「……暇だ」
JKVを倒した後、俺は暇を持て余していた。どうやら俺の仕事が早すぎたらしい……そのせいで今必要な仕事がなく、自由にしていいと言われてしまっている。
「やっぱりここは……裏通りでバイト斡旋してくれるあのおっさんに何か仕事を紹介してもらうしかないか」
というわけで早速出かける。
「四葉か……指名で仕事が来ている」
「え、マジで?」
おっさんに仕事をもらいに行ったところ、俺をご指名する依頼があった。
「デート所望……?」
「デートの仕事だが……待ち合わせはジャンク通りのカフェ、依頼主は文月瑠衣……しかしどうも妙だ。用心しろ」
デートね。まあ俺がイケメンだからデートしたいって女の子がいても不思議じゃない……って冗談は置いといて、あ、俺がイケメンなのは本当ね。とりあえず十中八九罠だろう……怪しすぎる。だが敢えて乗ってやるさ!真意を確かめたいしな。
というわけで早速そのカフェへと向かう。
「確か……お、いたな」
件のカフェに着くと、瑠衣がいた……ふむ、本物か?見た感じではよくわからん。
「……また会ったな」
とりあえず普通に声を掛けてみる……まずは相手の反応を窺わんと。
「お待ちしておりました。あ……あの、依頼主が私だと察したから、あなたは来てくれたのですか?」
……偽物か?瑠衣ってそんな喋り方はしないような……まあでも話を合わせてみるか。
「ま、そうだな」
「ふーん……ぷっ、ククク……なあんちゃって……まさかこんなに簡単に引っかかってくれるとはな。来いよ叔父貴、俺の言った通りだっただろ?」
やっぱ偽物か!……って叔父貴?
「なるほど……」
振り向くと壮年の厳つい男が立っていた……強そう(小並感)。
「最初は個人的恨みから共闘を持ち掛けられたと思っていたが……まさか本当にあの子が狙われているとは……どこから漏れてしまったのか」
「……まぁどこでもいいじゃねぇか。さぁ、アイツのためにも、コイツをぶちのめしてやろうぜ」
もう一度瑠衣の偽物の方に顔を向けると……ファッ!?
「あ、阿倍野優!?」
「ははっ、いいリアクションじゃん!女装までしたかいがあったぜ」
「俺が側近に変装して近づいた時の意趣返しかよ……というか女装レベル高くない?」
いや、骨格から違ったような……せめて瑠衣似のカゲヤシが瑠衣の服を着てるのかと思ったらお前……!
「君は瑠衣に命を助けられたくせに、その命を狙うとは……恥を知れ。瑠衣のために、消えてもらう。彼女の存在に感づかれた以上は、生かしておけない。あの子の命と、日常を守るために」
「行くぜエージェント、この前の雪辱戦だ」
「……少し待ってくれないか?特に優、俺に借りがあるんだし」
俺はこの絶望的状況を打破するために、ひとつの賭けに出る。さすがに俺でもこりゃ無理だ。
「あん?」
「俺お前の事一回見逃したろ?だから今回だけ俺のことを見逃してくれ」
「はぁ!?んなことオレが了承するとでも…」
「いずれ決着は付けてやるから!貸し借りなしでサシでやりあった方が面白いだろ?」
「………」
「……頼む、後生だ。今回だけ見逃してくれ」
俺は優を真っすぐに見つめ、問う。
「……ケッ、仕方ねえな。わりいぃな、叔父貴!一人で頑張んな!」
「サンキュー優!」
優は去り、ここには俺と厳つい男だけとなる。
「フン、最初から彼が助けてくれるなど、期待はしないさ……行くぞ!」
そう言って男が突っ込んでくる……マジかよ。
「優より強いなアンタ!」
「伊達に長く生きているわけではないのでね」
戦い慣れしてやがる……優以上に付け入るスキが見当たらねぇ……優が叔父貴と言ったという事は瑠衣の叔父でもあるのか?彼女の事大切にしてそうだし……という事はあれか、倒さないように手加減する必要もあるのか……めんどくさいな。そもそも、こんな強い相手に手加減なんて余裕あるわけない。
「来ないのならこちらから行くぞ!」
「おっと、考えすぎて目の前に集中できないのは一番ダメか……!」
だが優より劣る部分もある……とっさの反応速度だ。これなら若い優に分がある……この男に付け入るスキがあるのならこれしかない。
「なあおっさん、アンタ、自分が何をしているのか気付いているのか?」
「何……?」
「もし俺を殺したら、瑠衣はなんて思う?お前がやっていることは、本当に瑠衣のためになるのか?」
「何……君は……っ!?」
「隙あり!」
俺は一瞬の隙を突き、この男の上服を脱がした。
やっぱりだ。この男は瑠衣を大切に想っている。あまり褒められた方法じゃないが、会話で相手の隙を作るのは実際有効だ。
「ぐっ……卑怯な……いや、こんな会話で隙を晒した私が未熟だったという事か……!」
下は残してるから炭化はしないだろうけど、戦闘能力を奪うことには成功したな。
「殺すがいい……瑠衣を守る事だけが、私の使命であり、生き甲斐だった……あの子を守り切れなかった以上、私には生きる資格はない。しかし、何故君があの子を狙うんだ?」
「狙ってないぞ」
「ただ、エージェントの仕事として……か。あの組織らしいな……」
おっとぉ?誤解してるな。
「さあ、エージェントの青年。やるがいい、殺すがいい」
「お前を殺せば瑠衣は悲しむ」
「情けなどは……」
むう、見逃そうとしても情けは無用とか言って死にたがる典型的なヤツか……困ったな。ホントに殺す気ないのに……。
「おや?……ユウト君じゃないか……おっとマズイ戦闘中だったか」
と、その時後ろからヤタベさんに声を掛けられた。
「……って、アレ?」
「……ヤタベさん?」
何?この男とヤタベさんは知り合い?
「まさか、マスター……」
「そうか、さすがはヤタベさんだ。まさかエージェントと関係し、我々についても知っているとは」
「……ヤタベさんとその男ってどんな関係?」
とにもかくにもまず訊こう。情報を得よう。
「私の行きつけの喫茶店のマスターだよ。彼の入れてくれるコーヒーは格別なんだ」
そのあとヤタベさんから下手くその将棋指し仲間だとも言われ、かなり長い付き合いなのがわかった。
「ユウト君、頼みがある……彼を、見逃してくれないか?」
「……ヤタベさん!」
これは運がいいな。俺だけじゃ情けはいらんと言って勝手に死にそうだったし、ヤタベさんが頼み込んだから見逃すっていうのが自然に事が収まるだろう。
「もちろんですよヤタベさん」
「ありがとう、ユウト君」
「ヤタベさん……何故そこまで?」
「いいんだ、あんたがいなくなったら将棋は負け越しだし、誰があのうまいコーヒーを入れてくれるんだい?あんたの娘さんが入れてくれるコーヒーなんて……これから毎日あれになるんじゃ、私のコーヒーブレイクが本当にブレイクされてしまうよ」
コーヒーブレイクがブレイクって何上手いこと言っているんですかヤタベさん!ていうかその娘って……。
「その娘って瑠衣の事か?」
「ユウト君わかるのかい?……って最近その名前を聞いたような……」
「彼女は人間でいえば姪にあたるだろう」
「ヤタベさん、その瑠衣って子に俺は命を助けられたんです」
「え、本当かい!?……女の子の成長は早いんだねぇ……全然気づかなかったよ」
それよりもさすがにこのままだとマスターの体がマズイことに……。
「とりあえず、私はマスターを連れて行くよ」
「……待ってくれ、君に連絡先を教えてくれないか」
「……わかった」
「ありがとう……」
そしてヤタベさんはマスターの肩を支え、立ち上がる。
「さぁ、行こう。ユウト君、彼を……私の友人を見逃してくれて、ありがとう」
そう言ってヤタベさんはマスターを連れて行った。
「さて、他に仕事がないか……ん、メール?」
次の仕事を探そうとしたところで、早速マスターがメールを送ってきた。
「マスター文、長っ……ってMr.Xってなんだ?」
マスターから謎のメールが来た……だがカゲヤシの為になるのか……ふむ。俺はどちらかというとカゲヤシに敵意はなく、NIROに敵意があるようなものだ……これは俺があの組織を裏切る事を後押ししてくれる理由になってくれるかな?
「Mr.X……これに会うのに随分と面倒な工程が必要なようだな」
アニメ『ITウィッチ まりあ』の主人公のウィッチバージョンのコスプレをして裏通りのメイドの質問に答える……もちろん質問は『ITウィッチ まりあ』のついてだ。
まあコスプレについては問題ないな。衣装の値段に寄るけど……え、女装に抵抗?フッ、俺はイケメン……つまりは美形だ。女装も間違いなく似合うさ。
問題はこの作品についての知識か……俺って手広く手を出しすぎて、逆にこの作品を知らないんだよなぁ……だがこの作品に詳しい奴が、ノブ君がいる!
「というわけでノブ君、『ITウィッチ まりあ』について話そう」
「お、ユウトもあの神作品が好きなのか?」
「あ、いや実はまだほとんど知らないから、見る前に最低限必要な予備知識とかそういったのを教えてもらえると助かる」
「そっか……語り合えないのは残念だけど、興味を持ってくれたんなら、これからいつでも語り合えるようになるな!」
「うん、できればあらすじも教えてーな」
「おうよ!」
そうしてノブ君による『ITウィッチ まりあ』講座が幕を開ける。
……そして数分間ずっと喋り続けるノブ君、俺も話を聞いてるうちに完全に聞き入ってたようだ。後でゴンちゃんからよく全部理解できたねと驚かれたが普通じゃね?
「とまあ、感動対策なわけよ」
「ありがとうノブ君、とりあえずアニメ一期と劇場版は必ず見るよ」
「おう!今度時間あったら語り明かそうぜ!」
「ああ!」
よし、グッズ店の場所も教えてもらったし、準備ができたら早速次の日にでも行くか。
「……お、これ露出部分が露出してない」
いきなり何言ってるんだとも思うが、このコスプレ衣装のことである。胸元とか背中とか足元とか露出しているはずだけど、この衣装はそこが肌色の生地になっているのだ。
「正直助かる……俺カゲヤシだぞ?本当に露出してたらは耐えられんだろ」
俺はインナー、衣装、ウィッグを着け、鏡の前で自分の姿を確認する。
「ふむ、やはり俺は最高だな。コスプレとはいえ女装まで完璧にこなすとは」
どこからどう見ても可愛いまりあ……中身は俺だが。
「よし、じゃあ早速裏通りに出かけるか」
俺は早速裏通りにいるメイドに話しかける。
「おや、どうされましたか?」
「Mr.Xに会いたい」
「……では質問をしても?」
俺は黙って頷く。
「では、一問目、まりあの声優は?」
「新谷光子!」
「正解です。では続きまして……まりあの親友にしてライバルの女の子の名前は?」
「相原ナミ!」
「正解です。では続きまして……ネット空間におけるまりあの能力は基本、何に依存する?」
「使用したパソコン!」
これで全問正解だ!
「ではMr.X様をお呼びしますね」
さて、誰が来るのか……そもそもあのメイドは知っているのか……てことはメイド関係者?
「ご主人様、こちらがMr.X様でございます」
俺はMr.Xの正体を見て、驚愕こそしたが同時にだろうなという気もした。
「サラさん……」
「ごきげんよう、ユウトさん。やはり、あなただったんですね。マスターから合わせたいエージェントと聞いた時にピンと来たのですが……」
「判別機では大丈夫だってことは人間でありながらカゲヤシを……?」
「はい、私は人間です。彼らのように若い姿のままで、歳を重ねられるのは魅力的ですが……博識で、温和な初老のメイドとなり、メイド道を極めるのも、私の遠い先の夢の一つですので」
「あ、はい……じゃあ、サラさんがカゲヤシの支援をする事になったきっかけについて教えてくれないか?」
「はい、きっかけは些細なことでした」
そうしてサラさんは語り始める。彼女はカリスマメイドであり、希望者にはメイドとしての指導を無料で行っている。そんな時、彼女の元に、一人の女性がメイドとしての修行(?)に来ていた。その人は結果から言うと、カゲヤシでありながら、真摯に修行に励み、サラさんも特に気に掛けていたそうだ。
その女性には人を襲う気などさらさら無く、真面目にメイドとして生きているだけ……だけどある時、エージェントに正体がバレ、狙われてしまい……最後にサラさんに「自分が仕えている大切な人を助けてあげて欲しい」とメッセージを残し、消息を絶ったそうだ……恐らくエージェントに狩られてしまったのだろう。
そしてそのメッセージから感銘を受けたサラさんは、『彼女ら』と接触し、今の関係が始まったそうだ。その『彼女ら』っていうのは恐らく瑠衣のことだろう。
「お分かりいただけましたでしょうか。誤解しないでいただきたいのは私が支援しているのは、必ずしも全てのカゲヤシではないという事です」
そしてその後サラさんからカゲヤシについて聞くことになる。
カゲヤシは基本的に三つのグループに分かれており、カゲヤシを全体を纏める女王蜂のような妖主、その子供たちである眷属、そして所謂下っ端の末端……に分かれていて、眷属の中の一人……恐らく瑠衣が妖主の意思から離れ、独自の考えを持つようになった。
「その人が目指すもの、それは……人間との共存」
「そうか……まあそんな気はしていた」
瑠衣や鈴、そしてマスターを見れば分かるが、あいつらは人間を襲おうとはしないしな。
秋葉原、この街は、全てを赦し、全てを受け入れる……そう思えたからこそ、そんな考えが浮かんだのだろう。
「しかしそれは、妖主の意思とは相反する思想……それ故に小規模かつ密かに活動し、この街で生きる術を模索しているのです。今回、マスターが私とあなたを接触させたのも、これに関して協力をお願いしたいからです」
「ふむ……」
「エージェント達を裏切れ、というわけではありません。先日、ユウトさんはマスターの命を助けた。同様に、私が支援する方々と戦うことになった際には、どうか見逃してあげて欲しいのです」
いや、俺最初からエージェント裏切る気満々だぞ。だが小規模か……NIRO裏切るにはまだ足りないな。
「俺が協力すればあの限定グッズ事件の時みたいに、大事にならず解決できるって事か……」
「さすがはユウトさんです。気づいておられましたか」
「まあ最初から仕組まれた感はしてたからな」
「そうです、このようにあなたが協力してくれればきっと……」
サラさんから必死さが伝わってくる……恐らく本気なのだろう。もちろん俺としては問題ない……むしろ願ったり叶ったりだ。
「もちろん、俺なんかでよければ協力するよ」
「ありがとうございます。では一度、直接彼女らとお会いするのがよろしいでしょう」
そうしてサラさんは約束を取り付けられ次第、また連絡を入れてくれる運びとなった。
「あ、ユウトさん……この事に関しては、自警団の皆様には秘密にしてくださいますよう、お願いできますか?」
「まあ、NIROに感づかれるのは危険だしな……わかってるよ」
「ありがとうございます」
そうだ、こんな事NIROが赦すはずがない……そもそも自警団自体、俺が裏切らないようにするための人質みたいなものだろう……やはりあの組織は赦せんな……いつか絶対……。
この辺りから阿倍野優が優遇され始めてくるかも?
それとMr.Xに会うまでの工程の簡略化をしています。