終末世界の壊れた神機使い   作:真鳥

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4 孤独を背負う者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    我は悲しみを知らず────

 

 

    この偉大なる暗黒に隠れん。

 

 

    君こそは暗黒、

 

 

    重く沈みて我を包めよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

バイロン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ…………はぁ……はぁ……」

 

 

 ひとりの男が灰域の中を身体を引き摺りながら重い足取りで歩く。

 

 全身血だらけであり、各所に銃傷が見受けられる。

 

 眉間に十字傷がある髭を生やした屈強な男。

 

 そこにオウガテイルが何体か現れ、瀕死の身体の男に襲い掛かった。

 

「フンッ!」

 

 両手に携えた二刀の神機、バイティングエッジが喰らい付かんと飛び掛かったオウガテイルを纏めて寸断した。

 

「…………また、死にぞこなったか」

 

 男、ヴェルナー・ガドリンは霧散するアラガミを残し、その場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 致命傷を負い、灰嵐自決を行ったヴェルナー。

 

 だが、どういう訳か、生き残った。

 

 運が良かったのか、逆に運が悪かったのか。

 

 悪運かもしれない。

 

 皮肉に苦笑いを浮かべ、廃虚の瓦礫に背を預けて、その場で座り込む。

 

「…………だが、ここまでだ。理想の為に殉じる…………悪くはない…………心残りは、赤の女王、AGEたちの未来だ…………私は大罪人として歴史に刻まれるのは構わないが、彼らには光ある明日を繋いでほしい…………」

 

 なんとも虫のいい話だ。AGEたち、特に赤の女王のメンバーたちは間違いなく酷い扱いを今後、被るだろう。自分は卑怯にも責任を彼らに押し付けようとしている。

 

「…………すまない、イルダ。悪い、リカルド。私はこれから赴く地獄で君たちの幸せを祈ろう…………ん? なっ…………っ!?」

 

 いつの間にか蹲るヴェルナーの目の前に巨大な体躯を持つアラガミが佇み、此方を静かに見下ろしていた。

 

 長い両角、蛮紋柄模様の籠手の腕、長大な尻尾。

 

 人竜体躯のアラガミ。

 

 ハンニバル。

 

 しかも、ただのハンニバルではない。

 

 喰灰による侵食に適応したと思われる蒼黒の結晶体が、身体中を纏い、禍々しいまでの威圧感を放っている。

 

 灰域種、それか亜種か新種か。いや、聞いたことがある。最も深度の高い紅蓮の灰域には、更なる進化を成したアラガミがいるという。

 

 紅紫色の燃える右眼、対して左眼は真っ黒に闇に塗り潰されたように隻眼だ。

 

 その暗闇のような瞳が自分を見つめる。

 

「…………ふ、どうやら死神が迎えに来てくれたようだ…………構わん、喰らえ。そして私を黄泉に案内してくれ…………」

 

 微笑うヴェルナー。

 

 自分の最後がアラガミに喰われる。

 

 散々に他人の運命を翻弄した愚かな殉教者に相応しい末路だ。

 

 しかし、蒼黒のハンニバルは一向に捕食しようとはせずに見下ろすばかりだ。

 

「…………? どうした? 私を喰いに来たのではないのか?」

 

 訝しむヴェルナー。

 

 すると、蒼黒のハンニバルはクルリと向きを変えて去っていった。

 

「…………何だったんだ、あのアラガミは…………?」

 

 暫くして、再びあのハンニバルがヴェルナーの前に現れた。

 

「…………やはり喰いに来たか?」

 

 両手にアラガミの肉片らしきものを大量に抱えて。

 

 ドサリッ! ドサドサッ! とヴェルナーの前に置かれていくアラガミだった物体の肉片群。

 

「…………まさか私に食えと言ってるのか?」

 

 ヴェルナーが見下ろすハンニバルに問うと、僅かだが頷いたような気がした。

 

「…………すまないが、腹が減ってるわけじゃないんだ…………人間はアラガミを食わないんだが、そんなふうに見えたか? …………アラガミに情けをかけられるとは、な……ぐっ! ぐぅううぅ…………っ! こ、ここまでか…………」

 

 傷を押さえて呻くヴェルナー。

 

 時間のようだ。最後に看取られるのがアラガミとは。

 

 薄れていく意識。

 

 ぼやける視界に映る巨軀のアラガミ。

 

 その巨体が仄かに輝き、徐々に小さく細くなっていく。

 

 小山のようだった身体は華奢な褐色の艶やかな素肌に。

 

 蒼黒の結晶の鱗が妖しくも魅力的な裸身を覆い、豊かな双丘と、局所を僅かに纏う。

 

 左腕に変わらず籠手を身に付け、形の良い殿部からしなやかな尾先が伸びている。

 

 長く美しい銀紫の髪が流麗に照りを返して靡く。

 

 額に名残りのように二本の暗紅色の長角を生やし、紅紫の瞳に智星の煌めきを燈し、対の眼には闇を帯びた漆黒を宿す。

 

 ヴェルナーは思った。

 

 なんて、美しい死の女神だ、と。

 

 蒼黒竜の美神は惚けるヴェルナーに歩みより、母親が抱擁するように優しく、ほとんど裸身に近しい身体で、その豊穣たる胸に抱き寄せた。

 

 乳飲み子にそうするように。

 

 そして自らの綺麗な指先を鋭い鉤爪で少し切り裂いた。

 

 褐色の滑らかな指先から流れる血潮を虚ろな表情のヴェルナーの口元に運び、垂らした。

 

 熱い。

 

 煮えたぎるような、甘く蕩ける血の温もりと薫りが喉元を過ぎる。

 

 焦点が定まらない瞳孔に、褐色の人ならざる美しさと妖艶さを併せ持つ乙女の整った顔がいつまでも離れず焼き付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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