「こんな場所があったなんて……」
「ふふーん、アンタは知らないでしょうけど、ママたちがこっちに来た時に備えて準備していたのよ」
「手配したのは、ほとんど優だけど」
アイツいろいろやってんな……とりあえず今俺達はUD+ビルの一フロアにいる。どうやらここが新しいカゲヤシ達のアジトらしい。
「さてユウト、あなたの事は瀬那や優から聞いているわ」
「やっぱり報告しておいてくれたか」
「え…え……?ユウト、どういう事?」
「姉さん?」
瑠衣は俺が教えなきゃ、知らなかっただろうし、舞那は……仲間外れにされちゃったなこりゃ。
「あら、瑠衣はそこの彼から何も聞いていないのね」
「まあ瑠衣に教えるのは慎重になってたな」
「そうね、ねぇ瑠衣、ユウトは最初から私達の仲間になりたかったみたいよ?」
「そんな……それじゃあ、穏健派は……人間との共存は……!」
「安心しろ瑠衣……俺も人間との共存には賛成だ」
俺の言葉に妖主の顔つきが険しくなった気がした……しかし、それもすぐに不敵な笑みに変わった。
「ふふ……血のせいで瑠衣を本能的に妖主だと感じ、それで」
「か…母さん……?」
「瑠衣……カゲヤシは妖主の血脈を本能的に察知し、強い好意を抱く……昔、ちゃんと教えたわよね?つまり彼はあなたの意思に従って人間と共存なんて言ってるのよ」
へえ、カゲヤシってそういう生態なんだ。まあ実際カゲヤシ化して内面にも変化はあるな。
「違う……違うよね、ユウト……ねぇ?」
「……俺のこの気持ちは偽りのものだったのか」
「そ、そんな!?」
「……冗談だよ」
「へ?」
まあこれは瑠衣を安心させるためだ……。
「妖主、もし俺が瑠衣の血でまるで洗脳されたかのように好意を持っているなら、ウソでも今みたいに突き放す言動なんてできないんじゃないか?」
「つまり、人間との共存はあなた自身の意思だと?」
「ああ」
「ユ…ユウト……!」
「瑠衣、人間との共存を本気で願っているなら、お前自身の言葉で、母さんを納得させるんだ……俺もフォローしてやる」
「うん!」
さて、とりあえずは瑠衣は自分の考えを妖主に話す。ここ秋葉原で人間の暮らしに憧れ、自分もそうなりたい事、人間たちと楽しく、仲良く暮らしたいことを。
「……人間は我々とは違う。似て非なる種は並びたたないものなのよ。同じ人間同士ですら、現在に至るまで争いを繰り返し続けている。それが人間からは化け物でしかない、私達だったらなおさらのこと……私たちは人間から恨まれてしまう者なのよ」
「そんなことない!この街には私達の事を知っても笑顔で受け入れてくれる人がいる!」
「口では何とでも言えるものよ。仮に本当に瑠衣の言う個体がいても人間全てが同じように思うかしら?誰かが私達を恐れ、憎み始めれば。それは広がっていき、いつしか人間の総意となりえる」
「仮にそうだとしたら、その逆だってあるはず……違う、母さん?」
……平行線だな。そろそろ俺も参戦するか。
「人間の意思が一つに纏まる事はない。俺たちカゲヤシと違って、人間は身勝手で、意見の統一ができない、遅れた種だ」
「ユウト?」
「だから戦争する……意見が纏まらないからな……だが、だからこそカゲヤシを受け入れてくれる人間がいるのさ」
「……でも憎しみは広がるわ」
「……人間はそんなに簡単に意見を一つに纏められはしない……それに、もしそうなったら、それこそカゲヤシはおしまいだ」
そう、俺が人間との共存を目指す理由は瑠衣のためでも、俺が人間とよろしくするためでもない……カゲヤシという種を守るためだ。
「どういう……意味かしら?」
「今ここで、NIROを潰しても、人間に敵対行動を続けるのなら、第二、第三のNIROが出てくるだろう……いや、もしかしたら人間という種全てが敵対する可能性だってある。そしてもし全ての人間が、俺達を……カゲヤシを狩るのに手段を選ばなかったら……どうなると思う?」
「カゲヤシは人間なんかに負けない!」
舞那は……頭足らないな。アホキャラっていうのは可愛いと思うが……。
「別に人間がカゲヤシを倒すのに戦う必要なんてないよ。銃でも爆弾でも、さらには人間相手にはオーバーキルの兵器まで持ち出してまで、俺達を根絶やしにしようとしたら?」
「…………」
「私たちは確実に滅びる……」
「そうだ瀬那。だから、人間との付き合い方は考えなくちゃいけない」
妖主は俺の考えに耳を傾けてくれる……だが、あと一押し足りない……だったら。
「瀬那、舞那、お前達だって本当は人間を襲いたくないはずだ」
「「……え?」」
俺は双子の力を借りる事にした。この二人は俺の予想が正しければ……本当は……。
「お前達と戦った時、ゴンちゃん、ダブプリのファンを人質にとった……だが、俺は人質の事を気にしなかった……何故だかわかるか?」
「……君は私達があの子に危害を加えないって信じてたの?」
「そうだ……それにライブもだ。お前たちが本当に心の底からアイドルとして活動することを楽しく思って、ファンの事を大事に思ってなきゃ、あんな良いライブは出来ないだろ?」
「「…………!」」
双子の二人は黙って俺を見つめるが、その表情には一瞬、驚きが見えた気がした。
「……ママ、ユウトの言う通り、このままいくと私たちはみんなおしまいになる」
「……瀬那?」
「姉さん!?」
「それに……できれば私は……私は、ファンの子達を傷つけたくない!」
よし、俺や瑠衣だけじゃなく、双子からも説得してくれれば、いける!
「姉さん何言ってるの!?」
「舞那、あなたはいいの?このままで……あなただってファンの子達ともっと歌いたいんじゃないの?」
「……そう、だけど………うん、そうだよ!ママ、アタシも、あのバカたちともっと歌いたい!騒ぎたい!」
「舞那」
「愛情表現!」
どうやら舞那にとってファンをバカと呼ぶのは愛情表現らしい。
「………ふふ」
「「ママ?」」
「母さん?」
そして双子からの言葉も聞くと、妖主は遂に笑い出してしまった。
「瀬那、舞那、随分と私に意見するようになったじゃない」
「ごめん、ママ……でも!」
「いいのよ……ちゃんと自分の意見を持てた事、母親として嬉しく思うわ」
「ママ?」
そして遂に妖主は俺と瑠衣の方を向き、何か吹っ切れたかのような顔になって言う。
「いいわ、あなた達が信じる事をしなさい。ただし、降りかかる火の粉は払うわ。NIROの奴らは、話し合いになんて応じない。その上で、あなた達の言う人間との共存、考える事にするわ……それでいいかしら?」
「母さん!」
瑠衣は嬉しそうに笑顔になる。双子の表情も晴れやかなものだった。
少し、申し訳なく思う……俺個人としてはカゲヤシを守るためだけに人間との付き合い方を考えるだけで、自警団の皆と家族以外の人間がどうなろうと知ったこっちゃない……この中で俺が一番共存なんて考えてないのにな。
「お話は終わったか?」
その時、外の見回り……斥候かな?それを終えた優が戻って来た。
そうしてNIRO掃討作戦会議が開かれる。
作戦……というかこっちの目的としては瀬嶋を討つ事だ。そいつさえいなくなれば組織はしばらく壊滅状態。残党は徐々に狩っていけばいい。
そして瀬嶋は妖主直々に囮となって誘い出すそうだ。まああの瀬嶋の様子だと自分で妖主を捕まえに来るな……誰にも任せず。
そしてそこを俺達で瀬嶋の退路を塞ぎ、決着をつける……それまでは秋葉原各地で暴れて、敵の戦力を分散させろとの事だ。
「瑠衣、あなたはここから離れていなさい」
「私もユウトと一緒に戦う!」
「彼らの狙いは二つ、私とあなたよ。これを最大限に利用しない手はないわ」
「……わかった。ユウト、気を付けてね」
「……お前もな」
そうして作戦会議は終わり、俺は敵に動きを悟られないために、今夜はここにいることになるのだった。
「……もしもし」
『君か!瑠衣は、瑠衣は無事なんだろうな!?』
「落ち着いてくれマスター」
俺は瑠衣や、カゲヤシのこれからの事を伝えるべく、マスターと連絡をとる事にした。
「まず……俺はカゲヤシと協力してNIROをと戦うことになった」
『……うむ』
「とりあえず朗報を伝えておく。瑠衣は、妖主を説得して、人間との共存を認めさせたよ」
『何……怜が?』
「ああ、NIROを潰した上で、人間との共存を考えてくれることになった」
まあ、実際には俺や双子も説得に加わったが。
「そして……マスターに頼みたいことがある」
『……何だね』
「明日の……遅くとも午前中には終わると思う……それまで、自警団の皆を守ってくれないか?」
俺は瑠衣を自警団に会わせた事と、それで自警団がNIROと手を切る事を決定した事を伝えた。
「新秘密基地の場所はヤタベさんから聞いてくれ。もしかしたらエージェントの魔の手が皆に迫るかもしれないからな」
『……わかった』
「ヤタベさんには俺が話しておくよ……それじゃあ」
『ああ』
そう言って通話を切り、続けてヤタベさんに電話を掛ける。
『ああユウト君!無事なのかい!?』
「ええ、俺は無事です……自警団の皆は?」
『ああ、まずは必要最低限の荷物は運び終えて、新秘密基地にいるよ』
「そうですか……じゃあ、明日の昼まではずっといてください」
『え!?』
俺はマスターに話した事をヤタベさんにも伝えた。
『そうか……カゲヤシが』
「はい、マスターにヤタベさん達を守るように言っています」
『わかった……ユウト君、気を付けるんだよ』
「わかっています……では、そろそろ」
『うん、それじゃ』
……ふー、やっと一息付けるな。
「………ん?」
俺はスマホの画面を見て疑問に思った。
そういえば最近メールばっかで、送るにしても返信だけだったから……登録した連絡先をあまり見ていなかった。
「……ヒロって、誰だ?」
……見慣れない名だ。そういえば、俺はあのカゲヤシに進化した夜、友人を助けに来たんだっけ?瑠衣の話だとそうらしいが……俺はその友人とやらを忘れている……それがこれか?
やはり、カゲヤシ化して人間に対する関心が薄くなっているようだ……しばらく会わないだけで完全に記憶から消されている……。
「ユウト」
「ん……瑠衣か」
気が付くと瑠衣から声を掛けられていた。
「どうした?」
「お礼を言いたくて」
「お礼?」
「うん……ユウト、キミのおかげで母さんが納得してくれたんだよ……人間との共存、ユウトがいなかったら無理だったかもしれない」
…………あー、ダメだ。俺は真面目過ぎるかもしれない。
「瑠衣……多分、嫌な話なんだが、聞いてくれるか?」
「何?」
「妖主に言われただろ?カゲヤシは血に従う……カゲヤシ化が進むと、脳までカゲヤシに近くなるって事なんだな?」
「でもユウトは違うでしょ?」
「……ごめん、俺はもう完全にカゲヤシになってるみたいだ」
俺の言葉に瑠衣は言葉こそ発さなかったが、その顔は驚いていた。
「俺さ、このスマホに登録されてる連絡先にある、ヒロって奴を知らないんだ……いや、忘れているんだろう」
「それって……」
「あの夜、俺が助けようとした友人……だと思う」
「まさか……キミは……」
「ああ、カゲヤシになったせいで……人間への関心が無くなっているんだと思う」
俺はそのことを遂に瑠衣へ告白する……瑠衣は……俯いてしまった。
「……ごめん、私のせいだよね?私が……!」
「いや、実はカゲヤシに進化した事は良い事だと俺は受け止めてる」
「でも!」
「それに、忘れたんならまた知ればいい」
俺の言葉は瑠衣を励ますためのものだ。それに実際そうだろう?意外と人生なんて取り返せるものが多いと俺は思う。
「だからそんな落ち込まなくていい。ただ瑠衣にウソをつき続けたくなくなったから、この話をしたんだ……俺は、あくまでカゲヤシの為に人間との共存を望んでいる……瑠衣みたいに純粋に思える事は……できてないんだ」
「ユウト……ううん、今はそれで十分だよ。結果的には良い方に進んでいるし……それに人間と仲良くする事が出来たら、ユウトも思い出せるはずだよ」
「そうか……そうだな、ありがとう……瑠衣」
「うん……明日、絶対に勝とうね」
俺は黙って頷くのだった。
妖主説得の件や、あの後に次の日の決戦までの間の部分はオリジナル。