終末世界の壊れた神機使い   作:真鳥

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11 激情

 

 

 

 

 

 

 

 

 息子よ、何を恐れて顔を隠す? 

 

 息子よ、あれはただの霧だよ。

 

 お父さんには魔王が見えないの? 

 

 王冠とシッポをもった魔王が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シューベルト 戯曲「魔王」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 建物内は朽ち果てていた外観の割には、しっかりと内部は整えられていた。

 

 所々に燭台が灯り、薄暗い明かりが仄かに建物内を照らす。

 

 マリア像が物悲しげな視線で胸に抱く息絶えたキリストを見つめる。

 

 大勢の武装した兵士たちが素早くジェスチャーを仲間内に行い、聖堂の奥の扉へと続いて入り込んでいく。

 

 最後の兵士が殿(しんがり)を務めて後方確認した。

 

 問題ないと判断して、扉へと侵入する。

 

 すると、配列席からひょっこりとボロ切れの外套を纏った少女が顔を出した。

 

 顔半分を布地で巻いて隠していても、可愛らしい少女だと解る。

 

 キョロキョロと辺りを見廻し、サッと俊敏な動作で扉へと近づくと、兵士の後を追うように入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖堂の奥は、侵入者を拒む迷路のように増築され複雑に入り組んでいた。

 

 ヴェルナーに黙って入ってしまった。

 

 しかし、気分は潜入操作をする蛇なエージェントな気分。

 

「こちら蛇なベル。無事目的地の潜入に成功した」

 

 フンフンと鼻を鳴らし、スパイごっこをする。

 

 段ボールがあれば、完璧なミッションだったろう。

 

 う〜ん? 何だか、この所、思考回路が幼くなってるような気がする。気のせいだろうか? うん、多分、気のせいだ。

 

 それにしても、ザワザワと自分の中で警告が鳴り止まない。

 

 戻れ、戻れとしきりに、しかし、それ以上に騒ぎ立てる心音。バクバクと鼓動する胸の奥。

 

 血が騒ぐ。

 

 興奮している己。

 

 これは、戦っている時と同じ感じだ。

 

 それにさっきから奥の方より、甘い匂いが漂う。薬香のような咽せる香りに交じり、敏感に感じる。

 

 "血"の匂い。

 

 濃厚な人間たちの匂い立つばかりの血潮の匂い。

 

 誘われるようにフラフラと聖堂の奥へと進んでしまう。

 

 右へは左へ、どう進んだか判らない。それでもだんだんと濃くなる匂い。

 

「!?」

 

 誰かが来る。足音から複数。人間だ。ササッと暗がりへと隠れて身を潜める。

 

「侵入者だと? 逆徒は何人だ?」

 

「武装した兵士たちだ。こちらも武器を持てっ!」

 

「愚かなる者どもめ。忌々しい。神の贄にしてくれる」

 

 何人もの黒い法衣を纏った人間たちが剣や銃を持ち、通り掛かった。

 

 肌で感じる殺気。闘いが始まる前触れ。オレは高まる心音と暴れ出しそうな自身の気持ちを何とか抑えて人間が去ったのを確認し、奥の通路に向かう。

 

「あ……ここ…………」

 

 辿り着いたそこは格子戸が点々と並ぶ部屋? いや、牢屋だ。

 

 その牢屋にはまだ幼い男女たちが何人も囚われている。両腕に腕輪。AGEの子供たちだ。

 

 ドクン、と自分の脳内にフラッシュバックする光景。

 

「ッ! 頭、痛い…………」

 

 目眩がする。頭を振って鉄格子越しにAGEの子供たちに歩み寄る。

 

「どした? なんでこなとこいる?」

 

 しかし、子供たちは上の空だ。おかしい? 虚ろな眼差しで涎を垂らし、空宙を見ている。放置されたトレイには食べかけの粗末な食事あるが、すでに腐って虫が沸いている。

 

 甘ったるい薬の臭いが子供たちの身体からする。

 

 これは…………何かの薬を投与されている? 残された食事からも同じく嫌な匂いを感じる。抵抗出来ないように意識を奪われているのかもしれない。

 

 ドクン。

 

 また頭が痛む。知っている。かつての囚われた自分と重なる。

 

 …………■■■■■…………

 

 まただ。

 

 ■■■■…………■■■…………■■■…………

 

 また頭の中に響く声。

 

 …………■■■ッ! …………■■■ッ! 

 

 それはだんだんと大きくなり、輪郭を持って形作られる。

 

 闇の中から鋭い牙と爪を持つ──────

 

 銃声が響いた。

 

「ッ!?」

 

 幾つもの重なる銃撃音が建物内に共鳴する。そして香る血の匂い。

 

 誰かが戦っている。

 

 こっちに来るかもしれない。

 

「みんな、ここ出るっ! いたらダメッ!」

 

 格子を掴むが、当たり前だが、鍵が掛かってる。

 

「むむ、こなのっ、こうだっ!」

 

 思い切り捻じ曲げる。反対側の格子も丸めた尻尾を伸ばし使ってグニャリと曲げて開ける。

 

 しかし、格子は開かれたが、子供たちはただボゥ〜とオレを見つめるだけで、一向に牢屋から出ようとしない。

 

 自分の意志がまるでない。どうしよう、どうしよう。

 

「こっちに牢があるぞ! 保護対象はここだ! 確保しろっ!!」

 

 誰かが来る! 慌てて牢屋場から逃げ出した。

 

 銃を持った兵士たちが何人も現れ、囚われた子供たちを連れていく。何故か格子戸が捻り曲がって空いているのを不思議がっていた。

 

 どうやらあの兵士たちは子供たちを助けに来たようだ。

 

 良かったと、ほっとするのも束の間、何人か別働隊がこちら側に来るではないか。

 

 オレはさらに通路の奥の方へと素早く身を低く屈め、逃げ進む。

 

 前方から武装した黒ローブの者たちとすれ違うが、合間を縫うように一気に突き抜ける。

 

「うわっ! な、何だ!? 何かがっ!?」

 

「前を見ろっ! 敵だっ! 背信者どもだっ!」

 

「おおっ!! 奴らの血肉を我らの神に捧げろっ!!」

 

 黒ローブたちが騒ぎ立て、矢継ぎ早に武器を構えた。

 

「接敵っ! 殲滅対象だっ!! 攻撃を開始しろっ!!」

 

「くたばれ、狂信者めっ!」

 

「仲間の仇だっ! 地獄に送り返してやるっ!!」

 

 鉢合わせた兵士たちと壮絶な乱戦となり、混沌とする場。銃弾が幾重にも飛び交う中を構わずに、とにかくその場から離れて通路を駆ける。

 

 濃厚な血の匂いが背後からも前からも迫る。

 

 刺激が強すぎる。駄目だ。頭がおかしくなりそうだった。

 

 それに前方のさらに奥間から人間ではない強い臭いがする。

 

 この匂いは、アラガミ? ここはそのアラガミの縄張りのようだ。

 

 暗がりの通路の先に光が差している。

 

 そこに向かって走り、飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこはコロッセオの広間のように開け離れたホール、広々としていた。

 

 その広間に広がるは、陰惨な光景。

 

 咽ぶ血臭、淫臭、焚かれた薬香。裸の一矢纏わぬ老若男女が互いに肉体を重ねて欲望のままに身を委ねて享楽に、狂楽している。

 

 その中に虚ろげなAGEの子供たちが男女問わず裸身の肉体を貪られている。

 

 肉欲の坩堝。

 

 ホールの中心部に聳える円形のピラミッド上に巨大なアラガミが鎮座する。

 

 金色の、黄金の肢体を備えるヴァジュラ。

 

 通常より数倍にも及ぶ体躯を誇るそれが、差し出された最早生きているだけの汚液に塗れたAGEの子供を大口を開け、頭から齧り付き喰らう。

 

 弾け噴く血肉。

 

「アラガミ様っ! 私にも救いをっ!」

 

「我にも御慈悲をっ!!」「お導きをっッッッ!!!」

 

「アラガミ様っ!」「アラガミ様っ!」

 

 裸体の男女らが我も我もと金色のヴァジュラに群がり、ヴァジュラは順繰りに人間たちを喰らい殺す。

 

 漂い舞う血煙。

 

 ドクン。

 

 ナンダコレハ。コレハナンダ。

 

 ドクン、ドクン。

 

 AGEの子供たちが虚ろげな眼差しで組み敷かれ乱暴に陵辱されている。汚されたAGEの子供たちがまた金色のヴァジュラの前に差し出され、喰われる。

 

 その度に群衆から盛大な歓喜の叫びが詠われ、熱狂する群衆。

 

 ドクン、ドクン、ドクン。

 

 繰り返す惨状。重なる過去の幻影。嬲られる自身。息絶える仲間。群がる看守の男。迫る灰嵐。逃げる看守たち。次々と葬る己。返り血で染まる自分。

 

 怒り。嘆き。悲しみ。負の慟哭。

 

 あの日以降止まった時の流れ。

 

 …………■カ■■■…………■■■…………■■■

 

 聴こえる。

 

 …………■カイ■ロ…………ス■■…………■ラ■

 

 忘れていた。

 

 …………■カイシロ…………ス■テ…………■ラエ

 

 あの日に置き去りにした。

 

 …………ハカイシロ…………スベテ…………喰ラエッッッ

 

 

 

 

 

 本当の"オレ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、オレの世界がグルリと反転する。

 

 そうだ。そうだった。何を勘違いしていた? オレは。オレはアラガミだ。OK? コイツら人間はオレたちの餌だ。何も間違っちゃいない。

 

 神? その通り。まさにオレ様は、アラガミ様よ。

 

 あ〜、なんだか頭の中がスッキリとクリアになってきたぜ。いままでモヤモヤした鬱蒼とした霧が晴れたようだ。

 

 しかし、何だ?これはパーティか?随分と楽しそうじゃねぇか?オレ様も飛び入り参加してやるぜ。

 

 わちゃわちゃ(たむ)ろする周りの人間の頭をちょいと鷲掴み握り潰してやる。ブチャッとプリンみたいな脳味噌が飛び出す。面白しれぇぇ。温泉卵をぱっか〜ん♪ 居並ぶ身体をズバズバ鉤爪で引き裂き、貫いて、ちゃちい心臓と内臓を全部引き摺り抉り出してやる。ソリャ♪ ソリャ♪ 整列する人間たちの背中を背骨ごと叩き折り、リズミカルなステップで打楽器にしてやる。ハハハハッ!! ポキ♪ ポキ♪ ポキ♪ ポキ♪ いい音がよく鳴る楽器どもだぜ、フルコンボだドーンッ!! ヒャーッ! 堪んねえっ!! 悲鳴と血飛沫と濃厚な滴る血潮を思う存分楽しんで味わう。

 

 奴らは死にながらも恍惚とし、救い(笑)を与えるオレに群がり身を捧げる。よーしよし、仲良く並べよ、人間ども。ちゃんと殺してやるから(笑)

 

 アラガミを壊すのも面白いが、人間を壊すのも面白い。小突いただけで簡単に壊れるから手加減しつつ片っ端から壊して喰い殺す。

 

 アラガミも美味いが、人間も美味い。何でこんな美味い餌を今まで捕食しなかったんだ? 特にこのAGEの子供は甘くて柔らかくて最高だ。噛り付く度にビクンビクンと激しく痙攣して香しい血を撒き散らす。碌な反応が無いのが多少つまらないが、髪一本残さず余さず喰ってやる。オレは、お残しはしないのだ。えっへん! あ〜ん、がぶり、もしゃもしゃ。

 

 黄金のヴァジュラは突然現れた他所のアラガミ、つまりオレ様に痛く御機嫌斜めなご様子で、低い唸りを鳴らして起き上がる。

 

 自分の餌場を荒らされた不機嫌さを隠さず、傍の陶然とした侍る信者を前脚で邪魔だとばかり押し潰し肉塊に変える。

 

 明らかな敵意と殺意がオレ様に向けられる。

 

 おう? なんだぁあ、やんのか、テメェ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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