「……来たか」
サラさんからのメールが来たので確認する。恐らく『彼女ら』との約束を取り付けられたのだろう。
「合言葉?サラさんの勤め先ね、了解」
『エディンバラ』だねOK覚えた。
というわけで場所は屋上だそうなので早速向かうことにした。
「……あれ、だよな?」
俺が待ち合わせ場所に着くと、鈴と……なんかわかりやすい小物チンピラ三人衆がいた。
「いいじゃんよ!俺たちにちょっと街を案内してくれって言ってるだけじゃん!」
「あいつそんなナンパ方法でダイジョブか?」
「絶対ダメな気する」
って他二人は割と冷静に物事見れるじゃないの……まあ多分アレだし近づいてみるしかないか。
「や、お待たせ」
「あ……」
鈴は俺に気付くが三人衆の一人に阻まれて縮こまってしまう。
「……何だお前?」
わっかりやすい三下のセリフだな……無視するか?
「えーっと、君がサラさんの言って…」
「おい!俺を無視するんじゃねえ!!」
「ん?声は聞こえるけど姿は見えないなー」
わざとらしく棒読みで言ってみる。
「てめえ!調子に乗るんじゃ…」
一人が殴りかかってきたのでそのまま拳を手の平で受け止め、胸倉を掴み、投げる。
「うおお!?」
「あ、ごめんごめん……あまりにも小物過ぎて目に入らなかったわ」
「コイツ……!おいお前らやっちまうぞ!三人がかりなら勝てるぜ!」
「いや今の動き見ても結構ヤバいだろアイツ……」
「うんうん」
「そっちの二人は状況をちゃんと判断できるみたいだけど?」
とりあえず俺は手で払うようにして、こいつらに消えるように促した。
「ほら、ここは逃げるぞ」
「あ、ちょっ……お前ら!?」
一人を二人が引きずっていく感じで去って行ってくれた……ふむ、無駄な喧嘩を回避する俺、カッコいいな!
「あ…あの……助かりました、ありがとうございます!じゃあ早速……あっ!合言葉!」
「うん落ち着こうな」
忘れるな忘れるなそういう大事なこと。
「えっと、あの……何だったかな……あ、そうだ!あなたのオススメのメイド喫茶はどこですか?」
「カフェ・エディンバラだよ」
「……良かったぁ、間違えられたらどうしようかと……はい、正解です」
「確か、鈴……だったか?」
「あ、はいそうです。ユウトさん」
「君は……代理かな」
俺の予想では瑠衣が来るかもと思ったが、心配性かなこれは。
「あ、はい。瑠衣ちゃんの代理で私がここにいます」
「やっぱ君らの代表者は瑠衣ってことでいいんだな?」
「はい、サラさんから大体の事は聞いてるかと思うんですが……」
「うん、それで俺にはやっぱり……」
「はい、あなただけでも私たちと敵対しないでほしいってお願いと……後はできればでいいんですが、困ったことがあったら、出来る範囲内でいいので、助けてくれると嬉しいなって……あの、やっぱり難しいですか?」
これはサラさんにもいったが問題ない。それどころかもはやカゲヤシ全てに味方しそうではあるな俺は。
「問題ないよ、大丈夫だ」
「本当ですか!……良かったぁ……今、人間で私たちの正体を知った上で協力してくれているのなんて、サラさんぐらいしかいないんです。あ、ヤタベさん?という人は大丈夫だってマスターが言っていたかな?」
まあヤタベさんとマスターは親友同士だし大丈夫だろうな。
「ともかくまた一人、私たちと仲良くしてくれる人間がいる……それだけで嬉しいです!しかもエージェント!エージェントでさえ分かってもらえるって思うと何か勇気出ちゃいます!」
本当に嬉しそうだ。まあ俺は自分がエージェントになったつもりは全然ないんだけど。
「そういや何で瑠衣は来てないの?」
「あ、ごめんなさい。いくらサラさんやマスターが大丈夫だって言っても、瑠衣ちゃんは次期妖主なので、念のため私がまず先に……あ」
……何か今凄い情報を聞いてしまったような……鈴も「しまった」みたいな表情をしているし。
「あああああああ!?エージェントが狙っているから誰にも教えちゃいけないって妖主から言われてる事だったのにぃ!」
「瑠衣は時期妖主なのか?」
「え、はい!いえ違います!」
「もう遅いぞ……」
完全にパニックになって取り乱しちゃってるな……。
「もういい」
そこに第三者の声が響く……瑠衣が来たのだ。
「あ、瑠衣ちゃん……!ど、どうしてここに……危険だからまず私がって……」
「心配だったから様子を見に来たの」
「え、じゃ、今……来たの?」
「うん、そう」
「あ……良かっ…」
「あなたが私の秘密をバラしたところは見ていたけど」
残念鈴ちゃん!見られちゃったねぇ……。
「ご、ごめんね!ごめんね!つい……うっかり……!」
「………」
「ご、ごめんなさいぃ~!うわぁああん!」
「……………冗談」
ここで瑠衣は優しく鈴に微笑みかける。
「……え?」
「大丈夫、怒ってないよ」
「……でも」
「母さんが言った事を破っただけで、私はあなたを咎める気はない……だから、安心して」
「……ホントに?」
「………ウソ」
「うぇええええええ~ん!!」
「あははっ、今のもウソ」
今度はイタズラっぽく満面の笑みで……そんな表情もするんだな。
「……へ?」
「ごめんごめん、ちょっとイタズラしたかっただけ。大丈夫、怒ったりしない」
「本当に?」
「うん、それに私が出向かず、しかも詳細を秘密にしたままで、キミに協力を乞うというのも失礼な話だしね」
「まあ確かにそれもそうだな」
「えっと、ユウトだったよね。一度、場所を変えようか。今ので騒ぎになっても面倒だし」
「ああ」
「それじゃ、公園で。先に行ってる」
そう言ってこの場は解散となった。
そして公園へと向かったのだが………はぁ……。
「いいじゃんよ!俺たちにちょっと街を案内してくれって言ってるだけじゃん!」
「まさかさっきと同じ方法でナンパするとは……」
「あいつ負けず嫌いだから、成功するまでこのパターンでいくと思う」
「マジかよ……」
また君たちかあ……相も変わらず冷静な二人とバカ一人……。同じ方法をとるか。
「や、お待たせ」
「あん?………てめえは!?ここであったが百年目!おいお前ら、やっちまうぞ!」
「気のせいじゃない、絶対同じ展開になるヤツだコレ」
「ああ、面倒ごとになる前に引きずろう」
「ちょっ、お前ら!」
「ハイハイ、また別のとこ行こうなー」
そう言って、去ってくれる。あの二人は物分かりのいい奴で助かるよ。
「というわけで次こそお待たせ」
「助かった……何だかよくわからないんだけど、もの凄く道案内をせがまれて……あ、ひょっとして本当に道に迷って、困っていたのかな……?」
「いやそれはない」
お人好しすぎるだろう……。
「………」
「ん、どうした?」
急に瑠衣が黙り込んでこちらを見つめてくるので訊いてみる。
「ん、あ、うん。何か、この前は戦ってた敵同士のはずなのに、意外と普通に話せちゃうんだなって思って」
「それは……俺だからだろ?」
「ユウトが特別ってこと?」
「そうだ」
「親しみやすいってことかな?言われてみると、確かにそんな雰囲気があるよね」
「もちろんさ!この俺様だよ?俺みたいに素晴らしい人はやっぱオーラが出てるからな~。親しみやすいだろ?」
「………前言撤回していいかな?」
「あれ!?」
何だと!?……俺はどこでミスったんだっ!……まさか、寡黙でミステリアスな雰囲気を出した方がよかったか?
「ま、まあちゃんと親しみやすさは……あると、思う……けど」
「じ、自信もっていってくれないかな?」
「そ、それより、本題に入ろう」
「う、うむ……そうだな」
そして本題に入ることになる……といってもサラさんや鈴から聞いたことの再確認とかその程度だったりする。まあ後は……瑠衣に訊くべきことがあるな。
「瑠衣は、次期妖主なんだな?」
「うん、そう。これはエージェント達にも知られていないこと……キミを除いてね。恐らく奴らは私の姉を次期妖主だと思っているはず……そう見せるように母さんが仕組んだんだ」
瑠衣の話を聞くと、母親である妖主は、『引きこもり化計画』遂行のため、直接指揮を娘である瑠衣の姉に託し、自分を囮としてエージェント達を引き付けるため、全国を転々としているらしい。しかも姉は二人もいるらしい……しかもその表現だと二人とも同列扱い……双子とかか?
「次の妖主は、私……いずれは私がカゲヤシを率いる事になると思う。つまり、そうなれば私たちのグループが……つまりは穏健派が……穏健派……」
「お、どうした」
「穏健派、か……ちょっといいな、優しそうな響き、それでいて格好いい。うん、これからは穏健派と呼ぼう」
「あ、はい」
今自分で流れでグループ名を穏健派にして、かなり気に入ったのね……凄い嬉しそうだな。
「あ、ごめん……えっと、つまり私が妖主になれば、カゲヤシ全体を穏健派とすることができるはず……ただ、その時までに人間に今以上の敵対意識を持たれると、どうしようもなくなってしまう……今はまだ、引きこもり化計画のちょっとした邪魔しかできない」
……そうだな、人間との共存がうまくいかなきゃ、NIROを潰せたとしても、第二第三のNIROが出てくるだけだ……これは有意義な情報である。
いつかの俺の目的のためにもこの話は尊重しておくべきだろう。
「よし、この件については俺も協力できることは協力しよう。それよりも折角こうやって会えたんだ……もう少し、話をしよう」
「え、うん……もちろんそのつもりだよ」
さて、本題は話し終えたが、このままハイ解散は味気が無いからな。瑠衣もまだまだ俺と話したいようだし、付き合ってくれや。
「そうだな、瑠衣は普段なにしてる?ああ、暇なときとかそういう意味な」
「う~ん、任務がない時はおじさんがやっている喫茶店にいるかな。気が向いた時には、ウェイトレスみたいなこともしてるけど……サラさんもたまに様子を見に来てくれるんだけど、あの人、隙あらばお店をメイド喫茶にしようとして、大変なんだ。おじさんがいつも困ってるし、私たちにもメイド服を着せようとしたりして……」
ん、私たち?瑠衣と鈴……だよな。まさかマスターがメイド服を着るんじゃないよな?
「まあそんな感じかな」
「ああ、わかった。じゃあもっと色々聞いて良いかな?こういうのはお互いをよく知らないと、協力できるものじゃないし」
「そうなんだ、じゃあいいよ」
そうして俺と瑠衣は時間を忘れて会話を続けていく……ふむ、年相応に笑う彼女の笑顔を見ていると……純粋に可愛いと思ってしまう……俺ってこんなに三次に興味なかったはずなんだけどなぁ……カゲヤシは別なのかね。
「そっか…それじゃユウトに……あっ」
「お、どうした瑠衣」
「ちょっと待って、メールが……アレ?おじさんと鈴からメールが一杯……いつの間に……」
結構時間が経ってたんだな……確かに昼過ぎに瑠衣に会ったはずなのに……もう夕暮れか。
「えへへ、ユウトと喋ってたら全然気が付かなかった。メールは……あはは、二人ともすごく心配してる」
「そりゃこんなに時間経ってたらな」
「そうだね。もっとユウトと話してみたかったけど……今回はこれまでかな?」
「そうだな」
「うん、ねぇ、ユウト……また、会ってくれるかな?」
俺は笑顔で頷く……まあ普通に可愛い子と会えるのは良い事だし、俺の目的のためにもカゲヤシ側の繋がりは必須だ。
「ということは、もう私たちは仲間……じゃなくて友達だよね。それじゃ、私たちに困ったことがあったら助けて貰うからね」
「もちろん、俺にできる事なら」
「うん……期待してる。それじゃ、またね!」
「ああ、気をつけて帰るんだぞ」
彼女は見えなくなるまで俺に手を振り続けてくれる。俺も彼女が見えなくなるまで手を振っていた。
チンピラ三人との戦闘はカット。