ジークヴァル会戦において敗北した帝国軍は連邦軍にじりじりと国内への侵攻をゆるしてしまった。しかし、そんな帝国に好機が訪れた。例年より早い冬季の到来である。雪に不慣れな連邦軍の不意を突き反攻作戦に出た帝国軍に連邦軍は下り坂を転げ落ちるように戦線を後退していった。それこそジークヴァル会戦の勝利をふいにしてしまう程に。
そんな帝国にとって最良の状態が続く中帝国の皇子であるルートヴィヒは帝都に帰還していた。ガリア公国への侵攻の失敗を受けて和平を結んだ事によって溢れた帝国軍の再編成の為である。
「ルートヴィヒ。私はお前を信頼している。マクシミリアンが使っていた兵士たちを上手く編成して連邦軍との戦争に使ってくれ」
「任せてくれ兄上。とは言え今の連邦軍も崩壊は近いんじゃないか?」
ルートヴィヒは長兄である皇太子と会話をしていた。皇太子は同じ母を持つルートヴィヒを弟として可愛がっていた。加えて本人に皇帝位を望む野心がなく好き勝手に動ければそれでいいと考えている事が伝わってきた為妾の母を持ち野心があるマクシミリアンを嫌う事はあれどルートヴィヒを嫌う事は無かった。
「そう言えば父上が言っていたが嫁を持つ気はないのか? 別に女に興味がないわけではないのだろう?」
「嫁か……。別にいらないわけではないし貰えるのなら欲しいとは思う。だが、それで俺の行動が制限されるのは嫌だぞ」
「その辺は父上も分かっている。相手はカミラ嬢だ」
「カミラ? ……成程な」
カミラは帝国貴族の中でも絶大な影響力を持っている公爵家の令嬢である。幼少期より親の思惑が含まれていたがルートヴィヒの傍にいる事が多かった。しかし、その結果ルートヴィヒの性格に似てしまいじゃじゃ馬娘となってしまったためそれを直すために両親が領地でみっちりと教育を行いルートヴィヒから距離を取らせていた。
尤も、手紙のやり取りや写真を送り合う事はしていた為完全に縁が切れた訳ではなかったがカミラを異性として認識するには出会っていた時期が幼く距離が遠すぎた。
「公爵家はカミラとお前の婚姻に対しては反対はしていないしこちらとしても彼らを引き込めるのなら万々歳だ。確か久しぶりに帝都を訪れているそうだ。決断は一度会ってからでも遅くはないと思うぞ」
「そうだな。手紙でやり取りをしていたし写真も最近のがある。久しぶりに会ってみるか」
ルートヴィヒは幼い頃に遊んだ令嬢の姿と写真で野性味あふれる笑顔を見せていた姿を思い出してくすりと笑った。そんな穏やかな時が流れていた時だった。
「皇太子殿下! 敵襲です!」
「何? この帝都にか!?」
「はい! 帝都の中心外に突如門が出現しそこから騎兵が出てきました。中にはドラゴンと思わしき空を飛ぶ生き物も確認しています!」
「っ! 兄上を警護しろ! 絶対に守り通せ! それと俺の双子は何処か!」
「ここに」
「何時でも一緒」
すぐに状況を把握したルートヴィヒが指示を出しヴァルキュリアである双子の居場所を聞き出そうとした時部屋に双子が入ってきた。既に状況は知っている様で武装である盾と槍を持っていた。
「双子は空の敵を排除しろ。絶対に一匹とて逃がすな! それが終わったら地上の敵だ! いいな?」
「必ずや敵を叩き潰して見せます!」
「了解」
双子に指示を出したルートヴィヒは皇太子の方を見た。皇太子は先ほどよりも険しい表情をしていたが落ち着いた状態でルートヴィヒを見ていた。
「兄上。私も戦います。兄上は避難をお願いします」
「ルートヴィヒ死ぬなよ? それと捕虜は必ず取れ。敵がどこからやってきたのか、連邦の兵器なのかを確認する必要がある」
「任せてください。カミラと再会する機会を奪った敵ですが私とて軍人です。その辺の事は分かっているつもりですよ」
ルートヴィヒはそう言うと部屋を出た。その直後に帝国軍の兵士が入ってきて皇太子を護衛しながら帝都の外に避難させ始めた。
「愚かなる敵よ! 我がルートヴィヒの前にしねぇ!」
後に「帝都襲撃事件」と呼ばれるようになるこの一連の出来事により市民に大量の死傷者を出した。更には一部の貴族や令嬢、令息が死亡、若しくは行方不明となった。その中にはカミラの名もあった。
帝国は直ぐにこの事件の解明を始めた。その結果、突如出現した門からやってきた事が分かりその先が全く知らない世界だという事も判明した。
「我が偉大なる土地に土足で踏み入った野蛮な奴らを駆逐するのだ」
皇帝はそう宣言し軍隊を向かわせる事を決定した。総大将はルートヴィヒが務める事になり彼が編成する予定だったマクシミリアンが率いていた軍勢を中心に十万近い軍勢が門の先、異世界へと雪崩れ込んだ。
「この世界は帝国の植民地とし帝国に矛先を向けた事を子孫にまで後悔させてやる」
ルートヴィヒはそう宣言し異世界への徹底攻撃を決めた。
しかし、そんなルートヴィヒの思いを阻むようにもう一つの門より別の軍勢が現れた。
日本の自衛隊と名乗る彼らとの出会いはルートヴィヒを、そして異世界をどう導くのか。それはまだ誰にも分からない。