今日、私はまた、カフェフロリアンに来ています。
そうなんです。今日はまた、『
しかも、今日の議題は、アイちゃんも覚えているかもしれない、あの素敵なオール捌きに関する事になったんです。
でもあれは、見るのはとっても素敵なんだけど、実際にやるとなると、とっても大変なんだということがわかってしまい……。
果たして、今回はどんな会議になるのやら……。
「はい。それじゃあ早速、『
「お、おー。あ、あれっ?」
「藍華先輩、今日は何だか、随分大人しいスタートですね」
「当たり前じゃないのよー。今回の、灯里が持って来た議題は、この合同会議史上、最大級の難しーいものなんだから!」
「はて。この会議は、そんなに何回も開催されていましたでしょうか?」
「回数なんて関係ないわよ。会議あるあるでさ、議題が難しいと、いつまで経っても、結論が出ないままになって、次回に繰越、次回に繰越ってなって、そしていつの間にか自然消滅、ってことになりがちなのよ。後輩ちゃんだって、いつまでも同じ話で頭をウンウン悩ますの、嫌でしょ?」
「そう言われてみれば、そうですね」
「会議っていうのは、できる限り内容を濃く、短時間で、次回に繰越さないように、ちゃちゃっと終わらせるのが、理想なのよねー」
「ほへー。でも、藍華ちゃんと参加するようになった、ゴンドラ協会の会議は……」
「おおっと! それは言ってはいけねえですぜ、お嬢さん。あれはさ、いろーんな人の、いろーんな思惑……いや、まあ、とにかくさ。この会議とは、意味合いが全然違うし、あれはあれでいいのよ」
「ふうん、そうなんだねー」
「では、姫屋で会議をされる時は、どのように? 藍華先輩の言う、理想的な会議が開催されているのですか?」
「うん、大抵はそうね。特に、チーフに昇格した晃さんが参加する会議なんて、ちゃんと方針とか結論まで全部出て、みーんな1時間以内に、ピシッと終わるわよ。資料づくりや、事前の準備、会議での論点整理、会議の進行と、何から何まで、完璧なのよねー」
「そうなんだ、さすがは晃さんだね!」
「でしょでしょ? まあ、何を隠そう、資料を作ってるのは、私なんだけどさー……」
「藍華先輩、なぜ遠い目をしているのですか?」
「えっ? そう? まああの、求められるクオリティがちょっと……いや、かなりアレなもんだからね……」
「藍華ちゃん、晃さんのお手伝いしてるんだー。偉いんだねー」
「はは……偉ってゆーか、こき使われてるってゆーか、出来ることなら誰かに代わってもらいたいってゆーか……」
「何となくですが、大きな足音を立てながら支店長室に入るなり、『この資料を作ったのは誰だあっ!』と言って、資料を投げ返す。そして、気に入るまで何度も、藍華先輩に資料の作り直しをさせている、という悪夢のような情景が浮かんだのですが……」
「うっ……。いや、あの、まさか、そんなこと、あるわけ、ない、かも、多分」
「藍華先輩。何だか、話し方がでっかい腹話術みたいですよ?」
「ねえ藍華ちゃん。資料を作るのって、そんなに大変なの?」
「それを聞いてはいけません、灯里先輩。藍華先輩はきっと、『資料作りの愛、かあさんの歌』と言うべき状況なのですから」
「ほへっ? お母さんの歌?」
「はい。古い童謡に、『♪あいかーさんがー、ざんぎょーをして、しょるいーーを作って泣いたー』という歌がありまして」
「うわあ、アリスちゃん。やっぱり歌が上手だねー」
「ちょっと! 明らかに何かの替え歌じゃないのよ! 変な歌、唄うの禁止!」
「すみません。やはり童謡より、
「だから、私の事を無理やり歌にしなくていいの! ほら! こうやって、会議を進行しようとすると、いっつもアンタ達が、暴走機関車みたいに話を脱線させまくるんだから! ダメな会議の代表例よ!」
「でも、わたしは、この会議が終わった時は、いつも頑張ろうって、素敵な気分になるんだけどな」
「それは私もです。会議が終わるまでに、でっかい一悶着があるのが難点ですが……」
「はいはい。そういう事は、今回の会議が終わってから、おうちに帰って考えましょうね。それじゃあ、さっさと始めるわよ。灯里、まずは今回の議題を発表して」
「はひ! えーっと、今日の議題は、こちらですぅ!」
トンッ
「『どうやったら、この絵の通りのオール
「……」
「……」
「はへっ? ふたりとも、何で後ろを向くの?」
「……ぷぷっ、だ、ダメだわっ! 何度みてもこの絵、笑っちゃ……ぷぷぷっ!」
「ふふっ、す、すみません。くっ、ふふっ、ふふっ……」
「えーっ? そんなにおかしいかな?」
「だって……ぷぷっ、灯里画伯の、この絵、くくっ、この前メールで送ってもらった時から……おかしくって……」
「おかしくはないですよ。おかしくない…ふふっ、いや、おかしくないん…ふふっ、ですが、変に伝わってしまうところがおかしいと…ふふっ、言いましょうか」
「そうなんだね。わたし、一生懸命書いたんだけどな………はひぃ」
「ああっ、ごっ、ごめんごめん! ほら、そんなことで落ち込まないで、ねっ?」
「でも……」
「うーん、あっ、そうだわ! チョコラータ カルダでも頼まない?」
「チョコラータ、カルダ……」
「そう! こういう時にはあったか~い、チョコ……って、あの、灯里さん?」
「はひー。それ、素敵だねー……」
「灯里先輩、うっとりしてますね」
「灯里……恐ろしい子」
___________________
「とりあえず、絵のことは置いといて、どうしてこれを話し合おうと思ったかを、後輩ちゃんにも説明して……って、おいーっ!」
「これ、トロトロで、甘くて、おいひいれすー」
「でっかい堪能されてますね……」
「んもう! 早く説明しなさいよーっ!」
「はひっ!? あっ、えーっと、実は、うち(ARIAカンパニー)をご
「や、やっと始まった……」
「はい、続きをどうぞ」
「それで、アリシアさんがそのお客様をご案内した時に、水上をさまよっていたアリア社長を助けた事があって、今回、そのお客様から、『その時の様子があまりにも幻想的だったから、できることならもう一度見てみたい』というご依頼がありまして……」
「ちょっと待ってください。アリア社長は、何故水上をさまよっていたのですか? 釣りでもしていたのですか?」
「んな訳無いでしょ? あの食いしん坊が、そんな気の長ーい食べ物の取り方、すると思う?」
「確かに。しかし、それでは何故?」
「えーっと、それは……」
「灯里が説明すると、長くなりそうだから、実際にそれを灯里と一緒に目撃した、私から説明するわ。ほら、
「ゴンドラタダ乗り事件? ずいぶん不穏な話ですね」
「べ、別に、事件っていうほどでは、ないんだけど…」
「何言ってんのよ。あれは後世にも語り継ぐべき、重大
「ほうほう」
「んで、こりゃ大変! ってなった時に、たまたま近くを通りかかったアリシアさんが、素敵なオール捌きで、アリア社長を見事に救助したってワケ」
「はひ。そういうことなんです」
「なるほど。アリシアさんのでっかい匠の技、という事ですね。それがこの〈アリシアさんスペシャル〉ですか。それなら納得もできますね」
「そうよ。その時は『さっすがアリシアさんっ!』って感じで、感動しっぱなしだったんだけどね。でも、今改めて考えてみるとさ、この絵にもある通り、あのアリア社長を、ほぼ垂直に跳ね上げてたのよ。オール捌きが得意な後輩ちゃんは、こーゆーの出来る? あ、ちなみに私はムリー」
「私も、オール捌きに関しては多少の心得はありますので、小さいお子様が、水路に落としたボールを返すぐらいなら難なく出来ます。しかし、さすがにあのアリア社長を、垂直に跳ね上げるとなると……」
「そうなのよねー。問題はそこなのよー。あのモチモチポンポンを、オールで持ち上げるだけでも大変なのに、ほぼ垂直に跳ね上げちゃうんだもの」
「やっぱり、アリスちゃんでも、難しいよねえ」
「はい。しかし、常連さんなら、何故アリシアさんがまだARIAカンパニーの
「それは、その時は、どうしてもって程じゃなかったし、またいつか似たような状況が起きたらお願いしてみよう、と思っているうちに、アリシアさんが引退しちゃったから、なんだって」
「まあ、簡単に言えば、頼むタイミングを逸したって事ね」
「なるほど。しかし、それはアリシアさんはご存知なのですか? ご存知だとすれば何と?」
「はいそこ! 良い質問きた! それじゃあ灯里、その事について、報告して」
「はひ。この前、アリシアさんにこの事を聞きに行ったんだけど……」
_____________________
「まあまあ、灯里ちゃん。ようこそ、ゴンドラ協会へ」
「すみません、アリシアさん。忙しいのに、お時間を戴いてしまって……」
「あらあら、いいのよ? 今日みたいに、ちゃんとアポイントさえとってくれたら、そこは空けておくから。もし、困った事があれば、いつでも相談に来てね」
「はいっ! ありがとうございます!」
「うんうん。元気があって、とってもよろしい! なあんてね、うふふっ」
「えへへー……あっ、それであのっ、お電話でお話した件なんですけど……」
「ええ、そうだったわね。でも、ごめんなさいね。電話だと、お客様からのご要望だってこと以外、今一つよくわからなくて……」
「すみません。わたしの説明が上手じゃなくて。なので、これを見てください」
「あらあら、これは?」
「はい、その時の様子を絵にしたものです」
「ふうん……。そう、このことだったのね。『百聞は一見に如かず』と言うけれど、この素敵な絵を見て、良くわかったわ」
「わかってもらえて、良かったです。それで、問題は、これをどうやったら、私が出来るか、なんですけど……」
「……灯里ちゃん」
「はい」
「これは……ちょっと難しいかもしれないわね」
「あ……そう、なんですか……。そうですよね。やっぱり、今のわたしの力では、こんな風にオールを操るのは無理ですよね」
「ううん、そうじゃないわ」
「えっ?」
「オール捌きも含めて、お仕事に関することについては、私にできて、今の灯里ちゃんにできない、という事は、何もないはずよ。それは、灯里ちゃんを
「えーっ!? アリシアさん、三大妖精さんだったのに、それはさすがに言い過ぎですよー」
「本当よ。もしそうでなければ、今こうやって、私がゴンドラ協会にいることは無いんですもの。だから、灯里ちゃんは、もっと自分に自信を持っていいのよ?」
「は、はい、ありがとうございます。でも……」
「そんな顔をしないで、灯里ちゃん。私まで悲しい気持ちになってしまうわ」
「そっ、そんなことは、ないですよー、えへへー……」
「灯里ちゃん……。うーん、何て言ったらいいのかしら……。そうねえ、これを言ったら、灯里ちゃん、驚いちゃうかもしれないけれど……」
「ほへ?」
「難しいというのは……実はあの時、私が使っていたオールには、ある魔法がかかっていたからなの」
続く