終末世界の壊れた神機使い   作:真鳥

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9 神々の食卓 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    いったいなんだろう。

 

    行く手に現れる恐るべき亡霊。

 

    ――――良心とは?

 

 

 

 

 

 

           チェンバレン・ファロニータ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアアアアアッッッ!!!」

 

 振り抜かれたバイティングエッジが迫るアラガミたちを断ち切る。

 

 襲い来る凶暴な化け物どもに一切怯むことなく、グリップを連結し薙刃モードに切り替え、並居る敵を掻い潜り、縦横無尽に次々と斬り裂く。

 

 アラガミの群れは事切れ、地に音を立てて倒れ伏していく。

 

「ふぅ…………。鈍っていた身体も、だいぶ調子を取り戻してきたようだな」

 

 連結した双刃の神機を解除し、ひと息吐くAGEの男、ヴェルナー。

 

 以前よりも、それこそ赤の女王を率いていた頃より力が遥かに増しているのを実感していた。

 

 高濃度灰域にも拘らず、身体が思うように自在に動くのも併せて。

 

「…………これも、ベルのおかげか」

 

 死にかけた自分に分け与えられたヒトならざる少女の力、彼女の血。それが自身の身体を強化したのは間違いない。

 

 それに偏食因子の投与期間を確実に過ぎているはずだ。活動限界はとっくに迎えているが、一向にアラガミ細胞が暴走する気配は見せず安定を保っている。

 

 それに────

 

「ヴェルナーッ!」

 

 元気な可憐な声を上げ、件の少女が己の名を呼ぶ。

 

 額部に二本の暗赤色の角を持ち、銀紫の艶やかな流麗な長髪をたなびかせる。

 

 蒼黒の紫結晶の甲鱗を褐色の瑞々しい肌の各所に纏い、滑らかな曲線を描く尻から雄々しい尾先を伸び生やす。

 

 意匠が凝った左腕の大籠手を振るのに合わせ、長い尻尾もブンブンと振られる。

 

 その姿は美しくも人の形に在らず、アラガミの、それも竜型のハンニバル種のそれを彷彿とさせる凶々しさが存在する。

 

 だが、ニコニコと年齢に似合った可愛らしいこの花咲く笑顔の美少女は、まごうことなきアラガミであり、その身に恐ろしい力を秘めているのを知っている。そして哀しみも。いついかなる時に人間に、その牙を向けるか判らない。

 

 身体の鱗と同色の、凶悪な蒼黒のヴァリアントサイズと融合した右腕には、倒したばかりだろう大型のアラガミが鷲掴みされ、ズルズルと地べたを引き摺られている。

 

「ゴハン、取たどーッ! 食べよっ、ヴェルナーッ!!」

 

 異形のアラガミ少女。名前はベル。私が名付けた。

 

 自身の何倍もあるアラガミの巨体を易々と華奢な身体で引き廻し微笑む少女。

 

 側から見たら驚愕することこの上ない光景だが、私には玩具で遊ぶ子犬に見えて苦笑いしてしまった。

 

 見守られねばならない。彼女が彼女であるために。

 

「さあ、いつまでも遊んでないで食事にしよう、ベル。他のアラガミが嗅ぎ付けて戦闘になる前にな」

 

「おーっ! ゴハンっ! ゴハンっ!」

 

 そうして流石に全部は持っていけないので、必要な素材と食べれそうな部分だけ切り取り分け、いつもの巣穴にアラガミの少女と神機使いの男は戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまうまッ」

 

 アラガミの焼いた肉をガツガツと小さな口に忙しそうに運ぶアラガミ少女。

 

「ベル。そんなに慌てなくて大丈夫だ。まだまだアラガミの肉は大量にあるからな」

 

 結晶の簡易椅子に腰掛け、パチパチと焚き木をしながらアラガミの肉片を炙る男。

 

「おかわりっ! ヴェルナーッ!」

 

「…………早いな。よく噛んで食べるんだぞ」

 

 焼いた端からバクバク喰らいつく少女に苦笑いしながら、ヴェルナーもアラガミの肉を頬張る。

 

 最初は抵抗はあったが、いざ食べてみるとなかなかに味わい深い。人間がアラガミを食べて大丈夫なのかと疑問に思うだろうが、ゴッドイーター自身もアラガミと同じく体内に偏食細胞を宿していることから偏食嗜好が何らかの影響で変わったのかもしれない。特にAGEは従来より強力な偏食因子を投与されている。

 

 そうした影響下に拒絶なく適応しているのは間違いなく、この少女による恩恵だろう。恐らくは、よりアラガミに近い生態構造に変化したと思われる。かと言って実際にアラガミのように凶暴化したり捕食欲求に苛まれたりしないのは不思議なことだ。身体的には強化、理性はそのままという。元研究者としては実に興味深い現象だ。

 

 両手にアラガミ肉を持ち、交互に一生懸命、口いっぱい齧る異能の少女ベルを微笑ましい眼差しで見る。

 

 人型アラガミ。

 

 人間に似た姿に進化した特殊な個体。

 

 外見は人間の姿をしている(男性型がいるかは今のところ不明)が、角や羽が生えていたりと所々異形の部位がある。脳が発達しているためか精神も人間に近く、自我が強く学習能力も高い。また、人間としての理性も持ち合わせている。言い換えれば、アラガミとしての本能よりも「個」としての意識が強く、人間を捕食することを基本的には無い…………らしい。

 

 という論文を過去に見た覚えがある。確か、ペイラー・榊というアラガミ細胞学術論の権威だったか。

 

 実際に人型アラガミなど遭ったこと…………あったな、一度。クリサンセマムの鬼神に守られた小さな少女を。あの子とこの少女を比べてみると、似ていないこともない。やはり何らかの共通点があるのだろうか…………

 

 いかんいかん、つい研究者時代の癖で思考に耽ってしまう。

 

 彼らには酷な選択を強いたものだ。今更ながら思う。あの時はあれが最上の手段であると判断した故だが…………

 

「ゴハン、ウマしっ! ヴェルナー、もと食べるっ!」

 

 目の前の無邪気な少女を世界平和の為の礎、贄に差し出せ、と言われて果たして私は素直に従うことが出来るだろうか─────

 

「ああ。そうだな。食べよう」

 

 否、答えは否である。あり得ない。そんなことが許される筈がない。

 

 今なら理解出来る。彼らは尊い想いに従った。誰にも誹られる謂れはない。

 

 大を生かす為、小を犠牲になど…………それでは、半目した私の父と何ら変わらないではないか。だが、以前の私ならば父と同じく、そう考えていただろう。

 

 この少女に命を救われなければ──────

 

 その時、灰域を揺るがす大きな振動が鳴り響く。

 

 機械的な駆動音、地を踏む鳴らす重低音。

 

「んん? 変な音する?」

 

「これは…………灰域踏破船か?」

 

 高台の拠点近くから様子を伺う二人の眼下に、巨大なキャラバン船体が唸りを上げて通過していく。

 

 何処のミナトの所属かは判別出来ないが、かなりの規模であることが判る。

 

 それと重火器の類が船体に設けられ武装されている。

 

 まるで戦艦だ。

 

「…………アラガミを牽制するにしても、たいして火器類は意味など無いのが…………それにしては厳重だ。何処かと戦争でもするつもりか?」

 

 訝しむヴェルナー。

 

 かつて赤の女王を束ねていた時分には敵対するのはアラガミだけでは無かっただけに、あの武装船は余計に気にはなる。

 

「船っ! 船っ! 大っきいっ! 凄いっ!」

 

 悠々と通り過ぎる巨大踏破船に興奮する少女ベル。

 

「…………確かに気にはなるな。あの船が何処に向かうのか…………」

 

 リスクが無いとは言えない。仮にも自分はテロリストの頭目だった身。恐らくはもう死んだことになっているはずだが。それでもあの船の行方は妙に気にはなる。黙って見過ごす気になれない。

 

「………追ってみるか………」

 

 踏破船が去っていく方角を見送り、呟くヴェルナー。

 

「おおっ!ヴェルナー、あの船、追いかける?大っきな船、オレも追いかけるっ!」

 

「ああ、追いかけてみよう。準備をしたら出発だ、ベル」

 

 はしゃぐ少女を宥めすかしながら、ヴェルナーは灰域踏破船を追う為の準備を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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