終末世界の壊れた神機使い   作:真鳥

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8 儚き願い 〜追憶〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈む太陽が、真赤な傷あとで

 

 天を血の色に染め出す頃、

 

 わが心中に星ふらす。

 

 夜空を飲む心地ぞさるる。

 

 

 

 

 

 

 

 

              シャルル・ボオドレエル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレが作った水晶台のベットの上でオレは胡座をかいて身体を揺らして座っている。

 

「私の名前はヴェルナーだ。言ってごらん?」

 

 髭のオッサン神機使いがベットに腰掛け、名前を教えてくれる。

 

「ゔぇ、る?」

 

 オレはオッサンの名前を反芻しようと悪戦苦闘していた。

 

「ゔぇ、ゔぇ……」

 

 うぐく、何故か声が出ない。他人と喋ったのは久しぶり過ぎて、声帯が退化でもしたのか? 

 

「ヴェルナー。さあ、言ってみなさい」

 

 なんとか絞り出すようにオッサンの名前を呼ぶ。

 

「ゔぇ、ゔぇ……ゔぇる、な…………ヴェ、ル、ナ…………」

 

 そういえばこの髭のオッサンどっかで見たことあると思ってたんだけど、名前を聞いてピンと来た。

 

 ヴェルナー。

 

 そうだ。ヴェルナー。ヴェルナー・ガドリン。反抗組織『赤の女王』の設立者、その組織に集うAGEたちのリーダー。グレイプニルに反目するテログループ。

 

 確かグレイプニル総督のエイブラハム・ガドリンはこのオッサンの父親だったかな。それで確か、イルダとリカルドは昔の研究生時代の同期、イルダとは恋人同士だった。っていうゲームの設定だったはず。

 

 ん? 設定ってなんだ? ゲームって? あれ? なんでオレはそんなこと知ってるんだろう? 頭の中がごちゃごちゃしてよくワカラナイ。

 

 でも知ってる。このオッサン、死んじゃうんだよね。灰嵐自爆テロを起こして。ん? でも、生きてるよね? あれ? なんでだろう。

 

 まあ、いいか。このオッサン、えと、ヴェルナーは嫌な感じはまったくしない。オレをいじめたりしないから。それに同じゴッドイーター、AGEだ。神機使いとして仲良くしておこう。

 

「ヴェルナーッ! ヴェルナーッ!」

 

「そうだ。私はヴェルナーだ。よく言えた。いい子だ」

 

 ヴェルナーが優しく頭を撫でてくれる。

 

 なんだかポワポワして気持ちいい。暖かくなる。ゴツゴツした大きな手。まるでお父さんみたいだ。尻尾も嬉しくて左右に振ってしまう。

 

「…………えへへ、くすぐたい。ヴェルナー」

 

「まだ君の名前を聞いていなかったな、教えてくれないか?」

 

 ヴェルナーがオレの名前を聞いてくる。

 

 名前? オレの名前? あれ? なんだっけ、オレの名前…………キャラクリエイトしてアバターを作った時、決めたはず…………キャラクリエイト? アバター? いやいや、違う。そもそもオレの本名は…………

 

「…………名前…………名前…………オレ、名前…………分からない…………ワカラナイ…………名前、ワカラナイ…………」

 

 頭の中が霞がかかったようにモヤモヤして気持ち悪い。

 

 誰だ? オレは誰だ? 思い出そうとしても何かに遮られる。

 

 …………■■■■■…………

 

 …………■■■…………■■■■…………

 

 何かが…………何かが、オレに言っている…………

 

 …………■■■ッ! …………■■■ッ! …………■■■ッ! …………

 

 それはぐるぐると頭の中を掻き混ぜるように這い回る。獣のように吠える。ずっと遠い昔に忘れていた遠い狭間の置き去りにした何かの断片。

 

「おい、大丈夫か?無理に思い出さなくていい。すまない」

 

 ヴェルナーの手が頭に優しく置かれる。

 

 そうしたら頭の中のグチャグチャが収まり、気持ち悪いのが少しずつ無くなった。

 

 おお? なんだかスッキリしてきた。シュンと垂れた尻尾も元気になってくる。凄いぞ、ヴェルナー。

 

 それにポワポワがあったかくてとても気持ちいい。

 

 ずっとこうしていてほしい。

 

 暫く頭を撫でて貰っていると、ヴェルナーがオレに名前を付けてくれた。

 

「ベル。君の名前はベルだ。私と似た名前だ。覚えやすいだろう?」

 

 ベル。オレの名前。ヴェルナーがくれた名前。

 

 うん。いい名前だ。ほんわり、しっくりとくる。

 

「ベルッ! ヴェルナーと一緒っ! ベルッ! ヴェルナーッ! 気にいた! 名前もらたっ! 気にいたっ!」

 

 嬉しい。嬉しい。子供の頃にお父さんから木で作った神機の玩具を貰った時のように嬉しい。お母さんに誕生日にケーキを作って貰った時みたいに嬉しい。

 

 嬉しい。嬉しい。学校でテストで満点を取って両親に褒められて、会社で提案した企画が採用されて上司に認められて………あれ?なんだっけ?

 

 まぁいいや、嬉しいから。オレは喜んでヴェルナーに飛びつく。

 

 ヴェルナーの身体、大きくてポカポカして暖かい。

 

 でも、自分にはお返しできるものがない。名前のお礼が出来ない。

 

 あ、そうだ。自分をあげればいいんだ。

 

()()()()()()()ように。

 

「………ヴェルナー、名前、ありがと。ベル、お礼したい」

 

 オレは驚いてるヴェルナーをギュウギュウ抱き締めながら、キスをする。

 

 こうするとみんな男は喜ぶことを知っている。

 

 でもヴェルナーは嫌がって逃げようとしている? おかしいな。まだ足りないのかな? 

 

 もっともっと気持ちよくしてあげる。

 

 ヴェルナーの唇にオレの歯が当たって切れた。そこから赤い血が流れる。

 

 それを丁寧に舌で掬い取って舐め上げる。

 

「…………ヴェルナーの味、する…………」

 

 ヴェルナーの味は美味しくて、身体の中がポワポワ熱くなる。腹の奥の方が、キュンッてなる。気持ちいい。

 

 ヴェルナーも気持ちいい? 気持ちいいよね? だってヴェルナーの()()もビクビクしてるから。

 

 ああ、そうだ。そうだった。

 

 

「…………少し思い出した。─────オレ、知ってる。どういうことすると、男は気持ち良くなるか…………」

 

 

 オレはツギハギの記憶を思い出した。

 

「…………いろんな男が、いつも怒ったり、殴ったりしてきたり…………オレのこと、いじめて、乗っかって、そうすると、とても気持ち良そうな顔して…………」

 

 いつもこうやって男を気持ちよくしていた。最初の頃は嫌で嫌で泣きながら抵抗したが、殴られて、蹴られて、動けなくなった。そうしたら覆い被さって…………

 

 眼を見開くヴェルナー。

 

 ヴェルナーも気持ちよくなりたい? 大丈夫。ちゃんと出来るから。覚えたから。何処をどうすれば気持ち良くなるか。たくさん練習したから。

 

 だから殴らないでほしい。打たないでほしい。痛くしないでほしい。いじめないでほしい。ちゃんとするからゴハンを取らないでほしい。閉じ込めないでほしい。アラガミもちゃんと倒すから。言うことをちゃんと聞くから。

 

 ヴェルナーの鍛えられた身体を(まさぐ)る。

 

 ああ、やっぱりヴェルナーも気持ちいいんだ。

 

 ここがこんなに苦しそう。

 

 同じだ。同じ男だから。ここを気持ち良くすれば、喜ぶ、悦ぶ、ヨロコンデクレル。コウスレバキモチヨクナル。ミンナキモチヨクナル。

 

 すると、ヴェルナーが突然、跳ね起きてオレに思いっきり抱き付いて抱き締めた。

 

「…………あ…………」

 

 どうしたのだろう? 気持ち良くなかった? 怒られる? ヤダなあ。ちゃんと気持ち良くすから怒らないでほしいなあ。

 

「…………いいんだ。そんなことをしなくても…………もう、いいんだ…………」

 

 ヴェルナーはやんわりとオレの行為を止めて言う。

 

 優しく抱き締めて、優しく髪を撫でてくれる。

 

 ああ、なんだろう。不思議な気分だ。

 

 同じ男に抱き締められてるのに、ヴェルナーは嫌じゃない。全然怖くない。名前もくれたし。

 

 ずっとずっと昔に両親にされたように包まれているほんのりと温かな。

 

 ヴェルナー、泣いてる?何が悲しいのか?傷がまだ痛いのか?

 

 頭を撫でてやろう。こうするとポカポカするのは自分もされて好きだから。ヴェルナーにもしてあげよう。

 

 泣き止むまでこうしていてあげよう。

 

 よしよし。なんだかでっかい子供をお世話してるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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