ARIA The CONVERSATION   作:辰巳しおん

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アイちゃん
アイちゃんは今まで、自分の周りで、でっかい不思議な体験をしたことはありますか?
私がAQUAに来てからというものの、何だか沢山のでっかい不思議な出来事に出くわしていて……。
そういえば、何だかこのメールまで、ちょっぴり不思議な感じになってしまっているような……。



その ウンディーネ達の夢の跡は……

「デュエロ・ゴンドリエーラ?」

 

「そう、デュエロ・ゴンドリエーラ」

 

「……って、何でしたっけ? アリシアさん」

 

「ええっと……ごめんなさいね、灯里ちゃん。私ったら、きちんと灯里ちゃんに説明していなかったのかしら?」

 

「すっ、すみません。私、確かに聞いたと思うんですけど、何だかすっぽり忘れてしまったみたいで……」

 

「あらあら、そうだったの。そうねえ、ごく簡単に言えば、『ウンディーネの決闘』なんだけれど……」

 

「けっ、決闘!?」

 

「あらあら、ビックリしちゃった?」

 

「はひ。でも、決闘と言われてしまうと、誰でも驚くような気がするのですが……」

 

「確かに、決闘と言ってしまうと、ちょっと物騒に聞こえるかもしれないけれど、半人前(シングル)ウンディーネの技を競う、れっきとした大会なのよ?」

 

「ほへー……あれ?」

 

「ん?」

 

「アリシアさん。今、半人前(シングル)ウンディーネの技を競うって……」

 

「ええ。実はかつて、地球(マンホーム)のヴェネチア初のゴンドリエーラ(女性のゴンドラ乗り)さんって、トラゲットのお仕事をされていたと言われているの」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、だからこのネオ・ヴェネチアでも、トラゲットは一人前(プリマ)になる為の修行の場として、重要な位置付けを持っている、という訳ね」

 

「はへー……」

 

「だから灯里ちゃん、今回はARIAカンパニー代表として、頑張ってね!」

 

「えっ? でもアリシアさん。私この前一人前(プリマ)に……あれ? でも、どうしてアリシアさんが制服を着て……私は片方に手袋をして……あれ?」

 

「どうかしたの? 灯里ちゃん」

 

「い、いえっ! なんでもないです。あの、それでその、デュエロ・ゴンドリエーラというのは、いつ開催されるのでしょうか?」

 

「うーん……。灯里ちゃん、やっぱり何だか今日は体調が良くないのかしら? 昨日の夜、『明日はでっかい頑張ります!』って、あんなに張り切っていたのに……」

 

「えっ!? ……あっ!? そ、そうでしたね。えへへー。わたし、ちょっぴり緊張してしまっているみたいで……」

 

「あらあら、そうだったの。でも大丈夫、この日の為に、藍華ちゃんとあんなに合同練習をしたんですものね」

 

「あ、あの、姫屋からは、藍華ちゃんが……あ、いえ、藍華ちゃんも優勝目指して出るん……ですよね?」

 

「ええ、前回、前々回は、姫屋のウンディーネさんが優勝しているし、きっと藍華ちゃんも、歴代の優勝者から相当の特訓を受けていると思うわ。だから、今回の優勝候補には間違いないわね」

 

「その、また同じことを聞いてしまうかもしれませんが、前回、前々回の優勝者って、一体どんな方なんでしょうか?」

 

「うん、前々回は、晃ちゃんで、前回は、あゆみ・K・ジャスミンさんという人よ」

 

「えーっ!? 晃さんに、あゆみさんなんですか!?」

 

「そうそう、灯里ちゃんは晃ちゃんだけじゃなくて、あゆみさんの事も知っているのよね?」

 

「はい。まさに、トラゲットで一緒になった事があるんです。でも、晃さんが出たという事は、アリシアさんも出たって事ですか?」

 

「ううん。ちょっと言いにくいんだけど、前々回は、私とアテナちゃんが一人前(プリマ)に昇格したすぐ後に開催されたから、私は出た事がないの。もし出られたら、決勝位にはいけたと思うのだけれど……」

 

「さ、さすがですね……。そうすると、晃さんは優勝するべくして優勝したってことですか?」

 

「ええ、その時の晃ちゃん、ちょっと怖い位に気合いが入っていて、それはもう無敵というか、気迫で相手を圧倒していたわ。優勝してから暫くの間は、『深紅(しんく)の竜騎士』って呼ばれていたわね」

 

「し、深紅の竜騎士……ですか?」

 

「前回のあゆみさんも凄かったのよ。それまではニコニコしているのに、いざ試合が始まると、鬼気迫る目付きになって、あっという間に勝負が決まってしまうんですもの。あの時は、優勝してから暫くの間、『(くれない)獅子(しし)』と呼ばれていたわね」

 

「す、すごいですね……。でも、それ程凄い大会なのに、私みたいな人が出て、大丈夫なんでしょうか?」

 

「うふふ、灯里ちゃんなら大丈夫よ。ARIAカンパニーからウンディーネが出場するのは、灯里ちゃんが久し振りみたいなの。だから、ゴンドラ協会としても、ARIAカンパニーの技量が分かる良い機会だって、とっても注目しているそうよ」

 

「せ、責任重大ですね……。は、はわわ……はわ……」

 

「あらあら、別に気にする必要は無いわ。お祭りみたいなものだから、例え負けてしまったとしても、灯里ちゃんは、灯里ちゃんらしく楽しんでくれればいいわ」

 

「そ、そうなんですか……。でも、わたし……」

 

「灯里ちゃん……。うーん……えいっ!」

 

「ふえっ!? アリシアさん? そ、そんな、急に抱きしめられたら……」

 

「ほうら、そんな顔をしないで、いつものように、明るく、元気になりますように……」

 

バンッバンッ

 

「ああっ!? あ、あの……」

 

「うふふ、元気になるおまじないよ」

 

「は、はい……」

 

「どうかしら?」

 

「あの、アリシアさんの気持ちが、叩かれた背中から伝わってきて、気合いが入ったというか、そういう気持ちがどんどん沸いて来るような気がします!」

 

「うんうん。やっぱり、灯里ちゃんには、そういう笑顔が似合うわね」

 

「ありがとうございます! わたし……一生懸命頑張ります!」

 

「じゃあ、早速準備をして、会場に行きましょうか」

 

「はひ!」

 

______________________

 

「あの、アリシアさん」

 

「なにかしら?」

 

「あ、あくまで念の為の確認なんですけど、試合のルールというか、方法は……」

 

「ああ、そうね。じゃあ、もう一度おさらいしておきましょうか?」

 

「お願いします」

 

「まず、カナル・グランデのトラゲット乗り場から、対戦する二人が船首、中央、船尾に旗を着けたゴンドラを漕いで、対岸の乗り場へと並走して向かうの。

特殊加工がされたオールを使って、対岸に着くまでに旗をより多く倒した方が勝ち、倒した旗の数が同じ場合は、先に着いた方が勝ち、というものよ。

途中でも、相手の旗を全部倒すか、相手のオールを手放させたら、その時点で勝ちが決まるの。

ただし、オールが相手の身体に当たったり、わざとゴンドラをぶつけたり、本来のトラゲットのルートを外れたりするのは反則負けになってしまうから、それだけは気をつけてね」

 

「ええっと、オール同士は当たっても良いんでしたっけ?」

 

「そう。だから晃ちゃんは、まるで騎士が相手の刀剣をなぎ払うかの様に、オールを槍の様に操って、相手のオールを攻撃して手放させるという、パワータイプだったわ」

 

「ほへー……」

 

「逆に、前回優勝者のあゆみさんは、まるで獅子が獲物を捕らえるかの様に、オールをツメの様に操って、一瞬で旗を倒すという、スピードタイプだったわ」

 

「それで、『(くれない)獅子(しし)』なんですね。うーん、わたしはどうしよう……」

 

「おやおや、珍しくお悩み中なのかな? 灯里ちゃん」

 

「えっ?」

 

「あらあら、晃ちゃんに、藍華ちゃん」

 

「……」

 

「あ、藍華ちゃんの身体から、何だかちょっぴり黒い湯気のような物が出て……」

 

「湯気じゃない! オーラと言ってくれ。しかも黒じゃなくて、闘志の(あか)い炎だ! 藍華は今、完全にゾーンに入った状態なんだ。触るとヤケドする位にな」

 

「……努力を怠る者には粛正を、努力を邪魔する者は排除を、努力を……」

 

「は、はわわ……な、何だかブツブツつぶやいていますけど……」

 

「うふふ、藍華ちゃん、気合いたっぷりね」

 

「あ、あの、アリシアさん。笑うところじゃ無いような……」

 

「ふん、そうやって笑ってられるのも今のうちさ。でも安心しな、灯里ちゃん。今日のトーナメント表を見る限りじゃ、藍華とは決勝まで当たらないから、藍華の戦いぶりを見て、せいぜい研究でもするといい。ま、灯里ちゃんが決勝まで残れば、の話だがな」

 

「は、はわわ……」

 

「あらあら、大丈夫よ灯里ちゃん。さっき、私がとっておきのおまじないをかけたんだもの」

 

「アリシアさん……」

 

「灯里ちゃんは、これまで練習してきた事を思い出して、藍華ちゃんとの対戦も、楽しんできてね」

 

「はっ、はひっ!」

 

「ほお……決勝までは残るってか。偉い自信だな、アリシア」

 

「ううん。自信ではなくて、ウンディーネのお祭りみたいなものなのだから、みんなで楽しまなきゃってことよ。もちろん、今の灯里ちゃんの実力なら、さくっと優勝できるはずなんだけれど……」

 

「はへっ? ア、アリシアさん!?」

 

「ぐっ……ようし、そこまで言うなら、賭けをしようじゃないか。そうだな……負けた方が、勝った方の会社の制服を着て、一日雑用係をするっていうのはどうだ?」

 

「いいわよ。じゃあ早速、制服を二着用意しとかなきゃいけないわね」

 

「ちょ、ちょっと、アリシアさぁーん!」

 

「うふふ、灯里ちゃん、頑張ってね!」

 

「ほへー……。はへ? な、何だか、目がグルグル回って……」

 

「あら? 灯里ちゃん?」

 

「はへー……」

 

______________________

 

「灯里ちゃん!?」

 

「はひっ!!!」

 

「ああ、良かった……。ゴンドラに乗ったまま倒れたから、とっても心配したのよ。大丈夫?」

 

「い、いえ……大丈夫です。ここは……」

 

「大会出場者の控え室よ」

 

「えっ? いつの間に……」

 

「みんながここまで運んでくれたのよ」

 

「そうだったんですね。すみませんアリシアさん、まだ試合も始まっていないのに……」

 

「ううん。まだ、始まるまで少し時間はあるから、心配しなくていいわ」

 

「わたし、倒れちゃって……ダメですよね。せめて藍華ちゃんと対戦するまでは、頑張らなきゃって、思っていたんですけど……」

 

「そう? でも、藍華ちゃんだって、楽勝という感じの試合はしていなかったし、体力の消耗度合いは、灯里ちゃんと同じ位じゃないかしら?」

 

「えっ? それはどういう……」

 

「それにしても凄いわ灯里ちゃん。まさか本当に決勝に進んでしまうなんて……」

 

「…………はへっ?」

 

「初戦はおっかなびっくりな感じだったのに、二戦目、三戦目と、段々と動きが機敏になって……。特に、さっきの、オレンジ・ぷらねっとのアトラさんとの準決勝は凄かったわ」

 

「あ、あのう、アリシアさん?」

 

「最初、いきなり旗を2本倒された時は、もうダメかと思ったのに、対岸に着く直前、確か〈灯里・ミルキーウェイ〉って言っていたけれど、その素敵な名前の技で、一気に3本まとめて倒しての大逆転勝利。私、興奮と感動で、少しウルッとしちゃった」

 

「えーっ!?」

 

-間もなく、デュエロ・ゴンドリエーラの決勝戦を行いますので、出場者二名は、ゴンドラ乗り場までお越しください-

 

「あらあら、もう時間のようね」

 

「あの、ええっと……ちょっと気持ちの整理が……」

 

「気持ちの整理?」

 

「あの、何で決勝まで来れたのかは、よく分からないですけど、決勝まで来たなら勝ちたいな、と思う反面、藍華ちゃんと戦う、というのは……」

 

「ああ、そういうことだったのね」

 

「……」

 

「灯里ちゃん」

 

「はい……」

 

「祝勝パーティの会場は、どこがいいかしら?」

 

「ふええっ!? 今ですか?」

 

「うふふ、冗談よ」

 

「も、もう! アリシアさぁん!」

 

「あらあら。でも、ようやくいつもの灯里ちゃんらしい表情に戻ったみたいね」

 

「えっ? あっ、はい。あの……すみません。こんなダメダメで、情けない感じで……」

 

「大丈夫よ。確かに勝負ではあるけれど、結果がどうであれ、終わればまた、普段通りに仲良くやれるはずよ」

 

「そうでしょうか? でも、わたしは……」

 

「灯里ちゃんと藍華ちゃんなら、きっと大丈夫。むしろ、全力を出して勝負しない方が、後で気まずくなるんじゃないかしら?」

 

「そういうものでしょうか?」

 

「きっとそうよ。だから、最後の試合を、悔いの無いように、思い切りやってちょうだいね!」

 

「はい」

 

「そうだ、灯里ちゃん」

 

「はい」

 

「これ、もしもの時のお守りよ」

 

「何だか、ちょっぴり大きすぎなお守りですけど……あれ? こ、これは!?」

 

「うふふ、頑張ってね!」

 

「はいっ!」

 

______________________

 

-それでは、デュエロ・ゴンドリエーラの決勝戦を行います。ウンディーネ二名の、入場です-

 

ワアッッ!!

 

「うわあ、凄い人に、凄い歓声……」

 

「ふっ、やっぱりこれも運命なのね。私のライバルとして、決勝まで来れた事はほめてあげるわ」

 

「藍華ちゃん!? あ、ありがとう、で、いいんだよね?」

 

「ついに、ついに、努力は才能を凌駕するって事を証明する日が来たの。だから、ゼッ…………」

 

「ゼッ?」

 

「…………」

 

「はへー……」

 

「……タイに、恥ずかしくて不思議な才能のネバトロ丼みたいな、灯里にだけは負けないわ!」

 

「ネバトロ丼って……。で、でも、一緒に練習したみたいなんだし、お互いに頑張ろうね」

 

「頑張る? あんたの頑張りなんて、私の血の滲む様な努力に比べたら、こーんな、こぉーーーーんな、ちっぽけなもんだわよ!」

 

「そ、そんなあ……」

 

「灯里と練習したのはね、灯里の動きを研究する為だったんだから! さっきの〈灯里・ミルキーウェイ〉だって、私が教えてあげたってことを、忘れた訳じゃあ無いわよね?」

 

「そう……だった? そうだったよね。ありがとう」

 

「灯里ちゃーん! 頑張ってねー! 制服二着と、祝勝パーティーの会場、もう手配しといたわよーっ!」

 

「ふええっ!? だからアリシアさぁーん! 隣の晃さんが凄い顔してますよう!」

 

「…………」

 

「は、はひぃーん……。あの、藍華ちゃん」

 

「あによ?」

 

「晃さん、あんなに顔を真っ赤にしているけど、後でアリシアさんと喧嘩とかしないのかなあ?」

 

「知らないわよ! とにかく! 私が勝ったらアリシアさんに、丸一日付き添って貰えるんだから! まあ、万が一負けたとしても、アリシアさんの雑用ならそれはそれで嬉し……」

 

「くぉら藍華ーっ! 余計な事を考えるんじゃなーい! 集中しろ集中!」

 

「ひゃっ!? す、すみません……。ああんもう! 灯里のせいで怒られちゃったじゃないのよう! 無駄口禁止!」

 

「えっ!? ご、ごめんなさーい!」

 

「あらあら」

 

 

 

-それでは、操舵の準備に入って下さい-

 

ガタッ

 

「……灯里」

 

「うん?」

 

「全力でかかって来なさい。わざと負けようとか思うの、禁止だからね」

 

「あ、あはは……。でも、やっぱり……」

 

-位置について-

 

「はへー……あっ! そうだ!」

 

-ヨォーイ-

 

クルッ

 

「えっ?」

 

「あら?」

 

「むっ?」

 

-スタート!-

 

「えーいっ!」

 

ザザザッ!

 

「ぬなっ!?」

 

「逆漕ぎ!?」

 

「何だとっ!」

 

ザザザッ! ザザザッ!

 

「これなら、藍華ちゃんと戦わなくても……勝て……あれ?」

 

ザザッ……ザッ……

 

「灯里ちゃんっ!?」

 

「何だか、力が……」

 

「こりゃー! 灯里ーっ! 待ちなさーい!」

 

「ダメ……頑張って、漕がなきゃ……」

 

「ふふーん! 無理よ! さっきの〈灯里・ミルキーウェイ〉は、強力だけど、とーっても体力を消耗する技なの。ちょっと休んだ位じゃ、立ち上がるのもやっとな程にね!」

 

「そ、そんな……」

 

「あら、ちゃあんと灯里には説明してあげたじゃない。なのに、灯里が準決勝で使っちゃうんだものねえ」

 

「そう、だったんだ……」

 

「まあ、灯里が私に〈灯里・ミルキーウェイ〉を使ってきた所で、こっちにはコレがあるんだから!」

 

「えっ?」

 

「あたしの努力の結晶を、とくと見るがいいわ! 秘技!〈藍華・グランドクロス〉!!!」

 

「えーっ!?」

 

「あれは!? 晃ちゃんが昔使った……」

 

「ああ、そうさ」

 

ザッパーン!

 

「はわっ!!」

 

ガッ! キィーーン!

 

「はひぃーっ!!!」

 

「灯里ちゃんっ!」

 

「フッ、勝負あったな。オールの縦の動きで起こした水しぶきで相手の視界を遮りつつ、横の動きで相手のオールを華麗に跳ねのけさせるという……」

 

「ええっと、オールで相手の顔に水をかけて、怯んだスキを狙って相手のオールを叩き落とすっていう、ちょっとずるい技よね?」

 

「言い直し禁止だ! アリシア! しかもルール違反でもないんだ! 全くずるくない!」

 

「あらあら」

 

「ど、どうよ……こ、これで、私の勝利……ぬなっ!?」

 

「……はひ……はひ……」

 

「灯里ちゃん!」

 

「まさかっ!? あれをまともに食らって、オールを持ちこたえただと!?」

 

「ふ……ふーん、やるじゃない。でも、さっきの技で、真ん中の旗も倒したし、後はゴールするだけだわ!」

 

「そ……それは、させないよ!」

 

「はあ? 息も絶え絶えの今のあんたに、何ができるって言うのよ?」

 

「アリシアさんの……お守り」

 

「お守り?」

 

「使わせて……いただききます!」

 

キュピーン!

 

「ああっ! それはっ!? ……えーと、何それ?」

 

「おいアリシア! 何だあれは!?」

 

「うふふ、見ていれば分かるわよ、晃ちゃん」

 

「ARIA・アクエリアス・チャージ!」

 

ゴキュッ、ゴキュッ………

 

「ARIAカンパニー特製の、オリジナルエナジードリンクよ」

 

「お、おいっ! 卑怯だぞ! アリシア!」

 

「あらあら、ルールには、何も抵触していないわよ?」

 

「くっそおっ!」

 

「あ…灯里の表情が、みるみる活気に満ちて……」

 

ゴキュッ……

 

「はひぃーっ!」

 

「もー、完全にみなぎった感じじゃないのよう! こうなったらもう、逃げるが勝ちよ! うんとこしょ、どっこいしょ、それでも藍華は漕ぎますよっと……」

 

「逃がさないよ! 藍華ちゃん!」

 

ザザザッ! ザザザッ!

 

「もう少し……ひゃあっ! また逆漕ぎ来たぁっ!」

 

「(よくわかんないけど)秘技!〈灯里・ミルキーウェイ〉!!!」

 

ブゥンッ!!!

 

「うひゃっ!」

 

カンッ!

 

「いやぁっ!」

 

コンッ!

 

「だめぇっ!」

 

キンッ!

 

「ぎゃーすっ!!!」

 

 

 

「はひ……はひ……」

 

-そこまで! 勝者、水無灯里!-

 

ワアッ!!!

 

「やったわ! 灯里ちゃんっ!」

 

「や、やりましたーっ! アリシアさぁーん!」

 

「灯里ちゃーん!」

 

「アリシアさん! アリシアさん! アリシアさぁーん!」

 

「あらあら、せっかく勝ったのに、泣き虫さんだこと」

 

「わたし、やりました! やりましたよう!」

 

「そうよね。うんうん、よしよし」

 

 

 

「ま、負けたわ……うっ……うぐっ」

 

「な、泣くな藍華。いい試合だったぞ……」

 

「うええ……晃さん……泣きながら泣くなって、言わないで下さいよう」

 

「なっ、泣いてなんか無いぞ! これは汗だ! お、お前と一緒にするな!」

 

「そ、そんなあ……」

 

「まあ、今日だけは、泣くのも許してやろう。だが明日からは、次回の優勝目指して、更なる特訓開始だからな!」

 

「ええっ? さ、さすがに次回が開催される頃には、私も一人前(プリマ)に……」

 

「いいや、今日からお前はトラゲット専門に配置転換だ。あゆみに弟子入りして、優勝を目指すんだ!」

 

「ぎゃーすっ!」

 

「あらあら、うふふ」

 

 

 

「……あれ?」

 

「どうしたの? 灯里ちゃん。もしかして、いい祝勝パーティのスピーチを思い付いた?」

 

「い、いえ。何だか、忘れている人がいるような……」

 

「まあまあ、それは大変だわ。早く、祝勝パーティのご案内を送らなきゃいけないけれど……」

 

「アリシアさん、どうしたんですか?」

 

「それは、もしかすると……さっきからずっと、灯里ちゃんの後ろにいる人の事?」

 

「えっ!?」




「……という、先輩方が、でっかい壮絶かつスペキュタクラーな感動巨編の夢を見たのですが……」

「…………」

「はへー……」

「いかがでしょうか?」

「いやだから! 壮絶だかスペキュタクラーだか感動巨編だか何だか知らないけど、何で後輩ちゃんの夢なのに、あんたが出て来ないのよ!」

「それはまあ、私は見習い(ペア)でしたし、そもそも私に言われましても……」

「アリスちゃん、とっても不思議な夢を見たんだね。でも、トラゲットの勝負で、わたしが藍華ちゃんに勝つなんて……うふふっ」

「はい。何だか自分の夢でありながら、灯里先輩がでっかい大活躍でして……」

「そこよ! それがこの夢一番の、ダメダメポイントだわ! 何で私がこの灯里なんかに負けなきゃいけないのよ! しかも何で私がちょっとずるい必殺技を使ってるの? その灯里の恥ずかしい必殺技の名前は何なのよう!?」

「えーっ?」

「そこは、やはり私の深層心理と言いますか、『正義は勝つ』という願いが込められていたと言いましょうか」

「ちょっと! 何で後輩ちゃんの夢だと、灯里は正義のヒロインで、私は悪役令嬢みたいな感じになるワケ?」

「えっ? い、いえっ! そんなことは断じてないと、私の深層心理がおっしゃられて行ってらっしゃいませご主人様、というような……」

「何言ってんだかわからないわよ! もうとにかく! 後輩ちゃんは、今後変な夢観るの禁止!」

「えーっ!? そ、そう言われましても……」

「アリスちゃん。また、面白い夢を見たら、教えてね、うふふ」
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