とらわれることなき心を表す不滅の精神 よ!
地下牢にあ って最 も輝 く,『自由』こそ汝な り、
暗い。
何も見えない。
視界が真っ暗だ。
身体がつっかえている。硬い何かが身体を覆っている。
オレは身を震わす。
動く。身体は動ける。
伸びをするように背筋を伸ばして反る。
硬い何かにヒビが入るように軋む。
オレの身体を覆っているのは紫色の結晶の壁のようだ。今度は腕を伸ばしてみる。ん? 灰域種に喰われた筈の右腕がある? どういうことだ?
身体全体を真っ直ぐ伸ばして丸まっていた身体を思い切り引き伸ばせば、硝子が割れるような破砕音を伴い、硬い結晶の壁は木っ端微塵に砕け散る。
紫結晶の殻壁を突き破り現れたのは、暗赤色の長い角を携え、結晶状に変質したオラクル細胞の外殻を全身に覆った竜と人を掛け合わせたような蒼黒色の体躯と尾を持った大型の異質なアラガミ。
暗澹とした仄暗い眼に宿る、燃立つ紅紫の灯火を爛々と照らす。左眼が右眼と違い、黒々とヒビ割れたように塗り潰され、濃黒色に染まっており、鈍い闇の光を放つ。
隻眼の眼差しを上げ、鋭い牙が並ぶ顎門から紫霧の吐息を漏らす。
左腕に民族的な意匠性のモールドが施されている巨大な重金板の籠手を装着し、雄々しい太く長い尻尾をゆらりと靡かせる。
軽い。
重々しかった死に体の身体が嘘のように、羽毛のような軽々しさだ。
あれ? やっぱりちゃんと右腕がある。灰域種に喰われたのに。あれ? オレの腕って、こんな蒼黒い色してたか? ん? オレの爪、こんなにギザギザに伸びていたっけ?
左腕に変な形と紋様のした盾みたいな籠手がくっ付いている。
何だろう? 何処かで見たような…………んん? 視界の端にユラユラ揺れている長いのは…………尻尾? オレの尻から生えてる。オレ、尻尾なんてあったか?
なんだか頭の中がモヤモヤして考えが上手く纏まらない。
そうだ。オレの神機。壊れたけど大事な大事な大切な神機。あれが無いとダメだ。あれはゴッドイーターの証。だが、見当たらない。何処いった? オレの神機?
キョロキョロ見回し探していると、オレの右腕がムズムズし疼き出し、腕から馬鹿デカい鎌の刃がニョッキリと生えてきた。
ああ、あった。ここにあった。オレの自慢の神機。
やっぱり神機が無いとゴッドイーターとして締まらない。
すると、こちらに向かって強い殺気を放つ何かがやって来る気配を感じた。
この気配は。
喰灰に覆われた廃虚の外壁を一気に破壊し姿を現した巨体のアラガミ。
二対の紫炎の太陽を携え全てを深淵に誘い、浮遊する球炉に乗り空中を飛ぶ灰域種。その異様なエネルギーを象徴するように頭部には超高密度の結晶体とみられる真紅の一角を有している。
来た。憶えてる。オレの右腕を喰った灰域種アラガミ。
名前は確か、アメン・ラー。
そいつが喧しい咆哮を響かせて超突進してくる。
ちょうどいい。今のオレはすこぶる身体の調子がフル万全だ。
リベンジしてやる。不思議と気負いも負ける気も微塵も今はしない。
こんなに清々しく、晴々した気分は初めてかもしれない。
オレは右腕から伸びた見慣れた長年の相棒たるヴァリアントサイズの刀身をゆっくりと構え、迫り来る灰域種を迎え討つ。
******
自身のエネルギーを紫炎の太陽に充填し作り出した分身を伴い波状攻撃を繰り出すアメン・ラー。
対して背中の逆鱗からプラズマブースターを発生させ、超高温に達した放電現象を引き起こすことで雷を自由自在に操っている蒼黒の人竜アラガミ。
分身と同時に繰り出される火球での薙ぎ払いを左手を着いて体を屈め回避し、後ろから前にかけて時計回りに尻尾で大きく薙ぎ払う。
それをアメン・ラーは瞬間移動で躱す。そして人竜のすぐ背後に移動し、左右の火球から火炎レーザーを無数に撃ち込む。
人竜は両手に雷の双剣を突出させ、飛来するレーザーの雨を舞うように次々と振るい、切り裂き、打ち払い、無力化し、掻い潜り、アメン・ラーに素早く斬り込んでいく。
正面を火炎流の渦で大きく薙ぎ払いつつ牽制、瞬間移動で後退し、薙ぎ払った場所に複数の火柱を続々と発生させるアメン・ラー。
噴出する火柱を左腕の籠手でガードし、両腕を広げて全身に雷を纏い突進する人竜。
二体のアメン・ラーは真正面から迫る人竜に対し、周囲に浮いてる四つの大火球に悍ましい生物的な牙裂の大口を形成させ、敵対者に向けて勢いよく連続で解き放つ。
強靭な爪を左右に構えて立ち塞がる火柱群を掻き消しながら走る人竜。
右腕に聳え生えた凶々しい大鎌の刃を高々と引き絞り構え──────
振り抜いた──────
極大の雷光のブレード波が展開され、立ち塞がる四つの捕食形態の大火球を尽く斬り裂く。
迅雷の極刃がアメン・ラーを一閃。
頭から下半身の球炉まで一直線に疾り抜け、左右両側に巨軀を真っ二つに両断し、黒霧と化し霧散させる。
大絶叫するは、分身を斬り裂かれ倒されたアメン・ラー。
地面に這い蹲り、苦しげに、狂おしげに低く唸り声をくぐもらせ、比類なき力を持つ対峙するアラガミを忌々しげに見上げる。
目の前の蒼黒色の結晶に身を包んだ人竜のアラガミは、隻眼の眼差しを爛々と紅い輝きに満たして勝ち誇ったかのように勝鬨の雄叫びを轟かせた。
そしてその鋭い牙の口腔を広げて敗者たる獲物に悠々と喰らい付いた。
仄昏い、燻んだ死灰が渦巻く魔境。
骨肉を貪る咀嚼音と、恐ろしい竜の鳴き声がいつまでも谺していた。