日本国特地方面派遣部隊指揮官狭間浩一郎は頭を抱えていた。彼の傍には同じように頭を抱えている特地方面派遣部隊幕僚である柳田明もいた。
特別地域、通称”特地”と名付けられた異世界に
異世界側の門周辺の安全を確保した自衛隊だがそんな彼らに接触する国があった。
東ヨーロッパ帝国連合と名乗った彼らは自衛隊とは別の門からやってきていた。彼らがくぐって来た門は日本と通じる門の北東に位置しておりギリギリ目視出来る距離にあった。彼らも日本と同じように帝国軍の襲撃を受けた事は察する事が出来たが問題は彼らだった。
「我々とは違った歴史を歩んだヨーロッパの国か……」
「”帝国”を名乗る彼らが取り敢えず話が出来る相手で助かりましたね」
そう、彼らは日本の様に帝国に賠償を求めてやって来たのではない。この異世界を植民地にするためにやってきていた。実際に、門周辺に基地を作りそこから一歩も出ない日本と違い帝国軍は万単位で門から軍勢を集め北上を開始した。南には自衛隊がいる事と帝国軍が北に逃げた事が進路の理由だろう。
「帝国……、同じ国名だし彼らは帝国連合と呼ぶがどんな感じだ?」
「理性ある侵略国家、という言葉が今のところは彼らの印象です」
外交官などいない現状で柳田が自衛隊の代表という形で彼らに会っていた。その時に柳田があった帝国の皇子との会話から少なくとも話せない相手ではないが信用するには危険すぎる相手という印象を抱いていた。
実際、皇子ルートヴィヒは終始温厚な態度で柳田と接したが自衛隊や日本の事をさりげなく聞き出そうとしており一歩間違えれば情報を全て持っていかれていた可能性があるとその時の事を思い出し柳田は青い顔をした。
「ですが彼らの軍を少しだけ見ましたが第二次世界大戦前後の技術力と言った所でしょう。それで片付けるにはあり得ない兵器もありましたが」
「そうか。武力衝突が起きない事が望ましいがいずれにせよこのままでいる事は出来ない」
狭間陸将はそう言い切った。既に帝国連合の話は政府に報告している。今後どういう行動を取るにしても帝国ではなく帝国連合を見て判断する事になるだろう。最悪の場合門を破壊して撤退する道もある。その場合は被害者遺族や各国からのバッシングは避けられないだろうが。
「兎に角帝国連合に対しては動向のチェックを怠らないように。彼らがこちらに銃口を向けてきても対応できるようにするんだ」
「了解しました」
「それとこちらも基地の完成次第偵察隊を出して周辺の調査を行おう。北は帝国連合が展開しつつある。南に行くか……」
「帝国連合がいるからと北に派遣しないのも問題でしょう。多少危険ではあると思いますが北にも部隊を派遣するべきです」
「……そうだな。分かった。その編成もすぐに取り掛かろう」
日本国は当初の目的から大きく逸れつつも特地で価値ある物を得て被害を補填しようと動き出すのだった。そんな彼らに連合諸王国軍と呼ばれる国家連合が侵攻してくるのはもう少し後の事だった。
「日本……。彼らは脅威と言える」
北上の結果ファルマート大陸と呼ばれる場所に来たと分かった東ヨーロッパ帝国連合は一時軍勢を停止して将校を集めて会議を行っていた。門を中心に大規模な軍事施設と化しつつある前線基地にてルートヴィヒはそう言って同じく異世界から来た日本の事を話し始めた。
「彼らも我らと同じようにここの蛮族共に奇襲を受けたらしい。そして反撃をしたが今は門周辺に閉じこもっている」
「殿下、そんな彼らが何故脅威と言えるのでしょうか?」
ルートヴィヒの言葉に一人の将校が疑問を投げかけた。侵攻するわけでもなく門周辺で閉じこもっている奴らのどこが脅威なのか。自衛隊を遠目からしか見たことが無い彼の疑問は至極当然と言えた。そんな彼にルートヴィヒは説明する。
「一つ目、軍事力。奴らは我らより洗練された戦車を有している。兵の武装までは分からないが少なくとも我らと同等かそれ以上の可能性が高い」
「それほどですか?」
「ああ、南から攻めて来た蛮族を日本軍が追い払ったのを見て確信した」
数日前に行われた連合諸王国軍と自衛隊の戦い。それを見ていたルートヴィヒは日本国の実力を見せつけられたような気がしていた。
「二つ目。距離の近さだ。我らは奴らより北東に位置している。それもギリギリ目視できる距離だ。だが、そんなものは戦争では圧倒的に近い」
両国の主要基地が目視できる距離に位置している。それはその国同士が戦争になった場合あっという間に攻撃を受けるくらいには近かった。加えて日本国は帝国連合より軍事力が高い。攻勢すらまともに出来ずに門を破壊される可能性が高かった。
「三つ目、はないがこの二つだけでも我らを脅かす国として見るには充分だろう」
「確かに……。殿下の言葉通りなら我らは目と鼻の先に猛獣が寝ている様な者ですね」
「となるとこちらから仕掛けるか? 幸い奴らに動きはない。こちらから仕掛ければ門を破壊して動きを封じる事が出来るのではないか?」
「いや、それで決着がつけばいいが万が一失敗すれば窮地に陥るのは俺達の方だ。もう少し情報を集めてからでも遅くはないのではないか?」
ルートヴィヒの言葉を受けて将校たちが話し合う。彼らは帝国連合においても精鋭と言える者達であり実戦経験こそ連邦との前線で戦う将校よりは少ないが十分すぎる実力を持っていた。そんな彼らが自らが守る帝都を襲撃されて以降脅威に対して敏感になっていた。それはルートヴィヒも分かっている為少しづつ先制攻撃で固まりつつある彼らを手で制する。瞬間、その部屋は静寂に包まれた。
「諸君の懸念は尤もだ。私だって感じていたのだ。帝都を守って来た君たちなら一目瞭然だろう。だが、我らの敵はあくまで帝国を名乗る蛮族共だ。態々敵を増やす必要はない。もし敵となるのなら相手をするがそうでないのならこちらから仕掛ける事はしない」
「ですがもし彼らが我らに攻撃してきた場合は……」
「そうならないように奴らの政府と会談を申し込もうと思っている。奴らとて我らと敵対する気なら今頃門周辺に閉じこもってないでこちらを攻撃しているだろうからな」
ルートヴィヒの言葉に将校たちは一応の納得を見せた。
数日後、帝国連合より日本国に対して正式な会談が申し込まれた。日本国は内外の思惑を抱えつつ承諾しここに異世界国家との初の会談が実現する事となった。