ARIA The CONVERSATION   作:辰巳しおん

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アイちゃん
今日、わたしはまた、カフェフロリアンに来ています。
そうです。第三回目の、「一人前(プリマ)合同会議」が開催されるんです。
なんですが……。
実は、本当は今回ちょっぴり困ったことがあって、お休みしたかったのですが、二人がそんなことを許してくれるはずもなく……
果たして、この日、この時を、うまくやり過ごすことができるのか、今から心が重たいです。



その 成長の重みを知る者は……(1)

「いらっしゃいましたのね、灯里さん。ちょっとそこへお座りなさい」

 

「あの、藍華ちゃん。もう座ってるんだけど……」

 

「あら、そういう意味じゃなくってよ、灯里さん。これから査問を行うので、身も心も、背筋をピンと伸ばして座り直しなさいと言う意味ですのよ?」

 

「ねえ藍華ちゃん。なんでそんな口調なの?」

 

「お黙りっ!」

 

「はひっ!」

 

「そう、それでよろしいですわ。さて、灯里さん。ワタクシのかわ? かわ、いい後輩ちゃ……うぉっほん! 失礼。ワタクシのかわいい後輩であるアリスさんから聞きましたわ」

 

「なにを?」

 

「貴方、今回の会議を勝手に欠席しようとされたそうね。一体、どういうつもりなのかしら?」

 

「アリスちゃんに『今回は行けないかも』って連絡を入れただけなんだけど……」

 

「お黙りっ!」

 

「はひっ!」

 

「この崇高かつ唯一無二の、一人前(プリマ)合同会議を欠席なさるなど、言語道断。許されるとお思い?」

 

「あの、そう思えなかったから、こうして来てるんだけど……」

 

「うっうっ……。まさかあの灯里お姉様が、三人の絆を紡ぐ、このでっかい大切な会議を欠席しようだなんて……私はでっかい涙が止まりません」

 

「アリスちゃん……目薬、見えてるよ」

 

「貴方のせいで、アリスさんは大層心を痛め、このワタクシにニ十回も電話をかけて来たのですよ?」

 

「そうなんだ。わたしの所には、もっとかけて来たような……」

 

「お黙りっ!」

 

「はひっ!」

 

「そのため、ワタクシの決裁箱には、いつもの倍近い書類が積まれ、ワタクシは、それらの書類を涙で濡らしながら残業を……って、ちょっと後輩ちゃん。何なのこれ?」

 

「はい。グランチェスタ家ご令嬢兼姫屋支店長である藍華先輩が、支店長室で査問委員会を開いた、という設定なのですが、何か間違いが?」

 

「いや、私の立場自体は間違ってないわよ? そこじゃなくて」

 

「はっ!? セリフがリアル過ぎましたか?」

 

「ちょっと! 全っ然、リアルじゃないから!」

 

「違うの? 藍華ちゃんって、支店長さんの時はこんな話し方なんだって思ったのに……」

 

「はあ!? 私がいつあんた達に、こんなバリバリのお嬢様口調で話したって言うのよ!」

 

「すみません、藍華先輩とその愉快な仲間達、つまり私達や、気さくな諸先輩方といる時は、フレンドリー&フランクに接して戴いているものとばかり……」

 

「ははっ。絶対嘘よね、それ」

 

「そんな、アリスちゃんがうそつきさんだなんて……」

 

「お黙りっ!」

 

「はひっ!」

 

「話をややこしくするの、禁止!」

 

「えーっ?」

 

__________________

 

「で? 何で欠席しようとしたの? もしかして、断れないお客さんとか?」

 

「ううん、そうじゃないよ」

 

「グランマが来る予定だったとか?」

 

「先週、アリシアさんと一緒に来てくれたよ」

 

「では、地球(マンホーム)のご家族に何かが?」

 

「みんな、元気だよ」

 

「アリア社長が変な物食べて、お腹壊した?」

 

「変な物って? 今日も元気いっぱいさんだよ」

 

「では、灯里先輩が何か変な物でも食べたとか?」

 

「へ、変な物って……。変な物は食べてないし、私も元気だよ」

 

「意外にも、仕事に関する悩みとか?」

 

「えっ? あの、お仕事は、毎日楽しくやってるよ」

 

「じゃあ何なのよー! はっきり言いなさいよー!」

 

「だから、何でもないよう」

 

「うーん……。誰だって、隠し事なんて山ほどあるもんだけど、なーんか灯里だと、よくわからないのよねー」

 

「私も同感です」

 

「藍華ちゃんとアリスちゃんは、山ほど隠し事があるの?」

 

「「うぐっ……」」

 

「はへ? 二人とも、どうしたの?」

 

「な、何でもないならいいわ、うん。もうこの話はやめましょ。後輩ちゃんも、ね?」

 

「そ、そうですね」

 

「あっ! ほらっ、飲み物注文しましょ? 私はカフェラテにするけど、あんた達は?」

 

「では、私も同じで」

 

「ええっと……。わたしは、エスプレッソで」

 

「あら、珍しいわね。いっつも『カフェフロリアンのカフェラテは、何杯飲んでも美味しいよねー』とか言ってる灯里が」

 

「はひっ? あ、あの……た、たまには、他の飲み物もいいかなーって」

 

「灯里先輩、やっぱり様子がおかしいですよ?」

 

「そ、そんなこと、ないよ」

 

「……」

 

「ん? どうしましたか? 藍華先輩」

 

「ねえ灯里。もし何か悩みとか、困った事があったら、ちゃんと私達に言うのよ? できることなら、何でも協力するからさ」

 

「藍華ちゃん……」

 

「私もです。もっとも、藍華先輩のように、お金に困った人に、多額のお金を貸し付けたりする、ということはできませんが」

 

「ぬなっ! そんなことやってないわよ! それ、支店長の意味が全然違ってない?」

 

「はて? 支店長というのはそういう仕事もしていると、ミドルスクール時代に、一族の方が皆支店長だというクラスメートから、聞いたような気がしたのですが」

 

「一族皆支店長って……絶対嘘よね、それ」

 

「そんな、アリスちゃんがうそつきさんだなんて……」

 

「だから! また話をややこしくするの、禁止!」

 

「えーっ?」

 

「まあとにかく、いいわね?」

 

「う、うん。ありがとう、藍華ちゃん」

 

「じゃあ、気を取り直して、『一人前(プリマ)合同会議』を始めるわよ!」

 

「「おーっ!」」

 

____________________

 

「……それでさー、さすがの私もつい言っちゃったのよー。『オールを縦に真っ二つって、どゆコト? 誰かと対決して、究極奥義でも発動させたの?』って」

 

「うふふ。藍華ちゃんらしいね」

 

「しかし、それは誰でもそう思うと思いますが」

 

「でしょでしょ? そしたらさー、そのコが……」

 

____________________

 

「……そして、アテナ先輩が、お皿の積まれた台に近づいたその時、まさにここしかないという、絶妙なポジションとタイミングでコケてしまい、ご自身が持つ、お皿割り枚数月間記録を、たった一日で更新してしまうという事態となったのです」

 

「うふふ。アテナさんらしいね」

 

「そんだけの高級食器割って、一体いくら弁償したのよ? 想像するだけでゾッとするわー」

 

「さすがは支店長。お金の面が気になりますか?」

 

「そりゃ気になるわよ。あ、でもさっきの後輩ちゃんの支店長の話とは関係ないからね!」

 

「そうですか。しかし、しかしです。実はそこの会場のえらい人が、たまたまアテナさんの……」

 

_________________

 

「……そうなると、私達も、もっと頑張らないといけないわね。あ、定員さん、追加注文お願いします。私はカフェラテのおかわり。二人は?」

 

「私もカフェラテのおかわりをお願いします」

 

「わたしは、いいや」

 

「えっ、灯里?」

 

「灯里先輩?」

 

「まだエスプレッソが残ってるし、私は大丈夫」

 

「そう……。じゃあそれで、お願いします」

 

「………」

 

「なあに? アリスちゃん」

 

「やはり灯里先輩、妙ですね」

 

「そうかな? 早く続きをお話しよ?」

 

「って言っても、気になるものは気になるのよね」

 

「別に、気になることなんて、ないよ」

 

「……はっ!?」

 

「はい?」

 

「ちょっと待って下さい?」

 

パラパラパラッ……

 

「どうしたの後輩ちゃん。急にメニューなんて開いて。追加注文?」

 

「……やはり。藍華先輩、これを」

 

「うん? これが?」

 

「つまり、(コショコショ……)」

 

「うん……うん」

 

「あのー、どうしたの? 二人とも」

 

「……と、いうことかと」

 

「……うん、成る程、そういうことね」

 

「はい」

 

「おーい、藍華ちゃーん、アリスちゃーん。わたしもここにいますよー。仲間はずれにしないでよー。おーい」

 

「……」

 

「えっ? そんな二人して、急にじーっと見られたら、恥ずかしいよ……」

 

「灯里!」

 

「はひっ!」

 

パサッ

 

「ほら、私がおごってあげるから。好きなものを頼みなさい」

 

「えーっ? ど、どうして?」

 

「いいから!」

 

「でも、そんなこと言われても……」

 

「ねえ灯里。さっきから様子がおかしいとは思ってたんだけど……。ごめん。私、気付いてあげられなかったわ」

 

「ええっと、なにを?」

 

「そうよね、そりゃあ言えないわよね……」

 

「な、なんのこと?」

 

「会議が始まってから、灯里先輩は、いつものカフェラテも頼まず、更にはエスプレッソ一杯しか頼まれていませんよね?」

 

「う、うん」

 

「それには、でっかい理由がありますよね?」

 

「ええっと、それは……」

 

「あるんですよね?」

 

「…………はひ」

 

「やっぱりそうだったのね?」

 

「ごめんなさい。実は……」

 

「ああ、話さなくていいわ。こういう事は、灯里だって話したくないだろうし、後輩ちゃんもいる手前、恥ずかしいと思う気持ちはよぉーく分かるわ」

 

「藍華ちゃん……」

 

「でも、私達は、損得抜きに語りあえる、かけがえのない仲間。そういう関係じゃないの? 私は、困ってる仲間がいたら協力してあげたい、手を差し伸べてあげたいって、それだけなのよ」

 

「気持ちは嬉しいよ。でも、これは、わたしの問題だから、ちょっと違うかなーって」

 

「そっか……。そりゃ、灯里はさ、私達とはさ、生まれ育った場所も違うし……会社も、置かれてる立場も違うしさ……。グスッ……私達は灯里を仲間だと思っていても、悔しいけど、やっぱり……灯里からすれば、見えない壁みたいなものが、あるのかな……って……」

 

「ええっ? そ、そんなことは……」

 

「例えそうだとしても、藍華先輩も、私も、灯里先輩と苦楽を共にし、共に助け合ったからこそ、こうして一人前(プリマ)になれたと思っています! だから……だから……ううっ……今は、灯里先輩の笑顔を、取り戻すお手伝いを……したいのです!」

 

「そうよ、うん! 後輩ちゃんのいう通りよ!」

 

「藍華先輩っ!」

 

「後輩ちゃんっ!」

 

「「ウワーーン!」」

 

「あわわわっ! あ、あの、二人とも……その、心配かけちゃって、ごめんなさい。まさか、わたしのことで、こんなお話になるなんて、思ってなくて……」

 

「そうよね。グスッ……まさか、アリシアさんがいなくなるなんて、思わなかったものね」

 

「えっ? それは、わたしも思ってなかったけど、でも……」

 

「わかってるわよ。お客様が少なくて、とても厳しいんでしょ?」

 

「まさか、このお店で一番安いと思われる、エスプレッソしか頼めない程、収入が減っていたとは……」

 

「…………はへっ?」

 

「でも灯里っ! 安心して! お客様は回せないけど、うちの見習い(ペア)を研修って形で派遣して、研修費を渡したりとかは、できると思うから! 本店に掛け合ってみるから!」

 

「私も、始業前にARIAカンパニーに行って、ご飯などの差し入れを持って行ったりします!」

 

「あ、あの……もしかしてなんだけど、お金の事なら、大丈夫だよ?」

 

「「………えっ?」」

 

「先週、グランマとアリシアさんが遊びに来てくれた時も、『灯里ちゃんは、一人前(プリマ)としては、まだまだ初心者さんだから、もう少しお休みがあった方がいいわね』って言われちゃったぐらいだし……」

 

「「……はっ?」」

 

「あの、わたしも、途中から何かおかしいなって、思ったんだけど、二人とも泣きながらお話してて、その、言いづらくて……」

 

「じゃあ、別にお金に困っている訳じゃ?」

 

「ないのですね?」

 

「うん。でも、まさか藍華ちゃん達がそんな勘違いするなんて、びっくりしたよ。もう、しっかり者なのに、うっかりさんだなあ、なあんて、あはは……」

 

「「…………」」

 

「はは……」

 

「灯里」

 

「はひっ!」

 

「元はと言えば、これは灯里が私達の誤解を招くような言動をしたことが原因だったという事よね。いいえ違う。勝手に誤解したのは私達だから私達が悪いということでいいのよね。それに、私が泣きながら恥ずかしいセリフ全開丸出しで勝手に話してたんだから、それは灯里からしてみたら間抜けな話だからそれは面白いわよね。うふふ、あははははっ……」

 

「あ、藍華先輩の様子が……」

 

「め、目が、ぜんぜん笑ってないんだけど……」

 

「灯里。私もそろそろ自分が何をしでかすのか段々わからなくなってきているわ。灯里のその青い制服が姫屋みたいな赤色に染まらないうちに、私に本当の事を全て話しなさい。ああ、これは警告よ。ちゃんと警告はしたから、あとでどうなっても文句は言わないでね。もちろんその時灯里が文句を言えるような状態だったらだけど」

 

「何だか、でっかい不穏な言葉が並んでいます!」

 

「で、でもさっき、話さなくていいって……」

 

「確かにそう言ったのは私だけど、灯里はどうなの? 話すの? 話さないの? どっちなの? 私はどっちでもいいわよ。でも、もし話さないならその時は……」

 

「はひぃーっ!! 話しますっ! 話しますぅーっ!」

 

続く

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