今日、わたしはカフェフロリアンに来ています。
そうです。今日は『
今日のネオ・ヴェネチアは、生憎の雨模様という事で、第1回目以来の室内開催になりました。
今日の議題は、アリスちゃんから発表される、ということしか聞いていないのですが、何だかちょっぴり、胸騒ぎがするんです。
一体、どうしてなんだろう?
「こりゃ灯里、おーそーいー」
「ごめんなさーい! あれ? アリスちゃんは?」
「まだよ」
「ほへっ? どうして?」
「そりゃ、まだ待ち合わせ時間じゃないもの」
「えーっ? だって、藍華ちゃんが『この時間に来なさい』って」
「ええ、そうよ。何か問題?」
「問題? ……うーん? 問題はないけど……」
「じゃあ良いじゃない」
「はひ。そ、そうなるよね……」
「いや、早目に呼んだのはさー。先に少し、二人で話しとこうと思って」
「あー、そうなんだ! ……何を?」
「分からない? 後輩ちゃんのことよ」
「アリスちゃんが、どうかしたの?」
「灯里はさ、今日の議題、何だと思う?」
「議題? うーん……何だろう?」
「いや、実は一昨日、たまたま、後輩ちゃんに出会ったのよー」
「お仕事中?」
「そう。そしたらさー、私がお客様のお見送りを終えた途端、不気味な薄ら笑いで『今度の会議、楽しみですね……』って、言ってきたのよー」
「ええっ?」
「いや、さすがの私も、あれにはゾッとしちゃったわー。まるでこう、さまよう幽霊みたいな?」
「藍華ちゃん、それは軟体動物……」
「とにかく、何かしら、良からぬ企みがあるに違いないわ!」
「良からぬ企み?」
「例えば、社内で何か事件を起こして、それがバレそうになっているとか……」
「アリスちゃんが?」
「そう。全身ずぶ濡れで、事件の証拠品が入った、大きなバッグを持って、ここへ現れるの」
「ま、まさかあ」
「で、『これを……灯里先輩の所で、しばらく預かって貰えませんか?』とか言いだして……」
「ふええ……」
「『中は絶対に、開けないでくださいね……』って言われて、恐る恐る持って帰った所を、何も知らないアリア社長が開けちゃって……」
「は、はわわ……」
「中から……血まみれの制服や凶器が……ゴッソリと……」
「はわっ、はわわっ……」
「すると突然、背後から後輩ちゃんの声がして、『灯里先輩……開けないでとお願いしたのに、でっかい開けてしまいましたね……』と」
「はひーっ! ど、どどっ、どーしよー!?」
「もー、冗談よ、冗談。そんなビビらないでよ」
「えーっ? でも……」
「とにかく、嫌な予感がするから、強い気持ちを持って臨まないと、駄目かもって、思ったワケ」
「う、うん……」
「私は心を鬼にして、ダメなものはダメって、はっきり言うつもりだから、灯里もね?」
「心を鬼に……。それって、いつもの藍華ちゃんと、何が違うの?」
「ぬなっ!? あんたねー、私を何だと思ってるのよ? 」
「ご、ごめんなさい。わたしの勘違い……かも」
「なあんか、ヤな感じね……。(あっ! 来たみたいよ!) とにかく灯里、いいわね?」
「う、うん……」
トタトタトタッ
「ハア…ハア…」
「あら、後輩ちゃん。遅かっ……」
「は…はわわ……」
ポタッ……ポタッ……
「せ、先輩方……お待たせしました……」
「後輩ちゃんが……全身、ずぶ濡れ……」
「す、すみません。出てきた時は、雨が止んでいたので、折り畳み傘を持って出たのですが、急に激しい雷雨に見舞われてしまい……」
「アリスちゃんが……大きな、バッグ……」
「あっ!? こっ、これはその……。折り畳み傘の他に、今回の議題に関する重要な物が……」
「あ、あのさ…。何で、傘を差さなかったの?」
「いや、あの状況で、バッグを開ける訳には…」
「は、はわわ…。そ、そのバッグの、中身は?」
「いや、会議の前に、中をお見せする訳には…」
「は…はは…はひっ……。あ、藍華ちゃーん!」
「だっ、大丈夫よ! お、落ちつきなさいよ!」
「さあ……先輩方」
ビカッ!
「会議を、始めましょう……」
バリバリッドーン!!
「「きゃぁぁぁぁっ!!」」
「ええっ!? なっ、何なんですかっ?」
______________________
ゴシゴシ……
「大丈夫ですかな? マドモアゼル」
「はい。タオル、ありがとうございました」
「すみません、店長さん自ら……」
「はっはっは。お安い御用ですよ。風邪をひいては大変ですからな。どうぞ、ごゆっくり」
「はひ」
「…………」
「ごっ、ごめんね、後輩ちゃん。何だか私達、スッゴい誤解、してたみたい……」
「藍華ちゃんと、ちょっぴり怖いお話をしてて……だから、ごめんなさーい!」
「いいえ、先輩方の勘違いは、今に始まった訳ではないですし、でっかい気にしてませんから」
「そ、そう? じゃあ会議、始めよっか?」
「はい。お願いします」
「じゃあ、気を取り直して……『
「「おーっ!」」
「室内で大声出すの……まあいっか、今、この部屋には私達しかいないし」
「そ、それで、アリスちゃん。き、今日は……ど、どんな議題なの?」
「はい! よくぞ聞いて下さいました。今日の議題は……」
「は、はひ……」
「『三人の休みを合わせて、一緒に遊びに行こう!』ルールの制定についてです!」
「……ほへっ?」
「(それか!)」
「実は私、気がついたんです」
「何を?」
「
「そう言われてみれば……」
「確かに、そうね」
「そう言う私も、お仕事が忙しくも楽しいので、お休みを取る事すら、でっかい忘れていたのです」
「アリスちゃんも、今やアテナさんに並んで、大人気のウンディーネさんだものねえ……」
「それは有難い事なのですが、この前、会社の偉い人から、『もっと終日の休みを取らないとダメだ』と言われてしまいまして……」
「まあそうね。
「わたしも『なるべくお休みを取りなさいねー』って、グランマやアリシアさんに言われるなあ」
「そこで、どうせお休みを取るなら、三人で日にちを合わせて、一緒に遊びに行こう!というのを、新たな自分ルールにしようと思いまして……」
「はへー……」
「…………」
「先輩方、何か、問題ありますか?」
「問題? ……うーん? 問題はないけど……」
「では、灯里先輩は賛成で、良いですね?」
「えっ? ええっと……それは……」
「どうなんですか? 賛成ですか?」
「そ、そんな眼で迫られても……。あの、藍華ちゃんの意見を聞いてからでも、いいかな?」
「はい、では、藍華先輩は、いかがですか?」
「……ダメ」
「えっ?」
「聞こえなかった? ダメよ、ダーメ」
「ええっ!?」
「藍華ちゃん?」
「後輩ちゃんはさー。私や灯里が、そんな簡単に休みなんて、取れると思ってんの?」
「えっ? だって、先輩方も、休みは取るようにと、言われているのでは?」
「もちろん、言われてるわよ?」
「で、でしたら何故、駄目なのですか?」
「あんたと、私らとじゃ、立場が違うからよ」
「立場?」
「そう。後輩ちゃんは、オレンジぷらねっとの社員だから、会社の労働組合に入ってるでしょ?」
「はい」
「でも、私らは、今は後輩ちゃんが言うところの、会社の偉い人にあたるの。そういう組合とかには、入ってないのよ」
「ええっ?」
「だから、私らは社員のみんなを、休ませたりしなきゃいけないんだけど、自分達はそこまでじゃないの」
「はへー、そうなんだー」
「灯里が感心してどうするのよ! ま、灯里の所は、あんた一人だから、どーでもいーけど」
「えーっ?」
「……では、泣こうが、書類を涙で濡らそうが、残業し放題という事ですか?」
「だから泣いてないってば! 泣いてないけど、まあ、そうね。一応そう言う事になるわね」
「つまり、姫屋における、藍華先輩のような偉い人の労働環境は、劣悪極まりなく、馬車馬の様に働かされていると、そういう事ですね?」
「ぬなっ!? いや、そういう話じゃ…」
「ないと言えますか? 断言できますか?」
「えっ? いやっそのぉー、つまり……」
「ちょっと、ふたりとも落ち着いて……」
「いいえ、社員一名で、何の参考にもならない灯里先輩は、黙っていてください!」
「はうっ!」
「偉い人の藍華先輩がそんなだと、姫屋に入っても、将来は残業天国でこき使われる、お先真っ暗な会社だと、皆に思われてしまうのでは?」
「うぐっ!」
「姫屋の後継ぎ娘でもある藍華先輩は、そんな悪しき伝統や慣習を、変えるべき立場なのでは?」
「そ……は、はい」
「では、お休みを取りましょう! みんなで!」
「「は、はあ……」」
「むむむ? 先輩方、何だか嫌そうですね? 分かりました。これは事案として、ゴンドラ協会にいるアリシアさんにもご相談を……」
「ちょっ、ちょっと!」
「そんな……」
「では、よろしいですね?」
「ああ、もう! わかった、わかりました! 灯里、どっか休み取れそうな日、ある?」
「う、うん。一日位なら、何とか……」
「はい! では、賛成多数ということで…」
「ちょーっと待った!」
「はい?」
「三人で、一緒に休みを取るのはいいわよ? でも、貴重な一日なんだから、ノープランで、単にプラッと遊びに行くなんて嫌よ。ね、灯里?」
「えっ? わたしは、別に……」
「嫌よね?」
「は、はひ……」
「どーせ遊びに行くなら、ちゃあんと企画書にして、プレゼンしてくんなきゃ」
「企画書?」
「そうよ、『旅のしおり』的な?」
「…………」
「後輩ちゃんも、売れっ子ウンディーネなんだからさ。私達ウンディーネが満足出来るプランぐらい、簡単に作れるわよね?」
「藍華ちゃん、そこまでしなくても……」
「いいえ、灯里先輩。私も、藍華先輩のおっしゃる通りだと思います」
「はへっ?」
「あら、物分かりがいいのね。じゃあ、休みの件は、それを作ってから、って事でいい?」
「はい。では今から……」
「はあ?」
「この日の為に……まずは、傘を出して、と」
「まさか、そのバッグの中身って……」
バサッ…
「はひっ」
バサバサッ…
「あ、あの……後輩ちゃん?」
バサバサバサバサッ!
「はへー……これ全部、旅のしおり?」
「な、なかなかやるじゃない……」
「ふふっ。さあ、どれからご案内致しましょうか?
そんな訳で、アリスちゃんの考えたプランについて、色々とお話をすることになりました。
ああでもない、こうでもない。それぞれの、色んな想いが交錯して盛り上がる、素敵なひととき。
ようやく決まった時には、もうあたりはすっかり暗くなってしまいました。
別れ際、藍華ちゃんが「当日、風邪とかで行けないってオチは、絶対禁止よ!」と、何度もくぎをさしていたのですが……そんな心配はどこへやら。みんな元気いっぱい! 当日は抜けるような青空が広がり、とっても素敵で、楽しい休日になりました!
余程楽しかったのか、解散の時に、アリスちゃんから「次はいつにしますか?」と、迫られて、藍華ちゃんと二人で、ちょっぴり困っています。
でも、またみんなで、色々な所に行ってみたいな。
灯里さん
素敵な休日が送れたみたいで、良かったね!
送ってくれた写真、どれもとっても楽しそう!
いいなー! 私も今度一緒に行きたいなー!
ところで、どの写真にも、よぉーく見ると、端っこに、オレンジぷらねっとっぽい制服が写っているような……。
気のせいかな? 気のせいだよね! うふふっ。