「後輩ちゃん、どうしたの? 急に」
「最近の灯里先輩は、何だか足が重いといいますか、腰が重いといいますか……」
「えーっ? わたしの足や腰って、そんなに重たそうに見えるの?」
「何か勘違いしてない? ま、私は灯里よりフットワーク軽いけどね!」
「藍華先輩が軽いのは、口だけではないですか?」
「ぬなっ……」
「さっ、3キロ太ったぁ!?」
「藍華ちゃん、こ、声が大きいよう……」
「あっ、あれっ!? ご、ごめん灯里。でも、まさか灯里が『3キロ太った』だなんて、何て言うか、意外過ぎちゃって、って、ああっ!? また『3キロ太った』だなんて言っちゃってごめん! って、あーもう! また『3キロ太った』って言っちゃった!」
「はひぃーん、藍華ちゃーん……」
「灯里先輩。つい先程までは顔が真っ青だったのに、今度は顔がリンゴのように真っ赤です」
「ごめん! もう二度と『3キロ太った』って言いません! この通り!」
「結局5回も言いましたね……。それにしても、その事が原因なら、なぜ一番安いエスプレッソを頼んだのですか? 紅茶を頼むという選択肢もあったのでは?」
「それは、紅茶だと、いっしょに甘いお菓子とかも食べたくなっちゃうかなーって、思ったから……」
「はい?」
「だって、ここはアフタヌーンティーのスコーンとか、ケーキがとっても充実しているんだもん。ハイティーになると、もっとすごいんだよ?」
「あ? ああ、そうなの。灯里がそんなに言う位なら、そりゃすごいんでしょうね」
「そこは何とも言えませんが、少なくとも一番安い飲み物でなければ、私達もそこまでおかしいとは思いませんでしたのに」
「私達って言うか、最初に『妙だ』とか言い出したのは、後輩ちゃんなんだけどねー」
「むむむ? ろくに確認もせずに、私の推測をでっかい大げさにしたのは、藍華先輩の方ですけどね」
「ぬなっ!? 何よ、私が悪いって言うの?」
「そうとは言ってませんけどね」
「あらあ? でもぉ、そう聞こえるわよぉー?」
「ほほう? それはどこかで、自分のせいだと思っているからではないですか?」
「うぬぬぬぬ……」
「むむむむむ……」
「藍華ちゃんもアリスちゃんも、ケンカはやめようよ。わたしがちゃんと言わなかったせいだから。悪いのはわたしなんだから……」
「あっ! ごっ、ごめん……。べ、別に、灯里が謝る必要は、ないんだからねっ!」
「でも……」
「藍華先輩の言う通りです。それに『喧嘩するほど仲がいい』ということわざがあるじゃないですか。本当に仲が悪かったら、話すらしないと思いますので、どうぞご安心を」
「そうよ。そういうこと」
「それなら、いいんだけど……」
「それにしても、うーん……見た目は、全然変わらないように見えるけど?」
「藍華ちゃん、そんなにじろじろ体を見回されたら、ますます恥ずかしいよう……」
「でも確かに、灯里先輩は、顔がふっくらした様子もなければ、お腹もアリア社長のようなモチモチポンポン、と言う訳でもないようですね」
「具体的に、どこがふ……とおっと! うぉっほん! 失礼。灯里さんは、身体のどこに、違和感があるとおっしゃるのかしら?」
「やはり、普段はこの話し方なのですね?」
「違うわよ! あくまで自分を落ち着かせる為よ!」
「えっと、その、制服を着てると、肩から腕の辺りとか、腰から足の太もものあたりとかが、ちょっぴりキツくなっちゃってて……」
「にゃーるほどね。ちょうど冬服だから、腕や肩はケープで隠れてあまり見えないし、座ってたら気付かないわよねー」
「それにしてもです。いきなり今の状態になった訳ではないと思うのですが、原因として、何か思いあたる節はあるのですか?」
「それが、たまたまなんだけど、先週、ここの店長さんに、スペシャルメニューの試食をお願いされちゃって……」
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ゴトッ
「うわあー、すごいですー」
「フロリアン、スペシャルアフタヌーンティーでございます」
「いかがですかな?」
「はひ! どれも美味しそうで、カラフルで、まるで、お皿の上に、宝石がちりばめられたかのように、とっても素敵ですねー」
「はっはっは。まずは見た目は合格を戴けたようですな」
「でも、これを全部、試食するんですか?」
「いえいえ、こちらはあくまで、見た目を確認戴く為ですから、全部を食べて戴く必要はありませんよ。どうぞご安心を」
「そうなんですか? それはそれで、ちょっぴりもったいない気がしますね」
「もちろん、お好きなだけ、試食して戴いて構いませんよ。ああ、でも、この後もお仕事があるんでしたな。制服を汚すかも知れませんので、こちらのウェイターに取り分けさせましょう」
「ありがとうございます。ではでは、まずサンドイッチから……」
「かしこまりました。こちらは、サーモンとクリームチーズのサンドイッチになります」
「それでは、いただきまーす!」
「いかがですかな?」
「うーん! 焼かれたパンのカリッとした食感と、中のサーモン、そして、クリームのトロッとした食感が素敵なハーモニーを奏でてますー。味も、サーモンの塩味と、クリームチーズのほのかな酸味が相まって、とってもおいひいれすぅー」
「ふむ、味や食感は問題無さそうですな」
「次は、このスコーンを……」
「こちらのスコーンには、定番のイチゴのジャム、それとリンゴのジャムをご用意しました。こちらのクロテッドクリームと一緒につけて、お召し上がりください」
「これ、クロテッドクリームって言う名前なんですね? わたし、はじめてなんです」
「ええ。かつて、地球(マンホーム)の英国で食されていたもので、そうですなあ、簡単に言えば、生クリームと、バターのちょうど中間、といったところですかな」
「ほへー…」
「ささ、どうぞ」
「はひ! では、クリームとジャムをたっぷり塗って……」
「いかがですかな?」
「うーん! スコーンは、外側はサックリ、内側はしっとりふんわり、いい匂い。そして、このクロテッドクリームって、バターよりも柔らかくあっさりした味で、それでいて生クリームよりも、コクが強くて、とっても美味しいです。それに、このジャムとの相性も最高で、何だか幸せな気分になりますねー。これならいくつでも食べられますー」
「はっはっは。それは良かった。売るほどありますので、お好きなだけどうぞ」
「はひ! では次は、ケーキを……」
………………………………………………
「はひー、ご馳走さまでしたー。もう食べられませーん……」
「いやぁ、まさか完食してくださるとは。ありがとうございます」
「美味しすぎて、つい食べ過ぎてしまいました」
「ううむ、この後のお仕事に響かないと良いのですが」
「はひっ!? いけない! もうすぐご予約の時間だ!」
「それは気付かずに失礼を。ささ、これでお口を拭いて」
「はひっ。素敵な時間をありがとうございました、店長さん。また来まーす! はひはひはひはひっ……」
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「ちょっとアンタ、いつの間にそんな事やってたのよ!? しかも、何で私達も誘ってくれないのよー! 私も試食したかったぁー!」
「それは、お仕事の合間にちょうど寄ったら、偶然そんなお話になっちゃったから……」
「しかし、先程から気になっていたのですが、私達の周りの方が、みんなアフタヌーンティーのセットを頼まれているような気がするのは……」
「うん。別の日に、店長さんに会ったら、わたしが食べてるのを見ていた周りのお客さんから、注文がどんどん入ってきて、それを見た人がまた……って感じで、みんなが頼むようになったんだって」
「はぁー……ただの試食が、すごい宣伝になっちゃった訳ね。でもそれだけじゃ、そこまでふ……体重は変わらないでしょ?」
「実は、その他にも、この前、グランマとアリシアさんが来た時に……」
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コトッ
「うわあー、すごいですー」
「本当。美味しそうですね!」
「アップルパイとアップルティーを作って来たの。お口に合うといいんだけど……」
「……とってもいい香りですぅー! ね、アリア社長」
「ぷいにゅーっ!」
「このアップルパイとアップルティーはね、紅玉っていうリンゴを使っているのよ」
「これ、紅玉って言うリンゴさんなんですね?」
「そのまま食べると酸味が強いんだけど、こうやって、アップルパイとアップルティーとか、火を通す物を作るのには、とっても適しているリンゴなのよ」
「ほへー…」
「さあ、どうぞ召し上がれ」
「いただきまーす!」
「どうかしら?」
「うーん! このアップルパイ。外側のパイは、バターの香りがとっても素敵で、中のリンゴからは、豊かで、ふんわり自然な香りがします。食べると、サクッとした香ばしいパイの中から、甘さと酸っぱさが調和されたリンゴさんがゴロッと出てきて、とってもおいひいれすー。何だか、食べていて幸せな気分になりますねー。これならいくつでも食べられますー」
「あらあら。それにしてもグランマ、このアップルティーも、とっても素敵な香りがして、美味しいですね」
「あら、お気に召したようで、良かったわ。たくさん作ってきたから、遠慮なく食べてね」
「はひ! ありがとうございますー」
「ぷいにゅーっ!」
「あらあら、アリア社長ったら。そんなに急いで食べなくても大丈夫ですよ。うふふっ」
………………………………………………
「はひー、ご馳走さまでしたー。もう食べられませーん……」
「ぷいにゅー……」
「あらぁ、二人できれいに平らげたわね。ふふふっ! 作った甲斐があったわ」
「美味しすぎて、つい食べ過ぎてしまいました」
「そう言ってもらえると、嬉しいわ。でも、このあとのお仕事は、大丈夫?」
「はひっ!? いけない! この後すぐご予約のお客様がいるんでした!」
「まあ大変。灯里ちゃん、さあ、これでお口を拭いて」
「はひっ。今日は来てくださって、ありがとうございました! お二人ともゆっくりしていってくださーい! はひはひはひはひっ……」
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「灯里先輩、何でグランマの特製アップルパイを全部食べてしまったのですか!? 何故私達の分を取っておいて戴けなかったのでしょうか? 私もでっかい食べたかったです!」
「それは、くいしんぼさんの、アリア社長もいたから……」
「あー、もう! 灯里のせいで、何だかお腹空いて来ちゃったじゃないのよう!」
「ごめんなさい」
「しかし、それぐらいなら、やはり大したことはない気もしますが……」
「実は、この前も、お仕事の帰りに……」
「まだあるの? もういいわよ! とにかく、色々美味しいものを食べすぎたって事ね?」
「はひ……」
「でも、別に見た目は何にも変わってないんだから、服がキツいなら、とりあえず、ワンサイズ大きな制服を着とけばいいんじゃないの?」
「そうですよ。私も身長が伸びる度に替えていますが、他のサイズの制服はないのですか?」
「うちは元々、人数が少ないから、制服もオーダーメイドで、藍華ちゃんやアリスちゃんの所みたいに、そんなにたくさんのサイズがあるわけじゃないんだ。一応、倉庫も探してみたんだけど、私の以外は、アリシアさんが着ていたのと同じサイズぐらいしかなくて……」
「その、アリシアさんサイズのは、着てみたの?」
「う、うん。でも……」
「でも?」
「それが……。き、着丈とかは、ちょっぴり大きいかな、くらいだったんだけど、その……」
「その?」
「む……胸の辺りが、スカスカで……ちょっぴり、変な感じというか……」
「……」
「……」
「後輩ちゃん! 今日はいい天気よねっ!」
「はっ? あっ! はいっ! 向こうの空に、でっかい暗雲が立ち込めていますが、いい天気ですね!」
「うん! そうよ灯里! いい天気だから大丈夫! いろんな意味で、私達は成長途上なんですもの! まだまだ希望はあるわ! だから、明日へ向かって、頑張れ灯里!」
「頑張るって、わたしは何を頑張ればいいの?」
「えっ? あ、あの……えっと……後輩ちゃん! パス!」
「ええっ!? そんなパス、この私にどうやって受けろと言うのですか!?」
「そ、それは……えー、あー、うーん……あっ! そうだ! 今の灯里に合うサイズの制服がないなら、新しい制服を作ればいいんじゃない!?」
「それは妙案です! 藍華先輩!」
「でしょでしょ? せっかく一人前(プリマ)になったんだし、制服も新調すればいいのよ!」
「うん。私もそれは、考えたんだけど……」
「あ、あら? この反応は……」
「何か、問題があるのですか?」
「この制服を作ってくれてる仕立て屋さんの職人さんが、一週間に一度しか、採寸に来ないんだって。でも、来週からは、私もしばらく忙しくて……」
「そんな……」
「灯里先輩、今週は? 今週は、もう終わってしまったのですか?」
「実は……今日なんだ」
続く