 

「ちょっと思春期(中二病)混じってっぞレオリオ。とっとと大人になりやがれ!」

 

「万年イキりストキッズにゃあ言われたかねぇよ!未来視()えるぜぇ、20年30年後のお前が今と変わらずイキってるのがよぉ。だが安心しろ。俺もこれから沢山勉強して何時しか脳いじり(ロボトミー)手術で真人間に改造(なお)してやるからよ。友人価格で50割増しで請け負ってやるよ」

 

「要らねぇし!つぅか50っつったらそこは普通50%引きじゃねぇのかよ!?超ボッタクリじゃねぇか!」

 

「金は持ってる奴からは搾り取るに決まってんだろうが!」

 

搾り取ったお金は全額医療的弱者救済に向けられるとしてもそんな形で支払いたくはないのである

 

その時、モラウの煙で巧妙に隠されたノヴの念空間の出入り口の1つから戦場から離れていたノヴ自身が戻って来た

 

「今戻った。全員無事だな?―――キルア!」

 

「おうよ!」

 

ノヴから放られたソレを左手に装着したキルアの身体から激しい雷撃が迸る

 

「この国の発電所(パワースポット)から(制圧して)借り受けた電力(もの)です。キルア、一国の盗電力(ちから)を背負った気分はどうですか?」

 

「サイコーだね。オレが放出系も持ってたらポジトロンライフルだって撃てたかも」

 

「それならラミエルも一発ね。で?目の前の蟻が相手なら?」

 

「勿論、らくしょ〜、だぜ!!」

 

キルアが気合を入れた直後に先程までにキルアが溜め込んだ全電力を消費した『神速(カンムル)』による絶え間ない連続攻撃を上回る雷撃の連撃がプフに襲い掛かる

 

「ぬぅ!?ぐああああああ!!?」

 

「『千磐破雷(チハヤブルイカヅチ)』。オレの充電容量(キャパ)発電所(コンセント)に繋げて無尽蔵に嵩増しした。こっからはずっとオレ達のターンだぜ!」

 

雷撃で身体が硬直しているプフにキルアが追加で攻撃してクラピカが鎖で打ち据え、キルアが攻撃してモラウが巨大煙管(キセル)を振り抜き、キルアが攻撃してカイトが叩き潰し、キルアが攻撃してゴンがトリプルブリッドを穿ち、キルアが攻撃してレオリオのかめはめな一撃が照射され、キルアが攻撃してポンズ(アリスタ)の毒針が突き刺さり、キルアが攻撃してレツの天竜虎博(ドラゴンパンチ)が爆ぜ、キルアが攻撃してノヴの念弾が嫌がらせのようにプフの全身の感覚器を撃ち抜く

 

キルアの神速の無限雷撃(スタン)が正確無比な機械のような精度で仲間達が思い思いに動ける環境を作り出す様は正にフルボッコだ

 

(不味い!これでは分裂した瞬間に分身が消滅する!衝撃を逃がせない。反撃どころか防御すらもままならない!)

 

「ぐぅオ―――ぶっ!?」

 

「させねぇよ。吠えるだけでオレ等の耳を潰したり毒ガスでも吐いたり火でも吹いたり、未だに何が飛び出して来るか分かったもんじゃねぇからな。もうテメェには断末魔を上げる自由もくれてやるつもりはねぇな」

 

外部供給に頼っているとは云え、雷神とも呼べる領域に片足を突っ込んだ今の状態のキルアは最強の念能力者トップ5には確実にランクインしている

 

人類の頂点2人がキメラアントの王と張り合っている中、王の側近1匹を抑え込むのに十分な戦力と云えるだろう

 

プフはこのまま山も谷も無く、王に何一つ直接貢献する事すら叶わずに虫けらのように死ぬしかないのだ

 

(王!!王!ーーー王ーーおうーーおーーーう゛ーーーぉーー)

 

どれ程強く願おうとも、プフの王への想いは終ぞ一度も王へと届く事は無いのであった

 

 

 

現状、人間界の『個』における絶対強者であるキメラアントの王が己に歯向かう獲物を狩るのではなく殺す為に放った何処かの医者志望の必殺技(か〇はめ波)とは比較にならない念による砲撃が地中を抉り、地表を焼き焦がし、上空にキノコ雲を発生させる

 

直撃したかどうかなど関係なく、その攻撃に晒されたならば現行人類の誰であろうと確実に消し炭となる破壊の奔流だ

 

ただのエサを相手に向けるにはあまりにも過剰な一撃。しかし必殺の一撃を放ったはずの当の王は厳しい表情を微塵も崩さずに背後へと振り返る

 

「ご無事でありますか?ビアー様」

 

「まぁ無事だけどなんだったの?いきなり『円』をしろとか。てか何が起きたのよ?」

 

王の目には先の一撃での傷を1つも負った様子のない生意気な小娘とその下僕が佇んでいた

 

「ビアー様の下へ瞬時に馳せ参じるのに用いております【神呼の時代(ビアー様タイム)】の応用であります。ビアー様の莫大なオーラが届く範囲はそのままビアー様がそこに居るに等しい―――その影響圏たる『女神の膝下(ビアーガーデン)』内であれば私が跳べない道理は御座いません!!」

 

「アンタはまともなワープを覚える気がないの!?なんで(ことごと)く私依存なのよ!」

 

「ご安心下さい。今はビアー様の『円』に頼ってしまいましたがもう少しコツを掴めばビアー様が実際に『円』を張らずとも実質『円』の範囲内ならば自由に跳べるようになるでしょう」

 

「結局私依存じゃん!勝手に相互協力(ジョイント)型の能力開発してんじゃないわよ!利用料払え!!」

 

「承知致しました。私の全てを生涯を掛けて捧げます」

 

「重いわボケカストロ!」

 

荒い息遣いを隠しもしないビアーはオーラを練り上げてカストロの頭をど突くと同時に再度2人の姿が掻き消え、王の背後にほぼゼロ距離で転移する

 

「おりゃ!」

 

「疾っ!」

 

ビアーの拳とカストロの蹴りが同時にヒットして王を吹き飛ばす

 

瞬間的に『円』の範囲を拡げる程度はビアーにとって呼吸に等しい自然な所作でしかなく、『意』の掴めぬ『円』への切り替えに王の反応が僅かに遅れたのだ

 

「小細工を!!その様な児戯―――」

 

「ええ、何度も通じたりはしないでしょうね。だから宣言してあげる。次に私はアンタを真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。右ストレートでぶっ飛ばしてあげる!」

 

ビアーは言い終わると同時に王に向かって最高速度で接近し拳を引き絞る。渾身の一撃を放つと云う気合いが僅かばかりも隠れていない

 

(ならば小細工を弄せんとするのはコヤツではない。また長髪の転移による奇襲か?だが小娘やあの老兵はまだしもあの者単体での攻撃など余の隙を生み出すに至らぬ。それとも連続の転移であの老兵を連れ戻すか?それだけの時間が有ればその前に小娘を殺してくれるわ)

 

如何なる小細工をも捩じ伏せ、ビアーを仕留めるチャンスを確実なものとする為に王は集中を更に高めて僅かな違和感すらも見逃すまいとする

 

王とビアー。単騎で国家にケンカを売れる強者(もの)同士の拳が同時に放たれる

 

「・・・・・」

 

「・・・ぬぐっ」

 

しかして攻撃が通ったのはビアーのみであった。カストロもネテロもビアー自身も何もしてはいない。ただ拳が炸裂する直前に王が目の前のビアーから気を逸らしたのだ

 

「なんだ?あの巫山戯た(めん)と珍妙な羊は?」

 

王の視線の遥か先には翼を羽ばたかせるルルとルルに捕まり低予算で作ったような紫のパピヨンマスクを装着したリースが居た

 

(羊は知らぬがアレは先程片腕を破壊した小娘の影武者であろう木偶人形。あの仮面は木偶の能力か?羊も?喰うにも値せぬ人形だ。そのまま朽ち果てるなら見逃したものを。アレが人形なのであれば術者は?仮面も羊もそちらの能力か?―――いや待て、何故余はこれ程までにあのような木偶を相手に意識を割いている!?)

 

王の目の前には(ビアー)が居る。更に王の後ろにも爆発の効果範囲から退避していたネテロが戻って来ていた。前後を敵に挟まれ今まさに挟撃を仕掛けられた段階までリースに意識を盗られていた王の初動が決定的に遅れ、2人の攻撃がクリーンヒットする

 

「ぬぅ!―――ッチィ!!」

 

即座に反撃に移ろうとした王だが視界の端のリースを意識から追い出し切れずに反撃が雑化してしまい紙一重で攻撃を避けた2人の追撃が届き、その様子を見たリースがニヤリと笑う

 

「あはははは!どうよ?どうよ?この仮面。単に少〜し気になるよね〜?目が離せないよね〜?地元で押収し(拾っ)たこのアイテム。まだ捨ててなくて良かった。やっぱりどんな道具(ツール)も使い所だよね♪」

 

普通の人間ならば仮面の能力の射程外となる程に距離が離れているのだが、王の人外の視力の前ではパピヨンマスクの細かいデザインまで正確に把握してしまうのだ

 

この『ただ気になる仮面』は極限の集中に強制的にノイズを奔らせる玄人同士の戦いの最中であればある程に厄介さが際立つデバフアイテムなのだ

 

瞬き1つの隙で10回は死ねる戦場で視界の中を小蝿が飛び回るような鬱陶しさは王の苛立ちを加速させる

 

「消えよ!」

 

再び王の片腕に怒りとオーラを混ぜ込んだエネルギーがチャージされ、そのままリースとルルが居る場所へ放たれる

 

「ルル!全速力!!」

 

「メェエエエエエ!!」

 

瞬時に仮面を仕舞って人形サイズとなったリースが『周』でルルのスペックを爆上げし、音の壁を容易く切り裂いて飛翔する

 

ルルは今やただの空飛ぶ羊ではなく、スーパー空飛ぶ羊なのだ。特大の念弾だろうと今のルルに当てるには最低限操作系を駆使した誘導弾でなくてはならない

 

「ほい。ブラインドタッチじゃ」

 

ネテロの観音式強制視界遮断張り手(ブラインドタッチ)が王を襲い、王は念弾への制御を捨てた回避を余儀なくされる

 

数瞬後、リース達の居た場所で本日2度目の特大爆発が巻き起こるが強大なリースのオーラがその生存を如実に知らせてくる

 

「ちぃ!役者不足も甚だしいただの小蝿がぁ!!」

 

「残念。どっちかと言えば役不足の方よ。あの娘には将来もっと大きな舞台に上がって欲しいところね」

 

王が避けた百式観音の巨大な手の甲側に気配を絶って張り付いていたビアーが具現化した手の甲が消える前に跳躍して王へと肉薄しタックルを繰り出す

 

「ぬぐっ!―――ええぃ、またか!」

 

背後から迫りくるビアーに対処しようとした王だが念弾の効果範囲から逃れて即座に仮面を付け直したリースを持ち前の良過ぎる眼力で見付けてしまう。ダサいデザインのマスクと隠しもしないドヤ顔の相乗効果でウザさMAXだ

 

だがその腹立たしさに蓋をして身体ごと反転し、ビアーやネテロと向き合う。最早捨て置く事はなく、後で必ずあの人形(リース)は破壊すると王の中で確定事項として定めて

 

「やはり先ずは貴様らからだ!」

 

「はんっ!そりゃ悪手じゃろ、蟻ん子」

 

ネテロは何とも意地の悪い笑みを浮かべた後に武に感謝し、武に祈り、観音を背後より顕現させて既に万は繰り返された神速の一撃を放つ

 

ただし今までと異なるのは観音が現れたのが王の背後(・・・・)であると云う点だ

 

【百式観音】は奥の手とされる『零の掌』で敵背後から観音が出現する。だが敵背後(それ)は『零の掌』限定なのか?答えは否だ

 

向き合った状態で敵を背後から小突けば術者であるネテロの方へと敵が飛んできてしまう

 

圧倒的な攻撃速度を誇るネテロと云えども自身の最高速(わざ)で飛んできた敵を更に【百式観音】で叩き落とす事は出来ない。それにどうせ当たるのだから敵背後から観音を出すメリットが無い

 

だが今この場には飛ばした先に打者(ビアー)が居るのだ

 

ビアー達を前にし、遥か遠くの背後(リース)への警戒を緩めた王の背中を観音でぶっ叩き、勢いの乗った王を待ち構えていたビアーの背中を使った当身で弾き飛ばす

 

「生きてりゃ何時だって後方注意だぜ、ガキ」

 

「アンタの場合は何時だって背中刺されるような(イタズラ)してるせいでしょうが!―――あ?・・・あれ?」

 

いきなり王をぶつけられたビアーが怒りを露わにするが突然身体から力が抜けたかのように脱力し、2〜3度その場に空中跳躍で留まるのが限界だったとばかりに地上に落ちていく

 

「嬢ちゃん!?」

 

「ビアー様!!」

 

ネテロとカストロが事態の変化に驚く中、それを見越していた王だけは一瞬の遅れも無くビアーに向かって羽ばたく

 

「余に背を向けるその不敬。刺されたのは貴様の方だつたな」

 

先程ビアーが王に当てた鉄山靠は王に背中と云う大きな的を提供するのと変わらず、ビアーの背中には王の尻尾の尖端の針が掠めていたのだ

 

確かに王の不意を打った事でビアーへのカウンターも不十分となりダメージそのものは大したものではないがその一瞬にキメラアントが持つ強力な神経毒が注入されたのだ

 

「死ね」

 

動かないビアー

 

トドメを刺す王

 

間に合わないネテロとカストロ

 

遥か遠くに居るリースとルル

 

―――鮮血が舞う

 

 

「―――貴様!」

 

「残念。毒は克服済みよ」

 

王の貫手を『赤裸々(ドレス・ブレイク)』で弾きつつ同時に放った斬撃が王の脇腹を抉る

 

色とりどりの各種毒キノコミックスソテーなども平気で食べられるようになったビアーに即死の猛毒ですらない麻痺毒などジョッキで持って来いと云うレベルである

 

これまでの戦闘で『赤裸々(ドレス・ブレイク)』を使っても王の攻撃を逸らすか、攻撃したところで防御されていた。だが勝利を確信した王の真っ直ぐな一撃であればカウンターも刺さる

 

通常の念の近接戦闘では敵の攻撃を受ける事と反撃する事は同時には出来ない

 

近しい強さならばオーラを集中させた敵の攻撃は受けるのも受け流すのも体術以外に相応のオーラが必要になるので反撃はどうしてもワンテンポ遅れてしまう

 

しかしビアーの攻防力は常に全身に等しく巡っているニュートラルな状態。敵が攻撃する瞬間は既に圧倒的な『流』を扱える王であっても間違いなく攻撃する部位以外の攻防力は激減する。ならば敵の攻撃を誘う事が出来れば攻撃がヒットする瞬間にタイムラグ無しでカウンターを成立させる事が可能なのだ

 

「まだまだ!!」

 

ここで初めてビアーが攻勢に出る。その際彼女の体術に今までとは違う動きが混ざる

 

拳打よりも掌打の比重が高くなりラリアットやタックルなど点よりも面に重点を置く攻撃に変わる

 

中には格闘技の合理からは外れて威力が落ちる様にしてでも武の型を調整し己が全身凶器と云う前提で戦闘スタイルを最適化する

 

「双骨!からの六王銃(ろくおうがん)!」

 

面での攻撃の次はダブルパンチからのダブル寸勁(すんけい)でオーラによる防御箇所を分散させる

 

「【百式観音・三ノ掌】!!」

 

「『女神の膝下・百花繚乱(ビアーガーデン・フルブルーム)』!!」

 

怒涛の攻めを繰り出す現れた観音が反撃に移ろうとする王を両側面から蚊でも潰すかのように挟み込んで動きを封じ、何時の間にか転移をモノにしたカストロの連続転移で時にビアーを、時に王の位置をズラして王の調子を狂わせる

 

加えてカストロの転移を受けた王は視界を強制的に動かされる影響で折角見ないようにしていたパピヨンマスクも意識の片隅を抉ってくるのだ

 

しかしここまでやっても王へのダメージは軽微なもの。王が態勢を立て直す前に押し切るにはやはり攻撃力が足りていない

 

ならば仕切り直すか?

 

「じょ〜だん。魅せ場の1つも無しに舞台を終えてらんないわよ―――そうでしょ、リース!」

 

「と〜ぜん!リース、セルフアンコールにて見参!裏方や舞台装置で終わらないよ〜」

 

ビアーの苛烈な攻めの間にルルから離れて再び戦場の中心に戻ってきたリースがビアーの隣にピタリと収まる

 

「「さぁ!こっから先はハイライトだよ!!」」

 

ビアーとリースの自信に満ちたハモリが木霊する

 

「良かろう。余、自ら貴様らの死に様(クライマックス)とやらを演出してやる。光栄に思うが良い」

 

王の怒りのオーラが今度は全身を駆け巡る。見た目には特段の変化は見受けられないがその鎧のような外骨格の内側からミチミチと筋肉が膨張・圧縮する音が響き、今にも噴き出しそうな『暴』の気配が漂う

 

中学生VS鎧を着たボブ・サ◯プ?―――否。今の王はパワードスーツを着た◯ブ・サップだ

 

「「ええぇ・・・100%中の100%とか別に望んでないんだけど、流石はB級モンスターってやつ?」」

 

「はんっ!結局はガキの癇癪(かんしゃく)じゃろ。どうという程の事でもないわい」

 

「やはり見間違いではなかった。ビアー様が御二人・・・ならば私も2人とならねば無礼と云うもの!ヌゥおおおおお!!これが私の忠義の新技(あかし)!―――【ダブ!?るふぅうう!!?」

 

原作で『容量(メモリ)』の無駄遣いと言われた能力を開発しようとしたカストロの頭をお金(コイン)で撃ち抜く事で阻止するビアーであった

 

(あれ?咄嗟に止めちゃったけど原作と違って各系統の基礎修行もマジメに熟しているカストロなら【分身(ダブル)】もそんなに『容量(メモリ)』喰わないかしら?それに今の彼なら原作みたいに動揺からの能力発動不可とかも無縁そうだし、止めるべきじゃなかったかな?・・・考えるのや〜めた)

 

どうやら最後にカストロの魅せ場はお流れとなったようである

 




次回はビアー達がこのまま畳み掛けて試合終了!・・・とはならない予定ですかね
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