終末世界の壊れた神機使い   作:真鳥

29 / 29
完結。


29 神と人と -end of my dream-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 煌めき流れゆく光りの流星群。

 

 まるで星空を天地逆転さながらの光景に吸い込まれるように上から下へと向かって堕ちていくオレたち二人。

 

 その宇宙空間みたいな最たる中心にうねる光の奔流で形作られた巨大なヒトガタらしき、『ナニカ』が厳かに鎮座する。

 

 それは女性のようでいて、しかし、あらゆる生物の集合体のようでいて何処か荘厳かつ神々しい輝きを放つ。

 

 その『ナニカ』がこちらを向いた。

 

 輪郭だけで、眼はないが確かに視線を感じる。

 

 己れの身に感じる圧倒的な、絶対的、大いなる畏敬感。まるで幼子たちを諫める母性感。

 

 

 

 こらよ、かわいいわがこらよ

 

 

 なにゆえ おおいなるわれのまえにたつ

 

 

 なにゆえ、なんじらをうみしわれのいしにはむかう

 

 

 

 頭に直接語りかけるように響き渡る声。

 

 コイツか。すべての元凶は。

 

「ああ、そうだぜ。コレがオレたちアラガミを産み出した根源。星の意志、始まりの存在“原初の母“だ」

 

 光の奔流の流れに落ちながら、もうひとりのオレが眩しげに目を細める。

 

 

 コイツを倒せば、すべてが終わる。

 

 アラガミが消えた世界。アラガミなんて居ない世界。

 

「……まあ、オレたちもその中のアラガミなんだが、な」

 

 もうひとりのオレが皮肉げに嗤う。

 

 ああ、そうさ。オレたちもさ。

 

 いていい存在じゃない。

 

 こんな世界はゲームの中だけで充分だ。

 

 

 

 

 

 

 こらよ、あわれなかわいいわがこらよ

 

 

 ははがくろうてやろう

 

 

 ははのはらへとかえしてやろう

 

 

 そして、うみなおしてやろう

 

 

 

 

 

 

 光のヒトガタが慈しみと愛しさを込めて優しく両腕を広げる。

 

 母が我が子を抱きしめるように。

 

 その巨大な手をかざし、翼をかざして。

 

 幾重にも伸びだ光の帯が包み込むように迫り来る。

 

 オレたちはそれぞれの神機を構え戦闘体制に突入した。

 

 

 

 

 

 ──────さあ、お待ちかね。待望のラスボス戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 その日、世界は何度目かの危機に瀕した。

 

 終末捕食。

 

 星の意志による生命の浄化作業。

 

 異様な枝を無数に伸ばした巨大な暗黒の大樹。

 

 あらゆるものを捕食して喰らい尽くす恐るべき災い。

 

 人も動物も文明もアラガミさえも、すべては黒い波に呑まれゆく。

 

 世界が、地球が、星が─────

 

 

 

 

 

 ───────終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色とりどりの花々が咲き誇る緑豊かな月面の大地。

 

 白い髪のローブを纏った少女。黒い波に侵蝕され、闇に染まる蒼き星だった地球を見つめ呟いた。

 

 

「終わらないよ。ヒトの意志は"原初の母"にも対抗出来る。そう、かつてボクもそれを彼らに教わったから」

 

 

 

 

 

 

 その時、黒く染める地球を覆う波が止まった。

 

 

 

 

 

 

 ──────瞬間、

 

 

 

 

 

 ──────光が弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とあるミナトの一室。

 

 白髪の男が手記を記している。

 

 

 終末捕食の兆候たる黒い大樹は突如、その動きを止めた。

 

 無数に伸びた枝も活動を停止し、最早動くことは無かった。

 

 そして僅か数日で結晶体に変わり、蒼く変色をし、硬質化と崩壊を始めた。

 

 逃げ遅れ捕食された人々は奇跡的に無傷で全員助かり幸いを得た。

 

 動物も無事だった。アラガミさえも生き残っていたのは驚きだったが。

 

 結局のところ、被害は最小限に抑えられたと言っていい。大破したミナトの大半は修復すれば済む話だ。

 

 その資金のほとんどを生化学企業エキドナが無料で復興支援を率先して出資した。

 

 エキドナ。フェンリルの後釜を担う巨大企業。

 

 まるで事前にこうなることが予め判っていたような対応の早さだ。

 

 調査をグレイプニルに依頼していたが、上層部の一部がゴネて遅々として進まない。

 

 やはり、1枚噛んでいそうだ。

 

 しかし気になる。

 

 あの時、出会ったのは間違いなくヴェルナー・ガドリン本人だった。ゴウからの報告にも生存報告は確認されていた。

 

 そして、共にいた少女。

 

 あの少女の正体と二人の行方は今も不明だ。

 

 今回の一連の騒動に何らかの形で関わっていると──────

 

 

 

「アイン所長。先方との商談のお時間が─────」

 

 

 秘書からの提示連絡にペンが止まるアイン。

 

「……もうそんな時間か」

 

 ふと、書斎室の窓から遥か地平線に見える結晶化した大樹を眺める。

 

 

 あれから数ヶ月、何事もなく日々が過ぎた。

 

 変わったのは、アラガミの襲撃頻度が極端に減少したこと。それと、大樹が結晶化された広範囲で緑地化が確認されていること。

 

 まるで、ブラッド隊の、あの時の奇跡の再現のように。

 

「……まさか、な」

 

 アインは掛けてあったコートを羽織ると部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結晶化された大樹の枝が蒼く硬質化をし、やがて崩壊しキラキラと光の粒となり風に乗って煌めく。

 

 辺りには植物が群生し、見違えるような様相だ。

 

 崩壊する大木の枝を見上げる男がひとり。

 

 眉間に十字傷がある。

 

 本当は大樹の本体に向かいたいが、グレイプニルにより完全隔離されており立ち入りは容易ではない。

 

 男は結晶化した大木の枝のひと振りに独りごちる。

 

「ベル……君は本当に消えてしまったのか?」

 

 ヴェルナーは掌で枝に触れる。

 

 あの時、自身も捕食され意識が霧散しかけた。

 

 だが、突然光が満ち満ちて朦朧とした意識の中で、確かに感じた。

 

 彼女が自分の手を取り、導いてくれたこと。

 

 故に助かったのだと。

 

 ヴェルナーはやるせなさに歯噛みした。

 

「……また私は、君に助けられたな。君には感謝するばかりだ……私は君に何も返せていない」

 

 後悔の念が後から後から湧いてきて止まない。

 

 自分に何が出来たのか。君に何かしてやれただろうか。

 

 せっかく命を拾われたのに顔向けが出来ない。

 

 考えることはそんなことばかり。

 

「……情けない。これでは、君に笑われてしまうな」

 

 自嘲気味に笑うヴェルナー。

 

 それだけではない。色褪せた世界。彼女がいない空白の世界はなんと空虚なのか。哀しみと諦観に支配される毎日。

 

 共に戦い過ごした日々。だが、もう戻ることはない。

 

 そうして、踵を返そうとしたとき、一際大きな大木の枝が目に映る。

 

 ひび割れて、だいぶ崩壊が進行している。今にも壊れて砕けそうだ。

 

 ヴェルナーが咄嗟に駆け出した。

 

 我を忘れてその結晶に駆け寄った。

 

 蒼き結晶体の中にうっすらと影が差し込んでいる。

 

 そして、恐る恐る震える手で、そっと結晶体に触れた────

 

 

 割れる結晶。

 

 破片は細かな粒となり、煌めく。

 

 結晶の中には裸体の少女が胎児のように蹲っていた。

 

「……ああ、君は、ここにいたのか……」

 

 そっと優しく両腕に少女を抱くヴェルナー。

 

 少女の長いまつ毛がピクッと動き、ゆっくりと瞼が開いていく。

 

「おかえり、ベル」

 

 ヴェルナーが微笑み、遅く起きた寝坊助少女に挨拶した。

 

 少女は最初、大きな瞳でキョトンとしていたが、理解した。

 

 満面の微笑みを浮かべて自身を優しく抱く人物に挨拶を返した。

 

 

 

「ただいま、ヴェルナー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長く果てない旅路に終わりは無く、人は歩み続けるだろう。

 

 

 共に歩幅を合わせて、一歩一歩。

 

 

 ゆっくり、と──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




拙い駄文にもお付き合い、ありがとうございました。
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