メインヒロイン登場
「……朝か」
まだ眠たい眼を擦りながら、外を眺める。
カゲヤシは、架空の生き物である吸血鬼に類似している。昔は我々も血を吸わなきゃ生きていけず、恐らく日光への耐性もずっと低かった筈……本来カゲヤシは夜行性なのだろう。
「さて、と……起きなさい、舞那」
「んん……瀬那姉さん……あと五分……」
「……今日は私たちのシークレットライブの日よ。起きなさい」
「へぁっ!?」
私は未だに起きない双子の妹である舞那を無理やり起こす。
「そうだった!早く準備しないと!」
「大丈夫、まだ朝だから……」
「あ、うん……今日は大切な日だから、焦っちゃった」
「そうね、今日は大仕事の日だからね……」
今日は我々『Dirty Bloody Princesses』、通称ダブプリのライブの日。しかし、それだけではなくカゲヤシの仕事……吸血計画を実行する日でもある。
「でも大丈夫かな?」
「何が?」
「瑠衣の事、この計画に思い切り反対してたし、妨害してくるんじゃない?」
「……その時はその時よ」
瑠衣……あんな奴が私たちの妹……ママの娘だなんて思いたくない。もし邪魔するようなら……事故を装ってでも消すしかない。
ママには瑠衣を守れなかったこと叱られるかもだけど、そうすれば……ママも私たちを……。
「姉さん?」
「なんでもない。さ、朝ご飯を食べたら早速ライブの準備をしましょ」
「うん!」
この日の事を今でも思い出す……確か今日、私は彼と初めて会ったんだ……。
―ユウト視点―
「お、マスターからメールだって……これはマズイな」
俺はマスターからのメールを見る。文面からかなり焦っている様子が伝わってくるが……。
「……そうか、何か、納得がいった」
このメールで初めて知った衝撃の事実、しかしそれと同時に納得も言った。
『Dirty Bloody Princesses』、通称ダブプリ……瀬那と舞那が瑠衣の姉であり、この引きこもり化計画を指揮する実質的なトップだという事……そう、瑠衣もそうだったが、俺は三次に興味なかったのに、瑠衣や瀬那、舞那の事を気にしていた。これは……彼女たちがカゲヤシだからではないか。
俺もカゲヤシだから惹かれる所があるかもしれん……え?カゲヤシ化する前から気になってたって?ならば俺は本来カゲヤシとして生まれるべきだった……運命だったのさ。
と、その話は置いといて、このダブプリがシークレットライブを行い、集まった観客を吸血するという計画を立てたそうで、瑠衣はそれに猛反対して口論になってしまったようだ。そして瑠衣はその計画を止めるべく、あの二人の元へ向かったそうだ。
「マスターたちは……双子の部下から監視され、身動きがとれないと……」
つまり、今動ける俺に瑠衣を助けてほしいと、そういうわけだな……ライブは午後一で始まる……もう昼前だ、あまり時間はない……だが焦ってはいけない。
「まずはシークレットライブ会場に入る手段だ……やっぱりチケットを手に入れるしかないな」
幸いにも場所はUD+だと判明している……こういう時相談できそうなのは、ゴンちゃんだろう。
というわけで、自警団アジトへ行くと、何かそわそわしているゴンちゃんを見つけた。
「ゴンちゃん、訊きたいことあるんだけど」
「あ、ユウト……なんだい?」
「ダブプリのシークレットライブについて」
「……え?え?ダブプリのシークレットライブ?……ど、どこでそれを?それはプラチナ会員の中でも、ごく一部の当選者にしか知らされてないはずなのに……」
ファンクラブか……一応俺も入ってるな。だがプラチナ会員ではない……妹に貢いじゃうし。
「まあどこでもいいだろう。チケットはあるか?あったら譲ってくれ」
「ダ、ダメだよ!ダメに決まっているよ!」
「ゴンちゃんの脳を破壊したくはないが仕方ない……ダブプリはカゲヤシでな、このライブは罠だから行かない方が良い」
「わ、わかったよ……ユウトが本気だってことはよくわかった……けどそんなウソをついてまでチケットを欲しがるなんてよくないよ!」
「おお、ダブプリを信じるその言葉!君こそ真のファンだゴンちゃん!」
「あれ、ホントにユウトってチケット欲しいの?」
「うん、もちろんゴンちゃんから奪い取ろうってのは冗談だけど、いい方法ないかな?」
ごめん、ホントは少し考えてたけど、とりあえず今はチケットをどう入手するかだ。
「うーん、あ、そうだ……僕も一度お世話になったことある凄いダフ屋がいるんだ。その人ならきっと……ただ物凄く高い値段を要求されるけどね……」
「うーむ……」
「あ、女の子には少し安い値段で売ってくれるとか……でもお金意外にいろいろ要求されるらしいね」
ほう、なら俺の女装スキルで……って言いたいところだけど、あいにく服は家にある……取りに戻るとライブに間に合わない。幸い金はタンマリあるし、普通に金払うか。
「ありがとうゴンちゃん」
「ううん、チケットを入手できるといいね」
「おう!」
俺は早速そのダフ屋がいる場所へ向かう。
「……五万は高かったな」
ダフ屋に会ってダメ元で言ってみたが……普通にあったよ。恐るべしダフ屋。ただやっぱ高かった……これは今週のマイカへの小遣いを減らさないといけない……非常に心苦しいが仕方ない。
ともかくチケットは手に入れたから会場へ向かうか。
会場に着く、少し遅れてしまったために、もうライブは始まっているようだが一応間に合ったと言って良い部類だろう。
「おお、こんなに人が一杯……シークレットライブっていっても結構当選者がいるな」
と、ここでステージにいるダブプリの歌が一曲終わる。
「どうしたみんな、声が小さいぞ!」
「ほらほら、そこも、どうしたの!?もうヘバった?」
「もっと声を!」
「もっと気合を!」
「「絞り出せ!!」」
「「「「「ウウォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」」
ウウォオオオオオオオオオオオオオオ!!!俺もつい乗っかってしまう。
「みんな!足腰立たなくなるまで踊りまくりなさい!コラッ、そこ休まない!!」
「す、すみません!」
「そこの最前列のカメコ達も、シャッター切ってばかりじゃなくて、みんなと一緒に……さぁッ!!」
「は、はい!!」
あ、ゴンちゃん。
「後でファン交流会があるんだから、写真はそこで好きなだけ好きなだけ撮るといいわ!今は全力で楽しむ!ドゥユゥアンダスタンド!?」
「い、いえ……えっと……いえす、あいどぅ!!」
「よしっ、いい子だ!」
ゴンちゃんも楽しめよこのライブ!まあ俺は瑠衣を見つけなきゃいけないけど……まあまだいいか。……なんか、客の雑談の中に激しすぎて怪しいって言ってる人いるな。
まあ十中八九疲れさせる罠だろうな、血を吸うときに逃げられないための。
「さぁ、まだまだ行くよ!」
「続いての曲は……」
「「『VANITY VAMP』!!」」
そうやって始まった次の曲にみんなが沸き上がる中……俺もつい見入っていた。
「そういえばシークレットライブどころか、ダブプリの生ライブすら初めてじゃないか……」
俺はダブプリのファンだが、いろいろな要因が重なって、実際のライブに行けたことがなかった……生で見るダブプリは、とても良い……良いぞぉ!
「「「「「ウウォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」」
俺も本来の事を忘れ、ライブに完全に夢中になってしまっていたが。
「……ユウト?」
「!?」
瑠衣の声を聞いて、我に戻る。
「どうしてここに!?」
「マスターからメールでな、お前がここにいるってんで探しに」
「そっか……キミにも、心配かけちゃったね。私を助けに来てくれたんだ」
「ああ、俺も手伝うぞ?」
「ほ、本当に?……ありがとう」
どうせこの吸血計画を止めたいんだろう。ダブプリには悪いが、俺もゴンちゃんを守らなきゃいけないし……。
どうやら瑠衣が作戦を立ててたようで、あの双子はこの後に行われるファン交流会で実際に吸血行為を行うらしい。だから係員、ダブプリの部下に変装して皆を誘導、イベント中止を伝えるって作戦だ。
「ま、いい作戦だと思う」
「でしょ……曲が終わる……」
と、この会場でのライブもそろそろ終了か。
「みんな、ありがとう!」
「よし、みんなよく最後までついてきた!」
「……舞那」
「……うん。いい、みんな!この後はファン交流会会場に移動するから、その時は係員の言う事を良く聞いて、大人しく、静かに、黙って、誘導されるように!」
「「「「「はーい!」」」」」
「それじゃ……特別サービスでラスト一曲!」
よし、行動開始だな。
―瀬那視点―
ライブは大盛り上がりで大盛況した。後はファン交流会で集まった観客を……そう思ったのに、中々うまくいかないものだと歯痒く思う。
「一体全体、何がどうなってるの!?スタッフもあのバカ達も、みんないなくなるなんて」
「……やっぱり妙ね。UD+にも、ファン交流会会場にも、誰もいない、連絡もつかない……」
「きっと係の部下が誘導場所を間違えたに決まってるわ。こんな所で休んでないで、早く探しに行きましょうよ。これで逃げられたんじゃ、折角あのバカ達の体力が切れるまで盛り上げてやったのが無駄になっちゃう」
全く……この子は。私の双子の妹にも関わらず思慮が浅い。
「……舞那、二つ……あなたに忠告する」
私は忠告一つめとして、まずこの状況がおかしい事を伝える。
誘導場所を間違えたにしたって、連絡がつかない理由にはならない。もし仮にそうだとしたら私達に報告が来るはずなんだし。
こういう場合はエージェントの介入も考慮すべきだとも伝える。
「まさか。連中はアタシ達にはまだ勘づていないはず……それに、奴らが人間を助けるわけ……ないじゃん」
「何にでも例外はある。私達における瑠衣のように、異端児は必ずいる」
「……アイツは異端児ってか、単にママに甘えてるだけよ。いくら次の……」
「ストップ!誰かに聞かれるとまずい。話も逸れてる」
「……ごめん」
本当にこの子は……瑠衣が次期妖主だなんて、もしエージェントに知られたら……同胞全員に迷惑が掛かる。
「瑠衣の事は置いておきなさい。もうママには報告してある。きっと、きちんと叱ってくれる」
「さっすが姉さん!仕事が早い。これでアイツも……」
「忠告二つめ、言っていい?」
「あ、うん」
忠告二つめに、例え人間共であっても、私達の歌を聴いて楽しんでくれた相手を……バカと呼んではいけない事を舞那に伝える。
半分は任務とはいえ、彼らのおかげで、秋葉原に限っていえば、私達は無類の人気を得られた……本当に感謝している。少なくとも私は彼らの前で歌う事がとても楽しい。
「一緒に声を張り上げれば、他にはない高揚感が胸に宿った。さっきも、そう……あなたは、違う?」
「えっと……さっきバカって言ったのは言葉のアヤっていうか、愛情表現ってことで」
「……うん、それならいい」
「ってか、アレよ。アイツらが人間なんかに生まれてきたことがそもそもおかしいの!多分、連中はカゲヤシに生まれ損ねたに違いないわ!そうじゃなかったら納得いかない!」
「うん、カゲヤシだったら、全員部下にしてやったところね」
私達を応援してくれるファンは大事だけど……それよりもママの命令の方が大切だから……悲しいけど、覚悟してもらわないと。
「何にせよ、このままここにいてもしょうがないから一旦……あれ?あそこにいるのって確かさっき、ライブ会場で……」
そこで舞那がこっちに近づてくる人影に気が付く。私は演奏を担当してる為、ボーカルの舞那の方が、ライブに来た人間の顔を覚えている。舞那がそう言うなら、あの子はライブにいた子だろう。
「かっわっいー。アタシ達見て、驚いてるよ」
「あの子に事情、訊いてみようか」
「オッケー」
私達は彼に近づき、事情について尋ねることにした。
「ねぇ君、さっき私達のライブの時にいた子だよね?私達がはけた後、係員から交流会会場への移動があったと思うけど、何かあった?ちょっとトラブルが起こったみたいなんだ」
「え、トラブルですか?俺は係員から交流会がここで行われるのを聞いてきたんですが……むしろみんなどこですかね?」
「はあ?何言ってるのキミ、係員がここまで誘導する手筈なんだから、一人で来るわけないでしょ」
「あ……いや、でも多分みんなとはぐれたみたいで……」
おかしい……あからさまに怪しい……もしかしたら、シークレットライブのファン交流会の情報を聞きつけてやってきたからライブにはいなかったんじゃ……。
「ねぇ、舞那。本当にこの子、会場にいた?」
舞那の勘違い、見間違いの可能性も考慮して、彼女に聞いてみる。
「うん、何か、ラストの曲の途中で退場しようとしてたはず。てか、それで印象に残った」
「……ふーん。でもそれだと、会場移動の時にいなかったんじゃ?」
「誰一人として退場させるなって言ってあるから、大丈夫でしょ?」
「そう……それなら……」
私はこの男を思い切り殴りつけた。
「姉さん!?」
「無意味な時間が惜しい。特に、私達が歌っている途中で退場する奴にかける時間なんてない」
私はこいつに強烈な怒りを覚えた……まさか私達の歌に背を向ける相手がいるだなんて考えたくもない。
「さぁ、これ以上痛い思いをしたくなかったら早く知っていることを……」
そこで私はこの男の異質な点に気付いてしまう。
「うわ~、いきなり殴るなよ……あー、イテテ……」
「バカな、傷が……!この回復力、まさか……」
「カゲヤシ!?」
「同胞のわけがない。秋葉原に限らず、末端まで全ての同胞の顔を私は覚えている」
エージェントか……偶然か、それとも……。
「会場にいたのなら、私達の事は知っているようね」
「ウソ……」
「アイドル業も、これでおしまいね」
「そ、そんな!だって、それじゃ、もう……もうライブとか出来ないの!?」
仕方ないことなのよ……いずれはそうなる事はわかっていたし……。
「ま、まだわからないわよ!いろいろ偶然が重なっただけかもしれない!」
「……かもしれない。ともかく、この子は倒しておく必要がある……まぁ、私達の生歌に背を向ける人間という時点で、死ぬべきね」
「それは……ホントに申し訳ない……」
そんな心のこもってない謝罪はいらない……こいつは絶対に倒す。
「あの肌の感じ、恐らく奴等の兵隊お得意の簡易カゲヤシ化を施した強化エージェント。あれなら殺すより、脱がした方が早い」
「同胞の血を……最低の人間共め……!」
……カゲヤシ化されたエージェントのほとんどはママがひきつけてくれていると思ていたのに……面倒だな。
「「勝負だ、エージェント!」」
私達は一気にカタをつけるため、左右からの挟み撃ちを敢行する。いくら強化されたエージェントとはいえ、私達二人がかりなら勝てる……そう思っていた。
「こちらは全く戦う気がないのに血気盛んなことだ……抵抗はさせてもらうぞ」
彼の動きは速かった。ただ地面を蹴ったのではない……まるで何かによって発射されている、という表現が最も合うだろう。
「ホラホラ、俺を捕まえてみな!」
「な……舐めるなー!」
「舞那!もっと冷静に……」
「じゃあまずは妹の方から……」
彼の攻撃を舞那は自身の武器であるスタンドマイクで受け止めるが、次の瞬間……舞那はそのマイクを手放してしまう……いや、謎の衝撃波で強制的に手放されている!?
「すかさずストリップ!」
そうして無防備となった舞那の上服をすかさず脱がす。
「舞那!」
私は舞那のフォローへ向かおうとするが、そんな隙を許す相手ではなかった。
「おっと、まずは自分の心配をしたほうがいいぜ!」
「しまっ……!」
今度はこちらへと一気に距離を詰められ、足払いを掛けられてしまう。
「お前は下からだ!」
そのまま私の下服をも、脱がされてしまった。
このままやられっぱなしというわけにはいかない私は、何とかその場を脱し、後ろへ下がる。舞那も私が脱がされている間に、退避が完了していた。
「こ、こいつ……!!」
「……強い!コイツは、ただカゲヤシ化されただけのエージェントじゃない。何か、もっと……」
「……まさか、優が言っていた、あのエージェントなのか……?瑠衣の血を得たという……」
「アイツの!?……クッ!それで……」
……いや、瑠衣の血をだけではない。この力……元々のこいつの強さが異常なんだ……。
秋葉原に流れる噂に『気を扱い、とんでもない身体能力を持つ者がいる』……というものがある。まさかこいつがその……!
「……ひぃっ!!」
その時、相手の彼がこちらへ一歩詰め寄ってきた。
瀬那はメインヒロインとして優遇します。