東ヨーロッパ帝国連合という国は欧州の国々にとって油断ならない、敵以外にならない国家として認識されていた。かつて発生した世界大戦において帝国はゲルマニア帝国を単体で撃破し、その栄華を一度終わらさせていた。そのせいでアトランタ合衆国は参戦の機会を逃し、利益を得るには至らなかった。極東に位置する皇国とは同盟を結び、極東方面の脅威を取り除き欧州に全力を注げるかの国は欧州の全ての国が一致団結して抗わないといけない程の絶大な国力を有していた。
かの国や隣国ガリアで産出されるラグナイトは石油資源よりもはるかに高エネルギーを有しており、それらを用いた帝国の兵器は圧倒的な力を誇っていた。
更に、彼らはヴァルキュリアという伝説の存在を復活させ、自国の戦力として運用している。その実力は世界大戦で発揮されており、彼らの前に現代兵器はほとんど通用していなかったのだ。
そして、そんな国故にプライドは高く、自国と対等にいる存在等いないと言わんばかりの態度で外交に臨んでいる。そんな帝国が気を遣う国など何もない極東とはいえ背後を任せている皇国やアトランタ合衆国くらいだろう。ブリタニアですら彼らの前にはへりくだるしかないのだ。
だからこそ、エイルシュタット公国は東ヨーロッパ帝国連合への支援要請を受け入れたことに驚愕していたのだ。ゲルマニア帝国という目の前に迫る危機になりふり構っていられなかった外交官は軍部を中心とする者達に反対されながらも支援を要請していた。とはいえこれは断られるだろう若しくは服従レベルでの見返りを求められると考えていたが蓋を開けてみればそんなことはなかった。
『我が東ヨーロッパ帝国連合はエイルシュタットの救援に応じ、支援を開始する』
そう宣言して彼らはゲルマニア帝国の同盟国領を横切り、あまつさえゲルマニア帝国領内すら通ってエイルシュタット公国に大量の支援物資を送りつけたのだ。エイルシュタット公国が断る間もなく。結果、エイルシュタット公国は侵攻前に帝国製の強力な武器や支援を得るに成功したのだ。
そのことを帝国に感謝すれば、
『次は我が国の皇子であるルートヴィヒ殿下が率いる10個師団ほどを送っている。迎え入れる準備をしておいてくれ』
そう返され、エイルシュタット公国は更なる混沌に陥った。ルートヴィヒの名はエイルシュタットにおいて他人事ではなかった。何しろ公女フィーネに並々ならぬ感情を向けており、今に至るまでアプローチを続けていたのだ。時には東ヨーロッパ帝国連合が全面的にバックアップすると確約するくらいにはフィーネに本気になっており、同じようにフィーネに交際を申し込んでいたブリタニア王国のヘンリー王子との差を見せつけていた。
因みに、その婚約を受け入れていた場合、ルートヴィヒが入り婿としてエイルシュタット公国に入り、東ヨーロッパ帝国連合によってゲルマニア帝国相手に単独で防衛できる程度には国力が強化される事になっていただろう。その後に訪れる亡国への歩みは止められなかったであろうが。
「まさか帝国がここまで早く動くとはな……」
ブリタニア王国の援助を受けるべく隣国ヴェルトリアに向かう予定であったフィーネはその予定を変更してルートヴィヒを歓迎する準備に追われる事となった。フィーネとしては帝国よりもブリタニアとの関係を強固なものにしたいと考えていたがこうなっては仕方ないと出来る限り帝国から支援を引き出しつつ友好的な関係を築こうと準備を始めていた。
帝国軍は10個師団、約15万人程の兵で向かってきており、彼らを受け入れる場所をどうするかも問題であった。帝国側は大まかな軍の編成も教えてきているがそれらにフィーネは頭を抱えるしかなかった。
「ヴァルキュリアが2人も……。恐らくあの娘たちだろう……。うぅ、何故私を選ぶんだ。あんな美人を侍らせておきながら……」
ルートヴィヒが誇る機甲師団に対空砲師団、野砲師団に加えて帝国の切り札たるヴァルキュリアが2人派遣することになっていた。フィーネはかつて出会ったルートヴィヒが侍らせていた二人の少女を思い出す。見た目だけではとてもヴァルキュリアには見えない双子の少女達は誰もが絶賛する美貌を持っており、それらのに何故自分に執着するのだとフィーネは痛くなってきた胃を抑えながら考えていた。
それでも歓迎の準備をしないわけにもいかない。もし、機嫌を損ねられ、そのまま援軍が敵となった場合、エイルシュタットは何もできずに占領下に置かれるだろう。帝国でも精鋭と知られているルートヴィヒの軍勢ということもあるがそもそもの話、エイルシュタットに向かってきている軍勢を相手できる程の数が存在しないのだ。
加えて、ヴァルキュリア人の力は規格外と言ってよく、彼女たちだけでもエイルシュタットを更地にするのは容易なのだ。そんな大戦力を保有する帝国が自らを手に入れるためにここまでしてくるのだ。胃が痛くなるのも仕方のないことだろう。
「だがこれでゲールもエイルシュタットに侵攻する可能性は減った事だけは良かったと言えるな」
国境沿いに展開していたゲルマニア帝国の軍勢は今は存在していない。帝国との開戦を避けるために軍を引いたからだ。流石のゲルマニアも何の準備も無く帝国とたたかう事は避けたいようだ。
「このまま何事もなければいいのだが……」
しかし、円滑な補給線確保を目指すゲルマニアと自らを手に入れたいと考える帝国、というよりルートヴィヒがこのままで終わるはずがないとフィーネは確信していた。必ずエイルシュタットを舞台に熾烈な戦争が起こる。その時の事を考え、フィーネはキリキリと痛む胃を抑えながらエイルシュタットの平和を願うのだった。