「ん、サラさんからメール?」
今日も日課の秋葉原散策をしていると、突然サラさんからメールが来た。
「内容は……お、久々に自警団らしい仕事だ」
内容はこうだ。中央通りのアニメグッズ店からある噂が出回り、それにつられたオタクたちが暴徒化しそうだというものだった。NIROもカゲヤシも関係ない、自警団の仕事そのものだ。
「了解、すぐ向かいます返信っと」
俺はすぐさま自警団の元へと向かった。
「皆、今俺が来てや……もう騒ぎになってるじゃん」
俺が現場に着くと、店の前では大勢のオタクがすでに騒ぎ始めていた。
「マズイよ、騒ぎがどんどん大きくなってる。警察やマスコミが来るのは時間の問題かも」
「そ、そうなるとまた世間から叩かれちゃうよね。街も、僕らも」
「すでにネットのニュースサイトでは話題になっているそうですよ」
「原因はなんなのさ?」
俺はまず原因から聞いてみることにしてみる。
「何とかっていうアニメ作品の限定グッズがこのお店のあるっていう噂がどこからか広がったみたい。プレミア価格になった頃合いを見て販売しようって魂胆だ、ってみんなは言っているんだけど……それにはノブ君が詳しいけど、さっきから連絡が取れなくてね……」
あの群衆に交じってそう。
「そのグッズなんだけど、お店が発注数を誤って予約した人全員に行き渡らなかったらしいんだ」
「つまり、ここに集まった人はみんな予約した人たちってわけか。確かに怒るよね……」
「どうでしょう?どさぐさ紛れにグッズを手に入れようとしている人もいるでしょうね」
「いやいや、彼らはそんな子達じゃないよ。私にはわかる」
「……失礼しました」
まああの熱気はマジだろうな。どさぐさ紛れならあそこまで熱狂的に騒いだりは出来ないだろうし。
「ともかく、だ。この問題はすでに二週間も前の事だし、何で今更そんな根も葉もない噂が広がったんだか……」
「在庫は本当にないんですか?」
「うん、店長は知り合いだから訊いてみたけど、本当にないんだって……でも、それを言っても誰も信じてくれないし……非が店側にもあるから強くも言えないし、困ったよ」
「人は誰かに聞かされた情報よりも自分で知り得たものの方が信頼性は高いと思ってしまうものですから。難しいものですね」
と、サラさんが言ったところで、オタクたちがさらにヒートアップし始めた。
「いいから出せよ!」
「『ITウィッチ まりあ』の抱き枕&おっぱいマウスパッド限定セットをよぉ!」
「「「そうだ!そうだ!」」」
「ネットオークションに俺たちの分を出して儲けようなんて、絶対にさせねぇぞ!!」
「「「そうだ!そうだ!」」」
「地下の倉庫にあるんだろ!?ないっていうなら見せてみろー!!」
「「「そうだ!そうだ!」」
「早く出せー!!」
うわ、かなりヤバくなってきてんな。
「これはマズイね。このままじゃいずれ店は荒らされちゃうよ」
「そうなったらお店はダメになって、大勢の逮捕者も出て……」
「大事件だよ……!」
「……サラさん?何か気になる事でも?」
俺はサラさんの様子がおかしい事に気付いたので訊いてみる。
「はい。気のせいでしょうか。煽っている人は、あまりこの街では見ない雰囲気の人ですね」
そう言われてみると、中心にいて煽ってる奴がいるが……確かに違和感あるな。あの服装どっかで……。
「ひょっとして……ヤタベさん、エージェントから貰ったあの機械は?」
そう言われてヤタベさんはカゲヤシ判別機を使ってみる。
「あれれ?」
「え……それじゃ、ひょっとして……あの人って……!」
「カゲヤシだ!」
「これは私たちよりもユウトさんの出番のようですね」
「確かに……その通りだ」
しかし何だろうこの感じ。まるで最初からこうなると踏んでたみたいだぞサラさん。
「そうこなくっちゃ!念のため、あのエージェントのお姉さんにも連絡しておくよ」
「ああ頼むゴンちゃん」
「よし、それじゃ私たちは出来るだけ混乱を抑えてみよう」
とういうわけであの群衆の中心にいる奴に近づく。
「おいお前」
「ん、何だ」
「煽るのはやめろ。正体は割れてるぞ」
「ほう……では排除して構わんな……二度と限定セットに並べない体にしてやろう!」
何だよそれ……あ、引きこもりにさせるって事か。まあいい、阿倍野優ほどの強さは無いだろ。
「俺様の攻撃を受けてみろー」
「ぐわあああ!!」
ほら、この通り。雑魚相手じゃ楽勝だな。
「おお!よくやってくれた。煽る者がいなくなったことでみんなも冷静になってきたよ」
俺が煽ってるカゲヤシを排除するとオタクたちは自然解散していく。
「やっぱりこういう『祭り』は先導者がいないと盛り上がらないよねユウト」
「そうだなゴンちゃん」
「あ、やっぱりみんなじゃん。どうしたの?みんなもあのグッズを?」
と、そうこうしているうちにノブ君が来た。やっぱ今の群衆の一人だったか。
「あの、ひょっとしてノブ君も今の群衆の一人だったの?」
「「……」」
ゴンちゃんがそうノブ君に訊き、サラさんとヤタベさんは呆れたような視線を向けている。
「そりゃあもちろん。だって『ITウィッチ まりあ』だよ?」
呆れている視線は全く意に介せず笑顔で言い切るノブ君。ここまでくると尊敬するぜ!
「あの神作品の限定グッズがあるっていうんだから、当然、ファンとしては行かざるを得ないでしょ」
オタクの鑑やでノブ君……でもガセ情報掴まされてるんだよなぁ……。
「しかも俺だって当時この店で予約して死ぬほど悔しい思いをしたんだし……っていうか、発注ミスで商品が入らないとか絶対あっちゃいけない事だよ!俺みたいに複数店で保存用と観賞用と使用用……みたいに複数予約していればまだいいけど、そうじゃない人だって大勢いたのにクオカード配っただけの信じられないクソ対応だったし!むしろ、こういったことになるのは当然の事だったね。店が悪いよマジで……それにさ!」
「あ、うんわかったよ。だいたい、うんわかった。もう大丈夫伝わった!」
ヒートアップしそうになったノブ君をヤタベさんが制止してくれる。
「……通りで連絡がつかなかったわけだね」
「あの……保存用と観賞用はわかるのですが、観賞用と使用用は何が違うんでしょうか?」
「…………!!」
あ、サラさんそれ聞いちゃダメなやつ。
「え、あ、その……何ていうか、汚れてもいい用……というか……
「……!?ぼ、僕に振らないでよ……」
「ユウト!ユウトならわかってくれるよな!?」
「わかるけどあんまり表で言う事じゃないね。もう少し発言に気を付けた方が良いんじゃないかな?」
「手厳しいぜ……」
まあサラさんが聞いてきた事が発端なきがするけど。
「まぁまぁ、男の子にはいろいろあるんだよ」
ヤタベさんが良い感じにまとめてくれる。やはり頼りになるな!
「そ、それよりみんなはどうしてここに?」
そのままヤタベさんはノブ君へ事情を説明する。
「そんな!それじゃ俺達は奴らに操られていたっていうのか!?バカな!この胸の奥底から溢れたパッションは間違いなく俺の心の声で、誰かに誘導されたものじゃ……あ、言われてみれば、以前見かけた子が近くをうろうろしていたような……」
ん、ノブ君何かに気付いたのか?それとも……。
「……どのエロゲのキャラ?」
もしかしたら頭が混乱して変なこと言ってるかもしれないしな。だがノブ君が言った事は割と重要な情報だった。
「モニターの向こうの話じゃなくって、こっちの三次元の話。あの黒髪の……ユウトが路地裏で襲われていた時のだよ。俺達が駆け付けた時、ユウトを抱きかかえてた……ほら、あの女の子。彼女とその友達みたいなのが何か指示というか、何人かに命令みたいのを出してたような……確か、そっちの方に行ったかな」
そう言ってノブ君は指をさす。
「……俺、ちょっと行ってくる」
「おう、気をつけろよユウト」
俺はノブ君が指さした方へ向けて走り出した。
「まさか平日の昼間に平然とあんな人数が集まってくるなんて…」
俺が彼女たちに近づいたとき、あの黒髪の少女から凄い失礼な言葉が聞こえたような気がしたが、それを無視してさらに近づいていく。
「……あっ!」
最初に気付いたのは体をこちらに向けていた黒髪じゃない小柄な女の子の方だった。すぐに黒髪の……確か瑠衣といったな。そちらも気づきこちらを向く。
「キミは……!?」
「……っておい!」
俺を見た途端すごい勢いで逃げられてしまった……まあ追うしかないな!確かこのまま行けば……公園か!
公園に着くと何故か臨戦態勢をとられてしまう。
「あ……もう!ここは私に任せて、瑠衣ちゃんは逃げて!」
「けど、鈴では……!」
「早く!」
「わかった……ムリはしないで」
そう言って瑠衣は行ってしまう……いやちょっと待って、俺戦いに来たんじゃないよ?
「瑠衣ちゃんを狙う者は……許しません!」
「え~……」
そう言って鈴と呼ばれた少女は俺に向かってくるが……。
「ていっ!」
「……………!?」
え……あれ?この娘ホントにカゲヤシ?戦い方がなっちゃいないというか……危なっかしいというか……はっきり言って弱い……さっき戦ってた奴の方が全然強いぞ。
「えいっ……ってふわぁ!?」
「転んだ!?」
ドジっ子キタコレ……じゃなくて、どうしようかこの状況……ん?
「瑠衣ちゃん!……どうして!?」
この娘のピンチ(?)に瑠衣が助けに戻ってきた。
「私だけ逃げるなんてできない。末端ならまだしも、あなたを見捨てたら私も奴らと変わらない」
「そんな……私に構わず逃げて!」
「よくもこの子をこんな目に……キミは!」
いやその子自分で転んだんっスよ……って言っても無駄だろうし……襲ってくるなら多少は抵抗するしかないか。
「はあっ!」
「……さすがに強いか」
今まで戦ってきたカゲヤシの中では……二番目か?一番は優だ……まああいつと違って油断してないから付け入るスキがねえ……。
「……だぁ!」
「……!」
とりあえず気を込めた拳を振り下ろすが簡単に躱される。瑠衣はその隙を突き、傘を振りかぶってくる。
「まあこうするしかないよな」
「え……くっ!?」
相手の攻撃を誘発してのカウンター……だが傘を盾にされる。衝撃は伝わったのか、少し後ずさるがそれでもダメージを与えたとは言いにくい……まあ俺も戦う気が無いんだから当然だろうが。
「はぁ、はぁ……何故、キミは……あの時、折角助けたのに……」
「いや、そっちがいきなり襲い掛かってくるから……!」
「キミがエージェントなどに与し、私たちを追うからでしょう!何故、何故なの?」
「……なんでだろうな」
なぜこの俺があんなクソ組織に利用されなきゃならんのだ。
「私が……憎いの……?」
「いや、むしろ感謝してるさ……カゲヤシ化は素晴らしい。俺は人間を超え、進化したんだ……ありがとう。だから俺のファーストキス奪った件については憎んでないよ」
「は……?」
あれ……?憎んでるって訊かれたからその事だと思ったんだけど……?
「あ、あれはノーカンよ!だいたいあれをキスというなら……わ、私だって!」
「そうそう、だからこの件はノーカンでなかった事に……」
「あっ、瑠衣ちゃん!あっちからエージェントが!」
空気読めねえなNIRO。
「逃げるよ……私は瑠衣、彼女は鈴……キミの名を、聞かせてほしい」
君の名は……っていかんいかん。今は2011年だ。これはまだ未来のアレだ。ともかく名を訊かれたのだから応えてやるのが俺様。
「俺は四葉ユウト様だ!」
「自分に様をつけるのはどうかと思うけど……ユウト、か……覚えておく」
そう言って瑠衣と鈴は去っていく。その後すぐに秋葉原自警団と御堂さんが来た。
「四葉さん、大丈夫でしたか?」
「……余計なマネを」
「え?」
「ああ何でも。大丈夫です」
小声とはいえ本音が。
「遠くから見た限りだと、あの二人は文月瑠衣と森泉鈴だと思われます……ってそんな事言ってる場合じゃない!」
そう言って御堂さんはあの二人を追いかけるように去っていく。
「ユウト君、無事だったんだね」
「心配かけたねヤタベさん。でも大丈夫さ」
「あの、気のせいかもしれませんが、ユウトさん、あの二人と何か喋っていましたよね?」
サラさん?何か随分と知りたそうに感じるが……。
「まぁまぁ、いくらカゲヤシだからっていっても、あのお嬢さん達は美人だったからね」
「う、うん、確かにそうだね。アキバ系アイドルって感じじゃなかったけど、ちょっとコスプレとかしたら、すぐにファンが付きそう……あ、でも今のアキバはダブプリの天下だから難しいかな~」
ダブプリか……彼女たちも瑠衣も、何故か気になる……俺ってこんなに三次に興味持つことあったっけ?
「ユウト君だって男の子なんだし、戦うべき相手だってわかってても多分、気になっちゃったのかな?」
「そういえばキスしてたもんな、あの路地裏で……わかる、わかるぞ。初体験ってそういうもんだよな。俺も初めてのエロゲで、最初に攻略したキャラが未だに忘れられないからなぁ……俺の中学校での、一番の思い出さ……」
またノブ君は失言する……。
「中学校の時……?その時ノブさんは、未成年なのでは?」
ほらすぐサラさんに突っ込まれる……その後ノブ君の見苦しい言い訳を聞いたのち、ヤタベさんが締めてくれた。
「まあ、ともかく……良かったです」
最後にサラさんが微笑みながら俺にそう言ったんだが……俺を心配してとは違うような……?あの二人を気に掛けてそうな……。
「よし、君も疲れただろうから秘密基地へ一旦戻ろう。サラさん、お茶お願いできるかな?」
「お任せください」
まあ今日はいろいろ収穫があった日だな……さて、まずは秘密基地に戻ってサラさんの入れてくれるお茶をご馳走になろう。
基本バトルでは、トドメを刺さない限り、全脱がしはしない方向で行きます。(脱がすとしても上だけ、下だけ、など)