ARIA The CONVERSATION   作:辰巳しおん

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アイちゃん
今日、私はまた、カフェフロリアンに来ています。
そうなんです。今日はまた、『一人前(プリマ)合同会議』が開催される日です。
しかも、今日の議題は、アイちゃんも覚えているかもしれない、あの素敵なオール捌きに関する事になったんです。
でもあれは、見るのはとっても素敵なんだけど、実際にやるとなると、とっても大変なんだということがわかってしまい……。
果たして、今回はどんな会議になるのやら……。



その オールに宿りし魔法は……(1)

「はい。それじゃあ早速、『一人前(プリマ)合同会議』を始めまーす」

 

「お、おー。あ、あれっ?」

 

「藍華先輩、今日は何だか、随分大人しいスタートですね」

 

「当たり前じゃないのよー。今回の、灯里が持って来た議題は、この合同会議史上、最大級の難しーいものなんだから!」

 

「はて。この会議は、そんなに何回も開催されていましたでしょうか?」

 

「回数なんて関係ないわよ。会議あるあるでさ、議題が難しいと、いつまで経っても、結論が出ないままになって、次回に繰越、次回に繰越ってなって、そしていつの間にか自然消滅、ってことになりがちなのよ。後輩ちゃんだって、いつまでも同じ話で頭をウンウン悩ますの、嫌でしょ?」

 

「そう言われてみれば、そうですね」

 

「会議っていうのは、できる限り内容を濃く、短時間で、次回に繰越さないように、ちゃちゃっと終わらせるのが、理想なのよねー」

 

「ほへー。でも、藍華ちゃんと参加するようになった、ゴンドラ協会の会議は……」

 

「おおっと! それは言ってはいけねえですぜ、お嬢さん。あれはさ、いろーんな人の、いろーんな思惑……いや、まあ、とにかくさ。この会議とは、意味合いが全然違うし、あれはあれでいいのよ」

 

「ふうん、そうなんだねー」

 

「では、姫屋で会議をされる時は、どのように? 藍華先輩の言う、理想的な会議が開催されているのですか?」

 

「うん、大抵はそうね。特に、チーフに昇格した晃さんが参加する会議なんて、ちゃんと方針とか結論まで全部出て、みーんな1時間以内に、ピシッと終わるわよ。資料づくりや、事前の準備、会議での論点整理、会議の進行と、何から何まで、完璧なのよねー」

 

「そうなんだ、さすがは晃さんだね!」

 

「でしょでしょ? まあ、何を隠そう、資料を作ってるのは、私なんだけどさー……」

 

「藍華先輩、なぜ遠い目をしているのですか?」

 

「えっ? そう? まああの、求められるクオリティがちょっと……いや、かなりアレなもんだからね……」

 

「藍華ちゃん、晃さんのお手伝いしてるんだー。偉いんだねー」

 

「はは……偉ってゆーか、こき使われてるってゆーか、出来ることなら誰かに代わってもらいたいってゆーか……」

 

「何となくですが、大きな足音を立てながら支店長室に入るなり、『この資料を作ったのは誰だあっ!』と言って、資料を投げ返す。そして、気に入るまで何度も、藍華先輩に資料の作り直しをさせている、という悪夢のような情景が浮かんだのですが……」

 

「うっ……。いや、あの、まさか、そんなこと、あるわけ、ない、かも、多分」

 

「藍華先輩。何だか、話し方がでっかい腹話術みたいですよ?」

 

「ねえ藍華ちゃん。資料を作るのって、そんなに大変なの?」

 

「それを聞いてはいけません、灯里先輩。藍華先輩はきっと、『資料作りの愛、かあさんの歌』と言うべき状況なのですから」

 

「ほへっ? お母さんの歌?」

 

「はい。古い童謡に、『♪あいかーさんがー、ざんぎょーをして、しょるいーーを作って泣いたー』という歌がありまして」

 

「うわあ、アリスちゃん。やっぱり歌が上手だねー」

 

「ちょっと! 明らかに何かの替え歌じゃないのよ! 変な歌、唄うの禁止!」

 

「すみません。やはり童謡より、(アリア)の方が馴染み深いですよね。『会議が終わるまで、誰も寝てはならぬ』とか、『ダメ出しされる、女心の歌』とか……」

 

「だから、私の事を無理やり歌にしなくていいの! ほら! こうやって、会議を進行しようとすると、いっつもアンタ達が、暴走機関車みたいに話を脱線させまくるんだから! ダメな会議の代表例よ!」

 

「でも、わたしは、この会議が終わった時は、いつも頑張ろうって、素敵な気分になるんだけどな」

 

「それは私もです。会議が終わるまでに、でっかい一悶着があるのが難点ですが……」

 

「はいはい。そういう事は、今回の会議が終わってから、おうちに帰って考えましょうね。それじゃあ、さっさと始めるわよ。灯里、まずは今回の議題を発表して」

 

「はひ! えーっと、今日の議題は、こちらですぅ!」

 

トンッ

 

「『どうやったら、この絵の通りのオール(さば)き、通称〈アリシアさんスペシャル〉が出来るようになるのか?』ですっ!」

 

「……」

 

「……」

 

「はへっ? ふたりとも、何で後ろを向くの?」

 

「……ぷぷっ、だ、ダメだわっ! 何度みてもこの絵、笑っちゃ……ぷぷぷっ!」

 

「ふふっ、す、すみません。くっ、ふふっ、ふふっ……」

 

「えーっ? そんなにおかしいかな?」

 

「だって……ぷぷっ、灯里画伯の、この絵、くくっ、この前メールで送ってもらった時から……おかしくって……」

 

「おかしくはないですよ。おかしくない…ふふっ、いや、おかしくないん…ふふっ、ですが、変に伝わってしまうところがおかしいと…ふふっ、言いましょうか」

 

「そうなんだね。わたし、一生懸命書いたんだけどな………はひぃ」

 

「ああっ、ごっ、ごめんごめん! ほら、そんなことで落ち込まないで、ねっ?」

 

「でも……」

 

「うーん、あっ、そうだわ! チョコラータ カルダでも頼まない?」

 

「チョコラータ、カルダ……」

 

「そう! こういう時にはあったか~い、チョコ……って、あの、灯里さん?」

 

「はひー。それ、素敵だねー……」

 

「灯里先輩、うっとりしてますね」

 

「灯里……恐ろしい子」

 

___________________

 

「とりあえず、絵のことは置いといて、どうしてこれを話し合おうと思ったかを、後輩ちゃんにも説明して……って、おいーっ!」

 

「これ、トロトロで、甘くて、おいひいれすー」

 

「でっかい堪能されてますね……」

 

「んもう! 早く説明しなさいよーっ!」

 

「はひっ!? あっ、えーっと、実は、うち(ARIAカンパニー)をご贔屓(ひいき)にしてくださっているお客様がいるんだ。それでこの前、そのお客様からのご予約を受けたんだけど、その時に、アリシアさんがいた頃のお話になったんです」

 

「や、やっと始まった……」

 

「はい、続きをどうぞ」

 

「それで、アリシアさんがそのお客様をご案内した時に、水上をさまよっていたアリア社長を助けた事があって、今回、そのお客様から、『その時の様子があまりにも幻想的だったから、できることならもう一度見てみたい』というご依頼がありまして……」

 

「ちょっと待ってください。アリア社長は、何故水上をさまよっていたのですか? 釣りでもしていたのですか?」

 

「んな訳無いでしょ? あの食いしん坊が、そんな気の長ーい食べ物の取り方、すると思う?」

 

「確かに。しかし、それでは何故?」

 

「えーっと、それは……」

 

「灯里が説明すると、長くなりそうだから、実際にそれを灯里と一緒に目撃した、私から説明するわ。ほら、地球(マンホーム)にいるアイちゃん、分かるでしょ? あの子がさ、ARIAカンパニーに初めて来た時に、ゴンドラタダ乗り事件を起こしたの」

 

「ゴンドラタダ乗り事件? ずいぶん不穏な話ですね」

 

「べ、別に、事件っていうほどでは、ないんだけど…」

 

「何言ってんのよ。あれは後世にも語り継ぐべき、重大事案(インシデント)だわ。それでね、その時、何でか良くわからないんだけど、私達と一緒にいたはずのアリア社長が、ボウルみたいなのにうまーく乗っちゃった状態で、プカプカーって、結構な勢いで流されちゃったのよ」

 

「ほうほう」

 

「んで、こりゃ大変! ってなった時に、たまたま近くを通りかかったアリシアさんが、素敵なオール捌きで、アリア社長を見事に救助したってワケ」

 

「はひ。そういうことなんです」

 

「なるほど。アリシアさんのでっかい匠の技、という事ですね。それがこの〈アリシアさんスペシャル〉ですか。それなら納得もできますね」

 

「そうよ。その時は『さっすがアリシアさんっ!』って感じで、感動しっぱなしだったんだけどね。でも、今改めて考えてみるとさ、この絵にもある通り、あのアリア社長を、ほぼ垂直に跳ね上げてたのよ。オール捌きが得意な後輩ちゃんは、こーゆーの出来る? あ、ちなみに私はムリー」

 

「私も、オール捌きに関しては多少の心得はありますので、小さいお子様が、水路に落としたボールを返すぐらいなら難なく出来ます。しかし、さすがにあのアリア社長を、垂直に跳ね上げるとなると……」

 

「そうなのよねー。問題はそこなのよー。あのモチモチポンポンを、オールで持ち上げるだけでも大変なのに、ほぼ垂直に跳ね上げちゃうんだもの」

 

「やっぱり、アリスちゃんでも、難しいよねえ」

 

「はい。しかし、常連さんなら、何故アリシアさんがまだARIAカンパニーの一人前(プリマ)だった時に、アリシアさんに頼まれなかったのでしょうか?」

 

「それは、その時は、どうしてもって程じゃなかったし、またいつか似たような状況が起きたらお願いしてみよう、と思っているうちに、アリシアさんが引退しちゃったから、なんだって」

 

「まあ、簡単に言えば、頼むタイミングを逸したって事ね」

 

「なるほど。しかし、それはアリシアさんはご存知なのですか? ご存知だとすれば何と?」

 

「はいそこ! 良い質問きた! それじゃあ灯里、その事について、報告して」

 

「はひ。この前、アリシアさんにこの事を聞きに行ったんだけど……」

 

_____________________

 

 

「まあまあ、灯里ちゃん。ようこそ、ゴンドラ協会へ」

 

「すみません、アリシアさん。忙しいのに、お時間を戴いてしまって……」

 

「あらあら、いいのよ? 今日みたいに、ちゃんとアポイントさえとってくれたら、そこは空けておくから。もし、困った事があれば、いつでも相談に来てね」

 

「はいっ! ありがとうございます!」

 

「うんうん。元気があって、とってもよろしい! なあんてね、うふふっ」

 

「えへへー……あっ、それであのっ、お電話でお話した件なんですけど……」

 

「ええ、そうだったわね。でも、ごめんなさいね。電話だと、お客様からのご要望だってこと以外、今一つよくわからなくて……」

 

「すみません。わたしの説明が上手じゃなくて。なので、これを見てください」

 

「あらあら、これは?」

 

「はい、その時の様子を絵にしたものです」

 

「ふうん……。そう、このことだったのね。『百聞は一見に如かず』と言うけれど、この素敵な絵を見て、良くわかったわ」

 

「わかってもらえて、良かったです。それで、問題は、これをどうやったら、私が出来るか、なんですけど……」

 

「……灯里ちゃん」

 

「はい」

 

「これは……ちょっと難しいかもしれないわね」

 

「あ……そう、なんですか……。そうですよね。やっぱり、今のわたしの力では、こんな風にオールを操るのは無理ですよね」

 

「ううん、そうじゃないわ」

 

「えっ?」

 

「オール捌きも含めて、お仕事に関することについては、私にできて、今の灯里ちゃんにできない、という事は、何もないはずよ。それは、灯里ちゃんを一人前(プリマ)に昇格させた、この私が保証するわ」

 

「えーっ!? アリシアさん、三大妖精さんだったのに、それはさすがに言い過ぎですよー」

 

「本当よ。もしそうでなければ、今こうやって、私がゴンドラ協会にいることは無いんですもの。だから、灯里ちゃんは、もっと自分に自信を持っていいのよ?」

 

「は、はい、ありがとうございます。でも……」

 

「そんな顔をしないで、灯里ちゃん。私まで悲しい気持ちになってしまうわ」

 

「そっ、そんなことは、ないですよー、えへへー……」

 

「灯里ちゃん……。うーん、何て言ったらいいのかしら……。そうねえ、これを言ったら、灯里ちゃん、驚いちゃうかもしれないけれど……」

 

「ほへ?」

 

「難しいというのは……実はあの時、私が使っていたオールには、ある魔法がかかっていたからなの」

 

続く

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