終末世界の壊れた神機使い   作:真鳥

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14 零れ落ちたもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘘とは何か。それは変装した真実にすぎない。

 

 

 

 

 

 

 

                     バイロン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラガミの群れが外套を羽織る蒼髪の少女を睨む。

 

 冷たい女神像の仮面を模した獅子の大型アラガミ、プリティヴィ・マータたちが何体も取り囲む。

 

 その様子を悠々と瓦礫の塔の上で見据える人面狒々顔の黒色の大型アラガミ、ディアウスピター。

 

 プリティヴィ・マータたちが唸り上げ身を低く屈め、一斉に氷の槍を撃ち放つ。

 

 鋭い氷で作られた無数の白い槍が少女を貫いた。しかし、そこにあったのは抜け殻だけの外套のみ。

 

 遥か真上。

 

 蒼黒の鎧結晶の鱗を身に纏いし褐色の肢体を翻し、高々と腕を掲げ空を躍る美しき戦乙女。

 

 掲げたガントレットの右腕が見る間に巨大な蒼黒の兇悪な大鎌に変わる。

 

「ジェノサイドファングッッッ」

 

 大鎌の刀身が伸縮し長大に伸び上がり、まるでそれが意思持つ巨大な生き物のように鉤爪の鋸刃を幾重にも連ならせ横薙ぎに振り抜かれた。

 

 それはあたかも死神が振るう黄泉へと誘う断罪の大鎌。

 

 並み居るプリティヴィ・マータの身体に食い込み、ことごとく切り刻み、スライスし刈り取った。

 

 しかし攻撃を逃れたマータが少女の技の隙を付き詰め寄り、襲い掛かる。

 

「双刃衝破ッッッ」

 

 豪風が巻き起こり、二刀の刃が不意をついたマータの身体を頭から股下まで斬り裂き抜き、真っ二つにした。

 

「大丈夫か? ベル。油断するなよ」

 

 アラガミを両断した眉間に十字傷がある男は二ふりの神機を払い構える。

 

「ヴェルナーッ! ありがとッ!!」

 

 助けられた蒼黒の少女ベルがニパッと快活な魅力的な笑顔で礼を述べる。

 

「粗方周囲は片付いたか。あとは高みの見物をしているアイツだけだな」

 

「うんっ!」

 

 少女と男、二人の神機使いコンビが瓦礫の高台に居座り此方を値踏みするように見下ろすアラガミを見上げる。

 

 漆黒の醜悪な髭面の人面を模した黒々しいアラガミ。

 

 その赤いマント状の外皮状の巨軀をゆっくりと気怠げに起こし、自身のハーレムを斃した愚かな輩どもを卑下するように、帝王のごとき冷たい眼差しでギロリと睨み据える。

 

 ディアウスピター。

 

 極東支部で初確認されたアラガミ。ヴァジュラ神属第一種接触禁忌種。ユーラシア大陸が発生起源だと推測される。それまで猛威を奮っていた類似したヴァジュラ種を凌駕する危険個体として認知された強敵。

 

 何処からともなく数多のプリティヴィ・マータを傘下に従え人類圏を脅かすアラガミである。

 

 不気味な人面で眼下を見やり、スウッと巨大な前脚を掲げて瓦礫の台場に振り下ろし、高台を瓦割りのように断ち割った。

 

 幾つもの瓦礫の飛礫が雪崩となり木っ端微塵に飛び散り迫る。

 

 ベルとヴェルナーが粉砕した瓦礫の飛礫を神機を打ち払い防ぐ。

 

「あっ!? ヴェルナーっ! 後ろっ! 危ないっ!!」

 

「ぬうっ!?」

 

 いつの間にかヴェルナーの真後ろに黒い巨軀が映り込み、気付いたヴェルナーが咄嗟にバックラーを展開する。

 

 ピターの巨大な前脚の鉤爪が凄まじい速度で振り払われ、防御した盾と身体ごと吹き飛ばしたが、間一髪ガードは間に合った。

 

 髭が生えた人面の口を大きく開き鋭い牙の羅列を披露し追撃体勢のピターが繰り掛かる。

 

 防御した神機諸共一気に此方を喰らう気か。

 

「グリムリーパーッッッ」

 

 そこに鋭利な大鎌の残閃が斬り舞い込み、躱したピターの鼻先を辛うじて掠めていく。

 

 素早くバックステップ、巨体を身軽に翻し安全な距離の間合いを確保するピター。

 

「大丈夫? ヴェルナー。これでおあいこだねー」

 

 細く華奢な右腕と一体化した不釣り合いな蒼黒の大鎌を油断無く黒いアラガミに突き付けるベルが微笑む。

 

「ああ、すまない。助かったよ、ベル」

 

 ヴェルナーも微笑い、軽く両腕を回しバイティングエッジを構える。

 

 二人の神機使いの攻撃の出方を伺うようにしていたピターが姿勢を屈め背中のマントを拡げ帯電を始める。

 

 周囲にプラズマの雷球群が発生し、自身を囲むように赤い雷撃弾が作られ勢いよく放たれた。

 

 唸りを上げ飛来する熱波の雷球。雷球の着弾した地面が蒸発し弾け、熱を放ちガラス状に焼け溶る。降り注ぐ無数の紅い電光の応酬の合間を縫うように呼吸を合わせたコンビネーションで互いの位置を交わし躱すヴェルナーとベル。

 

「やるぞッ、ベルッ!! 」

 

「うんっ、ヴェルナーッ!!」

 

 二人の身体から光が溢れ出す。

 

「「エンゲージッッッ」」

 

 包み込む眩く発せられた偏食場のオーラにディアウスピターが怯み思わず眼を細める。

 

「「ハアアアアアアアァァァッッッ」」

 

 重なる神機の刃、翔ける閃光がディアウスピターの肩から胴を切り裂き疾る。

 

 絶叫を谺し、ピターは巨体を揺るがし地面に倒れ伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったあっ! ヴェルナー、アラガミたくさん倒したよっ!!」

 

 ぴょいんと飛び跳ね喜ぶ少女ベル。

 

「なかなかの強敵だったが、何とか討伐出来たようだ。これでこの辺りに巣食うアラガミの群れは掃討したはずだ」

 

 ヴェルナーは無邪気に笑う少女を微笑ましく見守る。あれからしばらくアラガミを討伐しながら灰域を当てもなく二人旅をしている。

 

 人型アラガミの少女、名はベル。

 

 見た目は十代後半ぐらいの可憐な青い長髪に褐色肌の美少女。ただ外見的に人とは言い難い特徴を多数備える。頭部に双角、肌は結晶のような鱗を纏い、腰には蜥蜴のような尻尾。

 

 アラガミのコスプレにしては生々しく奇妙過ぎる。言い訳は難しい。それさえ除けば多少外観より幼さを残す程度。

 

 あの時見た恐ろしいまでの暴虐さは、なりを潜め今は見受けられない。

 

 アレは何だったのか。

 

 アレが彼女の本当の、アラガミとしての姿だったのだろうか。

 

 彼女はあの時の出来事を一切憶えていなかった。自分が一体何をしたのかさえ。

 

 はたして今、この少女は《どちら》なのか。

 

 ヴェルナーは首を振る。迷いが無い、とは言えない。だが、自分は彼女を最期の時まで見据えると決めたのだから。

 

「ヴェルナー、どうした? どっかケガしたか?」

 

 小首を傾げるベル。

 

「…………いや、大丈夫だ。キミの方こそ────」

 

 せんなき思考から我に帰るヴェルナー。うだうだ考えても仕方がない。兎にも角にも少女を護り抜く。

 

 そう決意を新たにした時、横たわるディアウスピターの体躯が突然に起き上がる。

 

「コイツッ、まだ生きてっ!?」

 

「しまったっ! トドメを挿し切れていなかったかっ!?」

 

 瀕死の巨軀を震わし咆哮を響かせるピター。背中のマントが形状変化し翼刃となり展開し巨体を捻り回転させ、拡げた両翼の刃を斬り上げた。

 

 伸び上がる翼の攻撃を神機を構え、手負いのアラガミの猛攻を受けるヴェルナーとベルが跳ね飛ばされてしまう。

 

「うわぁっ!?」

 

「ぐううぅっ!!」

 

 だが、ピターは次なる攻めはせず、慌ててその場から跳躍し瓦礫を登り背中を向けて逃走を計った。

 

「あっ!逃げられちゃうよっ!」

 

「くっ!ん?待て、何かいるぞっ!」

 

 思わぬ反撃に戸惑うヴェルナー、ベル。しかし、敵前逃亡を企てたディアウスピターの目の前に白い巨影が立ち塞がる。

 

 能面の女神像。ヴァジュラ種の巨軀。

 

 そのアラガミは、プリティヴィ・マータ。

 

 いや、違う。先程倒したプリティヴィ・マータたちにしてはあまりにも巨大な歪な異様な身体を有していた。

 

 眼前のディアウスピターを凌駕するほどの外骨格と大きさ。身体中に青い氷の槍を堅牢な鎧として携え備えていた。

 

 底冷えする冷気の呼気を吐き、冷たい瞳で眼下のピターを見下ろす。

 

 まるで蛇に睨まれたカエルさながらピターは身をブルブル震わせ、忠実に従う下僕のように頭を垂れ身を伏せる。

 

 どうやらここいら一帯を縄張りにしていたアラガミはディアウスピターではなく、この巨大なプリティヴィ・マータだったようだ。

 

 巨体マータが口から氷のブレスを吐き出して己に傅くピターに浴びせ掛けた。

 

 凍える冷気の吐息を全身に受けたディアウスピターは真っ白な氷像へと変わり果てた。

 

 瞬間、プリティヴィ・マータの巨大な前脚が氷像となり固まり伏せるピターを叩き潰し破壊した。

 

 氷細工の破片となった壊れ砕けたピターは細かい黒色の塵芥となり呆気なく散った。

 

 巨体マータはヴェルナーとベルを冷ややかに見つめながら、ゆったりと向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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