「わたし、アリシアさんみたいに素敵なオール捌き、できる自信ないなあ……」
「灯里っ! そういう時はジタバタするしかないわ! 漕いで、漕いで、漕ぎまくるのよ!」
「はひっ! オールの特訓、頑張ります!」
「それと、いつも笑顔を忘れずにね!」
「はひっ! あらあら、うふふ。あらあら、うふふ」
「いや、笑顔は振りまくらなくていいから……」
「「魔法がかってた!?」」
「はひ。そうなんです」
「「やっぱり……」」
「はへっ?」
「あ、いえ。では、アリシアさんは、魔法少女だったという事ですか!?」
「いや、ちょっと待った。アリシアさんみたいな大人の女性を、魔法少女ってゆーのは、なーんか違和感があるわね」
「では、魔女ですか?」
「いやいや、『
「では、魔法使いはどうでしょう?」
「そう! それが一番しっくり来るわ! ……と思ったけど、それも何だか、アリシアさん特有の、フツーの大人の女性にはない、可憐さが欠けているような気がするわねぇ……うーん……」
「あのう、藍華ちゃん?」
「あによ?」
「なんだか、ちょっぴり話が脱線しているような気がするんだけど……」
「あっ……」
「……」
「……」
「そ、そうだったわ。私としたことが、こんな後輩ちゃんのおふざけに、いつまでも付き合ってちゃダメよね。そろそろ本題に戻りましょ?」
「はっ!? さりげなく、話が脱線したのをでっかい
「はいそこ! 濡れ衣発言、禁止!」
「うむむむ……」
「ま、まあまあ、ふたりとも……」
「でも、確かにアリシアさんは『魔法』って言ったのよね? どう言う意味なのか、詳しく聞いたの?」
「うん、それが……」
______________________
「魔法……ですか?」
「そう。あの1番のオールはね、グランマから受け継がれた、素敵な想いが沢山詰まったオールだったの」
「素敵な……想い」
「グランマの想いと、私の想い。そして、アリア社長や灯里ちゃん。それに、これまでご案内した沢山のお客様。そういった、色々な人達の、色々な想いが、時間をかけて、幾重にも重なって……。いつしか、あのオールに魔法が宿るようになったのね」
「あのオールに、そんな魔法が宿ってたんですか?」
「そうなの。あの時、アリア社長をああやって助ける事ができたのは、私が、そのオールに宿っていた魔法を、使ったからに他ならないわ」
「はへー……」
「ところで、灯里ちゃんは、つくもがみって、知ってる?」
「あっ、はい。あの、長く使われた道具に宿ると言われる、神さまの事ですよね?」
「さすがは灯里ちゃんね。あのオールは、そこまで長く使われた物ではないけれど、そのつくもがみが宿っていた、と言った方が、灯里ちゃんには分かり易いかしら?」
「そう言われてみると、
「あらあら、そうだったの。あのゴンドラも、沢山の素敵な想いが詰まっていたものだし、案外、夢ではないかもしれないわよ」
「はい。でも、そうだとすれば、私のオールでは、アリシアさんのように魔法が使えるようになるまで、まだまだ時間がかかりそうですね」
「でも、いつかは、灯里ちゃんのオールにも魔法が宿って、それを灯里ちゃんが使えるようになる日が、きっと来るはずよ。だから、今使っているオールを大切にして、これからも沢山のお客様に、素敵なご案内をしてあげてね」
「はいっ。わたし、もっともっと、頑張ります!」
「うん! その意気よ、灯里ちゃん」
「でも、お客様には、何と説明したらいいでしょうか?」
「そうね。そのお客様には、私から説明をしておくわ。後で、連絡先を教えてくれる?」
「はい。分かりました。それでは帰ってすぐに、メールでご連絡先を……あの、アリシアさん?」
「うーん……それにしてもこの絵、本当に素敵ね」
「えーっ? そうですか?」
「ええ、とっても分かりやすいし、特徴を見事に表していると思うわ」
「そ、そこまで言われると、なんだか、こそばゆい感じが……」
「アリア社長が描いたんでしょう? 私の知らない間に、絵がとっても上手になったのね」
「……はえっ?」
「やっぱりこれも、アリア社長の想いが、魔法になったせいなのかしら?」
「あ……あはは、そうですね。アリア社長は、きっと魔法使いさんですよねー……はひ」
「……ん?」
__________________
「……と、言うことで、今の私には、まだまだ難しいと、アリシアさんに言われてしまいまして……」
「……」
「……」
「はへっ? ふたりとも、何でまた後ろを向いてるの?」
「うっ、ぐっ……ごめん、灯里」
「藍華ちゃん?」
「私、もう合同会議できない……」
「えーっ!?」
「……ご、ごめん」
「ふっ……わ、私もです。灯里先輩、くっ……本当に、申し訳ありません」
「何で謝るの? この日の為にみんなで……」
ガタッ!
「えっ?」
「もうだめ! 私ちょっと2番行ってくる!」
「私も! 3番入ります!」
「2番? 3番? あっ! ふたりとも、どこに行くのーっ!?」
「ごめん! すぐ戻って来るから! ちょっと待ってて!」
「同じく、少々お待ちを!」
「……はへー……」
____________________
「あのー、ええっと、ごめんね灯里。変な事を口走った挙げ句、急にいなくなっちゃって」
「私もでっかい失礼しました」
「ふたりとも、お手洗いだったんだ。2番とか、3番とか言うから、全然分からなくて、ちょっぴり心配しちゃったよ」
「うん、もう大丈夫。深呼吸して、息を整えて来たから」
「同じくです」
「ほへ?」
「あっ、いいの。気にしないで。さあ、スッキリしたところで、合同会議を再開しましょ?」
「そうですね」
「でもさあ灯里。お客様に見せないことになったんなら、もうその時点で、『諦めよう』って結論が出てたって事なの?」
「それは、その……」
「ははーん。もしかして、アリシアさんにはそう言われたものの、灯里自身はチャレンジしてみたいとか? それとも、アリシアさんの使ってた、魔法のオールを使えば、自分にも出来るんじゃないかなー、って思ったとか?」
「藍華先輩、アリシアさんが使っていたオールは、確かゴンドラ協会に保管されているのでは?」
「あら、それなら別に、ちょーっと拝借しちゃえばいいじゃないの」
「その言い方、何だかでっかい犯罪の匂いがしますね」
「あら!? ちょっとダメよ、後輩ちゃん。『盗もう』だなんて考えちゃあ。私はまだ、目隠しされた少女A、カッコ後輩ちゃんカッコとじ、の写真が載ったニュースなんて、見たくないんだからね?」
「はっ!? さりげなく、
「はいそこ! 黒幕発言、禁止!」
「うむむむ……」
「あ、あのっ!」
「……うん?」
「あの、わたし……。もし、今回のことを諦めちゃったら、何か他の事があっても、また、諦めちゃう気がして……」
「灯里……」
「だから、今はまだ、アリシアさんみたいに魔法が使えなくても、どうしたら出来るのか、それさえ分かれば、あとは毎日特訓して、いつかきっと……って」
「灯里先輩……」
「だから、ふたりにはごめんなさいだけど、もし、何かわかった事があれば、教えてもらいたくて……」
「ふーん、そ。そういう事なら、次は私から報告するわね。私は、晃さんに、この件について聞いてみたんだけど……」
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「……えー、それでは、本件に関しましては、プランBの方で進めさせて戴くという事で、ご異議のある方はいらっしゃいますでしょうか?」
「「「異議なし!」」」
「はい。特に異議のある方もいらっしゃらないようですので、これで決定と致します。後程、詳細な資料を送付致しますので、本日の会議資料と併せてご参照ください。それでは以上をもちまして、本日の営業会議を終了致します。ありがとうございました」
ガヤガヤガヤガヤ……
……バタン
「……よーし! 終わった!」
「お疲れ様でした、晃さん!」
「おう、お疲れ」
「いやー、今日の会議も、素敵なプレゼンでしたね!」
「お世辞か? 私を誉めても、何も出ないぞ?」
「いえいえっ、そんなことは、ないんですけど……」
「そうやって、お前がモジモジしている時は、ろくな事が無いんだが? 言いたい事があるならハッキリ言えと、いつも言っているだろ?」
「はっ、はいっ、実は……」
「何っ!? 水上に浮いているアリア社長を、オールで垂直に跳ね上げる方法を教えろだと?」
「い、いえっ、あのっ、『教えろ』だなんて、そんな滅相もないです! ただ、晃さんだったら、やり方ぐらいはご存知かなーって、思ったって言うか……」
「すわっ!」
「ひゃいっ!?」
「いいか? 私はな、オール捌き、観光案内、カンツォーネと、大概の事なら、他の奴らに負けない自信はあるし、まだまだお前に教えてやりたい事も、山程ある。だがな、ことARIAカンパニーの奴らがやった事については、何も教えられない。それは何故だか分かるか?」
「いいえ! 全っ然、わかりませんっ!」
「あらっ? 今日はやけに正直だな……。とにかく、あいつらはな、私らと違って、魔法が使えるんだよ」
「は? 魔法ですか?」
「そうだ」
「ええ~。晃さんが、そんな非現実的な事を言うなんて~」
「だったらお前、灯里ちゃんから話を聞いた時、自分に出来ると思ったか?」
「やだなあ、もう。出来ると思ったら、こうして晃さんなんかに聞きませんよー」
「晃さん『なんか』だと?」
「あっ、あれっ? そっ、そういう意味じゃなくてですね……」
「まあいい。藍華、我が姫屋に伝わる、〈三つの心得〉を覚えているか?」
「はい。『約束は、しっかり果たすこと』、『時間は、きっちり守ること』、それから……」
「『出来ない事は、出来ないとはっきり言うこと』、だろ?」
「……はい」
「お前は、それを知ってて、何故灯里ちゃんに教えてやらないんだ! お客様の前で、何も出来ずにいる灯里ちゃんを見て、笑い者にでもするつもりか?」
「いっ、いえっ、そういう訳じゃないんです。私はただ、灯里の願いを叶えたいと思って……」
「そうか……。じゃあな、ひとつだけ教えてやろう。お前ら新人
「えっ? それは……どうしたらいいんでしょうか?」
「そういう時はな、追いつきたいと強く念じて、死に物狂いで、ひたすら走り続けるんだよ。私らだって、永久に走り続ける事はないから、いつかはお前らが、私らに追いつき、そして追い抜く時が来る。その時には、魔法なんか使わずとも、それを超える
「魔法を、超える
「ま、お前と違って、灯里ちゃんは素直だからな。今頃アリシアに、『あらあら、あれは魔法だから、灯里ちゃんには出来ないわよ、うふふ』とでも言われて、もう諦めているかもしれないが」
「は、はあ……。それにしても、全然似てな……」
「藍華っ!」
「ひゃいっ!」
「いいか? 今回の件で、灯里ちゃんがどうしようが知らんが、藍華、お前は……お前だけは、全身全霊をかけて走って来い! そして、 この私を追い抜いて見せろ!」
「晃さん……」
「どうした? 返事がないぞ?」
「……はいっ!」
「よし! その意気だ! それじゃあ藍華。早速だが、明日までに次回の会議資料の作成、全身全霊をかけてよろしく頼むな!」
「……はいっ?」
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「とまあ、そう言う事でございまして……」
「晃さんも、アリシアさんが魔法を使ったって、言ってたんだ……」
「しかも、灯里先輩とアリシアさんとの事までほぼお見通しで、藍華先輩に至っては、さりげなく資料作りまで指示してしまうとは……」
「はいはい。とりあえず、私からの報告は終わりだから、次は後輩ちゃんね」
「はい。それでは……と、言いたい所ですが、その前に、先輩方に確認したいことがあります。まずは、灯里先輩」
「なあに?」
「灯里先輩は、この〈アリシアさんスペシャル〉を会得する為なら、例え辛くても、本気で練習して、成功するまで何度でも挑戦する。そういう覚悟はお持ちですか?」
「……うん。ううん、はいっ!」
「分かりました。次に、藍華先輩……は特にないですね」
「ちょっと! この流れで、さりげなくそういう事言う!?」
「藍華先輩、でっかい突っ込み発言、禁止です」
「ぬなっ! ったくぅ……何なのよ、それ」
「では、改めて、藍華先輩」
「あによ?」
「藍華先輩は、もし灯里先輩と私が、『私達も死に物狂いで走る』と言ったら、一緒に走って戴けますか?」
「はあ? あったり前じゃないのよ。私だけ苦しい思いをするなんて、絶対イヤよ。どーせ走るなら、あんた達も道連れだ・わ・よっ」
「ふふ、分かりました。実は最初、私も到底無理だと思っていたんです。しかし、アテナ先輩のお話と、今日の先輩方のお話が、この難問に打ち勝つ、ある可能性をもたらせてくれました」
「アリスちゃん……」
「それでは、報告させていただきます。そして、私達で暴いて見せましょう。その、アリシアさんが使われたという、でっかい魔法の正体を!」
続く