「じゃあ気をつけてな」
「うん、今日はありがとう、ユウト」
楽しい時間はあっという間に過ぎるとはよくいうもので、瑠衣はもう帰る時間になってしまう。
「次は来週……ううん、三日後くらいには行けると思うから!」
「そんな慌てなくてもこの街は逃げないよ」
「あはは、確かに……うん、今日はいろいろとありがとうユウト……その、えっと……私の告白も受けてくれたし……」
「まあカッコいい俺がモテるのは当たり前の事だし、それに応えてやるのは当然だよ」
そう言って俺は瑠衣の頭を撫でる。そう、俺はカッコよくてモテる最っ高に凄い男だからよ!
「うん……じゃあ、またね、ユウト」
「ああ、お前らも瑠衣の事頼むぞ」
「ハッ、ユウト様、瑠衣様は必ず我々がお守りいたします」
俺は瑠衣の護衛に付いていた末端に言い聞かせる。
「優がいないのは不安だな、やっぱり」
「兄さんは今、修行中だから」
「修行って……」
まあ、俺との決着をつけるって話もあるし、アイツもいろいろと頑張っているんだろう。
「まあ、いいか……それじゃあな瑠衣。帰ったら連絡よこすんだぞ」
「わかってる……それじゃ」
そして俺は瑠衣と別れる……何事もなければいいんだが……。
だが俺のそんな考えは辛くも裏切られる事となった。
携帯が鳴る。俺は最初、瑠衣が向こうに着いたのかと思ったが違った。妖主が俺に連絡を取ってきたのだ。
『ユウト?瑠衣はまだそっちにいるのかしら?』
いきなりそんな事を訊いてくる。
「いや、大分前に帰ったと思うけど……まさかまだ?」
『ええ、本当に時間通りに帰ったのね?』
「ああ、なのに着いてない……」
『もう少し待ってみる。何かあったら私に知らせて頂戴。こちらでも何か掴んだら伝えるわ』
「……ああ」
そう言って通話を切る……嫌な予感がする。
怪しいのはやはり……あの白スーツのエージェント共か……だが、ただ電車の遅れという事も……いや、無いな。今のご時世、日本で電車が遅れるという事はまず無い……。
だが何もわからないまま、翌日を迎えてしまう。もちろん瑠衣は帰ってきてないそうだ。とりあえず瀬那たちにもこの情報を伝えてあるが、未だに何もわからないまま……そんな時、ほとんど自棄になって見たぽつりに、重要そうな情報が上がっていた。
「秋葉原の駅前に白スーツの怪しい奴らが集まっている……?」
白スーツの集団、間違いない……あの厄介なエージェント共だ。もしあいつらが瀬嶋とは無関係な組織、もしくは繋がりが薄いなら、あの時の戦いで十分な戦力を温存したままのはずだ……何故今更……いや、今は考えているときじゃない。
俺は最低限の準備を済ませ、家を出る……行先はもちろん、秋葉原だ。
秋葉原へ着くと、早速白スーツのエージェント共と、興味本位で集まった一般人が大勢いた。まるで政治家の街頭演説のような雰囲気である。
そうして白エージェント共の中心にいた壮年の男が拡声器を使って喋り始めた。
『え、えー……うむ。秋葉原にいる市民よ!あなた方に知ってもらいたいことがあります!我々はかつて、NIROと呼ばれる組織に所属していた者達です!一般的には非公開の組織でしたが、今回の事で話したいことがあり、こうして公表させていただきました!』
いきなり非公開の組織であるNIROを公開しやがったな……何のつもりだ?
確かに妖主が日本政府交渉したことで、あの組織は完全に解体されている……国がもみ消せない以上隠すことは不可能とはいえ、だからと言って公にするのもな……。
「「ユウト!」」
「来たか……」
瀬那と舞那が俺の方に向かってきた。
一応出る前に情報を瀬那達に伝えておいた。恐らく何が起きてもいいように、末端もできるだけ連れてきているはずだ。
『皆様はこの秋葉原に流れる噂の一つに、夜になると人を襲い、血を吸う人ならざる者がいる……という噂があるのを知っているでしょうか?その噂は真実であり、今までは社会的混乱を防ぐため、情報を公開していませんでした!』
おいおい、いきなり前のNIROがひた隠しにしてきたカゲヤシの存在を公表しようとしてるよ……やっぱり隠すことが不可能になったから敢えて公表しようとしてるのか……だが。
「ユウト。これってマズイんじゃ……」
「いや、信じる奴らがいないだろう……」
「ユウトの言う通りね。なんで今更こんな事を……」
舞那の懸念もわかるが、いきなりそんな事を言われてもピンとくる奴なんていない。事実、たまたま居合わせている一般人たちの反応は冷めたものだ。既に興味を無くし、離れていってる奴もいる。
『我々はそのカゲヤシと呼ばれる化け物たちと日々、暗闘を続けていました……しかし、三ヶ月前にここ秋葉原で行われた戦いにおいて、当時の組織のトップだった瀬嶋隆二が亡くなってしまわれ、NIROは壊滅的被害を受けてしまったのです!』
「なんだ、これ?あいつらは変な妄想でも垂れ流してんのか?」
「下らないな、そろそろ行こうぜ」
「あんな歳になって邪気眼なんて……可哀そうに……」
ひどすぎワロス……まあ、クソエージェント共が馬鹿にされるのはザマァなんだが……それよりも、どうやら話は信じてもらえないようで、集まった一般人は解散しようとする……その時だった。
『皆様!どうか信じてくだ……ん?』
「う、うわあぁぁぁああああ!!」
いきなり男性の悲鳴が聞こえ、そちらに目を向けると、一人の男が倒れている姿と、それを襲ったと思われる人物がいた……これは……まさか……。
「血だ……血を寄こせ……!」
そいつはそんな事を言いながら周りを見渡す。
さすがにこれには何も知らない奴らはパニック状態になり、逃げ惑う者、ざわつく者が現れ始める。
「血を……寄こ…何っ!」
「カゲヤシめ!覚悟しろ!」
そこに白スーツを着たエージェントが飛んできて、戦闘になる。戦闘は白スーツが優勢に見えるが……何か動きに違和感があるな。まるで格闘技の八百長試合見てる感じ。
「くっ……分が悪いか……ここは逃げさせてもらおう!」
「待てっ!逃がすか!」
「待てと言われて待つ馬鹿がいるか!」
そう言って、戦闘を行っていた二人は駅前から去り、見えなくなった。
未だにざわつきが収まらず、一般人たちは皆、困惑しているようだった。
『皆様!あれがカゲヤシです!あのように人々は日々奴らに襲われているのです!ですがご安心下さい!我々、新生NIROが、カゲヤシの脅威から皆様をお守りする事を誓います!』
ざわつきは収まらないものの、一般人は白スーツの集団を注視し、完全に話を聞く態勢になっていた。
……まあそんなわけはないと思うが、一応訊いてみるか。
「瀬那、あのカゲヤシだが……」
「うん、同胞の訳がない……恐らく……」
「ヤラセだな……舐めた真似をしてくれる……!」
あのカゲヤシは恐らくエージェントだ……こうやって一般人を襲わせて、カゲヤシが危険だとアピールしてきやがった……クソのエージェント共が、やってくれたな……!
『ではここにいる皆様にはこれをお渡しします!カゲヤシ判別機です!これを用い、カゲヤシを発見した場合はすぐ、我々にお知らせください!』
……しかもアレを無料配布するか……!このままここにいるのはマズイ。
「瀬那、舞那……ここは」
「一旦アジトに行こう」
「そうね」
俺達は足早にこの場から立ち去った。このままここに留まるのは危険だ。
あの新生NIROとかいうふざけた連中め……カゲヤシの存在を信じ込ませる為についに一般人まで襲い始めやがった。
こうして新たな秋葉原での事件が幕を開けるのだった。