ARIA The CONVERSATION   作:辰巳しおん

19 / 44
アイちゃん
今日、わたしはカフェフロリアンに来ています。
そうです。今日は『一人前(プリマ)合同会議』の開催日なんです。
今日のネオ・ヴェネチアは、生憎の雨模様という事で、第1回目以来の室内開催になりました。
今日の議題は、アリスちゃんから発表される、ということしか聞いていないのですが、何だかちょっぴり、胸騒ぎがするんです。
一体、どうしてなんだろう?



その 少女の夢見る休日は……

「こりゃ灯里、おーそーいー」

 

「ごめんなさーい! あれ? アリスちゃんは?」

 

「まだよ」

 

「ほへっ? どうして?」

 

「そりゃ、まだ待ち合わせ時間じゃないもの」

 

「えーっ? だって、藍華ちゃんが『この時間に来なさい』って」

 

「ええ、そうよ。何か問題?」

 

「問題? ……うーん? 問題はないけど……」

 

「じゃあ良いじゃない」

 

「はひ。そ、そうなるよね……」

 

「いや、早目に呼んだのはさー。先に少し、二人で話しとこうと思って」

 

「あー、そうなんだ! ……何を?」

 

「分からない? 後輩ちゃんのことよ」

 

「アリスちゃんが、どうかしたの?」

 

「灯里はさ、今日の議題、何だと思う?」

 

「議題? うーん……何だろう?」

 

「いや、実は一昨日、たまたま、後輩ちゃんに出会ったのよー」

 

「お仕事中?」

 

「そう。そしたらさー、私がお客様のお見送りを終えた途端、不気味な薄ら笑いで『今度の会議、楽しみですね……』って、言ってきたのよー」

 

「ええっ?」

 

「いや、さすがの私も、あれにはゾッとしちゃったわー。まるでこう、さまよう幽霊みたいな?」

 

「藍華ちゃん、それは軟体動物……」

 

「とにかく、何かしら、良からぬ企みがあるに違いないわ!」

 

「良からぬ企み?」

 

「例えば、社内で何か事件を起こして、それがバレそうになっているとか……」

 

「アリスちゃんが?」

 

「そう。全身ずぶ濡れで、事件の証拠品が入った、大きなバッグを持って、ここへ現れるの」

 

「ま、まさかあ」

 

「で、『これを……灯里先輩の所で、しばらく預かって貰えませんか?』とか言いだして……」

 

「ふええ……」

 

「『中は絶対に、開けないでくださいね……』って言われて、恐る恐る持って帰った所を、何も知らないアリア社長が開けちゃって……」

 

「は、はわわ……」

 

「中から……血まみれの制服や凶器が……ゴッソリと……」

 

「はわっ、はわわっ……」

 

「すると突然、背後から後輩ちゃんの声がして、『灯里先輩……開けないでとお願いしたのに、でっかい開けてしまいましたね……』と」

 

「はひーっ! ど、どどっ、どーしよー!?」

 

「もー、冗談よ、冗談。そんなビビらないでよ」

 

「えーっ? でも……」

 

「とにかく、嫌な予感がするから、強い気持ちを持って臨まないと、駄目かもって、思ったワケ」

 

「う、うん……」

 

「私は心を鬼にして、ダメなものはダメって、はっきり言うつもりだから、灯里もね?」

 

「心を鬼に……。それって、いつもの藍華ちゃんと、何が違うの?」

 

「ぬなっ!? あんたねー、私を何だと思ってるのよ? 」

 

「ご、ごめんなさい。わたしの勘違い……かも」

 

「なあんか、ヤな感じね……。(あっ! 来たみたいよ!) とにかく灯里、いいわね?」

 

「う、うん……」

 

トタトタトタッ

 

「ハア…ハア…」

 

「あら、後輩ちゃん。遅かっ……」

 

「は…はわわ……」

 

 

ポタッ……ポタッ……

 

 

「せ、先輩方……お待たせしました……」

 

「後輩ちゃんが……全身、ずぶ濡れ……」

 

「す、すみません。出てきた時は、雨が止んでいたので、折り畳み傘を持って出たのですが、急に激しい雷雨に見舞われてしまい……」

 

「アリスちゃんが……大きな、バッグ……」

 

「あっ!? こっ、これはその……。折り畳み傘の他に、今回の議題に関する重要な物が……」

 

「あ、あのさ…。何で、傘を差さなかったの?」

 

「いや、あの状況で、バッグを開ける訳には…」

 

「は、はわわ…。そ、そのバッグの、中身は?」

 

「いや、会議の前に、中をお見せする訳には…」

 

「は…はは…はひっ……。あ、藍華ちゃーん!」

 

「だっ、大丈夫よ! お、落ちつきなさいよ!」

 

「さあ……先輩方」

 

ビカッ!

 

「会議を、始めましょう……」

 

バリバリッドーン!!

 

「「きゃぁぁぁぁっ!!」」

 

「ええっ!? なっ、何なんですかっ?」

 

______________________

 

ゴシゴシ……

 

「大丈夫ですかな? マドモアゼル」

 

「はい。タオル、ありがとうございました」

 

「すみません、店長さん自ら……」

 

「はっはっは。お安い御用ですよ。風邪をひいては大変ですからな。どうぞ、ごゆっくり」

 

「はひ」

 

「…………」

 

「ごっ、ごめんね、後輩ちゃん。何だか私達、スッゴい誤解、してたみたい……」

 

「藍華ちゃんと、ちょっぴり怖いお話をしてて……だから、ごめんなさーい!」

 

「いいえ、先輩方の勘違いは、今に始まった訳ではないですし、でっかい気にしてませんから」

 

「そ、そう? じゃあ会議、始めよっか?」

 

「はい。お願いします」

 

「じゃあ、気を取り直して……『一人前(プリマ)合同会議』を、始めるわよ!」

 

「「おーっ!」」

 

「室内で大声出すの……まあいっか、今、この部屋には私達しかいないし」

 

「そ、それで、アリスちゃん。き、今日は……ど、どんな議題なの?」

 

「はい! よくぞ聞いて下さいました。今日の議題は……」

 

「は、はひ……」

 

「『三人の休みを合わせて、一緒に遊びに行こう!』ルールの制定についてです!」

 

「……ほへっ?」

 

「(それか!)」

 

「実は私、気がついたんです」

 

「何を?」

 

一人前(プリマ)になって以来、この『一人前(プリマ)合同会議』以外に、私達三人がゆっくり会う機会って、ほとんどないじゃないですか」

 

「そう言われてみれば……」

 

「確かに、そうね」

 

「そう言う私も、お仕事が忙しくも楽しいので、お休みを取る事すら、でっかい忘れていたのです」

 

「アリスちゃんも、今やアテナさんに並んで、大人気のウンディーネさんだものねえ……」

 

「それは有難い事なのですが、この前、会社の偉い人から、『もっと終日の休みを取らないとダメだ』と言われてしまいまして……」

 

「まあそうね。姫屋(ウチ)でもそれは言われてるし、私も支店のみんなには言ってるわ」

 

「わたしも『なるべくお休みを取りなさいねー』って、グランマやアリシアさんに言われるなあ」

 

「そこで、どうせお休みを取るなら、三人で日にちを合わせて、一緒に遊びに行こう!というのを、新たな自分ルールにしようと思いまして……」

 

「はへー……」

 

「…………」

 

「先輩方、何か、問題ありますか?」

 

「問題? ……うーん? 問題はないけど……」

 

「では、灯里先輩は賛成で、良いですね?」

 

「えっ? ええっと……それは……」

 

「どうなんですか? 賛成ですか?」

 

「そ、そんな眼で迫られても……。あの、藍華ちゃんの意見を聞いてからでも、いいかな?」

 

「はい、では、藍華先輩は、いかがですか?」

 

「……ダメ」

 

「えっ?」

 

「聞こえなかった? ダメよ、ダーメ」

 

「ええっ!?」

 

「藍華ちゃん?」

 

「後輩ちゃんはさー。私や灯里が、そんな簡単に休みなんて、取れると思ってんの?」

 

「えっ? だって、先輩方も、休みは取るようにと、言われているのでは?」

 

「もちろん、言われてるわよ?」

 

「で、でしたら何故、駄目なのですか?」

 

「あんたと、私らとじゃ、立場が違うからよ」

 

「立場?」

 

「そう。後輩ちゃんは、オレンジぷらねっとの社員だから、会社の労働組合に入ってるでしょ?」

 

「はい」

 

「でも、私らは、今は後輩ちゃんが言うところの、会社の偉い人にあたるの。そういう組合とかには、入ってないのよ」

 

「ええっ?」

 

「だから、私らは社員のみんなを、休ませたりしなきゃいけないんだけど、自分達はそこまでじゃないの」

 

「はへー、そうなんだー」

 

「灯里が感心してどうするのよ! ま、灯里の所は、あんた一人だから、どーでもいーけど」

 

「えーっ?」

 

「……では、泣こうが、書類を涙で濡らそうが、残業し放題という事ですか?」

 

「だから泣いてないってば! 泣いてないけど、まあ、そうね。一応そう言う事になるわね」

 

「つまり、姫屋における、藍華先輩のような偉い人の労働環境は、劣悪極まりなく、馬車馬の様に働かされていると、そういう事ですね?」

 

「ぬなっ!? いや、そういう話じゃ…」

 

「ないと言えますか? 断言できますか?」

 

「えっ? いやっそのぉー、つまり……」

 

「ちょっと、ふたりとも落ち着いて……」

 

「いいえ、社員一名で、何の参考にもならない灯里先輩は、黙っていてください!」

 

「はうっ!」

 

「偉い人の藍華先輩がそんなだと、姫屋に入っても、将来は残業天国でこき使われる、お先真っ暗な会社だと、皆に思われてしまうのでは?」

 

「うぐっ!」

 

「姫屋の後継ぎ娘でもある藍華先輩は、そんな悪しき伝統や慣習を、変えるべき立場なのでは?」

 

「そ……は、はい」

 

「では、お休みを取りましょう! みんなで!」

 

「「は、はあ……」」

 

「むむむ? 先輩方、何だか嫌そうですね? 分かりました。これは事案として、ゴンドラ協会にいるアリシアさんにもご相談を……」

 

「ちょっ、ちょっと!」

 

「そんな……」

 

「では、よろしいですね?」

 

「ああ、もう! わかった、わかりました! 灯里、どっか休み取れそうな日、ある?」

 

「う、うん。一日位なら、何とか……」

 

「はい! では、賛成多数ということで…」

 

「ちょーっと待った!」

 

「はい?」

 

「三人で、一緒に休みを取るのはいいわよ? でも、貴重な一日なんだから、ノープランで、単にプラッと遊びに行くなんて嫌よ。ね、灯里?」

 

「えっ? わたしは、別に……」

 

「嫌よね?」

 

「は、はひ……」

 

「どーせ遊びに行くなら、ちゃあんと企画書にして、プレゼンしてくんなきゃ」

 

「企画書?」

 

「そうよ、『旅のしおり』的な?」

 

「…………」

 

「後輩ちゃんも、売れっ子ウンディーネなんだからさ。私達ウンディーネが満足出来るプランぐらい、簡単に作れるわよね?」

 

「藍華ちゃん、そこまでしなくても……」

 

「いいえ、灯里先輩。私も、藍華先輩のおっしゃる通りだと思います」

 

「はへっ?」

 

「あら、物分かりがいいのね。じゃあ、休みの件は、それを作ってから、って事でいい?」

 

「はい。では今から……」

 

「はあ?」

 

「この日の為に……まずは、傘を出して、と」

 

「まさか、そのバッグの中身って……」

 

バサッ…

 

「はひっ」

 

バサバサッ…

 

「あ、あの……後輩ちゃん?」

 

バサバサバサバサッ!

 

 

「はへー……これ全部、旅のしおり?」

 

「な、なかなかやるじゃない……」

 

「ふふっ。さあ、どれからご案内致しましょうか? 一人前(プリマ)ウンディーネの、お二方」




そんな訳で、アリスちゃんの考えたプランについて、色々とお話をすることになりました。
ああでもない、こうでもない。それぞれの、色んな想いが交錯して盛り上がる、素敵なひととき。
ようやく決まった時には、もうあたりはすっかり暗くなってしまいました。

別れ際、藍華ちゃんが「当日、風邪とかで行けないってオチは、絶対禁止よ!」と、何度もくぎをさしていたのですが……そんな心配はどこへやら。みんな元気いっぱい! 当日は抜けるような青空が広がり、とっても素敵で、楽しい休日になりました!

余程楽しかったのか、解散の時に、アリスちゃんから「次はいつにしますか?」と、迫られて、藍華ちゃんと二人で、ちょっぴり困っています。

でも、またみんなで、色々な所に行ってみたいな。


灯里さん
素敵な休日が送れたみたいで、良かったね!
送ってくれた写真、どれもとっても楽しそう!
いいなー! 私も今度一緒に行きたいなー!

ところで、どの写真にも、よぉーく見ると、端っこに、オレンジぷらねっとっぽい制服が写っているような……。
気のせいかな? 気のせいだよね! うふふっ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。