終末世界の壊れた神機使い   作:真鳥

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25 我ラガ始祖

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 われらが心を占めるのは、われらが肉を苛むは、

 

 暗愚と、過誤と、罪と吝嗇───

 

 

 

 

悪の華 シャルル ボードレール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ジャラ……ッ! ジャラン……ッ! 

 

「グゥウうううううッッッ」

 

 鎖に繋がれた少女が薄暗い牢屋の中で苦しげに四つん這いで呻めきを上げる。ヒビ割れた冷たいコンクリートの床や壁に無数の掻き傷の跡が痛ましく残る。

 

 それを格子越しに冷ややかな眼差しで見下ろす少女と瓜二つの少女。

 

「くく、まるで獣だなぁ。もうすぐ、もうすぐだ。もうすぐオレは解放される。いや、オレたちだったな。そう、オレたちは、このクソッタレな世界から本当の意味で自由を取り戻すんだ」

 

 少女は薄く嗤い、紅い唇から鋭い牙を覗かせる。

 

「ウガアアアアァァァッッッ!!!」

 

 這いつくばっていた少女が立ち上がり吠え、格子越しに見やる少女に向かって突進する。

 

 ガシャアアアアンンンッッッ

 

 乱杭歯で格子の柵にガジガジと噛み付き、獰猛な野獣の如く唸りを上げる少女。

 

「はははっ、焦るなよ。まだほんの少しだけ理性が残ってるみたいでなりよりだ。安心しな、独り占めなんてしやしない。喰らうときは一緒だ。オレたちは二人でひとつだからな。ああ、本当に愉しみだ。世界のすべてを喰らうその時が」

 

 少女は不気味な笑みを浮かべる。

 

「お前も聴こえてくるよな? 今もあの声が。この星の中心から囁やくあの忌々しい女の声が」

 

 アラガミとして産まれてからずっと頭の中で繰り返される甘く奏でる誰かの囁やき。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───イトシキワガコドモタチ───

 

 

 

 

 

 ───ハハノネガイヲカナエヨ───

 

 

 

 

 

 ───コノホシノスベテヲ───

 

 

 

 

 

 ───クライツクセ───

 

 

 

 

 

 

「ああ、言われなくても食らってやるさ。なあ? オレたちをこんな目に合わせたこんな世界、一欠片も残さず喰らい尽くしてやろうぜ?」

 

 格子越しに少女が反対側の唸る少女に重なるように凶悪に嗤いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』

 

 蒼黒の魔竜が雄叫びを谺す。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』

 

 人馬の巨獣が負けじと咆哮を返す。

 

 そして互いに拳を握り殴り始めた。

 

 防御もせずダメージを負うことも構わず、ガムシャラに滅多打ち。

 

「……む? なんだ、あのアラガミは……カリギュラ亜種か? ハンニバル亜種か? 灰煉種ティラニハンニバルに酷似しているが……灰域種なのは間違いないようだが……いや、まさか、あれが報告にあった謎の特異変異体なのか?」

 

 犬飼がコンソールを操作して画面にデータを映し出し、現れたアラガミと比較する。

 

「……やはり、な。実験場に出現した神出鬼没の大型アラガミ、私が造ったクローン体アラガミを倒した同個体か。丁度いい。数々のデータを元に創造した私の最高傑作『ダムドオーディン』の最終調整に相応しい相手だ。コイツも私の研究材料の一部にしてやろう」

 

 そう言って犬飼は気味悪く薄ら笑いモニター内の人竜アラガミを睨め付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

ああ、イライラするぜ。今、目の前にうすらデカい図体のアラガミがオレ様にガン飛ばしてきてやがる。

 

生意気にも、まるでコチラを品定めするように悠々と舐めた態度。

 

確かにこのウスラデカからは、強者の貫禄がある。ま、実際強いんだろう。

 

だが、いけすかない。いかすけねぇなぁ。

 

何故なら、圧倒的強者はオレのほうだから。

 

それを是が非でも解らせてやらねばならないってわけだ。Do you understand? 

 

オレが咆哮を上げる。

 

ヤツも咆哮を鳴らす。

 

アラガミに言葉なんてものは、意味は成さない。

 

つまりは、どちらがより強いか。覇者に相応しいか。

 

ヤツが巨大な鉄塔のような腕を振り上げ豪風をいなぎ、馬鹿でかい拳を俺目がけ振り下ろす。

 

ドッッッゴッッッ

 

オレはそれを片手で軽く受け止めてやる。

 

衝撃波が遅れて宙空を歪ませ撓ませる。

 

ふむ。多少腕は痺れたが、まあまあの威力だ。ただのアラガミならそれだけでペチャンコだったろう。

 

オレはお返しとばかり、右腕に備わった自慢の大鎌を大仰に振るいかぶり、ヤツの肘から下をバッサリと────切り取ってやった。

 

絶叫。

 

吹き飛ぶ腕。吼えて斬られた腕を退け、数歩、後方にヤツはタタラを踏む。

 

ははっ、ざまあーねぇぜ。

 

すると、黒い霧状の波動が腕先を包み込み、斬られた部分が瞬時に覆われ新しい腕部が形成された。

 

おっ? 野郎、もう直しやがったのか。

 

これには多少オレも驚いた。

 

ヤツは再生した腕の具合を確かめると、周囲に黒い槍の連環を多数出現させる。

 

それをオレに向かって勢いよく発射した。

 

オレはすかさず左腕の籠手を形態変化、巨大タワーシールドを形成させ構えた。

 

───────ガッッッガガガガガガガガッッッ

 

何十、何百もの黒い槍束。迫り来る針山のごとき黒の豪雨が降り注ぐ。

 

おっ!? おおおおっ!! こ、いつ、は……っ!! 

 

休むことなく無尽蔵に襲い来る槍群、無慈悲な黒いスコールに盾が徐々に削り取られていく。

 

ズッッッガッッッ

 

ぐはぁッッッ!!! 

 

そのひとつが大盾を貫き、魔竜の腹に深々突き刺さった。

 

次に胸を抉り刺した。腕を、脚を、次々と黒槍の後続が盾に穴を幾つも穿ち雨あられと飛来すると、たちまち魔竜の身体はハリネズミみたいにやたらめったら串刺しにされていく。

 

 

 

 

 

…………は。

 

…………はは。

 

…………ははは。

 

…………ははははははははははははははッッッッッッ

 

 

 

黒槍に埋もれた魔竜から凄まじい蒼黒の雷の波動が放たれる。

 

魔竜の身体に突き刺された大量の槍束は雷のエネルギーを受けて木っ端微塵に吹き飛び、跡形も無く消滅した。

 

今のは……なかなかに……効いたっ!! あぁっ!! 愉しいっっっ!!! 

 

これだよっ! これっ! オレはこんな闘いを待ってたんだっ!! 雑魚を蹴散らす無双ゲーもいいが、手強い強敵と命を張り合い削り合うギリギリの際どさっ!! 

 

はハ波はハハ破はは剥ッッッ!!! モっともット燃ッ屠、殺リ合オ応ゼぇェッッ!!! 

 

嗤うように吼える魔竜の穴だらけの肉体が即座に修復され、背中の逆鱗円が燐光と紫電を纏い轟々と猛り鳴り、形造られた雷の比翼が大きく伸び上がる。鳴動するエネルギーの炫く奔流が魔竜の大きく開口した顎に集約、集束され、暗滅し、次の瞬間、莫大な眩ゆい特大の光線となってダムドオーディンに向けて一直線に放たれた。

 

ダムドオーディンが両手を掲げ虚空に黒槍の連環を幾重も出現させ、それらを何重にも重ね合わせ大型防壁陣を築き上げる。

 

目が潰れんばかりの可視逆を伴い、発射された稲妻の大極光が防壁にブチ当たり、黒槍の壁を瞬く間に蒸発させ塗り潰していく。

 

その度にダムドオーディンは黒槍を何重にも展開する。だが新たに防壁陣を重ね合わせるが、魔竜の極光が容易くそれらを破械していってしまい、遂に防壁陣を貫き破り、光線が躰に直撃した。

 

外殻ごと体表を焼き、肉を爆ぜさせスパークし、再生させる側から蒸発させる凄まじい蒼黒の雷撃の嵐。

 

空気をつん裂く絶叫を谺すダムドオーディン。

 

破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッッッ!!! 

 

良イ声デ鳴クジャネェカ。興奮シテ、アソコガ濡レテキチマウゼッ。

 

ダァガ、マダダ。モット、モット、オレ様ヲ愉シマセロォオッッッ!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

「バカなっ!? ダムドオーディンが押されているだとっ!? 有り得ないっ! 私の最高傑作だぞっっっ!!!」

 

 唾を飛ばしてモニターに前のめりになる犬飼。

 

「識別不明のアラガミの攻撃により、ダムドオーディンのダメージ蓄積が著しく上昇っ! 再生速度を上回りますっ!!」

 

 スタッフが慌てて状況を伝える。

 

「えぇいっ! ならば、捕食しろっ! 感応反応で、そこいらのアラガミを呼び寄せろっ!! どれでも構わんっ!! 餌を喰わして再生速度を上げればいいっ!!」

 

「り、了解っ! ダムドオーディン、感応現象発動しますっ!!」

 

 犬飼の指示にスタッフたちがコンソールを忙しなく操作する。

 

 蒼黒の竜のアラガミから攻撃を受けていたダムドオーディンが唐突に虚空を震わせる甲高い、いななきを高々と発した。

 

 すると、地表を揺らし四方から津波のごとくアラガミの大群が押し寄せて来たではないか。

 

 小型、中型、大型、様々なアラガミの群れ。

 

 それらは、中心のダムドオーディン目掛けて躊躇なく突き進んで行く。

 

 そして、ダムドオーディンが黒い禍々しい波動を発動させると、近付いて来たアラガミに向けて撃ち放った。

 

 黒い波動がまるで生き物のように形を変えて次々とアラガミたちを取り込み、ダムドオーディンの身体に吸収されていく。

 

 それは神機の捕食形態にも酷似している。

 

 それを何度も繰り返す。魔龍の雷撃を喰らいながら次から次へと無数のアラガミたちを黒い波動で喰らっていくダムドオーディン。

 

 文字通り『捕食』していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

アぁ? 何だ、コイツ? いキなりアラガミを呼ビやがっタ。

 

ああ、ソういエば、こレにオレも呼ばれたんだっけ。

 

シかもコイツ、攻撃サレてんのに、そノアラガミどもヲ片っ端かラ食い始メたときたモんだ。

 

腹ガ減っテは戦さは、云々ユーし、まあ構わんケど……ん? おいオい……マジかよ。コイツ、さっきヨり再生スピードがめちゃメチャ上がってンぞっ! しかも、ナんか様子ガおかしイし。

 

 

 

 

 魔竜から受ける雷撃の猛攻をモノともせず無尽蔵に集まる周囲のアラガミを捕食し続けるダムドオーディン。

 

 だが、異変が現れた。

 

 巨軀のいたるところがボコッボコッと歪に形を変え膨らみ、その肉体が異様な形状に次第に変化し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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