「事態が動き出す……か」
俺は御堂さんから来たメールを確認する。
どうやらこの秋葉原に妖主が来るらしい……そのための対策やいろいろな準備があるから、自警団アジトへ集合と……どうやら瀬嶋も来るらしいな。
というか妖主が来ることは確定している……瀬那から連絡が来たからな。俺の事を信用してくれてるのか、どうせNIROも掴んでいる情報だから教えたのか……前者だったらいいがな。
まあ、まずは自警団アジトへ行こう。
「おや……お嬢様、ユウトさんがお見えになられました」
俺がアジトに着くと、御堂さんはサラさんからのもてなしを受けていて、男性陣三人は隅で思い思いにだべっていた。御堂さんが少し冷や汗をかいてる風に見えたが……サラさんにメイドの勧誘でも受けたか?やめとけサラさん。NIROの人間だぞ。
とりあえず俺が来るなり、作戦会議が始まる。
「今後の任務については後ほど瀬嶋さんがやって来ますので、それまでに現状をお話いたします」
そして御堂さんが喋る内容は、妖主が来る事、そして俺やサラさんはとっくに知っているカゲヤシの生態について……とりあえず聞き流すか。
そして一通りの話を終える。
「良い機会ですし、何か質問等はありますか?」
ふむ、一応カゲヤシ側はNIROを騙せてるかどうか確認してみるか。
「NIROでは次期妖主の情報を何か掴んでるんです?」
「恐らく、まだ我々には姿をみせていないと思われます。眷族の中でもこの秋葉原で、引きこもり化計画の指揮を練っている妖主の代理がいるはず……我々はそいつこそが次期妖主と踏んでいます」
ふむ、騙されているな。
「つまりはそいつも含めて倒せれば御の字ってわけか」
ノブ君がそう言うが、御堂さんが言った次の言葉に、俺はさらにNIROへの不信を募らせる。
「あ、いえ……可能な限り、次期妖主は捕縛するようにと、瀬嶋さんは……」
ふーむ、クソ組織には違いないが、それでも結果的には人類の為に行動してるかもと思ったNIROが、最早怪しさの塊、悪の秘密結社染みてきたな。御堂さんも捕縛する理由は知らなそうだし、この話はここまでだろうが。
「ほかに何かありますか?」
「……では、私から」
次はサラさんが質問するそうだ。
「どうぞ」
「彼らの情報を、一体どこからエージェント組織は得ているのですか?資料を調べればわかる、というものではないでしょう」
「それは……」
「それがあるんだよ。とても古い、戦時中の資料だがね」
その質問には、遅れてやってきた瀬嶋が答える。
だがサラさんはまだ納得がいっていないようだった。
「資料があっても、今の彼らの情勢まではわから」
「待て」
瀬嶋はそう言って強引にサラさんの腕を掴み、観察する。変態だー、じゃなくてこれは……疑われてるな。
「……ふむ、人間の皮膚だな」
「な、何を……」
「いやなに……目つきがな。まるで敵視……といった感じだったから、確認したまでだ。すまないな」
サラさんは穏健派とはいえカゲヤシ側と繋がりを持っている……いつかはバレるだろうから、それまでにNIROは潰さんとな。
「……では、疑いが晴れたところで、質問をしてもよろしいでしょうか」
「ああ、かまわんよ」
「仮に資料があったとしても、現状の彼らの情報までは記載されていないのでは?」
「ふん、確かに、そうだな……しかし、わからんかね?」
「……?」
瀬嶋は自分たちが、ただカゲヤシを無計画に駆逐する事はせず、何匹か『サンプル』を捕まえたことを話し始めた。今のカゲヤシの情報はそいつらが吐いた情報だそうだ。確かにカゲヤシは害獣などの生き物と違って明確な知性を持っている。拷問でもすれば情報の一つや二つ、吐いてしまうだろう。
「……その人達は、今も?」
「良い質問だ。それが今回、君たちに頼みたい事に深く関連している。こちらで確保していたサンプルが手違いで、すべて死んでしまってね」
「……そんな!」
「……なんだね」
「いえ……」
サラさん、落ち着け。今、コイツにいろいろバレるのはマズイ。
「つまりは、新しいサンプルが必要だ。できれば妖主の眷族が欲しい。そこで協力を頼みたい」
そして瀬嶋から言われた指令は……森泉鈴の捕縛だった。
「彼女を捕まえて……どうする気ですか?」
「そんなに彼女らが気になるかね?……まあかまわんさ。無論、彼女らの情報、特に次期妖主について聞き出す意味もあるが、それ以上に血がね、必要なんだよ」
「カゲヤシ化、毒には毒を……か」
何かカッコよさげにノブ君が言ったが、そういう意味で合っているだろう。察しはいいんだからもうちょと空気読めばいいのにな。
「そうだ。彼女らの血を得て、我々はようやくフェアな戦いが可能となる。先日、妖主が急激に動きを活発化させた際に、大量に必要となってしまって、『在庫』が切れてしまったんだ」
「在庫って……」
言い方よ。完全にカゲヤシをナメ腐ってるなコイツ。まあ頃合いだろう……そろそろNIROを裏切る準備でもするか。
この後の会話で、秋葉原のエージェントはカゲヤシ化をしていないことを聞いた。御堂さんはカゲヤシ化に反対したい立場っぽいし……ただその時にお前、化け物の汚れた血とか言いやがったな。カゲヤシの血は素晴らしいんだぞ。
「君が羨ましいよ。眷族の血を得られると、ここまで長く継続できるとはな。しかも眷族の者たちと同等の身体能力ときている。末端とは本当に別物のようだ。資料を読む限りでは眉唾だと思っていたがね。しかしその力、過信するな。いくら眷族の血でもそろそろ効果が下がり始めるはずだ」
そうか……そうだったな。瑠衣からもしばらくしていれば普通の人間に戻れると言われている……。
その後瀬嶋からカゲヤシ化は危険な麻薬のようなもとと言われる……これはコイツの言う通りか。何か血を補充する案を考えないとな。瑠衣はもう血をくれ無さそうだし……。
「だが、一定以上血を摂取すれば、体がそれを受け入れ、カゲヤシ化が定着する可能性がある……という研究結果がある」
ほう、なら尚更血が欲しいな。NIROなんぞにくれてやるもんか。
その後、瀬嶋は改めて作戦の概要を説明する。自警団の仕事は街の見張り……つまりは鈴がどこに逃げても追跡できるように監視をしてほしいというものだ。もちろん俺は実力行使の側で実際に捕まえる役だ。
「それで捕まえ、情報を吐かせ、血を得ようというわけですか。あんな、女の子から」
……サラさんも隠さなくなってきたな。事が事だし仕方ないと言えば仕方ないが。ちなみに瀬嶋の反論は君も動物の肉を食うだろう。外見が人間に似ているからと言って過度な感情移入はやめるべき……という屁理屈みたいなものだった。というかカゲヤシを家畜扱いしてるなコイツ。
「ふむ、しかし君の意見は尊重しよう。今回の計画に、君は不参加でも構わない」
これは……サラさん試されているな。
「……いえ、やらせていただきます」
「……そうか。君は立派だ。これもこの国、そして人類のためだ」
これは、サラさんは敢えてこの作戦に参加することで、情報の攪乱を行い、鈴を逃がそうとしているな。俺もそのつもりだ。
「……ちなみに不参加を表明する者はいるかね?」
自警団の中に、不参加を表明する者はいなかったが、誰一人として乗り気な者もいなかった。
というわけでこの場は一時解散となったが、俺には御堂さんからメールが来る。どうやら一旦屋上に来てほしいそうだ。
「さて、屋上に向かう前に……情報のお返しでもするか」
俺はこの作戦の情報を簡潔にメールにまとめ、送信する。相手は……瀬那だ。
―瀬那視点―
「あ、ユウトから連絡がきた」
内容は……NIROによる、森泉鈴の捕縛作戦ね……私が送った情報のお返しかな?
まあお返しかどうかはともかく、手を打たないといけない案件ではある。
「……優」
「あん?なんだよ、アネキ」
「命令よ、森泉鈴、彼女の監視…いえ、護衛につきなさい。エージェントが狙っている」
彼からのメールにも書かれているけど、彼女は瑠衣が次期妖主だって知っている。それに彼女の血によって強化エージェントが量産される……それは避けたい。
その事をユウトからのメールの事は伏せて、優に伝える。
「それはわかるけどよ……アネキ、そんな情報どこで知ったんだ?」
「あなたが知る必要はないわ……ま、もうすぐわかるかもしれないけどね」
「……?まあいい、従ってやるさ」
さて、後は彼がどう動いてくれるか……。
「ただいまー、そういえば優が出て行ったけど何かあるの?姉さん」
「優には仕事を頼んだだけよ」
「ふーん」
「さ、舞那。私達はママを迎え入れる準備をしないと」
新しいアジトは優が手配してくれている。引っ越しくらいは私達の手でやらないとね。
―ユウト視点―
「お待ちしておりました。早速ですが任務をお伝えします。四葉さんは公園で配置についてください」
「それで、なんで屋上に?」
「……やはり、自警団の皆さんは、この作戦にはあまり乗り気ではないようですね」
「……まあそうかもしれないですね」
一応事情を知っているサラさん以外の自警団メンバーも鈴の姿を見かけている……いくらカゲヤシとはいえ、あんな女の子を強引に捕まえるような作戦、ノリノリで参加するわけがない。
「私も昔は悩みました。奴らはまるで人間の姿そのままで、最初は灰とすることには抵抗がありました……ですが、そんな時に瀬嶋さんが相談に乗ってくれて……」
ああ、洗脳されたんだな。この後御堂さんの過去話や瀬嶋の事について聞かされたが……ま、こいつも可哀そうな奴ではある。
「私が入ったばかりの頃はまだ、引きこもり化計画は実行されておらず、全国を転々としていました。その後、あの計画が実行に移され、次々に未来を閉ざされた若者が続出しました。廃人同然となり、外に出るのを怯えるほどに精神、肉体双方に現れる虚弱性……奴らは明るい未来が約束されていたはずの彼らから笑顔を奪った。これを悪事と言わずして何というのでしょう。被害者をこれ以上、増やさないためにも、彼らを倒すことは必要なのだと、私ははっきりと自覚したのです」
……こいつ正気か?今の自分の発言におかしい事がある事に気が付いてないのか?
今のこいつの言い分だと、お前らNIROがカゲヤシを狩りまくったから、引きこもり化計画が実行されたように感じるぞ……もしかして全部こいつらのせいなんじゃね?
やっぱさっさと潰した方が良いよな……NIROは。
「……あ、し、失礼しました。つい、自分のことで長々とお時間をとらせてしまって……今回の作戦や、妖主のことで、私も無意識に不安なのかもしれません。誰かに話を聞いてもらって、今一度自分の気持ちを新たにしたかったというか……すみません」
こいつはホントに人を見る目がないな。瀬嶋もそうだが……俺の事信用しちゃってまあ……。俺はこいつに気休めを言う気もないので無言を貫く。
「……では、四葉さん持ち場は公園です。配置についてください」
「了解」
俺は淡々と返事をし、公園へと向かった。……なんか御堂さんがこれで俺の友人の治療がどうとか言っていたが何のことだ?
俺が公園に着き、しばらくするとメールが来る……どうやら別の場所での、森泉鈴の捕縛に失敗したそうだ。護衛のカゲヤシがいた事と……ほう、阿倍野優が乱入してきて鈴を逃がしたか。
俺の送った情報から、手を打っていてくれたようだな……瀬那。
「そして監視からの報告で公園方面に向かったと……そろそろこっちに来るな」
少し待つと、鈴が走ってやって来た。
「……あっ!ユウトさん!……え?……まさか……ウソ、ですよね……?」
「もちろん、俺が話を合わせとく。お前は早く行け!」
「……!は、はい、ありがとうございます!それでは!」
もちろんここで俺は鈴を見逃す。
少しして、御堂さんと瀬嶋も来た……残念だったなお前ら。
「四葉さん!こっちに目標は!?」
「来ていないです」
「……チッ、どこかの建物に入られたか……監視体制を立て直し、近隣に集中させろ。私はもう一度この辺りを捜索する」
「はいっ!」
もちろんその後も鈴は見つからず、作戦は失敗とされた。
「今回は残念な結果となってしまいました」
いやーよかったよかった。これで一安心だ。
「四葉さんは気にしないでください。最初の襲撃で身柄を押さえれなかった私達のミスです……それに阿倍野優乱入という想定外の事態も発生しましたし……」
お、そうだな。お前らが悪い。
「それに阿倍野優には逃げられましたが、他の末端のカゲヤシ共は確保できたので、とりあえず、それでしばらくは何とかなるようですから。またご連絡いたしますので、しばらく体を休めていてください。それでは」
そういって御堂さんとは別れた。よーし、今回はうまくいったな。
あとは、妖主が来たら、表立ってNIROを裏切ってやる……!
主人公はカゲヤシ化の影響で友人の事を忘れかけています。